関係機関・団体と連携した犯罪被害者支援促進モデル事業

人形劇「悲しみの果てに」

犯罪被害者等に関するテーマ別啓発事業(大阪府)
「あすに生きる-犯罪被害者- 地域社会の支えを考えるフォーラム」

人形劇団クライシス
人形劇「悲しみの果てに」1 人形劇「悲しみの果てに」2 人形劇「悲しみの果てに」3

ナレーション ある日曜日、ごく普通の家庭から、この物語は始まります。

タカオ おはよう。

エミ おはようって、もうお昼近くじゃない。

タカオ ああ、よく寝た。ゆうべ遅くまで書類を作っていたから。

エミ まあ、それはご苦労さまでした。それはそうとあなた、ジャケットを着て、今日お出かけになるの?

タカオ ああ、書類を持って会社に行かなくてはならないんだ。

エミ せっかくの日曜日なのに大変ね。ゆっくりできる暇もないのね。

タカオ まあ、仕方ないさ。家庭を守っていくには仕事して、金を稼いで。

エミ(歌) がんばらなくちゃあ……。

エミタカオ(歌) がんばらなくちゃ。がんばらなくっちゃー。

タカオ バカなことやめて、さあ、仕事仕事。ところで、ユキはもう出かけたのかい?

エミ お寝坊の誰かさんと違ってきちんと起きて出かけましたわよ。近いうちに試合があるんだって。

テレビの天気予報の音声が重なる)

タカオ 試合か。そのときは応援に行こうか。一緒に。

エミ そうね。腕を振るっておいしいお弁当を作るわ。

タカオ 楽しみだね。

テレビ ……気象情報でした。正午になります。

テレビ 12時になりました。お昼のニュースをお伝えします。今日、午前10時ごろ大阪市中央区の路上で刃物を振り回している男に通行人が襲われる事件が起こりました。1人が死亡、2人が重傷を負っている模様で、そのうち2人は高校の制服を着ており、近くの高校の女子生徒ではないかと思われています。詳しいことは続報が入り次第お伝えします。続いてのニュースは、今朝、阪神高速湾岸線で、トラックを含む……。

エミ あなた。ユキが通っている学校の近くで事件が起こっているわよ。1人死亡、2人重傷だって。まさか、ユキじゃないわよね。

タカオ 何をバカなことを言ってるんだ。あそこはユキの学校だけじゃなく、幾つかほかの学校もあるじゃないか。つまらんこと言っちゃいけないよ。バカな。

エミ そうよね。そんなバカなことあるわけないよね。

タカオ そうさ。それにユキは今日剣道の稽古で竹刀や木刀を持っていったんだろう? ユキの実力からすれば、たとえ何があっても反撃して、えい、やあっとやっつけているはずさ。剣道2段のすごさを知らんな、おまえ。

エミ そうよね。えい、やあって、やっつけてしまうわよね。もうお昼ね。ご飯にしましょうか。準備しなくっちゃ。あなた、何食べる?

タカオ そうだね。何でもいいよ。

(電話の呼び出し音)

エミ はい。もしもし。

電話の声 もしもし、もしもし。こちら大阪府警です。イチノセさんのお宅でしょうか。

エミ は、はい。そうです。イチノセでございますが。何か。

電話の声 落ち着いて聞いてください。お宅のお嬢さんが2時間ほど前、暴漢に襲われ、重傷を負っておられます。事件後直ちに最寄りの病院に救急車で搬送され……。

エミ え? ユキが? けがをしたんですか?

電話の声 ええ、そうです。

エミ まさか……そんな……。

電話の声 落ち着いて聞いてください。よろしいですか。お嬢さんは今、中央区の病院の手術室におられます。

タカオ 何だ、どうした。何があったんだ。

エミ あなた、ユキが、ユキが刺されたって。

タカオ 何だって? 刺された? ほんとか? 誰に!

電話の声 もしもし。もしもし。すぐに来てください。大変危険な状態です。一刻を争います。

エミ あなた、どうしよう。ユキが、ユキが。

タカオ どこの病院なんだ!

