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3.犯罪被害者等基本計画 (平成17年12月27日閣議決定)

1.刑事に関する手続への参加の機会を拡充するための制度の整備等(基本法第18条関係)

[現状認識]

「事件の当事者」である犯罪被害者等が、被害を受けた事件の捜査・公判等の刑事に関する手続や、少年保護事件の調査・審判等の手続に対し、それを通じて事件の真相を知ることができ、名誉が回復され正義が実現されるものと期待し、その推移及び結果に重大な関心を持つのは当然である。刑事に関する手続や少年保護事件の手続についての情報提供を欲するのみならず、加害者側に偏向した結果となることを心配し、自ら手続に関与することを望む犯罪被害者等も少なくない。

情報の提供に関しては、警察、検察庁、海上保安庁による各種情報の通知制度が実施されている。また、刑事に関する手続への参加の機会を拡充する制度としては、平成12年に行われた刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)の改正により、被害者等の意見陳述制度が導入されたほか、検察審査会への申立権者の範囲が拡大されるなどしている。少年保護事件の手続に関しては、同年の少年法(昭和23年法律第168号)の改正により家庭裁判所による被害者等の意見聴取の制度が導入されるなどしている。

しかしながら、犯罪被害者等からは、現状について、犯罪被害者等は証拠として扱われているに過ぎず、「事件の当事者」にふさわしい扱いを受けていないという批判があり、刑事に関する手続及び少年保護事件の手続に関し、一層の情報提供と参加する権利を認めるよう要望する声が多い。

[基本法が求める基本的施策]

基本法第18条は、国及び地方公共団体に対し、犯罪被害者等がその被害に係る刑事に関する手続に適切に関与することができるようにするための施策として、

・刑事に関する手続の進捗状況等に関する情報の提供

・刑事に関する手続への参加の機会を拡充するための制度の整備

・その他の必要な施策

を講ずることとしている。

[犯罪被害者等の要望に係る施策]

犯罪被害者団体等からは、

《1》 起訴への関与等

《2》 公訴参加制度の導入等

《3》 公的弁護人制度の導入

《4》 少年保護事件への参加等

《5》 刑事司法手続に関する情報提供の充実

《6》 捜査に関する情報提供等の充実

《7》 不起訴事案に関する情報提供

《8》 判決確定後の加害者情報の提供

《9》 加害者の処遇に関する意見陳述等

《10》 犯罪被害者等に関する情報の加害者への伝達等

《11》 その他刑事司法の充実等

に関する種々の要望が寄せられている。

[今後講じていく施策]

(1) 犯罪被害者等が刑事裁判に直接関与することのできる制度の検討及び施策の実施

法務省において、刑事裁判に犯罪被害者等の意見をより反映させるべく、公訴参加制度を含め、犯罪被害者等が刑事裁判手続に直接関与することのできる制度について、我が国にふさわしいものを新たに導入する方向で必要な検討を行い、2年以内を目途に結論を出し、その結論に従った施策を実施する。【法務省】

(2) 冒頭陳述等の内容を記載した書面の交付についての検討及び施策の実施

法務省において、犯罪被害者等の希望に応じ、公訴事実の要旨や冒頭陳述の内容等を説明するよう努めるとともに、事案並びに必要性及び相当性にかんがみ冒頭陳述等の内容を記載した書面を交付することについて必要な検討を行い、1年以内を目途に結論を出し、その結論に従った施策を実施する。【法務省】

(3) 公判記録の閲覧・謄写の範囲拡大に向けた検討及び施策の実施等

ア 法務省において、公判記録の閲覧・謄写の範囲を拡大する方向で検討を行い、2年以内を目途に結論を出し、その結論に従った施策を実施する。【法務省】(再掲:第1、1.(5))

イ 法務省において、公判記録の閲覧・謄写に関する現行制度を周知徹底させる。【法務省】(再掲:第1、1.(7))

(4) 犯罪被害者等と検察官のコミュニケーションの充実

ア 法務省において、犯罪被害者等の意見等をより適切に把握し刑事裁判に適正に反映させるため、犯罪被害者等と検察官のコミュニケーションをより一層充実させ、被害状況等の供述調書等による証拠化並びに被害者等の証人尋問及び意見陳述の活用等により、被害状況の的確な立証に努めていく。【法務省】

