関係機関・団体と連携した犯罪被害者支援促進モデル事業

パネルディスカッション「地域社会の支えを考える」

犯罪被害者等に関するテーマ別啓発事業(大阪府)
「あすに生きる-犯罪被害者- 地域社会の支えを考えるフォーラム」

パネルディスカッション「地域社会の支えを考える」
林良平(あすの会)
林良平
(あすの会)
土師守(あすの会)
土師守
(あすの会)
高橋正人(あすの会顧問弁護団)
高橋正人
(あすの会顧問弁護団)
堀川雅子(読売テレビ報道局記者)
堀川雅子
(読売テレビ報道局記者)
石田英司(毎日放送制作局専任部長)
石田英司
(毎日放送制作局専任部長)
杉浦徹(摂津市犯罪被害者相談員)
杉浦徹
(摂津市犯罪被害者相談員)

(※石田氏の発言内容については、ご本人のご意向により、割愛しています。)

 それではこれから始めていきます。本日のこのフォーラムの大きなテーマは、地域社会の支えを考えるということでございます。私たちは被害者として地域社会とは何かと言えば、それは地方自治体ですね。今日のこのテーマで言いますれば、国民が直に接することのある市町村レベルの地方自治体。そして職場ですね。そして近隣の方々。あるいは民生委員の方々等、地域のつながりだと思っております。そういう方々にどういう形の支えがあるのかということを考えてもらえたらありがたいと思っております。

それでは、私はパネリストの方々を紹介する役割で進めさせていただきます。最初にあすの会の顧問弁護団高橋弁護士のほうから自己紹介を兼ねたお話をしていただきたいと思います。ではよろしくお願いします。

高 全国犯罪被害者の会、あすの会の幹事をやっております弁護士の高橋正人といいます。よろしくお願いいたします。

私は平成12年にあすの会ができたときに参加させていただきまして、平成14年、ドイツとフランスにこの被害者参加制度について調査に行ってまいりました。そのときに非常に印象的な言葉がありました。ドイツでもフランスでも30年前までは被害者は証拠品だったと。でも今は当事者だと、そういうわけです。人に対して品という言葉を使うことに対して、すごく感銘を受けました。本当に被害者というのは我が国では証拠品扱いだったわけであります。

被害者が参加しても、今までは傍聴席にしか座れませんでした。しかも報道者の、メディアの後ろに座らされたり、あるいは場合によっては加害者の家族と一緒に座らされることもあったわけなんです。

他方、加害者のほうは平気で嘘をつき、被害者を傷つけます。被害者は傍聴席で腹が煮えくりわたる気持ちで聞いていて、反論一つできなかったわけです。先ほど人形劇でもありましたが、「違います」と2度叫んだだけで退廷させられた被害者もおりました。さらにはマイクのボリュームを上げてくれと、そう頼んだ被害者に対して、なんと裁判長は傍聴席に聞かせるために裁判やっているんではないんだと、そう一蹴されたこともありました。

ここに当たって被害者は、自分たちのために裁判やっているんじゃないんだと。公の秩序維持に道具に利用されたにすぎないんだと、そういうことに気づかされたわけです。被害者は刑事司法を恨み、そして憤り、司法不信に陥りました。

こんなことですから、当然被害者は刑事司法手続から完全に排除されています。裁判は何の被害も遭っていない検察官、裁判官、刑事弁護人、被告人たちだけで勝手に行われてきて、事件の最大の当事者である被害者はかやの外でした。利用するだけ利用して、最後はあんたは証拠品だと言われるわけです。こんな刑事司法、どうして被害者が納得できましょうか。

そこで今回、昨年の6月に被害者参加制度が自民党・公明党だけではなくて、あの民主党も賛成してできたわけです。で、12月1日から施行されるわけです。先ほど人形劇で最高裁の判例を紹介していました。公の秩序維持のために刑事司法はあり、被害者のためにはないんだと。しかし平成16年の犯罪被害者等基本法では、被害者の尊厳が尊重され、尊厳にふさわしい処遇を受ける権利があると、初めて権利主体性が認められ、さらに翌年の17年12月27日には閣議決定がなされました。

これは、犯罪被害者等基本計画という閣議決定です。この10ページの下から6行目にこう書いてあります。「刑事司法は公の秩序維持と共に、犯罪被害者のためにもある」と、そう閣議決定されたわけであります。12月から始まる被害者参加制度は被害者のための制度です。

私は所詮、弁護士です。被害者ではありません。でも少しでも被害者の気持ちに近付きたいと考えています。被害者の目線に立って、被害者と一緒に歩んで、この制度をうまく運用していきたいと思っております。

