講義

 
テーマ:「犯罪被害者と司法」
講師:宮田 逸江 氏(静岡のぞみ法律特許事務所 弁護士)

 弁護士の宮田と申します。これから約1時間、お話におつきあ付き合いいただきまして、そのあと20分程度、検察庁で用意している犯罪被害者向けのDVDがありますので、視覚的に確認をしていただく意味で、視聴していただく予定でおります。

 では早速、始めさせていただきます。今回、どんな方が受講されているのか、どのくらい法律に関する知識のレベルをお持ちの方がこの講義を受講されるのか、私の認識がなかったものですから、基礎の基礎からザザッと1時間でやらせていただきます。すでに、ある程度司法について勉強されている方については、ご存じのところもあるかと思いますが、ひととお一通り、おさらいという意味でお聞きいただければと思います。

 まず、犯罪被害者が被害を受けたときに関わる司法として、二つの側面があります。
 一つは、刑事事件としての側面。これは、いわゆる加害者を処罰するための手続きで、主体としては国家、いわゆる国がなります。それが加害者をどうやって裁くのか、本当ほんとにその加害者は裁かれるべきなのか、裁かれるとしたら、どのくらいの処罰が相当なのかを検討するための裁判手続きが、刑事手続きということになります。

 他方、それに対して、個人対個人の手続き、それがいわゆる民事ということになります。犯罪被害者に関していえば、加害者という個人に対して、被害者という個人が損害賠償請求をする手続きが、民事です。
 被害者に関わる司法制度ということで、この二つの側面があります。

 被害者の方の相談でよく受けるのが、被害者の方は当然こういう被害を受けるのは初めての経験ですから、刑事裁判と民事裁判をごちゃごちゃに理解している方が、よくいらっしゃいます。

 例えば、もう刑事裁判で判決が下りました。判決が下りて、例えば懲役何年だったり、あるいはという判決が下りたとしたのに、「なぜ、私のところに加害者からの接触が何もないのでしょうか。なぜ、損害賠償が受けられないんでしょうか」というような疑問を持たれる方が、いらっしゃいます。

 基本的に司法制度というのは、一番最後のほうで、刑事裁判と民事裁判の融合する場面をご説明しますが、別なものです。だから、決してそれが同一になる、刑事裁判で何らかの結論が出たからといって、加害者からの損害賠償請求が実現されるという関係にはない。それぞれ独立した手続きであるというところは、ご理解をいただければと思います。

 一番分かりやすい例でいうと、例えば、車で歩行者をはねてしまったという交通事故が発生したとします。自動車を運転していた人間については、それぞれ自動車運転過失致死、あるいは、飲酒をしていたりすれば当然、危険運転過失致死という刑法の条文で裁かれます。場合によったら、執行猶予がついて出てくる場合もあるでしょうし、実刑になってしまって、刑務所に行ってしまうかもしれない。それが刑事の裁判の手続きです。

 ただ、加害者がそうやって刑事裁判で裁かれたからといって、自動的に被害者のところに補償が受けられるというわけではなくて、特に交通事故の件に関しては、被害者は改めて加害者と交渉、これは通常、交通事故の場合は、例えば自賠責保険に入っていたり、任意保険に入っていたりすれば、加害者本人というよりは、その加害者の保険会社との間で損害賠償手続きについて交渉を、別途することが必要になります。

 その中で刑事裁判の記録を使うことはありますが、刑事裁判でもう罪が確定しているから、自動的に民事の金額が決まる、あるいは自動的に賠償が受けられるという関係ではないので、その点はご注意いただければと思います。

 蛇足になりますが、その刑事事件の中には、一般の成人が受ける刑事裁判もあれば、加害者が少年の場合、いわゆる20歳未満の場合の、家庭裁判所への少年事件というものも含まれます。通常、加害者が20歳未満の場合は、成人と同じように刑事裁判で裁かれるわけではなくて、家庭裁判所で特別な少年事件という扱いを受けます。

 ただ、中には逆送、逆に送ると書いて逆送といいますが、家庭裁判所での審理ではなくて、成人と同様に刑事裁判で裁かれるべきという決定がされるケースもあります。そういう場合は成人と同様に刑事裁判を、少年でも受けるという場合があります。

 少年の中で、特に14歳未満の場合は、今の日本の法律上は責任年齢未満ということで、刑事手続きの対象にはなっておりません。少年事件として家庭裁判所で裁かれるときも、刑事処分という形ではなくて、別途の手続きが用意されています。ただ、その14歳という年齢がいいのか、特に今、少年犯罪の低年齢化の傾向があるので、それについてはまた議論がありますが、加害者が少年の場合、20歳以下の場合、あるいは14歳以下の場合は、刑事手続きの中でも特別な対象になるということは、ご理解をいただければと思います。

 では、被害者から見たときに、この司法制度がどんな意味があるのかは、被害者から相談を受けるときに、ご理解をいただいておいていただければと思います。

 まだ被害を受けたばかりで、被害届も出してない、あるいは被害相談もしてない。そこででは、あなたにとって、やれることは二つあります。それぞれがどんな意義があるのかということは理解をいただいた上うえで、どういう手続きを踏めばいいのかアドバイスをしていただければと思います。

 まず、刑事裁判をする被害者にとっての意味は、何より、やはり加害者を罰する。今のところ日本は、私的な復讐は認められていませんから、被害を及ぼした加害者を処罰するためには、刑事手続き、刑事裁判によって加害者に処罰を受けてもらうしか方法がありません。そういう意味で、被害者にとって、直接の被害の回復ではないにせよ、自分に損害を与えた加害者にを、きちんと処罰を受けさせるというのは、非常に大きな意味があることだと思います。

 同時に、それによって、万全ではないですが、加害者にそれなりに自分のやったことの行為の認識をさせる。それが社会的に違法な行為であって、例えば懲役だったり、処罰の対象になる行為だと思い知らせる。