イ 法務省において、刑事裁判の公判期日の決定について、検察官が犯罪被害者等と十分なコミュニケーションをとり、必要に応じ、犯罪被害者等の希望を裁判長に伝えるよう努めていく。【法務省】

(5) 国民にわかりやすい訴訟活動

法務省において、検察官による視覚的な工夫を取り入れた国民に分かりやすい訴訟活動を行うよう努めていく。【法務省】

(6) 保釈に関しての犯罪被害者等に対する安全への配慮の充実

法務省において、加害者の保釈に関し、検察官が、犯罪被害者等から事情を聴くなどによりその安全確保を考慮して裁判所に意見を提出するよう、適切な対応に努めていく。【法務省】(再掲:第2、2.(7))

(7) 上訴に関する犯罪被害者等からの意見聴取等

法務省において、検察官が、被害者のある犯罪について、判決に対する上訴の可否を検討する際に、事案等を勘案しつつ、犯罪被害者等から意見聴取等を実施するなど、適切な対応に努めていく。【法務省】

(8) 少年保護事件に関する意見の聴取等各種制度の周知徹底

法務省において、少年保護事件に関する意見の聴取、記録の閲覧・謄写及び審判結果等の通知の各制度について、周知に努めていく。【法務省】

(9) 少年保護事件に関する犯罪被害者等の意見・要望を踏まえた制度の検討及び施策の実施

法務省において、平成12年の少年法等の一部を改正する法律(平成12年法律第142号)附則第3条により、同法施行後5年を経過した場合に行う検討において、少年審判の傍聴の可否を含め、犯罪被害者等の意見・要望を踏まえた検討を行い、その結論に従った施策を実施する。【法務省】

(10) 公的弁護人制度の導入の是非に関する検討

公的弁護人制度の導入については、現行及び今後実施する損害賠償請求の適切・円滑な実現を図るための諸施策及び刑事に関する手続への参加の機会を拡充するための諸施策並びに犯罪被害者等の経済的負担軽減のための諸施策を踏まえ、更に必要かつ相当であるかを検討することとし、具体的には、犯罪被害者等に対する経済的支援制度に関して設置する検討のための会において、社会保障・福祉制度全体の中における犯罪被害者等に対する経済的支援制度のあるべき姿や財源と併せて検討する。【内閣府・警察庁・法務省・厚生労働省】

(11) 日本司法支援センターによる支援

ア 日本司法支援センターによる民事法律扶助制度の活用によって、弁護士費用及び損害賠償請求費用の負担軽減を図る。【法務省】(再掲:第1、1.(4)ア)

イ 日本司法支援センターにおいて、犯罪被害者等のために、その支援に精通した弁護士の紹介なども含めた様々な情報を速やかに提供する。【法務省】再掲:第1、1.(4)イ及び第4、1.(27)ア

ウ 日本司法支援センターの具体的な業務の在り方について、犯罪被害者等やその支援に携わる者の意見を踏まえて準備作業を進める。【法務省】再掲:第1、1.(4)ウ及び第4、1.(27)イ

エ 日本司法支援センターによる犯罪被害者等支援について、警察庁その他関係機関及び日本弁護士連合会等と十分な連携を図る。【法務省】再掲:第1、1.(4)エ及び第4、1.(27)ウ

オ 日本司法支援センターの機能及び犯罪被害者等支援に関する具体的情報を十分に周知させる。【法務省】再掲:第1、1.(4)オ及び第4、1.(27)エ

(12) 刑事の手続等に関する情報提供の充実

ア 警察庁及び法務省において連携し、犯罪被害者等の意見・要望を踏まえ、刑事に関する手続及び少年保護事件の手続並びに犯罪被害者等のための制度等を分かりやすく解説したパンフレット等の内容を充実し、パンフレットの配布等の工夫も含め、犯罪被害者等への早期の提供に努めていく。【警察庁・法務省】(再掲:第4、1.(23)ア)