 高橋先生、ありがとうございました。続きまして読売テレビの堀川さんにお願いします。堀川さんは1990年代のころより、積極的に被害者問題の取材に取り組んでいただきまして、かなり広範な知識を持っておいでです。どうぞよろしくお願いいたします。

堀川 よろしくお願いします。読売テレビ報道局の堀川と申します。記者をしておりますけれども、現在ドキュメンタリーも担当しております。

今回呼んでいただいたのは、取材を続けているからということだと思うんですけど、93年に入社してから11年間、具体的には97年に一人のお母さんと出会いまして、少年犯罪で息子さんを奪われた方の声を初めて聞いて以来、11年間で100人近くの被害者の方にお会いしましたし、報道を通じて50人以上の方の取材をしてきたということ、ここ数日振り返ってみると、そういったことがわかりました。

97年以前というのは、犯罪被害者の方を報道で取り上げる、じっくりと取り上げるということはほとんどなかったと言っていいと思います。実際に調べますと、私が担当しているNNNドキュメントですね。1974年に「補償なき犯罪被害者」というテーマで、もう他界された、読売テレビの先輩が番組を作られたということがあったようです。そのときには補償制度ということにポイントを置いて一つのムーブメントがあったんですけれども、刑事司法、今、高橋先生がお話しになった刑事司法という点では、変わっていなかった。それから30年近くたって、本当に大きなムーブメントが起きたと思います。

その背景には、やはり当事者の方々が声を上げたということだと思います。私が出会った犯罪被害者の方、皆さんそうなんですけども、自分の被害はもう元に戻らない。自分が亡くした人はもう元に戻ってこない。だけど、次の罪をつくらない。次の被害者に同じ悲しみをしてほしくないっていう思いで皆さんつながっているんですね。どなたに聞いてもおっしゃるので、そういった活動の中で刑事司法が変わってきたんだなということを感じています。

報道の中では97年から2001年の間が、ほぼ毎日のようにいろいろな犯罪被害者の方の特集やニュースがあったと思います。その後、刑事司法の制度が変わるということで、国会とかそういったところに中心が移っていって、今は変革した後、運用をどうするのかという時代になっていると思います。

被害者の方々があのような人形劇を通じて、いろいろな形で訴え続けているという現実がある限りは、報道機関としても伝え続けるしかないという気持ちでおります。今日はよろしくお願いします。

(中略)

 ありがとうございます。続きまして、杉浦様。杉浦様は摂津市のほうで被害者相談員をなさっておられます。実は摂津市は大阪府下で初めて、全国でも市町村レベルでは初めて被害者のための支援条例を作った自治体でございます。そこでの体験を、今日のこのパネリストとして意見を交わしていただくことで、皆様方にどういう支えができるのか。地方自治体がですね。そういう方向で語っていただきたいと思っております。どうぞよろしくお願いします。

杉浦 摂津市の犯罪被害者相談員の杉浦と申します。と言いましても7月の1日から相談員ということですので、まだ2か月ちょっとしかたってないんですよね。ですから新米なんです。

じゃあ、なぜその新米の私がこんな場所に座ってるんだということになるわけですけれども、実は私自身もちょっと場違いかなという感じを受けています。犯罪被害者等基本法が制定されて4年になります。これを、もう4年も経つのにと思われるのか、まだ4年だからと思われるのか、これはそれぞれの立場で違うと思いますけれども、今の司会の方からお話がありましたように、全国で市が約800あります。市町村合わせますと1,800ほどあるんですけれども、その中で摂津市が取り組んでいる支援。これは相談窓口の設置。見舞金の支給。日常生活の支援。家賃の補助。就業の支援。この5つを支援をしていこうということですけれども、こういった制度を作っている市町村がまだないということなんですね。私も全部確認したわけでないんでわかりませんが、いろいろと聞いてみますとどうもそうみたいです。

そういうことで、今日この場に座っているわけですけれども、実は私自身、一人前の相談員になるために現在研修を受けていまして、これが10月末までありまして、その後も専門研修を受けたりと、知識を得るために目下勉強中でございます。

それで、5つの制度を行っておりますけれども、やはり行政が公費を使ってこの制度を実施していくわけですから、いろいろと問題点や課題があるわけですね。また後ほどお話ができたらいいかなと思いますけれども、そういったことを一つ一つクリアしながら、自分自身早く良い相談員になれるように今がんばっている最中でございます。どうかよろしくお願いいたします。

 どうもありがとうございます。それではこれからパネルディスカッションに移らせていただきたいと思います。

土師 それでは、これから先ほどお話しいただきました体験例を基に討論を進めていきたいと思います。

まず、寺田さんのケースについてさせていただきたいと思います。寺田さんのケースは奥さんが亡くなられまして、父子家庭となられました。人のことを言うのも何ですけど、私、家事は一切できませんので、この寺田さんの状況、非常に他人事ではないと思っております。

