COLUMN

改正「犯罪被害者支援法」(「犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律」)について


【経緯】

基本計画において、検討を要する施策の中で、

○ 犯罪被害者等に対する経済的支援を手厚くするための制度

○ 必要な支援等を途切れることなく受けることのできる体制作り

○ 民間被害者支援団体に対する援助の在り方

などについては、3つの検討会(「経済的支援に関する検討会」、「支援のための連携に関する検討会」、「民間団体への援助に関する検討会」)において検討が行われ、平成19年11月に「最終取りまとめ」が決定されました。

警察庁においては、この「最終取りまとめ」に従った施策を実施するために、犯罪被害給付制度の拡充、犯罪被害者等に対する支援を行う民間団体の自主的な活動の促進、犯罪被害者等の支援に関する広報啓発活動の推進などを図るための所要の規定を整備する「犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律の一部を改正する法律案」を立案しました。同法案は、第169回通常国会に提出され、衆・参両院ともに全会一致で可決、成立(同20年4月11日成立、同18日公布)し、法律の改正に伴う関係政令なども整備され、同年7月1日から施行されています。

ここでは、今回の改正の概要について、述べていきます。


【法律の題名と目的規定の改正】

改正前の法律の題名は、「犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律」でしたが、この題名については、犯罪被害者等給付金(以下「給付金」という。)を支給する目的が明確でないため、給付金が恩恵的なものであるとの誤解を与えるとの指摘があり、「経済的支援に関する検討会」においても、犯罪被害給付制度の趣旨を反映した題名に改めるべきであるとされました。そこで、犯罪被害者等を支援するという給付金の目的を明らかにするために、法律の題名を「犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律」(略称「犯罪被害者支援法」)に改めました。

また、改正前の法律の目的は、犯罪被害者やその遺族が受けた「犯罪被害等の早期の軽減に資すること」とされていましたが、基本法では、被害の軽減だけでなく、「犯罪被害者等が再び平穏な生活を営むことができるよう支援すること」についても、犯罪被害者等のための施策の基本理念とされているところであり、「経済的支援に関する検討会」においても、この基本理念に立脚して犯罪被害給付制度を拡充すべきであるとされました。そこで、法律の目的に「犯罪被害者等が再び平穏な生活を営むことができるよう支援すること」を追加しました。


【犯罪被害給付制度の拡充】

〈休業損害を考慮した重傷病給付金の額の加算〉

犯罪被害給付制度においては、加療1月以上かつ入院3日以上の重傷病を負った犯罪被害者に重傷病給付金を支給していますが、改正前の法律では、この重傷病給付金の額は、保険診療による医療費の自己負担相当額とされていました。

しかし、重傷病を負った犯罪被害者には、その療養のため休業を余儀なくされ、その結果、収入が減少する者もいることから、「経済的支援に関する検討会」において、こうした方に対しては、「自賠責の傷害事故に係る支払額の上限を参考として、新たに休業損害を考慮した一定の支給を行うことを検討すべきである」とされました。

そこで、重傷病の療養のため休業を余儀なくされた犯罪被害者に対しては、政令で定める額(120万円)を上限として、保険診療の自己負担相当額に、収入を得ることができない日数や減少した収入の額を勘案した額を加算した金額を、重傷病給付金として支給することとしました。


〈給付金の申請期間の特例の創設〉

改正前の法律では、給付金の申請は、犯罪行為による死亡などの被害の発生を申請者が知った日から2年を経過したとき、又は当該犯罪被害が発生した日から7年を経過したときは、することができないとされ、この期間の定めは、例外がないものとされていました。

しかしながら、犯罪被害者等の責めに帰することができない、やむを得ない理由のために期間内に申請を行うことができなかった場合についても、一律にこの申請期間の定めを理由として給付金が支給されないのは犯罪被害者等に酷であるとして、「経済的支援に関する検討会」において、「現行の犯罪被害給付制度の申請期間(2年、7年)を維持しつつ、やむを得ない事情で申請ができなかった場合に特例的に申請を認めることができるよう、制度の見直しを検討すべきである」とされました。

そこで、例えば、加害者により身体の自由を不当に拘束されていた場合など、やむを得ない理由により所定の申請期間を経過する前に給付金の申請をすることができなかったときは、2年、7年という期限が過ぎていたとしても、その理由がやんだ日から6月以内に限り、例外的に申請をすることができることとしました。


〈「生計維持関係のある遺族に対する遺族給付金」と「重度後遺障害者に対する障害給付金」の引上げ(政令事項)〉

「経済的支援に関する検討会」においては、犯罪被害給付制度に関し、「特に深刻な状況に置かれた犯罪被害者等に重点を置きつつ、給付水準の抜本的な引上げを図るべきである」として、遺族給付金や障害給付金の給付水準を引き上げるべきとされました。

