関係機関・団体と連携した犯罪被害者支援促進モデル事業

講演:「被害者の権利と地域社会における被害者支援」

大学生の社会参加活動促進事業(北海道)

安藤 勝則(北海道警察本部警務部警務課犯罪被害者支援室長) 安藤 勝則
(北海道警察本部警務部警務課犯罪被害者支援室長)

おはようございます。ただ今ご紹介いただきました安藤と申します。資料としては1枚もののレジュメがあります。これに従って説明させていただきたいと思います。

まず、犯罪被害者の方の支援をするためには、被害者の実態を知ることが一番の問題であって、皆さん方もそうかもしれませんが、私も犯罪の被害者になったことはありません。被害者の気持ちや被害者の状態が意外と理解されていないということが言えると思います。

それで一つの例としてお話しさせていただくのですが、すごく古い話で、皆さん方のお父さんとかお母さんが生まれた時代かもしれません。今から40年ぐらい前の出来事なのです。猟銃によってお父さんとお母さんを殺された事件があったのです。北海道の事件ではないのですが。

このときにお父さんとお母さんを殺され、子供さんたちが残ったのですが、当時高校生であった子供さんが、その後40年間どうやって生きてきたのかということを聞いていただきたいと思います。

この方は自分が被害者であるということを人に言うことができないまま、被害者と主張したら何か別な存在に見られるのではないかということを思いながら、40年間生きてきたということです。

犯罪被害者の家族がどうしてこういう目に遭わなければならないのかということを考えてほしいのです。そのひとは、お父さんとお母さんが殺されなかったら、普通の生活をできていた方なのです。いろいろな楽しいこともあったりという生活であったと思うのです。ところが犯罪の被害に遭ったがために、一変した生活を送らなければならない。それが現実の話なのです。

被害者は、強盗殺人の被害者なのですが、これは、犯人がお金を取ろうと思って人の家に入ったところ、家の人に見つかったから、家の人を殺したというのが大体のパターンだと思います。もちろん、被害者に何の責任もないのです。

今でもそういうことはあるのですが、当時は犯罪の被害に遭うということが、因果応報のように言われたのです。何かの原因が被害者にあるのではないかというふうに社会が、被害者を見ていたのです。そこでこの当時高校生の方は、自分が被害者であるということも語れず、ひっそりと40年間生きてきたのです。

ところが今、犯罪被害者に対する法的な整備とか取組というのが進んできている中で、この方は自分が当時思ったことを、被害者にさせたくないという気持ちから、被害者を支える活動を一所懸命やっているということなのです。

これが犯罪被害者の置かれた状態なのです。

次に、本村洋さんという方、皆さんご存じですか?自分の奥さんと、生まれて間もない長女を当時18歳の少年に殺された犯罪被害者の遺族で、これはもう9年ぐらい前の話なのです。この事件では、加害少年の死刑のことだけが話題になっていますよね。死刑のことがすごく先行して、被害者の気持ちってどこに行ったのかなと思うぐらい、これは担当者として思っています。

本村さんがいろいろな活動をして、被害者の権利として死刑なんだということを強く言っておりますが、本村さんみたいな人は、被害者遺族としては珍しいのです。自分が被害者である、被害者の遺族であるという主張はなかなかしにくいのです。当時こんな状態で私の妻が殺されましたなんて、簡単に言っているかもしれませんけれど。それを言うことによって当時のことを思い出すのですから。後からも触れますけれども、被害者だとか被害者遺族の心の傷というのは重たいものがあって、ずっと残っているのです。

それで被害者の気持ちということで知ってほしいのですが、最近、通り魔事件など凶悪事件が本州府県では発生しています。本村さんだってそうだったと思うのですが、自分が朝会社に行くときに、帰ってきたときには家族が殺されているなんて、誰も考えませんよね。皆さんここに通学するときに、バスに乗ってくるのか車で来るのかわかりませんが、バス停で後ろから誰かに刺されるなんて考えたこともないと思うのです。

