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犯罪被害者等施策
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地方公共団体による事例発表


「北海道広尾町における犯罪被害者等施策について」
北海道広尾郡広尾町町長 村瀬 優 氏

 ご紹介いただきました北海道広尾の町長の村瀬でございます。どうかよろしくお願い申し上げます。
 都道府県・政令指定都市の皆さんの主管課室長会議の中で、このような発言の機会をいただいことを心からお礼を申し上げたいと思います。
 先進的な事例ということでございますけれども、小さな自治体の取組であります。大きな皆様方のところとは違って、その事例が1つでも役に立てればと思ってお引き受けをしたところでございます。どうかよろしくお願い申し上げます。
 先ほど山内さんのお話を聞かせていただきました。被害に遭われた方のお話をお聞きするのは、私自身、二度目になります。昨年、北海道の釧路で「犯罪被害者週間」国民のつどいがあってお話を伺いました。被害に遭われた方の悲痛な叫び、思い、そして今日までまだまだそのことを背負って一生懸命頑張っている姿、本当に感銘をするところでございます。お話の中にありましたように、一度被害を受けて二度死ぬのだということ、そして、その中に自治体職員の心ないことも挙げられていたところであります。自治体職員が心ない仕事をしていたのだなということを改めて反省をするところでございます。
 また、条例の制定に当たりましては、まちづくりの一環であるという位置付けの下に、犯罪被害者の条例を制定させていただいたところであります。そういった意味で、具体的な取組と併せて広尾町におけるまちづくりを紹介しながら、犯罪の被害者の支援がどうあるべきかというところを皆さんで考えていければと思っているところであります。

 最初に北海道広尾町、少し宣伝をさせていただきたいと思います。お手元に資料を配布をさせていただいているところであります。北海道広尾町はどこにあるのだということであります。北海道の東、十勝の帯広市がありますけれども、そこからまっすぐ南に下っていただくと海に当たります。そこが広尾町であります。襟裳岬と隣り合わせている町が広尾町でありまして、人口が8,200人しかいない小さな漁村であります。過去、1万3,000人ぐらい人口がありましたけれども、今は8,000人の小さな過疎の町であります。
 産業的には漁業、農業、そして海の町でありますから港湾があって、その三本柱を中心に産業をしているところであります。特に港湾におきましては、-13メートルの大型岸壁を持つ重要港湾でありまして、十勝の農業に役立つ港として十勝の玄関口として、海の玄関口として港湾整備を進めているところであります。広尾町にあって、港の名前が「十勝港」という名前であります。文字どおり、十勝の海の玄関としての位置付けをされているところであります。
 また、特産物としてシシャモが挙げられているわけでありまして、シシャモといえば、鵡川町が皆さん方に記憶があるかと思いますが、水揚げでは実は広尾町が日本一を誇っているのが広尾町のシシャモであります。それから毛ガニ、秋サケという海産物が特産品としてあるわけであります。
 それから、もう一つPRをさせていただきたいと思います。サンタランドの町として全国に知られているかと思っております。12月になりますとサンタメールを広尾町に申し込んでいただくと広尾町からサンタクロースのカードを送る仕組みになっております。この中で申し込みをされている方がいれば大変うれしいのですけれども、そんな夢とロマンを全国の人たちに送る事業も進めているのが広尾町であります。クリスマス時期になりますと、ホームページを見ていただくと申し込めるようになっておりますので、よろしくお願いを申し上げたいと思います。

