関係機関・団体と連携した犯罪被害者支援促進モデル事業

講演:「被害者の権利と地域社会における被害者支援」

大学生の社会参加活動促進事業(北海道)

安藤 勝則(北海道警察本部警務部警務課犯罪被害者支援室長) 安藤 勝則
(北海道警察本部警務部警務課犯罪被害者支援室長)

おはようございます。ただ今ご紹介いただきました安藤と申します。

まず被害者の支援の究極の目的というのは被害者が自立していくための支援ということなんです。最初から最後までずっと面倒みるということでなくて、社会に戻ることを前提に支援をするということで、被害者支援という取組みがあります。どうして警察が被害者支援をするのかということですが、これは単純に言ったら警察が犯罪被害者に一番最初に接するということで、警察は昔から犯罪被害者の支援はやってるんですけども、本格的にやってまだ12~13年というところで、社会の動きにマッチするように警察のほうも、自分たちの活動だけじゃなくて、犯罪被害者の支援ということが大事だということをこういう機会を通じてお話させていただいております。

きょうはレジュメに従って説明させていただきます。まず被害者の置かれた現状ということでお話させていただきますが、被害者支援と単純に言っても、先生のほうからお話があったとおり、被害者の実態というのはたぶん皆さん誰も知らないと思うんです。被害者になった方もいらっしゃるかも知れませんが、ここを知らないと被害者支援は始まらないということで、知っていただこうと思っています。ただ、私も被害者になったことがありません。。私は警察人生の中で大部分が刑事警察にいるんですけど、実際には刑事として被害者に接していても、奥深い心情まではなかなかわからないというのが実態だということで、そんな私から説明して納得いく説明ができるかわからないですけど、説明させていただきます。

まず、被害者というのは一般的には自分が被害者だということを主張できないという、そういう位置づけだということを知ってほしいんです。例えば自分の家族が殺人事件の被害者だった。自分は被害者の遺族だ、なんていうことを想像してみてください。言えますか?言えないですね、なかなか。これは今でもそういう風潮があるかもしれませんけども、一つの例として皆さん方のお父さん、お母さんが生まれた頃、昭和40年ぐらいといったら、そうなんでしょうか。今から40年ぐらい前に1つの例として強盗殺人の犯人に両親を殺されたという、当時高校生の話なんですが、強盗殺人というのは被害者と加害者の間にほとんど因果関係はないですね。お金を盗る目的で、例えば住宅に入ったところ、被害者がいたから、見つかったから殺したという話なんです。そういうふうな被害者遺族であって、その方は、今から40年ぐらい前の時代背景もあるのかも知れませんが、自分が被害者だということを人に言えないでずっと生活してきてるんです。

当時は被害に遭ったことが、因果応報というような言葉がありますが、そういうふうに見られるんです。強盗殺人の被害者なのに、なにか被害者に関わる問題があるんじゃないのか、当時は見られていたんです。そういうことがあって、この高校生の方はそれ以降40数年、自分が被害者であるということを言えずにずっと生きてきてるんです。この人の人生というのはいったいどこに行ったんでしょう、ということなんです。この人は今日被害者がいろいろなことを訴えて活動ができるという場ができてきましたので、現在は被害者を支援する立場のボランティアとして活動しています。こういうことが今日はあり得ないだろうかと考えると、決してそうでもないという実態があるんです。例えば何かの事件を見たり聞いたりしたら、「あれ、これ、被害者のほうに問題があるんじゃないか」と皆さん方も思うような事件があると思うんです。たぶんあると思うんです。そういうふうに社会は被害者のことを見がちであるということをまず知っておいてほしいと思います。

この絵の話は皆さんご存じの話かも知れませんけど、山口県光市の母子殺人事件の被害者遺族です。本村洋さんって聞いたことありますよね。この人はいろんな活動をされている方ですが、決して特別気丈な方でもないんです。ただ、自分の考えとして一生懸命取り組んでいるんです。今年の4月に自分の奥さんと11ヶ月の長女を殺害された事件の、当時18歳の少年に対する死刑判決を本人としては勝ち取ったということで、新聞報道されているところであります。