 それによって同様の犯行を防ぐ。よく被害者の方がおっしゃることで、「もうこういう被害に遭う方を出したくない」。そのためには、刑事裁判によって、きちんと責任をと取執ららせる。そのまま野放しにするのではなくて、行為の重大性・違法性を認識させるということが、その方の直接という意味だけではなくて、今後についても意味があることだと思います。

 もう一つは、これもケース・バイ・ケースですが、被害者の安全を確保する。要するに、刑事裁判が始まれば、すべてのケースではないですが、加害者が逮捕され、あるいは拘留され、実刑判決を受ければ、その後何年間か刑務所に服役します。当然その間、加害者は自由な行動ができないわけですから、被害者にとってみれば、その間は被害者の安全を確保することができるという、刑事裁判をする意味で、被害者にとっての意義があると思います。

 他方、もう一つの司法制度である民事裁判というのは、どういう意義があるのかといいますと、まず、被害者にとってみれば、被害を回復する。当然、被害を受けて治療費だったり、将来にわたる収入の減少だったり、いろんな被害を受けてらっしゃいます。そういう意味で、あとで説明しますが、少なくとも今の日本の司法制度では、原則的に、被害を金銭的に換算して、金銭による償いをさせるという制度になっています。

 ただ、単純に被害が金銭に換算されて、金銭が支払われたからすべて賄われるかというと、決してそういうことはないですし、被害者にとってみれば、受けた被害は決してお金ではないという気持ちを持たれる方は多いんです。ただ、日本の司法制度で被害回復というと、原則としては金銭賠償になっている。

 では、全く賠償させないことがいいのかというと、決してそんなことはなくて、きちんと経済的な面でも責任をと取執らせる。それが一つの経済的な制裁にもなるという意味もあると思います。もう一つは、新しい司法制度が出てきて若干ニュアンスは変わってきたのですが、民事裁判は、原則として原告は被害者です。自分で主体となって行動できる。他方、刑事裁判は、被害者が参加すれば、ある程度主体的に動く余地はありますが、基本的に裁判の主体は検察官です。被害者にしてみれば、自分が完全にコントロールできるわけではない。そうすると、被害者にとって、きちんと民事裁判までやって、すべて自分の言いたいことを主張した。やれる手続きはすべてとったということで、それを契機に被害や、精神的な立ち直りのきっかけにされる方はいらっしゃいます。そういう意味で、主体的に行動できるという意義も、民事裁判にはあると思います。

 もう一つ、処罰が困難な場合、要するに刑事裁判にはしにくい場合であっても、損害賠償責任は認められる場合があります。刑事裁判にはしにくいけれど、民事裁判で、例えば損害回復や慰謝料を請求できるというケースはあります。そういう意味で、民事裁判をする意義が被害者にとって出てくるケースがあります。

 法律がどういうふうに決まっているのかは、司法制度を理解する上うえで覚えておいていただきたいのですが、まず、基本的に法律は、中身の問題と手続きの問題というふうに分かれて決まっています。

 刑事事件に関する中身の問題とっていうと、どんな行為が犯罪であって、それがどうやって処罰されるのかということが決まっています。手続きというと、どんな手続きで罪を犯した加害者が裁かれるのか、刑事事件が進むのかというのが決められております。

 もう一つ、逆にいうと、民事事件というのも同じような理屈になっていまして、中身の問題として、被害者にどんな権利が認められるのか。それをどういう手続きで行使すればいいのか。どうすれば手続き上、実現できるのかという、この二つの側面が法律に決まっています。

 ですから、裁判手続きや、被害者の相談に乗っていただくときに、中身の問題の相談なのか、手続きで今困っているのかを理解して、相談に乗っていただけると分かりやすいかと思います。

 基本的に裁判所の構造はって、刑事裁判も民事裁判も同じ法廷を使い、実態は使う法廷を分けているのですが、構造としては同じような位置関係になっています。座る位置が違うというだけです。

 裁判所は傍聴を毎日やっていますし、ふらっと行って傍聴できるので、この先、被害者に支援ということであれば、生の法廷を是非一回見ていただければと思います。

 原則として刑事裁判の場合も民事裁判の場合も、一番奥の高い、法壇というところに裁判官が座っています。ケースによって3人の場合と1人の場合。最近始まった裁判員裁判の場合は、ここに3人の裁判官と6人の裁判員、後ろに補充が3人という、ものすごい大所帯になっていますが、判断する側の人間は奥の一番高いところに座っています。一段低いところは原則として書記官、あるいは速記官というポジションになります。裁判官も書記官も、同じような黒い法服を着ています。刑事裁判の場合は、ここにいる検察官、弁護人が一応主体ということになります。検察官は向かって左側、弁護人は向かって右側で、これまでの裁判員裁判でないケースの場合は、被告人は傍聴席のすぐ前のベンチに、左右に刑務官に囲まれて座っていることが多かったです。ただ、裁判員裁判が始まって、弁護人の横に座るケースがこれから増えてくると思います。

 もう一つ、被害者が刑事裁判に参加できるという制度を、後でご説明します。新しい司法制度ということで始まったんですが、被害者の着席位置としては検察官の横になります。

 真ん中に証言台がありまして、裁判官に対して話をするとき、あるいは証人として呼ばれる時ときは、この証言台の前に着席するか、起立するか、いずれかによって、証言台の前で話をすることになります。基本的に、傍聴席には背を向ける形になります。

 実際に裁判をご覧になった方からよくお聞きするのですが、基本的に普通の法廷は、ほとんどマイクとかが入っていません。しかも、話をする人は横を向いて話をするか、傍聴席から見れば背を向けて話をしているので、非常に傍聴席からは聞きとりにくいことが多いです。

 特に、裁判員裁判になって相当制度は変わってきて、各役割の人間が分かりやすくというふうに努力はしていますが、通常の手続きだと、ここにいる、ほとんど三者は、何が行われているか分かっているので、いちいちこれはどういう手続きですってことを、説明をしてくれるチャンスはありません。

