-
犯罪被害者等施策
-

犯罪被害者等施策トップ都道府県・政令指定都市主管課室長会議平成22年度 議事概要 > 地方公共団体による事例発表(中野区)


地方公共団体による事例発表


「地域における連携の取組」
東京都中野区保健福祉部福祉推進分野主任主事 稲吉久乃 氏

 皆さんこんにちは。最後で10分ぐらいというお時間ですが、頑張ってお話したいと思いますのでよろしくお願いいたします。私は足が悪いので座らせていただきます。
 私は東京都中野区で保健師をしております稲吉と申します。
 中野区というのは、23区の西のほうに位置する区でして、人口密度は都で1番と言われています。ということは、多分全国で1番なのかもしれないのですが、予算の規模、財政規模は23区中16位というあまり裕福な区ではありません。でも私たちはお金がないからできないと思ったことは一回もありません。お金はあったにこしたことはないのですが、一番必要だと思っていることは、被害に遭われた方にぴったりと寄り添う気持ちであると思っています。お金がない私たちの区でできたことは、どこの自治体でもできることだと思っています。
 いただいた時間があまりにも短いので、この中で十分お話することは不可能です。どうぞわからないことは聞いていただければ、どこにでも行って精いっぱいお答えをしますので、呼んでいただいてもいいし、こちらへ来ていただいても構いませんので、ぜひそういう時間をとっていただければなと思っています。
 資料は用意しましたが、それに沿ってというよりは、お話したいことをしたいと思っています。少し参考にされながらお聞きください。
まず窓口設置の根拠です。私どもの窓口は、平成18年9月の定例議会で自らもご遺族である議員の方から質問が出まして、それに答える形で区長が検討を指示して、庁内での検討会が始まりました。
 平成20年4月に犯罪被害者等相談支援窓口という形で設置されました。根拠は要綱なんですね。皆さん条例ということでたくさん条例をつくってくださっているようなんですが、私たちの区では要綱しかありません。要綱に定められた支援の内容は、こちらのリーフレット(「知ってほしい「犯罪被害者」の悩み、法律、サポート」)をごらんになっていただきたいのですが、本当にシンプルでして、相談と各種手続、付添い等、あと紹介・情報提供のみです。私どもにお金がなかったので、カラーコピーをお願いしたのですが、実際はこのぐらい大きいものでして、しかも角が丸くしてありまして、できるだけやさしい印象を与えるような形で考えてつくったものなのですが、こちらのほうをごらんになっていただければと思います。相談と手続、紹介・情報提供のみが要綱に定まっております。
 まず相談ですけれども、専門の相談室がございまして、電話をとったり、面接をしたりするのは個室で行っています。場合によってはメールですとか、自宅への訪問も行っています。この相談というのは事情聴取ではないので、ご本人のお話をじっくり伺って、そしてご本人とともに今後どういうふうにやっていきたいか、どういうことが必要だと思われているかということをじっくり伺うということを大事にしています。その後、必要があれば、病院、警察署や検察、裁判所などにも一緒に伺うことができます。裁判を代わりに傍聴することもあります。ご本人、加害側の顔も見たくない、同じ空気も吸いたくないというふうにおっしゃる方には代理傍聴を行ったりもいたします。また、窓口職員がネットワークとしてつくりあげた、協力いただける弁護士さんとか精神科の医師、心理相談員などの情報提供をして、そこに付添い支援を行うこともあります。
 窓口が設置されて以来、ますます直接相談支援窓口が期待されているということを痛感いたします。直接というところがミソなんですけれども、警察には相談に行ったけれども、思うように支援が受けられなかったとおっしゃる方とか、特に性被害の方などは最初から警察には行きたくないけれども、相談はしたいとおっしゃる方もいらっしゃるし、被害に遭ったということで精神的・身体的にも不調を訴える方などの相談があって、自治体で受けとめて、自治体の中で解決に向かうものも多くあると感じています。
 初めて警察とか検察にかかわる方にとっては、そこの場所に行くことさえ大きなストレスになりますし、使われる言葉が全くわからないといったことも多くありますので、1つひとつ、これはこういう意味ですとか、こういうふうに加害者が逮捕された場合には、こんな形で流れていきますとかということも1つひとつ説明をする必要があることがあるんですね。何より被害直後からしっかりとご本人に向き合って寄り添う立場の者がいるということが、被害後の回復に多く助けになるということを実感しています。
 次に啓発のための取組です。資料のほうにも書いてございますが、犯罪被害者等基本法第20条に、国民の理解の促進みたいなところがあるんですが、いろいろな場で犯罪被害に遭われた方のお話を直接聞いていただく機会を意識してつくってまいりました。例えば職員研修、区民向け講演会等です。これまで被害者支援都民センターの自助グループの方ですとか、少年犯罪被害者当事者の会の方、あすの会、全国被害者の会の方の協力を得て講演会を実施してまいりました。
 また、中野区の特徴といたしまして、教育委員会の協力を得まして、小・中学校でのお話し会を行っています。これはちょうど文科省がお配りになってこれの中の一番後ろのページに、「学校における犯罪被害者等の人権問題を含めた人権教育の推進」と書いてありますが、これのまさに人権教育総合推進地域事業、これに平成21年、平成22年と指定をされた地区がございます。また、これは知っていたわけではなくて、学校でお話をさせてくださいと無理やり頼みに行きまして、ではお話してもらいましょうとなり、平成20年度に開設されたその年から教育委員会にお願いをして、平成20年度には2校、小学校・中学校1校ずつ。昨年度は人権教育総合推進地域事業というのに6校指定されているうちの4校にお話に行ってきました。