最近通り魔事件とかの発生がよく報道されるんですけど、もしかしたら自分が犯罪の被害に遭うかも知れない、というふうに考えたことのある人っていますか?たぶんいないと思うんです。私も毎日電車で通勤してるんですけど、駅のホームで人に刺されるなんて考えたことはないです。でも、いまの社会情勢ってそういうことがあり得ますよね。当然本村さんだって、そんなことは考えてはいなかったです。自分が家に帰ったときに家の電気もついてなくて、奥さんと子どもさんが殺されているなんて考えもしなかったと思います。犯罪被害者や犯罪被害者の遺族というのはみんなこうなんです。こういうふうな状況に遭ってしまうんです。例えば病気だとか、ある程度覚悟して、もう高齢だからということで家族を亡くした場合、それであっても自分の最愛の家族を亡くすということは辛いことだと思います。それが朝元気で出かけていったものが、次に会ったときにはもう冷たくなっていたという現実をどうとらえるか、ということなんです。これはなかなか実感として受け止めることはできないと思いますが、当事者としても当然それを事実として受け止めることは難しいと思うんです。

本村さんの活動というのは単純に自分が被害者の遺族であるという考えの活動だけであると思います。この方は約9年間の活動をしたんですが、まさしく被害者の遺族であるという自分の権利と、それから亡くなった奥さんとお嬢さんの尊厳を守るための戦いをしたんです。9年間。これは別に彼が死刑を強調するからといって、決して死刑論者でもないんです。単に被害者の遺族であるという感情だけなんだと思います。これは言っていいかどうかわかりませんけど、私は単純に自分がたぶんその少年を殺してやりたいという気持ちになると思うんです。私もたぶん自分の家族がそういうふうなことになったら、そういうふうに考えると思います。でも、今はそういう世の中ではありませんし、日本は法治国家ですからそんなことはできませんよね。単純に本村さんが考えたのは昔の仇討ちという考え方でないかなと思うんです。自分ができる仇討ちというのはこういう手段なんだということで活動を進めたような気がします。ただ、本村さんも自分一人で活動したわけじゃなくて、この方は新日鉄の社員なんです。会社の上司に当初は会社を辞めて活動するということをお話したらしいんですけども、社会人として活動することが大事だという上司の励ましとか、それからこういう被害者の遺族を支える団体の支えがあって、なんとかやってきたというのが実情であります。

もう一つの被害者の声ということで聞いてほしいんですが、岡村勲さんという弁護士さんです。弁護士さんというのは当然犯罪被害者に接することがあります、警察と同じように。でも、この人が平成9年に自分が担当した問題で逆恨みをした者によって自宅を襲撃されて奥さんを殺された犯罪被害者の遺族です。この方が言ってるのは、「自分が犯罪被害者の遺族になって、初めて被害者のことがわかった。39年も弁護士をやっており、被害者と接していながら」とおっしゃってるんです。結局、警察官についてもそうなんでしょうけども、司法の専門家についても被害者と接していながら、自分が被害者や遺族にならなかったらわからないということなんです。こういう方もそういうふうに認識するんですね。ですから、被害者の置かれた状態というのはわかりにくいんですけども、理解することが必要だということなんです。

この被害者のいろんな悩みとか問題があるんですが、その中であまり知られていないのが精神的被害の深刻さです。先生もおっしゃっておられましたが。その一つの例として、JR福知山線の脱線事故というのが今から3年ぐらい前にありました。記憶にあるかもしれませんね。乗客の死者が106人、負傷を負った方が5百数十人という事故があったことはよくご存じだと思いますが。最近、業務上過失致死傷ということで、事件がどうなったかということが遺族に説明されたという報道もあるんですが、その陰に当時皆さんと同じ大学生で被害に遭って負傷を負った方、25歳だったんですが、今日この方が自殺したということが新聞に載っていました。「ああ、そうなのか」ぐらいな感じかもしれませんけども、私はこういうことを担当していますので、とくに目に留まったんです。これについて報道の範囲ですが、この亡くなった方の家族と面識のあった、この事故の負傷者の一人が言っていることですが、「事故から3年以上経った。世間からは元気になったと当然思われがちだった。でも心も身体も傷ついたままの人が大勢いるんだ。」ということを、いま治療中の負傷の一人が言っているということです。また、事故発生の次の年、18年の10月かな、この事故で亡くなった男性と同居していた女性が自殺したと言うことです。こういうこともあるんですね。こういうのが被害者の精神状態ということで認識しなければならない部分なんです。

被害者の精神状態というのはどうなのかということですが、事件から何年経とうが事件当時の場面がいきなり頭の中に浮かんでくるとか、事件を思い出させる場所、例えば家族が収容された病院、そういうところには行けない、その病院の前も通れない、こういう状態が長く続くというのがこの犯罪被害者、被害者遺族の心理的状態の特徴なんです。これは決して特異なものではないと精神科医の先生はおっしゃっていました。これは一種のショック状態があって、その状態のもとに身体も心も変調を来すということは別に特異なものではない、あり得ることなんだとおっしゃっています。