電話の声 もしもし、もしもし、もしもし……。

タカオ な。ユキは強いんだから。な。心配するな。しっかりしろよ。なっ。なっ。

医師 イチノセユキさんの親御さんでしょうか。

タカオ あっ、はい。あっ、先生、ユキは、ユキはどうなんですか。大丈夫ですか!?

医師 ユキさんには頭部から上半身にかけてたくさんの切り傷がありました、これらの傷のみであれば何とか。しかし腹部を突き刺した傷があり、これが大動脈まで達していました。残念ですが、致命傷となってしまいました。出血多量による失血死です。13時58分でした。力及ばず申し訳ありません。

タカオ 嘘だ。嘘でしょう? 先生、嘘でしょう? 嘘だと言ってくださいよ。そんなバカなことがありますか! 元気で出ていったんだよな。

医師 大変お気の毒ですが。

タカオ ユキ、目を覚ませよ。

エミ ユキ。ユキ。お願い。目を開けてよ。

刑事 ご主人、ご主人。

タカオ あ、はい。何か。

刑事 申し訳ありません。この事件の担当刑事です。このケースでは司法解剖が必要となっております。ご協力いただけませんか。

エミ ええ? 司法解剖? これ以上まだユキの体を切り刻むんですか?

刑事 すいません。必要なことです。

エミ あなた……。

刑事 このままご遺体は司法解剖ができる大学病院に行っていただきます。お二人とも同行されますか?

ナレーション 司法解剖が終わった亡骸を自宅に連れて帰ろうとするタカオとエミ。悲しみのどん底にいる2人に、心ない言葉がさらに追い打ちをかける。

警備員 ここからご自宅までどのくらいですか?

タカオ ここは初めての場所で、全くわかりません。随分長い時間かかったような気が。どうも、車の手配をありがとうございました。おかげで助かりました。

警備員 いや何、いつものことですから。毎日事故が起こりますからね。慣れたもんですよ。あとね、悪いけど車代のほかに、運転手さんにチップあげといてくださいよ。

タカオ ええ? 何ですか? チップ!

警備員 そう、チップ。意味わかるよね? 運転手さんも大変なんやから。

ナレーション 刺されて……殺されて……切り刻まれて……チップまで……。

(何度もチャイムやノックの音)

マスコミ イチノセさん。

マスコミ イチノセさん。夜分恐縮です。事件のことでお話を聞かせてください。

マスコミ 犯人は逃亡中ですが、何か一言。お嬢さんのことについて教えてください。

マスコミ 娘さんが殺されたことについて警察から何か連絡はありましたか?

マスコミ 今のお気持ちをお聞かせください。

マスコミ 二度とこのような事件が繰り返されないために、我々には事件を報道する義務があるんでーす。

(電話の呼び出し音)

マスコミ 一言お願いしますよ。

マスコミ イチノセさーん。

マスコミ イチノセさーん。

マスコミ いらっしゃるんでしょう。

マスコミ いらっしゃるんでしょう。出てきてください。

マスコミ イチノセさーん。イチノセさーん。出てきてください。

マスコミ 一言お願いします。

マスコミ 少しで結構です。

(声が続く)

タカオ やめてくれ! 鳴らすのをやめてくれ! あんたたちは一体何の権利があって! ピンポン鳴らすのをやめてくれ! 電話のベルを鳴らすのをやめてくれ!

エミ あたしもう嫌! ノイローゼになってしまう。やめて! やめて! やめて!

ナレーション 事件から2か月が経った。犯人は事件から1週間後、以前同棲していた女性宅に潜んでいるところを逮捕された。犯人には精神病院への通院歴があった。以前傷害事件を起こし、その後通院していたのである。この事件の犯行直前、シンナーを吸っていたことも判明した。

