第4節 支援等のための体制整備への取組


コラム5:民間団体の取組

1 我が国における民間団体

犯罪被害者等が被害にあってから再び平穏な生活を取り戻すためには、被害直後から中長期にわたって、そのニーズに応じた支援を途切れなく受けられるようにすることが重要です。民間団体による支援活動は、犯罪被害者等の様々なニーズに対し、きめ細かで迅速な対応を可能にするものであり、関係機関・団体との連携による途切れのない支援を行う上で不可欠です。

現在、我が国では、犯罪被害者支援の分野において多種多様な民間団体が活動しています。対象とする犯罪被害類型や活動の主体などに着目すると、

<1> 犯罪被害者等早期援助団体とその指定を目指す団体

<2> NPO法人全国被害者支援ネットワーク(<1>の連合体)

<3> 特定の犯罪類型の被害者等を対象とする団体など<1><2>以外の支援団体

<4> 犯罪被害者等自身が主体となって活動する団体・グループ

に分類できますが、ここでは、犯罪被害全般を支援対象としており、我が国において代表的といえる<1>の団体の取組について、より詳細に紹介していきます。

2 犯罪被害者等早期援助団体とその指定を目指す団体

犯罪被害者等早期援助団体とは、被害にあった直後から犯罪被害者等に対しての援助を適正・確実に行うことができる民間団体として、都道府県公安委員会から指定される団体です。都道府県公安委員会からの指定を受けることによって、犯罪被害者等早期援助団体は、犯罪被害者等の同意のもとに警察から当該被害者等の情報提供を受けることができます。提供された情報に基づいて、犯罪被害者等早期援助団体は、被害直後の段階から犯罪被害者等の身の回りの世話などの日常生活の支援、病院、法廷への付添い、物品の供与や貸与、役務の提供などの直接的支援を行うことができます。

平成21年4月1日現在、犯罪被害者等早期援助団体は23都道府県23団体、その指定を目指している団体は23県23団体あります。

3 支援の実際

犯罪被害者等早期援助団体には、その経験や役割に応じて、「犯罪被害者直接支援員」と「犯罪被害相談員」がいます。

犯罪被害者直接支援員や犯罪被害相談員は、次に掲げる要件を満たしている25歳以上の者とされています。

<1> 人格及び行動について、社会的信望を有すること。

<2> 職務の遂行に必要な熱意及び時間的余裕を有すること。

<3> 生活が安定していること。

<4> 健康で活動力を有すること。

犯罪被害相談員は、さらに次のいずれかに該当する者でなければなりません。

<1> 犯罪被害等に関する相談に応ずる業務に従事した期間が通算しておおむね3年以上の者

<2> 犯罪被害者等早期援助団体において、犯罪被害相談員の職務を補助した期間が通算しておおむね3年以上の者

<3> 犯罪被害等に関する相談に関し前2号に掲げる者と同等以上の知識及び技能を有する

と認められる者


今回は、犯罪被害者等の相談に直接応じる「犯罪被害相談員」(以下、「相談員」という。)の具体的業務を紹介するため、相談員の方に、ある1週間の様子と支援に携わっている中でのお気持ちをお寄せいただきました。

なお、相談者のプライバシー保護のため、団体名は紹介していません。

~ある1週間の犯罪被害者支援センターの活動~

私は、不条理な事件にあわれた犯罪被害者の報道をみて、被害者支援に興味をもちました。このことを機に、地元新聞にボランティア募集の広告を見つけ、被害者支援センターの養成講座を受けました。現在、被害者支援センターに関わり、7年目を迎えます。

ここでは、私の所属する犯罪被害者支援センターの1週間の活動をご紹介いたします。

(写真(特定非営利活動法人被害者支援ネットワーク提供)はイメージです。)

〈月曜日〉

午前10時、電話相談開始。2名の相談員が電話の前に待機していると、さっそく相談電話がかかってきた。内容は交通事故遺族からの相談。約30分間、丁寧に話を聴き、法律的な専門知識が必要だと判断されたため、センターが実施している電話法律相談を紹介、予約を入れておく。

