3.インタビュー調査結果の整理・分析

3-5.施策を進める上での課題

(1)地域住民の理解と協力の確保

 当該施策を進めていくにあたっては住民の理解が不可欠であり、その協力がなければ行政の対応だけでは限界があることから、今後どのように広報啓発を行いながら住民を巻き込んでいくのか、インタビュー調査の結果からもその重要性が窺えた。

(具体的な事例)
  • まだまだ住民の意識は低いことから、これから広報啓発に注力しなければならない(熊本県など)。
  • 今後も住民への理解を求めるために、様々な機会や媒体を活用し広報啓発活動を行っていく。また、犯罪被害者支援員と共に新たな取組を行っていく(東京都杉並区)。

(2)地域の諸条件を踏まえた支援・連携協力のあり方

 犯罪の発生件数や地域での被害者等支援に活用できる社会的資源の多寡、人口規模などは様々であり、こうした諸条件を踏まえたうえで、各地域で途切れのない支援体制を築くことが重要である。

[1] 窓口における支援のあり方

 窓口を開設し、相談や付添いなどの支援実績を着実に上げている都市部の地方公共団体もある一方、窓口を開設しても相談件数が少なかったり、直接被害者支援とは無関係な内容の相談が多かったりするなど、当初の想定と異なる状況が生じている事例も見られた。また、被害者等のニーズの少なさを市区町村レベルで窓口設置が進まない理由として挙げる声も聴かれた。

 その一方で、専用窓口を設置したものの被害者等に対応できるだけの人材の確保が出来ておらず、実際に来訪があった時に適切な対応ができるか不安だとの声も聴かれた。

(具体的な事例)
  • 窓口に寄せられる相談には、結果として一概に犯罪被害とは言えず、支援に結びつかないものも多い。しかしながら、犯罪被害に遭い様々な問題に直面する被害者等を孤立させることのないよう、どのような相談でも「とにかく良く聴く」といった対応をしている(神奈川県など)。
  • 被害者等の相談に重要性は認識しつつも、多くの相談が被害者等と無関係なため「これで本当にいいのか?」、「窓口設置の意味があるのか?」と葛藤することもある(市区町村)。
  • 市町村が取り組まない理由の一つとして、被害者等のニーズが少ないということがあるのではないか(都道府県)。
  • 窓口の形態は整ったものの、実際に被害者等から相談があった場合に、どの様に対応すれば良いのか分からない(市区町村)。
  • 被害者等に対する具体的な対応方法を学習する場面が少ない上、人材不足・財政難のため、担当者としてスキルアップする機会を持ち難い(市区町村)。

[2] 地域における被害者等支援に活用できる社会的資源の違い

 都心部からの物理的な距離や交通の便の悪さなどにより、民間支援団体による支援や研修等の機会など、被害者等支援に活用できる社会的資源が利用しにくい場合が見られた。また、被害者等の置かれた環境や心身の状況に精通した専門家の確保など、市区町村単位では対応が難しい取組について広域的な対応を求める声も聴かれた。

(具体的な事例)
  • 民間支援団体の拠点に近い比較的利便性の良い地域では、出張による相談支援も行っているようだが、時間を要する郊外部の地域では電話相談のみに限られてしまう(市区町村)。
  • 年に数回程度、市町村担当者研修を実施しているが、多くは都心部を中心とした比較的利便性の良い場所で開催されることが多いため、当町のような遠方の地域で開催されることは少ない(市区町村)。
  • 子供たちの心のケアのためにスクールカウンセラーを派遣してもらったが、経験や認識の不足からかえって二次的被害を生じてしまった。その後、被害者支援に精通した専門家を派遣してもらい非常に上手くいった(市区町村)。
  • 区として被害者支援に精通した専門家を把握することは難しく、現状では民間支援団体に人材を紹介してもらっている状況である。被害者支援に精通した専門家リストのようなものが必要だと思う(東京都杉並区)。

[3] 地方公共団体の規模・住民同士の関係

 地域によっては、古くからのコミュニティの形成などにより、顔の見える関係が形成されていると同時に、閉鎖的な社会が形成されている場合もあって、そこでは住民関係のメリットとデメリットが混在している場面が見受けられる。また、小さな町で起きた実際の事件現場では、事件後押し寄せたマスコミによって被害者等の自宅の周辺の住民をも巻き込んだ二次的被害も報告されている。