私は、釧路に昨日の夜、列車で来たのですが、駅のホームで人に刺されるかもしれないと考えませんでした。私は警察官ですから、そういう事件に接してはいるのですが、自分がそういう被害者になるなんていうことは考えたことなどないのです。まして皆さん方は、当然考えたことがないでしょうね。

でも通り魔事件というのはそういうふうに起こるのです。人が亡くなるということは、皆さん方も経験しているかもしれませんけれど。おじいちゃん、おばあちゃんなど家族が病気になって余命がなくて亡くなった場合など、覚悟していてもやはりつらいことですよね。それが、朝元気に出かけた人が、次に会ったときには冷たくなっているということが想像できますか?これを体験しなければならないのが被害者の遺族なのです。そういう状態だということを知っていただきたいと思います。

本村さんが活動したことについては、死刑のことだけが取りざたされ、18歳の少年に対する死刑が中心になっていますけれども、本村さんにとって死刑を肯定する、否定するという話ではないのですね。これは単に、本村さんが自分の奥さんと、子供さんを殺されたことへの仕返しだと思うのです。。昔、日本には仇討ちという制度があったと思うのですが、今はそれができない世の中なのですけれども、そういう気持ちがあったのではないのかなというふうに思っています。

本村さんは、被害者遺族であるという自分の権利と、被害者であった奥さんと子供さんの尊厳を守るための闘いを9年間やってきたということなのです。彼は、当時20歳ちょっと過ぎで、今や30歳を過ぎた年齢と思いますが、まさしく、将来のある彼にとって、多分彼の人生をかけた9年間の闘いだったと思います。これが被害者であり、被害者遺族なのです。

その中でも、彼がこれまで闘ってこられたのは、会社の上司とか同僚の支えがあったから、それから被害者を支えるいろいろな団体の存在など、そうした人たちのいろいろなサポートがあって、なんとかやってこられたということは、本村さんもいろいろお話しされているところなのです。

それと、被害者と被害者の遺族が集まって組織している全国犯罪被害者の会という、通称「あすの会」というのですが、ここの代表幹事の岡村さんという弁護士の話なのですけど。

弁護士さんですと当然被害者には接しているでしょうから、詳しいことは多分わかっているとは思うのですが、この方は言っているのです。この方は、自分が弁護士として担当した問題のことに関して、平成9年に逆恨みをした者によって自宅を襲撃されて、奥さんを殺されたという被害者の遺族になりました。この方は、自分は犯罪被害者の遺族になって初めて、被害者のことがわかった。30数年間弁護士をやっていても、要はわからなかったということなのです。被害者になってみないとわからないのだという。弁護士であってもそうなのですね。

ですから、私たち警察は、事件捜査をやっていて、殺された方の現場に行ったりもしたことはあるのですが、はたしてどれだけ被害者のことがわかっているのかということなのです。

それで、こういう被害者とか被害者の遺族の問題点として、精神的な被害というのがすごく深刻であるということが言われています。

JRの福知山線の脱線事故、3年ぐらい前にあったことは、皆さん、なんとなく記憶にありますよね。乗客の死者が106人、負傷者が562人というような、兵庫県で発生した事故なのです。「この事故でけがをされた当時大学生の方が今年自殺しました」と、新聞報道があったのです。

事故から3年経っていて、自殺をしたのですが、原因は何なのかということです。担当しているわけでもないのでわかりませんが、報道によりますと、同じ当時の事故で負傷され、この当時大学生と面識のある方が言っているのですが、「事故から3年以上が経った。世間からは元気になって当然と思われている。しかし心も体も傷ついたままの人が大勢いるんだ」ということを言っているのです。3年も経ったら当然忘れるだろうというようなことを思われるかもしれませんが、そうではないということなのです。

