被害者等の方々の手記

 

 見えない犯罪者への恐怖

匿名希望

 私たち4人家族は、あの事件が起きるまでとても幸せに暮らしていました。

 私と妻と6歳の娘、3歳の息子、毎日バタバタとしていましたが、楽しかったと思い出があります。当時は賃貸アパートの3階に住んでおりました。駅から近くて、少し築年数が古いものの部屋が広い割に安くて、とてもいい物件だったと今考えても思います。

 ことの始まりは、6月のある夜9時くらいのことでした。突然、玄関の呼び鈴が鳴ったのでドアを開けると、寿司屋さんが立っていて「特上寿司、4人前お待たせしました!」と言われたのです。この寿司屋さんを以前に利用したことは全くなく、配達員は店長まで呼び出して、出前を頼んだ、頼まないともめたのですが、電話を受けた従業員が明らかに妻の声とは違うということを言ってくれたのでその場はなんとか収まりました。でも、これはほんの始まりにしか過ぎなかったのです。

 翌日、帰宅すると宅急便の不在票が入っており、妻に通販で化粧品を買い物したのかと尋ねると全く身に覚えがないということでした。この日はこの1個だけだったのですが、さらに翌日から1日に2~3個のペースで次々と身に覚えのないものばかりの通販で購入した、または資料請求、サンプルなどわずか2~3週間で段ボール2箱になってしまいました。帰宅すると、必ず宅急便の不在票があり、送り主を見て身に覚えがないものは電話を入れて再配達を断り、郵便受けに直接届いたものには、いちいち電話をしなければなりませんでした。いくつもいくつも送られてくるので、無視しようと思ったのですが中には「有料サンプル」もあり一定期間を過ぎると料金が発生するものも少なからずあったので、全部届いたものは開封しチェックして、その会社にいたずらで届けられたこと、サンプルを送り返すのか送り返さないのかなどを1つずつ、電話をかけて確認せねばならず、毎回腹が立つやら面倒になるやら、大変なんてものではありませんでした。この通販へのいたずらの合間にはピザや米の注文が、寿司同様に届けられました。

 また、私の職場には「レイプされたので訴えてやる」などの文書が送りつけられて、人事部に呼び出され厳重に注意を受けるなど、妻も私も頭がおかしくなる程でした。いったいどこのだれがやっているのか、最初は皆目見当がつかなかったのですが、こんな事件がさらに起きて身近に犯人がいることが疑わしくなってきました。当時、娘のために1冊と私が個人的な趣味で1冊、計2冊の雑誌を定期購読していたのですが、7月から届かなくなったのです。出版元に電話をして調べてもらったところ確かに配送していることが分かり、盗まれていることがわかったのです。これは共同の郵便受けに鍵をつけることで、防げるようになりました。さらに、住居のすぐ近くにたまたま路上駐車を深夜にしたところ、朝見ると車の周囲を3重にわたって傷をつけられたこともありました。日常的に路上駐車をしていたわけではなく、確かに路上駐車はいけないことでしたが、そこに止めても他の車の通行や駐車場の出入りなど全く支障がなかった場所でした。知り合いの自動車修理工場に塗装のために持っていくと、「確かに、いたずらで傷つけられる車は何台も見てきたけど、3重もしつこくやられたのは記憶にない。よほど他の車が通れないか、出られないような所に停めていたんじゃないの?」と聞かされました。この嫌がらせは約8ヶ月くらい続いたのですが、最後は、どうやって鍵のかかった郵便受けから盗みとったのか、やはり郵便物を盗まれ、それが切り刻まれてポストに返されたのをきっかけに、泣く泣く引っ越すことにしたのです。もちろん、引っ越すまでに大家さんや、賃貸管理会社、警察などに何度も足を運び相談しましたが、警察は「具体的な被害として認められない」、張り込みや監視カメラなどによる捜査は(この程度の案件では)できない。という回答だったため、実質的には何の抑止力にもならず、嫌がらせが引っ越すまで止まることはありませんでした。周囲の人達も、同情してくれていたものの何の助けにもならず(それは仕方のないことでしたが)、当時は自然と追い込まれた心理状態になっていたと思います。親しい人も明るく声を掛けてくれたものの、一度、会議が長引いて夕食の時間が遅くなったことが話題に出たときに、「都合良くまた、お寿司が配達されているかもしれませんよ」と言われたことが、非常に傷つきました。どんなに苦しんでいるのか、周囲の人間には分かってもらえないという孤独感に苛まれていたことには違いありませんでした。弁護士にも相談しましたが異口同音に「あまり例のないケースなので」と消極的な発言ばかりでした。私たちからの被害が認められないならと、毎度迷惑な思いを同じようにしている宅急便の業者にもかけあったのですが、やはり被害届けを出してはくれず、通販の会社もどこも同じ。公文書も盗まれているので送付元の役所にかけあっても、「送付した書類は発送した瞬間に郵便局の管轄になるので」と役所からも被害届けを出してもらえませんでした。

 結局、犯人の目星もついているのに、決定的な証拠も掴めずこの事件は解決しませんでた。私たち家族は、心の傷と予期していなかった引っ越しに伴う費用など、やられっぱなしで悔しくて怒りのもって行き場所もない事件でした。今も宅急便が届くたびにドキリとさせられるなど本当に、嫌なこととして私たち家族に暗い陰をずっと落とし続ける事件でした。

 

 

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