まず杉浦さんにお話を伺いたいんですけれども、摂津市は7月に支援条例ができたということですけれども、摂津市はどのような取り組みを進めていくのでしょうか。またその進めていく上での課題、問題点を含めましてまたお話し願いたいと思います。また、行政の父子家庭に対する支援制度についてはいかがでしょうか。よろしくお願いいたします。

杉浦 摂津市ではこの3月の定例の市議会で、犯罪被害者等支援条例、これは摂津市の支援の一番基本になる条例なんですけれども、この条例と、見舞金の支給条例。この2つを上程いたしました。これは議員全員賛成という形で可決されたわけですけれども、その後において、日常生活支援要綱と賃貸住宅の家賃等の補助要綱を制定して、合わせて4つの条例と要綱でもって5つの支援をしていくということになっております。

お手元にパンフレットが配付されていると思いますので、それを参考にしていただけたらと思っております。

一つ目は相談窓口を設置いたしまして、情報とか資料の提供を行います。この支援の対象となりますのが、犯罪の被害に遭われた市内に在住・在勤・在学の方。原則として、警察に被害届を出している、あるいは客観的に見て、被害者であるということが確認できる方が対象ということでありますけれども、実際、実施していく上では、まだ犯罪に至ってなくても、相談に来られたら、まだ犯罪じゃないから帰りなさいとは言えませんので、そういったことも含めて、とにかく相談に来られた方については丁寧に指導し、あるいは支援、警察等への付き添い等行っていきたいと思っております。

それから二つ目が見舞金の支給なんですけども、これは故意による犯罪行為で被害に遭った場合に、見舞金を支給しますという制度でございます。ただし、加害者との間に親族関係があったり、その被害者自身が犯罪を誘発したというときには、これは対象にならないということはございます。

その対象になりますのは、まず犯罪が発生した時点において、摂津市に住所を有している方。死亡された方の遺族。また傷害、これは全治1か月以上の診断が必要となりますけれども、それを被った方。もしくはその親族。それと先ほど申し上げましたけども、警察へ被害届を出している。それと日本国内の犯罪です。ただ国外でも日本の船であるとか日本の飛行機の中で犯罪があった場合についてはそれも該当しますということでございます。

それから見舞金の額ですけれども、遺族に対する見舞金が30万円。傷害の見舞金が10万円でございます。

三つ目が日常生活の支援。これもやはり故意による犯罪行為により被害を受けたことで、介護とか家事・保育が必要な場合に、これはホームヘルパーを派遣いたしまして、支援をしていくという制度でございます。支援の期間につきましては原則で6か月。状況によっては最長で1年間派遣をするということになっています。

これもやはり同じように、加害者との間に親族関係があったり、あるいは被害者自身が犯罪を誘発したというときには対象にはなりません。

ただしこの場合、一部利用料をいただくことになっておりまして、それが30分当たり、介護の場合が200円。それから家事と保育の場合が30分当たり100円ということになっています。原則として時間は9時から5時まで。1日につき30分単位で3時間以内。保育の場合はそれが8時間ということになります。

それから四つ目が家賃等の補助。これも同じように故意による犯罪行為という、条件もありますが。被害が起こったことによって、被害を受けたことによって今まで住んでいた住居に住むことができなくなった場合に敷金と家賃、それから引っ越しに要する費用なんかを補助していこうというものでございます。これも先ほどと同じように、全く同じような条件が付いております。

それで家賃の補助なんですけども、これは生活保護の中に基準がございまして、その基準内で6か月間補助をしていくというものです。それと敷金とか引っ越しに要する費用として20万円を限度として支給をしますという内容のものでございます。

それから五つ目が就業の支援なんですけども、これは市役所が就職をあっ旋するというものではございませんけれども、地域就労支援センターを通じまして、被害を受けたことによってなかなか仕事になんか行ける状態じゃない方を会社がすぐにクビにしてしまうとか、嫌な目で見るとか、そういったことのないように理解を求めていきたい。それとハローワーク、こういったところとも連携を取りながら、いろんな面でサポートをしていくという制度でございます。

こういった制度につきましては、先ほど親族が犯人の場合は支給できないと言いましたけれども、DVに関わることで、裁判所のほうから保護命令なんかが出されている場合につきましては、これは該当させていくということで、現在考えております。

それでこういった制度を運用していく上での問題点ということですが、例えば一番最初に説明させてもらいました窓口の相談なんですけども、これは摂津市の市民、あるいはその在住・在勤・在学の方を対象ということになっております。これは市が実施する制度ですから、当然のことだと思うんですけども、もし市外に住んでおられる方が摂津市に相談に来られた場合、あなたは、他市だからだめですよと言って断れないんですよね。ですから条例上はそういう書き方をしておりますけれども、現実はやはりどなたが来られても私は相談を受けて、適切な対応をしていきたいと思っております。