これが、被害者や被害者遺族の心の傷なのです。すごく重たいものがあるのです。あまり取りざたされていないのですが、この事故では犠牲になった男性と同居していた女性が自殺したという例もあるそうです。あまり自分たちが目にすることのないところで、そういうものがあるのだということなのですね。

それで犯罪被害者の抱えている問題というのはいろいろあるのですけれど、その中で精神的被害が極めて大きく何年経とうが、例えば10年経ったらどうなのか、30年経ったらどうなのかという問題ではないということらしいのです。

それで簡単な状態としては、たとえば、自分が被害者になった当時のことが頭に浮かんでくるらしく、白い壁の部屋で事件があったとしたら、白い壁を見たらその事件のことを思い出すだとか、自分の家族が犯罪の被害や交通事故に遭って収容された病院があるとしたら、病院にも行けない、その病院の前も通れないというのが被害者の心理状態としてあるそうです。

これは、決して特異なものではなくて、そういう事件を経験した人の心理状態であるというふうに言われております。

この状態であるPTSDというものは、皆さんなんとなくご存じだと思うのですが、こういう精神的被害が知られるようになったのは、平成7年に阪神淡路大震災と地下鉄サリン事件があったときに被害者や被害者遺族の状態として確認されて、それが広く国民に知られるようになったというのが実態だったのですが、それまであまりよく知られていなかったという状態です。

そこでこういう被害者は、一体何を求めているのか。被害者は、とにかく被害に遭ったらそのときどんな状態なのかということなのですが、ある被害者がこう言っているのです。知的活動が困難になっていると。私自身も聞いてもどういうことかわからないのですが、簡単に言うと「頭が真っ白になる」ということではないですか。

ふだん例えばこの時間になったら学校に行かなければならないから、起きて、食事をして、朝食を摂って、何時のバスに乗って。で、ここ、バス停、学校のバス停がここだからここで降りるんだというような、当たり前の行動ができないだとか。そういう状態になるということなのですね。

それで被害者はどんなことを求めるのかというと、ここに幾つか挙げているのですが、こういうことを求めているのです。これはあくまでも代表例であって、被害者の要望というのは極めて多岐に渡たっているのが実態なのです。それぞれの生活パターンも違いますから、求めるものは違ってくるのです。自分で何事もできない状態にあるから、こういうことを求めるのです。

また、あまり表には出ていないのですが、被害者はいろいろな不満というのも言っています。外に出て本村さんみたいに言える人はなかなかいなく、それでも心のケアを担当している方々にはそういう不満を言っているのです。

先生も先ほどおっしゃっていましたが、損害賠償の民事裁判を起こしても、結局、賠償が取れないという実態があるのです。例えば殺人事件の犯人に対して損害賠償を請求すると、たとえその人が会社でも経営していたとしても、殺人事件で刑事責任を取らなければならなく、会社の運営だってできませんし、財産的価値のあるものがあれば、それを売却することはできるかもしれませんが。私もいろいろな事件に携わっていて、損害賠償を請求して、損害賠償を取ったというのは本当に少ないと思います。まして殺人事件だと、極めて少ないと思います。

そういう損害賠償を請求しても、賠償金は取れない。今はもうある程度国とか行政の動きというのが出てきていますけれども、治療費を自分で払って、ひたすら健康の回復を願っているしかないのです。

一方で、加害者は、例えば刑務所に入ったりしても、それは被害者も含めた国民の税金ですよね。税金でまかなわれており、刑務所に入ったら不自由はあるものの、生活面では何不自由ないということを言うのです。生活ができないから刑務所へ入りたいという願望を持っている人っていますから。そういうことを被害者の声として、不満として訴えております。

こんな被害者の置かれた状態を考えると、やはり何か、社会だとか住民として何かやってやらなきゃな、というふうには思いませんか?そういう動きが、今出てきてはいるのですね。