エミ あなた。今日も毎朝新聞のコダマっていう人から手紙が来てるわよ。

タカオ やめてくれよ。あのときマスコミは俺たちをどれだけ苦しめたのか、おまえだってわかっているだろう。捨ててしまえよ、そんなもの。

エミ でもね、ずっとこれだけ送ってくださるっていうことは大変なことよ。熱心に私たちのこと考えてくださっているのよ。あなたは中を読もうともしないから。

タカオ とにかくだめなものはだめだ! 俺は認めないぞ。熱心といったって、仕事だからじゃないか。その後ろには魂胆が見え見えなんだよ。

エミ でもそれはそれで、情報は必要なのよ。この人は随分丁寧に調べて書いてきてくれてるし。真剣に私たちのこと心配してくださってる人だと私は思うわ。

タカオ うるさい! 聞きたくないよ! 俺は知らん。

エミ 聞いてよ! 犯人は18歳のとき傷害事件を起こして、精神科に通っていたんだって。それも親に付き添われて。多分事件をうやむやにするために、精神科に通っていたら罪に問われないということを画策したんじゃないかって書いてあるのよ。今度のことだって、また同じことをするかもしれないんじゃないの?

タカオ そんなことは裁判所で教えてくれるんだよ。裁判がすべてを明らかにしてくれるんだ。日本は法治国家じゃないか。すべての真相を明らかにしてくれるのが裁判なんだ。犯人の前科だってちゃんと調べてるはずさ。正義の味方なんだよ。裁判官は。破り捨てろ! そんなもの。

エミ 何! その言い方は。ユキは殺されたのよ。いろんなことは知っておくべきよ! 私は知りたいの! すべてを。

タカオ いいかげんにしろ! 裁判所がユキのかたきをとってくれるんだ! 裁判所が。

ナレーション 被害者や事件の遺族の家庭は、事件そのものの被害に加えて、感情の温度差や考え方の違いから家庭内不和が起こり、離婚する場合も少なくない。楽しかった家庭が、明るい伸びやかだった家庭が、たった一瞬の出来事、決して元に戻ることのない一瞬の時を境にして、すべてが崩れ始めてゆく。この苦しみは果てしなく続くのである。

さらに、夫が何の疑いもなく信じていた日本の刑事司法が、被害者にさらなる追い打ちをかけてゆく。今日は初公判の日。夫婦は娘を殺した犯人を、今日初めて見るのである。

裁判長 被告人。前へ。氏名は。

オノ オノエツオ。

裁判長 年齢は。

オノ 20歳です。

裁判長 職業は。

オノ 無職です。

裁判長 被告人。あなたには黙秘権が認められています。この法廷で尋ねられたことについて、答えたくなければ答えなくてよろしい。ただし、ここで証言したことはあなたにとって有利不利にかかわらず証拠となりますので注意するように。

タカオ 黙秘権? 答えたくないことに答えなくていい? 冗談じゃない。法廷は真実を明らかにするところじゃないか! 何を言ってるんだ!

裁判長 傍聴人は静粛に!

タカオ 傍聴人? 何を言ってるんだ! 私たちは被害者の親なんだぞ! なんでこんな場所に座らせるんだ。被害者はかやの外なのか!

裁判長 静粛に! さもないと退廷を命じますよ。

ナレーション 1か月に1回のペースで裁判は行われることになった。今日は3回目の公判日。被告側弁護人の意見陳述の最中である。

弁護人 というわけで、被告人は事件当日電話で女性から約束を取り消され、そのやるせなさからシンナーを吸い、心身に異常をきたし、家にあった刃物を持って家の外に出、当事件を起こしました。

最初の被害者に切りつけた後、悲鳴を上げた2人の目撃者、すなわち第2、第3の被害者のことでありますが、それをみて「まずい。見られた」と思い、何の考えもなくとっさにそちらに向かっていき、いきなり切りつけたわけでありますが、第3の被害者が突然木刀を取り出し、振り回したので怖くなり、無我夢中で応戦したと述べております。すなわち、計画的犯行でなく、とっさの行為であります。

また、この被害者ユキさんは、剣道2段という段位まで持っておりまして、被告人にとって恐怖だったろうと思われるのであります。

タカオ 待ってくれ! 木刀って、そうじゃない! 竹刀だったはずだ! 一緒に事件に遭ったアユミちゃんが証言したはずだ!

裁判長 傍聴人、静粛に! でないと退廷を命じますよ。法廷は厳粛なものです。

タカオ 何を言ってるんだ! あの弁護人は嘘を言ってるじゃないか!

