4.国民一般がイメージする犯罪被害者像と実態のギャップ

(1)国民一般のイメージと実態のギャップ

犯罪被害者等の心情を国民一般がどのように理解しているかについては第2章で述べた。一方、犯罪被害者等は実際にどのような心情であったかについては第3章で述べた。本章では国民一般の理解が犯罪被害者等の心情とかなりの程度に重なっているのか、それとも両者には隔たりがあるのかを明らかにしたい。図4-1から読み取れることは、項目によって国民の方が犯罪被害者等より積極的に肯定していることである。「不安を抱えている」、「精神が不安定になっている」、「体調を崩している」、「加害者に恐怖心をもっている」などにおいては、国民一般の方が深刻に捉えている。

 国民一般は「犯罪被害」というメディアで報道されるような被害をイメージし、犯罪被害者等を自分とはかけ離れた打ちひしがれた存在と捉えている。

犯罪被害者等の心境や状況 <国民一般と犯罪被害者等>

図4-1:犯罪被害者等の心境や状況 <国民一般と犯罪被害者等>

 犯罪被害者等が置かれている状況について、国民一般の理解はどの程度犯罪被害者等の実際の状況を把握しているだろうか。図4-2から読み取れることは総体的に見て国民一般の方が犯罪被害者等の置かれている状況に対して深刻な状態にあると思っているようである。犯罪被害者等は自身の状況を国民一般が思うほどには重く捉えていない。これも、国民一般が犯罪被害者等の状況を知る機会がないためにやや深刻に捉えているとも考えられる。

 項目によっては国民一般と犯罪被害者等の間のギャップがかなり大きいことがわかる。犯罪被害者等が置かれている状況については第3章で述べたが、2年前の平成18年度と大きく変わっていない。国民一般との差が大きいのは、犯罪被害者等の多くは経験の有無によって「あてはまる」、「あてはまらない」を選択し、回答しているのに対して、国民一般は犯罪被害者等に抱く「イメージ」によって回答しているためと考えられる。

犯罪被害者等が置かれている状況 <国民一般と犯罪被害者等>

図4-2:犯罪被害者等が置かれている状況 <国民一般と犯罪被害者等>

 犯罪被害の傷が回復されるためには長い年月が必要となるが、その過程に多少なりとも影響を与え、回復を促進する上で有効であると考える項目を尋ねたものが問28(国民一般では問25)である。「加害者の適正な処罰」は犯罪被害者等の約65%が有効だとしているのに対して、国民一般はそれ程ではない。逆に「カウンセリング」は、国民一般の半数近い人たちが有効であると思っているが、犯罪被害者等はそれ程ではない。「地域の人々の理解・協力」も国民一般が思うほど有効なものではないようである。「同じような体験をした被害者同士が語り合う機会」は、犯罪被害者等にとっては回復にそれ程有効でないと考えられている。逆に犯罪被害者等にとって国民一般が想像する以上に有効であるとするものは、「加害者からの謝罪」、「加害者の被害弁償」、「加害者や事件についての情報提供」などである。「裁判に参加して被告の刑について意見を言う」は、制度として導入されたばかりであるが、犯罪被害者等の半数近くの人がその有効性を肯定していることは注目される。「加害者の被害弁償」、「加害者からの謝罪」は国民一般が思っている以上に犯罪被害者等にとって回復につながる事柄であることがわかる。これをマトリックスにし、平成18年度との比較をしたものが図4-4である。

犯罪被害回復に有効な処置 <国民一般と犯罪被害者等>

図4-3:犯罪被害回復に有効な処置 <国民一般と犯罪被害者等>

「犯罪被害回復に有効な処置」散布図 <国民一般と犯罪被害者等、年度別>

図4-4:「犯罪被害回復に有効な処置」散布図 <国民一般と犯罪被害者等、年度別>【平成20年度】
図4-4:「犯罪被害回復に有効な処置」散布図 <国民一般と犯罪被害者等、年度別>【平成18年度】

 回復につながると思う事柄も、国民一般と犯罪被害者等の間ではずれが見られる。全体的に、犯罪被害者等が回復につながる項目だと肯定することは国民一般が思っているよりははるかに慎重であり、逆に回復につながらないとする項目が目立つ。犯罪被害者等の回復は想像するほど簡単ではないということを示している。またはこれらの項目にないようなものを犯罪被害者等は期待している可能性も推察される。

犯罪被害回復に有効な処置 <国民一般と犯罪被害者等>

図4-5:犯罪被害回復に有効な処置 <国民一般と犯罪被害者等>

 国民一般と犯罪被害者等で大きく異なることは、犯罪被害者等は時間の経過があっても、必要とする支援の内容には大きな変化はなく、また変化のあるそれらの項目は国民一般では必要度が比較的低いとイメージされているものが多い。

 国民一般では、半年程度経過後は、「日常的な話し相手」や「精神的な自立への支援」など精神的な面での支援に目がいきがちである。

 犯罪被害者等は、国民一般がイメージする苦悩より、もっと現実的な日常の生活や事件の対処など、国民一般にはなかなか見えてこないことで苦悩している。「そっとしてほしい」と感じさせつつも、そのような現実的な生活支援などを必要としていると思われる。

犯罪被害回復に有効な処置 <国民一般と犯罪被害者等>

図4-6:犯罪被害回復に有効な処置 <国民一般と犯罪被害者等>

事件解決・真相究明への義務として行うべき内容 <国民一般と犯罪被害者等>

 国民一般の「警察・検察の捜査への協力」と「裁判への出廷」では、「どんな負担があっても行うべきだと思う」と「ある程度負担があっても行うべきだと思う」を合わせた「肯定計」が80%を超えている一方、「報道の取材への協力」は13%にとどまった。

 同様の傾向は犯罪被害者等においても見られ、「警察・検察の捜査への協力」の「肯定計」は72%、「裁判への出廷」の「肯定計」は64%だったのに対して、「報道の取材への協力」は15%であった。

図4-7:事件解決・真相究明への義務として行うべき内容 <国民一般と犯罪被害者等>