講義

 
テーマ:「犯罪被害者支援の現状等について」
講師:佐々木 宏 氏(NPO法人静岡犯罪被害者支援センター事務局長)

 犯罪被害者支援に当たって、遺族の皆さん、被害者の方々、関係機関である弁護士会、検察庁、警察、裁判所、臨床心理士会等と連携を取っておりますけれども、具体的な話をさせていただき、犯罪被害者支援についてご理解いただきたい。

1 当支援センターの概要

(1)体制
 10年前に設立、現在、理事長以下役員18名、事務局5名、支援活動員(ボランティア)38名で構成している。
 協力支援団体である静岡県弁護士会犯罪被害者支援対策委員会の所属弁護士23名、静岡県臨床心理士会16名の協力を得ている。
 静岡県の場合は、東西に長く、裁判所も静岡・浜松・沼津地区に分轄されている。
 特殊事情を考慮して対応に当たっては、東・中・西部の地域で支援できる体制をとっている。

(2)財源
 県の業務委託費、日本財団の助成金、会費、企業・団体等からの寄附金・募金などの浄財で賄い、総額1,500万円位で運営している。

(3)事業の概要
 相談事業の内うち、電話相談受理は、昨年度(4月~3月)約400件で、直接支援事業では、公判付添い、検察庁付添い、病院付添い等約100回、支援活動員と共に支援している。
 傾向としては、交通事故事件、性犯罪の相談が増加、その背景は、去年12月1日から刑事裁判での被害者参加制度の開始、損害賠償請求命令申し立て制度の導入など、犯罪被害者支援の意識が高まっていると受け止めている。特に交通死亡事故関係の絡みの相談増加、当然、付添い支援も増加している現状にある。

(4)具体的な支援
 支援センターと被害者との関係ついての情報経路は、主に三つのケースがあるります。
 一つは、警察(捜査機関)からの情報提供。~事件・事故の際に、警察が一番早く現場に赴き、概要を知りう得る機関。
 二つは、当センターの専用相談電話(209-5533)、からの情報。
 三つは、他機関からの依頼情報。~弁護士会、法テラス、検察庁、裁判所、自治体等で、DV関係ではDVセンターからの情報提供も含む。

ア 面接・カウンセリング
 情報提供受理後、相談者(被害者等)へ連絡し、聞き取り後同意を得て、可能な限り面接相談に結びつけている。
 面接する中で、性犯罪被害の場合は、引きこもりや男の人を見ると震えが止まらないなどの症状には、臨床心理士によるカウンセリング、また、症状が非常に重い状態であるときは、精神科医の受診を勧め、早期回復に向けて紹介している。

イ 法律相談
 刑事裁判手続きや損害賠償請求手続きなど、相談者の同意を得て、静岡県弁護士会犯罪被害者支援対策委員会へ相談内容を連絡し、弁護依頼を要請している。
 また、検察庁との打合せについては、公判時の被害者等の傍聴など被害者への配慮すべき事項を要請している。

ウ 生活支援
 社会的に反響の大きい事件になればなるほど悲惨な状態になっているので、早い段階から同意を得て、ご遺族の方の生活支援を行っている。

エ 行政機関との関係
 市役所の関係では言うと、お亡くなりになって、直ちに、ご遺族がしやらなければならない手続きがある。戸籍手続き、社会保険手続きなど、直接出向いて手続き処理を行う際には、要望に応じて、付添い支援可能で、また、事件後相当時間経過後、行政関係絡みの相談についても該当機関と連携を取りながら支援を行っている。

2 事件遭遇後の対応

 ~被害者(遺族)の方々に、どのような事が起こりうるか。~
 被害者の方々を取り巻く環境や置かれている立場によって異なるりますが一般的に、予測されることである。

(1)発生直後
 凶悪事件(居宅内での殺人事件)の場合では、ご遺族立会いの下で警察による検証が開始され、数日間要します。また、捜査上の必要性から、同時に、被害関係者からの事情聴取も行われる。さらに、社会的反響の大きい事件では、マスコミの取材記者によるコメント取りの為ため、自宅等へ押し掛ける。
 また、同時に、市役所等への様々な諸手続きを行わなければならない。
 当面、自宅で宿泊できない。数日間は、ホテルや親戚などへ避難する場所を確保する必要がある。
 また、ご家族の中に、児童がいおられる場合には、学校の問題があり、登校後の学校内でのケア、児童に体調の変化があった場合の措置等学校側に要望依頼をしておく必要がある。
 過激なマスコミ対応については、初期段階から弁護士へ依頼するなど、ご遺族の意思として、取材を受けない旨を文書で、弁護士を通じて、幹事社へ提出する必要がある。

 次に、「危機介入」支援について、警察は社会的反響の大きい事案になると、ご遺族の同意を得て、事件直後から10日前後支援を行う。これは事件直後、ご遺族の方は、何も手に付かない状態になっており、概ね諸行事等終了するまでの間、支援を行っている。