 そうすると、例えば被害者の方で裁判を傍聴しにいったとしても、どうも、何が行われたのか分からないという感想を持たれる方が多いです。何やら書類のやり取りがされして、皆、もごもご言っていて、何が行われたのか分からない。

 ただ、被害者に付き添っていただくボランティアの大きな役割の中に、法廷傍聴付き添いという役割もあります。それをやっていただくに当あたっては、手続きの流れを、理解をしておいていただいて、傍聴席から見ていたときも、ある程度「あれは何をやってるんだよ、これは何をやってるんだよ」と、「当事者同士が手続きを進めているけど、今それはどういう意味なんだよ」というところをご理解いただいたうえ上で、一緒に傍聴に行っていただけると、被害者の方にしてみればすごくありがたい。

 そういう意味で、ボランティアをされる方は、まず場所、法廷の中で座っている各人のポジション、役割を理解していただき、手続きが進んでいく中で、あの手続きはどういう意味があるというのを、理解していただければと思います。

 民事事件の場合、民事裁判も基本的に法廷の構造というのは変わりません。奥に裁判官がいて、一段低いところに書記官がいます。そして話をするときは証言台の前に進みます。ただ、双方に弁護士がついていたり、あるいは原告・被告がいろいろ主張をするときは、それぞれの席のままでやることがあります。裁判官に向かって、左側が原告、右側が被告になります。この着席位置というのは基本的に変わりません。同じように、この法廷の中でいろんな手続きが進んでいきます。

 ただ、後あとでご説明しますが、民事裁判の場合は、必ずしも法廷を使わない手続きが進んできます。特に、第1回の裁判や、判決の時はこういうポジションで手続きが進みます。途中で、弁論準備手続きといって、小さな部屋を使って、そこに原告・被告双方が相対して、もう少し裁判官と近くで話し合いをする、裁判の手続きを進めるということがあります。それはあとで、時間があれば、説明致いたします。

 次に、刑事事件には手続きと中身があって、中身の話から説明します。まず、刑事事件の場合は、そもそもどういう行為をすれば犯罪になるのか、犯罪の対象になるのかというところからスタートします。

 被害の相談を受けていたり、被害者相談、電話相談されるときに、一番悩ましいところが、本人が被害を受けていると主張されていて、加害者を処罰してほ欲しいと被害者の方が要望されていたとしても、実際はなかなか、法律に規定のない場合は、刑事裁判、いわゆる処罰の対象にならないことがあります。必ずしも、被害や損害が発生しているから、イコール犯罪が発生しているという扱いにはならないというところは理解をしていただければと思います。

 相談に乗っていて、被害者の言うままに、安易に、「それは警察に行ってください」と言うと、例えば警察で取り扱ってくれない。すると、被害者の方は余計そこで不満がたまりますし、相談によって、ぐるぐる回されることによって、トラブルが大きくなってしまうので、被害の発生イコール犯罪の発生、必ずしも、被害が発生したから刑事裁判になる、警察が取り扱ってくれる、取り上げてくれるわけではないことを、ご理解をいただければと思います。

 比較的、犯罪の被害者であるというふうに弁護士のところにご相談にみえた中でも、「それはなかなか、警察に行って、取り上げてもらって、刑事裁判にして加害者を処罰してっていうのは難しいですよ」と、説明しなければならないこともあります。そこの線引きがなかなか難しいところですが、直観的にそれは刑事事件、警察の介入するべきところではないと思うならば、その可能性があるというぐらいに理解しておいていただければと思います。

 よくあるのが、「取引先が代金を払ってくれない。これは詐欺じゃないか」という話を聞きます。あるいは、「取引先が倒産した。払ってもらえなかった。だから、詐欺で訴えたい」。一般的に詐欺というのは、最初からだます意思があって、取り引きをして、初めて詐欺という犯罪になります。通常の取り引きをしていて、資金繰りが苦しくなって倒産して、払えなくなったという類型を持って、警察に相談に行っても、恐らくそれは全く介入してもらえないだろうということがあります。

 それを難しい言葉、法律的なキーワードでいうと、罪刑法定主義。要するに、法律で決まっていない行為については、処罰はできませんということです。

 これは、なぜこんなことになっているかというと、刑事裁判というのは、一人の人間を捕まえて、刑務所に収容して、長期間その自由を拘束するという、極めて重大な行為を行える手続きです。何が犯罪か決まってないと、ある意味、権力を持っていればやりたい放題になる。そうすると、何が犯罪かあらかじめ決まってない行為については、処罰を受けなくていいというのは、一般のいろんな人の人権保障のための基本的最低ラインということになります。

 もう一つ、余計なことになるかもしれないんですが、被害者の問題にかか関わっていると、特に刑事事件の手続きについて、「加害者が保護されすぎじゃないか。犯罪をしたことが分かっているのだから、刑事裁判なんてまだるっこしいことをしないで、何で処罰をしてしまわないのか。刑を決めてしまわないのか」という、被害者の方の憤りに触れることがあるかと思います。

 被害者の方のそのお気持ちは当然のことなのですが、ただ、手続きなしで刑務所に放り込むような国家がいいのか、最低ラインとして、相談にを乗る側の頭の中には持っておいていただければなと思います。どんな極悪な加害者でも、きちんと刑事手続き上の保障された権利はある。それは、いわゆる国家のセーフティネットとしては必要不可欠なことで、やむをえ得ないということを、被害を受けた側を援助する側は、頭にとどめておいていただければと思います。

 加害者側の弁護人の態度でいろいろ問題になる、耳目を騒がせている事件はあります。それは、被害者側の気持ちからすれば、憤りを感じたり、不満を感じたりすることは当然ですが、だからといって、手続きなしに刑務所に放り込まれるような世の中がいいことかっていうところだけは、頭にとどめておいていただいて、被害者の方に接するときも、被害者の方のご不満は当然だけれども、国家の手続きとしてやむをえ得ないところはあるんですというところは、援助する側としてご理解をいただいておいていただければと思います。