こういう被害者の精神状態が深刻だということが社会的に知られたのが地下鉄サリン事件や、阪神淡路大震災の平成7年のことです。それまではあまりよく知られてなかったんです。このときの被害者、被害者遺族の実態を捉えるなかで、この症状というのが他人にはあまりよく理解されない。一人で悩んでいる人がたくさんいるということがよくわかってきて、これに対する理解とか支援が必要だということがやっとわかってきたのが平成7年で、きわめて最近の話なんです。

こういう被害者というのは、しからば何を求めるのかということですが、まず第一に事件の発生直後の被害者や、被害者遺族の心理状態というのは普通の知的活動が困難であることをまず知ってほしいんです。簡単に言ったら頭が白くなるというような言葉があるかもしれませんが、思考回路が停止してしまう状態だということを言われております。それは被害者遺族が自分でおっしゃっています。アンケートの結果ですが、この表のとおり被害者というのはいろんなことを求めています。単に側で話を聞いてほしいとか、こういうことを求めています。被害者の要望というのは極めて多岐に渡っているというのが実態なんです。ここに挙げただけの要望だけでなくて、いろんなことを被害者の方は支援してほしいという要望をするんです。それはいろんな生活実態などが違うんでしょうから、多岐に渡るのは当然だと思います。

そういう被害者の要望のほかに、先生からもお話がありましたけども、被害者というのは不満をたくさんおっしゃっています。損害賠償、例えば殺人事件の被害者になったからと言っても、それは遺族として損害賠償を請求する当然権利があるわけですから、損害賠償の請求をするんですが、民事裁判で判決が下っても、結局加害者のほうにお金がないから損害賠償の金も受けられない。いまはある程度進んではきてるんですけども、被害者としては国とか行政から何の援助もないと。ケガした治療費を自分で払って、自分でなんとか回復を待つしかないと。一方で、これも先生もおっしゃっていましたけれども、加害者については自分も払っている、国民も払っている税金で何不自由ない生活をしているというような不満をおっしゃってるんです。こういう状況がこれからお話する被害者に関する法律ができた背景にもなってるんですが、こういう被害者の状態を理解して、いち早く被害者が求める支援制度に関する情報を提供して、被害者自らが望む支援を選択するような状況をつくってサポートしていくことが重要な問題であると認識されます。

参考で最近の犯罪情勢を知っていただきたいんですが、北海道の犯罪情勢というのは、刑法犯罪という、皆さん刑法はわかりますよね。殺人とか傷害とか窃盗とかの刑法犯罪の発生は昨年のデータを見ますと、戦後一番少ないという数字が出ています。去年については北海道で約6万件の刑法犯が発生していると。ピーク時は平成14年で、約9万4千件ということで、30数%の減少があると。治安が回復したのかなというような見方をする人もいるんですけども、警察としては、はたしてどうなのかなというところです。やはり無差別殺人事件が発生しているというようなことが、はたして治安回復ということが言えるのかなという状況です。今年6月にも17人の死傷者を出した秋葉原の通り魔殺人事件、それは本州の事件かなと思ったら、北海道でも実は18年頃から岩見沢で帰宅途中の主婦が隣の三笠市の住人に殺された通り魔殺人事件、札幌市北区と石狩の花川というところで帰宅途中の若い女性が連続的に刃物で斬りつけられたと。この方は幸い命は助かったんですけども、重い障害を負ってしまったと。こういう通り魔事件が北海道でも発生しております。近い話だったら、名寄でも通り魔事件が最近ありました。

こういう通り魔事件みたいな無差別殺人事件というのは加害者と被害者の間に因果関係がないんです、特別な関係がない。動機はあるんです、本当は。誰でもいいから殺したかったという動機はあるんですが、通常理解できる動機ではないのです。目的がないまま、社会に対する恨みとかいうことで誰でもいいから刺してしまうと。こういうふうな事件が目立っております。警察としてそれを分析すると言っても、それはなかなか難しいところであって、警察の対応というのはあるんですが、これは別にいろいろ考えなきゃならないところがあるんではないのかというふうに思います。これが今の犯罪情勢です。

元に戻りますが、被害者の権利ということです。これも先生のほうからお話があったんですが、いわゆる加害者の権利というのは憲法で保障されておりまして、確固たる権利があるんですが、一方で被害者の権利はどこにあるのよと言ったら、まったくなかったんです。それでさっきの岡村弁護士や本村さん、こういう方々を初めとする被害者支援の関係機関、団体の訴えによって平成17年4月に犯罪被害者等基本法が施行されました。この前文にすごくいいことが書いてあるんです。被害者のためとかという権利ばかりでなくて、すごくいいことが書いてあるんです。