イ 警察庁及び法務省において連携し、検視及び司法解剖に関し、パンフレットの配布等の工夫も含め、遺族に対する適切な説明及び配慮に努めていく。【警察庁・法務省】

ウ 警察において、都道府県における外国人犯罪被害者等の多寡等の実情を踏まえて作成・配布している外国語版の「被害者の手引」について、今後とも適切に作成・配布されるよう努めていく。【警察庁】(再掲:第4、1.(20)イ)

エ 法務省において、犯罪被害者等に対し、犯罪被害者等の保護と支援のための制度の更なる情報の提供を行うため、外国語によるパンフレットやホームページの作成等による情報の提供を行う。【法務省】(再掲:第4、1.(23)イ)

(13) 捜査に関する適切な情報提供

ア 警察において、捜査への支障等を勘案しつつ、「被害者連絡制度」等を周知徹底・活用し、犯罪被害者等に対し、適時適切に、捜査状況等の情報を提供するよう努めていく。【警察庁】

イ 警察庁において、一定の犯罪被害者等に対し「被害者の手引」を配布・説明する制度及び「被害者連絡制度」の改善策について、犯罪被害者等の要望を踏まえた検討を行い、1年以内を目途に結論を出し、必要な施策を実施する。【警察庁】(再掲:第4、1.(21))

ウ 法務省において、捜査への支障等を勘案しつつ、犯罪被害者等に対し、適時適切に、捜査状況等の情報を提供するよう努めていく。【法務省】

(14) 交通事故捜査の体制強化等

警察本部による事故捜査体制の強化を図るとともに、科学的捜査を推進するため、交通事故捜査員に対する各種捜査研修を実施するほか、交通事故自動記録装置を始めとする捜査支援機器の整備・活用を図るなど、一層の交通事故捜査の充実に努める。【警察庁】

(15) 交通事件に関する講義の充実

法務省において、副検事に対する研修の中で今後とも、交通事件の留意点等を熟知した専門家等による講義を行うとともに、被害者及び被害者遺族の立場等への理解を深めるための機会を設けるなど、交通事件をテーマとした科目の内容について一層の充実を図る。【法務省】(再掲:第2、3.(1)オ)

(16) 不起訴事案に関する適切な情報提供

ア 法務省において、不起訴記録の弾力的開示を周知徹底させる。【法務省】(再掲:第1、1.(7))

イ 法務省において、不起訴処分について、犯罪被害者等の希望に応じ、検察官が、捜査への支障等を勘案しつつ、事前・事後に、処分の内容及び理由について十分な説明を行うよう努めていく。【法務省】

(17) 検察審査会の起訴議決に拘束力を認める制度の運用への協力

法務省において、平成16年の検察審査会法(昭和23年法律第147号)改正により導入され平成21年までに実施される一定の場合に検察審査会の起訴議決に拘束力を認める制度について、公訴権の実行に関し民意を反映させてその適正を図るという趣旨の実現に向けた必要な協力をしていく。【法務省】

(18) 検察官に対する児童又は女性の犯罪被害者等への配慮に関する研修の充実

法務省において、検察官に対し、児童や女性の犯罪被害者等と接する上での留意点等を熟知した専門家等による講義を実施し、児童及び女性に対する配慮に関する科目の内容の一層の充実を図っていく。【法務省】(再掲:第2、3.(1)エ及び第4、2.(11)ア

(19) 判決確定後の加害者情報の警察に対する提供の充実

法務省において、再被害防止のため、警察の要請に応じ、行刑施設、地方更生保護委員会及び保護観察所が警察に対して行う釈放予定、帰住予定地及び仮出獄中の特異動向等の情報提供、再度の加害行為のおそれを覚知した検察官、行刑施設、地方更生保護委員会及び保護観察所による警察への当該情報の連絡について、関係者に周知徹底させ、一層円滑な連携を図っていく。【警察庁・法務省】(再掲:第2、2.(1)ア)

(20) 判決確定後の加害者情報の犯罪被害者等に対する提供の拡充

法務省において、加害者の仮出獄の時期、自由刑の執行終了による釈放予定時期、釈放後の住所についての情報を適切に提供していくほか、さらに、更生保護官署が、保護司との協働態勢の下、犯罪被害者等に対し、加害者の収容先、加害者の処遇に関する情報、加害者の釈放予定等を含む刑事裁判終了後の加害者に関する情報を提供できるよう、更生保護官署に被害者支援専任の担当者を配置することを含め、検討を行い、2年以内を目途に必要な施策を実施する。【法務省】(再掲:第2、2.(1)イ)