具体的には、遺族給付金については、「被害者の被扶養家族である遺族に対する遺族給付金について、その経済的打撃が大きいことから、特に扶養家族の数など負担の大きさにも十分な配慮を加えつつ、引上げを図るべき」とされました。また、障害給付金については、「その稼働能力の喪失、減退の程度等を考慮し、重度後遺障害者を対象とする障害給付金について、重点的な引上げを行うべき」とされ、その場合、平均収入が低い若年層の給付水準が不当に低額となることがないよう特に配慮が必要であるとされました。そして、これらの引上げの水準については、その最高額について、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責」という。)並の金額に近づけるよう努め、最低額についても引上げを図るべきとされました。

そこで、遺族給付金については、生計維持関係のある遺族の数に応じて給付金の額を定めることとした上で、その最高額を約1,600万円から自賠責並の約3,000万円まで引き上げるなど、「生計維持関係のある遺族に対する遺族給付金」の最高額を抜本的に引き上げました。また、障害給付金については、障害等級第1級に該当し、常に介護を要する状態にある犯罪被害者に対する障害給付金の最高額を約1,800万円から自賠責並の約4,000万円まで引き上げるなど、障害等級第1級から第3級までに該当する「重度後遺障害者に対する障害給付金」の最高額を抜本的に引き上げました。

さらに、最低額についても引き上げ、特に、平均収入が低い30歳未満の犯罪被害者の場合には、大幅な引上げを図りました。

これらの改正は、給付金の算定に用いる給付基礎額と倍数の改定により実施できる事項であることから、政令の改正により実現が図られました。


【犯罪被害者等に支援を行う民間団体の活動の促進】

犯罪被害者等への早期援助には、警察だけでなく、民間被害者支援団体が重要な役割を果たしています。

しかし、現状では、各団体の活動の内容や質にばらつきが見られ、「支援のための連携に関する検討会」においても、民間被害者支援団体全体の全国的な事業水準の向上と均質性の確保を図る必要が指摘され、そのために、支援に当たる者の研修等に関して、国や地方公共団体が、民間被害者支援団体やその全国的傘団体である全国被害者支援ネットワーク(注)に対して援助を行うべきであるとされました。

そこで、都道府県公安委員会が、犯罪被害者等に対する支援を行う民間団体の自主的な活動を促進するため、こうした民間被害者支援団体に対し、必要な助言、指導などの措置を講ずるように努めなければならないこととしました。

また、この都道府県公安委員会による助言、指導などの措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため、国家公安委員会が、当該助言、指導などの措置に関する統一的な指針を策定することとしました。

さらに、国家公安委員会は、民間被害者支援団体全体の全国的な事業水準の向上と均質性の確保を図るため、民間被害者支援団体が組織する団体であり、民間被害者支援団体で支援に当たる者の研修や民間被害者支援団体相互間の情報交換を行っている団体(全国被害者支援ネットワーク)に対し、必要な助言、指導などの措置を講ずるように努めなければならないこととしました。


(注)全国被害者支援ネットワークは、平成10年5月設立の民間被害者支援団体の全国組織であり(18年9月、特定非営利活動法人として認証されました)、被害者支援に関する協力や共助、情報の交換、教育や訓練、調査や研究、広報や啓発などの事業を行っており、20年10月1日現在、犯罪被害者等の支援を目的とする45団体が加盟しています。


【犯罪被害者等の支援に関する広報啓発活動の推進】

犯罪被害者等のための施策の推進のためには、国民の理解と協力が不可欠です。基本法において、国や地方公共団体は、犯罪被害者等が置かれている状況などについて、国民の理解を深めるよう必要な施策を講じなければならないこととされ、基本計画においても、犯罪被害者等の平穏な生活の回復を支援する上で、各種施策の実施と国民の理解・協力はまさに「車の両輪」であるとされています。

しかし、現状では、犯罪被害者等の支援に関する広報啓発活動は不十分で、地域ごとのばらつきも見られるところであり、「民間団体への援助に関する検討会」においても、民間被害者支援団体の活動の充実を図るためにも、国や地方公共団体は、犯罪被害者支援を促進する気運を醸成する役割を果たすべきであるとされました。

そこで、犯罪被害者等の支援全般についての意義や内容を周知し、犯罪被害者等の支援に対する理解や協力を求めるための広報啓発活動を全国的かつ効果的に推進するため、国家公安委員会、都道府県公安委員会、都道府県警察の本部長、警察署長は、それぞれの立場において、犯罪被害者等の支援に関する広報啓発活動を行うように努めなければならないこととしました。

すでに、一部の都道府県において、犯罪被害者やその遺族による講演や犯罪被害に遭った場合に得られる支援についての広報活動が行われていますが、こうした広報啓発活動が全国で行われることにより、社会全体で犯罪被害者等を支えようという気運が醸成されるとともに、犯罪に遭われた方が速やかに各支援にアクセスできるようになることが期待されます。


以上のとおり、今回の改正により、犯罪被害給付制度が抜本的に拡充され、また、民間被害者支援団体の自主的な活動を促進するための仕組みが整備されるなどしましたが、これらの施策により、法律の目的に反映された「犯罪被害者等が再び平穏な生活を営むことができるよう支援すること」までを視野に入れた犯罪被害者支援施策の一層の充実を図ることとしています。

犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律の一部を改正する法律(概要)の図

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