第5章 被害者等の方々の手記

 本調査にあたり、調査結果の報告と併せて掲載する手記をパネル調査対象者及びWeb調査対象者(被害者等のみ)に募集したところ11通のご応募をいただいた。頁数の関係から、報告書自体への掲載は限定せざるを得なかったが、その他の方々の手記については、ご了解を得た上で、内閣府ホームページ上に掲載することとした。

 

 犯罪被害者と言われた中で

薫翔

 「いってきます。」 いつも変わらぬ優しい笑顔、元気に出かけた後姿。愛する我が子は、言葉なく冷たい身体で私の所へ帰ってきた。

 ある日突然、私は犯罪被害者となった。

 犯罪被害者になるという事は、

・この世で一番大切な物を失くす事
・今までの普通の生活には戻れない事
・心、身体の全ての機能が止まる事
・光のない暗闇の中で見えないものと闘う事
・風評により転居、素性を隠した生活をする事
・今を生きるのがつらく、常に死を願う事
・人間不信になる事
・不眠や精神安定の薬依存となる事

 その他、沢山の試練を背負い、加害者以上に苦しい生活を強いられる。誰も守ってくれない自分との戦いである。

 そして、人間はこんなに涙を流しても生きていけると身体で感じ、悔し涙、悲しい涙を流した分強くなった自分を心で感じた。そう思えた時、こんな思いは自分だけでよい、今、自分ができる事を悔いなく死ぬ気で頑張ろうと、天国の我が子が誇れる母でありたいとその想いだけで官庁聴取、裁判で我が子の正当性と無念、家族の想いを訴えた。世の中に被害者支援という言葉が出始めの頃、世の中や人を信じる事ができなくなった私の孤独な戦い。同じ人間だから必ず真実は一つであると信じた母の執念は伝わった。これが、再生への第一歩となった。世の中に色々な立場の人がいて、色々な思いを持って生きている事を身を持って知った時、自分にできる事はないだろうか? 生命(いのち)をつなぐ為に考えた。

 幸いにして、私の戦いに関わった官公庁の方々、救急医療従事者は改めて己の仕事を見直し被害者支援や対応について考え、今の仕事に活かしてくれている。私が身近な人にも訴えている犯罪被害者支援に必要な事、「信頼性の構築」、月日の経過を問わず記念日や命日等のアニバーサリ反応やPTSDで心や身体が一進一退する事を周囲が理解し見守る、「心のバリアフリー」、目まぐるしく変化する社会情勢に伴い多様化し凶悪化する犯罪を防止する事は勿論、被害者支援も常に最新万全の体制で対応できる様な「国家対策」。

 自分にできる事からと「交通事故現場看板設置の見直し」を訴えました。生活圏内で発生する交通死亡事故、未だに現場近くを通れず遠回りする被害者関係者や胸を痛めて体調不良を起こす子供達がいる事を知り、過剰な旗、過大で無神経な看板及び設置場所を再考して欲しいと警察・自治体に訴えたところ、被害者の目線で考えた事は一度もなかったと注意喚起方法を再考すると看板撤去となりました。

 そして今、被害者支援養成講座に参加し時間がかかっても、知識だけでない真の支援員を目指しています。その想いをここに記しています。失くした物は沢山あるけれど、これからの人生より多くの喜びを引きよせると信じて、今まで見守ってくれた沢山の人への感謝の気持ちを忘れずに進みたいと思います。

 

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