裁判長 傍聴人、静かにしなさい! よろしいですか。こういうことは当職にとって余分なことですが、あなたに説明しておきます。裁判は被害者のためにあるのではありません。ついでに申しますが、あなたのおっしゃるアユミさんは証言をその後、撤回されたのです。ですからここでは関係のない話です。ここまで説明しました。よろしいですか。今後これ以上法廷を乱すと、あなたには退廷を命じますよ。

タカオ 何を言ってるんだ! 犯人は私の娘を含めて2人の人間を殺し、ユキの友達のアユミちゃんに重傷を負わせたんだ! 被害者として当然のことを言ってるだけです。刃物を振り回してきた人間に竹刀で反撃してどこが悪い! 段を持ってるんだったら、大人しく殺されろとでも言うのかい! おかしな理屈ですよ! おまけにこんな席にただ座らせておいて、何かおかしいと感じないですか! 感じないとしたらあなたたちは人間じゃない! もういいよ。もういい。こんなところもうたくさんだ!

エミ あなた。

裁判長 静粛に。静粛に。

タカオ なんでアユミちゃんは証言を撤回したんだ。

エミ コダマさんに聞いたら、犯人が出てきた後が怖いっていうことらしいわ。

タカオ ああ、そうか。そうだったら仕方ないよな。でもなぜ俺たちには何も教えてくれないんだ。裁判所は。

タカオ もうたくさんだ。もういい。嫌だ。何てところだ。信じられない。どこが法治国家だ。被害者をのけ者にした裁判のどこに正義があるんだ。

エミ 被害者をセミの抜け殻のようにしていくのね。いつでも押しつぶせるように。

タカオ ああ。

エミ 私にも考えがあります。裁判長の言ったことは私は知っていました。毎朝新聞のコダマさんが教えてくれてました。裁判は被害者のためにあると考えてはいけないって。被害者は厄介者なのよ。裁判所にとっては。

ナレーション 平成2年の最高裁判決で、犯罪の捜査及び検察官による公訴権の行使は国家及び社会の秩序維持という公益を図るために行われるのであって、犯罪の被害者の被侵害利益ないし損害の回復を目的とするものではないという判決が出されている。

繰り返します。平成2年の最高裁判決で、犯罪の捜査及び検察官による公訴権の行使は国家及び社会の秩序維持という公益を図るために行われるのであって、犯罪の被害者の被侵害利益ないし損害の回復を目的とするものではないという判決が出されている。

エミ 私はこんな国でユキという娘を生んだことを心から後悔してる。常識という言葉が通じる国であること、信じていた。でもそうじゃなかった。ユキが死んで、殺されて、初めて知った。

タカオ 被害者のことなんかどうでもいいって言ってるのがこの国の裁判か。もういい。もうすべて任せる。俺はもうたくさんだ。

ナレーション 裁判の最終日、判決言い渡しの日に、平成12年から犯罪被害者に認められた意見陳述がこの夫妻にも許されたのである。しかし夫は第3回公判の後から絶望のあまり仕事もできなくなり、自宅に引きこもり、アルコールで気を紛らわすだけの生活となってしまった。家庭崩壊。一人娘を殺された家の。この家にもう二度と幸せな日は戻らない。妻は一人、大きな決心を胸に、初めて法廷の中に入る。

エミ 裁判長。今日は判決言い渡しの日です。そんな日の今日、私がここで意見を述べる機会を与えられましたが、量刑にも何もかにもすべてにおいて何の影響もなく、何の反映もしないでしょう。すべてはすでにもうでき上がっているのでしょうから。何の重みもないものを私は権利と認めません。意見陳述を拒否します。

私は何も言いたくありません。私たちに残されたものは絶望だけです。拒否するという意思を裁判長、あなたに示す、それだけです。誰が私の娘を知っていたのですか。何のための裁判だったんでしょう。結局、私たちはユキを殺されて、極限の我慢をさせられているのに、あなたたちはさらに我慢を押しつけているだけじゃないですか。もうどうでもいい。私はもう死にたい。ユキの後を追って逝きたい。