ここで最近の犯罪情勢をお話ししておきます。北海道内の刑法犯罪の認知件数というのは、平成19年は戦後最小だったのです。ピーク時というのが平成14年で、今から6年ぐらい前ですが、皆さん方は高校生か中学生かな。このころが一番多くて、北海道でも9万4,000件ぐらいあったのですけれども、昨年は6万件台まで件数が減りました。

ただ、無差別殺人事件が多く起きており、今年6月に秋葉原の連続通り魔事件がありましたよね。17人が死傷されました。北海道ではそういう事件はないのかといったら、あるのです。岩見沢で帰宅途中の奥さんが、隣の三笠という市の市民に、通り魔事件の被害者になって殺されてしまいました。

札幌でも、帰宅途中の若い女性を狙った通り魔殺人未遂事件が発生しましたが、これは瀕死の重傷は負ったのですが、助かったのです。通り魔殺人事件があるのだと。決して本州だけの話ではなくて、北海道でもそういうふうな事件があるということなのですね。これは原因は何かよくわかりませんけれども。

どちらにしても加害者と被害者の間に特別な関係はないのです。強盗殺人にしてもそうですが、物とりの結果殺人というのも、被害者と加害者の間に基本的には関係はないのです。

ですが、動機はあります。誰でもいいから殺したいという動機はあるのです。しかし、普通に理解できる動機ではないのです。社会に対する何か恨みがあるのか、不満があるのか判りませんが、誰でもいいから殺してやろうという犯行が、通り魔殺人だとか無差別殺人ということになるのです。

こういう事件というのは、冒頭でもお話ししたのですが、誰が被害者になるかわからないという情勢です。それに対する対応はいろいろな形でされることになるのですが。

いずれにしても、普通に生活している人がいきなり凶行に及ぶということもありうるわけですから、その辺のところで注意だとかいろいろな対策が、最低限必要だと思います。

それで、被害者の人権ということで、先生のほうからも少しお話がありましたが、相対的な人権というのは、それは当然人間である以上はあるとは思うのですが、今お話ししたような被害者の状態の中で、被害者の権利はどこにあるでしょうか。ということが、当時被害者であったり、被害者の遺族であったり、被害者を支える活動をしている人らの話の中にあって、全く被害者には権利がないという主張から、平成17年に犯罪被害者等基本法が施行されたのです。

これはまさしく岡村弁護士や本村さんたちの活動の結果ということなのです。被害者でないと、こういう法律などが必要だということがわからないのです。

日本はあまり進んでいる話ではなかったのですが、こういう法律が整備されるとか、被害者支援に関する取組というのはあまり進んでいるものではなかったのです。

この法律の前文を、要約するとこんなことが書いてあるのです。「現在、安全で安心して暮らすことができる社会を実現するために、各分野において犯罪抑止活動が積極的に進められているが、犯罪被害は後を絶たず、また、被害者が十分な支援を受けられていない。安全で安心して暮らせる社会の実現を図る責務を有する我々は、犯罪被害者の声に耳を傾けなければならない。国民の誰もが犯罪被害者となる可能性が高まっている今日こそ、犯罪被害者の視点に立った施策を講じ、その権利・利益の保護が図られる社会を実現しなければならない」ということが書かれているのです。

これは犯罪被害者に対する取組をしている団体、それは犯罪被害者の支援活動とありますが、すごく画期的であって、この法律の下に、今いろいろな動きがされております。

その中で、基本理念というのがあります。法律の構成として目的があって、基本理念というのが第3条にあるのですけれども、この3番目のところに、簡単に言ったら、犯罪被害者というのは元々は普通の生活をしています。それぞれの状態は違うにしても、普通に生活しているのが、犯罪被害に遭った途端に状態が変わるのです。けれども、その犯罪被害者は元の生活を取り戻すという権利があります。その被害に遭ったことによって失ってしまった状態のまま、一生生きていかなければならないことはおかしなことです。何か落ち度があるのだったら別かもしれませんが。