それと市民でもDVなんかで相談に来られたという場合、また犯罪ではないからと言って断れないですよね。ですから、そういった場合も当然やはり適切な対応をしていきたいと考えております。ですから要綱とか条例とか、これをきっちり守ってしまうと、せっかく作ったものが結局無駄になってしまうということにもなりかねませんので、臨機の措置を取っていきたいと考えております。

それと、犯罪として認定する時期なんですが犯罪というのはもういつどこで、どんな状態で起こるか、これはもうわかりませんし、加害者がすぐに逮捕されて真相が明らかになる場合もあれば、犯人がいつまでもわからなくて、真相がわからないという場合もあるわけです。これはいずれの場合でも事件が発生した直後から、その状況にもよりますけれども、被害者とかその遺族に対する支援というのが必要となるわけですよね。

ところが行政が公費で支援をしていくという場合につきましては、どうしても慎重にならざるをえないというところがあるわけです。摂津市の条例や要綱の中にも支援の対象となりますのは、これは当然市民であります。故意による犯罪行為で、加害者が親族でない場合。それから被害者が犯罪を誘発していない。こういった制限を設けておりますけれども、池田小学校とか、秋葉原の事件のように、明らかに通り魔の犯行であるということがわかる場合には、これは直ちに今日からでも明日からでも支援ができるわけです。しかし犯罪が発生した時点において、犯人はわからないし、その状況もわからないという場合に、行政としてはすぐにその支援をしていくということにならない場合があります。そういう場合に、どの時点で支援をしていくかということは行政とすれば難しい判断、そしてまた決断をしていかなければならないと思います。

摂津市におきましては、こういう犯罪被害者等の犯罪発生直後に置かれている立場、状況を考えますと、捜査の進展によっては好ましい状況ではなくなるという、一定のリスクはあるとしても、状況や真相がわからない状況の中でも支援をしていくという方向で考えております。

しかし支援後において、だんだん真相がわかってきて、その結果その摂津市が行った支援が不適切なものだということも当然考えられます。そういった場合には支援は打ち切りますし、必要と要した経費の返還を求めていくということをやっていきたいと思っています。

ただし、犯人が捕まって刑務所へ入っている、そこへ請求したってお金は返ってこないということになるかもわかりませんが、それはこういう条例を作って支援をしていく上では、当然ありうることで、仕方ないことだと考えております。

ただ、犯罪というものを対象にして支援をしていく上で、あまり慎重になりすぎますと、支援ができないということにもなりますので、ここはやはり行政として思い切った決断が必要だろうと思います。

それからもう一つ問題点としては、支援の限度というのはあると思うんですね。摂津市は比較的人口も少ないですし、各警察署の中では安全な街と言われることもありますけれども、それでも、昨年で1,900件。それから重大事件で11件犯罪が起こっております。そういう中で、人口の率でいきますと決して低い数ではないんですよね。そういう中で摂津市内で犯罪が起こるとは限りませんし、場合によったら北海道で犯罪に遭うかもわかりません。九州で遭うかもわかりません。

そういったときに、当然支援をしていく上で、その付き添いの支援というのもあるわけですよね。付き添いをしていくのに、近距離だから付き添いますけど長距離だったら付き添いをしませんとは言えないと思うんですね。ですから長距離であっても近距離であっても付き添いをしていくということになろうかと思います。

実際に現実の問題として考えたときに、北海道で犯罪に遭いました、じゃあ、北海道でも九州でもどこでも行くのか。1回だけとは限りませんから、これは何回でも付き添いをするのかという問題もあります。

それから基本法の中では被害者が再び平穏な生活を取り戻すまで、途切れることなくというような規定がされております。この精神的なダメージというのは先ほどの話もございましたけれども、これはもう一生消えることはありません。そういう中で被害者等が希望すれば、いつまでも支援をしていかなきゃならないのかということにもなるわけですから、行政としては一定の判断をしていく必要があると思います。

摂津市の場合は、支援はあくまで被害者等が自立をしていくための手助けであるという考え方で、これは平穏な生活を取り戻すまでの保証をしていくというものではないということから、支援できる期間を現時点では最長で1年というふうに定めております。

土師 行政の父子家庭に対する支援についても手短にお願いしたいんですけれども。

杉浦 はい。先ほど父子家庭に対する制度ということですけども、私が現時点で思いつく制度、おそらく父子家庭だけに対する制度というのはないと思います。

ただし、一人親家庭の医療費の助成制度ですとか、あるいは就学資金の貸付けですとか、生活資金、住宅資金、事業を始める場合の資金、そういった貸付制度というのはございますし、その他いろいろと相談の窓口もございます。父子家庭だけではありませんけれども、一人親の家庭に対する支援というのは、これは各市町村の取り組みはいろいろであると思いますから、それぞれの市町村で一度確認をしていただいたらいいのかなと思います。

