被害者等の方々の手記

 

 誰のための検察組織か

百瀬 まなみ

 2006年1月、電車内で痴漢被害に遭い、現行犯逮捕した。このときは特に悪質で、加害者は否認した挙句に走って逃げ出し、駅員が呆然としている中、それを自ら追い、飛び掛って再逮捕。その際に、膝に1ヶ月程度の負傷をした。これまでにも、1992年から1997年までの間に、通算で痴漢を4回現行犯逮捕し、警察に突き出したことがある。もちろん、それ以外に、逮捕に至らなかった被害は数え切れない。

 これらの経験を通して言えることだが、警察での事情聴取が済んだら、被害者は「はいそれまでよ」と放り出され、その後、どこからも連絡が来ない、という構造にはがまんができない。今では重大事件については被害者への連絡も密になっており、付帯私訴制度など、さまざまな形で被害者の刑事裁判への参加が進められているが、痴漢のような軽犯罪についても、ある程度の配慮はしてもらいたい。

 3年前の事件当時、私は法科大学院に通っており、予備知識があったため、教授に相談したり、自分からあちこち連絡をして動いたりすることができたが、それまでの4回の逮捕では、何も賠償を受けられずに終わっていた。同様に、法的な知識を持たない人は次に何をすべきかがわからず、被害賠償的には泣き寝入りしてしまうことも多いと思う。「民事損害賠償手続の手引き」「検察庁への問い合わせ方法」といった簡単な案内を警察でもれなく渡すくらいのことはしてもいいのではないか。

 その後、加害者の連絡先を調べるために検察庁に連絡をしたときの対応は、特にひどいものだった。事件の年月日と加害者の氏名を告げると、「加害者の生年月日を教えてください」と言われた。相手の氏名ならともかく、警察署でそんなことまで控えてくる余裕のある被害者はまずいない。まだ担当検事が決まらないとのことで、日を改めた二度目の電話でもそう聞かれたので、「では、次に問い合わせするときのために、こちらにも生年月日を教えてください」と言ったら、「それは教えられない」と断られた。

 何度も電話を入れた挙句にやっと連絡のついた担当検事に加害者の住所電話番号等を聞こうとしたら「そういうのは書面で申し入れてください」「ファックスではだめですか」「普通、こういうものは郵便で送るものでしょ」「では、書面の見本はどこにありますか?」「ありません」という対応で、心底腹が立った。検察庁のサイトにも、こういう場合の具体的な案内はまったく示されていない。電話で問い合わせるとこのありさまである。そして、加害者はとっくに釈放されていた。同じ沿線を利用しているのである。相手がすでに社会に出ていると知り、不安に襲われた。

 なぜ被害者がこうまで粗末にされなければならないのか。そして、検事から職員に至るまで、こんな、木で鼻をくくったような態度が許されるのだろうか。自分たちにとっては繰り返される日常的な事務処理かもしれないが、被害者が検察庁などに連絡をするのは、一生に一度、というのが普通である。内気な被害者ならば、この問い合わせ中に気落ちしてしまうかもしれない。

 検察庁の職員教育からやり直さないと、日本の司法は決してよくならない。

 

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