要約しますと、現在、安全で安心して暮すことのできる社会を実現するために、各分野において犯罪抑止活動、犯罪抑止活動ってわかりますね、犯罪を防ぐ活動、が積極的に進められているんですが、犯罪被害は後を絶たず、被害者は十分な支援を受けられていない。安全で安心して暮らせる社会の実現を図る責務を有する我々、これは法には国だとか地方公共団体、国民に責務を課してるんですけども、我々は犯罪被害者の声に耳を傾けなければならない。国民の誰もが犯罪被害者となる可能性が高まっている今、まさしく通り魔事件、その他があるわけですから、犯罪被害者とか被害者遺族の視点に立った施策を講じ、その権利、利益の保護を図られる社会の実現を目指さなければならないんだと、こういうことが前文に謳われているんです。まさしく被害者の支援ということもあるんですけども、根底にはやはり犯罪をなくすことが前提であると言っております。

これに法律の作りとして、目的というもので構成されているんですけども、基本理念というのがあるんです。基本理念には個人の尊厳が重んじられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障する権利があるんだということをまず謳ってるんです。基本理念は3つあるんですが、3番目の基本理念、これがすごく大事なところであって、いまこれが社会で取り組まれている被害者支援ですが、犯罪被害者が被害に遭ったとき、今までの生活と違う状態に置かれるわけです。被害に遭うまでは普通の生活をしているんですが、それが被害に遭ったことによって生活が一変するんです。被害を受けたときから再び平穏な生活を営むことができるようになるまでの間、必要な支援を途切れることなく受けることができるようにしなきゃならないんだよということなんです。

要は被害を受けることによって今までと違う状態に置かれる。その被害者や被害者遺族というのは、一番最初の強盗殺人事件の高校生のようにずっと何十年も、死ぬまでそういう苦しい状態に置かれて生きていかなきゃならないのかということなんです。そうじゃなくて、失った家族を取り戻すということはできないかもしれませんが、少なくとも被害に遭う前の状態に、ある程度戻ることが当然の権利であると。そのために「途切れのない」というのは、何かの支援が、例えば警察がやったから、それで終わりだとか、心のケアをするカウンセリングの人が心のケアをしたから終わりだとか、そういうもんじゃなくて、継続してその人が元の状態に戻れるようにしてやらなきゃならないんだと、こういうふうな考え方なんです。これを是非知ってほしいと思います。私の今日の話の根幹というのは、まずここにあるんです。

それとこの法律は国、地方公共団体に責務を課しています。具体的にこういうことをするというのは基本計画というもので示してるんですが、国にも責務がありますよ、地方公共団体にも責務がありますよ、国民にも責務がありますよと。国民についても「犯罪被害者の名誉または生活の平穏を害することのないよう、十分配慮するとともに、国とか地方公共団体がやっていく犯罪被害者に対する施策について協力をする」ということの責務を課してるんです。こういうふうな法律の作りになっています。あとは具体的にどういう施策を打っていくかというものがいくつか上げられていますが、こういう法律の構成になっております。

この法律が平成17年4月に施行されてからまだ3年です。それまではどういう被害者支援の歩みがあったのか、簡単に説明させていただきます。いろんな経過はあるんですけども、大きな流れになっているのは昭和56年に犯罪被害者給付金支給法というのができています。これは昭和49年、ちょっと古い話ですが、三菱重工ビル爆破事件というのがあったんです。いわゆる過激派という集団が東京の三菱重工ビルを爆破したんです。このときに死者、負傷者がたくさん出たんですけども、労災で補償された人もいれば、経済的に何の補償もない人もいました。仕事している人は労働災害で補償されている。例えば家庭の主婦だったら何の補償もないとか。そういう国の救済制度の不均衡というのが指摘されて、通り魔事件など、そういう事件に関して経済的な救済としてこの法律ができております。これが一般的に言われている被害者支援の制度の始まりかなと思います。その法律ができたんですけども、その後具体的なものは何もありませんでした。