 次に、心理状態について、事件直後では、思考力、判断力が極端に落ちこみ、現実を直視できない状態や諸行事終了後の1 週間後には、疲労・脱力感、自失状態に陥ることがある。時間経過に伴い、乖離状態、感情麻痺と言われる症状が出る人方もおられる。
 周囲の人は、「気を張っているから、大丈夫」という話をするが、現実は、全く無表情な状態に陥っていることに、周囲の方が、気配り、注意する必要がある。
 また、不眠、恐怖、自責、動悸、将来不安などの症状は、時間経過毎に発症することがある。このような状態が概ね1カ月以継続している場合は、早期に、カウンセリングや精神科への通院を進勧めたい。

(2)一カ月経過後
 徐々に落ち着きを取り戻す状態になる1カ月以降には、身辺整理をしながら、今後の就労、医療、・福祉、・教育、・裁判など置かれている立場によって対応せざるを得ない諸課題が発生する。特に、福祉の問題は、家族の大黒柱を失い、生活を支える為ために、配偶者が働かざるを得ない状態の時ときに、心労による精神的・経済的負担を同時に乗り越えなければならない。
 現実に、就労中の成人が同居している場合には、一定の条件を充足していないと生活保護の受給ができない。また、体調を崩しても医療費が高額で通院できない被害者(遺族)の方もいおられる。

 行政側には、当面困っている被害者の方への貸付制度・見舞金制度、犯罪被害者への治療費の一部免除など経済的負担の軽減措置を要請しているが、実現されていない。

(3)犯人が逮捕された時とき
 公判準備のため為に、捜査機関からの被害者の情状意見聴取、刑事裁判手続き、被害者参加制度の説明を受けるが、公判の場では、加害者と対峙等することによる極度な精神的負担を強いられることになる。

 事件発生から逮捕されるまでの期間が長期の場合は、薄れかけていた被害者心理状態が再現することがある。特に、性犯罪の被害者は、事件後、変調を来きたしても通院できない人方、仕事を辞めて自宅に引きこもり悶々とした気持で、日常生活を送られている時ときに、突如、数年経過後に突如、警察から犯人逮捕の連絡があった。兆候があ遭った時ときに、適切なカウンセリング、専門医の治療を受けていない被害者は、その後、不眠症や過食症に悩まされ、現在治療中であるが、診断結果PTSDと認定され、治癒まで相当の年数がかかることになる。

 また、強制わいせつ猥褻は102件と昨年同期比約20%増加している。加害者は、被害者・家族の方々が、様々な後遺症に悩まされ、経済的、・精神的負担を抱えながら、日々の生活を送っていることに気付いてもらいたい。

3 被害者等の心理・感情

 事件直後から、体調に異変が生じた時ときは、放置しておくと時間経過とともに症状が進行していることもあり、早期相談、早期カウンセリング、早期治療を進勧めている。
 犯罪被害者支援は、多種多様に対応すべき事項が、同時並行的に、時間差によって発生する。その困難さは、事案の種別、被害者の生活環境、経済環境など受け止め方に差異があるので、十分な傾聴と支援側の対応能力・技術が必要となってくる。

 また、被害者(ご遺族)にとって、刑事裁判の傍聴、意見陳述の申し立てなど避けて通れない。概ね、逮捕から22日後に公判請求されるので、早期相談の中で、意思を尊重しながら、法律相談へ移行手続きを提案し、精神的負担の軽減に努めている。
 決定権は、依頼者にある。犯罪被害者に精通している医師、・弁護士へ依頼し、受任決定までの間、数日必要としている。被害者の中には、相談内容を言いづらいことがある。

 被害者(相談者)からの要請に基づき、付添い同行をしている。特に、初期段階から、親族等の適時適切な支援がされていないと対人不信、社会への不満、過激な言動になる人方もいおられるがますが、感情の表現であることを理解しておくことが重要であり、全く予期せぬ出来事が起こり、一度に対応する事柄が多く、措置する対応能力をが超えているだけであり、適切な治療をされていれば、また、元に戻ると言われている。
 正常な感情に戻るまでには、地域の人方々や家族の理解が最も必要である。また、悩んでまれている人方の相談には、解決策を見出していけるよう努力したい。

 ご遺族は、付添い支援をしている支援活動員に対し、「ここにいてくれればよい」、「余分な知識は必要ありません」、そばに寄り添ってもらいたい時とき、話をしたい時とき、相談したい時ときに適切に対応してくれる人を望んでいる。被害者の立場を思いやり、寄り添うことが如何いかに大切なことか、支援する側の資質、ハートのな部分が問われている。

