講義2

 
テーマ:「相談員の活動について」
講師:鮎澤 加根子 氏(NPO法人長野犯罪被害者支援センター相談員)

 今日、ここに出席なさった皆さんは、「犯罪被害者支援ボランティア活動推進研修会」のチラシをご覧になってご参加いただいたということでしょうか。それぞれボランティアに参加するには、いろいろなきっかけがあります。例えばチラシを見たとか、あるいは広報活動とか、テレビやラジオというようなメディアのほうから、目や耳に入ったりして活動に繋がるということがあると思います。私の場合には、ラジオから流れた「犯罪被害者支援を研修いたします」という、これから始まったのです。これもきっかけ、あるいは出会いということで、私はこのエリアではないのですが、列車に乗って長野まで通いました。

 一年半、当時は研修が続いていたのですが、大雪の日と台風で列車が動かない日以外は、引かれるように足を運んで、このボランティア研修を受けました。今思うと、よくあれだけ通ったと思いますが、よかったなあと思います。当時は、結構人数は多かったのですが、土曜日でしたので、働いている方も参加できました。

 しかし、この頃は平日に研修をすることが多くなったり、あるいは中信とか北信ということで、以前のような参加人員はないのですが、少数精鋭というところで、質問を面と向かってできたり、とても深い勉強ができているのではないかと思います。

 今日、いろいろなお顔の方がお見えになっていますが、皆様、ボランティアは他にもいろいろなさっていますか?地域でのボランティアとか、あるいはいろいろな会とか、そういう中で、学生さんもいらっしゃると思うのですが、ボランティアをする方は「前向き」です。心が前を向いています。いろいろなボランティアを私はしています。そういうボランティアが、犯罪被害者支援にとても役に立ちます。先ほど局長が「ヘルパーさんの資格を取られた」と言われましたが、それも役に立つということです。その他にも、子どもについて「ちょっと、うちの子はこんなところで育てるときに苦労したわ」とか、あるいは高齢者の介護をしながら「うちのおばあちゃん、ちょっとぼけちゃった」という中での苦労や、それを介護したとか、そんなことも役に立ちます。あるいは市役所へ行って、介護保険の申請をしてみる。これも役に立ちます。皆様方が日ごろ携わっていること、これは、私たちの支援にすべてが役に立ちます。ですので旺盛に、とても前向きに、いろいろなことに対して「知りたい、知りたい」「これも知ったら、これも知ったら」というような目線で、是非毎日を楽しくというか、「こんな事まで私、できるんだわ」というものを見つけていただくといいと思います。こんな私でも、もう5年、支援をしているのですが、皆様、とてもいろいろなご経験を積んでいらっしゃったり、学校でいろいろな勉強をしていらっしゃるようにお見受けしますので、大丈夫です。是非、私たちといっしょに、このボランティアをいたしませんか?

 まず、先ほど長野まで通ったと言ったのですが、私たちは大勢の参加者の中で、一人ぼっちではないのです。最初から自分のことはしゃべりません。皆様の、観察というのでしょうか、悪い意味ではなく、人間観察みたいなことをしながら、自然にロールプレイなどを通して、「あ、この方はこういうお方なんだ」「こういう、いいところを持っていらっしゃる」というように研修を積んでまいりました。人の悪いところを見つけることは簡単ですが、「この方、こんないいところを持ってらっしゃる」というような人のいいところ、そういう観察をしながら、深い繋がりになっていきます。その「相手を認めてあげる」ということが、被害者
を支援するというところにつながったりします。

 耳を傾ける。「傾聴」と言いますが、「傾聴」は傾けて聞く。この「きく」という「聴」は、「耳」が外に出ているんですね。そして、「十」の「四」の「心」。「四」は、立てると「目」です。「十」たくさんの「心」の「目」を持って、「耳」を外にして聞く。これが「傾聴」というふうに教えていただきました。「聞く」というのは、門の中に耳が入っています。「あらあら、虫の声、いい声しているわね」というのは、門の中に耳が入っています。でも「傾聴」の「聴く」という字は、「耳」を外にしながら、「目」を持ってたくさんの心で寄り添って聞いてあげる、というふうに教わりました。

