第14回「犯罪被害給付制度の拡充及び新たな補償制度の創設に関する検討会」
議事録

○椎橋座長 それでは,少し時間より前ですけれども,ただいまから第14回「犯罪被害給付制度の拡充及び新たな補償制度の創設に関する検討会」を開催したいと思います。
早速議事に入りたいと思いますが,事務局から前回以降,各資料が配付資料に至るまでについて御紹介いただきたいと思います。よろしくお願いします。
○ 内閣府犯罪被害者等施策推進室参事官 お手元にあります資料,1セット御覧ください。前回の検討会との間で座長にもお諮りした上で,論点表と警察庁から御提出いただいた資料を事前配付させていただきました。
資料1が今回の論点表という形の位置付けでございます。
資料2-1,資料2-2が最初の論点表でいきますと,親族間犯罪であることを理由とする不支給の例ということで,1に該当いたします。
資料3が,論点表でいくところの2に該当しております。
資料4が過去の犯罪被害者への遡及効,3についてのものになります。
家族の関係の規則の10条の運用基準ということで出していただきましたので,前回も配付したものが一部含まれておりますが,施行規則そのものと法律の該当条文につきまして参考資料というふうに付しております。
それの後に資料番号を振っていないものが出ておりますが,これは松村構成員から本日お送りいただきましたもので,今日の議事の中でまた御紹介いただくことになろうかと思います。
以上です。
○ 椎橋座長 ありがとうございました。
それでは,今日も論点が多岐にわたっておりますので,早速,最初の問題から始めたいと思います。
最初の論点は親族間犯罪の特例の話でございます。前回,親族関係の捉え方というのが,犯給法が作られたときと現在とでは大分変ってきているのではないかという御議論を頂いたところであります。それから,規則の条文が分かりにくいのではないか。むしろ原則と例外を逆転させて支給できない事由を列挙するという形にしたらどうかという御意見もございました。
そういう議論を踏まえた上で,警察庁にはどんな事実あるいはどんな事情について支給を考慮する余地があるのかといった裁量の要素について,もう一度考えていただきたいというお願いをしておりました。
今回,現行の運用基準も資料として出していただいております。これ自体もなかなか難しいところがございますので,お考えいただいた状況について少し整理して御説明していただければありがたいと思います。
それでは,警察庁からお願いしたいと思います。
○ 警察庁長官官房審議官 それでは,現在の規則第10条の運用基準について説明させていただきます。あわせまして,同条の適用状況について当庁で整理いたしましたので,その結果についても説明させていただきたいと思います。
まず,現在の規則第10条の運用基準について説明いたします。お手元の資料2-1「現在の規則第10条の運用基準」を御覧いただければと思います。これは都道府県公安委員会が裁定の際によるべき基準として当庁が作成,公表している犯罪被害給付制度事務処理要領の抜粋でございます。
規則第10条第1項の「特段の事情があるとき」としては,犯罪被害者又は第一順位遺族と加害者とが全く他人と同様の関係にあると認められる事情があるときや,犯罪被害者又は第一順位遺族と加害者との間の婚姻が事実上破綻していたと認められる事情があるときを例示しております。
また,第10条第2項第1号の「これに準じる事情」については,このペーパーの(2)ア(イ)のところでございますが,事務処理要領では具体例を2つ挙げておりますけれども,いずれも事案の状況に照らして公的機関からの一定の法的保護があったと認められるような場合としております。
さらに,次のページでございますが,第10条第3項の「当該犯罪に係る事情」や「特に必要と認められるとき」についての考え方は,事務処理要領記載のとおりでございます。
次に規則第10条の適用状況について説明させていただきます。
資料2-2「規則第10条の適用状況」を御覧いただければと思います。これは平成20年度から24年度までの過去5年間の親族間犯罪に関する裁定事案をもとに,事案の主な類型や規則第10条の適用,不適用に関し,考慮された状況について減額割合ごとに整理したものでございます。
欄の下から不支給,3分の2減額,3分の1減額,全額支給の順になっておりまして,それぞれについて規則第10条各項の適用,不適用に関し,考慮された状況を右の欄に記載しております。
例えば3分の2減額の欄を見ていただきますと,規則第10条第1項が適用され,第2項が適用されなかった類型ということでありますが,第1項を適用するに当たり考慮された状況が適用の欄に,第2項を不適用とする際に考慮された状況が不適用の欄に記載されていると御覧いただければと思います。
補足いたしますと,3分の1減額の適用欄に(A)の状況というのがございますが,これは3分の2減額の摘用欄にある(A)の状況を意味しており,全額支給の摘用欄にある(B)の状況も同様に,3分の1減額の摘用欄の(B)の状況を意味しているものでございます。
左側の減額割合の列を御覧いただきたいのですが,主な類型でございますけれども,不支給となっております一番下でございますが,これは親族相互間の不和が原因となっているものなどとなっております。
3分の2減額となっているのはDV,年少者被害の事案となっております。
全額支給及び3分の1減額となっているのは,現行の規則第10条の規定ぶりもございまして,DV事案のみであって,年少者被害の事案等は現在の規定上は対象とならないこととなっております。
以上でございます。
○ 椎橋座長 ありがとうございました。
ただいま御説明いただきましたけれども,この点について御質問,御意見がございましたらお伺いしたいと思います。いかがでしょうか。
構成員の方々から御質問,御意見が出る前に,この前も御議論があったように,もう少し条文を分かりやすくすることができないだろうかというような御質問というか,御要望があったと思うのですが,それについてはいかがでしょうか。
○ 警察庁長官官房審議官 参考資料として法律の条文,規則の条文も配付されておろうかと思います。これは法律の条文におきまして,結局,規則の委任の仕方なのですが,国家公安委員会で定めるところにより,支給しないことができるということで,基本的にそういった委任の仕方をしているところでございます。したがいまして,法律を受けて規則を制定しておりますので,それをひっくり返したような形での規定にするのは,なかなか難しいかなというのが現状でございます。
○ 椎橋座長 法律をやっている者としては,ただいまのご説明は,かなり理解できるという面があるのですけれども,一般的に言ってこれで分かるかということになると,確かに難しい。委任の仕方についての,技術的なことはよく分かるのですが,一般の方々にも分かるような形にする。あるいは法律の改正が難しいのであれば,何か別の形で説明をするとか,そういうようなパンフレットなどで,この場合はこういう場合に当たります,こういう場合には3分の1,3分の2支給されますよというのは別に出されているわけですか。