土師 どうもありがとうございました。続きまして堀川さんにお伺いしたいんですけれども、取材する側として似たような被害者を取材したことがあれば、その体験を踏まえまして、第三者的に見て、このような支援があれば良かったというようなご意見等はありますでしょうか。

堀川 今日はシンポジウムの段階でもかなりの具体例が出ていましたし、ほとんどカバーされているんじゃないかと思うぐらい出ています。ただ、今、お話を聞きながら思ったのは、自治体による支援の格差というか、支援の差というのは多いなということです。さらに言えば、よく「福祉は人なり」と言いますけれども、犯罪被害者支援も人によるところが大きいのかなと思いました。だからそういう支援の網目を細かくして、意識を持つ人が増えていくと、犯罪被害者の2次被害はどんどん減るんじゃないかなと思いました。

具体的に、では取材をしていて、自分が疑問を持った、理不尽だなと思ったことというのはたくさんありますけれど、父子家庭のお話が出たので、つい最近お聞きしたのは、あのJR福知山線の脱線事故が起きまして、家庭の主婦を亡くされた方も多かったです。働き手を、突然失うというのも大変ですけれども、主婦がいなくなることで家事の全般ができなくて、カップラーメンばっかり毎日食べていて不健康になって病気になるという負の連鎖があるということを聞いたこともあります。

100人被害を受けたということになれば100通り以上の支援が必要ということもあるので、十分ということはないんじゃないかなと今も思っています。

もう一つ、司法記者クラブにいたときに、毎日毎日いろいろな事件の裁判を傍聴していたんですけれども、その中でやはり交通費の問題があります。犯罪の現場が大阪で、福岡から来られている方、富山から来られている方、息子が殺されたその裁判を聞くために、一族みんなで来られます。6人ぐらいで新幹線の往復で日帰りできないから泊まるというのを全部自費でされていました。今日も休暇願を出さないといけないとか、会社で非常に苦労されている例が出たんですけれども、私たちが気づかないところで実際に大変な思いをされて、裁判所に通われている方が多いんだなと思いました。

でもそういう方はこういうことが足りないって、なかなか言う機会もないと思うので、できる限りそういう声を伝えなきゃいけないなと思いました。

もう一つ、情報についての不満というのもたくさんお聞きしました。しかし裁判も12月から制度が変わりますし、保護観察所においても被害者への通知の範囲は平成19年の12月から大きく広がっています。情報というのは被害者が回復していく第一歩の非常に大切なものだと思います。刑事司法の面では非常に前に進んでいると思うんですが、運用する人たちがどういう意識で被害者に向き合っていくかという点はまだまだ未知数なので、これからどうなるのかということは気になります。以上です。

土師 どうもありがとうございました。続きまして林友平さんの報告について話を進めさせていただきたいと思います。林さんは傍聴に出席するために、職場等の理解を十分に得られない状況でした。

高橋先生にお伺いしたいんですけれども、本年12月1日に被害者参加制度はスタートいたしますけれども、例えば被害者参加する方が参加しやすいようなインフラの状況を含めまして、現在の準備状況等についてお話しいただけますでしょうか。

高 先ほどの林さんの事例でいきますと、要するに被害者参加するといっても、毎回交通費がかかるわけであります。同じ市内であればたいしたことないでしょうけども、県外であれば結構お金がかかる。そしてなんと言っても会社を休まないといけない。そのやはり休業補償というのが重くのしかかってくるわけであります。

今年の7月1日から犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律が改正されました。で、7月1日以降の事件については、実は休業補償が出るわけなんですね。ただし、そこで言っている休業補償というのは二つの限界があります。一つは限度額の限界です。治療費と休業補償合わせて最高120万までなんですね。ですから治療費でそうすると110万ぐらい使っちゃうと、休業補償は10万しか出ないわけです。

次に、項目的な限界があります。そこで言っている休業補償というのは、被害を直接受けたことによって休業したことによる補償なんですね。裁判に参加するために休業する。その補償までは含まれておりません。したがってこの7月1日から施行の、略して犯給法と言いますが、これによっては裁判に出席することによる休業補償までは補償されないわけなんですね。

そうしますと、ぜひとも自治体としてのこれからの取り組みとしましては、この裁判に参加するときの交通費と休業補償。これを各自治体のほうでなんとか援助していただけないかと。それがやはり被害者からの大きな要望の一つだと私は考えております。