元の平穏な生活が営むことができるようになるまでの間、要はみんなで支援しましょう、支援しなければならないということなのです。この法律の特徴としては、その責務については国もそうですし、地方公共団体もそうです。国民もその責務があるのですよということを言っているのです。国民の責務というのは、そういう施策の推進に関して協力しなさいということなのですが。でも、最低限被害者の置かれた状態というのは、責務として知ってほしいと私は思います。

この基本法ができるまでの経過を簡単にお話しします。元々昭和49年に、三菱重工ビル爆破事件というのがあったのですが、このときにいわゆる労災保障等の公的給付を受けた方もいれば、家庭の主婦など巻き添えにより亡くなっても何の保障もないのはおかしいのではないかということで、犯罪被害給付制度というのが発足しております。これは被害者の精神的・経済的負担の軽減を図るというもので、金銭的な部分の支援として、法律ができたのですが、これが法制度としての始まりといえます。

その後、声を挙げられない被害者の遺族が、「今の日本には被害者が大きな声で泣くこともできない。そういうのが日本の今の実情なんだ。」との訴えがあり、被害者の相談をきちっと受けられるようにしょうとボランティア活動が進んだり、社会的には被害者に対する取組が、普通の人が知らない中で進んできたのです。

警察は、犯罪被害者に対して一番最初に接する機関として、当然、被害者対策を進めていたのですが、こういう時代背景を基に、平成8年には警察における被害者対策はこうあるべきだというような要綱を定めて、本格的な取組をはじめました。それ以降、被害者を支える関係機関、団体が手を握ってやりましょうということで、平成9年ごろから被害者支援連絡協議会という組織を作っており、これは各警察署単位にありますから、北海道では69の警察署全部あるのです。こういう組織を作って活動してきた中で、この基本法ができたということです。

基本法に基づく具体的な施策については、国の方で基本計画を作って、こういうことをやりましょうということで、これを基に大きく被害者支援に関する取り組みというのは進んできているということになると思います。

そんな中、北海道としても、去年の3月に北海道の被害者に対する施策の基本計画というのができました。これは全国的に見ますと、秋田県に次いで2番目だったのですが、画期的だったのは、北海道庁がこの計画を作ったことなのです。秋田県は県警察が作っており、警察がやるといったら、犯罪被害者は警察の関係だろうということで整理されてしまうので。行政がこういうことをやっていかなければならないのであって、被害に遭ったのは道民でしょう。道民被害者なのに道庁があっち向いていていいのかということがそもそもの発想で、道のほうでこの基本計画を作ったのです。

昭和56年にできた、犯罪被害給付制度の給付金の額があまりにも少ないということで、金額も倍増することのほか、民間の被害者を支えるボランティア団体というのがありますが、こういうところに対する支援もしようということの法律の改正があるなど、被害者に関する法律とか制度の整備というのが格段に進んでいるというのが、今日の状態なのです。

警察がやっている被害者支援を簡単に説明しますが、警察は一番最初に被害者に接する現場があって、例えば殺人事件の現場があったら、そこに制服の警察官がまずパトカーに乗って行きます。その後、刑事が行くのですが、特に警察としては、殺人とか、傷害とか、性犯罪被害者とか、それと死亡交通事故の被害者遺族、ひき逃げ事件の被害者、少年の被害者というところに重点を置いて警察の対策が進められているのです。

事件が発生した場合、捜査員のほかに、被害者をサポートするという役目の者、警察官か警察職員なのですがそういう者が現場に行きます。そこで病院に行く必要があるような場合には、病院への付き添いをするとか、それからとても1人では家に帰れないということであれば、家に送ってあげるとか、そういうことも含めて、被害者の支援をするという者を運用する活動をしております。

その後、被害者からの相談とかにも対応することとしていますし、犯罪被害給付金の支給の申請があった場合、そのサポートもしたり、もう一回被害に遭うのではないかという不安は被害者の方は持っていますので、その不安を解消するために、交番の警察官が重点的に被害者の住宅近辺を警戒するなどという活動も取組としてやっております。