○ 警察庁長官官房給与厚生課犯罪被害者支援室長 通常お配りしているパンフレット自体は,親族間犯罪の場合どういうふうになるかというところは非常に細かくまで記載をしているものではございません。ただ,事案に該当する場合にはきちんと御説明をするということで心掛けているところでございます。
また,本日御説明いたしました資料2-1でございますけれども,これ自体は公表しているものでございまして,私どもが裁定をするに当たってはこういう考え方でやっておりますということで,これを読めというのも非常に申し訳ないお話なのでございますが,決して秘密裏に勝手にやっているということではないという意味で,こういったものを公表させていただいておりますし,必要がある場合には説明をさせていただくように努めているところでございます。
○ 松村構成員 確認させていただきたいのですけれども,教えていただきたいのですが,ほとんど離婚状態にあるといった場合に加害者は婿さん。その婿さんが両親を殺した場合には,離婚状態であっても3分の2減額の対象になるのですか。
○ 警察庁長官官房給与厚生課犯罪被害者支援室長 確認させていただきましてもよろしいでしょうか。奥さんがいて,夫がいて,奥さんの両親をこの夫が殺害をした。ここはほとんど離婚状態ということでございますね。
(松村構成員うなずく)
結局,ほとんど離婚状態というものをどのように捉えるかというところでございまして,そこがきちんと確認をできれば恐らく,完全に離婚状態ということでございますと,それは親族間の犯罪ではないことになりますし,そこまでは行ってはいないのだけれどもということになりますと,この3分の2減額も考えることになるのではないかと思っています。
○ 松村構成員 3分の1か3分の2になるかの間の判断基準は,その辺がどの程度離婚状態に近いのか,他人に近いのかという判断基準だけで決まるわけですか。
○ 警察庁長官官房給与厚生課犯罪被害者支援室長 概ねそうでございます。ただ,両者の関係や特段の事情を見て判断することにはなるのですが,減額割合が3分の1になるか3分の2になるのかについては,離婚状態にあるかどうかといった夫婦関係の状況だけで判断するわけではなく,生活状況などの事情も踏まえて判断することとなります。
○ 番構成員 私は法律家なのですけれども,規則を見ても,あっち見たり,こっちを見たり,私の理解力が足りないのかなと思うくらい非常に難しいです。結局まずこの規則の第2条のところで夫婦と直系血族・兄弟姉妹は支給しないものとするということが,ばんと決まってしまっていて,それで,そうでないときという場合がいろんな条文を引用して,その10条のところにいっている。10条の解釈でまたこういう運用基準があるということで,この規則の作り方が非常に複雑にしているなと思います。
まず原則として犯罪被害者には支給する。原則として婚姻関係があった,親族関係があるという戸籍上の関係があった場合には,支給できないということを前提にしないほうがいいのではないか。原則,例外をもう一度見直すべきではないか。何かのときには支給しないことができるというのはあると思います。そういう場合はあると思うのですが,一々夫婦関係を確認するだの何だのというのは本当に大変なことではないか。何らかの事情があるから形式上の親族関係で犯罪が起きることになるわけですから,そこはもう一度整理しないと,運用基準を頂いても,この場合はこうですねということを相談されてもお伝えすることが難しいと思います。
保護命令があるかとか,公的機関に保護を求めていたかということなのですけれども,そうでない人もたくさんいる。家庭内の事情がなかなか後から分からない部分が出てきたりすると,公正にそれが確認できるのかというのも非常に気懸かりなところです。もう少し規則を抜本的に変えてもいいのではないかと,どうしても思ってしまいます。
○ 内閣府大臣官房審議官犯罪被害者等施策推進室長 法律技術という観点から一言だけ申し上げておきたいと思います。
いろんな形で法律が分かりにくいとか,規則が分かりにくいというのは,この分野に限らず,いろんな分野でございます。そういう形のときに分かりやすく書けないのかという議論も頂戴することがございます。
他方,内閣法制局があり,また,それぞれの各省庁でも法令審査をきちんとやりながら文章を作ってきていて,それを官僚文化だという御批判もありますけれども,一定の技術として確立してできているところがございまして,なかなか先ほど出てきた立法の委任の形式からこういう形になるというのも,やむを得ない事情のあるところでございます。
一番ポイントになりますのは,結局のところ中身をどう決めているのかという中身のところに変更を加えるのかどうかということでございまして,要は原則と例外の書き方の問題ではなくて,では認定の原則側を変えて,推定は逆にするんだという議論であれば,それはまさに中身の問題でございますので,そういう議論であれば当然その中身の変更に伴って書き換えることにならざるを得ないと思います。
一方で分かりにくいので書き換えるというのは,なかなかこれはやりにくいことでございまして,いろいろな形でそういうものは多々ございますので,そこはいかに分かりやすく伝えるようにするか。できていることは何なのかということをどう伝えるかという形で,基本的には処理すべきものという形で一般的に行政では対応させていただいているという現状にございます。
○ 黒澤構成員 具体的にこういう法律があり,そして規則に委任されてこういう形になっているわけなのですが,個別的な具体的事例がないとなかなか議論ができないとか,そういう問題があるのですけれども,考え方として全て忘れろとは言わないのですが,この規則を忘れて法律でそもそも犯給のお金はどういう趣旨,性格のものだろうか。そこから出発するわけなのですが,何ゆえに親族関係があるとこういうことになるのだろうかという根本に遡って考えたときに,いろいろ最初に法律ができるときに議論されていたのは,民法上の扶助協力,夫婦ですと同居とか,そういう民法の扶養義務とかそういう問題と,結果として加害者を利することとなってしまうという,大きなところはその2つだと思うのです。
委任している法律も減額することができるとなっておって,減額しなければならないというものではないのです。したがって,そもそも親族関係で何ゆえにこういうふうになるのだろうかということを,規則を忘れて考えてみた場合に,どうも協力扶養義務,結果として加害者を利することになってはいけない,ということなどではないかと考えます。
そもそも犯給金というのは何なのかを考えてみた場合に,社会全体として放置できない気の毒な方々について連帯共助の観点からやっていきましょう。そういう趣旨から考えて,こういう場合はどうなのかというのを考えてみると,おのずとこんな形,あんな形というのが逆に出てくるのではないかという気がいたします。