この電話を切るやいなや、次の電話相談がかかってきた。これまでに何回か裁判の傍聴や証人尋問の際に付添いの直接的支援を行ってきた被害者からである。2週間前に出た判決に対し、被告人が控訴しなかったので刑が確定したという報告であった。「とりあえずは一区切りついた気持ちです。」という被害者の声に相談員も少しはほっとした気持ちになる。しかし、これからも民事裁判を控えているし、被告人はいつか、出所する。被害者にとって真の平安が訪れる日はあるのだろうか。やはり長期にわたり絶えることなく支援を行う民間団体の役割は大きい。

〈火曜日〉

交通事故遺族の支援。会社員の息子さん(25歳)を亡くされたAさん(58歳)が被害者参加制度を利用して被告人質問を行う予定になっている。センターでは初公判以来、ずっと公判傍聴を受けるAさんに付添い支援を行ってきた。今日は犯罪被害相談員も法廷のバーの中に入り、Aさんの横に付き添うことになっている。実はAさんは被害者参加をすべきかどうか迷っておられたが、公判を傍聴するうちに、突然の事故で命を絶たれた息子さんの無念の思いと、残された家族の悲嘆を伝えることで、ぜひ、被告人に心の底から反省してもらいたいと考えるようになられた。

被害者参加人席についたAさんの緊張感が犯罪被害相談員にも伝わってくる。Aさんは時には怒りと悲しみで言葉に詰まりそうになりながらも「なぜ一旦停止をしなかったのか。」などと被告人への質問を重ねられた。被告人からの返答は決して誠実なものだけではなく、Aさんの悲しみがより深まるのではないかと心配もした。公判終了後のAさんの「不安でしたが付き添っていただき、精一杯思いを訴えることができました。一歩前に進めるような気がします」という言葉が心に残った。

とはいうものの、Aさんの心の傷は深く、不安定な様子なのでセンターとしては精神科医を紹介し、センターで支援している遺族の自助グループへの参加を提案しようと思う。

裁判の様子の写真
裁判の様子
傍聴席で被害者に付き添う相談の写真
傍聴席で被害者に付き添う相談員
刑事裁判に参加した被害者に付き添う相談員の写真
刑事裁判に参加した被害者に付き添う相談員
証言をする被害者に付き添う相談員の写真
証言をする被害者に付き添う相談員

〈水曜日〉

性犯罪被害者への支援活動。性犯罪は人間の尊厳を踏みにじり、人権を奪い去る、『魂の殺人』と言われる。今回は、会社員の女性Bさん(29歳)からの相談だった。Bさんは事件直後から、“人に会えない、自分は汚れていて取り返しがつかない、生きている価値がない”と一人で考えこんでしまい、外に出られなくなってしまった。事件の影響により、買い物や仕事など、日常生活がうまくできなくなることも少なくない。仕事を何日も休んでいるため、今日はBさんの承諾を得て、勤めている会社の取締役に事件の概要とBさんの今の状態を伝えに行き、職場を解雇されないようお願いにあがった。

お話の中で、事件の影響で生じる精神的ストレスや、生活が一変してしまうこと、安全安心な社会に対する信頼感を喪失してしまうこと等を丁寧に説明した。会社の取締役の男性は、真実を聞き信じられないというご様子で、こちらの話を聞いてくださったが、理解して依頼を受け入れてくださるには至らなかった。第三者が客観的に話をすることで、冷静に話を進めることができると考えていたが、ことはそんなに簡単ではなかった。性犯罪被害者の理解はまだまだ深まっていないことを痛感した。この先どうするか、Bさんと再度話し合いをしなくてはいけない。

〈木曜日〉

少年による傷害事件の支援活動。

先週、警察の主催で関係機関との連携についての検討会が行われた。犯罪被害者等基本計画が策定されてから、警察はもちろん、行政機関も積極的に被害者支援活動の展開に努めていることがわかる。検討会では、少年による傷害事件の発生を受け、被害者Cさん(16歳)に、それぞれの機関は何ができるか、具体的な検討が行われた。会議を経て、各機関が出来る支援と機関の担当者を一覧にまとめ、警察からCさんのご両親に渡された。それを見たご両親から相談電話が入り、面接予約をとった。初回の面接では、ご両親がいらっしゃり、お二人共とても緊張している様子がうかがわれ、同時に、ご主人が奥様をとても気づかっている事が感じられた。奥様は、看病疲れと緊張で顔色も悪く辛そうであった。専門的なアドバイスが必要と判断をし、法律相談の予約をした。