 私、一昨年町長に就任をしたばかりでありまして、3年目の折り返しを迎えているところであります。まちづくりの基本、どこの自治体もそうでしょうけれども、安心して暮らしていける町をつくる。これを基本としてまちづくりに取り組んでいるところであります。まちづくりのテーマ「地域の自立と豊かな暮らし」、これを掲げて、まちづくりを今進めているところであります。
 平成の大合併ということがありましたけれども、私どもの町、隣の町と協議をいたしましたけれども、お互い貧乏人集まっても裕福にならないよねと、そんなこともあります。できる限り頑張ってみて、そしてだめだったら合併しようかというところで、貧乏ではあるけれども、自立をしていこうということで今自立の道を選んで頑張っているところであります。自立をするからには経済的に産業がしっかりしていかなければなりません。経済的な自立が1つあります。それから、何といっても自分たちの町、自分でつくるのだという、その精神的な自立、気持ちの自立がなければ町をつくっていけないということで取り組んでいるところであります。地域の自立、豊かな暮らし、この豊かな暮らしの中には経済的な豊かさと、そして気持ちの上でお互い助け合って、自分のことは自分でする、しかも助け合うことも忘れない。そういった気持ちをもって自立をしていくという、そんなテーマを掲げて今取り組んでいるところであります。
 町の発展、経済基盤の確立、そして住民が安心できる福祉・健康・医療、教育、コミュニティ、こういったものが総合的に循環していかなければ町の発展はないのだと思っているところでございます。そんなことでまちづくり、地域の住民と力を合わせて、地域の方々が安心して暮らせる町をつくろうと努力をしているところであります。
 今も申し上げましたけれども、まちづくりの基本、住民の方が本当に犯罪のない社会を目指すこと、これがやはり基本だと思っているところであります。そのことがまちづくりの条件になっているのではないでしょうか。そして町の力をはかるバロメーターは何だというところは、地域にコミュニティがあるかないかだと言われております。地域のコミュニティが盛んな地域は元気でありますし、安心できる地域だと言われているところであります。
 これは私が言っていることではなくて、片山虎之助さん、元総務大臣でありますが、広尾に来たことがあります。町の消防団員が火災のときに殉職をしたわけでありますが、そのときに日本消防協会の会長さんを片山さんされたときでありますが、わざわざそのために広尾まで来ていただいたところであります。地域の力はコミュニティだと、そしてボランティアだと、消防団員の皆様方が仕事を持ちながら、そして命をかけて地域の住民を守るその姿は地域になくてはならないのだということを遺族の前で語られたことを忘れることができません。そういった意味で、安全な町をつくるには地域のコミュニティがしっかりしていること、そしてボランティアが根差していることがその根源にあるのだということであります。
 都会では近所付き合いが希薄になっているのだと思いますが、田舎でもその傾向があらわれつつあります。昔、向こう三軒両隣という、そんな言葉がありましたけれども、きちんと隣の人とあいさつができる、隣の人がどこに勤めているのか、どんな家庭環境になっているのか、プライバシーもありますから限界がありますけれども、そのことを把握しなければ、いざ災害に遭ったときにも、だれがどうやって助けるのか、きちんと押さえることができません。そういった意味で地域のコミュニティがある地域は犯罪が起きにくい地域だとも言われているところであります。町内会活動、自治会活動が地域を支える基礎になっているのだというふうに思っているところであります。
 殺人事件のような大きな事件・事故というのは、私たちの片田舎ではありませんでした。しかし今日テレビ・新聞見ると小さな町でもそんな事件・事故が起こっているのが現在の社会的な状況であります。犯罪被害者支援条例を昨年4月に施行させていただきました。この条例の背景には皆さん方も記憶にあろうかと思いますけれども、2003年(平成13年)であります。広尾町で幼児殺傷事件が起きました。二人の子どもが殺されました。5歳と2歳の方であります。そして一人、小学校1年の6歳の方がけがを負った事件でありました。本当に痛ましい事件でございました。
 私、当時役場の職員でありましたので、現場が役場を道路挟んで一本前の本当に目の前が現場でございました。二人の方が亡くなって、一人の子どもがけがをした。そしてけがをした人は目の前で自分の弟と妹が殺されたわけであります。町じゅう衝撃が走ったところであります。幸い犯人はすぐ自首をしてきたわけでありますけれども、何と犯人は隣の青年だったわけであります。小遣い欲しさに隣の家に忍び込んで、何にもなくて一回出たのですけれども、振り返ると窓から子どもが見ていたと。そして引き返して犯罪に及んだということであります。本当に痛ましい事件であります。
 被害者、加害者、同じ住民でありまして、しかも隣であります。町じゅうが言葉がなかなか交わされないわけであります。ご存じのとおり、田舎というのは親戚や縁で、いろんな結び付きがあるわけでありますから、加害者、被害者が隣同士ということ、大変厳しい状況下に置かれたのが背景にあるわけであります。幸い、地域安全条例という条例が本町で施行されておりましたので、素早くその条例に基づいて対応をさせていただいたところであります。特に被害者が子ども、そして目の当たりにしたのが子どもでありますから、しっかりと保健所はじめ保育所、学校、指導機関である北海道も入っていただきまして、心のケアの問題の会議の設置などして的確に対応をさせていただいたところであります。
 今回の条例制定に当たりまして、内部で2年間議論をしました。本当にいろんな議論がありました。なんであえて条例まで制定する必要があるのだという意見、内部の意見であります。今でも条例はなくても何かがあれば、役場の担当者が地域に出向いて一生懸命お世話をさせていただいている。なんであえて条例まで制定をするのだという意見。それから、地域安全条例があるので、そこに1項目、犯罪被害者の支援をするという項目を入れればいいのではないかという意見あります。本当にいろいろな議論をしてきたところであります。そして見舞金の条例も項目に入れさせていただきました。やっぱり役場の職員、皆さん方も行政の職員でありますから、誠に優秀であります。条例をつくるときには一字一句、そして用意周到にどこからもつけ込まれることなく、特に議会からもつけ込まれることなく、条文整理をするのが行政の職員であります。どういう場合に見舞金を出すのだ、どういう場合に出すのだというところ、議論していればきりがないんですけれども、条例というのは町の憲法でありますから、その条例に基づいていち早く支援をすることが大切だということになります。そしてスピーディーにすることが条例の趣旨でありますので、いろんな意見はあるけれども、条例を制定し、いろんなケースの中ではそれぞれ関係機関に相談をしながら対応していくという結論になりまして、条例を制定させていただいたところであります。
 条例の制定に当たりましては先進事例の自治体の条例を参考にさせていただきました。先進事例が広尾町だと言われましたけれども、昨年施行した条例でありますので、そういった意味では先輩の自治体の皆さん方の条例を参考にさせていただいたところであります。
 また、条例の制定に当たりましてはいろんな意見あるわけでありますけれども、特に条文の整理、北海道にも大変お世話になりました。また、いろんな議会でも特別委員会を設置し議論になったところでありますけれども、何といっても大きいことは広尾警察署の支援があったことも間違いないことであります。今、警察庁の方もいらっしゃいまして、失礼な言い方になるかもしれませんけれども、我々も公務員でありますので、とかく公務員の不祥事があると、特に警察関係で不祥事があると大変不信感がある、信頼関係が損なわれるというところもあるわけであります。そういった意味では広尾町においての警察署の取組、地域に根差した活動をしていただいているところであります。特に防犯、災害、交通事故の問題等々、本当に一生懸命やられているところであります。
 特にご紹介申し上げたいのは、毎朝、雨の日も風の日もという言葉がありますけれども、交差点に立って、警察署の署員が「デイライト運動」というのをうちの町、取り組んでおります。昼間でも車のヘッドライトをつけて交通事故をなくそうという運動であります。警察署の署員の方々が毎朝です。毎朝プラカードを掲げてそんな取組をしているところでございまして、そういった警察の取組も住民の中にしっかりと浸透し、いろんな信頼関係があったことが広尾町として、こういった条例の制定の後押しになったことも大きな要因ではないかというところでご紹介をさせていただきたいと思っております。