これはDVの保護命令を受けていないとだめだとか,そういう議論は議論としていいのですけれども,例えば公の機関を信頼してというか頼っていろいろ相談をしたけれども,結果として殺されてしまったとか,あるいは残された家族の状況を見たときに,これは例えば特に子どもさんが気の毒な状況にある場合に,加害者を利することともならない。子どもさんが大変悲惨な状況の中で,これは社会連帯共助としてそこを見ていかなければならないのではないかとか,そういう法制度,法秩序への不信感の除去軽減であるとか,あるいは社会全体として見ていこうとか,加害者を利することにはならないのかどうか。そういったやや抽象的な話になってしまいますけれども,一遍この規則を忘れてどういうものは見るべきなのかという,その辺の議論をするとだんだん収れんしてくるのではないかという気がいたします。
余りまとまりのない話ですけれども,以上です。
○ 番構成員 私も黒澤構成員のおっしゃることに賛成です。
私は先ほど形式的なお話をしたわけではないです。中身の話をさせていただきました。分かりにくいというのは,分かりにくいと思ったから言っただけです。
まず法律の6条の1のところ,親族関係があるときはだめだというのは全部削るべきだと思いますので,そうするとおのずと規則が変わってくると思うのです。DV絡みの事件が非常に多いというのは全世界的に言われていることで,多分,日本も,もちろん警察庁の方が御存じだと思いますけれども,かなりの数あるわけです。そこで初めから親族関係があるときには不支給というのが前提になってしまっていることがおかしいのであって,例えば6条の3号に合わない場合を一生懸命特例として判断するわけだけれども,実際の事件の内容との絡みでそのような検討は迂遠ではないか。原則例外逆転というのはそういう意味合いで申し上げました。
親族関係があるときはだめという発想から抜け出さないと,なかなか救えない部分が出てきたり,あるいは死人に口なしの部分が出てきたりするのではないかと心配しています。
多分,親族関係があって黒澤構成員もおっしゃるような加害者を利するとか,不当な場合,これはここに書いてある6条の3号で本当はできるはずなのです。ですからこういう方向で考えていく方がよろしいのではないかと私は思います。その方が恐らく規則も分かりやすく,そして実際の今の時代に合ったといいますか,実際の事件について検討をするとき,裁定をするときにも簡便になるのではないかと思うのですけれども,いかがでしょうか。
○ 警察庁長官官房審議官 現行の犯給制度関係の説明をさせていただきますが,やはり現在の制度は,互いに助け合うべき親族の間で行われた犯罪については,通り魔その他の不慮性の高い犯罪被害とは同一には論じられない。また,黒澤構成員からも御指摘ございましたが,こうした犯罪について給付金を支給することが結果として加害者を利するようなおそれもあることから,原則として不支給とすることで,こういった規定を設けさせていただいているところでございます。
番構成員御指摘のとおり,犯給制度を作ってから家族関係とか犯罪状況も変化しておることも事実でございますが,現時点でこういった家族関係の原則を変えなければいけない状況にはなっていないというのが私どもの認識でございます。
ただ,そういった状況の中でも給付金を支給しないことが,社会通念上適切でない場合もあることは御指摘のとおりでございますから,そういった特段の事情があるときには原則によらず,一定の額を,支給することができることにして,事案に応じた裁定を行い,全体として不公正な形にならないように配慮していくこということでございます。
○ 黒澤構成員 規定が大変複雑で難しいのですけれども,規則の10条の規定の特段の事情というのは,まさに個別的な事情に応じて,それがどういう場合だと抽象化して整理するときに難しくなってしまうのですが,具体的な個別の事情にあって特段の事情というのは,これはまさに弾力的に運用するというか,個別的な事案に応じて弾力的に,むしろ特段の事情はそういう意味では積極的に運用するということなのかなと私は理解をいたしております。
○ 内閣府犯罪被害者等施策推進室参事官 若干この表の見方を確認させていただきたいのですけれども,全額支給あるいは3分の1減額にとどまることができる状況がDVの事案に限られているようなのですが,それはもう一度済みません,改めて説明をお願いします。
例えば年少者被害,児童相談所などに何らかの形で保護などがされたようなケースでありますとか,親子関係破綻というのはどういうふうになりますか。親子の縁が切れるのかというのは,今の民法上は難しいのでどうなのでしょうか。相続させないように遺言が残っているとかそういうものでしょうか。どう考えたらいいのでしょうか。全く全額支給になる余地が例えば親子関係だとあり得ないというのは,この規則から読むとどういうところから出てくるでしょうか。
○ 警察庁長官官房給与厚生課犯罪被害者支援室長 参考資料の10条2項を御覧いただければと思います。ややこしい規則で大変恐縮なのでございますけれども,規則10条第2項第1号で,「第2条第1号に定める事由がある場合において」ということにしてございます。これが配偶者についてということになっておりまして,言わば配偶者についてDV命令が出ていたような場合などについてやりますということが前段でございます。「又はこれに準ずる事情がある場合」ということが規則第10条2項第1号の一番最後についておりますけれども,これも基本的には規則第2条第1号からの広がりで考えております。つまり,年少者被害であってもDVの巻き添えを食って子どもも亡くなったという場合は,この準ずる事情で読むことがあるのですけれども,DVの世界とはまた別の形で行われたものについて,これを読むというのは,規則の読み方としてはとってはいないということでございますので,類型といたしましてDVそのものか,DV絡みのものということで出てくることになります。
○ 椎橋座長 番構成員,どうぞ。
○ 番構成員 そうするとDVがなければだめだということになると,不公正な事例は出てくるのではないですか。年少者被害とか親子関係の問題で起こった場合には,最初からそれだけではだめですよという話になると,やはり不公正な事例が出てくるのではないか。規則の規定の仕方でそうなるとおっしゃるのでは,そういうことになるのでなはいかと思います。
○ 警察庁長官官房審議官 今,御指摘のような年少者被害とかそういった場合で,何らかのそういった整理ができないかどうかということは,検討する必要があると考えています。
○ 番構成員 高齢者虐待とか,今は非常に問題になってきています。ですから私自身が具体例を持っているわけではないので,こういう事件はというふうに申し上げられないのですけれども,DVに限定する必要があるのかというのは素朴な疑問として感じております。
○ 椎橋座長 いろいろ御意見を出されまして,規則10条の書きぶりが分かりにくいというところから始まって,ところが,実際は単に書きぶりだけの問題ではない。原則と例外を逆転すべきだというのは必ずしも分かりにくさだけの問題ではなくて,先ほどの理念との関係でも原則と例外を逆にしないと,不都合な場合が出てくるのではないかという御意見も出されたところでございます。