ナレーション 西暦2000年以前、犯罪被害者には裁判がいつどこで行われるのか、裁判の結果はどうなったのか、犯人がどこの刑務所に入っているのか、いつ出所するのかという最低限の情報すら教えてもらえませんでした。聞いても拒否されていた時代でした。まして、裁判の中で意見陳述を行う制度もありませんでした。

この人形劇の初公演は、2002年8月17日。11回公演の3日後、2004年12月1日、犯罪被害者等基本法が成立しました。25回公演の後、2007年6月20日、犯罪被害者が刑事司法に参加できる制度が参議院で可決しました。被害者参加制度といいます。2008年12月施行。日本全国の犯罪被害当事者たちが必死になって社会に訴えた結果の権利です。

ナレーション さて、皆さん、2008年施行の被害者参加制度とはどんなものなのでしょう。模擬裁判劇を行ってみます。法廷には被告人とその代理人の席。公益の代表者としての検察官と、そして被害者の席。2007年11月、あすの会のシンポジウムで但木検事総長は、「検察と被害者が互いにその心情を理解しながら、理解と信頼の下で制度を運用していくことです。検察官と手を携えて、正義の実現のためにぜひご協力を」と言ってくださいました。

そして裁判長、右陪席、左陪席の3人の裁判官。そして6人の裁判員が加わります。この人たちが第一審での刑事裁判の判決を下します。

あ、そうそう。被害者をかやの外に追いやっていた法廷と傍聴席を区切るバーは、もう必要ありませんね。片付けてください。

赤、青、緑。赤、青、緑。光の三原色。混ざり合えば白い色になるという。連想するのは真っ白なキャンパス。法廷。被害者と被告と裁判官。この三者がそろって初めて、司法の正義は実現される。ようやく実現した真っ白いスタートライン。ここから伸びる判決というゴールまでのラインが決してゆがめられず、汚されないことを私は望む。

被告人 僕はあのとき興奮して何が何だかわからないまま刃物を振り回していただけなんです。そこへ制服を着た女の子が木刀を構えて僕のほうに突っ込んできたんです。恐ろしくなった僕は、必死に自分を守っただけだ。悪いのはあの子のほうなんだ。

エミ 検事さん。

検事 何でしょう。

エミ 今、被告人が言ったことは先日の打ち合わせで説明した部分です。あの日、ユキは木刀を持って行ってません。

検事 そうでしたね。お待ちください。裁判長。

裁判長 はい。何でしょう。

検事 被告が今述べた内容は事実と異なっています。事前の打ち合わせでこのことは確認しております。その質問は私が行うよりも、被害者参加人が行うほうが適切と思われますので、その旨許可いただきたい。

裁判長 被告人弁護人、ただ今の検察官の申し出について異議はありませんか。

弁護人 異議あり。その必要は認めません。

裁判長 では今からこの件で合議しますので、しばらくお待ちください。

右陪席。左陪席。今の申し出をどういたしましょう。

合議の結果、被害者参加人の質問を認めます。

検事 ありがとうございます。

エミ 今、被告人が言った、ユキが木刀で応戦したという部分は間違いです。ユキはあの日竹刀だけを持って家を出ました。なぜそんな嘘をつくのですか?

被告人 僕は嘘なんか言っていない。

エミ あなたが振り回した刃物の傷が竹刀に付いてるんだから、あなたが嘘を言っているのは明らかなんです。

被告人 そんな証拠書類はなかった。

エミ 竹刀に刃物傷が付いてる。これだけでもあなたが嘘をついてるのは明らかです。それに専門家の方の証明がここにあります。竹刀に付いた傷の付き方は攻撃を受けたときのものであって、攻撃したときのものとは明らかに違う。そう書いてあります。あなたは嘘ばっかりついてる。

被告人 え、そんな。

エミ あなたはユキを殺したのよ。わかってるの? ユキを返して! 私に返して!

