<< 前頁   [目次]   次頁 >>

第4節 支援等のための体制整備への取組


コラム6:民間団体の取組

民間団体による支援活動は、犯罪被害者等の様々なニーズに対し、きめ細かで迅速な対応を可能にするものであり、関係機関・団体との連携による途切れない支援を行う上で不可欠です。

現在、我が国では、犯罪被害者支援の分野において、多種多様な民間団体が活動をしています。

ここでは、そのうちのいくつかの団体を紹介します。

1 少年犯罪被害当事者の会(大阪府)~少年犯罪被害者の権利を加害者と対等のレベルに高めたい~

少年犯罪被害者当事者の会は、少年犯罪により、家族(多くの場合は子ども)を殺された方の会です。会の設立は平成9年12月。未成年の加害者によって子どもを殺された親たちが、「同じような体験をした、同じ思いの人と話がしたい」という必死の思いで探し合い、知り合ったのがきっかけでした。「そのとき、私たちは思う存分、お互いの話をしました。

お互いの苦しい胸の内を分かち合い、それぞれの事件の話を聞くにつれ、自分たちだけがひどい扱いを受けたわけではないことも知りました。私たちが直面していたのは、たまたま起きた特殊な問題ではなく、加害者が少年の場合に必ず生じる、根の深い構造的な問題だったのです」(武さん)。

代表 武 るり子さんの写真
代表 武 るり子さん
WiLL で展示されたボードの写真
WiLL で展示されたボード

若者とともに開催する「WiLL」

当事者の会が大事にしている「WiLL」というイベントがあります。これは、子どもたちの追悼と、少年犯罪の被害者の実情を多くの人たちに知ってもらおうという目的で開催され、平成21年10月には11回目を迎えました。WiLL には、意志、決意、願い、気持ち、遺言といった意味が込められています。

もともとは、少年犯罪被害の話を聞きに来た学生たちとの出会いがきっかけで始まったものだといいます。「話を聞きに来た地元の学生が、一緒に泣いてくれました。その後も折に触れて訪ねてきてくれるうちに、彼らから“武さんはどうしたいの?”という投げかけがありました。“息子たちの追悼がしたい”、“遺族の人たちが集まって思いっきり話ができる場所が欲しい”と答えたところ、“武さんたちがしたいと思っていることをしましょう。私たちにできることは手伝えます”と言ってもらい、WiLL が始まったのです」(武さん)。学生たちは裏方に徹し、このイベントの運営を支えました。今でもその後輩たちがWiLLの企画・開催・運営を、会員と一緒に行っています。11回目には大阪府・大阪市からも支援を受け、全国から240名を集めています。「被害に遭った当初は、息子と同じ年頃の子どもとの接触は避けていました。辛かったので。でも、WiLLを運営してくれた学生たちとの触れ合いにより、若者の素晴らしさを再確認できました」(武さん)。

2 全国犯罪被害者の会NAVS(あすの会)(東京都)~犯罪被害者の権利の確立を目指して~

全国犯罪被害者の会(通称:あすの会)は、平成11年に犯罪被害者・遺族5人が集まり、平成12年の第1回シンポジウム「犯罪被害者は訴える」を開催したことを契機に設立されました。同会は、犯罪により生命を失った人の遺族や身体に被害を受けた人を会員としており、会員の約半数は殺人被害の遺族です。「犯罪被害者の権利の確立」、「被害回復制度の確立」などを活動の目的として掲げ、外国の犯罪被害者制度の調査研究、行政への法的陳情、大規模署名活動等を行っています。

平成14年12月~平成16年4月においては、大規模な「犯罪被害者の権利を確立するための署名活動」を実施し、あすの会会員が全国各地の街頭に立ち、街の人、通行人に呼びかける形で署名活動を行い、全部で557,215人分の署名を集めました。このようなあすの会の活動は、「犯罪被害者等の権利利益の保護を図る」ことが明記された「犯罪被害者等基本法」の制定(平成16年12月)、刑事裁判において犯罪被害者等が被告人に質問することなどを可能とする「被害者参加制度」(平成20年12月)、刑事裁判所が刑事事件について有罪の言い渡しをした後、犯罪被害者等の被告人に対する損害賠償請求について審理・決定することのできる「損害賠償命令制度」(平成20年12月)等の創設に大きく寄与しています。

