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第5節 国民の理解の増進と配慮・協力の確保への取組


コラム8:社会全体で被害者を支え、被害者も加害者も出さない街づくりに向けた取組について

犯罪被害者やその家族・遺族が受ける被害は、犯罪行為そのものによって生じる心身の被害のみではありません。周囲の人々による心ない言動による二次的被害、職を離れざるを得なくなることによる経済的困難、社会からの孤立感など、その影響は広範囲かつ長期にわたります。したがって、犯罪被害者等が再び平穏な生活を取り戻すことができるようにするためには、犯罪被害者等に対する犯罪被害給付やカウンセリングの提供など、官・民の関係機関・団体による支援のみならず、被害者等の日常を取り巻く存在である地域社会や学校・職場、さらには将来の社会を支える子どもたちに犯罪被害者等が抱える困難や思いについて理解を深めてもらい、社会全体に犯罪被害者等を思いやり、犯罪被害者等を支える気運を醸成することが重要です。

このような観点から警察庁では、平成20年度及び21年度に中学、高校生を対象とした「命の大切さを学ぶ教室」の開催や、大学生等を対象とした被害者支援に関する社会活動への参加を促進するなどの施策からなる「社会全体で被害者を支え、被害者も加害者も出さない街づくり事業」を全国10道府県においてモデル事業として推進し、その成果を踏まえ、平成22年度からは全国において、被害者等のご協力を得ながら、警察、教育委員会、民間被害者支援団体等が連携して、積極的な取組みが進められています。

1 主な取組み

(1) 「命の大切さを学ぶ教室」等の開催

中学校、高等学校等において、犯罪被害者等がその思いを直接、生徒に語りかけてもらうものです。生徒たちからは「命の大切さや生きることのすばらしさを感じ、同時に犯罪の加害者には絶対ならないと誓いました。」、「私は死にたいと思ったことがあります。でも家族が悲しまないためにも死にたいと思ってはいけない。」などの声が寄せられ、生徒が犯罪被害者等の思いや立場を理解する契機となり、さらには自分や他人の命を大切にすること、いじめや暴力などの犯罪行為をやってはいけないとの意識の啓発につながっています。

講演する被害者等にとっても、自らの思いが生徒たちに共有されることで心の支えになっています。

中学校における被害者遺族の講話の写真
中学校における被害者遺族の講話

(2) 大学生による被害者支援関係ボランティアへの参加

大学において行われた犯罪被害者支援に関する講義を通じて、犯罪被害者支援に係る社会参加活動について関心を持った学生等によって、犯罪被害者支援のイベントや街頭キャンペーン等のボランティアへの積極的な参加が行われています。

学生ボランティア登録証交付式の写真
学生ボランティア登録証交付式
学生ボランティアの活動状況の写真
学生ボランティアの活動状況

(3) 各種会合における犯罪被害者等による講演

民間被害者等支援団体や自治体等と連携して、安全・安心まちづくりや交通安全運動関係のイベントのほか、自治体職員や関係者の研修会等、あらゆる機会を通じて、犯罪被害者等による講演を開催しています。

自治体職員に対する研修会の写真
自治体職員に対する研修会
2 全国における実施状況
年度 「命の大切さを学ぶ教室」 大学生に対する講義やボランティア活動 各種会合における講演等の実施
21年度 36都道府県で実施
(288回)
29都道府県で実施
(115回)
全都道府県で実施
(500回)
22年度
上半期
40都道府県で実施
(195回)
26都道府県で実施
(89回)
45都道府県で実施
(496回)
(注 22年度上半期は暫定値である。)
3 開催にあたっての留意事項

被害者等の講演を開催するに当たっては、次のような点に留意しています。


(1) 講演者へのサポート

犯罪被害者等にとって、家族の突然の死の経験等を講演することは、精神的負担が大きいことを念頭に、講演の依頼に当たっては主催者や講演者との綿密な打合せや講演者への付添い、講演後の精神的ケアを行うなど、犯罪被害者等が安心して講演ができるように努めています。

(2) 聴講者の心情への配慮

講演の内容が、人の死というものに言及する場合が多いことを踏まえ、聴講者、特に中学生、高校生等の心情に対する影響等について、学校等と緊密な連携を図ることとしています。


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