 「人間不信」について、被害者は、加害者の直接的被害に加えて、二次的被害の要因である捜査機関(警察・検察)、医療・福祉機関、法曹機関、行政機関など被害者支援に関係わる者の言動やメディア報道、家族の瓦解誤解、地域の風評被害などの被害により、心の傷はさらに拡大し、「人間不信」へ増幅することになる。
 自らの気持ちを吐露できない状態になると、カウンセリングや医師の受診時に、本当のことを言えず、拒否反応を示すことがある。

 被害者は、十数年経過しても、心の傷はいえ癒えることはない、「何年過ぎたから、大丈夫」という言葉は、禁句である。弔問客は、哀悼の意を込めてご遺族に、「お悔やみ申し上げます」、「大変だったね」と弔意を述べられる。遺族は、「黙ってご焼香」をと思っている。意味するところを斟酌理解しておく必要がある。
 被害者の方々は、様々な難問に遭遇し、洞察力が鋭敏になっており、支援側の言動動作も十分に配慮し、た安心感を与持たれえる対応が求められている。

 私も34年前、父親を事故で失った。母親は現在90歳、葬儀後、心労のため為倒れ、闘病生活を現在も続けている。長男は以来、転勤も断念し介護を続けている。この事故を契機に、2人の人生は一変した。加害者に対する感情は湧かないが、30数年経過しても、自責の念はある。人間の命は、過失・故意にかか係わらず、失った遺族は一緒と感じている。

遺族感情についての事例
 一つは、高校生の交通死亡事故の例。、月命日、春・夏休み、新学期時期に、情緒不安定になる。子供部屋の未整理、整理する勇気が湧かず、整理すると申し訳ない気持ちにとなる。

 二つは、幼児の交通死亡事故の例、事故後の今年成人を迎える、子供部屋には、ランドセルと横に、成人式用の訪問着を飾っている。

 三つは、高齢者の交通死亡事故の例。、事故後、加害者、会社上司が被害者宅に謝罪、その後事故当時の状況を誠実に説明、寛受した遺族は、情状意見で「適正に処分を」と陳述、判決も、遺族感情を十分に取り入れたものであった。
 遺族は、今後生活する上で、加害者の行動、誠意が精神的に救われることになる。
 矯正施設職員研修の際にも、被害者は、当初、加害者の謝罪や文書は受け付けないとしている。
 加害者が、社会復帰、更生する為ためには、「被害者の心情」を教導するよう依頼している。

4 「自助グループ」支援


 交通事故、凶悪犯罪のご遺族は、様々な体験をしされている。この人方々の中には、体験を基に、行政機関・団体へ赴き、「交通事故防止」、「犯罪予防」を訴え、社会復帰している。加えて、支援活動員研修において、遺族の思いや支援者の留意事項を指導し、スキルアップに寄与している。

5 関係機関との連携

 犯罪被害者支援は、被害者・遺族の生存権や人格権など尊厳にかか関係わる大きな問題であることを認識した上で、自治体や犯罪被害者支援関係機関・団体と連携を密接にしていくことが最も重要なことである。
 特に、市民を守り、市民生活の基盤である自治体の役割は、極めて重要で、今後、様々な被害者等からの要望案件について情報交換等を行い、適切な支援活動をしていきたい。

 また、被害者の方々が、平穏な生活を取り戻すまでの途切れのない支援には、案件により、長期間要することもあり、総合的な犯罪被害者支援体制の構築を切に希望する。
 未だ、静岡県は、そこまで、至っていない現状であるので、当面、民間団体であるセンターで連絡調整の役割を果たすべきと感じているが、自治体は、「犯罪被害者等基本法」の理念、責務を認識され、犯罪被害者支援に特化した専門担当者の配置、独自の「犯罪被害者等支援条例」の制定をすべき時期にきている。

6 最後に、犯罪被害者支援担当者の心構え

 一つは、親身になって傾聴し、行動を起こすること。
 電話相談・面接相談時には、被害者等の要望することを傾聴し、信頼関係を築くことが先決、解決しないまでも、一歩前進させる努力、行動をに示すことが大切である。
 他機関と協力、連携し、解決に向けてできることが殆ど、出来ないことを考えるより、出来ることを考えること。

 二つは、数多くの引き出しを持つ為ための自己研鑽研さんに努めること。
 被害者等は、要望に対して、適切、的確に対応できる支援者を求めている。
 犯罪被害者の心理を理解した上で、相談技法、被害者支援関係法律、関係機関の業務内容等を習熟し、求めに応じて対応できるようにしておくこと。

 三つは、出来ない約束、主観的意見は言わないこと。
 被害者等は、藁をも掴みたい気持で相談等するがあるが、余談や期待感を持たせるような言動等は、厳に慎むべきである。

 四つは、気配り、目配り、さりげなく。
 相談等の意思決定権は被害者等にある。担当者は提案や助言者、裏方に徹すべし。

 五つは、被害者等の了解を得て、メモ等を取る。
 相談等においては、被害者等の心情を配慮して、相談内容のメモ取り、資料の謄写について、必ず、了承を得てからとする。

 

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