 それから「共感」する。なかなかできないのですが、うなずいたり寄り添ったり、「ああ、そうなんですか」というのは、認知症という言葉がこの頃使われるようになりましたが、認知症の方に対しても、「そうじゃないんだよ」と言うのではなくて、「ああそうなんですね」と言うことが大事になってきます。被害者の方に対してもそうです。被害者の方は、最初はいろいろなことを訴えてきます。その時に「あれ?そうなんですか?」と言うのではなくて、「ああ、そうなんですね」「そうでしたか」というように、オウム返しというのでしょうか、「辛いんですよ」「ああ、お辛いのですね」というように、繰り返して聞いてあげるという訓練も受けて、実際に何名かの被害者の方の支援に携わりながら実感しました。

 どこの誰ということは、私たちは守秘義務の中で言うことができないのですが、この頃、親族間での殺人事件というものはよく耳にします。なるべく、我々はその支援には関わらないように、というような方向の県が多いのですが、私が携わった支援の中には、お母さんやお父さんが被害者であり加害者になってしまった事件に、親族ということで嫁いでいる娘さんが呼ばれ、実家で起きた凄惨な現場へ行って、自分がすべてやらなければいけなかったということがありました。そのときに、あまりの心労に警察の方が見かねて、被害者支援センターという所があるので、そちらのほうにお電話をして支援へのつなぎをしてくださったのです。よかったなあと思いました。

 それは、そんなに時間も経っていなかったのですが、本当に被害を受けた方は、親族間ならなおさら、何で自分があのときこうしてあげられなかったのだろうかとか、まず自分を責めます。マニュアルどおりで言ったら、「あなたが悪いんじゃないですよ」というふうに出てきます。でも、その最初のときには、「あなたのせいではありません」という言葉はかけられませんでした。傾聴でした。「苦しかったんですねえ」「大変でしたねえ」「ああそうでしたか」。そして、そのうちに自分が抱えているいろいろな問題を話してくれるようになりました。

 では、この被害者の方にはどういう支援をしてあげたらいいのかということは、私一人で考えることはありません。皆さんも、そういう相談員や支援員になったときは、一人ではありません。必ずペアを組んで、そして事務局のほうに、どうしたら一番いい支援ができるかということをお互いに話し合いをして、「これがいいと思います」「これもできるのではないでしょうか」というところから支援が始まります。今、その方は臨床心理士のカウンセリングを受けたりしています。

 もう一つは、21歳の若い娘さんが、キャッシュカードで詐欺に遭ったらしいということで警察に行ったのですが、それだけのことだったら県外でしたので、被害届を受理して、犯人逮捕にまではちょっと行かないだろう、というふうに言われました。さあ、お金もないし困ったということで、その娘さんはある市役所を訪ねたのです。よかったです。市役所で、そういう心配事を聞いてくれるということを、その娘さんはしたのです。そして、その市役所の担当の方が、犯罪被害者支援センターというところで支援をしているということを調べてくださって、我々のところに繋げてくださいました。時間を決めながら、そのときは3名で行きましたけれども、いろいろお話を伺う中で傾聴・共感をしました。しかし、我々に必要なことは観察するということです。どういうことでそういうことになったんだろう、あるいは、ちょっと翻ってしまってはいけないのですが、もしかしたら被害妄想的なものもあるのではないかとか、そんなところまで観察しながら、お話を伺っていきます。

 そして、この方は確実に犯罪の被害に遭われた方ということで、警察のほうへの繋がりともう一つ、家族にお金が無いという、本人も含めてとても困ってらっしゃる内容を訴えられたので、これは市役所のほうとの連携がとてもうまくいきました。最初は市役所のほうは、キャッシュカード被害とだけとらえていましたけれども、生活困難というところを受け入れてくださって、ちょっと知的障害を抱えるとか精神的な病を持っているとか、そんな家族もありましたので、市民課の方が「では、保健センターのほうにすぐつなげましょう。そちらのほうから医療機関のほうにもお繋ぎしましょう」ということで、市役所を訪れたその方のこれからの生活について、「本当に困った。どうしよう」ということへの支援にも繋げることができました。警察のほうは、また別なルートになるわけです。

 それで今日、皆様はここへいらして、このパンフレットを頂いて、一生懸命メモをとったり覚えなくては、なんてなさったかもしれませんけれど、これは長い時間をかけてまた研修されれば何のことはないことです。

