第1節 我が国の犯罪被害者等施策の経緯等

(1) 犯罪被害者等基本法制定以前の取組

第二次世界大戦後の我が国における犯罪被害者等のための施策としては、「自動車損害賠償保障法」の制定、証人威迫罪の新設などが挙げられるが、これらは、犯罪被害者等のための施策という側面はあるものの、運輸施策、治安対策といった性格のものであった。

昭和55年、いわゆる三菱重工ビル爆破事件(49年)がきっかけとなり、公的な経済支援制度の確立を求める声が高まったことを受け、「犯罪被害者等給付金支給法」が制定された。同法によって創設された犯罪被害給付制度は、通り魔殺人などの故意の犯罪行為の被害者等に対して、給付金を支給することによって、犯罪被害者等の精神的、経済的打撃の緩和を図ろうとするものであり、本制度は、「犯罪被害者等のため」という視点を正面に据えた初めての施策であった。また、国際的にも、被害者支援を求める声が高まっており、60年には、国連総会において「犯罪及び権力濫用の被害者のための司法の基本原則宣言」が採択された。

平成に入ると、様々な被害者支援の動きが活発化してきた。平成8年には、警察庁が被害者対策要綱を策定し、被害者対策が警察の本来の業務であることが明確にされた。11年には、検察庁において、裁判結果などを犯罪被害者等に対して通知する、被害者等通知制度が導入され、また、政府に「犯罪被害者対策関係省庁連絡会議」が設置された。同連絡会議は、12年、「犯罪被害者対策関係省庁連絡会議報告書~犯罪被害と当面の犯罪被害者対策について~」を取りまとめた。さらには、同年、いわゆる「犯罪被害者等保護二法」が制定され、刑事手続における被害の回復に役立つ措置の導入が図られた。13年には、「犯罪被害者等給付金支給法」の改正により、犯罪被害給付制度が拡充され、犯罪被害者等早期援助団体の指定が新設された。

以上のような施策の展開は、犯罪被害者等から一定の評価を得たが、犯罪被害者等が求める総合的な取組とはなお隔たりがあった。


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