ただ、警察も10数年本格的に被害者支援とやっているのですが、あくまでも警察の取組というのは、警察活動の中でしかできません。例えば医療の関係の対応が求められるものなどは、医療機関にお願いして対応してもらうとか、福祉の関係などもそうなのです。法律ができて、それぞれやらなければならないことをしっかりやるという取組に変わってから、一層被害者に対する警察との連携を取ってやっていくところが増えてきているというのが実態です。

これが一番最初に被害者に接する機関としての任務なのです。これには概ね期間を定めてやっていまして、一番最初の、例えば1週間ぐらいが被害者にとってはすごく大変な状態でありますので、そこを重点的に対応することで対応しております。

被害者には、知的活動が困難であるというような状態をお話ししたとおり、自分の支えを求めているのですが、何を支えてもらったらいいのかがよくわからないということで、資料を配付しており、資料には被害者を支援するための機関が載せられております。心のケアをやってくれるところもあります、と書いています。

詳しくは説明しませんが、犯罪被害給付制度は、亡くなった方の遺族に対する給付金、けがをされた方に対する給付金、障害が残った方に対する給付金の三つの給付制度があります。

警察として特に力を入れてやらなければならないのが、この被害者の安全確保ということで、再被害防止に関する要綱を定めて、被害者の安全を確保する取組を行っています。

これは代表的なものが、暴力団のお礼参りです。お礼参りというのは、暴力団が事件を起こして、刑務所に入れられた場合、余計なことを言ったから刑務所入ったんじゃないかと、通報した者などを逆恨みして仕返しを考えることが多いので、再び被害者に会うことのないような対応をすることが警察の大事な仕事だと思います。

こういう取組は、当たり前のことなのですが、関係機関との間で情報交換しながらやっているところです。

それで被害者支援で一番大事なのが、関係機関との連携です。被害者支援連絡協議会という組織を作って、司法関係、医療関係、市町村など、関係機関・団体が連携して被害者をサポートする活動をしております。

大まかにこのような警察の被害者支援の活動があります。

最後に、地域社会における被害者支援ということなのですが、基本法の基本理念には、被害に遭ったときから、元の生活に戻れるようにしなければならないとされていますが、そのために関係するところが連携して途切れのない支援をしなければならないということが示され、その取組を行いつつはあるのですが、まだ十分ではありません。

これを社会全体でやっていかなければならないという考え方であって、どこかの機関が単独でやって、ずっと被害者に付いてサポートするなどということはできませんし、もちろん専門性だってありますから。社会全体が取り組んでいかければならないというのが一つの柱だと思います。

この基本理念というのを実現するために、今でも国のほうでいろいろな検討がされていて、その検討の中に、被害者の支援をするための連携という検討事項があります。そこでは民間団体、心のケアをする団体がいろいろな活動の中ですごく大事な存在なのです。その民間団体を中心にして、もちろん国とか地方自治体というのはそうなのですが、幅広い連携をして、支援の密度を高めていくということが必要だというように言われています。

二つ目は、その民間団体はボランティア組織であるので、ここを支えなければならないのです。民間のボランティア団体は、お金も何もないですから。自分たちの、こんなことをやりたいということで、そういう人らが集まって自主的にやっている活動なのですが、そこを地域に根ざして活動している、そういうところを支えていかなければならないのであって、二つ目の柱になっているのです。

そんな構想というか、取り組むべき方向の下に、しからばどういうことをやっていかなければならないのかということなのですが、それは(2)以降に書いてあるとおりです。まず一つは関係機関・団体の連携による被害者支援なのです。

関係機関・団体といったら、これは司法だとか医療関係だとかいろいろあります。今までは被害者に対して自分たちができることを自主的にやるという範囲で終わっていたのですが、今後はそれぞれが連携してやらないと、どこかで被害者に対する支援が途切れてしまったら、その被害者が元の生活に戻れたかなどということは全くわからないですよね。関係するところが連携して、元の生活に戻れるような支援を途切れることなくしなければならないというのが求められるところなのですから。まさしくこの活動ができるのは、被害者支援連絡協議会です。これがベースになると思うのです。