 では、中身として、どんなことが犯罪になりますというのが決まっています。では、どういうふうに処罰されますかというので、今、一応日本の法律で決まっているのは、大まかなとこで死刑、懲役、罰金――という種類になります。

 これを、どういうふうに判決が決めているのか。判決の中で分かりにくいのが、執行猶予判決。よく被害者の方からのご相談で、「刑事裁判を受けていたはずなのに、外を歩いていました。すぐ出てきています。あれはどういうことですか」ということを聞かれることがあるんですが、恐らく執行猶予判決を受けてきたということだと思います。

 分かりにくいのですが、執行猶予判決というのは、要するに、法律上の要件として、「これまで前科がなくて、3年以下の懲役の言い渡しを受けたときは刑を猶予します」という意味です。その判決の宣告の方法としては、「懲役1年6月執行猶予3年」という言い方をします。すると、被害者にしてみれば、懲役1年6月と、ぱっと受け止めて、そのあとの執行猶予3年ってとこを飛ばして、理解をしてしまう方が多いです。

 執行猶予3年というのは、「判決が確定した日から3年間は、この刑の執行を猶予します。その間に何もなければ、もうこの懲役は行かなくて済みます」という意味の判決です。執行猶予判決を受けた場合は、その人が自由になるとっていうことを、弁護士用語で身柄が釈放されるとっていう言い方をするんですけども、もうその判決受けた、その日のうちに釈放されます。何事もなければうち家に帰って普通な生活を、その翌日からは営んでいけます。

 その執行猶予判決が、特に交通事故なんかですと、たとえ人が亡くなっていたケースでも、比較的これまでは執行猶予判決がつく付くことが多かったです。逆にいうと、前科がなくて死傷事故を起こしても、ほぼ執行猶予がつ付いていたケースです。

 そうすると、被害者にしてみれば、自分の身内は亡くなっていて、取り返しのつかないことになっているのに、なぜ加害者は何も失ってないのだと。それはそのとおりですが、この判決の種類の中で執行猶予判決という判決を得ているからというふうにご理解をいただいて、ご説明をいただければと思います。というところまでが、中身の問題とっていうことになります。

 では、手続き的にどんなふうになっているのかというところを、ザッと説明をさせていただきたいんですが、今日、犯罪被害者支援センターで配られたリーフレットで、「刑事手続きの流れ」とっていうのをお持ちであれば、それを見ながら。よろしいでしょうか。上のほうから時系列的に、手続きのほうをご説明していきます。

 まず、被害が発生する。事件が発生する。犯罪が発生するとっていうことになります。
 直ちに捜査が開始されるケースもあれば、当然、例えば殺人事件、遺体が発見されたりすれば、直ちにもうそれは、問答無用で捜査っていうのは開始されます。あるいは、場合によればったら、被害がまだ捜査機関、要するに警察に認識されてなくて、捜査が開始されていないケースというのもあります。窃盗だったり、詐欺だったり、性犯罪だったり、被害者が被害を親告申告しないと、被害の認識ができないっていう犯罪はあります。

 そのようなときには、まず、警察に相談をする、被害届を出す、あるいは告訴をする、告発をするということで、捜査の開始を促すかどうかというのが必要になります。特に親告罪といって、告訴が必要というふうに法律上決められている犯罪については、告訴をしない限り、捜査、刑事事件としては進みません。

 主な告訴が必要になっている事件としては、強制わいせつ、強かん等の性犯罪があります。性犯罪というのは、被害の発生を把握しにくいと同時に、被害者が処罰を求めない限り、処罰の対象にできないとっていうことで、まだ捜査が開始されてない段階で相談を受ける中で、一番やはり多いのが性被害の場合です。

 性被害の場合に、被害者の方に、どうしたらいいでしょうかとご相談を受けたときに、ポイントとして覚えておいていただきたいのは、刑事裁判をする場合の被害者にとっての意義。

 当然刑事裁判の中では、後あとで説明しますが、警察官から聴取をされたり、性被害の場合は、例えば身体検査だったり、写真の撮影だったり、当然、被害者にとってみれば苦痛なこともあります。ただ、それでも刑事裁判をやることの意義、安全確保だったり、加害者を処罰する。特に、性被害の場合の加害者っていうのは繰り返すことが多いので、きちんとやったことの責任を取らせる、特に性被害の加害者っていうのは、自分の行動の重大性を認識してない加害者も多いですから、そういう意味で、刑事裁判をする意義があるのであれば、きちんと処罰を受けさせる。まず、被害を申告する、捜査を開始させる意味があるんではないですかというふうに、アドバイスをすることが多いです。

 では、実際に被害届だったり、告訴・告発をして捜査が開始されました。その中で、被害者としてはどんなアクションを求められるかといいますと、ここにも書いてありますけれども、警察官から事情を聴かれて、いわゆる供述調書というものを作成します。

 裁判員裁判になってだいぶ変わってきたとはいえ、今の日本の裁判の中では、基本的に裁判所でしゃべるというよりは、事前に作っておいた供述調書をもって裁判官が判断をするという比重が非常に多いです。そうすると、警察官に対して事情聴取を受けて作った供述調書、あるいは、検察官から事情聴取を受けて作った供述調書が、裁判になったときに、非常に重要な証拠となります。

 昨日の裁判員のニュースの中でも、多分被害者の身内の方が、警察官からの事情聴取に応じて作った供述調書の内容について、裁判員から質問で、「今、法廷で述べたことと、事前に作った調書と違うのはなぜですか」とっていうような聞かれ方をしていたかと思うんですが、そういうふうに、供述調書っていうのは証拠となります。非常に重要な証拠となります。

 ですから、警察官からの事情聴取を受けたときに、あるいは検察官からの事情聴取を受けたときに、ボランティアの方が付き添うケースもありますし、あるいは、事前に相談を受けて説明をするケースもありますが、「そこで作る調書というのは、単に事情の聴き取りだけじゃなくて、非常に大きな裁判にとって証拠となるんですよ。そうすと、記憶に違うことなどを調書にしてしまうと、あとでそれを訂正するというのはなかなか難しい手続きなので、必ずきちんと自分の記憶のとおり、あるいは、自分の思ったとおりの調書を作ってきてもらってくださいね。そこは遠慮する必要はないですよ」というようなアドバイスを、被害者の方にするということが非常に重要になります。

