講義2

 
テーマ:「相談員の活動について」
講師:吉江 淳 氏(法人長野犯罪被害者支援センター相談員)

 こんにちは。吉江といいます。大した話をするわけではありませんので、気楽に話を聞いていてもらう程度で結構です。
 私がまず、この相談員をやろうと思ったきっかけです。仕事を退職してから、何もやることなく生活していた時期がございまして、ある日、ふと新聞を見ましたら、新聞に「長野犯罪被害者支援センター相談員養成講座」という文字がありました。「あれ? 相談員?」「あっ、犯罪被害者?」それを見て、これは社会へ貢献するものなのか、誰かの役に立つのかなあと思い、軽い気持ちで、「養成講座を受けてみよう」という気持ちになりました。

 といいますのも、私は前職で、犯罪者を更生させて社会へ出すという、刑務所の刑務官という仕事をしておりましたので、何かその「犯罪」という言葉に惹かれたんだろうと思います。ただ、犯罪被害者の家族もまた被害者なのですが、それ以上に、違う被害者がいるということを知って、何か私が今までやってきた犯罪者を更生させるという仕事と違い、「何かおかしいなあ。本当の被害者というのは、犯罪被害に遭って、本当に困っている人がいるなあ」ということが養成講座を通じて知り、実感が湧いてきまして、改めて犯罪被害者に向き合う気持ちになってまいりました。

 主に、今まで私がやってきた相談員の仕事内容というのは、電話相談もそうなのですが、面接相談、それから直接支援が2件ございます。これについて、1つずつ説明してまいります。

 まず、電話相談というのは、電話機に向かいまして、電話を来るのを1日中待つわけです。それで電話が来ればいいのですが、来ないほうが多いです。もちろん毎日のように電話がかかってくるようだと犯罪が多発しているということで困ることなのですが、来ないわけです。「もし電話が来たら最初に何て言おうかな」と、毎日、電話機の前に座って考えています。局長のほうからは、個人の名前を出さず「犯罪被害者支援センターでございますが」と言うことを教わったのですが、ついつい「犯罪被害者支援センター、吉江でございます」なんて名前を言ってしまうんじゃないかなと思いながらも、電話機の前で待っています。そんなことが続いています。電話相談日というのが決まっておりまして、長野は月曜日から金曜日まで毎日やっておりますが、私は松本地区でやっているものですから、月曜日と水曜日になっております。ただ、それ以外の日でも、松本にかけてもらえば、長野のほうへ自動的に転送されるシステムにはなっております。その電話機の前に座って、「ああ、どんな人が電話かけてくるのかな」、「何て言って答えていいのかな」なんて考えながら、毎日電話を待つ日が多いです。ですが、今までかかってきたのは、間違い電話1~2件だけで、本当の電話はまだ受けたことがありません。

 直接支援については、実際に2件実施いたしました。1件は、今、局長のほうからも話がありました八王子の殺人事件です。それともう1件は、長野県の北信地方のケースです。具体的には言えないので漠然となってしまいますが、夫婦と長女、それから長男がいて、長女が30歳前でしょうか、長男は20歳後半、この夫婦の離婚話が出ていまして、お父さんがお母さんを殺してしまったという事件がございました。

 これは、局長のほうから「裁判の直接支援のほうをやって欲しい」ということで話がありまして、「あれ?誰の?被害者……被害者といっても、加害者の子どもであり、どっちの……え?これが果たして被害者の支援と言えるのかな?」なんて思いながらも、その家族の長女と長男のほうの支援を行ったことがあります。

 これは、求刑が18年で、判決15年が出るまで受け持ったわけです。夫の暴力が激しいことが原因なのですが、娘さんもその暴力を受けており、父親を非常に嫌っており、母側についたことで、被害者として対応したものです。そんなことで、父親が悪いという証言をしなければいけないということで、本人である、姉さんと弟さんとの打ち合わせを2回して、そのほか弁護士のところへも2回付添いをしまして、公判へは4回付添いをいたしました。

 この中で一番問題となったのが、父親に対しては厳罰に処して欲しいということを言いたいのだけど、自分の父親だし、やがて出所してきたときに父親から被害を受けるのではないかと非常に心配していました。

 法廷というのは、皆さんも、テレビなり、あるいは見てご存じだと思います。あそこへ出ていって、直接本人の前で証言することに非常に抵抗があり、最終的には、検事が代弁することになりました。

