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犯罪被害者等施策
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警察庁ホーム > 犯罪被害者等施策 > 犯罪被害者等施策の手引き(第4章)

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第4章 地域における施策の総合的な推進<各論>


I 相談・情報提供

1 趣旨・必要性
犯罪被害者等は、犯罪等により身体的・精神的な打撃を受ける一方、診療、葬儀、告訴、事情聴取など捜査への協力、公判への出廷・傍聴、民事訴訟の提起、福祉制度の利用申請、犯罪被害給付金や各種保険制度の給付申請、民間支援団体への支援依頼など、様々な問題に直面します。しかしながら、被害者の多くは、支援制度に関する知識が十分あるわけではなく、結果として必要な支援を受けることがないまま困惑している状態に置かれていることも想定されます。
このため、地域のどの関係機関・団体を起点としても、犯罪被害者等が必要とする情報提供・支援を途切れることなく適切に受けられる体制をつくることが、被害回復にとって重要になります。
基本法では、国・地方公共団体の基本的施策の1つとして、犯罪被害者等が直面している各般の問題について相談に応じ、必要な情報の提供や助言を行い、支援に精通している者を紹介するなどの措置を講ずることとされています。

2 具体的な施策手法
(1)総合的な対応窓口の設置・運営
基本計画では、内閣府において、地方公共団体に対し、犯罪被害者等からの相談や問い合わせに対応する「総合的な対応窓口」の設置を要請することとされました。
これは、「被害者にとっては、刑事手続に関するものだけではなく、転居、金銭問題、雇用等に関する問題も含めて相談できる又は相談先を教示してくれる、総合的な窓口が警察以外にも必要」、「生活や医療、住居の問題に困ったときに、それぞれの担当課が異なり、説明することが苦痛なので、相談窓口を一本化してほしい。」といった被害者からの要望を踏まえ、基本計画に盛り込まれたものです。
総合的な対応窓口では、主として以下の機能を果たすことが期待されています。
なお、被害者支援に限定せず他の様々な相談を受ける共用の窓口を総合的な対応窓口とする場合にも、3の留意点に配慮する必要があります。

<1>各種相談の受理
相談者の抱える問題や支援ニーズを正確に把握するとともに、庁内関係部局や関係機関・団体が有する各種制度・事業や窓口に関する情報を正確かつ適切に提供できることが求められます。また、対応する際は、相談者のプライバシーに配慮するとともに、相談等により知り得た秘密は守る必要があります。

<2>関係機関・団体への橋渡し
関係機関・団体に橋渡しする場合には、橋渡し先の機関・団体の連絡先や支援内容を示すとともに、橋渡し先の担当者と綿密な連絡を取り、被害者の同意を得た上で被害者の置かれた状況や支援の要望などを申し送るなど、被害者にたらい回しの印象を与えないように配慮することが重要です。
  
<3>その他
このほか、地方公共団体における各種支援制度に関する案内等を総合的な対応窓口に備え付け、被害者が来訪した際に配布するとともに、個々の事情に応じて、被害者を関係部局まで案内する、申請手続を補助するなど被害者の利便性の更なる向上を図ることも考えられます。
また、地域の状況や個々の被害者の置かれた状況に応じ、相談・問い合わせへの対応に加え、警察、病院などへの付添い、ヘルパー派遣による家事支援や応急的な資金貸付けなど具体的な支援を実施することも考えられます。

(2)被害者支援ハンドブックの作成・備え付け
(1)の総合的な対応窓口を始め各種相談窓口で被害者からの相談・問い合わせに適切に対応し途切れない支援につなげていくためには、平素から、関係機関・団体相互で所掌や役割分担、連携方法等について認識・情報を共有しておくことが不可欠になります。
基本計画に基づき推進会議の下に設置された「支援のための連携に関する検討会」最終取りまとめ(平成19年11月推進会議報告)では、顔の見える連携を構築するには関係機関・団体で支援や連携に関する知識を広く共有する必要があるとし、基礎的自治体及び都道府県双方のレベルで既存の支援ネットワークが中心となり、被害者支援を行う際の留意点、当該地域の関係機関・団体の支援内容や連絡先、連携方法等をまとめた「被害者支援ハンドブック(仮称)」を作成し、関係機関・団体に備え付け、その活用を図る必要があるとされました。
また、国においては、最終取りまとめに基づき、支援ハンドブックについて全国標準の内容を確保する観点から、平成20年度にモデル案を作成・提示する予定です。
各地方公共団体では、モデル案を参照しつつ、地域の状況を踏まえた独自の支援ハンドブックを作成し、その活用等を通じて、支援や連携に必要な知識を関係機関・団体間で広く共有するとともに、担当者レベルで情報交換や連携方法に関する協議を行う実務的な会合を定期的に開催するなど、日常的なネットワークを築くことが望まれます。