「我々は、政策を提案する集団と言えます。」(松村さん)。

平成22年1月23日に開催された「全国犯罪被害者の会創立10周年記念大会・シンポジウムあすの会10年の歩みと今後の課題」では、大会決議として「経済的補償制度の確立」、「公訴時効の廃止」、「被害者参加制度及び国選弁護制度の真なる推進」が掲げられ、採択されています。「大会で掲げられた大会決議が、あすの会の今後の活動目標、課題そのものといえます」(松村さん)。

また、あすの会では、「被害者の支援」も活動の目的の一つに掲げており、法律相談、被害者同士の交流会の開催等も行っています。

岡村勲代表幹事(第9回大会にて)の写真
岡村勲代表幹事(第9回大会にて)
副代表幹事 松村恒夫さんの写真
副代表幹事 松村恒夫さん
10周年記念大会の様子の写真
10周年記念大会の様子

3 NPO 法人全国被害者支援ネットワーク(東京都文京区)~被害者を支える社会の実現に向けて~

全国各地で民間の被害者支援団体の設立を推進し、それらに対して、情報提供、教育・研修、広報キャンペーンなどの支援を行い、支援センターが被害者支援を行う環境の整備に努める全国被害者支援ネットワーク。犯罪被害者等早期援助団体(犯罪被害者等施策に関する基礎資料 9.特定非営利活動法人全国被害者支援ネットワーク加盟団体一覧を参照)及びその指定を目指す団体の全国的な傘団体です。

ネットワークでは、全国の支援センターの活動をサポートしている様子の写真
ネットワークでは、全国の支援センターの活動をサポートしている
全国で募金活動を展開中の写真
全国で募金活動を展開中
理事長 山上皓さんの写真
理事長 山上皓さん

被害者支援の質の向上に向けて

被害者支援の質の向上は重要な問題です。各支援センターの努力により、現在、欧米と較べてもそれほど遜色のない団体も出てきていますが、遅れている団体ではごく簡単な対応しかできず、本当に必要な支援が行えていないのが現状だといいます。ただし、質の向上には人材育成が不可欠で、どうしてもお金と時間が必要です。「ボランティア組織から発展した団体だと、本当に低額の給与水準で、意欲だけで働いていただいているのが現状です。各種の補助や寄付が少なくなる中、ネットワークでも懸命に募金活動を行っていますが、各支援センターの財政は予断を許さない状況です。」(山上さん)。

4 社団法人被害者支援都民センター(東京都新宿区)~歴史に裏付けられた確かな支援~

被害者支援都民センター(以下、都民センター)は、犯罪被害者の負担の軽減及び回復に資することを目的として平成12年4月に設立されました。

平成14年5月には、東京都公安委員会から、日本で初めて犯罪被害者等早期援助団体に指定されました。更に、同年11月には、東京都知事から「特定公益増進法人」として認定され、様々な支援活動を行ってきました。

平成20年には、犯罪被害者等の多様なニーズにこたえるための取組を総合的かつ計画的に推進していくため、東京都と「犯罪被害者等の支援業務の実施に関する基本協定書」を締結しました。

この協定書に基づき、当センター内に「東京都総合相談窓口」を設置し、東京都と連携・協働しながら犯罪被害者等の支援業務を推進しています。

自助グループの運営

都民センターでは、毎月の定例会に加え、年に3回ずつ、被害から日が浅い方と講演など社会に向けた活動に参加して頂いている方向けの会を開催しています。自助グループの「毎月のご案内」は、約30名の方に送っており、1回の参加人数は、定例会で10人前後、年3回のものは2~4名です。「自助グループには、多くの方に参加して頂きたいのですが、一方で、自助グループを開く際の適正な人数があると思います。決められた2時間という時間の中で行うので、みなさんそれぞれが「話ができた」と感じて頂くには、8~10人が適正人数かと思います。」(池田さん)。