これが申し上げましたとおり、それぞれの地域に対応して北海道警察の各警察署単位に設置されております。ここですと釧路警察署が管轄していますので、釧路警察署が住民をカバーしているということになるのです。まさしく地域社会における取組と認識できると思います。

こういう活動の中でこれから求められるのは、市町村の役割ということになると思います。市町村の福祉行政というのは、例えば高齢者に対して、障害者に対しての福祉ということで、こういう言葉がいいかどうかわかりませんが、いわゆる社会的に弱い方に対するものだと思います。そういう方への対応として福祉行政があると思うのですが、被害者の置かれた状態を考えると、被害者もやはり福祉行政の対象になるとは思いませんか。

国のほうもやはりそういうふうな認識を持って、例えば保健医療というものも含めて、福祉のサービスを提供する対象であってしかるべきでないのか。これを行うのはまさしく市町村なのではないですか。

それは、例えば釧路市内で犯罪被害者が出てしまった場合、警察は警察の活動の中で被害者支援をするのですが、釧路市民ですよね。市民の対応は、当然市町村がやるべきでしょう。ということで、内閣府も言っており、私たちもいろいろな働きかけをしているのです。こういうことが最近理解されつつあって、各市町村では被害者支援に本格的に取り組んでいこうということで、被害者支援に関する条項を盛り込んだ安全・安心条例を制定するなどの動きが出てきております。

これは現実的な被害者支援をする上で、市町村が対応するということはすごく意義のあることであって、これによって社会における被害者支援というのは急速に進歩することになるのではないかと思います。

具体的な取り組みが進められているところとしては、例えば旭川市が、今すごく活動的にやっております。安全・安心条例という、犯罪に遭わないため、交通事故に遭わないためになど大枠の条例がありますが、札幌市は、元々安全・安心条例というのがなかったのですが、その条例を作ることと並行して、その条例の中に犯罪被害者の支援に対する取組を盛り込んだものを、来年の4月施行の予定で作業を進めております。

釧路市は安全・安心条例はありますよね。そこに被害者に関する取組も入れていただく必要があるのではないのかという話はさせていただいているところです。

こういう被害者の支援について市町村の取組が大事だというのは、本村さんも言っております。本村さんは自分が被害者の遺族であるという正直な感情で市町村の対応が必要だということもお話しされております。

それで民間団体という話をしましたけれども、代表的なのは心のケアをする団体で、皆さんのところに三つ折りのリーフレットがありますが、相談窓口に被害者相談室というのが書いてあると思います。釧路にも釧路被害者相談室というのがあります。ボランティアでやっている団体です。

ここは被害者の心、傷ついた心というのはすごく重たいんだよ、深刻なんだよということをお話ししましたよね。人というのはなかなか自分で自分の問題ごとを解決できるのかといったら、そうでもないと思うのです。まして犯罪被害者などは自分の頭の中をきちっと整理してどうするということがなかなかできない。そういう人に対応するのはやはりこういう専門的な知識を持った人が必要なのだということで、この団体については警察が本格的に被害者支援を始めたころから並行して活動をされているのです。

なにせここはボランティア組織であって、活動に関する資金というのが全くないのですから、警察としても業務、カウンセラーというのは、警察の専門的な分野ではないですから、そういう業務については業務委託するということで、予算措置は講じているのです。それでも全然活動のために必要な資金は確保されていないというのが実態です。

それで、今その活動のための資金を獲得するということで、いろいろなことをやっているのですけれども、皆さんもこういう団体があるということを是非知っていただいて、手元に小さい紙があると思いますが、釧路の相談室の名刺大の紙があり、活動についてご案内しております。