警察庁の方の御回答でも,年少者被害についてはDVに限定する必要があるのかどうか。問題のある部分については検討してみたいという御回答がありましたし,さらには高齢者被害の問題もあるというご意見がありましたので,今日,今この問題について結論が出る状況ではございませんので,次のように考えるのはいかがでしょうか。またもう一度というのは大変御苦労いただくことになるのですけれども,抜本的に10条の規定を変えることになると,ほかにも波及することも当然考えられると思うのですが,そのような全体的な改正ではなくて,ここのところは特に分かりづらいので書き直す。犯給法の精神をより生かすような形で書き直すことができないのかどうか。その趣旨は単に分かりやすいかどうかというだけではなくて,書きぶりによって保護される対象が違ってくる可能性もある。今,検討されている,あるいは今後,検討されるということも含めて考えると,新しい書きぶりにすれば,特に犯給法の精神,家族の協力義務関係といったものは基本的に維持する。加害者を利してはいけないというような観点に立って考えて,その上で分かりやすい形で考えたらどうだろうかというような御意見が相当出されたと思いますので,そういうような形での御検討をもう一度お願いするかどうかということなのですけれども,いかがでしょうか。
○ 番構成員 DV問題をたくさん扱っているので気になるのですけれども,この規則10条の適用状況の不適用の欄を見ると,10条第2項のところですが,保護命令がないというのは分かりますけれども,公的機関に助けを求めた状況がないというのは,内閣府のアンケートでもDV被害者を受けていますと言っている方の中で,助けを求めている方はごくごく一部です。支援センターを知らない方もたくさんいらっしゃるという結果が出て私自身もびっくりしたのですが,そういう状況がアンケートではっきりしています。ですから,こういう基準を不適用の要素とするのは公正でない可能性が出てくる。
それから,自らとり得る被害防止措置を講じていないと言うのですが,同居を継続し,生活費を加害者から受給ということについて,これは女性の立場を考えるとなかなか外に逃げていけないとか,経済力がないとか,特に経済的に非常に締めつけをされている事例が多いわけです。そうすると,このような事情が不適用の要件になるのは私は不当だと思っていますし,DVの実態を分かっていない。単に表向き保護命令をしたとかしないとか,そういうようなこと。あとは警察に助けを求めたとか,センターに行ったとか,そういう分かりやすいところだけで判断されるのかなと。日常的に暴力というのもどの程度のレベルを言うのか私自身にはよく分かりません。
ですから,この不適用とされている要件も,実態から見るとこういうことで不適用になるのはいかがなものかという感想を持っています。もう少し本当にこれでいいのか,これで公正な手続というか,公正な支給に結び付くのかということはもう一度お考えいただければと思います。裁定する方としてはこういう基準がなければ不公正になるというお考えでしょう。ですから先ほど言った原則例外の問題の再検討を考えるわけです。そういう点を含めて再度お考えいただけるとありがたいと私は思います。
○ 椎橋座長 ほかにいかがでしょうか。
○ 内閣府大臣官房審議官犯罪被害者等施策推進室長 今の御議論からの今後の検討の視点として少し確認ないしどう考えるのかなということなのですが,3分の2減額のところでまさに親族関係は一応,事実上破綻と利するおそれがないという,先ほど出てきた言わば親族の場合に制限しようとする理由に対する,反対側から出てくる事情を一応確認しつつも,3分の2まで減額するという形で運用されているところであって,その上で保護命令,あともう一つの保護を求めていた状況はそれに準ずるものという理解なのだと思うのですが,保護命令という形が乗ると3分の1減額にできるというところに踏み出せる理由付けというのは,一体何なのかというところが必ずしもはっきりしていなかったように思いますし,先ほど出てきた特に年少者被害で親子間で例えばまさに両親が離婚済みであって,片親のお子さんの場合であればDVというふうにならない中で,一方的に年少者の子どもがもはや親の立場を捨てたような親のためにひどい目に遭って,それで重い障害を負われたケースみたいな形になれば遺産相続という問題も起きないわけでしょうから,その場合にそういう方を同等に考えられないのはどうなのかなというのは私も思ったりした次第でございます。
要するにDVの保護命令が出たケースは一つ上乗せしていいんだ。次の全額支給は更に個別の事情を踏まえてのことだと思うのですけれども,保護命令が出たケースに出せることにした理由を詰めていって,それと同等のケースがあるのかないのかというのをお考えいただくことはできないのだろうかと感じるところでございました。
○ 椎橋座長 いろいろ御意見が出まして,例えば3分の2減額についての不適用事例の中でも,こういう場合には不適用にするのは不都合な場合があるのではないかということで,適用になる可能性を考える。あるいは3分の2減額の適用事例について,場合によっては3分の1減額にしてもいいという場合があるのではないか。つまりDVに限らないのではないかということを考えて,今日出された個別的に不都合な場合があり得るということを受けとめていただいて,更に遡って犯給法の精神に従って,むしろ原則例外を逆転にするような規定ぶりまで考えられないだろうかというようなことについて,もう一度,警察庁の方で御検討お願いしたいという形でこの論点についてはまとめたいと思いますが,よろしいでしょうか。
○ 警察庁長官官房審議官 なかなか親族関係は原則と例外の入替えというのは難しいかと考えておりますが,ただ,DV以外にも同様の問題を抱えているような類型があろうかというところはあろうかと思いますし,現在やはりDVにおける公的機関からの一定の命令というのも非常に重要視して見ておる状況から,それがゆえに3分の2減額となっておるということでございますが,それに準じるようなもの,あるいはそれ以外のものでも何らかの形で類型化できるようなものがあるのかどうかということはあろうかと思いますから,そこは真摯に御指摘を踏まえて次回まで検討してまいりたいと思います。
○ 椎橋座長 そういう形でよろしくお願いいたします。
それでは,時間の関係もありますので,次の論点に移りたいと思います。これは前回,形式的に戸籍上,第一順位になっているというだけの人に払う必要はないのではないか,どのような親族に払うのがいいのだろうかという判断に際しまして,生前における関係の実態を考慮できることが望ましいけれども,どのようなメルクマールが設定できるのだろうかという議論がございました。そこで立法時の議論なども前提として,犯給制度の趣旨に照らしてどのような裁量の余地があり得るのかということですが,警察庁にも御検討いただいてきておりますので,この点について御発表をよろしくお願いしたいと思います。
○ 警察庁長官官房審議官 立法時における犯罪被害給付制度の理念と遺族の順位について,お手元の資料3に沿って説明させていただきます。