 あと、被害者の方、これは当然なのですが、「何度も同じことを聴かれます」とか、「もう警察で話をしたから、検察で話をしなくてもいいじゃないか。なぜ改めて検察庁とっていうところから呼び出されて、どうも同おんなじ話を一から聴かれたのですが、どういうことでしょう」というふうに、疑問を持たれる方もいらっしゃいます。

 基本的に日本の裁判制度では、裁判を維持する、加害者に対してを、処罰を求めていく主体というのは検察官になります。捜査までは警察の方がメインになっていただきますが、裁判になればもう検察官がメインになりますので、検察官にきちんと一回被害の状況を、説明をしておく。、検察官と意思疎通をしておくというのは、非常に重要な作業になります。確かに、同じことなので、被害者の方にしてみれば非常に苦痛な作業ではあるんですが、警察官と検察官ではまた役割が違うということで、それは必要な手続きなんだということを、理解をして、ご説明をしていただければと思います。

 捜査中、被害者の側にしてみれば、警察ないし検察庁からいろんな要望を受けて行動をしますが、なかなか捜査状況がどうなっているのか分からないという不満は、よく被害者の方からお聞きします。

 特に、犯人が逮捕されているようなケースであれば、次にご説明しますが、法律上の時間の制限がってあるものですから、時間を区切って事件とっていうのは進んでいきます。くのですが、加害者の側が逮捕されていないケース、いわゆる在宅事件、そういう場合ですと、法律上事件の処理のリミットというのがないもんですから、処分が決まるまでに非常に長くかかるケースもあります。

 特によくあるケースが、交通事故で死亡までいってない事故なんかですと、処分が決まるまでに半年、1年かかっている。その間どうなっているのか分からないっていうケースは、改善しようといろんな機関が努力はしていると思うんですが、あります。そうすると、被害者にしてみれば、何がどうなっているのか分かりませんっていうようなことを、よくご不満にお持ちになっているし、確認をしたいっていうお気持ちを持ってらっしゃる方もいらっしゃいます。

 そういうときは、「遠慮なく捜査官、特にメインでこの事件に捜査当たってらっしゃった警察官に聞いてしまっていいですよ」というようなアドバイスをしていただくことも必要ですし、逆にいうと、それぐらい時間がかかることもありえますという知識は、被害者の支援に当たるボランティアの方には、分かっておいていただければなと思います。

 こういうことが、被害者が、被害を受けてから捜査期間中、行っていくアクションになるんですが、では、捜査の経過と加害者の立場というのはどうなっていくのかといいますと、まず加害者が特定されます。加害者が逮捕されるケースと、逮捕されないケースがあります。必ずしもすべての事件で加害者が逮捕されるわけではないというのは、被害者の支援に関かかわる立場としては分かっておいていただければなと思います。

 たまに警察に呼ばれている、検察庁に呼び出しはされているけれども、普通にうち家にいるとっていうケースはあります。それは、いわゆる在宅での捜査というケースになります。

 もう一つ、逮捕はされたけれども、こう留拘留をされなかったというケースもあります。日本の法律上、まず逮捕をして、今日の朝なんか、芸能人の薬物使用で「送検だ、送検だ」とって騒いでいたと思いますけども、あれは検察庁に送るとって書いて送検とっていうのですけれども、検察庁に一回送って、そこでこう留拘留するかどうかを決める手続きがあります。検察庁に行って、裁判所に行って帰ってくるんですが、。それが、加害者をこう留拘留するかどうかを決めているとっていうことになります。ですから、逮捕をされても、こう留拘留をされずに家に戻されるとっていう場合も中にはあります。

 逮捕というのは、基本的に最大でも48時間なので2日ぐらい。そこで、その間に送検されて、裁判所がこう留拘留決定をすれば、そのままこう留拘留といって、いわゆる身柄が確保されたままの状態が続きますが、場合によってはたら釈放されて在宅事件に変わる場合というのもあります。

 この手続きですと、何となく全部が、犯人逮捕だったら任意出頭してとっていうふうに誤解をしてしまうし、被害者の方もこの事件は逮捕されているのではないか、こう留拘留されるのではないかとっていうふうに誤解をされて、加害者が家にいることに非常に不満を覚えることもあるのですが、そういう場合もありうるということはご理解をいただければと思います。

 逆にいうと、加害者がこう留拘留されているケースというのは、先ほども説明しましたが、法律上こう留拘留してる期間のリミットはって決まっていますから、裁判が早期に始まります。法律上、加害者の拘留というのは、一つの罪名については、1回については20日間というふうになっていますから、20日後には何らかの手続きが決まります。場合によればったら、再逮捕だったり、追起訴だったり、いろんな手続きで長くなる場合はありますが、基本的に20日で何らかの結果が出ます。

 ただ、拘留されてないということになると、後ろの、法律上何日間かとっていう規定のが、適用がないものですから、ずるずると長くなってしまう傾向にあるとっていうことになります。

 では、被害者が逮捕されて拘留をされました。すべてが正式な裁判になりますかとっていうと、そういうわけではなくて、「刑事手続きの流れ」の中でも書いてありますが、不起訴になる場合もあります。あるいは、起訴なんだけれども、略式命令というような場合もあります。
 略式命令、いわゆる略式起訴とっていう言い方をしますが、略式起訴とっていうのは、罰金の場合が大半で、その日のうちに罰金を払って出てくるというケースになります。そうすと、起訴は起訴でも、もうその日のうちに、罰金さえ払えば帰ってこられる。