さらに、これはちょっと林さんの例とは違うんですが、少年事件の場合です。少年事件の場合に、被害者は一人ということはあまりないんですね。例えば被害者小学校3年生の子が殺された。兄弟姉妹がいます。そうするとその兄弟姉妹がやはりPTSDとかにかかるわけです。そして加害者がその兄弟姉妹と同じクラスであるとか、同じ学校であるとか、そういうことがあるわけです。で、加害者が学校に戻ってくるわけです。

その時に、加害者が転校するのか、被害者が転校するのかという話になってきます。もちろん一律には考えられないでしょうけれども、事実上被害者がもう転校せざるをえないという状況になってくる。やはりそういった被害少年、被害を受けた少年だけでなくて、その周りにいる兄弟姉妹。そういったものも含めて教育的な手立てが必要になってくるわけです。

加害少年に対しては少年院やそういったところで手厚い教育を受けられます。でも被害を受けたほうはそうじゃないんですね。少年法は加害者の、加害少年の健全な更正ということを目的に掲げております。この少年法を否定するつもりは私はありません。しかし、加害少年の更正を保護する法律があるなら、被害少年を立ち直らせるための法律もあってもいいんじゃないでしょうか。

今、あすの会では、被害少年保護基本法というものを作ろうじゃないかという、そういう声が出ております。こういった法律がまずできるためには、やはり時間がかかります。その前にやはり行政としては今あるべき、今ある運用の中で、できるだけこの被害少年の教育的な手立てということを考えていただきたいなと、私は考えているわけです。

(中略)

土師 すいません、給付金についてもちょっと高橋先生に一言お話を伺いたいと思います。

高 この犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律、犯給法と言いますが、7月1日の以前までの改正、つまり前年度は約11億の予算だったわけであります。ちなみにこの11億というのは国民一人あたり、今、石田さんにおっしゃっていただいたように、一人当たり正確に言うと8円70銭です。ところが、アメリカ・ドイツ・フランス・イギリス、一人当たり200円から600円なんですね。約100倍も違うわけです。

さらにこの11億というのは刑務所に入っている囚人が入るお風呂代の水道光熱費に匹敵するわけです。風呂代だけで11億かかり、被害者はその11億で将来のこともまかない、弁護士費用も払い、何もかもやらないといけないわけです。今回7月1日からようやく自賠責保険並に引き上がりましたが、しかしそれでも約20億なんですね。まだまだ諸外国のところまでには追いついていないわけです。

(中略)

土師 どうも貴重な意見ありがとうございました。続きまして、市原さんの報告に基づいてお話を進めさせていただきたいと思います。

特に少年事件の場合ですけれども、加害少年が地域に戻ってくる場合が大変だと思います。私の事件のように遠くに行くというのはまず、逆に非常に極めてまれなことだと思います。ですから加害者、被害者が地域で接触する機会というのは非常に多いということになると思います。そのため地域の無理解による、それによる2次被害、3次被害というのは非常に高い確率で生じてきます。

その点ですけども、まず堀川さんにお伺いしますけれども、堀川さんは家族、非常に多くの被害者の方々を取材されていますけども、その取材の中でこういった無理解による問題等感じたことをお話しいただければと思います。

堀川 はい。非常に範囲が広いので何をお話ししようかなと思うんですけど、私も入り口が少年犯罪被害者の方の取材だったので、少年犯罪の場合は集団暴行も多いですし、取材をした自助グループの方に一度聞いてびっくりしたのが、家族が30家族ぐらいいると、そのうちちゃんと和解できたのは1家族だけだったという事実です。

少年事件の場合は裁判にならない、逆送されたらまた別なんですけれども、なかなか謝罪と償いというのがうまく行われていないんじゃないかなと感じることが多々ありました。

最近起きた少年事件が逆送されたので、4人の加害者の裁判を傍聴していたんですけれども、司法も裁判員制度やこういう被害者参加制度をにらんで、法廷も随分と私がいた時代とは様変わりしています。法廷の中でDVD、亡くなった少年の生前の姿をまとめたものを遺族が提出して、それがスクリーンに映し出されるといったことがありました。随分と被害者に配慮した法廷になっているなと感じたんですけれども、その遺族の方に話を聞くと、控訴審では、もう裁判所には行かないということでした。

これはやはり法廷の中で加害者の言い分や加害者側の話を聞かなければいけないということもつらいし、亡くなった命はもう戻ってこないという現実があって、限界を感じて、もうしんどいから行かないという話で、まだまだ大変だなというふうに感じました。

この11年、毎月毎月振り返ってみると、犯罪被害者のことに関わってない月はないんですけれども、それはどういうことかというと犯罪被害者の方というのは増えているというか、決してなくなっていない。じゃあ次の罪をつくらないために、再犯者の問題も含めてどうするか。