ここではカウンセラーの養成講座というのをやっています。資格はここの団体の認定資格で、べつに国家資格ではないのですが、これからカウンセリングの資格を持っている人は、企業などいろいろなところで求められるところだと思うのです。興味のある方はカウンセラー養成講座というのをやっていますので、受けてみるのもいいのではないかと思いますので、案内しておきます。

それで、レジュメの最後から2番目のところですね「社会全体で被害者を支え、被害者も加害者も出さない地域社会づくり」ということで、なかなか意味を理解できないかもしれませんが、これは簡単に言ったら、被害者の置かれた状態を知って、被害者のために何かしようというような取組がなされた場合、結果として被害者が残酷な状態に置かれているのだということが社会で知られれば、要は犯罪を出さないような、そういう社会になっていくのではないのかということなのです。

今、犯罪を防止するという活動はすごく広く行われていまして、例えば町内会単位でもやっているところがあります。青い回転灯を車に付けて、自分の町内を巡回しているという活動がされているのですが、こういう活動の中でも、やはり被害者は出てしまうというのが実態なのです。その被害者は、やはりその地域で支えていかなければならないということになると思うのです。地域が中心になって支えていくということになると思うのです。

その地域が、例えば直接的なことができなくても、例えば被害者を支えるための活動をしている、先ほど申し上げました相談室に対して、活動資金のための募金をするとかというのもできると思うのです。また、こういう団体の活動のお手伝いをするということもできると思うのです。

そういう活動をしていくことによって、こんな被害者を出すような社会であってはいけない。要はその犯罪が起きないような社会を作らなきゃねという、そういう意識になっていくのではないかと思うのです。それが、最終的に、加害者も被害者も出さない社会になっていくのではないかという発想なのです。被害者を支えることによってそういうことができていくのではないかということなのです。

このことは、やはり本村さんも同じようなことをおっしゃっていまして、被害者を支えるということは、それは求められるところだと。そもそも犯罪が発生しないことが一番重要であって、そこのところに着目した取組というのが必要なのだということを言っているのです。被害者のことを知ることによって、被害者を支える活動が地域社会で浸透して、それによって犯罪がないという社会ができたらいいのではないのかということを、本村さんも言っております。

そういう意味からも、私は、皆さん方にお話しすること、一般の方にお話しするチャンスというのはあるのですから、そのたびに本村さんの話をしていこうと思っています。

それで、参考でお話しさせていただきますが、11月25日、来週の火曜日から12月1日まで、犯罪被害者週間というのがあるのです。これは法律が整備された以降にこういうものを設けて、知ってもらう活動をしようということでやっているのですけれども、これに先駆けて、11月22日の土曜日。皆さん方休みですよね。土曜日の午後の0時から1時まで、イオン釧路ショッピングセンターで、紹介しました被害者相談室の組織の母体になっているカウンセラークラブというのがあるのですが、そこと道警の釧路方面本部がタイアップして、街頭キャンペーンを行うことになっております。

こういうことで、ここでチラシとかティッシュを配って、被害者のことを理解していただこうということをやるのですが、皆さん方も興味がありましたら、ティッシュ配り、ビラ配りに参加していただけませんか。配付した資料に詳しいことの照会先が書いてありますので、活動されなくてもやっているところを見に行っていただいても結構だと思いますので。一つご案内させていただきます。

それから、これはまさしく参考なのですが、警察の仕事の中でこういう被害者支援の活動をしているということは、あまり知られていないと思うのです。警察の仕事というのは、犯罪の恐れのあるところから対応しなければならないという、全く犯罪がなかったら、それは、それでもいろいろな相談対応というのをするのですけれども。仕事というのはすごく多岐に渡っています。こういう犯罪被害者の支援活動というのは、まさしくあまりよく知られていなくて、それで、例えば女性の性被害者の対応などというのは、女性警察官が専門職みたいな格好でやっているのです。そういう仕事も警察としてはあるのです。

私のお話は以上でございます。

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