第2部 犯罪被害者等施策に関する基礎資料

3.犯罪被害者等基本計画



1.損害賠償の請求についての援助等(基本法第12条関係)

[現状認識]

 多くの犯罪被害者等は、思いがけない犯罪等により、生命を奪われ、身体を損なわれ、かけがえのない財産を奪われ、多大の損害を被り、経済的に困窮する。その損害の金銭的回復は、犯罪被害者等が自ら行う加害者の不法行為を原因とする損害賠償の請求にかかっている。また、損害賠償の請求は、犯罪被害者等にとって金銭的な回復を図るためのものであるが、これに加えて、当該犯罪等に係る事件の全容を把握し、犯罪被害者等の名誉を回復するとともに、加害者に謝罪や反省を求める機会としても重要な意味を有している。

 しかしながら、多くの犯罪被害者等にとって、損害賠償の請求によって加害者と対峙することは、犯罪等によって傷つき疲弊している精神に更なる負担を与えることにもなる。また、訴訟になると高い費用と多くの労力・時間を要すること、訴訟に関する知識がないこと、独力では証拠が十分に得られないこと、加害者の所在等の情報が不足していること、加害者に住所等を知られることへの恐れなど、犯罪被害者等は、損害賠償を請求する上で多くの困難に直面する。そのため、損害賠償の請求を躊躇する犯罪被害者等も少なくない。そして、そのような困難を乗り越えて訴訟で勝訴判決を受けても、加害者に賠償能力が欠如していたり、財産を隠されるなどして強制執行にも困難を来たすなど、損害回復の目的を果たせないことが相当多い。こうしたことから、現在の損害賠償制度が犯罪被害者等のために十分に機能しているとは言い難いとの指摘がある。

[基本法が求める基本的施策]

 基本法第12条は、国及び地方公共団体に対し、犯罪等による被害に係る損害賠償の請求の適切かつ円滑な実現を図るための施策として、

・犯罪被害者等の行う損害賠償の請求についての援助

・当該損害賠償の請求についてその被害に係る刑事に関する手続との有機的な連携を図るための制度の拡充

・その他の必要な施策

を講ずることとしている。

[犯罪被害者等の要望に係る施策]

 犯罪被害者団体等からは、

《1》 附帯私訴制度の導入

《2》 損害賠償命令制度の導入

《3》 損害賠償債務の国による立替払及び求償等

《4》 公費による弁護士選任

《5》 国による損害賠償請求費用(弁護士費用、刑事記録の謄写の費用、印紙代等)の補償等

《6》 日本司法支援センターの活用

《7》 その他損害賠償請求の実効性確保のための制度の整備等

《8》 その他損害賠償請求に関する援助

に関する種々の要望が寄せられている。

[今後講じていく施策]

(1) 損害賠償請求に関し刑事手続の成果を利用する制度を新たに導入する方向での検討及び施策の実施

 法務省において、附帯私訴、損害賠償命令、没収・追徴を利用した損害回復等、損害賠償の請求に関して刑事手続の成果を利用することにより、犯罪被害者等の労力を軽減し、簡易迅速な手続とすることのできる制度について、我が国にふさわしいものを新たに導入する方向で必要な検討を行い、2年以内を目途に結論を出し、その結論に従った施策を実施する。【法務省】

(2) 損害賠償債務の国による立替払及び求償等の是非に関する検討

 損害賠償債務の国による立替払及び求償等については、現行及び今後実施する損害賠償請求の適切・円滑な実現を図るための諸施策及び刑事に関する手続への参加の機会を拡充するための諸施策並びに犯罪被害者等の経済的負担軽減のための諸施策を踏まえ、更に必要かつ相当であるかを検討することとし、具体的には、犯罪被害者等に対する経済的支援制度に関して設置する検討のための会(第1、2.(3)参照)において、社会保障・福祉制度全体の中における犯罪被害者等に対する経済的支援制度のあるべき姿や財源と併せて検討する。【内閣府・警察庁・法務省・厚生労働省】