 それから、法廷に行ったときに、マスコミの方が来られていて、いろいろ聞かれたり、それに対応したりするのが嫌だとか。それから、父方の親族とは敵同士といえば表現がおかしいのですが、そういう感じになったものですから、親族と会うのが嫌だから、排除してほしいというか、「そういう人が来たら、自分たちはもう会うのも嫌だし、話をするのも嫌だから、何とか近くに来ないようにしてほしい」ということを頼まれて、その対策のため相談員4名が常に壁代わりとなりました。

 一番問題になったのは、法廷の付添いの件です。まず法廷に入る場合においては、必ず周りにマスコミ関係の方がいて、どのようにして、そのマスコミの人を遠ざけるかとか。裁判所に入ったら、その控室をどこにするとか。それから、傍聴席をどうやって確保するかです。

 北信だと、殺人事件のような大きい事件はみんな松本へ来ます。松本の裁判所というのは、当時、裁判の法廷を改修していまして、小さい法廷になっていました。そして、事件も大きかったから、恐らく傍聴人が大勢来るのではないかということでした。もちろん、席を確保するには、弁護士あるいは検事さんを通じて、または直接裁判所にお願いして傍聴席を確保します。それだと被害者と弁護士の2つの席は確保できるのですが、私達相談員の席は確保できないわけです。法廷の中へ入るのは、裁判の流れを掴むためにも付き添って入ること、その場合においての我々の席も取らなければならないということだったからです。それで、当時、4人相談員が並びまして、傍聴席を確保したということがございました。

 裁判が終わりますと、やはりマスコミの方が本人の前に来まして、いろいろ聞こうとしたのですが、取材はお断りしたということがございました。それが1件です。

 それからもう一つは、八王子の女子殺人事件です。八王子のほうは、先ほども局長のほうから話があったように、犯行の原因が「両親を困らせてやろうと思って」ということです。そんなことで殺されるなんてたまらないですよね。そういうことで、店員さんは殺されて、お客さんで来ていた女性の方は重傷を負ったということです。両方とも女子大生なんです。可哀そうに、将来ある方なのです。

 その家族の方に頼まれて、その家族の方と同伴して、裁判所へ付添いをしたということでございます。付添いする前についても、これはもちろん、その家族の方と事務局で面接して、「じゃあ、どういう内容で支援をするか」とか、「どんな心配があるか」とか面接しまして、いろいろ話を聞いたりしました。

 部分的には、先ほど局長が言ったように、カウンセリング的な面接をしたことが2回ございます。そのほか、弁護人との付添いに2回、それから公判の付添いが3回です。これは公判前整理手続というのが始まりまして、3回で終わっております。無期懲役という判決を受けて、家族の方は「もうこれ以上いいです」と、「付添いはしなくても結構です」ということで終わっております。

 この両方の面接の場合、一番始めに、守秘義務の告知をします。それから話を聞くわけなのですが、あまりわかったようにうなずいたり、積極的に話しかけたりすると、逆に何て言いますかね、先ほどテレビでも出ていたように、何かおせっかいのような感じに受け取られるのではないかと、どう対応していいかわからずに、どうしても受け身となっていました。

 うまい言葉で返してやることができずに自問自答しながら、自分の気持ちの中で、「ああ、こういうことは、話を聞いてみなければいけないことかな」という気持ちが湧いてきたときに、それを言葉にして相手にひょっと投げかける程度にしました。

 それから、面接相談です。これは、中信地区の相談室に直接、女性2人が来られて、面接した経緯がございます。これは、派遣社員の奥さんで、この方が派遣会社に勤めていました。その会社の同僚が、知らない間に奥さんの鍵を引き出しから盗み出し、自動車の鍵と家の鍵のスペアを作って持っていました。

 奥さんが帰るときに見ると、自動車の中が非常に微妙に何か変わっているというのです。ある日、警察から電話が来て、「お宅に泥棒が入ったから」と連絡があったそうです。それをよく聞いてみたら、鍵を使って家の中に入って、そして何か奥さんの物を盗ろうと物色したらしいです。それを近所の人が見ていて、警察に通報し、警察では家を取り囲んで、その人を逮捕しました。持っていた物は何かたいしたものではなくて、鍵だけを持って出てきたので窃盗で起訴されて、まずは検察庁へ送致され、その連絡が奥さんのところへ行ったらしいです。その前に警察から調書を取られて、鍵のスペアを作ったこと、自動車内を物色したことがわかったとのことでした。それで終わったかなと思っていたら、「今度は裁判にかかるから、検察庁へ送致されますよ」と連絡が来たことから、「これは大変だ。一体どうなるんだろうな」ということで、その人は法律的なことを全然知らなくて、「これからどうなるのか皆目わからん」ということで、法テラスに相談に行ったそうです。そして、法テラスでは、「じゃあ、長野県にはこういうところがあるから、こういうところへ相談しなさい」と、松本の相談室のほうへ「こういう相談がありますから」ということで電話が来ました。そして局長へ連絡して、相談を受けるということになったわけです。

