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第2節 精神的・身体的被害の回復・防止への取組

1 保健医療サービス及び福祉サービスの提供(基本法第14条関係)

《基本計画策定以前からの施策で、基本計画策定後も引き続き実施するもの》

(1) 犯罪被害者等に対する精神科医による支援、カウンセリング体制の整備

警察において、カウンセリングに関する専門的知識や技術を有する職員の配置、精神科医や民間のカウンセラーとの連携などにより、犯罪被害者等の精神的被害を軽減するための相談・カウンセリング体制を整備している。現在、全ての都道府県警察において、部外の精神科医、臨床心理士などに対し、犯罪被害者等へのカウンセリングや職員のカウンセリング技術向上を図るためのアドバイザー業務の委嘱を行っている。また、被害少年に対しては、少年補導職員などの専門職員が、部外専門家などから助言を得つつ、カウンセリングを実施している。

さらに、平成19年度から、臨床心理士などの資格を有する職員やその他の警察職員に対し、カウンセリング技能の向上を図るための専門的な研修への参加の促進を図っている(カウンセリング専門職員に対する専門研修に要する経費(国庫補助金):21年度 9百万円、22年度 10百万円)。

▼犯罪被害者等に対応するカウンセラー
犯罪被害者等に対応するカウンセラーの写真
提供:警察庁

(2) 児童相談所及び婦人相談所における相談援助

児童相談所において、少年被害者からの相談も含む子どもに関する相談について対応している。

婦人相談所においては、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(平成13年法律第31号)に基づき、配偶者暴力相談支援センターの機能を担い、配偶者からの暴力被害者・同伴する家族を自ら一時保護したり、婦人保護施設などへの一時保護委託を実施している。

また、「人身取引対策行動計画2009」(平成21年12月、犯罪対策閣僚会議にて決定)に基づき、人身取引被害者の保護・支援を行っており、保護を必要とする人身取引被害者に対しては、相談支援に当たり通訳を確保し、生活場面での支援とともに、心理的ケアや医療的支援、法的支援を行っている。

(3) 児童自立生活援助事業

自立援助ホームにおいて、義務教育終了から満20歳未満までの、児童養護施設などを退所し就職する子どもたちや自立援助ホームを退所した犯罪被害者等も含む子どもたちに対し、相談などの援助を行っている。

(4) 児童福祉施設及び婦人保護施設入所措置

厚生労働省において、虐待を受けた子どもなどのために、児童福祉施設における適切な援助体制を確保している((10)「少年被害者のための治療等の専門家の養成、体制整備及び施設の増強に資する施策の検討及び実施」参照)。

配偶者からの暴力被害者などが入所する婦人保護施設については、夜間警備体制の強化を図るとともに、平成19年度からは心理療法担当職員の常勤配置を、平成21年度からは同伴児童のケアを行う指導員の配置を進めている。

(5) 保健所及び精神保健福祉センターにおける心のケアに関する相談窓口での対応

保健所や精神保健福祉センターにおいて、犯罪被害者等に対して、精神保健に関する相談支援を実施しており、医療が必要な場合には、医療機関に紹介を行うなど、関係機関と連携している。

保健所においては、地域精神保健活動の一環として、精神保健相談窓口を設置し、心の健康相談を実施している。

精神保健福祉センターにおいても、専門知識を有する者による面接相談や電話相談(「こころの電話」)の窓口を設置し、地域住民が気軽に相談できるような体制を整備している。また、必要に応じ医師による診察を行い、医療機関への紹介や医学的指導などを行っている。

《基本計画において、「速やかに実施する」とされたもの》

(6) 「PTSD対策に係る専門家の養成研修会」の継続的実施等

厚生労働省において、医師、看護師、保健師、精神保健福祉士などを対象としたPTSD(心的外傷後ストレス障害)専門家の養成研修などを行い、精神保健福祉センター、病院、保健所などでPTSD相談事業活動を取り入れ、各施設での活動の充実を図っている。

「PTSD対策専門研修会」では、犯罪被害者の心のケアに関する研修も実施しており、平成21年度は177名が受講した(13年度から21年度までで合計2,383名が受講)。

平成18年度からは、より高度な診断評価・治療の技法などを身につけるため、医師、コ・メディカル*2などを対象にアドバンストコースを設けている。

(*2)コ・メディカルとは、一般的には医師を除いた医療従事者に対する総称であるとされている。

(7) 地域格差のない迅速かつ適切な救急医療の提供

厚生労働省において、ドクターカー・ドクターヘリの普及や、初期救急医療、入院を要する救急医療、救命救急医療の体制の整備を図っている。

また、メディカルコントロール(MC)体制*3については、救急業務の高度化のために全国に約290設置されているMC協議会の質を底上げすることを目的として総務省消防庁・厚生労働省において、全国MC協議会連絡会を開催し、充実強化を図っている。