(3) 公費による弁護士選任、国による損害賠償費用の補償等の是非に関する検討

 公費による弁護士選任、国による損害賠償費用の補償等の是非について、犯罪被害者等に対する経済的支援制度に関して設置する検討のための会(第1、2.(3)参照)において、社会保障・福祉制度全体の中における犯罪被害者等に対する経済的支援制度のあるべき姿や財源と併せて検討する。【内閣府・警察庁・法務省・厚生労働省】

(4) 日本司法支援センターによる支援

ア 日本司法支援センターによる民事法律扶助制度の活用によって、弁護士費用及び損害賠償請求費用の負担軽減を図る。【法務省】(再掲:第3、1.(11)ア)

イ 日本司法支援センターにおいて、犯罪被害者等のために、その支援に精通した弁護士の紹介なども含めた様々な情報を速やかに提供する。【法務省】再掲:第3、1.(11)イ及び第4、1.(27)ア

ウ 日本司法支援センターの具体的な業務の在り方について、犯罪被害者等やその支援に携わる者の意見を踏まえて準備作業を進める。【法務省】再掲:第3、1.(11)ウ及び第4、1.(27)イ

エ 日本司法支援センターによる犯罪被害者等支援について、警察庁その他関係機関及び日本弁護士連合会等と十分な連携を図る。【法務省】再掲:第3、1.(11)エ及び第4、1.(27)ウ

オ 日本司法支援センターの機能及び犯罪被害者等支援に関する具体的情報を十分に周知させる。【法務省】再掲:第3、1.(11)オ及び第4、1.(27)エ

(5) 公判記録の閲覧・謄写の範囲拡大に向けた検討及び施策の実施

 法務省において、公判記録の閲覧・謄写の範囲を拡大する方向で検討を行い、2年以内を目途に結論を出し、その結論に従った施策を実施する。【法務省】(再掲:第3、1.(3)ア)

(6) 損害賠償請求制度に関する情報提供の充実

ア 損害賠償請求制度の概要その他犯罪被害者等の保護・支援のための制度について紹介した冊子・パンフレット等について、警察庁及び法務省において連携し、一層の内容の充実を図るとともに、十分に周知させる。【警察庁・法務省】(再掲:第4、1.(22))

イ 法務省において、犯罪被害者等の損害賠償請求に係る民事訴訟手続に関する情報の提供につき、説明資料の作成を含め検討し、早期に結論を出し、必要な施策を実施する。【法務省】(再掲:第4、1.(24))

(7) 刑事和解等の制度の周知

 法務省において、刑事和解、公判記録の閲覧・謄写、不起訴記録の弾力的開示等現行制度を周知徹底させる。【法務省】(再掲:第3、1.(3)イ及び(16)ア

(8) 保険金支払いの適正化等

ア 財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構における調停、国土交通省による保険会社に対する立入検査、国土交通大臣による適正な支払いを行うことの指示等により、自賠責保険金の支払いの適正化を図る。【国土交通省】

イ 金融庁において、「保険会社向けの総合的な監督指針」(平成17年8月12日策定)に基づき、各保険会社における保険金等支払管理態勢整備の状況について検証していく。【金融庁】

ウ 金融庁において、保険会社の検査・監督を行うに当たっては、苦情・相談として寄せられる情報を活用し、保険会社側に問題があると認められる業務・運営については、適切な対応をしていく。【金融庁】

エ 財団法人日弁連交通事故相談センターにおける弁護士による自賠責保険に係る自動車事故の損害賠償の支払いに関する無料の法律相談・示談斡旋等により、適切な損害賠償が受けられるよう支援を行う。【国土交通省】

オ 国土交通省において、ひき逃げや無保険車等の事故による被害者に対しては、政府保障事業において、本来の加害者に代わって、直接その損害をてん補することにより、適切な支援を行う。【国土交通省】

(9) 受刑者の作業報奨金を損害賠償に充当することを可能とする制度の十分な運用

 法務省において、刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律(平成17年法律第50号)における受刑中の者が作業報奨金を被害者に対する損害賠償に充当することを可能とする制度が十分に運用されるように努める。【法務省】

(10) 暴力団犯罪による被害の回復の支援

 暴力団犯罪の被害者については、警察において、都道府県暴力追放運動推進センターや各弁護士会の民事暴力対策委員会等とも連携しつつ、暴力団犯罪による被害の回復を支援する。【警察庁】



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