 よくあるのは、比較的程度の軽い傷害事件だったりすると、20日間こう留拘留はされていたけれども、罰金で終わって、20日目にもう出ていました。「あれ、加害者はなぜ処罰されないのですか。裁判はいつ始まるのですか」ってというような疑問を持たれる被害者の方もいらっしゃいますが、恐らく略式で、裁判を受けたのだけども、その日のうちに終わっています。罰金を納付して終わっているますってという場合もあります。

 あるいは、中には、不起訴になったというケースもあります。不起訴になるときの、一番被害者側が悩ましい問題としては、捜査中の示談というのを、被害者の側にすると、非常に熱心に申し込みをされることになります。

 これはなぜかというと、先ほど言ったように、親告罪といって、告訴が要件の犯罪があります。それは、被害者が告訴を取り下げさえすれば、犯罪として成立しなくなるってということになります。そうすると、逮捕されてこう留拘留されていた期間中に、被害者との間で示談が成立して告訴が取り下げられれば、起訴できなくなる。いわゆる不起訴になるということになります。

 中には、不起訴が分からない、示談の意味が分からなくて、「どうもなんだか弁護士が来て、熱心に謝罪をして、金銭賠償をするってということだったので、書類を書いてしまいました。それでも裁判は続くと思っていたら、加害者が実はもう不起訴になって出てきてしまいました」というようなケースも、中にはあります。それは例えば、被害者の方が、今、担当の捜査官だったり、あるいは外部に相談をせずにされた結果なんですが、一回告訴を取り下げると、再告訴ってというのは無理ですから、事件としてはそこで終了してしまう。しかも、加害者が処罰されないまま終了してしまうというようなことがあります。

 そういう意味で、早期の段階でご相談を受けていたときは、まず、「あなたはこの件についてを、告訴をしますか。刑事裁判をやる意義があるとお考えですか。加害者の処罰を求めますか」。そのうえ上で、「もしこれ、告訴を取り下げるってということになれば、この件について再度処罰を求めるってということは難しくなりますよ」特に、「加害者側に弁護士がついたりすると、加害者側からそういうアプローチを受けることがあります。そのときに、きちんと判断をして、受けるかどうかを決めてくださいね」というようなアドバイスをしていただくことが、非常に重要になります。

 起訴するか、起訴しないかというのは、これはもう検察官の判断になります。ここに被害者の側の意向が関与するってというのは、なかなか難しいです。ただ、通常、重大事件であれば当然起訴されます。

 万が一、起訴、不起訴になったときに不服であれば、また別途ご自分で調べていただければと思いますが、検察審査会という制度はあります。

 その上うえで、正式な裁判、起訴されて正式な裁判が始まりましたということになると、ここにもありますように、刑事裁判の流れというのが進んでいきます。

 刑事裁判の流れというのは、一回是非、実際の裁判で確認しながらご覧らんになっていただければなと思うんですが、起訴状が朗読されて、いろんな証拠が出されて、証人だったり、被告人だったりがそこで質問を受けて、判決ということになります。

 これまでは、被害者というのは、先ほどご説明したように、法廷の中の傍聴席に座っていて、この手続きを外から見ているというポジションでした。ただ、昨年の12月から、新しい被害者参加制度という制度が始まりました。これは、いわゆる傍聴席から、検察官の横に被害者が座れるようになったというだけではなくて、これまでは基本的、法廷の中でいろんな活動をするのはすべて検察官。被害者の意向としては、検察官に言っておいて反映させるってというだけでしたが、そうではなくて、被害者が法廷の中に入って直接自分でいろんな活動をする。制限はありますが、一定の制限の範囲内で、それでもやれることが増えるようになりました。

 これまでは、例えば加害者の親族は出てきて、「今後しっかり監督します」とか、あるいは「謝罪はきちんとしております」とか、「誠意を持って賠償を尽くします」とかいう話が出たときに、「本当か」と思いながら被害者は傍聴席にいて、直接の質問っていうのは認められていませんでした。ただ、それが可能になりました。

 もう一つ、被告人が、やはり同じように「反省しております」とか、「被害者の方には本当ほんとに申し訳ないことをしました」みたいなことを述べていたとしても、これまでは直接の質問っていうのは認められていませんでした。検察官に聞いてほしいことを委ねておいて、検察官が聞いてもらうことので満足するしかなかったんですが、直接、被告人に対しても質問することができるようになりました。

 ただ、これはすべての事件について被害者参加ができるってというわけではなくて、一定の制限の範囲内で、一定の罪種の一定の犯罪について、かつ、裁判所が認めたときに、ということになります。

 同じように、被害者のために制度を改革するというのが同時に増えておりまして、例えば、いろんなところで、新しい犯罪被害者支援制度ってのいうことでリーフレットも出ていますし、ホームページなどで検索していただくと分かりやすい図で説明も出ていますので、是非一回、被害者支援に携わる方にはご一読いただいておければなと思います。ここまでが刑事事件の刑事裁判、刑事手続きの流れということになります。

 ここからが、また違う司法制度、要するに民事事件の流れということになりますが、まず、中身としてはどんな権利が認められているのか。基本的に、現在の法律で被害者が加害者に対してできることというのは、すべての損害を金銭に評価しなお直して、金銭的に賠償を求めるという手続きになります。

 当然これは、被害者が本当ほんとに求めていることとのギャップは大きいです。例えば、被害者の方がよくおっしゃるのは、「本当ほんとにきちんと謝罪をしてほしい」、「真摯真しに反省してほしい」、「なんで自分が被害に遭ったのかってことを知りたい」、あるいは、「同おんなじように被害を受ける方をなくしたい。こういう目に遭うのは自分だけで十分だ」ってというようなことをおっしゃる被害者の方が、本当に多いです。

 ただ、日本の司法制度において認められている権利というのは、受けた被害を金銭に換算をして、金銭的な請求をするというのが原則になります。ものすごくそこは、被害者の方がしてほしいこと、求めていることと、大きなギャップがあるのですが、そこは、被害者支援をする側は十分理解をしておいていただければと思います。