制度の理念,そしてその理念を前提とした給付金の性格は資料記載のとおりでございます。もうこの場でもかなり出ておりますので,ここでの説明は割愛させていただき,立法時における遺族の順位の考え方について説明いたします。
遺族の順位は立法時には資料に挙げさせていただいた法令の規定や民法の規定を参考にしながら,死亡した者との親族関係の遠近の程度と現実の生活における関係の緊密さを考慮して定められたものであります。
遺族の順位については犯給法制定時からこれまで変更はございません。
本検討会においては番構成員から戸籍上のみの夫があり,実質的に支給すべき子に支給できないという事例を御紹介いただきまして,遺族の順位が決められていたとしても,支給されるべき者に給付金が支給されるようにできないかという御指摘をいただきました。
また,当庁からは生前の犯罪被害者と長年音信不通状態にある方が第一順位遺族であるようなとき,給付金を支給することが法の趣旨にそぐわないことがあるのではないかという点について,問題提起をさせていただきました。
番構成員から御指摘がありました事例についてでございますが,前回,犯罪被害者支援室長から説明させていただきましたけれども,御紹介いただいた情報のみで確定的なことを申し上げることはできませんが,戸籍上の夫と犯罪被害者との間に婚姻の実態がないと真に認められるのであれば,お子さんが第一順位遺族となると考えておるところでございます。
今後とも御指摘のような事案の認定に当たっては,親族関係の有無の調査が戸籍等の形式面だけではなくて,実態面についてもしっかりと行われ,適切な裁定がなされるよう,引き続き都道府県公安委員会の御理解を得てまいりたいと考えております。
次に,当庁から問題提起させていただいた点でありますが,当庁から申し上げておいて大変恐縮でございますけれども,こちらについてもいろいろ考えてみましたものの,どのような事情があれば給付金の支給が法の趣旨にそぐわないと言えるのか,その線引きがなかなか難しく,また,このようなケースは兄弟,姉妹に限られるものでもなく,子や父母等であってもあり得るものですから,さまざまな親族関係の形がある中で一定の類型を切り出すことはなかなか難しいと考えております。この問題については皆様方の御知見も頂きながら,私どもといたしましても引き続き勉強させていただければと考えております。
以上でございます。
○ 椎橋座長 ありがとうございました。
ただいまの御説明を前提にして御質問,御意見がありましたらお願いいたします。
○ 番構成員 この頂いたペーパーで遺族の順位と書かれているところ。これはやはり民法上の関係と,ほかの制度の順位も書いていただいていますが,順位的なものは致し方ないのかなと思います。
おっしゃるように,配偶者が第一順位というところで,配偶者関係の実態を見ていただけるということであれば,それはありがたいと思います。いろいろな関係があると思いますし,私が御紹介した事例は一緒にも暮らしていないし,完全に破綻しているという事情があったようですので,そういうところを考慮していただいて,必要な遺族に給付金が交付されるならばありがたいと思います。
この順位自体は仕方がないと思いますし,おっしゃったように警察庁からの例についてはなかなか難しいだろうというのは分かりました。
○ 椎橋座長 確認ですけれども,番構成員がこの前出された事例の場合は,実質的にそういった点を配慮すれば,子どもに行くということは現行法上もできるということですね。
(警察庁長官官房給与厚生課犯罪被害者支援室長うなずく)
○ 番構成員 もちろん資料などで立証していく必要はあろうかと思っています。
○ 椎橋座長 ほかにいかがでしょうか。
○ 岩村構成員 労災保険法の遺族補償年金を見ていて,こうではなかったのではないかと思って今,確かめたのですが,遺族補償年金は生計維持条件がかかっているのです。むしろ遺族補償一時金が遺族補償年金を受け取る遺族がいないときに,その他の人に支給されるということなので,ちょっとこれは不正確ではないか。
○ 警察庁長官官房給与厚生課犯罪被害者支援室長 失礼いたしました。そういう意味では不正確な書きぶりかと思います。あと,当時のものということもやっておるのですけれども,確かに遺族補償年金は御指摘のとおり生計維持関係の人がいる場合でして,そういう人がいない場合に一時金が支払われるというふうに承知をしております。
○ 岩村構成員 そのほか年齢要件がかかっていたりということで,無条件ではないので,そういう意味でややミスリーディングなところがあるかなと思います。
○ 警察庁長官官房給与厚生課犯罪被害者支援室長 順位ということだけでべたっと書かせていただいておりまして,失礼いたしました。
○ 椎橋座長 ほかにないようですので,この点についてはこのぐらいにさせていただきたいと思います。
続きまして,遡及効の問題でございます。前回,警察庁に過去の犯罪被害者に犯給制度が適用されてこなかった経緯などについて,今までの多数回にわたる改正過程で国会でも議論がなかったのか,どのような議論があったのか等について御紹介していただきますようにお願いしていたところでございます。
これらの点につきまして御発言を頂きたいと思います。
○ 警察庁長官官房審議官 遡及適用に関する検討経緯について,お手元の資料4に沿って説明させていただきます。
まず,法律制定の際の議論から説明いたします。
皆様御承知のとおり,犯罪被害者の救済制度につきましては,犯罪被害者の御遺族や様々な方々がその実現に向けて努力をしてこられた背景がございます。法律制定時にはそのような制度発足に寄与した方々が救済されるよう遡及適用すべきであるという御意見があり,国会審議において大きな論点の1つとなっておりました。
しかしながら,新しい制度の適用は法律施行後とすることが法制度の基本的な原則であること,この制度だけ遡及適用を認める合理的な理由がなかったこと,また,遡及を認めるとしてもどこまで遡るかということについて,合理的かつ公正な基準を設定することが難しいことなどの課題を乗り越えることが困難であったため,遡及適用はしないことになりました。
ただし,犯罪被害者の遺児の方など,現に非常に困っておられる方については救済すべきであるという点については,両議院で附帯決議がなされたことも受けまして,昭和56年に財団法人犯罪被害救援基金が設立され,犯罪被害者遺児等に対する学資の給与等の救援事業が開始されたという経緯がございます。
その後,平成13年改正時には遡及適用について大きな論点とはなりませんでしたので,平成20年改正時の検討状況について説明いたします。
平成18年から19年にかけて行われた経済的支援に関する検討会においても,遡及適用は大きな論点の1つとなっていたと承知しております。検討会では先ほど申し上げたような課題のほか,特例を認めることの合理的説明が可能な具体的な事例を踏まえた検討が必要で,遡及適用を一般的に認めることは困難であるといった御意見が出る一方で,そうは言ってもやはり現在も経済的に困窮している方に対しては,何らかの救済をすべきであるとの御意見も出されておりました。