 とてもわかりやすい研修も受けられますが、皆様がこのパンフレットを持ったことによって、本当に困っている方が皆様の周りにいたら、一人の方も救ってあげられる。あるいは携わっている市役所関係とか、または町の役場の関係とか、村の役場の関係、警察の関係、その他にもいろいろな関連するものに皆様が携わっているとしたら、そういうところへ是非PRしてください。こういう所があって、すべて救えるかどうかはわからないですけれども、でも本当に寄り添いながら、繋がりながら、心をこめて支援をして差し上げる、こういう気持ちでいるボランティア、あるいは事務局、他の施設、いろいろな行政などにも繋げることができるという意味で、私たちは犯罪被害者支援センターがあるということを広報活動しています。

 胸のこのバッジは「ともにちゃん」です。最初はカラーで、ちょっと大きめでしたけれども、ピンバッジが大きすぎるということで、ちょっと小ぶりにした、この銀色のピンバッジができました。これが「ともにちゃん」です。ともにちゃんが描かれた「一人で悩まないで」というパンフレットを松本の駅で配りました。

 高校生や旅行帰りの紳士とか、おばちゃんたちが来ますけれども、「はい、はい」というふうに配ると、あまり受け取ってくれません。皆様も多分、いろいろなチラシをぽいぽいぽいと配られると「何だろう?まあ、いいです」と急いで駅のほうか町のほうへ行ってしまうと思うのですが、私が「あなたの周りに、あるいは皆さんの周りに、困っている方がいらしたら、どうぞこれを知らせてあげてくださいね」と声をかけると、高校生や、皆さんは受け取ってくださいました。一人でも、もし友達で困っている人がいたら、そこで電話をする、あるいは繋がっていく、そんな活動を私たちはしています。

質問 主には電話相談が多いように感じましたけれども、電話相談のボランティアと、直接相手に関わるという生活の面まで、局長さんがホームヘルパーの資格までお取りになるという話がありましたが、その家へ行って、そういったホームヘルパーとしての内容の支援までもあるかと思います。

 今まで鮎澤さんが5年間支援をされてきて、割合を伺いたいということと、それと電話相談以外で具体的にお宅まで伺ってお手伝いをしたとか、そういうものが何%とか、お家まで踏み込む場合に、私の個人的にはすごく抵抗があるのですけれども、注意事項とか、そういったものは、これから研修で伺えるような気はするのですが、そのあたり、ボランティアとしてやっていく上で、ちょっと引っかかりがあるものですから、その点をお願いしたいなと思います。

鮎澤
 生活支援というところで、我々の支援内容は入っています。ただ、ニーズというところでは、そんなに多いとは思いません。私自身がお宅に訪問した中では、殺人現場の中で、衣類とかいろいろな証拠品ということで持って行かれたものが戻ってきたときに、それを一人で処理するということはとても大変なので、我々に支援していただけないかということがあり、2名でお宅に伺いながら、そういうところはしてまいりました。

 あとは、外出できない人に対して、運転してお店の所までいっしょに行って差し上げるとか、これは私自身は携わりませんでしたけれども、そういうことをされた支援員の方もいます。よろしいでしょうか。

質問 そうしますと、もうほとんど電話相談ということに?

鮎澤 私が携わった頃は、とても電話もありましたし、それから面接をしたいということで相談室に来た方も多かったです。しかし、「被害者をみんなで守りましょう」という基本法ができて、行政あるいは法テラスも携わるということで、民間のNPO法人だけではないところで、恐らく電話は、それぞれに分散しているのではないかと思います。法テラスに結構いっているかもしれません。電話の件数は減ってはきています。

質問 済みません。では最後に、繋がりが欲しいというわけではないのですが、個人的なつながりというのは5年間のうちで、どういう個人対個人の繋がりができてしまうというか、できるというか、そういったのはどのくらいでしょうか。

鮎澤 原則的には個人との繋がりは持ってはいけません。ただ、支援をしているときには寄り添うという意味で、その方と心と心が繋がるという意味で、支援が終われば、その被害者の方が必要とされた時に我々は寄り添う支援をするということです。あるいは大きな事件が起きて、裁判が終わって、そのあと遺族としてのいろいろなことがあれば、行政まで付き添って欲しいとか、そういうお願いを依頼されたときに我々はそれを受けます。支援センターの携帯電話を使って「その後、あなたどうですか?」ということはいたしません。その繋がりではなく、直接携わっているときに、心を寄り添うという繋がりです。ただ、困っている方を支援するという繋がりは、5年であれ10年であれ、被害者の方がこちらのほうに依頼されれば、それにお応えするという支援です。
 

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