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第2節 精神的・身体的被害の回復・防止への取組


3 保護、捜査、公判等の過程における配慮等(基本法第19条関係)

《基本計画策定以前からの施策で、基本計画策定後も引き続き実施するもの》
(1) 交通事故捜査過程における被害者の負担軽減

警察において、軽傷交通事故に係る捜査書類の簡略化として、簡約特例書式を導入しているが、これを的確に運用して供述調書の作成時間などの短縮を図っている。

また、事情聴取などに係る拘束時間の軽減を図るため、交通事故自動記録装置*9、ドライブレコーダーや防犯ビデオ映像などの活用による科学的な捜査を実施している。

さらに、捜査過程における交通事故被害者等の二次的被害の防止・軽減を図るために、各都道府県警察本部の交通事故捜査担当課に設置した被害者連絡調整官が、各警察署で実施する被害者連絡について指導を行ったり、自ら被害者連絡を実施するなどして組織的な対応を図るとともに、交通事故捜査員に対して交通事故被害者等の心情に配意した適切な対応がなされるよう教育を強化している。

(*9)交通事故の衝突音、スリップ音を感知し、事故の直前、瞬間、直後の状況を録画する装置

(2) 性犯罪捜査指導官等の設置

警察において、性犯罪被害者の精神的負担の軽減、性犯罪被害の潜在化の防止を図るため、性犯罪捜査指導官などの設置を推進している。

性犯罪の被害者は、精神的なショック、しゅう恥心から、警察に対する被害申告をためらうことも多く、また、捜査の過程における性犯罪被害者に対する警察官の言動などによっては、当該被害者に二次的被害を与えかねず、そのことが被害の潜在化、ひいてはこうした潜在化が同様な被害を拡大させる要因ともなりかねないものとなっている。

全国の都道府県警察本部において、性犯罪捜査担当課への性犯罪捜査指導官の設置、同課の性犯罪捜査指導係への女性警察官の配置を図ることなどにより、性犯罪捜査に関する指導体制の拡充を行っている。

全国の都道府県警察本部の性犯罪捜査担当課において、性犯罪捜査指導官を設置しており、全国の性犯罪捜査指導係員は297名、うち女性警察官は137名である(平成22年4月現在)。

今後も、性犯罪捜査指導係への女性警察官の配置の拡充などを指示するなど、引き続き、本施策の推進について指導するとともに、性犯罪捜査指導体制の把握に努める。

(3) 性犯罪捜査証拠採取セット・性犯罪被害者捜査用ダミー人形の整備

全国の都道府県警察において、性犯罪事件の認知後、証拠採取を行うに当たって、犯罪被害者等の精神的負担を軽減するため、証拠採取に必要な用具や当該被害者の衣類を預かる際の着替えなどをまとめた性犯罪捜査証拠採取セットを平成22年4月現在、全国で2,550セット保有している。

また、性犯罪事件の被害状況の再現を行う際、犯罪被害者等の精神的負担を軽減するため、当該被害者の代わりとして使用する性犯罪被害者捜査用ダミー人形を平成22年4月現在、全国で1,756体整備している。

(4) 産婦人科医会とのネットワーク構築

全国の都道府県警察において、事件発生時における迅速・適切な診断・治療、証拠採取や女性医師による診断などを行うため、産婦人科医会とのネットワークを構築し、具体的支援を受けるための連携対策の強化などを図り、適正かつ円滑な性犯罪捜査を推進している。

(5) 診断書料、検案書料、初診料の支給

警察において、身体犯被害者の刑事手続における負担の軽減のため、被害に係る診断書料、死体検案書料、初診料の費用を援助している(身体犯被害者の刑事手続における負担の軽減に要する経費(国庫補助金):平成22年度43百万円、23年度36百万円)。

(6) 犯罪被害者支援活動用携帯電話の整備

警察において、事件発生直後から大きな精神的被害を受けている犯罪被害者等と支援を担当する警察職員とが円滑かつ緊急に連絡することができるよう、被害者支援活動用の携帯電話を活用している。

(7) 被害類型別教養ビデオの活用

警察庁において、犯罪被害者等の心情に十分に配意した警察活動の一層の徹底を図るため、職員教育用ビデオを制作して各都道府県警察に配付し、職員の被害者支援の教育に役立てている。

(8) 公判手続の優先傍聴

「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律」に基づき、犯罪被害者等が刑事事件の公判手続を優先的に傍聴できる制度が実施されている。