今、私が一番気になっているのは、やはり刑務所にいる間にどのぐらい教育されて出ていくのか。次の犯罪被害者を生まないために、本当に十分なのかなということについてはまだ疑問を持っています。

それからやはり出所、仮出所した後に被害者にどう向き合っていくかということについても、担当する人がいない。結局は地域の中で加害者と被害者が住んでいく中、もし善意のある人が間を取りもったり、被害者の心をいやしてくれる人がいれば別ですけれども、被害者が一人で背負っていかなければいけないという現実は、刑事司法が変わっても残っていく問題だなというふうに今思っています。

(中略)

土師 どうもありがとうございました。高橋先生、一言よろしくお願いします。

高 メディアスクラムのことなんですが、結論から言えば私は弁護士が対応すべきだと考えています。

この犯罪被害者等基本計画にこう書いてあります。匿名か実名かの発表なんですがね。「実名発表、匿名発表については、匿名発表を望む意見と、マスコミによる報道、国民の知る権利を理由とする実名発表に対する要望を踏まえ、プライバシーの保護、発表することの公益性などの事情を総合的に勘案しつつ、個別具体的な案件ごとに適切な発表内容となるように配慮していく」と。それは結局、警察が最終的に判断するということになっているわけなんですね。

これは非常に基本計画検討会のときに議論になりました。全部で258の施策があるんですが、これを検討会の総時間で割ると、一つの施策について12、3分しか話ができないんですが、この項目については2時間にわたって議論しました。マスメディアの委員の方からは、実名か匿名かはマスメディアに決めさせてほしい。被害者のほうからは被害者に決めさせてほしいと。それで結局結論が出なかったわけなんですね。

ところが、基本計画検討会というのは全会一致が原則ですから、どこかで妥協しないといけない。そこで妥協の産物として警察に委ねるということになっちゃったわけなんです。決して被害者も警察に委ねることを快く思っているわけではありません。マスメディアももちろんそうかと思います。

そうしますと、これはできればマスメディアと被害者との間の協定でなんとかうまくできないかと、私はいつもそう考えております。でも、被害に遭った直後の被害者とマスメディアの協定は不可能に近いと思います。そこでやはり被害者を支援する弁護士とかそういったことが前面に出てきてマスメディア対応していく。これがやはり最善の方法ではないかなと私は考えています。

土師 どうもありがとうございました。続きまして杉浦さんにお伺いしたいんですけども、地域の無理解による2次・3次被害に対しましては、現実的に被害者を守るためには地域における支えを広げていくことが重要だと思います。そこで今後どのような方向性で施策を展開すれば良いのか、ご意見があればよろしくお願いいたします。

杉浦 はい。私は、これは夢のような話かわかりませんけれども、一つは摂津市以外のところで、事件が起こったという場合を考えまして、全国の市町村と被害者支援に関するネットワークが組めたら良いなと思っております。これは各市町村が同じ内容の支援をしていくということにつきましては、これは法律ででも定めてもらわないと難しいことだと思いますけれども、相談窓口ですとか、付き添いの支援。こういったものにつきましては条例あるいは要綱がなくてもできるわけですね。

実際に各市町村でそういう相談があれば当然応じていると思いますし、また付き添いもやっておられるというふうに思います。そういう意味ではこのことに関しての支援体制はできると思っております。

これができますと、全国での組織になりますので、犯罪被害者等にとっても本当に力強い支援団体ということになるでしょうし、精神的な負担もこれで少しは軽減されるかなと考えております。

それともう一つ、例えば市内で起こった場合ですね。これは、犯罪が発生した直後というのは今話がありましたように非常に混乱して、被害者自身もダメージを受けているという中で、なかなか行政がそこに入っていくことは難しいと思うんですよね。そういうときにまず警察が支援していただく。各警察署の中にそういう支援員1名、それから車も1台配置されていると伺っておりますので、まずはそこで支援をしていただく。

それでも限度があると思いますので、市町村はその後を引き継いで支援をしていきます。これもやはり限度があります。摂津の場合は最長で1年という期限がありますので、それを超えて支援が必要という場合については、また民間のいろんな団体に支援をお願いする。こういうことが法律の基本法の中に謳われている国、地方公共団体、それから各種団体が連携を図って途切れることなく支援をしていくということだろうと私はそう思っております。

それから犯罪被害者等の心の傷というのは、本当に一生癒されることはないと思いますね。これはことあるごとにそれを思い出して、その都度やはり嫌な思いをすることになります。犯罪被害者等が立ち直るために一番必要なのは、まず自分自身がその現実をやはりきっちりと認識をして、その上で前向きに生きていくんだと、そういう気持ちになっていただくことでありますけれども、その手助けができるのは、やはり同じ地域で生活をする方々の温かい思いやりだというふうに思っております。