 しかしながら条例を制定するに当たって大きな反省点もあります。住民を巻き込んだ議論が不足をしていたというところであります。今でこそパブリックコメントも行っているわけでありますが、当時はそういうこともありませんでした。地域に防犯協会とかいろんな関係機関があるのですけれども、しっかりと条例をその中に落として議論をしていただいたことが相当不足をしていたところであります。なぜか行政が先行してこういったことをしたことが、結果的には評価をされているところでありますが、まだまだ住民を巻き込んで住民に根差した条例になっているのかという点では大きく反省をするところでございます。そういった面でも今後は行政を進める上で、住民と一緒になって進めることが必要かなと思っているところであります。
 さらには、条例の中で、町の役割、行政の役割、住民の役割、各事業所の役割もきちんとうたっているわけでありますから、そのことを深く住民の方に認識をしてもらわなければ活きた条例にはならないのではないかと思っております。
 特に山内さんのお話でもありました。被害者というのは二度死ぬ、そんなこともお話をされておりましたけれども、とかく被害に遭ったばかりに日ごろ触れられないプライバシーの問題まで触れられる。このことであります。去年も「犯罪被害者週間」国民のつどいの中で、被害に遭われた方もそれが一番つらいのだということを言っておりました。ビデオの中でも、近所の人がこそこそとお話をしている情景がありましたけれども、まさにそのことが一番つらいのだということをお話されておりました。被害者なのになぜか家に閉じこもってしまうということ。そういったことが住民の中にそういうことではないのだということも知らしめることが必要ではないかと思っているところであります。
 加害者には社会復帰ということで保護司がついたり、いろんな政策の面で手厚いことがなされているところであります。それはそれで必要なことかもしれません。しかしながら被害者にはそんな制度がないわけであります。いま一度、しっかりと国を挙げて犯罪被害に遭われた方々の支援がどうあるべきかというところをしっかりと支えていかなければならないと思っているところであります。それがまた小さな自治体でありますけれども、行政の役割ではないかと思っているところであります。