(*3)救急現場から医療機関に搬送されるまでの間において、救急救命士などが行う救急医療活動について、医師による指示、指導・助言、事後検証を行い、その質を保障する体制。

(8) 高次脳機能障害者への支援の充実

厚生労働省において、各都道府県に高次脳機能障害者に対する支援を行うための支援拠点機関を設置し、相談支援コーディネーターによる専門的な相談支援、関係機関との地域ネットワークの充実、高次脳機能障害の支援手法などに関する研修などを行う「高次脳機能障害支援普及事業」を実施している。

平成22年3月現在、高次脳機能障害支援拠点機関を全国47都道府県のうち43都道府県において設置している。

▼高次脳機能障害支援普及事業(イメージ図)
高次脳機能障害支援普及事業(イメージ図)の図
提供:厚生労働省

(9) 思春期精神保健の専門家の養成

厚生労働省において、精神保健福祉センター、保健所、医療機関などの医師、保健師などに対する「思春期精神保健対策専門研修会」の中で児童虐待や家庭内暴力などに関するカリキュラムを実施している。

思春期精神保健対策専門研修会は、医師コース、コ・メディカルコースともに、東京とその他の都市でそれぞれ年2回(3日間連続)開催されている。平成13年度から21年度まで、医師1,046名、コ・メディカル2,248名が受講し、21年度は医師62名、コ・メディカル138名が受講している。

(10) 少年被害者のための治療等の専門家の養成、体制整備及び施設の増強に資する施策の検討及び実施

厚生労働省において、近年、虐待を受けた子どもの児童養護施設などへの入所が増えていることから、児童養護施設に心理療法担当職員を配置するなど適切な援助体制を確保してきた。平成19年度から児童養護施設に被虐待児個別対応職員を常勤配置、21年度には乳児院にも常勤配置してきており、平成22年度には一定の要件を満たす乳児院において、さらに加配できることとしている。

また、児童相談所においては、業務遂行のため、所長、次長、各部門の長のほか、スーパーバイザー(教育・訓練・指導担当の児童福祉司、児童心理司)、児童福祉司、相談員、精神科を専門とする医師、児童心理司、心理療法担当職員などを配置することとしている。児童相談所における児童心理司は、平成21年度において1,065名配置されている。

(11) 犯罪被害者等への適切な対応に資する医学教育の促進

文部科学省において、平成22年2月に開催された、国公私立大学医学部長・医学部附属病院長会議、国公私立大学歯学部長・歯学部附属病院長会議において、基本計画の内容を説明するとともに、各大学におけるカリキュラム改革の取組を要請している。

(12) 犯罪被害者等に関する専門的知識・技能を有する臨床心理士の養成等

文部科学省において、財団法人日本臨床心理士資格認定協会に委嘱した「臨床心理士の資質向上に関する調査研究」の中で、犯罪被害者等支援に関する基礎的な調査研究を行うとともに、その知見を活用した臨床心理士の養成・研修の在り方について検討し、同協会において報告書を取りまとめた(財団法人日本臨床心理士資格認定協会:http://www.fjcbcp.or.jp/)。

(13) 検察官等に対する研修の充実

法務省において、犯罪被害者等に配慮した捜査・公判活動を行うため、検察官などに対する研修の中で、犯罪被害者支援などをテーマとする講義を行っているほか、検察官に市民感覚を学ばせるため、犯罪被害者支援団体などの公益的活動を行う民間団体や民間企業に検察官を一定期間派遣する研修などを実施している。また、検察庁に配置されている被害者支援員に対し、研修を実施している。

(14) 法科大学院における教育による犯罪被害者等への理解の向上の促進

文部科学省において、犯罪被害者等に対する理解の向上を含め、真に国民の期待と信頼に応え得る法曹の養成に努めるよう、法科大学院に促している。法科大学院においては、これに応え、犯罪や不法行為の被害者等の実態を把握・分析し、犯罪被害者等の法的地位、損害回復の方法、被害者支援活動における課題などを考察する「被害者学」、「被害者と法」などの授業科目を開設するなどの取組が行われている。

(15) 児童虐待に対する夜間・休日対応の充実等

児童相談所において、夜間・休日を問わず、いつでも相談に応じられる体制の整備を図る「24時間・365日体制強化事業」を実施しており、こうした事業の活用により、平成21年4月1日現在において、児童相談所を設置する全ての自治体でその体制が確保されている。(67自治体)