裁判長 わかりました。もうその辺でいいでしょう。

ナレーション 日本の刑事裁判を心から信じていたユキの父親タカオは、自ら命を絶った。被害者をかやの外に追いやっていた刑事司法の現実を娘の死という悲しみの果てに突きつけられ、怒りの末、うちひしがれ、絶望と失望の中で自らの命を短くしたのである。一人残されたエミ。

エミ あっ、どうしたのかしら、私。いつのまにか外は薄暗くなっている。あれからもう何年たったのかなあ。この家の明かりをつけるのも消すのも私一人になって。

(回想)

エミ(歌) がんばらなくちゃあ。

タカオエミ(歌) がんばらなくちゃ。がんばらなくっちゃ。

エミ 3人で、この家でささやかに幸せに生活していた。ユキは犯罪者に殺された。タカオさんは死ぬ前、あんな裁判信じられるかと、思い詰めたように繰り返し、繰り返しつぶやいていた。結局タカオさんは理不尽な司法の壁に殺されたと同じ。私は犯人が憎い。私の家庭をめちゃくちゃにした犯人を許せない。

でも、あれから多くの犯罪被害者たちの怒りの声が一つになって、ようやく犯罪被害者の刑事裁判への参加が実現した。この権利は決して天から降ってきたのではない。今、私はこの、とても大事なことを社会に伝え続けなければならないと思う。

あのとき、被害者には何の権利もなかった。悲しみの果てに絶望。そんな中、犯罪被害者たちが声を上げ、社会に訴えた歴史を当事者の一人として後世に伝えていきたい。そしてどうか、この世から犯罪がなくなりますように。

ユキ、タカオさん、あたしはそのため、あすに生きる。生きてゆきます。 <終>

(上演後、演者コメント)

林(友平)東大阪からまいりました林と申します。1998年2月19日、東大阪市内のカラオケボックスで、当時19歳の私の娘が命を奪われました。犯人は今服役中です。無期懲役です。

草刈 草刈です。6年前の夏に18歳になる孫娘が殺害されて6年になります。私は被害に遭って、本当に被害者が法の不備にあるということを嫌と言うほど思い知らされました。今、裁判の途上ですが、でも、公判前整理手続という法律すら、被害者は中に入ってものが言えません。このことを本当に被害者が中心になる日が絶対に来ることを願っています。

坂口 神戸から来ました坂口です。私は2000年2月に二つ違いの当時27歳の弟を18の男に殺害されました。男は逆送致され、5年から8年の不定期刑で、殺人罪の刑で服役し、去年の秋に仮出所をしてきて、今年の6月にはもう保護観察の期間も終わり、皆さんと同じ一般の人間に戻っています。

これから始まる被害者参加制度などでとか、今日もたくさんの被害者がここで発言をしますが、それよりもたくさんの数えきれない人の命が今までに奪われて、その家族や友達など、それ以上何十倍、何百倍、何千倍もの人間が犯罪被害者、被害者の遺族として今もなお生き続けているということを、皆さん、忘れないでください。

坂井 大阪からまいりました坂井と申します。私の事件は2000年に父親が何の関係もない男に思い込まれて殺害されました。殺人の現行犯逮捕でしたけれども、傷害致死で起訴されまして、もうすでに出所しております。

一井 堺市から来ました一井です。私は1995年に15歳の長男を少年4人による集団暴行で殺されました。2000年にあすの会に参加し、活動を続けてきました。少年事件の被害者ではありますが、少年事件というのは逆送されない限り、裁判さえ行われないのが現実です。人の命を奪った犯人が少年か大人かという理由だけで刑事裁判のあり方が変わるのはおかしいと思います。少年法はこの人形劇以上に被害者を厄介者扱いしてきているということを決して忘れないでほしいと思います。

 ナレーションを担当しております有慶子といいます。坂口さんとは友人になりまして、応援に来ています。

佐藤 ライティングを担当しています佐藤と申します。

 林良平と申します。今日は本当にありがとうございました。私は妻が1995年、殺人未遂事件に遭っております。以上です。今日はありがとうございました。

司会 人形劇団クライシスの皆さん、ありがとうございました。

ではこれからプログラム2、全国犯罪被害者の会、通称あすの会の紹介と活動の歴史。そして活動の成果をあすの会林良平さんより報告していただきます。林さん、よろしくお願いいたします。