この犯罪被害給付制度ができて10年のシンポジウムがあったんですが、そこで本来被害者というのは大きな声を上げて、「私被害者です。こんな不満があります」というのは言えないんですが、勇気を持って言った人がいるんです。交通死亡事故の被害者の遺族が精神的な援助の必要性をこのときに指摘してるんです。このとき言ったことを簡単に説明します。「いまの日本は被害者が大きな声で泣きたくても泣けない」というようなことを言ったんです。このシンポジウムを聞いてた政治家もいるんですが、これはなんとかしなきゃならないということで、大きく被害者支援に関する動きが出て来たということになります。精神的な被害の対応として、被害者相談室をつくらなきゃならないということで、この頃から動きがあって、平成4年に東京にそういう相談室ができて、北海道でも平成9年に北海道被害者相談室というのが立ち上げられております。

現在、旭川に被害者相談室というのはないんですが、旭川地区カウンセラークラブという、ボランティアでカウンセリングをやっている団体があり、ここが今まさしく被害者相談の相談室になるという予定で話が進んでおります。旭川にもそういう組織ができるということになっています。ただ、旭川ができてないというだけであって、釧路だとか函館にはあるんですね、実際には。別にできない要素はなかったんですが、旭川にも今できる予定であるという状況であります。

そんな中、警察も平成8年に被害者対策要綱というのをつくって本格的な被害者支援を行うようになっておりまして、平成9年には地域社会に根ざして被害者を支援していく組織が必要だということで、被害者支援連絡協議会をつくっています。これは被害者が出た場合に、関係する機関、団体、民間の方が自分たちのできる範囲の中で被害者をサポートしていきましょうという組織ですが、警察のほうからいろいろ関係機関にお願いをして、この組織を立ち上げて、いま各警察署単位に組織があります。旭川ですと旭川中央署と旭川東署にそれぞれあると。

基本法ができた後、3年しか経ってないんですが、社会としては大きな動きがあって、基本法を具体的に実現するための基本計画が国で閣議決定されております。これを受けて、実は全国的には2番目なんですが、北海道庁が主体になって、北海道犯罪被害者等支援基本計画を作っております。道庁の仕事として被害者支援の部分というのは全く接点がないものであって、警察の方から話を持ち込んでも、道庁の人はあまりよくわからないと思うんです、正直。「被害者って、それ警察の仕事じゃないのか」となるのですが、行政がやるべきことがあるんだよということを説明して、いち早く道庁の人に理解していただきまして、全国の都道府県のなかでも2番目に早いスピードで基本計画を作って、今まさしくそれを実行に移すという、いろいろな取り組みをしているところであります。

この取り組みのなかで犯罪被害給付金支給法も改正されまして、元は経済的な支援ということで、遺族に対する給付金も1千数百万であったのですが、金額が上がったことや、被害者を支援する民間の団体に対するバックアップが必要だというような法律に整備されました。基本法ができて以降、急激に被害者支援に関する法とか制度の整備がされております。刑事手続についても、例えば、刑事裁判では、検察側について被害者が出廷するというようなこともありますし、制度としてはこれからどんどん整備されていくことになると思います。

参考で警察が行っている被害者支援をについて聞いていただきたいのですが、警察の被害者支援はいろんな取組がありますが、重点的に行っているのは殺人とか、傷害事件とか、性犯罪という、いわゆる身体犯という事件です。身体に関わる事件を警察のほうで身体犯と言っているんですけども。こういう事件の被害者、それから交通死亡事故、ひき逃げ事故の被害者、被害者遺族、それから少年被害者に重点を置いて警察では被害者支援を行っています。

簡単に説明しますが、事件があって例えば殺人事件が発生した場合、犯罪被害者の遺族からいろんな事情を聞くことになります。警察の事情聴取によって、被害者に精神的な負担を強いることがありまして、これが先生のほうから指摘がありました二次被害ということになります。基本的には、捜査に携わる者以外の者を警察の被害者支援要員として被害者のサポートをさせるという制度があります。この者の任務としては、例えば病院の手配や付き添い、捜査員が事情聴取する場合の付き添い、相談事に応ずること、帰りも不安だということがあれば自宅に送り届けるということを行っています。これはあくまでも捜査の過程の一部分としてやることになっております。

この支援要員が被害者に付き添いした後、支援要員から警察以外のもあるのですが被害者支援に関するいろんな制度の情報を提供することを行っています。パンフレットやリーフレットをお渡しする方法で行っていますが、言葉で喋ってもいいんですけど、被害者とか被害者遺族に事件直後に話をしても頭が真っ白になっているわけですから、頭に入らないわけです。それで資料としてお渡ししておいて、思いついたときに見ていただいて、制度に関する質問をされれば、それにお答えできるというような資料をお渡ししています。これらの情報は、警察の制度だけではなく、検察庁の制度とか、他の機関の制度についてもこの中に盛り込むようにしています。