 場合によって、例外的ですが、違法行為がまだ続いているような場合、例えば、ストーカー行為が続いている、あるいはドメスティックバイオレンスのが、まだ危険がまだあるってというような場合には、法律の規定がある場合、ストーカー行為規制法だったり、DV防止法だったりの規定がある場合には、その行為の差し止めを裁判で求めるという手段もあります。もう一つ、基本的に日本の法律では、この損害賠償請求権というのも3年で時効にかかります。被害を受けたとき及びと、および加害者が誰だれかを知ったときから3年間、この権利を行使しないと、時効によって消滅をしてしまいます。基本的に、被害を受けたときで、その加害者が誰だれかはっきりしたってというのは、刑事事件、加害者が逮捕されて刑事裁判で有罪になったときという感覚でいいと思いますが、そこから3年間、損害賠償請求権を行使しないままにしておくと、法律上は権利を行使できなくなります。どんなに被害が重篤であっても、時効にかかってしまう。そこは、被害者の方にとっては非常に重要なポイントになるかなと思います。

 では、この損害賠償請求権とは、どの範囲で認められているのかということですが、まず簡単にいうと、実費と、被害がなければ受けられたであろう利益ということになっています。医療費だったり、交通費ってというのは、正まさに支出を求められた費用、実費になります。

 ただ、それだけではなくて、例えば、被害を受けたから仕事に行けなかった、その間の収入が減った、あるいは、被害を受けたことによって後遺症が発生してしまった、そして、後遺症によって、その後、同じ仕事に就けなくなって収入が減ったということの、被害がなければ得られたであろう利益を含めて、損害を賠償しなさいという法律上の規定にはなっています。

 ただ、受けた行為とその損害との間の因果関係という言い方をするんですが、それが必要とされるということと、被害者に落ち度がある場合。刑事事件ってというのは、基本的に被害者の落ち度はあまり対象にならないのですが、民事裁判で損害賠償請求をした場合には、被害者側の落ち度があれば、その分、減額される場合もあります。ここまでが、民事裁判の中の中身の部分、どういう権利があるのかってというところです。

 では、権利を行使する方法としては、どんな方法がありますか。これは手続きの面なのですが、まず、加害者と直接交渉をする方法。いわゆる示談というような言い方をするのは、このことを意味していると思います。、あるいは調停制度を利用する、あるいは民事訴訟、いわゆる民事裁判を起こすというような方法が考えられます。これはどういうふうに、どんな手続きを使って権利を実現するかってという手続き面です。民事裁判の流れについては、このパンフレットにある、「民事裁判第一審手続きの流れ」というところを、ご覧らんになっていただければと思います。

 いろんな制度にも一長一短がありまして、まず、調停制度ってというのは、調停委員という、裁判所に任命された委員が仲立ちをする話し合いというイメージで、理解しておいていただければいいので、そんなに法律論を戦わせたりする必要がないです。逆にいうと、当事者でも何とか手続きを進められる制度になります。

 逆に言いえば、それで合意に達すれば、調停が成立すれば、調停調書という裁判所の作った文書が作成されて、それは、民事裁判で判決を得たのと同じ効力があります。この場合の効力というのは、相手方がたが調停で決まった約束事を履行しない場合には、強制執行といって、裁判所の手続きを使って、強制的に執行をすることができる。いわゆる強制執行ってというと、何だかイメージがつか掴みにくいんですが、いわゆる回収を、裁判所の手続きを使ってできます。

 例えば、金銭100 万円払いなさいという調停が成立をして、相手が払わなかった。そうすると、裁判所を使って相手の預金口座、あるいは、場合によればったら相手の勤め先に、お給料の差し押さえをする。その預金口座から調停で決まった金額を回収をする。あるいはお給料から、お給料はって全額差し押さえはできませんよとって法律上の規定になってるんですが、お給料から少しずつ回収をしていくというような、強制的な回収手続きがと取れるとっていうことになります。

 ただ、調停とっていうのはあくまでも話し合いですから、話し合いでも合意に達しない場合は、当然成立はしません。相手が出てこないとっていう場合には、手続きは不成立になってしまいます。

 では、逆に民事裁判とっていうのは何がいいのかとっていうと、基本的に、欠席判決という言い方をしますが、相手が出てこなければ、こちらの請求がそのまま認められるというってことになります。ただ、認められても、強制執行をどうやってするかというのは次の問題になるんですが、認められれば強制執行ができることになります。

 デメリットとしては、非常に時間がかかる。早くても2、3か月、本当ほんとに早くて2、3か月、長ければ1年とっていうのはざらです。時間がかかるというところがデメリット。もう一つは、なかなかご本人だけでは手続きを進めにくい。どうしても弁護士などに依頼をすることが必要になるということになります。

 民事裁判の場合には、中身の権利が決まっていて、手続きが法律上用意されているのですが、実際問題として、被害者の支援に携わる上うえで知っておいていただきたいのは、現実上の問題、限界とっていうのは非常に、特に民事裁判の場合はあります。

 こんな言い方をすると変なんですが、加害者というのは、基本的に裕福な方ばかりではありません。当然、食うや食わずで資力がないとっていうような場合もあります。あるいは、加害者が実刑判決を受けて服役をしてしまうといった場合もある。そうすると、それまで勤めていたところは、当然実刑判決を受ければ解雇されて、加害者の収入っていうのもなくなります。

 そうすると、法律上の権利として、加害者に対して損害を賠償してもらう権利っていうのはあります。手続きでも、それは確認をと取れると思います。裁判でも勝ちます。ただ、実際に資力のない、あるいは刑務所にいる加害者から支払いを受けられるか。どうやって回収をするかとっていうのは、また別の問題です。

 はっきり言うと、裁判所はそこまでは援助はしてくれません。だから、裁判をやれば自動的に被害が回復される、金銭の賠償が受けられるとっていうふうに、誤解をしたまま民事裁判に突っ込んでしまうと、非常にそこで失望をする。お金をかけて裁判をしたのに、結局、何にもならないんですかというような不満を持たれるということになります。