相談支援室長代理 池田志津さんの写真
相談支援室長代理 池田志津さん
相談支援室長代理 野崎響子さんの写真
相談支援室長代理 野崎響子さん
自助グループを行っている部屋の写真
自助グループを行っている部屋

自助グループの目的の1つは、長期的な精神的支援と孤立感の軽減です。「繰り返し被害の事を話すことは、被害を現実のこととして受け止めることにつながり、それは被害からの回復に必要なことでもあります。また、他の被害者のお話を聞くことにより、辛い思い苦しい思いをしているのは自分だけではない、と感じられる事も孤立感を軽減するために大切だと思います。」(野崎さん)。「自助グループ内では、事件から日が浅い方と、事件から長い年月が経過し、回復傾向にある方とが一緒にお話しをします。事件から日が浅い方にとっては、自分もあのようにして回復していくのだ、という指針になるし、逆に事件後長い年月が経過している人は、自分もあのような状態だった、でも今はここまで回復した、という確認、振り返りができます。」(池田さん)。

また、「日常で辛いことがあったとき、自助グループで話をしようと思って何とかひと月乗り越えられたとおっしゃる方もいます」(池田さん)。「事件から時間が経つほど、周囲に事件のことや亡くなった方のことを話しにくくなることも少なくないので、繰り返し安心して思いのたけを話すことができるという意味でも、自助グループはみなさんにとって大切な場となっていると思います。」(野崎さん)。

5 社団法人被害者サポートセンターおかやまVSCO(岡山県岡山市)~「生きる力を取り戻す」をモットーに~

被害者サポートセンターおかやまVSCO(Victim Support Center Okayama)(以下、 「VSCO」)は、平成15年に任意団体「被害者サポートセンターおかやま」として発足、平成18年には岡山県知事から社団法人としての認可を受け、現在に至ります。また、岡山県公安委員会から「犯罪被害者等早期援助団体」の指定を受けることを目指し、事件直後の混乱期における危機介入にも積極的に取り組んでいます。

VSCO では、被害者が「生きる力を取り戻す」をモットーに掲げ、そのために「被害者に二次被害を与えない」ことに力を注いでいます。

「『生きる力を取り戻す』ことの第一歩として、被害者の自己決定を尊重することが大切です。支援員の考えや善意を押し売りすることなく、適切な情報を提示することを心がけています。」(森さん)。

VSCOのパンフレットの写真
専務理事 森 陽子さんの写真
専務理事 森 陽子さん

性犯罪被害当事者の自助グループを運営

VSCO では、性犯罪被害当事者を対象とするものと、殺人・交通事故遺族を対象とする2つの自助グループを運営しています。「性被害とは、人間の尊厳を踏みにじられ、また人権を奪われたように感じるものです。被害を受けた方の中には、魂の殺人であるとおっしゃる方もいます。死の恐怖を伴って性被害を受けた彼女たちに立ちふさがる精神的ショック、社会で孤立して生きていかなくてはならない辛さは、殺人・交通被害者遺族の最愛の人を突然亡くされたという喪失体験を伴う悲しさとはまた違ったものです。そのため、性犯罪被害の当事者と殺人・交通事故の遺族とで別の自助グループをつくっているのです。」(森さん)。

性犯罪被害当事者を対象とする自助グループは、毎月1回開催されます。参加者から、「自分の思いを吐き出して、またみんなの意見を聞きながら気持ちの整理をつけていくには、最低でも月1回の会合が必用」という意見があったのだといいます。会では、プログラムやルールは設けておらず、また、相談員がファシリテーターを行うといった事もありません。「自分の気持ちを出し合える場の提供を基本理念にしています。」

また、VSCO では、性犯罪被害者の中には、周囲の協力も得られず、月々の病院費用も捻出出来ない方もいるため、当座の資金として使えるように、平成20年5月に性犯罪被害者支援基金を設立しました。


<< 前頁   [目次]   次頁 >>