そして,検討会での議論の結果,最終取りまとめでは過去の犯罪被害による後遺障害により,現在も窮状にあるような特別の事情がある犯罪被害者等に対しては,前記基金において対応することを検討することを検討すべきであるが,新たな法制度を遡及適用することはしないものとするとされまして,これを受けて政府としても改正後の犯給法は遡及適用しないこととしたものであります。
なお,この最終取りまとめを受けて公的救済制度の対象とならない犯罪被害者等であって,個別の事情に照らし,特別の救済が必要と認められる方を対象として,平成20年12月から財団法人犯罪被害救援基金による支援金支給事業が開始されたというのは,既に黒澤構成員から御説明いただいているとおりでございます。
以上でございます。
○ 椎橋座長 ありがとうございました。
この点につきましては,あすの会の要綱案が出ておりました。ですから松村構成員にお伺いしたいと思いますけれども,遡及効は必要だ,年金の形で将来に向かって給付するという形での御提案でございましたが,前回までいろいろここで議論している中で,むしろ結局は総額どのぐらいの支給になるのかというような形での議論になるのではないかという考え方も,かなり有力に出されてきているところでありました。
その一方で,要綱案の中でお示しいただいておりました年金の試算の中で,新しく発生される被害者数と過去の被害者の救済という観点での受給者数は,それぞれ何人という形で分けておられるということではなかったように思われますけれども,松村構成員におかれては,何らかの経済的支給によって救済されなければいけないという過去の犯罪被害者というのはどのぐらいいらっしゃるのかということについて,まず御教示いただけるとありがたいと思います。
○ 松村構成員 実際に今でも困っているのが,遡及しなければならない者が何人いるのかというのは非常に難しい問題なのですけれども,たまたま私どもが知っている限りでは20人ぐらいでしょうという話をしました。そういう人たちも実際にはそう言っていてもなかなか表に出てこない。活動そのものに加わるにはかなり経済的なこともクリアしないと出てこられないということで,水面下の被害者はかなり多いのではないかということが推察できます。
○ 椎橋座長 あすの会で把握されている方と,それ以外にもいらっしゃる可能性はございますね。
○ 松村構成員 あります。実際にどういう人が具体的に遡及が必要なのかということを,これから時間がよろしければお話させていただきたいと思いますけれども,よろしいですか。
皆さんに1つ考えていただきたいのですが,犯罪被害者になるということはどういうことなのかということなのです。本人が被害に遭った場合には命を奪われるし,体も傷つけられるし,精神もずたずたにされる。そして否応もなく家族あるいは被害者等の応援が必要になってきます。
命を奪われた場合には,葬儀だけではなくて本人のもろもろの貸借の精算もしなければならない。このような精算は一時金でカバーされることが多いと思いますが,その額次第だと思います。ただし,被害者が家計の大黒柱であった場合,到底事件前の平穏な生活を維持できるわけがありません。
運用実績の平均額は1,095万ということですから,2~3年で費消してしまいまして,悲惨な生活を強いられることになります。
先ほどお配りしました表にもありますように,生活保護を受給することを余儀なくされてしまいまして,特に自営業の場合,遺族は悲惨です。私どもの会員でも息子が殺されて奥さんも同時に重症病障害者になってしまい,犯給金は受け取りましたけれども,奥さんを介護するために今度は自分自身が働けなくなってしまうということで,生活保護で細々暮らしているという元内装業の会員もおります。このような場合には,事件前の収入と現在の収入の差額を奥さんが完治するまでの期間,支給することをしてほしいのです。
一方,重度の後遺障害者の被害者ですが,平均で1,872万が支給されて,従前の657万に比べてほぼ3倍の改善がなされております。昭和57年から中華料理店を経営していた被害者ですが,平成11年に店舗付き住宅を7,000万円で購入しました。しかし,平成14年に店主の主人が店で暴行を受けて高次機能障害となってしまいました。事件後は閉店しましたが,1年間は親類の借金で何とかしのいできました。しかし,生活費を稼ぐために1年後に再開して,メニューをラーメンとギョーザだけにして頑張っている被害者がおります。利益は以前は月60万円ほどありましたけれども,今では3分の1の20万円になってしまいました。ローンの返済もあり,現在は息子と娘に助けてもらい,何とかやっておりますが,息子と娘が結婚してしまったら,それも無理になり,この先どうするか思案に暮れている会員であります。
この会員は民事裁判で損害賠償金の判決は出ておりますが,4分の1しか支払われておりません。このケースの場合には国民平均収入480万円ですが,事件後の収入差額240万円を被害者に対する年金として支援する方法もあると思います。このケースは御主人のかわりに奥さんが経営者として頑張っている例ですが,息子さんが高次機能障害になってしまった場合はもっと悲惨です。
平成9年に帰宅途中,当時34歳のIさんは見ず知らずの男に呼び止められ,暴行を受け,意識不明となり,救急車で脳外科病院へ搬送されました。診断は頭部外傷,頭蓋骨骨折,脳ヘルニア,急性硬膜外血腫でした。4時間後に緊急開頭手術が行われましたが,1か月半意識不明でしたし,意識が戻り1年近いリハビリで日常生活ができるようになりましたが,高次機能障害が残りました。
働き盛りの期間にリハビリ,就労訓練に時間をかけましたが,現在のところ就労することができておりません。平成15年からは福祉就労の作業所へ通所しております。近くに作業所がなく,片道1時間半かけて電車を乗り継ぎ,月曜日から金曜日まで通っておりますが,月給は1万円で,通所の交通費も不足する状態です。今のところ親が元気でいるので生活ができておりますが,両親が70歳以上になり,先の不安は大きくなるばかりです。現在,Iさんの収入は障害者年金の6万5,000円のみです。体は日常生活に不自由はなく,受傷前のことはよく覚えていて,何も困っていないように見えますが,脳損傷の後遺症である高次機能障害があるため,介護が必要であることを周りの人によく理解してもらわないといけません。
火の始末等の問題があり,1人での生活は難しく,独立して生計を立てることができないため,生活保護を受けることもできません。働き盛りに被害に遭ったため蓄えはなく,当時はアルバイトだったので障害者年金のみとなります。
事件から16年たちますが,老夫婦と妹と弟が同居しています。家は持ち家ですから家賃はかかりませんが,生活費は老夫婦の年金と老後の資金として蓄えたものと妹,弟2人から5万円ずつ入れてもらって生活しております。しかし,この先,妹や弟が家を出て独立し,家族に病人が出た場合など,年金6万5,000円でどのように生活していくのだろうと不安になります。親が介護ができなくなったときに行く場所が心配です。成人後見人制度の利用も考えましたが,後見人と本人との意見の違いもあり,それも難しい状態です。