 ただ、それは申し訳ないんですけど、今の日本の裁判制度の限界で、特にその限界が犯罪被害に遭われた方に受けられたかた、加害者にこういう問題が生じた場合には、端的に表れてしまうというところはご理解をいただいて、被害者のご相談に乗るとき、あるいは被害者にアドバイスをするときには、頭の中に入れておいていただければと思います。「裁判すれば大丈夫だよ」とっていうような言い方をしてしまうと、結果として、その被害者に持ち出しを強いてしまう。あるいは、期待が大きいだけ、失望したときの気持ちが、非常に大きな反動になってしまうことがあります。

 もう一つは、民事裁判というのは必ず原告が訴えを提起して初めて、要するに、被害者の側からアクションをして初めて始まる。刑事裁判というのは、捜査機関が捜査を開始して加害者を逮捕してくれれば、自動的にその手続きというのは始まっていくんですが、民事裁判っていうのは、権利を行使して初めて始まります。

 ただ、被害者っていうのは、本当ほんとに被害の直後というのはもうそれどころじゃない。日常生活が一変してしまって、しかも、刑事事件の捜査には協力をしなければいけないとっていうような状態で、そういうときに、自分が原告になって裁判を起こしますかというと、その被害者に、被害直後にそういう負担に耐えうるだけの余裕があるかとっていうと、実際問題としては非常に厳しい。それは分かっておいていただければなと思います。

 かつ、先ほども言いましたように、時効という制度があって、ただずっとほう放っておくと権利はなくなってしまいます。何年も経たったときに、おもむろにというふうになっても、基本的に民事裁判の時効っていうのは3年になっていますから、その3年経たったときに、やっと落ち着いてきました、じゃあ、改めて権利を。というふうになっても、時効にかかってしまっているというような、ものすごく法律上のジレンマがものすごくあります。

 かつ、被害者が原告になって裁判を、提起をして訴えたとしても、経済的に報いられるかというのは、残念ながら、先ほど説明したように、保証の限りではないというところです。一般的に刑事事件の場合は、経済的に民事裁判を起こして報いられるかというのは、極めて厳しい場合が多いです。そういうのは、被害者の支援に携わっていただいている中で、ご理解をいただければと思います。

 そういう中で、いかに被害者の方に簡単に民事裁判を利用していただけるかということので、新しくできた制度ができたのが、損害賠償命令という制度になります。これは、これまでだったら改めて民事裁判を起こさなきゃいけなかったものが、刑事裁判に引き続いて、極めて簡単な手続きで決定まで得られますよとっていう制度になります。しかも、費用も2,000円という低額な手続きです。

 ただ、この手続きができましたといっても、これはあくまでも手続きができただけですから、回収可能性が上がるかというと、またそれは別の問題とっていうことのはご理解をいただければと思います。いかに簡単に法律上の権利を裁判で認めてもらうかとっていう手続きが、特別に作られただけとご理解をいただければと思います。

 ものすごく駆け足できましたが、最後に、刑事裁判と民事裁判が交錯する場合というのは、当然、刑事事件の手続き中にあります。

 これは、いわゆる刑事裁判が続いているときに、加害者の側から損害賠償金の支払いを申し出るとっていう場合です。加害者の側がなんでそういう行動をとるかというと、当然、判決の量刑を決める中で、被害者に対していかに誠実に謝罪をしていたか、いかに被害回復の努力をしたかとっていうのが、どんな刑になるかを決める上うえで非常に重要な要素になっています。であるからこそ、刑事裁判の中で、被告人だったり、被疑者だったりから示談の申し入れがある、謝罪の申し入れがあるとっていうのは、非常によくあるケースです。

 ただ、これを被害者が受けるべきなのか、受けるべきじゃないのかは、非常に被害者のジレンマになります。先ほど説明したように、必ず、あとで民事裁判をしたからといって、経済的な回復が得られるとは限りません。特に被害者本人には資力がなくて、被害者の家族にしかお金がない場合とっていうのは、今の日本の法律ですと、成人だったりすると、基本的に請求できる相手は加害者本人だけです。そうすると、どんなに加害者の家族であろうが、法律上は賠償する責任はありません。

 ただ、刑事裁判が続いている間は、家族の心情として、自分の身内の刑を軽くして欲ほしいからお金を払うという申し入れを、家族として、してくるときがあります。それを断ってしまって、あとで裁判で家族に対して請求ができるかとっていうと、そんなことはありません。

 そうすると、示談の申し入れに応じないとすると、金銭的に回復をするチャンスっていうのは、今後、現れないかもしれない。裁判をする権利はあるけれども、回復はできないかもしれない。ただ、ここで被害弁償に応じてしまう、あるいは示談が成立してしまうというと、当然、加害者にとっては有利な事情として、刑が多少なりとも減刑されてしまうというような、被害者にとってみれば、非常に大きなジレンマに、このとき追い込まれることになります。

 これは、私わたしが弁護士として被害者からの相談に乗っていたとしても、とても、「こうしなさい」とは言えない。あとは、事情を全部説明して、被害者の方に選んでもらうしかありません。中には、「金銭的な被害はもう結構です。その代わりいかに重く裁いていただけるかに、重点を置きたいです」という方であれば、「では、応じる必要はないですよ」と話をします。

 ただ、どうしても経済的な状況があって、何とか少しでも金銭的な賠償被害をすることを優先したいというって被害者の方も、中にはいらっしゃいます。そうすると、「いろんなデメリットはあるにせよ、もしかしたらこの金銭賠償を受けることが、実質的な経済的被害の回復には唯一のチャンスかもしれないよ。ただ、そのデメリットはある」というって説明をして、被害者の方に選択をしていただくということになります。

 ものすごく駆け足で、「犯罪被害者と司法」についてってことで説明しましたが、大体流れとしては、民事と刑事が二つあります。刑事の中身と手続き、民事の中身と手続きが決まっています。いろんなところで、ただ、法律で決まっていることと、実態の中での躓いてしまうちゃうところは、また別なところにあるということころをご理解いただきたいと思います。

 

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