(具体的な事例)
  • 当町では顔の見える関係が形成されており、担当者自身も多くの住民と顔見知りであるので相談しやすい半面、閉鎖的な社会の中で安易に噂が広まるなどの心配もあって、仮に被害にあった場合でも、声を上げたくても上げ難いこともある(市区町村)。
  • 事件後のマスコミ対応によって被害者等の自宅周辺に多くのマスコミ関係者が押し寄せ同じ団地内の住民の多くが精神的な被害を受けた。その後、団地住民の間で意見を集約する代表者が決まった(秋田県藤里町)。

(3)施策担当窓口部局の体制の強化

[1] 被害者等支援についての適切な学習の場の提供

 都道府県では、当該施策への取組を促すために、管下市区町村担当者向けの研修等を積極的に実施しているところも見受けられる。しかしながら、それぞれの地方公共団体によって人口規模などの諸条件が異なることから、それに伴って実施すべき支援の内容も異なってくることが窺えることから、それぞれの地域条件に見合った研修等が求められている。

(具体的な事例)
  • 当該施策に携わる担当者として研修などにも参加する機会があるが、その多くは東京など都市で開催される場合が多く、当町のような小規模な団体では参考にならない内容が多い。小規模な団体にはそれに応じた内容の研修が必要である(秋田県藤里町)。

[2] 被害者等支援担当者の人事への配慮

 デリケートな問題を抱えた被害者等と、その相談に当たった窓口担当者との信頼関係は極めて重要であり、その関係の維持に対しては相応の配慮が必要となってくる。したがって、窓口相談の担当にあたった職員の人事や、その後任人事等については、十分な配慮が必要になってくると思われる。

(具体的な事例)
  • 被害者等との信頼関係は重要であるので、人事異動などへの配慮について人事当局には話をしている。将来的な後任についても人材育成など相応の対応が必要と思われる(東京都杉並区)。
  • 事件の際には、被害を受けた住民との連絡を受けて、土日や昼夜もなく地域住民・関係機関とのパイプ役、実態把握、付添いなどを担ってきたが、担当者もいつまでも関われる訳ではない(秋田県藤里町)。

(4)関係機関・団体との連携

[1] 都道府県警察・民間支援団体との連携・協力

 被害者支援メニューを一通り揃えているものの、マスメディアによる報道や被害者等自身からの直接の申し出がない限り、被害者等に関する情報が得られずに苦慮しているとの声も聴かれた。今後、都道府県警察・民間支援団体など、被害者等と早期に接する機関・団体との連携を図り、必要に応じ被害者等を紹介してもらうようにしておくことが望まれる。

(具体的な事例)
  • 警察として捜査上、外に出せない情報等があることも承知しているが、自治体の得られる情報では限界があることから、必要最低限の情報を警察から提供してもらわなければ被害者等の支援はできない(都道府県)。
  • 司法組織の中に地方行政は入っていないので、警察からの被害者等に係る情報の入手にも限界がある。今後、危機介入について問題が生じてくると思われるが、法の整備などが必要になってくるかもしれない。現段階では、あくまでも警察からの連絡を待って動き出すものと考えている(都道府県)。

[2] 被害者支援連絡協議会の活性化

 都道府県警察本部及び警察署単位で設置されている被害者支援連絡協議会は、今回のインタビュー調査の中でも良好に機能していることで取組が広がったという報告がある一方で、地域の多くの関連団体が所属しているが活動としては年に1回の総会だけで、被害者等支援など特に具体的に取り組んでいないものも見られる。

(具体的な事例)
  • 当市が関わっている被害者支援連絡協議会は、警察をはじめ市内の各種団体と年1回の総会と研修を開催する程度の状況となっている(市区町村)。
  • 通常、このような協議会は各々のトップによる集まりがあって、その下部組織に実務者レベルでのケース検討会議のような部会が設置されるのが通例であるが、対象である被害者等の数が少ないために、部会も置かれていない(市区町村)。

(5)課題のまとめ

 今回のインタビュー調査の中で特に多く聴かれた、今後の問題点や課題に関するキーワードを以下に示す。多くの地方公共団体では、当該施策への取組を始めたばかりのところが多いため、今後は状況をみながら取り組んでいくとの声も多く聴かれた。