(16) 少年被害者の保護に関する学校及び児童相談所等の連携の充実

文部科学省・厚生労働省において、少年被害者の保護に関し、学校と児童相談所など少年被害者の保護に資する関係機関との連携を充実させている。

平成21年4月、「児童福祉法等の一部を改正する法律」(平成20年法律第85号)が施行され、「子どもを守る地域ネットワーク(要保護児童対策地域協議会)」の対象拡大及び専門性の向上を図った。

平成21年4月1日現在、「子どもを守る地域ネットワーク(要保護児童対策地域協議会)」(任意設置の児童虐待防止ネットワークを含む。)は、全市区町村の97.6%で設置されている(「市町村における児童家庭相談業務の状況等の公表について(平成21年度調査結果)」:http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r985200000031mq.html)。

また、平成22年3月、「学校及び保育所から市町村又は児童相談所への定期的な情報提供に関する指針」が文部科学省及び厚生労働省から各自治体及び教育委員会等に通知されている。

▼子どもを守る地域ネットワークについて(要保護児童対策地域協議会)
子どもを守る地域ネットワークについて(要保護児童対策地域協議会)の図
出典:厚生労働省

(17) 少年被害者に対する学校におけるカウンセリング体制の充実等

文部科学省において、少年被害者に対する学校におけるカウンセリング体制の充実を図っている。

学校における教育相談体制の充実に向けて関係機関や地域の人材と連携しながら、個々の状況に応じた支援を実施し、これまで、スクールカウンセラーや子どもと親の相談員の拡充やスクールカウンセラーの緊急支援のための派遣に対して補助を行ってきた。平成20年度から、小学校にスクールカウンセラーを配置する予算を新たに措置し、21年度も小学校にスクールカウンセラーを配置する予算を拡充し、カウンセリング体制の充実を図っている。

また、教職員が、犯罪被害者等である児童生徒の相談などに的確に対応できるよう、大学の教職課程において、カウンセリングに関する基礎的な知識を必ず取り扱うこととされている。教員に対するカウンセリングに関する研修については、生徒指導担当指導主事連絡会議において、犯罪被害者等に対する心のケアの視点も含めて実施するよう促すなど、引き続き実施している。

(18) 被害少年が受ける精神的打撃軽減のための継続的支援の推進

警察において、人格形成の途上にある少年が被害を受けた場合、その後の健全育成に与える影響が大きいことから、被害少年*4の再被害を防止するとともに、その立ち直りを支援するため、少年補導職員などによる指導・助言のほか、カウンセリングなどの継続的な支援を行っている。被害少年の支援に際しては、臨床心理学、精神医学などの高度な知識・技能を有する部外の専門家を「被害少年カウンセリングアドバイザー」として委嘱し、その適切な指導・助言を受けながら支援を実施している。

また、それぞれの地域において、保護者などとの緊密な連携の下に、日常の少年を取り巻く環境の変化や生活状況を把握しつつ、きめ細やかな訪問活動を行うボランティアを「被害少年サポーター」として委嘱し、これらの者と連携した支援活動を推進している。

さらに、深刻な児童ポルノ情勢を踏まえ、警察庁において、平成21年6月に「児童ポルノの根絶に向けた重点プログラム」を策定し、同プログラムに基づき、被害児童の心情に配慮した聴取技法の検討、被害児童の立ち直り支援方策の充実、関係機関と連携した被害児童支援体制の強化などの取組を一層推進することとしている。

(*4)被害少年とは、犯罪その他少年の健全な育成を阻害する行為により被害を受けた少年(20歳未満)をいう(少年警察活動規則(平成14年国家公安委員会規則第20号)第2条第7号)。

(19) 里親制度の充実

厚生労働省において、平成21年4月1日から施行した「児童福祉法等の一部を改正する法律」(平成20年法律第85号)により「養育里親」を、養子縁組を前提とした里親と区分するとともに、養育里親の要件として一定の研修を修めることとするなどの里親制度の見直しが行われた。また、同年度から実施している「里親支援機関事業」を法定化したほか、21年度から養育里親の手当を引き上げた。

(20) 少年被害者の相談・治療のための専門家・施設等の周知

児童相談所は、子どもに関するあらゆる相談に対応することとしており、犯罪の被害によって心のケアなどを必要とする少年からの相談についても、児童相談所の本来業務としている。当該児童相談所の場所や機能に関する周知は、設置主体である各都道府県、政令指定都市、児童相談所設置市において、広報、パンフレット、ホームページなどにより行われている。

〈平成21年4月1日現在〉

児童相談所数  201か所

(平成21年5月1日現在)