被害者、被害者の遺族がカウンセリングを受けたい、相談を受けたいとの要望があれば、それに対応する窓口、関係機関との連携を図っています。

先ほど昭和56年にできたという犯罪被害給付金の制度ですが、これは犯罪に限定があって、基本的には故意の犯罪行為によって不慮の死を遂げた被害者の遺族とか、身体に障害が残ってしまった被害者の方に対して、考え方としては社会の連帯共助の精神に基づいて国が給付するという制度であります。これによって少しでも精神的、経済的な打撃を緩和しようという国の制度です。これには遺族給付金、亡くなった方の遺族に対する給付金、重い傷を負った方の治療費・その他を支給する給付金、それから障害の残った方に給付する障害給付金という3つの給付金があります。

次は被害者の安全確保です。被害者というのは加害者から再び同じような被害に遭うのではないかという恐怖心を持っています。この不安を解消するためにとっている施策でありまして、特に言えるのはやはり暴力団の被害です。暴力団の犯罪被害というのはお礼参りがあるのではないか。お礼参りというのは、「よくも俺のことを警察にたれ込んでくれたな」というのをお礼参りと言うんですね。こういうことを暴力団はやるんです。そういうことをきちっとカバーしないと警察の存在意義はなくなると思います。警察も平成12年に、それ以前かな。他県警ですけど、ストーカー事件で殺人の被害者を出してしまったという苦い記憶があるんですが、それに対応する必要も当然ありまして、二度と同じような被害に遭うことがないようにという対策をとっております。

警察の施策はたくさんありますが、その中の最後の話として関係機関との連携です。被害者の支援というのは警察とか一部の者がやっているだけではどうにもならないです。やはり社会全体で被害者を支えなければならない。任務分担がやはりあります。警察ができることはあくまでも捜査の範囲の中でやるものですから、関係機関と連携をしてやらなければならないということで、被害者支援連絡協議会というものを立ち上げ運営しています。

先ほどもちょっとお話しましたが、北海道被害者相談室を設置して、旭川にもできるというお話をしましたが、心、精神的なケアというのがすごく大事なのです。警察ができるのかというと、これは専門的なものですから警察としてはできないので、民間団体がいまやっています。その方々にお願いする格好で連携しながら、現在、被害者の心のケアをやっていただいています。あくまでも警察の持ち分としては捜査が主体ですから、その捜査の中でこういう活動に努めております。

このような被害者支援のなかで、地域社会における被害者支援はどうすべきか、ということが今後の課題ですが、基本法については先ほど説明しましたが、再び平穏な生活を取り戻すというのは当然必要ですよね。誰が被害者になろうが、元の生活を取り戻すというのは当然の権利なのです。そのためにどうしなきゃならないのかと考えたときに、これは社会全体が取り組むという認識であることがまず一つです。この基本法の基本理念を実現するためにはどうしたらいいのかを具体的に専門家の人がいろいろ検討したのですが、その検討の結果、まず一点目としては関係機関がうまく連携して対応していくことが大事なんだと。これは警察が他機関と連携してやっている実態はあるのですが、さらにそれを深めていく必要があることが二点目になります。もう一点は先ほど説明しましたカウンセリングをやっている民間の団体がありますが、関係機関と連携して、各地域に根ざした自主的な活動をするためにこの団体を支援することです。そういうことが必要だと言われています。

心のケアの部分というのは被害者が元の生活に戻れるために、経済的なものとか、例えば身体に傷を負っても治療して治るということがあるかもしれませんが、意外と治らないのが、先ほど説明した通り、心の傷なんです。このカウンセリングをやっている人たちの話を聞くと、さらの紙を丸めた状態が被害者だと言うのです。これが普通の人の状態だとしたら、これ(紙をくしゃくしゃにする)が犯罪被害者だと言うのです。いろんなサポートによって伸ばしますね。伸ばしてもシワは残る。これが心の傷だと言うのです。わかりますか。紙ではわからないかもしれないけどね。そういうものだということを言ってるんですね、カウンセリングをやっている人たちは。ですから、なかなかそういう傷は治らないんだと。経済的にはある程度回復したようなことがあっても、人の心の傷は簡単には治らないんだと。そういうことの対応を担っているのがこの民間団体であって、これはボランティアでやっているので、財政的な部分も含めていろんな機関がバックアップしていかなきゃならないんだということを国の専門家の検討会では言っております。もちろん被害者の支援の充実のためには、被害者のニーズにちゃんと対応していくことが大前提ですが。