 この学校でのお話し会は、これまで被害者支援都民センター、自助グループの方、交通遺児育英会の方、生命のメッセージ展の方にお願いをいたしました。お話し会のときにとても印象的なことがありました。小学校5~6年の子どもたちに聞くことにしているんですけど、殺すゲーム、殺したり、殺されたりもあるのか、そういうゲームをしたことがない子、と聞いたら、学年の4分の1程度しかいなかった。つまり4分の3は、殺すゲームをしたことがあると答えたんですね。これは私は結構ショックだったのですけれど、まさかゲームの中の死と現実の死が一緒だと思っていることはないと信じたいのですけれども、あまりにも簡単に死んで、あまりにもリセットボタンで生き返ってくるというゲームになれてしまうということはよくない現状だなとそのとき思ったことでした。
 被害に遭われた方のお話を直接聞いていただくということで、理不尽にも被害に遭う。自分に理由があったわけではない。先ほどのお話ではないけれども、例えば過失があったとしても殺すとか傷をつけるということは基本的に許されない。たたいちゃいけないというのは小さいときに教わったと思うんですが、それなのに理不尽に被害に遭うということがどんなことなのか。
 それから被害からの回復についてどんなことが助けになるのか。このリーフレットにも書いてありますけれども、助けになることは一体どんなことなのかというようなことを子どもたちに理解を深めることができます。特に子どもたちに伝えたいと思っているのは、被害に遭うということの理不尽さなど以上に、被害者が悲しい、苦しいということを伝えて、命の大事さをわかっていただく。少なくとも加害者にはなってほしくないし、もし万が一、被害に遭っても、その被害に遭ったということが終わりではなくて、みんなに助けてもらったら回復していけるんだということをぜひわかってもらいたいという思いで私たちは学校の子どもたちにお話をしています。
最後ですが、より良い支援をつくっていくために何をしたいと思っているか、してきたかということなのですが、犯罪被害者等基本法では、国と自治体、国民がそれぞれの責務を負う。先ほどの説明にこんな厚い資料でありましたけれども、責務を負うというふうに明記をされているんですよね。例えばDV、配偶者間の暴力、児童虐待なんかは市町村の仕事としてしっかり認識されているはずなんです。でも犯罪被害も同じような法律の書き方にもかかわらず、直接支援窓口があるところが本当に少ないという現状があります。とにかく都道府県レベルでは、例えば住宅とか経済的支援などをきちんと担っていただければと思っています。今は都の方がいらっしゃるのでなかなか言いにくいのですが、都営住宅の場合、抽選倍率がやや上がるぐらいのことで、実際には本当に当たらないんですね。今まで申し込んでも申し込んでもみんな落ちているんです。
 それから、緊急一時避難場所としてホテルの提供というのもありますが、これもあまり使い勝手がいいとは言えない現状があります。経済的には中野区のように貧しい区はなかなかお見舞金すら出せないようなところなので、もし本当に都道府県の方が出していただければなという思いは中野区の場合は特に強く思っています。
 そして、あと市町村レベルでは被害者の直接的支援が求められていると思っています。住民の生活全般にわたって市区町村にはサービスがあるわけで、きめ細やかな支援ができると思っています。途切れない支援のためには、庁内外にネットワークを構築し、被害に遭われた方に丁寧にかかわっていくことが被害からの回復に役立つと思っています。このネットワークは資料のほうにいろいろ書いてありますが、とにかくいろいろな方と顔の見える連携がしたくて、足を使って回ってまいりました。
 それから、自治体での取組として始まったばかりであることと、先ほど言ったように、都内でも直接支援窓口があるのは杉並区と多摩市と中野区の3自治体だけなんですね。でもこの3自治体が手を組んで、とにかくいい支援をつくっていきたいという思いから自主的な連絡会を立ち上げて定例会をもってまいりました。お互いに啓発事業の講師、協力していただける医療機関、弁護士さん、どんな方がいらっしゃるとかという情報交換をしたり、業務のあり方、どんなふうに持っているのかということを情報を共有化することで支援の質を上げようと思っています。多摩と杉並のリーフレットもお願いして送ってもらっておりますので、それもご参考にしていただければと思います。
 1つの自治体ではケースが少ないので、職員一人ひとりのスキルアップを図ることも大変難しいということもございまして、ケース検討会を行いまして、支援のあり方についての研究を重ねている状態です。スキルアップ以外にも職員のメンタルヘルス、代理受傷といいまして、いろいろつらい話を伺っていると、自分たちも同じような被害に遭ったようなことに陥ってしまうこともあるので、自分たちのメンタルヘルスを保つためにも大変役に立っている連絡会です。
 東京都では3月から、各市区町村の担当者が集まる連絡会を開催してくださいました。都内62ある自治体のうち、直接支援窓口のある自治体は3しかなくて、それ以外に共用窓口を持っているところもあるという状況がわかりました。その会合の後、定例の自主連絡会を拡大して、共用窓口のあるところもいろいろ声をかけて集まっていただいたんですね。例えば市民相談のところでやっています共用窓口を持っていますとおっしゃるようなところだとか、いろいろなパターンがあることがわかったのですが、とにかく直接支援窓口のある自治体も、ない自体体もお互い手をつなぐことで、共用窓口であっても充実をさせて、被害に遭われた方の支援が十分できるようになればいいというふうに思っています。
 今後、皆さんのところに支援窓口ができた際には、繰り返しになりますが、ひと声かけていただければ、電話でもいいですし、直接走ってはいけませんが、ちゃんと伺ってお話もできるかと思いますので、ぜひお声をかけていただければと思っています。
 どうもありがとうございました。


犯罪被害者等施策トップ都道府県・政令指定都市主管課室長会議平成22年度 議事概要 > 地方公共団体による事例発表(中野区)