参考までに事件発生よりかかった費用は,医療費,国民年金保険料,リハビリ費用,民事裁判費用等で415万円になります。受け取った支援金等は犯給金で500万円,障害給付金30万円,損害賠償命令による支払いが150万円ありました。判決は4,000万円でした。このような被害者には,今でも家族が払っている介護費用と生活費は最低でも支給されるべきだと思います。
もう一つ,遡及が必要な事例を申し上げます。平成6年に殺人未遂に遭った被害者ですが,体の90%にやけどを負い,27回の皮膚移植を受け,現在は生活保護と障害者2級の年金合計の月8万円で生活している被害者もおります。
職場の友人と間違えられまして,本人には何の落ち度もないのにガソリンをかけられ,火をつけられた被害者です。この被害者には犯給金500万円,救援金が300万円支給されましたが,医療費,生活費で全て消えてしまいました。この19年間,皮膚呼吸もままならず,汗腺も不自由で特に夏には悩まされてきました。その上,筋肉も失い,十分な手足の運動もできず,働こうにも働けず,月8万円の生活費の女性被害者です。事件に遭わなければ生活をエンジョイし,結婚もした普通の女性だったのです。事件前には26万円の収入がありましたのに,現在は8万円での生活です。比較的近くに御両親が住んでいるので何とか生活していますが,彼女1人で生活していくのは容易なことではありません。確かに本来なら加害者が補償すべきですが,その可能性がない現状を見ますと,事件前の平穏な生活を彼女に送らせるには,何らかの年金による支援が必要だと思われないでしょうか。
犯罪事件に遭うと,犯罪被害者は肉体的,精神的,経済的な被害を受け,事件前の平穏な生活に戻ることは不可能だと思います。被害者は自身の肉体的,精神的なダメージを回復するだけでも大変です。その上に経済的に不幸な状態にそれを耐えなければならないのでしょうか。今,お話しましたように一時金で全て解決できるのでしょうか。何とか経済的に救いの手が差し伸べられるのならば,差し伸べるのが人間として当たり前のことなのではないでしょうか。
最後に,私の母の例を述べますけれども,母はいわゆる太平洋戦争で昭和20年に戦争未亡人になりました。そのとき母は30歳でした。しかし,再婚はせず,母の手で祖父の援助を受けながら,私と妹を育ててくれました。そして88歳で亡くなりました。そして私と妹には成人まで遺児年金,母に対しては遺族年金が死ぬまで払われ,死後も2年間お花代ということで払われました。これは遺族会という圧力団体の力でなされたのかもしれませんけれども,さきに述べましたように,犯罪被害者に対してもそれなりの施策をすることが可能だと教えてくれているのではないかと思います。
現行の犯罪被害給付制度は,当座の経費はカバーするから,あとは生活保護で生きてくださいと言われているようで,犯罪被害者には耐えられないことです。犯罪被害者等基本法の第3条でも述べているように,全て犯罪被害者等は個人の尊厳を重んぜられ,その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有するし,4条にありますように,犯罪被害者等のために施策を総合的に策定し,及び実施する責務を有すると述べている以上,国が被害者の生活が事件以前の数字に戻る程度の補償をすべきだというのは当然だと思います。補償問題を考える場合,自らが被害者になった場合どうなるかという認識を持って接してくださることをお願いしまして,話を終わります。
○ 椎橋座長 ありがとうございました。
遡及適用の問題につきまして,警察庁の審議官の方から遡及適用が何回かにわたって,改正のたびに議論はされたわけですけれども,なかなか実現しなかった経緯。それから,松村構成員から,そういう状況の中で非常に困っている被害者の方々がおられるという話をお伺いしました。それらの話を前提にして,この点について御意見,御質問があればお伺いしたいと思います。いかがでしょうか。
○ 小西構成員 遡及適用で質問が1つございます。
黒澤構成員に伺った方がいいかもしれませんけれども,経済的支援に関する検討会の平成20年の改正時の取りまとめの1つの回答のような形で,犯罪被害救援基金に社会連帯共助の精神にのっとり,特別な支援が必要な者に対して支援金を支給するというふうになっているわけですが,例えば実際にこうやって支給された実績の中で遡及適用ではないですけれども,今の時点ですと犯給法の対象にならない方に支給した事例というのがございましたのでしょうか。それを教えていただければと思います。
○ 椎橋座長 黒澤構成員,お願いします。
○ 黒澤構成員 犯給金が支給されない対象事例は,海外でお父さんが殺された事案1件のみでございます。それ以外の案件は,一番新しい昨年度の事例は公的給付を申請期間の関係で受けていない事例がありましたが,それ以前の案件につきましては,以前に何らかの給付を受けましたけれども,現在の生活が著しく困窮しているということで支給した事例でございまして,今,松村構成員から御紹介のあった事例の中で当基金が支給している事例もございます。
○ 椎橋座長 ほかにはいかがでしょうか。
これも確認なのですけれども,松村構成員に,少なくとも遡及されないために困っておられる被害者は少なくとも20人はおられるということで,その後の法律の改正あるいは運用の改正で社会保障制度,社会福祉の関係で部分的に救済されるというか,適用があって少しは社会福祉の枠に乗って,この部分は少しはよくなったというような部分というのはないのでしょうか。医療費の関係とかです。
○ 松村構成員 医療費の関係でたしか1年間で120万までということで,非常にその辺も救われているのですが,1年過ぎた場合にどうなるのかとか,現物給付についても,確かに以前に比べれば改善されているとは認めるのですけれども,まだ不十分だと。しかもいろいろ事件前の平穏な生活に戻るまでサポートすることをうたっているのに,それが行われていないのではないかと考えております。
○ 椎橋座長 参事官,どうぞ。
○ 内閣府犯罪被害者等施策推進室参事官 恐れ入ります。事務局へ頂きました表について,幾つか形式的なところで確認をさせていただきたいと思います。
まず20人,あすの会の中で考えてみたところというような形で出していただいたのですが,もしかしたらもっといるかもしれないということでございました。また,あすの会に入っていない被害者というのも当然いらっしゃいますので,参考までに割合的な問題としてどう考えたらよろしいかということで,あすの会の会員数というのはそもそも何人ぐらいいらっしゃる中で,ぱっと浮かんで20人ということになったのか教えていただいてもよろしいでしょうか。
○ 松村構成員 私どもの会員は大体300人おりますけれども,300人のうち20人かということとは違うのですが,実際には我々の会に出てきて,経済的に私は大変なんだと言う人は実際ほとんどおりません。見つけるのは難しいことは確かでございます。
○ 内閣府犯罪被害者等施策推進室参事官 事件の状況で平成13年,平成13年,平成9年という形で書いていただいている方と,その辺が不明なこともあるのですが,一番遡ってどれぐらいの被害者みたいな感じで考えたらよろしいでしょうか。