今後、地域社会で取り組んでいかなければいけない被害者支援はどういうものかですが、まず被害者支援に関係のある関係機関が連携することが大事です。みんなで連携して被害者をなんとか支えていこうと。これまで警察の呼びかけで被害者支援連絡協議会を作ってきて、ある程度連絡協議会の会員が自主的な活動をしていくという定義にしていたのですが、今後はお互いに連携してやっていかないとだめではないか。そうでないと基本理念に言っている「途切れのない支援」が実現できないのではないかと言われていまして、まさしく被害者支援連絡協議会を強化していく必要があると言えると思います。

ここには、警察、司法機関、市町村が入っていますが、とくに市町村の役割が大きいということが言えると思います。国の被害者支援の施策の中心は内閣府でやっています。内閣府もそういうことを示してはいるのですが、なぜ市町村が大事なのかというと、被害者の求めの中でやはり相談、情報提供、保健医療、福祉サービスというのはまさしく市町村が担っている部分であって、被害者の求めもこういう部分がけっこう多いと思います。まさしく市町村が担っている高齢者、障害者という、いわゆる福祉行政の一つとして犯罪被害者に対する福祉行政もあってもいいのではないかと、私、市町村の担当者にお話をさせていただいています。例えば旭川市永山の住人が被害者になった場合に、その住人にとって一番身近な行政機関が旭川市になると思います。そこがサポートしなかったら、誰がサポートするのか、という話です。

これは決っして私だけの話でなくて、今そういう取り組みが徐々に進められつつあって、実は旭川はすごく犯罪被害者支援に関して進んでいる街で、今年の4月に旭川市に安全安心条例というのがあるのですが、それに被害者を支えるという被害者支援の情報を盛り込んだ条例ができていると。旭川というのは中核市ですが、中核市では鹿児島市と旭川市しかないんです。札幌市は政令市ですけど、政令市では新潟市があります。札幌で来年の4月にそういう条例ができます。まさしく北海道は旭川も札幌もそういう条例ができて具体的な取り組みが進められるという、きわめて先進的な都道府県の一つであると私は思います。そのなかでも旭川はすごく先進的で、活動として先月市民の集いを行って、犯罪抑止、交通事故防止、被害者支援を市全体で取り組んでいる代表的なものですが、すばらしい活動だと私は認識しています。

被害者支援に関して市町村の役割が大事だということは、前にも話しましたし本村さんもおっしゃっています。福祉、医療、法律など専門的な知識によって被害者を支援することが必要不可欠であると。この専門的な支援を提供できるのはまさしく市町村ですね。地方自治体とか、犯罪被害者を支援する団体――これは先ほど話した民間のカウンセリングの団体――ということを被害者、被害者遺族の率直な気持ちとして本村さんもお話しております。

民間団体の活動に対する支援は、私どもも一生懸命やっていますが、基本法の基本理念で言う「途切れのない支援」をやるためには民間団体の存在はすごく大事で、ここをなんとかもり立てていかなければ、被害者支援は充実しないという認識の下に、現在私たちもこの団体に対するサポートをいろいろな角度から行っています。例えばボランティア団体ですので活動する資金がないものですから、そういう働きかけもやはりしなきゃならないですし、育成のための研修会もやらなきゃならないということで、いろいろな面でサポートしながら、育成をしております。

北海道で今問題になっているボランティアのカウンセリング活動については、旭川は今後相談室ができますが、やはり地域格差があることが問題です。札幌とか、大都市圏についてはそういう体制があるのですが、稚内にそういうのがあるのかというと、なかなか難しいのが実態です。行政と違って、そこをしっかりカバーするという具体的なことができるのかというと、なかなか難しくて、そういうボランティアの人を育成してもらって、活動域を広げていくという方法しか、今のところないんですが、粘り強くそういう活動を支えていきたいなと。これは社会でも当然支えていかなきゃならないと認識して、現在取り組んでいるところであります。

この言葉だけ見たらよくわからないと思いますが、「社会全体で被害者を支え、被害者も加害者も出さない地域社会づくり」いうことを標題にしてるんですけど、これは犯罪被害者の視点に立って、簡単に言ったら、犯罪をなくすとか、交通事故をなくすということの取組の話です。犯罪のない社会をつくる活動というのは、今やすごく普及しているというか、警察だけでなくて行政もやっていますし、各企業内でもやったり、町内会の単位でやっているということで、幅広く行われています。連携もしながら、犯罪抑止、交通事故防止の活動というのはすごく今一般的にされてるんですが、考えてほしいのは、こういう取組のなかでどうしても被害者は出てしいます。その責任は取組の結果と言ったら、そうも言えないのですが、取組をしても犯罪はゼロにならないというところを踏まえていただいて、出てしまった被害者についてはそういう取組の中でも支えていく必要があるのではないかという一つの考え方なのです。出てしまった被害者は別だというのでなくて、犯罪の抑止、交通事故防止の活動の中で出た被害者もみんなで支えていきましょうと。