(9) 児童相談所及び婦人相談所等の職員への研修実施

厚生労働省において、児童相談所職員などへの研修(P101(11)「虐待を受けた子どもの保護等に携わる者の研修の充実」参照)の支援を行っている。また、都道府県においては、婦人相談所、婦人保護施設、母子生活支援施設、福祉事務所、民間団体などで配偶者からの暴力被害者などの支援を行う職員を対象に、専門研修を実施している。

(10) 海上保安官に対する人権に関する研修の実施

海上保安庁において、基本的人権を尊重した適正な職務執行ができるようにするため、海上保安学校などにおいて、犯罪被害者等の人権に関する教育を行っている。

《基本計画において、「速やかに実施する」とされたもの》
(11) 職員等に対する研修の充実等

警察において、各級警察学校・職場における研修の充実を図っている(P101(7)「警察における被害者支援に携わる職員等への研修の充実」参照)。

法務省において、矯正施設・更生保護官署における研修の充実を図っている(P83(14)「矯正施設職員及び更生保護官署職員に対する研修等の充実」参照)。

法務省・検察庁においては、各種研修や会議を通じるなどして、検察官が犯罪被害者等の心情などに理解を深めるとともに、市民感覚を失ったり独善に陥ることのないよう努めている。また、検察官に市民感覚を学ばせるため、犯罪被害者支援団体などの公益的活動を行う民間団体や民間企業に一定期間派遣する研修や、被害者支援員に対し、犯罪被害者等に関する諸問題についての講義などの研修を実施するなどして、職員の対応の向上に努めている。

また、検察官などの研修において、児童や女性の犯罪被害者等と接する上での留意点などを熟知した専門家を講師とする講義を実施し、児童や女性の犯罪被害者等への配慮に関する研修の充実に努めている。副検事を含む検察官などに対する研修では、交通事件の留意点などを熟知した専門家などによる講義を行うとともに、交通事件の被害者・被害者遺族の立場などへの理解を深めるための機会を設けるなど、交通事件をテーマとした講義科目を設け、交通事件に関する講義の充実を図っている。

厚生労働省において、看護教育の充実、民生委員に対する指導、公的シェルターにおける対応に関する研修などを行っている。

看護教育においては、今般、「看護教育の内容と方法に関する検討会」において、保健師及び助産師の基礎教育の内容の見直しを行い、卒業時の到達目標として性犯罪等の予防と被害相談者への対応と支援についての項目を設定し、強化を図ったところである。

また、犯罪被害者等への適切な対応を図るため、民生委員が相談援助活動を行う上で必要不可欠な知識と技術を修得するための研修を実施する都道府県などに対する支援を行っている。さらに、民生委員の全国組織である「全国民生委員児童委員連合会」では、民生委員に対する各種研修会で資料を配布するなど、広報と理解促進を行っている。

配偶者からの暴力被害者や人身取引の被害者等を保護する公的シェルターである、各都道府県に設置された婦人相談所において、適切な対応を確実にするための職員に関する研修を、毎年、厚生労働省の主催において行うとともに、各都道府県において実施する専門研修や啓発にかかる費用を補助している。

(12) 女性警察官等の配置

警察庁において、性犯罪被害者が捜査の過程において受ける精神的負担を少しでも緩和するためには、性犯罪被害者の望む性別の警察官によって対応する必要があることなどから、警察本部や警察署の性犯罪捜査を担当する係への女性警察官などの配置を推進している。

平成22年4月現在、性犯罪事件において、性犯罪被害者から事情聴取などを行う性犯罪指定捜査員として指定された女性警察官などは、全国の都道府県警察において6,280名である。

(13) ビデオリンク等の措置の適切な運用

法務省において、犯罪被害者等の意見をより適切に裁判に反映させるための犯罪被害者等の意見陳述の制度や、証人の証言時の負担・不安を軽減するためのビデオリンクなどの制度の運用について、適切な対応が行われるよう、会議や研修などの様々な機会を通じて、検察の現場への周知徹底を図るとともに、施策の実施状況の把握に努めている。また、犯罪被害者等向けパンフレット(P81(7)「刑事の手続等に関する情報提供の充実」参照)にもこれらの制度の情報を掲載している。

平成22年1月から同年12月までの間に、証人尋問の際に付添いの措置が採られた証人の延べ数は102件、証人尋問の際に遮へいの措置が採られた証人の延べ数は1,295件、ビデオリンク方式による証人尋問が行われた証人の延べ数は261件であった*10