相談の様子の写真
相談の様子

今日は支援センターの協力弁護士による法律相談の日。今回は、奥様が一人で来所されたが、前回同様、緊張と疲れでご体調が優れない様子であった。相談が終わり、控えのソファーで相談員と再度ふり返りを行う。相談の緊張がほぐれ、少し落ち着いた様子がうかがえる。お茶はハーブティーを勧めた。雑談の中で、初回の来所の折に、ご主人が奥様を気づかっていたことにふれ、「優しい方ですね。」と言った途端、恥ずかしさもあったと思うが、顔色が明るくなり、和やかな表情になった。それから、お喋りに花がさいた。ハーブティーをおいしそうに召し上がる姿を拝見し、相談員もホッと嬉しくなった。帰りには、「事件後、ゆっくりお茶を飲むこともなかったので、久しぶりに少し癒された。」と言われ、病院に向われた。

被害者支援に携わる人たちにとっては、被害者からのお礼の言葉や少しずつ回復していく姿が何よりのご褒美になり、励みになる。

〈金曜日〉

広報活動を実施。県民講座の講師としてベテラン相談員が招聘され、200名の一般の方の前で被害者支援の必要性、被害者への理解を広めていただくために、講義が実施される。一般の方へ広報をし、多くの方に理解をしていただくための働きかけも、私たちの大切な活動の一つである。

これは被害者支援センターの活動のほんの一部をあらわしたものですが、少しはイメージしていただけたでしょうか。支援センターの相談員は辛いお話に、時には打ちのめされそうになりながらも、被害者が少しずつ回復されていく様子に元気づけられて活動に取り組んでいます。

まだまだ社会に十分に認知されているとは言い難いですが、誰もが被害者になり得る社会で、民間被害者支援団体の存在は社会にとっても不可欠なものであると考えています。

4 民間団体における課題と今後の取組

民間団体においては、関係機関・団体との連携により、中長期的な視点に立って、きめ細やかで総合的な支援を行うことができ、基本法や基本計画においても、その役割の重要性が示されています。

一方で、民間団体においては、人材面や財政面で様々な困難を抱えており、地域によって支援の内容や質がまちまちであることが指摘されています。

そうした現状を踏まえ、「支援のための連携に関する検討会」や「民間団体への援助に関する検討会」においては、検討課題の一つとして、民間団体への援助の充実を取り上げ、検討を重ねてきました。

平成20年度、内閣府においては、上記検討会の最終取りまとめに基づき、民間被害者支援団体における支援者を対象とした研修カリキュラムのモデル案を作成し、提供しています。モデル案では、支援者の知識や経験に応じて5段階に分類し、それぞれどのような役割が期待されるのか、その役割を果たすためにはどのような能力が必要か、そうした能力を育成するためには、どのような研修が必要か、といった内容が提案されています。

モデル案は、民間団体の方のこれまでの経験や知識などに基づいて作成されたものですが、実際に研修が実施される中で、犯罪被害者等のニーズや各団体の実情に即したものに改訂が重ねられていくべきものです。

今後、各団体において、本モデル案を参考とし、実際に研修カリキュラムが作成され、全国どこでも一定のレベル以上の支援が確保されることが望まれます。そのためには、民間団体における努力はもちろんですが、地域における援助、協力が不可欠です。内閣府においては、より多くの方に被害者支援の重要性を理解していただき、一人ひとりができる形で被害者支援に参加していただけるよう、引き続き広報啓発の充実に努めてまいります。

▼〈特定非営利活動法人全国被害者支援ネットワークの活動〉
〈特定非営利活動法人全国被害者支援ネットワークの活動〉の写真
出典:特定非営利法人全国被害者支援ネットワークパンフレット

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