被害者を支える活動というのはすごく意味深いものがあって、被害者を支えることによって、たぶんそういう活動をされた方は犯罪が発生してはだめなんだという意識を持つと思います。加害者も出してはいけない、被害者も出してはいけない。そういう社会にしなきゃならないんだということを、被害者を支えることによって実感するはずです。というのは、被害者の置かれた状態とか、心の傷の深さを知ったら、そういう気持ちになると思います、たぶん。これによって犯罪を発生させてはいけないという気持ちが社会一般に浸透すれば、犯罪を抑止するという効果になるのではないかという考え方なのです。こういう側面からも被害者も加害者も出さない活動になるのではないかということを、今進めているところであります。決して被害者の状態を浮き彫りにして、それによってというわけでなくて、被害者を支える活動によって規範意識ができればいいということです。

こういうものを一つの例として、これと被害者支援も含めているのですが、今月25日に旭川で犯罪被害者週間の「国民のつどい」というのがあるのです。全国で4ヵ所、中央大会を入れると5ヵ所ですが、それが去年札幌であって、今年旭川であると。旭川の地域性を出して、その集いをやるということで、ぜひ旭川市民の方には参加してほしいと思います。ご案内させていただきたいのですが、そんな行事がありますので、ぜひ皆さん方、興味を持って参加していただければと思います。

最後に本村さんが遺族の思いとしておっしゃってる内容があります。やはり本村さんも犯罪が発生することによって、誰も幸せにならないということを当然言ってるんです。犯罪を発生させないことが一番大事なんだということを本村さんの手記の中では言っております。地域社会としてはこういう本村さんとか、被害者の苦しみをよく知って、犯罪の被害というのが他人事ではないんだということを考えていただいて、なんとか被害者を支えていくことが地域社会の責務であると考えて取り組んでいかなきゃならないと思います。いまここに被害者週間の国民のつどいをご案内していますが、ぜひ参加していただければ私どもも幸いだと思いますし、ボランティア団体のカウンセラークラブですが、ここでカウンセラーの養成講座もやっていますので、興味のある方はぜひカウンセラーの資格をとられたらいいのではないかというふうにご案内させていただきます。私の説明は以上でございます。何か質問ありますか。

** 例えば老人ホーム等で職員の方が高齢者に虐待をした場合は刑事、犯罪になりますと、

安藤 警察としては、事件性のある部分についてはどんなものでもとりあえず現場臨場しますから、そこで事件性を判断します。事件であるかどうかがわからない段階では被害者支援を並行してやることは多分にあります。

** 事件性のある、匹敵するような場合、その場合には適用されるということですか。

安藤 被害者支援については別に重点をここに置いてやるというだけの話で、警察は、例えば死体がどこかにあると言ったら、殺人か、それとも病死かわからない。それでも全部現場臨場します。一通り警察の捜査と並行してそういう被害者支援をやるということですから、事件でなかったらそれはそれで終わりということです。事件性を考えるということになると、当然被害者支援も並行してやるということになります。ですから現場に行ってみないとわからないですね。

** 事件性がなくても、被害がそれに匹敵するようなものであれば、ということにはならないですね。被害者支援を受けるときに。

安藤 警察は警察捜査の中の支援ですから。警察ができない部分については他機関に引き継ぐということをします。ですから、子どもさんの扱いでも事件性がなくても、子どもの健全育成のために問題があるんでしたら、それは児童相談所に引き継ぐわけです。

** では何らかの形で支援は受けられるということですね。

安藤 はい。

** どうもありがとうございました。

安藤 どうもありがとうございました。

司会 それではこれで特別講演を終わらせていただきます。皆さん、被害者の置かれた状況とか、被害者の遺族の状況、心情とか、心的なストレスの状況とか、被害者への理解を深めることによって犯罪も減らしたいという、そういう地域の取り組みがいかに大切であるかということがおわかりになったかと思いますので、皆さんも地域の一員として被害者支援制度には理解を深めて協力していただきたいと思います。皆さん、ご静聴ありがとうございました。それではお礼の拍手をお願いします。

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