(21) 保護処分決定確定後の加害少年に係る情報の提供に関する検討及び施策の実施

法務省において、犯罪被害者等に対し、保護処分決定確定後の加害少年に関する情報を適切に提供できるよう検討を行い、2年以内を目途に必要な施策を実施する。【法務省】

(22) 犯罪被害者等の心情等を加害者に伝達する制度の検討及び施策の実施

法務省において、更生保護官署が、保護司との協働態勢の下、犯罪被害者等に対し、刑事裁判終了後の加害者に関する情報を提供できるよう、更生保護官署に被害者支援専任の担当者を配置することを含め、検討を行う(上記(20))ことと併せ、犯罪被害者等が置かれた状況及び心情等を矯正施設に収容されている加害者又は保護観察中の加害者に伝える仲介をすることについて検討を行い、2年以内を目途に必要な施策を実施する。【法務省】

(23) 受刑者と犯罪被害者等との面会・信書の発受の適切な運用

法務省において、受刑中の加害者との面会・信書の発受を希望する犯罪被害者等に関し、刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律(平成17年法律第50号)に基づき、受刑中の者と犯罪被害者等との面会・信書の発受が適切に運用されるように努める。【法務省】

(24) 犯罪被害者等の意見等を踏まえた適切な加害者処遇の推進

ア 法務省において、矯正施設に収容されている加害者に対し、被害者の心情等を理解させるため、「被害者の視点を取り入れた教育」について、犯罪被害者等やその支援に携わる者の意見を踏まえ、内容の一層の充実に努めていく。【法務省】(再掲:第2、2.(12)ア)

イ 法務省において、保護処分の執行に資するため、少年の身体的・精神的状況、家庭環境、施設内の行動及び処遇の経過等に関する必要な記載がなされている少年簿について、関係機関と連携し、犯罪被害者等に関する事項について必要な情報を収集し、適切に記載するよう努めていく。【法務省】

ウ 法務省において、犯罪被害者等の意向等に配慮し、謝罪及び被害弁償に向けた保護観察処遇における効果的なしょく罪指導を徹底していく。【法務省】(再掲:第2、2.(12)ウ)

(25) 犯罪被害者等の視点を取り入れた交通事犯被収容者に対する更生プログラムの整備等

ア 法務省において、犯罪被害者等の視点を取り入れ、交通事犯被収容者に対する罪の意識の覚せいを図る指導、交通安全教育等を推進し、遵法精神、責任観念をかん養し、交通犯罪に対する道義的な反省を積極的に促すとともに、交通法規を守って、人命を尊重し、安全第一を信条とする社会人として更生させることに努める。【法務省】

イ 法務省において、「被害者の視点を取り入れた教育」研究会の成果を踏まえ、犯罪被害者等や支援団体から直接話を伺うゲストスピーカー制度の拡大や教材の開発、標準的なプログラムの策定に取り組むなど、被害者の心情等を理解させるための指導の一層の充実を図り、交通事犯被収容者の更生のためにより有効なプログラムの整備に努める。【法務省】

(26) 仮釈放における犯罪被害者等に対する安全への配慮の充実

法務省において、仮釈放に際し、地方更生保護委員会が、事案に応じた犯罪被害者等の安全確保に必要な遵守事項の適切な設定に努め、保護観察所が、当該遵守事項を遵守させるための加害者に対する指導監督を徹底していく。【法務省】(再掲:第2、2.(12)イ)

(27) 犯罪被害者等の意見を踏まえた仮釈放審理の検討及び施策の実施

法務省において、仮釈放の審理をより一層犯罪被害者等の意見を踏まえたものとすることについて、犯罪被害者等による意見陳述の機会を設けることを含め検討し、2年以内を目途に必要な施策を実施する。【法務省】

(28) 矯正施設職員及び更生保護官署職員に対する研修等の充実

法務省において、矯正施設職員及び更生保護官署職員に対する犯罪被害者等やその支援に携わる者による講義の実施等犯罪被害者等の置かれている現状や心情等への理解を深める研修の充実を図っていく。【法務省】


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