はじめに

中央大学 椎橋隆幸

 本調査は、犯罪被害者等基本計画(第4 2.調査研究の推進等(3)及び第5 1.国民の理解の増進(14))に基づき、被害類型別、被害者との関係別に、犯罪被害者等の置かれた状況について継続的な調査を実施し、時間の経過に伴う当該状況の経過等を把握・分析することを目的とする。

 本調査では、大きく2種類の調査を実施した。1つは、被害者支援団体を通じて実施するパネル調査(同一人物への継続調査。本年度は2年目)であり、もう1つは、モニターを利用したWeb調査(単年度調査)である。なお、Web調査では、過去10年間に深刻な犯罪被害にあわれていない「一般対象者」に対しても、健康上の問題や精神的な問題について被害者と比較するために調査を実施した。

 以下に本調査結果の重要なポイントを示すこととする。

 (1) 両調査ともに、過去30日間に健康上の問題あるいは精神的な問題や悩みがあったとする人の割合が多い。特に、一般対象者への調査結果と比較して、精神的な問題や悩みがあったとする人の割合が多くなっている(一般対象者の39%に対し、パネル調査では、殺人・傷害等の被害者等で79%、交通事故の被害者等で83%、性犯罪の被害者等で88%、また、Web調査では、殺人・傷害等の被害者等で60%、交通事故の被害者等で44%、性犯罪の被害者等で68%の人が過去30日間で精神的な問題や悩みがあったとしている)。また、客観的な精神健康状態の指標である「K6」をみると、重症精神障害の診断に該当する可能性が高い人の割合が一般対象者では6%なのに対して、パネル調査では、殺人・傷害等の被害者等で31%、交通事故の被害者等で45%、性犯罪の被害者等で38%、また、Web調査では、殺人・傷害等の被害者等で23%、交通事故の被害者等で13%、性犯罪の被害者等で36%とその割合が多くなっている。

 (2) パネル調査では、昨年に引き続き同じ対象者に対して調査を行っていることもあり、事件からの経過年数は、約5年以上と比較的長い。にもかかわらず、たとえば、「K6」の平均合計値が、殺人・傷害等の被害者等で昨年10.9点から今年10.4点、交通事故の被害者で16.3点から13.0点、性犯罪の被害者で13.6点から10.9点などと、健康状態や精神健康状態に対する設問のいずれの回答をみても、昨年度に比べ対象者はやや回復傾向にあることが見受けられる。事件からある一定年数経過した後も、被害者等の身体的、精神的健康状態は回復に向かう余地があることがわかる。

 (3) 各支援及び制度について、パネル調査では継続調査ということもあり、この1年間に利用したものを尋ねている。そのため、支援や制度の利用率は総じて低いものとなった。その中で、いずれの類型においても比較的利用率の高かったのは、「自助グループへの参加」(殺人・傷害等の被害者等で46%、交通事故の被害者等で56%)である。その他利用率の高かったのは、警察による加害者に関する情報の提供(殺人・傷害等で21%、交通事故で13%)、地域警察官による被害者訪問・連絡活動(殺人・傷害等で21%)、警察による相談・カウンセリング(殺人・傷害等で13%、交通事故で11%)となっている。Web調査では、事件から調査時点までを「事件から1年以内」と「事件から1年以降」とに分けて尋ねている。Web調査においても、支援や制度の利用率は総じて低いものとなっているが、事件から1年以内に利用されるものが多く、中でも利用率の高いのは、警察による事件発生直後からの付添い(殺人・傷害等で17%、交通事故で12%、性犯罪で18%)と加害者に関する情報の提供(殺人・傷害等で11%、交通事故で9%、性犯罪で21%)である。

 (4) 今後実現・充実させていくことが望ましい施策については、昨年度調査結果と全体的な傾向として大きな違いはなく、被害類型にかかわらず犯罪被害者等に対する加害者の情報提供の拡充(パネル調査:殺人・傷害等で40%、交通事故で64%; Web調査:殺人・傷害等で28%、交通事故で17%、性犯罪で34%)、民事損害賠償請求への援助(パネル調査:殺人・傷害等で42%、交通事故で41%; Web調査:殺人・傷害等で20%、交通事故で25%、性犯罪で18%)、PTSD等重度ストレス反応の治療専門家の養成等の充実(パネル調査:殺人・傷害等で17%、交通事故で35%; Web調査:殺人・傷害等で31%、交通事故で16%、性犯罪で27%)を望む声が強い。また、犯罪被害者等に対する給付制度の充実(パネル調査:殺人・傷害等で50%)、司法・行政機関員の理解・配慮の増進(パネル調査:交通事故で35%)、報道機関からのプライバシーの保護(Web調査:殺人・傷害等で22%、性犯罪で25%)、日常家事や同居家族の世話の補助、病院等への付き添い等(Web調査:交通事故で28%)、青少年に対する犯罪被害者等に関する教育(Web調査:性犯罪で25%)等も、被害類型によってはその充実を望む声が強くなっている。

 最後に、本調査が犯罪被害者等の状況を改善するために役立つ資料となることを願うと同時に、今後も本調査を継続して行い、被害者の置かれた状況やニーズをより正確に把握し、分析することと、被害者のための各施策が被害者にもたらす効果の測定を行う作業が欠かせないと思われる。

 

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