第1章 特集「途切れることのない必要な支援」

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3 性犯罪被害者支援のための連携

(1) 性犯罪被害者の置かれている状況

平成26年度に内閣府が実施した「男女間における暴力に関する調査」によれば,異性から無理やり性交された経験を持つ女性が6.5%であり,加害者との関係を聞いたところ,「交際相手・元交際相手」が28.2%と最も多く,次いで「配偶者・元配偶者」が19.7%,「職場・アルバイトの関係者」が13.7%であった。

そして,被害を誰にも相談しなかったという割合は67.5%であり,相談しなかった理由を聞いたところ,最も多かったのが,「恥ずかしくてだれにも言えなかったから」(38.0%),次いで「自分さえがまんすれば,なんとかこのままやっていけると思ったから」(30.4%)であった。

一方,相談したとするのは31.6%であり,その相手は「友人・知人」が22.2%であり,警察に相談したのは4.3%という結果であった。

なお,我が国における性犯罪の認知件数は,警察庁の統計によれば,平成26年は強姦が1,250件,強制わいせつが7,400件となっている。

異性から無理やりに性交された経験の有無 -時系列比較-
異性から無理やりに性交された経験の有無 -時系列比較-
加害者との関係
加害者との関係
異性から無理やりに性交された被害の相談の有無 -時系列比較-
異性から無理やりに性交された被害の相談の有無 -時系列比較-
相談しなかった理由(複数回答)
相談しなかった理由(複数回答)
異性から無理やりに性交された被害の相談先(複数回答)
異性から無理やりに性交された被害の相談先(複数回答)

これらの調査結果からは,性犯罪被害については,被害が潜在化しがちで,誰にも相談しない,できない被害者が多いことがうかがえる。

しかしながら,性犯罪被害は,心身に大きなダメージを与えるものであり,被害後間もない時期から適切な支援を提供していくことが,被害者の心身の回復やその後の生活にとっても重要である。

ここでは,性犯罪被害者支援のための連携に関する取組を紹介する。

(2) 性犯罪被害者支援のための連携に関する取組

○ 性犯罪被害者支援に関する調査研究

内閣府においては,地方公共団体等による関係機関・団体の効果的な連携による性犯罪被害者支援の取組事例等について調査研究を実施し,平成26年6月に報告書を公表した(「性犯罪被害者支援に関する調査研究」報告書http://www.gender. go.jp/public/report/2014/2014061601.html)。

同調査では,地方公共団体による性犯罪・性暴力被害者支援における男女共同参画の視点と地域連携の在り方について,地方公共団体の取組の現状を踏まえて検討を行った。

○ 性犯罪被害者等のための総合支援に関する実証的調査研究

内閣府においては,平成26年度から,地方公共団体における性犯罪被害者等への支援に関する取組を促進するため,地方公共団体の様々な取組を実証的に調査研究する事業を実施し,26年度は9団体の取組を対象とした。

○ 地方公共団体による性犯罪被害者支援のための連携

ここでは,地方公共団体の取組の一例として,「佐賀県 性暴力救援センターさが さがmirai」(以下「さがmirai」という。)を紹介する。

【設立経緯】

さがmiraiの設立は,平成21年に県内で発生した強姦事件の被害者を診察した医師が,県DV総合センターに「性暴力専用の支援はないのか,専門の支援員はいないのか」と問い合わせたことがきっかけである。この被害者の保護者は,警察への被害申告を拒否し,公費負担制度を利用しなかったことから,全ての被害者が支援を受けることができるようにするためにはどのような仕組みが必要かを考えることとなり,県として性暴力被害者支援事業を開始した。22年度に「性暴力被害者急性期対応及び回復期・養生期支援体制整備専門部会」を立ち上げ,県関係機関,医師会,弁護士会,臨床心理士会等と議論を重ねた。22年当時は,病院拠点型ではなく,全国的に足並みがそろいやすい男女共同参画センターを中心にした連携体制を作ることができないかを検討したが,議論を重ねるうちに,病院拠点型の支援体制が必要との認識で一致し,23年度からは,佐賀県医療センター好生館を検討会メンバーに加えた。24年7月2日からモデル事業を開始し,25年度までの実績から得られた知見を基にマニュアルを作成し,26年度から本格稼働している。

<性暴力被害者急性期対応及び回復期・養生期支援体制整備専門部会>

  • 佐賀県DV総合対策センター
  • 地方独立行政法人佐賀県医療センター好生館
  • 佐賀県弁護士会
  • 佐賀県医師会産婦人科医部会
  • 佐賀県健康福祉本部母子保健福祉課
  • 佐賀県臨床心理士会
  • 佐賀県くらし環境本部男女参画・県民協働課
  • 佐賀県社会福祉士会
  • 佐賀県看護協会助産師会
  • 認定特定非営利活動法人被害者支援ネットワーク佐賀VOISS(犯罪被害者等早期援助団体)
  • 佐賀県警察本部犯罪被害者支援室(オブザーバー)

【運営主体】

運営主体は,佐賀県くらし環境本部男女参画・県民協働課で,公益財団法人佐賀県女性と生涯学習財団(アバンセ)が県から委託を受けて実施している。実務全般は,財団内の佐賀県DV総合対策センターが担っている。また,財団から好生館へこの事業を再委託している。さがmiraiは,好生館相談支援センター一般相談支援室に置かれ,主に医療行為を伴う急性期支援を担い,アバンセ相談室はそれ以外の相談や支援を担当する。また,佐賀県DV総合対策センター所長がこの事業全体のコーディネートを担当している。さがmiraiは,好生館とアバンセの緊密な連携体制を実現することでワンストップ支援センターになっていると言える。

【具体的支援及び関係機関との連携等】

急性期の産科対応の費用支出については,佐賀県警の公費負担制度とほぼ同等のレベルにしている。また,警察と問診票の共有化を図るなど,警察の犯罪捜査や支援と相互に補完し合いながら,被害者を支えている。

支援の柱になっているのは,「医療的支援」,「精神的支援」である。「医療的支援」は急性期の産科対応のみではなく,それ以外の診療科(精神科,小児科等)も含んでおり,医療行為はなるべく柔軟な対応を心掛けている。ただし,医療費支出の対象は,急性期産科対応に伴う部分までとしている。「精神的支援」は,臨床心理士によるカウンセリングを主体として,カウンセリング費用(急性期1人最大29回まで,急性期以外は24回まで)を無償化し,被害者の経済的負担を軽減している。また,被害者の近くまで出向く派遣型で対応しているため,交通費も予算化している。ただし,支出できる範囲は,被害から概ね2年以内の被害者を対象としており,過去の被害については,費用のかからない相談方法を提案している。重要な連携機関として,弁護士会の女性弁護士3名が法的な支援を担当し,臨床心理士会の女性臨床心理士7名が精神的支援を担当している。このほか,社会福祉士会,犯罪被害者等早期援助団体,助産師の団体等と,ケースごとに必要な支援を組み立て,支援の質を高めるようにしている。また,将来に向けた支援も準備することで,被害当事者や家族にとって,より安心できる支援体制構築を目指している。

性暴力救援モデル事業スキーム
性暴力救援モデル事業スキーム

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