児童福祉司数  2,428名

児童心理司数  1,065名

(21) 犯罪被害者等に対する医療機関に関する情報の周知

厚生労働省において、「良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律」(平成18年法律第84号)により、医療機関に対し、医療機能に関する一定の情報について、都道府県への報告を義務付け、都道府県が医療機関の診療科目、医師や看護師数などの基本的な情報、提供する医療の内容に関する情報、医療連携や医療安全に関する情報を比較できるように整理し、インターネットなどで住民が利用しやすい形で公表する医療機能情報提供制度を創設した。これにより、犯罪被害者等を含む患者が、医療に関する情報を得られ、適切に医療機関を選択できるようになる。

(22) 犯罪被害者等の受診情報等の適正な取扱い

厚生労働省において、医療機関などによる個人情報の適切な取扱いを確保する目的で、「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」を定めており、併せて「診療情報の提供等に関する指針」・「個人情報保護法」に基づき、医療機関などに適切な対応を求めている。

また、「医療法」(昭和23年法律第205号)に基づき設置されている都道府県などの医療安全支援センターにおいて、患者やその家族から個人情報の取扱いを含めた医療に関する苦情・相談を受けた場合、当該患者やその家族又は苦情・相談のあった医療機関の管理者に対し、必要に応じて助言を行うこととされており、きめ細やかな支援を行っている。

また、保険者についても、「健康保険組合等における個人情報の適切な取扱いのためのガイドラインについて」(平成16年12月27日保発第1227001号)などの関連ガイドラインを通知し、適切な対応を引き続き求めている。

金融庁においては、犯罪被害者等の保健医療に関する情報を始めとする個人情報の取扱いに関し、保険会社に問題があると認められる場合には、「保険業法」(平成7年法律第105号)等に基づき、保険会社に対する検査・監督において適切な対応を行っている。

《基本計画において、「1~3年以内を目途に検討の結論を得て、施策を実施する」とされたもの(「1~2年以内を目途に実施する」とされたものを含む)》

(23) 重度のPTSD等重度ストレス反応の治療等のための高度な専門家の養成及び体制整備に資する施策の検討及び実施、犯罪被害者に係る司法関連の医学知識と技術について精通した医療関係者の在り方及びその養成のための施策の検討

厚生労働省において、平成17年度からの厚生労働科学研究として、「犯罪被害者の精神健康の状況とその回復に関する研究」を3年計画で行い

〈1〉犯罪被害者の精神医学的状態についての実態とニーズ調査

〈2〉医療場面などにおける犯罪被害者の実態とニーズの調査

〈3〉精神保健福祉センターなどの職員が犯罪被害者に関わる場合のマニュアル作り

〈4〉重度ストレスに対する心理治療の研究

などを進め、これらを踏まえ「犯罪被害者等支援のための地域精神保健福祉活動の手引き」(http://www.ncnp.go.jp/nimh/seijin/www/pdf/shiryo_tebikizenbun.pdf)を作成し、精神保健福祉センターへ配布した。

(24) PTSDの診断及び治療に係る医療保険適用の範囲の拡大

厚生労働省において、平成18年度の診療報酬改定(同年4月1日施行)で、PTSDの診断のための心理テストを保険適用としているほか、平成22年度の診療報酬改定においては、通院・在宅における精神科専門療法を長時間(30分以上)行う場合の評価を充実したところである。

(25) 救急医療に連動した精神的ケアのための体制整備

厚生労働省において、救命救急センターに犯罪被害者等が搬送された場合にも、救急医療の実施と併せて、精神科の医師による診療などが速やかに行われるよう、精神科の医師を必要に応じ適時確保することを各都道府県に求めている。

さらに、平成22年度から救命救急センターに対する運営費補助金への反映を念頭において、「救命救急センターの評価」の評価項目に、救急医療と精神科医療との連携体制を評価する項目の追加をした。

なお、現在すべての研修医が、精神疾患に対する初期的対応、精神的ケアと治療の実際を学ぶことになっている。

(26) 長期療養を必要とする犯罪被害者のための施設の検討及び実施

各都道府県において、平成18年に改正された医療法に基づき、医療計画を策定し、長期療養を必要とする患者を始め、犯罪被害者等を含めた患者が継続的に適切な医療を受けられるよう医療連携体制の構築を進めているところであり、厚生労働省において、各都道府県の取組を支援している。

(27) 性暴力被害者のための医療体制の整備に資する施策の検討及び実施

厚生労働省において、「良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律」に基づき創設された医療機能情報提供制度((21)「犯罪被害者等に対する医療機関に関する情報の周知」参照)によって、性暴力被害者であれば必要と考えられる、婦人科、精神科、心療内科などを有する医療機関の医療機能に関する情報について得ることができるようにしている。

また、併せて医療に関する広告の規制の見直しを行い、これまで認められていなかった、性暴力被害者のカウンセリングを実施している旨などの広告を医療機関が行うことができることとした。


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