 そして行政の役割、もう一つ、掲げているのが「協働のまちづくり」であります。もうどこの自治体でもこの言葉なくして、今の行政を執行できないのだというふうに思っております。行政の役割、住民の役割、それをそれぞれの責任において町をつくっていくのだという協働のまちづくり、協働の精神、これがなくては町をしっかりとつくっていくことができません。それぞれの町内では町内会活動、自治会活動があるのだと思っております。防犯部、交通部、健康部、福祉部、女性部等々それぞれの町内会ではいろんな部を持ちながら活動をしていただいているところでありまして、それが町の形成をつくっているところであります。お金があるときには行政がお金を出して、そしていろんな施策を展開し、実施していく。それはそれで行動成長期には大きな役割を果たしたと思うところでありますけれども、今は行政にお金がありません。補助金がストップすると事業がストップをしてしまう、その繰り返しであります。今、自分たちの町を自分たちでつくっていくためには、行政を当てにしてはいい町をつくれないわけであります。自分たちの責任で一生懸命やって、足りないところは行政が補完をする。これはどこの自治体でも言われているところであります。そのことをまちづくりの柱として住民に考えていただく。そして行政もそこにしっかりとかかわりを持ちながら誘導していく。そのことが協働のまちづくりの精神ではないかと思っているところであります。
 そして住民の目線で政策をつくる。このことも必要かと思っております。住民の目線とは何だというところであります。例えば福祉の政策をつくるときには、今まで苦労して働いてきたお年寄り、そのお年寄りがこれからも元気で楽しく暮らすためにはどうあるべきか。その人たちを頭に描いて政策をつくることだと言われております。子育て支援、この政策をつくるときにはどうやったら、働いているお母さんたちが働きながら子どもを育てることができるのか、保育所に預ける時間はこれでいいのか。その視点に立って政策をつくることが住民の目線であります。
 犯罪被害者の条例をつくるときもそうであります。本当に今日改めて反省をさせられているところでありますが、自治体職員の不用意な発言が大変つらいのだという統計もあったところあります。犯罪被害者の立場に立って、どう条例をつくっていくのかというところも欠けていたところかなと思っておりますから、その面でもしっかりと被害者の目線に立った政策をつくることが必要かと思っているところであります。
 お手元の資料の条例について若干報告をさせていただきたいと思います。1ページめくっていただいところに表がありますが、2段目の一時的な住居の提供についてであります。犯罪を受けたために犯罪の現場となってそこにいられない人たちのためには、公営住宅の提供を位置付けているところでありまして、最大1年間利用することができるといった規定も盛らさせていただいたところであります。
 また、その下の日常生活への支援であります。家事の援助、育児の援助等々が発生をした場合には、きめ細かな支援をしていきたいと思っております。家事の援助では、食事の世話、洗濯、掃除、買物等々できる要綱になっているところであります。
 また育児の援助につきましても、食事、洗濯、保育所、幼稚園の送り迎え等々、ホームヘルパーを派遣しながら取り組む規定を盛り込んだところであります。
 また、日常生活の中で、下から2番目の日本国内、日本船舶、日本航空機内の犯罪行為と限定をしているところでありますけれども、この項目については、今変更をしようと思っています。なぜこのような枠を設けるのかという点であります。広尾町に住む住民であれば、世界じゅうどこへ行っても犯罪で被害に遭えばきちんとサポートする、このような改正をここのところで今しようと思っているところであります。しっかりと被害者の立場に立った条文整理もしていきたいと思っているところであります。
 それから、貸付の関係であります。緊急で資金が必要な方には限度額20万円でありますが、貸付の規定を設けさせていただきました。また、見舞金の支給でありますが、遺族には30万、傷害の被害に遭われた方には10万円ということで、これも設けさせていただいたところであります。この条例の規定に当たっては先輩の自治体の方々の先進的な条例を基に作成をさせていただいたところであります。
 犯罪のない、活気が出て、元気な町をつくっていくためには、住民挙げてこのようないろんな面で支援もすることが必要だと思っているところであります。いい町をつくるためには、それぞれ住民一人ひとりが、力をつけなければならないのだと思っております。その力をつけるつけ方、ただの勉強では力がつかないわけであります。地域、地域で、いろんな地域の行事の中で参加をする。そして地域の住民とかかわりを持つ。その中でそれぞれの個人個人が強くなってくるのだと思っているところであります。そのことが町全体に力をつけることに結び付くのだと思っているところであります。そしてお互い助け合う気持ちを持つ、そんな環境をつくるのが行政の役割だと思っているところであります。そのことが地域が自立をしていくことにつながるのだと思っているところであります。
 犯罪被害者の支援条例を制定させていただきましたけれども、これもまちづくりの大きな柱として位置付けをし、取り組んでいきたいと思っております。この支援をすることを忘れていい町をつくれないわけであります。いろんな統計資料を見ますと、まだまだ全国で条例の制定が進んでいないとお聞きをしているところであります。1つの町の取組でありますが、このことも1つ参考にしていただいて、ぜひ全国の自治体に条例を制定し、犯罪のない、そして犯罪に遭われた方の支援もしっかりとしていきたい。そしていい町をつくっていきたいと思っております。
 以上であります。ご清聴ありがとうございました。


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