(*10)最高裁判所事務総局の資料による。

(14) 警察における犯罪被害者等のための施設の改善

警察において、犯罪被害者等が安心して事情聴取に応じられるようにするため、その心情に配意し、応接セットを備えたり、照明や内装を改善した部屋を利用できるようにするなどして、全都道府県の全警察署に「被害者用事情聴取室」を整備している。

また、犯罪被害者等は、警察署や交番などに立ち入ること自体に抵抗を感じる場合があることから、機動的に犯罪被害者等の指定する場所に赴くことができ、犯罪被害者等のプライバシー保護などに配意しながら必要な事情聴取や実況見分などを行えるよう、移動式被害者用事情聴取室ともいえる「被害者支援用車両」を導入して、犯罪被害者等からの相談や届出の受理、事情聴取などに活用している。さらに、県施設、ホテル、大学などの警察施設以外の相談会場の借上げも行っている(警察施設外の相談会場借上げ(国庫補助金):22年度14百万円、23年度7百万円)。

▼被害者支援用車両内の様子
被害者支援用車両内の様子の写真
▼犯罪被害者等専用の事情聴取室
犯罪被害者等専用の事情聴取室の写真
提供:警察庁
(15) 検察庁における犯罪被害者等のための待合室の設置

法務省において、被疑者などの事件関係者と顔を合わせたくないという犯罪被害者等の心情への配慮と精神的負担の軽減のため、平成22年度に新営された検察庁4庁舎に被害者専用待合室を設置した。平成23年度中に建て替えが完了する見込みの検察庁4庁舎についても、被害者専用待合室を設置することとしており、それ以外の検察庁については、スペースの有無、設置場所などを勘案しつつ、今後も被害者専用待合室の設置について検討していく。

また、犯罪被害者等のための待合室には、犯罪被害者等の心情に配慮するとともに、精神的負担の軽減を図るための備品を順次整備している。

《基本計画において、「1~3年以内を目途に検討の結論を得て、施策を実施する」とされたもの(「1~2年以内を目途に実施する」とされたものを含む)》
(16) 職員等に対する研修の充実等

厚生労働省において、犯罪被害者等の治療、保護などを行う施設の職員などの研修の充実を図る方向での検討を実施している。

「PTSD 対策専門研修会」において、平成22年度より医師、コ・メディカルなどを対象に講義だけでなく、模擬患者等を用いた実際の対応法の提示等を適宜組み合わせた実践的内容とし、研修の充実を図っている。

平成17年度から、厚生労働科学研究で「犯罪被害者の精神健康の状況とその回復に関する研究」を3年計画で行っており、これらの研究を踏まえて研修内容の改善などを今後検討していく(P63(23)「重度のPTSD 等重度ストレス反応の治療等のための高度な専門家の養成及び体制整備に資する施策の検討及び実施、犯罪被害者に係る司法関連の医学知識と技術について精通した医療関係者の在り方及びその養成のための施策の検討」参照)。

また、独立行政法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所においては、平成19年1月、精神科医療機関、精神保健福祉センター、保健所に勤務する医療従事者に対し、犯罪被害者等への適切な対応を行うために必要な基本的知識と初期対応の修得を目的とし、第1回「犯罪被害者メンタルケア研修」を実施し、平成23年1月には第5回を実施した。同研修は、犯罪被害者やその家族の置かれている現状、基本法や基本計画の概要、関連する司法制度、犯罪被害者等への初期対応といった内容から成り、3日間の研修に29名の医療従事者が参加した。

(17) 民事訴訟におけるビデオリンク等の措置の導入

平成19年6月20日に成立した「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」により、「民事訴訟法」が一部改正され、民事訴訟において、犯罪被害者等を証人などとして尋問する場合に、付添い、遮へい、ビデオリンクの各措置をとることが認められた(平成20年4月1日施行)。

平成22年1月から同年12月までの間に、民事訴訟において、証人尋問などの際に付添い、遮へい、ビデオリンクの各措置が実施された回数は、それぞれ7回、105回、19回であった*11

(*11)最高裁判所事務総局の資料による。

《基本計画には盛り込まれていないが、基本法・基本計画を踏まえ、平成18年度以降新たに実施しているもの》
(18) 女性被害者への配慮

海上保安庁において、性犯罪などに係る女性被害者の捜査の過程において受ける精神的負担を少しでも緩和するために、女性海上保安官による事情聴取や付添いなどを行っている。


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