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第2節 第2次犯罪被害者等基本計画の概要


コラム2:諸外国における犯罪被害者等に対する給付の制度

内閣府で実施した海外調査を基に、アメリカ、イギリス、フランス及びドイツにおける犯罪被害者等に対する給付の制度の概要を紹介します(※)

1 アメリカ

アメリカにおける犯罪被害者等に対する給付の制度は、州によって給付水準などかなり違いはありますが、連邦と州の負担の割合は、およそ6対4で、罰金、犯罪者から徴収する特別賦課金等を財源としています。

全州で給付内容の主要な費目となっているのは、医療費、心理カウンセリング費、犯罪に関わる傷害を原因として就労不能となった被害者の損失賃金、殺人事件被害者の扶養家族に対する損失(生活費)、葬儀埋葬費用、眼鏡や補聴器など医療上必要な器具の費用です。

例えば、ニューヨーク州では、損害を受けたり、破壊されたり、盗まれたりした眼鏡や補聴器などの必要不可欠な個人財産の交換や修理等に関しては(注1)500ドル(4万2500円(注2))、所得の損失又は殺人被害者家族の扶養に関しては週600ドル(5万1000円)までで上限3万ドル(255万円)まで、心理療法を含む医療費、就職指導・職業訓練に要する費用、埋葬費に関しては6000ドル(51万円)まで、必要な裁判所への出頭及び医療診察のための交通費、家庭内暴力シェルターの利用費、現場の清掃や原状回復のための費用に関しては2500ドル(21万2500円)まで、引っ越し費用に関しては2500ドル(21万2500円)までが支給されます。

これらの給付は、加害者からの賠償金、公的給付のほか、自分が掛けている民間の保険からの給付とも併給調整されます。

注1:給付の対象は、生命・身体犯の被害者等であるので、単に、必要不可欠な個人財産が破壊されたり、盗まれたりするなどしただけの財産犯の被害者には給付されません。

注2:1ドル=85円で換算

2 イギリス

イギリスにおける犯罪被害者等に対する給付の制度は、同情と社会の連帯共助の精神に基づく制度と位置付けられています。

財源は、国の一般財源です。

障害を負った場合、障害等級表に基づく25段階の障害の程度に応じて1000ポンド~25万ポンド(14万円~3500万円(注3))、就業者について28週を超える逸失利益(ただし、国民の平均賃金の1.5倍の限度内(注4))、住宅改造費用、介護サービス費用が支給されます。

死亡した場合、葬儀費用のほか、遺族給付が支給されます。この遺族給付は、受給資格者が1名しかいない場合には1万1000ポンド(154万円)、受給資格者が2名以上いる場合には、それぞれ5500ポンド(77万円)となっていますが、実親、生計主、後見人が死亡した場合は、これに加え、扶養手当が支払われ、さらに、18歳未満の子ども(死亡した親権者の養育に依存していた場合)に対しては、18歳に達するまで養育費(年間2000ポンド(28万円)及び裁定者である犯罪被害補償審査会がその他損害として相当と判断する額)が支払われます。

また、国民の医療費については全額国が負担していますが(National Health Service。以下「NHS」という。)、犯罪被害により高度医療等NHS の対象外の医療を受けた場合、その医療費が支給されます。

これら給付の総額の上限は50万ポンド(7000万円)となっています。

また、これらの給付は、加害者からの賠償金、他の社会保障給付や年金と調整されますが、任意加入の保険からの給付とは調整されません。

注3:1ポンド=140円で換算

注4:就業者の28週以内の逸失利益については、法定疾病給与制度により週56ポンド(7840円)が支給される。

3 フランス

フランスの犯罪被害者等に対する給付の制度は、国民の「連帯」の印としての国家補償制度であるとされています。

財源は、物損保険(多リスク住居保険、自賠責等。任意加入のものも含む。)の契約者から保険契約1件につき徴収する一定額(3.3ユーロ(413円(注5)))等です。フランスでは、国民の保険加入率が高いことから、1契約につき徴収されるこのお金は、損害保険にかかる目的税のようなものと言えるでしょう。

犯罪被害者本人には、経済的損害、精神的被害、逸失利益等について、相続人には、犯罪被害者の死亡による相続人自身の損害(葬儀費用、交通費、宿泊費、精神的被害等)について、裁判所が個別に判断した額が支給されます。

これらの給付は、社会保障制度や共済からの給付のみならず、任意加入の保険からの給付とも調整されます。

注5:1ユーロ=125円で換算

4 ドイツ

ドイツにおける犯罪被害者等に対する給付の制度は、国が国民の安全を守れなかったことによる補償制度であるとされており、戦争犠牲者等を対象とした補償制度を犯罪被害者等に準用した制度となっています。

財源は、連邦の一般財源と州の一般財源です。

死亡した場合、葬祭料のほか、配偶者に月額387ユーロ(4万8375円)の基礎年金などが支給されます。

障害を負った場合、医療費の自己負担分、交通費、リハビリ費用、休業補償、生活雑費、介護費などが一時金として支給されるほか、所得に関係なく、就業能力の低下の程度に応じて毎月一定額が支給される基礎年金(就業能力30%減退で月額123ユーロ(1万5375円)、100%減退で月額646ユーロ(8万750円))、就業能力の減退による収入の減少を補てんする目的で、所得に応じ月額で給付される就業損失補てん、基礎年金等を受給しても不足している生活費を補てんする目的で、所得に応じ月額で支給される調整年金が支給されます。

犯罪被害者等や戦争犠牲者等を対象とした補償制度は、他の制度とは無関係の独立した制度であるため、基本的に他の制度による給付との調整はなく、任意加入の保険からの給付とも調整されません。

※:第1次の犯罪被害者等基本計画(平成17年12月閣議決定)に基づき、平成18年4月から平成19年9月までの間、有識者及び関係省庁職員から構成される「経済的支援に関する検討会」が開催されましたが、同検討会では、有識者から、諸外国における犯罪被害者等に対する給付の制度についてヒアリングするとともに、平成18年9月、現地に赴き、関係機関等から聴きとり調査を実施しました。これらを基に、各国の制度概要を紹介するものです。


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