(3)リーフレット・パンフレット類の作成・配布
総合的な対応窓口を始め地域における関係機関・団体の連絡先や各種支援制度・事業の内容を一覧できるリーフレット・パンフレット類を作成し、各種相談窓口に備え付け・配布するなど、被害者を始め地域住民に周知を図ることも重要になります。


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3 検討・実施の際の留意点

(1)二次的被害の防止
相談・問い合わせに対応する場合には、被害者の心身の状況や置かれた環境に関する理解や各種支援制度に関する知識が必要です。これらの理解や知識が十分でないと被害者に対し不適切な対応をして二次的被害を与えるおそれがあります。
このため、2(2)で先述した支援ハンドブックを作成・備え付ける、各種相談窓口担当者に研修を継続的に受けさせるなど、直接被害者に接する担当者が支援に必要な知識・技能を修得できるようにすることが不可欠になります。
また、来訪した被害者の相談を受ける際は別室で対応する、専用電話を設置し特定の職員が対応するなど、被害者が不特定多数の者の目にさらされず安心して相談できる環境づくりも重要です。

(2)地域住民への周知の徹底
地方公共団体による支援は、都道府県警察等による介入的なものもありますが、犯罪被害者等からの要請を受けて対応する応答的なものが中心になります。一方、被害者の多くは、支援制度に関する知識が十分ないまま、身体的・精神的被害を受けて困惑した状況に置かれています。このため、総合的な対応窓口を始め地域において被害者が相談できる窓口や利用できる制度を分かりやすい形で地域住民に対し広く周知することが必要になります。
その際は、2(3)で先述したリーフレット・パンフレット類の作成・配布、地方公共団体が有する広報媒体の活用、関係機関・団体の有する広報媒体への情報掲載、記者発表など、あらゆる機会をとらえて周知を図ることが重要です。


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II 広報啓発

1 趣旨・必要性
  犯罪被害者等が被害から回復し、再び平穏な生活を営めるようになるためには、国・地方公共団体による施策を十分に措置するのみならず、地域のすべての人々の理解と配慮、そしてそれに基づく協力が重要になります。
基本法では、国・地方公共団体に対し、教育活動や広報活動その他の活動を通じて、犯罪被害者等が置かれている状況や犯罪被害者等の名誉又は生活の平穏への配慮の重要性等について国民の理解を深めるための措置を講ずることとされています。

2 具体的な施策手法

(1)犯罪被害者週間における集中的な啓発事業の実施
基本計画では、基本法の成立日である12月1日にちなみ11月25日から12月1日までを「犯罪被害者週間」として設定し、集中的な啓発事業を進めることとしています。
「犯罪被害者週間」において集中的な啓発事業を行うことは、地域における様々な主体が年間を通じて広報啓発を展開する気運が醸成され、住民すべての理解や配慮が重要であるという意識が定着する契機となります。取組の例として、<1>講演会・シンポジウムの開催、<2>街頭キャンペーンの実施、<3>標語・メッセージ集の募集、優秀作品の表彰、<4>ポスター・リーフレット、啓発グッズ類の作成・配布、<5>懸垂幕、横断幕、電光掲示板等の掲出のようなものが考えられます。

(2)あらゆる機会を捉えた広報啓発活動の展開
住民の理解や協力を得るための取組は、目に見える効果を直ちに期待できるものではなく、住民一人ひとりに深く届くよう着実に進められなくてはなりません。
このため、様々な分野・場面で、教育活動や広報・啓発活動等による息の長い取組を行うことが望まれます。
<1>犯罪被害者等施策に関連の深い各種週間・運動における啓発活動の実施
交通安全や人権、安心安全のまちづくりなど被害者問題と関係の深い各種週間・運動において、パネル展示やポスター・リーフレット類の配布、講演などの啓発活動を行う。
<2>地方公共団体が有する各種広報媒体の活用
<3>関係機関・団体が実施する広報啓発活動への協力
都道府県警察や民間支援団体(市町村においては都道府県)などが実施する被害者問題に関する広報啓発活動に協力する。


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3 検討・実施の際の留意点

(1)関係機関・団体との連携協力の推進
国や庁内関係部局、関係機関・団体との連携協力を進めることは、より広くかつ深く地域住民に届く広報啓発活動を可能にするとともに、他の業務での関係機関・団体との連携協力を強化する契機となり、途切れのない支援に資することにもなります。
特に都道府県・市町村との連携協力は、地域住民に対し漏れなく被害者の抱える問題や各種支援制度を周知する上で重要です。

(2)被害当事者の視点を活かした取組
被害者の心身の状況や置かれた環境に関する理解・配慮の必要性がより深く住民一人ひとりに届くためには、犯罪被害者等やその支援者の視点を反映させることが重要になります。被害当事者による講演や被害当事者を交えたパネルディスカッションの開催、手記の紹介など、当事者自らが情報発信する方法が有効になります。また、各種イベントの開催に当たって被害者団体や支援団体の協力を得る、啓発資料を作成する際に被害当事者の意見を聞くなど、企画・実施の過程で被害者の視点を反映させることも重要です。

