我が国における犯罪被害者等施策の経緯等 -年次報告書の第1回の作成に当たって-

第1章 基本法制定以前の取組



第3節  1990年代(平成8年ごろ)から基本法制定まで

1 被害者対策要綱の制定等

 1990年代に入ると、様々な被害者支援の動きが活発化してきた。

 平成8年2月1日、警察庁が「被害者対策要綱」を策定した。要綱においては、被害者対策が警察の本来の業務であり、警察は被害者を保護する立場にあることが明確化され、また、捜査過程におけるいわゆる二次的被害の軽減の重要性や被害者の人権に配意しその尊厳を傷つけることのないよう留意することが示された。また、被害者のニーズへの対応などが基本的留意事項とされた。

 平成11年4月には、検察庁において、全国統一の制度として被害者等通知制度が実施された。本制度においては、被害者等が希望するなどの場合に、事件の処理結果、公判期日、裁判結果等を、当該被害者等に対して通知するものである。

2 犯罪被害者対策関係省庁連絡会議

 平成11年11月、政府に「犯罪被害者対策関係省庁連絡会議」が設置された。関係省庁連絡会議では、関係省庁の密接な連携の下で、犯罪被害者対策に係る問題への対応が検討され、平成12年3月30日、「犯罪被害者対策関係省庁連絡会議報告書~犯罪被害と当面の犯罪被害者対策について~」がとりまとめられた。同報告書では、捜査等を担う警察庁、法務省、海上保安庁の施策のほか、労働省による就労あっせん、厚生省による心のケア、文部省による犯罪被害に遭った児童生徒の心のケア、自治省による地方公共団体の職員に対する啓発などの施策が掲げられた。また、同連絡会議において、これらの施策を関係省庁が一層強力に推進することが申し合わされた(注1)

(注1)省庁名は、平成12年3月当時。

3 いわゆる犯罪被害者等保護二法の制定

 平成12年5月12日、いわゆる犯罪被害者等保護二法として、刑事訴訟法及び検察審査会法の一部改正と犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律の制定が行われた。これらは刑事手続の中で犯罪被害者等の心情などに適切に配慮するとともに、その被害の回復に役立つ措置を導入することを内容とするものであり、証人への付添い、遮へい措置の導入、ビデオリンク方式の導入等の証人の負担の軽減、公判廷における被害者等の意見陳述、公判優先傍聴、公判記録の閲覧及び謄写などが定められた。また、同年11月には、少年法等の一部を改正する法律が成立し、少年保護事件に被害者等の申出による意見の聴取の制度などが導入された。

4 犯罪被害給付制度の拡充等

 平成13年4月6日、犯罪被害者等給付金支給法が改正され、法律の名称が「犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律」に改められた。本改正では、給付対象障害等級の拡大、重傷病給付金の新設、遺族給付金への医療費負担額の付加、給付金支給額の引上げが行われるとともに、警察本部長等の被害者等に対する援助措置(警視総監若しくは道府県警察本部長又は警察署長が、被害者等に対し、情報の提供、助言及び指導、警察職員の派遣その他の必要な援助に努める。)や犯罪被害者等早期援助団体の指定(一定の要件を満たす民間団体を犯罪被害者等早期援助団体に指定し、支援活動の促進を図る。)が新設された。このほか、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成11年5月成立)、ストーカー行為等の規制等に関する法律(平成12年5月成立)、児童虐待の防止等に関する法律(平成12年5月成立)、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(平成13年4月成立)など、従来の法律では対応が困難な場合に対する被害者保護のための法律が制定されている。このように、1990年代以降、精神的被害に着目した支援を含む総合的支援、情報提供の充実、刑事手続への関与の機会の拡充、関係省庁間の連携など、様々な施策と法整備が相次いで講じられ、犯罪被害者等のための施策は新たな分野に拡大し、飛躍的に展開が進んだ。

 以上のような施策の展開は、犯罪被害者等から一定の評価を得た一方で、その後も依然として犯罪被害者等に対する支援の不足が指摘され、刑事司法における犯罪被害者等が置かれている立場に対する不満が表明されるなど、更なる施策の進展が求められていた。このことは、時々の課題に対処するにとどまっていたともいえる政府のそれまでの取組と、犯罪被害者等が求める総合的な取組には隔たりがあり、従前の取組をそのまま進めるだけではこれを埋めることが困難であることも意味していた。



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