 この女の方の心配事は何かというと、子どもが2人いて、「出所後どうなるか。この子どもが被害を受けるのではないか」ということでした。というのも、その方は同僚で、もう近々に会社を辞める人だったそうです。身寄りは関西の方に兄1人にいるだけで、身寄りはないということでした。

 それから、「自分の家を知っているということで、お礼参りされるのではないか」それから、「加害者がどういう性格の人かわからない」、「今後、裁判になると聞いたんだけれども、どういう手続きとなるのか」そして、「被告人のほうでは保釈を申請したというのだけれども、保釈とは何ですか」と。そのようなことを聞きに来ました。

 派遣センターの苦情処理係だという女性が一緒に同行してきました。いろいろ話を聞きましたが、現在、身柄が検察庁に行って、刑務所にいるわけです。まず一番に大事なのは、検察官とのリポートをとる必要が認められたことから、「検察官に相談したらどうですか」という話からもっていきました。すると、「じゃあ、検察庁ってどこにあるんですか」とか、「検察官ってどんな人ですか」とか、次々と質問をしてきました。法律知識を持っている人は、一般の人の中にはあまりいないと思います。

 それから、「お礼参りをされるのではないですか。どう思いますか」と聞かれました。これについては、「裁判を担当する検事がいますから、その検事さんによく相談してみなさい」と答えました。

 それから、加害者のその性格のことをどう把握するかということです。警察へ行って聞いても、被害者の性格を教えてくれるか、わかりませんし、検察庁へ行って検事さんに聞いても「性格、こうですよ」なんて教えてくれるか疑問ですから、「それは、裁判になって法廷に行けば、初公判で、加害者の身上関係を質問する場面もありますので、ある程度のことはわかるんじゃないですか」ということで話をしました。その付添いの方が「ああ、じゃあ、私それ出て、聞いてきましょう」という話になりました。

 それから、「保釈を申請しているということで、これは保釈で出たらまた家へ来るんじゃないか」と言っておりました。「この点についても、よく検事さんと話をしなさい」ということで、アドバイスではないのですが、私は相手にそれしかできませんでした。

 そして最後には、「出所したことは知らせてくれるんですか」ということでした。これは、確か知らせてくれるはずですよね。「検事さんなりに頼んでおけば、多分これは大丈夫だろう」ということで話をしました。そんな当たり前のようなことを話してましたが、その後の様子はどうなったかなと気にはしていました。
 その後、検事さんのほうから直接電話が入りまして、その被害者の方が来て、今言ったような話を「聞きました」と。「お礼参りを心配していましたが、『警察のほうと連携して対処します』と話をし、了解していただきました」という話を聞き、それで「ああ、それで終わった。やれやれ」というような気持ちにはなりました。ただ、何も知らない人に説明する難しさというか、こちらはある程度のことはわかっていて説明するのですが、それで納得してくれるのかどうかと、非常に心配になる面もございました。

 ただ、何か被害があって犯罪被害を受け、一番始めに「じゃあ、あそこの長野犯罪被害者支援センターというところに相談に行こう」といって来てくれる、そういう気持ちというのは、勇気のいることだけに非常に大事にしなければいけないなと感じました。というのは、この相談に来られた2人も、相談室に来るには物凄く勇気が要ったと思います。誰にも言えないようなことを相談に来る、「いやあ、どんな人が相談員で相談に乗ってくれるのかな」、「どんなところかな」、そういう、諸々の不安を抱えながら相談に来てくれる人に、わかる範囲で誠心誠意、説明しなければいけないなということを感じ取ったような次第です。

 当年とって66歳になりますけれども、最近は非常に物忘れが激しくて、それから、気力・体力も落ちてきております。先ほど間中局長が言ったように、「若い人が入ってくれればな」と思うような気持ちを持っているのですが、とにかくもうしばらくは頑張ってみたいと思っております。ただ、私も退職後でもまだ、児童自立支援センターというところでアルバイトをしているものですから、このボランティア活動に専念することはできません。けれども、極力できる範囲でやろうと思って努力しております。
 

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