(3)ウェブサイトの活用
ウェブサイトは名前を知られずにいつでも必要な情報にアクセスできるので、情報提供の手段として効果的です。ウェブサイトには、被害者の心身の状況や置かれた環境に関する基礎的な知識、総合的な対応窓口を始め地域の関係機関・団体の連絡先・支援内容を一覧できるリストや地方公共団体の取組などを掲載することが考えられます。


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III 犯罪被害者等への経済的支援

1 趣旨・必要性
  犯罪被害者等は、被害に遭った時点で受ける損害だけではなく、働き手を失ったことによる収入の途絶や長期療養のための費用負担などにより、遠い将来にわたって、経済的困窮に苦しむことになる場合が少なくありません。こうした経済的負担・困窮は、被害者の精神的・身体的状態にも悪影響を与え、回復を困難にすることもあります。
  このため、基本法では、国・地方公共団体に対し、犯罪被害者等が受けた被害による経済的負担を軽減するため、給付金の支給に係る制度の充実やその他の施策を講ずることを求めています。
  また、基本計画に基づき推進会議の下に設置された「経済的支援に関する検討会」最終取りまとめ(平成19年11月推進会議報告)では、国の制度である犯罪被害給付制度の抜本的拡充を図るとともに、申請から裁定までの期間が審査などにより比較的長く要するなど制度運用上の制約もあることから、「犯罪被害者等に身近な地方公共団体が当座必要な資金を迅速に貸付・給与することが、被害直後の生活支援にとって効果的である」とし、国の制度を補完する意味も含めて、地方公共団体独自の応急的な経済的支援を実施することを促しています。

2 具体的な施策手法
  地方公共団体の取組事例を踏まえると、経済的支援に関する地方公共団体独自の取組として、主に以下のものが挙げられます。支援対象者の範囲や給付額、各種手続に要する事務負担の面でそれぞれ異なってきますが、地域の被害者のニーズや地方公共団体の財政状況など地域の実情に応じ、支援制度を整備していくことが望まれます。

(1) 見舞金・支援金制度
被害の程度(死亡・傷害など)に応じた一定額の給付金を一時額として支給するものです。この制度には、被害者の経済状況や受給目的によらず給付でき、返済の必要もないため事務負担が比較的軽いという利点がある一方、<1>「お見舞的な」給付であるため給付額が低くなる傾向がある、<2>対象者が大幅に増えることを防ぐため、対象被害者を限定せざるを得ないなどの制約があります。

(2) 貸付制度
被害により収入を絶たれる、多額の治療費用がかかる場合に、応急的に無利子又は低利子により資金を貸し付けるものです。既存の貸付制度を犯罪被害者等に拡大するあるいは被害者に特化した制度を新たに創設する方法が考えられます。この制度は、返済を前提としているため、見舞金・支援金の制度よりは支援対象を拡大し、貸付額も高めに設定できる一方、<1>事務負担が比較的重くなる、<2>一定の所得制限を設けたり保証人を求めたりする必要があるなどの制約があります。


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IV その他地方公共団体独自の取組

1 趣旨・必要性
  犯罪被害者等の置かれた状況は様々であり、必要とする支援も先述の経済的支援のほか、医療・福祉、住宅、雇用など生活全般にわたることから、基本法においては、国・地方公共団体に対し、基本的施策として多岐にわたる施策を実施することを求めています。
  また、基本計画に基づき推進会議の下に設置された「経済的支援に関する検討会」最終取りまとめ(平成19年11月推進会議報告)では、犯罪等により精神的被害を受けた犯罪被害者等に対するカウンセリングに関し、精神医療分野におけるカウンセリングについて科学的評価を踏まえ診療報酬改定の際に必要に応じ措置を講ずるとするとともに、多くの地域で警察や民間支援団体等が実施している「早期支援段階でのカウンセリング・相談について、都道府県における予算措置が着実になされ、さらには、早期支援後も継続してカウンセリング・相談が受けられるような予算措置がなされる」ことを促しています。

2 具体的な施策手法
  各地方公共団体における施策の進捗状況や地域の被害者のニーズ、国(市町村においては国及び都道府県)の動きを見ながら、保健・福祉、保育、住宅等における既存施策を拡充する、あるいは既存施策を基に新規施策を策定・実施するなど地方公共団体独自の取組の充実を図ることが望まれます。ここでは、地方公共団体の取組事例から主なものを挙げています。

○臨床心理士等による精神的なカウンセリング・相談
○被害直後及び中長期的な居住場所の確保
○コーディネーター・アドバイザーの育成
○被害により日常生活が困難になった被害者に対する家事・育児支援

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