地方自治体といたしまして、直接的な支援を行っていくことは、当然のことだと思いますけれども、社会全体で考えて、支えるための啓発活動、こういったことも地方自治体として必要だというように思います。

摂津市では市民一人ひとりは被害者の問題にもっと関心を持っていただいて、理解を深めてもらうために。今後、国とか大阪府などと連携を図りながら啓発活動に取り組んでいきたいと考えております。

土師 どうもありがとうございました。最後になりますが、高橋先生にお伺いいたします。今まで3つのテーマについてのお話を聞きまして、被害者問題にかかわってこられた弁護士として、最後にご意見ないし今後の課題について一言お願いいたします。

高 先ほど平成14年のときに調査に行ったと言いましたが、実は平成16年にも私はドイツとイギリスに調査に行っております。このときには被害者補償法についてだったんですが、非常に興味深い話を聞きました。

ドイツの地図でいくと左上辺り、オランダの近くにケルンという町があります。そこに実はケルン・モデルというのがあるんですね。これは何かといいますと、被害者支援のモデルケースなわけです。

どういったモデルケースかと申しますと、まず例えば殺人事件が起きた。110番通報があった。警官が現場に急行した。遺族がぼう然と立っている。そのときに警察はもちろん現場の保存とか犯人の逮捕とかそういったことは当然しますが、それだけではなくて、あらかじめ心理学者によって作られたチェックリストを持たされるわけです。このチェックリストに基づいて、被害者から聞き取りをするわけです。そして私の記憶ではたしか10点満点中7点以上になった場合。その場合には被害者の同意を得て、すぐにケルン大学のトラウマ研究所に通報することになっています。

他方、実はドイツの場合には、各自治体に被害者援護庁という独立の庁があります。独自の庁が。その援護庁にも通報するわけです。そうするとどういうふうになるかというと、トラウマ研究所からすぐに心理セラピストがやってきて、心理セラピーを始めてくれるわけです。なぜこんなに早く、犯人も逮捕される前からやるのかということなんですが、ケルン大学の研究でこういう成果が出ています。

被害者が被害から立ち直るためには、被害に遭ったときからできるだけ短い期間の間に心理的治療を受けるのが効果的であると。できれば30分以内に治療を受ける。遅くとも数日以内に治療を受ける。それを大体15回ぐらいやると、トラウマをコントロールできるようになるという研究結果が出ているんですね。

そこでそういったことが行われているわけです。もちろん、援護庁は何をするかといったら、その心理セラピストに支払う費用を援護庁が払うわけです。さらに援護庁は白い輪、ヴァイサー・リングといいますが、日本で言う被害者支援ネットワークのようなものです。被害者支援団体にも通告し、そうすると被害者支援の支援員が飛んでくるわけです。

さらに援護庁は治療費を払うために病院に行ったりとか、あるいは家賃を払うために大家さんのところへ行ったりとか、いろんなことを自治体が積極的にやってくれるわけです。

しかもこういったことは被害者からの通報を基本とはしますが、決してそれに限らないわけです。こういう例を挙げてくれました。ある銀行強盗が発生したことがありました。ケルンで。そのときに人質事件だったんです。銀行に立てこもりです。ケルンの援護庁の職員がすぐに現場に行って、事件が解決するまでずっとそのままで待って、そして事件が解決し、人質が解放されたらすぐに被害者のところに行って、こういったことができます、ああやったらどうですかというふうに配慮をしてくださったということなんです。

こういうふうに非常に積極的に前向きにやっているんですね。私これを、ではどの条文、どの法律に基づいてやっているんですかと聞いたんです。そうしましたらなんと、同席していたケルン警察の犯罪被害者保護課長のヴェルマー・アダメックさんという方がこうおっしゃったんです。「国民に義務を課するには法律が必要です。サービスを提供するのにいちいち法律はいらない」と言ったんです。予算の許す範囲内でできることは何でもするという姿勢だったんですね。私は非常に感銘を受けました。

ぜひ、これから摂津市も大阪府も第2のケルンになっていただきたい。日本のケルンになっていただきたいと、そう思っている次第であります。

土師 どうもありがとうございました。本日は4人のパネリストの方々にそれぞれ意義のあるお話を伺うことができました。今日の話を今後の被害者問題における地域社会の取り組みに生かしていただければと思います。

今日は本当にありがとうございました。

司会 出演者の皆さん、本当にありがとうございました。皆様、どうぞ拍手でお送りください。

それではこれにてフォーラムを終了いたします。皆様、お帰りの際にはアンケートにご記入の上、受け付けの者にお渡しくださいますようお願いいたします。お忘れ物のないよう、またお気を付けくださいますようお願いいたします。本日はご来場くださいましてまことにありがとうございました。