コラム

犯罪被害者等と刑事手続 (同志社大学教授 奥村 正雄)

 前回調査は、平成16年12月に「犯罪被害者等基本法」(以下、「基本法」という)が制定され、その翌年12月に同法に基づき、政府が総合的かつ長期的に講ずるべき犯罪被害者等に対する施策大綱を定めた「犯罪被害者等基本計画」が策定された直後に実施された。当時は、政府の犯罪被害者等基本計画に盛り込まれた重点課題に係わる具体的な犯罪被害者対策や法整備を図り始めた頃であり、マスコミ報道等により犯罪被害者等に対する支援問題への関心が国民一般に高まり始めた段階であった。これに対し、今回の調査は、被害者参加制度等の重点課題に関わる施策が具体化され、改正法が施行され始めた段階に実施されている。もっとも、これらの具体的施策は始まったばかりであり、今回調査の段階では被害者参加制度のようにまだ施行されていなかった制度も少なくない。それゆえ、調査では、各種施策や法整備に対するイメージの浸透度と、捜査や裁判など従来からの犯罪被害者等の刑事手続への関わりに対する認識について問うことになる。以下では、犯罪被害者等と刑事手続に関わる領域のアンケート結果を見て、以下の3点につき、印象を記しておこう。

 第1に、犯罪被害給付制度、基本法、法テラス、被害者参加制度等の犯罪被害関連用語の認知状況について、国民一般の認知度は犯罪被害給付制度(35.3%)を除いて、後の3つは過半数が「初めて聞いた」と回答し、年齢別に見ると被害者参加制度は高年齢層の認知度が高い反面、年齢が下がるにつれて認知度が低下している。施行後30年経っている犯罪被害給付制度でも3分の1は全く認識がないことから見て、後の3つの認知度が低いのはやむを得ないかもしれない。しかし、犯罪被害者等の支援問題と直接の関わりのない裁判員制度の認知度が「説明できる」と「意味がわかる」を合わせ8割を超えているのと比較して、後の3つの認知度が20%以下という数値は、国民一般が自ら直接関わる可能性のある制度への関心か否かという点を考慮しても、やや低いようにも思われる。もっとも、被害者支援に肯定的な考えを持つ人は裁判員制度の認知度が高いという結果から見て、前者に関心のある人ならば後者にも関心があるとはいえよう。

 第2に、被害遭遇後の二次被害については、比較的低くなっており、経年変化はあまりないが、罪種別では少し特徴がある。交通犯罪の被害者等が「捜査の過程で配慮に欠ける対応をされる」点につき「あまりあてはまらない」に近い回答が多く経年変化がない。これに対し、殺人・傷害等の暴力犯罪では前回の「どちらともいえない」という回答から今回は0.5ポイント「あまりあてはまらない」の方に数値が上がっており、捜査過程での二次被害の減少傾向がより進んでいるという理解が可能であろうか。

 第3に、事件解決や真相解明への協力義務について、少し特徴が見られる。警察や捜査への協力や裁判への出廷について、「どんな負担があっても」、「ある程度負担があっても」行うべきであると考える国民一般が80%前後であり、罪種間の顕著な差異もなく経年変化が見られない。犯罪被害者等も、その過半数は協力義務があると回答し経年変化が見られない。ただ、国民一般の方が犯罪被害者等よりも協力への義務感を強く評価する傾向が見られる。注目すべき点は、性犯罪被害者等では前回調査よりも協力義務があるとの回答が捜査につき約4.5%、出廷につき約9%減少し、反対に協力義務がないとの回答が捜査につき約5%、出廷につき約6%増加していることである。このことは、刑事司法関係者による性犯罪被害への対応が他の罪種以上に困難であり、一層の配慮の必要性があることを物語っているように思われる。