○ 松村構成員 分かりませんけれども,この表に出ておりますとおり,私が知る限りは平成6年ぐらいが一番古いのではないか。一番困っているということを承知しております。
○ 内閣府犯罪被害者等施策推進室参事官 最後に,具体的な書き方などはまた後で調整させていただきたいのですが,頂きました要綱案で,たしか事件前の経済的水準を前提とするというお話で年金の幅が決まってくるということがあったかと思うのですけれども,例えば御紹介にもありましたように,もともとアルバイトなのできちんと年収幾らという形では出せないような方であるとか,例えばこれでいきますと9番の13万円の,これは月収だと思うのですが,その方であるとか,これはもともと事前の収入が不明であるというような方なんかは,年金制度の御提案の中でいかれますと,もともとの要綱案の中でも入ってこないというような理解で,それはよろしいでしょうか。
○ 松村構成員 その辺の生活レベルとして,どれぐらいが適当なのかというのは非常に難しいのですけれども,ただ,前の情報がないから対象外だとは言えないのだろうと思いまして,適切なレベル,これは生活保護のレベルなのか分かりませんが,そういうものは支援する必要があるのではないかと考えております。
私が今,申し上げましたけれども,結局,被害者本人が親が亡くなって誰もいなくなって自分だけで生きていく。自立支援法があるのかどうか知りませんが,それでカバーすることができて,犯罪被害者が命,一生を全うすることが生きるのかどうか。そういう制度になっているのかどうかという目でも見ていただきたいと思っております。
○ 内閣府犯罪被害者等施策推進室参事官 加えて,何人か多額の医療費と書かれていらっしゃる方がいらっしゃるのですが,これは医療保険の自己負担分が多額に累積していったという理解でよろしいのでしょうか。あるいは高額療養費とかそういう制度もお使いになった上で,その累積が多額になってしまうというような理解でよろしいでしょうか。
○ 松村構成員 はい,そういうことです。
○ 椎橋座長 ほかに御質問,御意見ございませんか。室長,どうぞ。
○ 内閣府大臣官房審議官犯罪被害者等施策推進室長 必ずしも遡及適用という観点でというよりは,この資料を拝見してという形なのですけれども,平成20年改正後でどうなのかというのが1つの視点にありましたのでという観点なのですが,この資料中,平成20年と書いてあるもの以降を見てみますと,6番が平成22年でございます。ここのところについては犯給法の支給については特に記載がなく,他方,犯給の支給不適用になる事情も記載がないのですが,例えば6番などはどういう状況かというのは,お分かりですか。お手持ちのものですぐ分からなければ,それは結構でございます。
7番とか8番を見ていきますと,御事情から見ると親族間事案あるいは海外事案ということで,直ちに犯給法の適用がなかなか難しい事案だったのかなと推測されるものですね。あとは20年と書いてあるものですと17番が22年です。これも親族間で犯給不支給ということではっきり書かれている案件。18番がやはり20年。こちらは犯給金の支給があった事案ということですから,20年の4月ではなくて1-3月だと違うのかもしれませんけれども,もし4月以降ならばいわゆる20年改正後の適用案件であるが,大変であるということが記載されている案件だと理解してよろしいでしょうか。
○ 松村構成員 そうです。
○ 内閣府大臣官房審議官犯罪被害者等施策推進室長 確認だけでございました。ありがとうございました。
○ 椎橋座長 事務局,どうぞ。
○ 内閣府犯罪被害者等施策推進室参事官 1点,これは厚生労働省にまた追って御確認をいただければと思うのですが,この平成20年の犯給金を使い切ったため生活保護という18番の事例なのですけれども,生活保護と犯給金の前後関係といいますか,収入認定の上での犯給金の扱いということについては,第2次基本計画の中で厚生労働省に一度御検討いただいたところでございます。被害者特有の事情があるものについては犯給金の支給そのものについて収入認定から除外するというようなところがあったかと思いますので,多額の医療費,その被害によって生じた医療費に犯給金を使っているということで,生活保護を受給するに当たっての障害には今はなっていないというような理解でもよろしいのか。平成20年なので通知を出していただく前の事案になるかと思いますが,この点,御回答を御検討いただいてもよろしいでしょうか。
○ 椎橋座長 厚労省の方,いかがでしょうか。
○ 厚生労働省社会保障担当参事官室室長補佐 こちらに書いてある情報だけでは前後関係も当然判断ができないですけれども,要は生活保護を受けているときに犯給金が出たというときに,それが収入とみなされるかという話と,生活保護を受けていない時点で犯給金をもらったが,その後,生活保護を受ける必要が生じたときに,その分をどう考えるかというのは,これだけでは何とも言いようがないので,確認のしようがないのではないかと思います。
○ 内閣府犯罪被害者等施策推進室参事官 逆に,どういう場合であれば収入除外認定に引っかかってくるという形の通知なのか,また追って通知文書を頂いてもよろしいでしょうか。
○ 厚生労働省社会保障担当参事官室室長補佐 その点は了解しました。
○ 松村構成員 前回の平成20年改正時でも,最終的には犯罪被害救援基金の方でカバーすべきだということで終わっていまして,遡及は絶対しない。そのために検討することはいろいろ個々にも事情があるし,なかなか一本化するのが難しい。合理的な説明ができないということになったように見えるのですけれども,いつまでたってもこんなことできるわけがないです。ですから,そうではなくて犯罪被害者を救うためにどうしたらいいのかという観点で,現に困っている犯罪被害者をぜひ救っていただきたいのです。ということを一言申し上げたいと思います。
○ 椎橋座長 今,松村構成員もおっしゃったように,遡及適用というのは難しい。これは改正のたびに言われたことでありますので,今それをここで一気に突き崩してというのは非常に難しいのではないか。その理屈を見出すのは非常に難しいのではないかと思います。
それでは,困っている被害者の方をどうすればいいのかということが問題になりますけれども,遡及適用ということではなくて,何かいい方法があるのかどうか,松村構成員にもお伺いしたいと思いますし,黒澤構成員には,先ほど小西構成員からもありましたけれども,そういう部分については犯罪被害救援基金においてどうにかしてもらおうということがあったと思いますが,その後,救援基金におかれては,この点については何か議論は進んでおられるのでしょうか。
○ 黒澤構成員 現在,規定を設けまして運用しておりますけれども,前に何回かの検討会のときに申し上げましたが,当基金はそもそも税金,公のお金が一切入っていない,国民の浄財で発足をいたしまして,あくまでも犯罪被害者の子弟に対する奨学金の給与というのが主たる事業でございまして,そういったことで現に困窮している方々にできるだけたくさん差し上げればいいわけなのですけれども,どうしても奨学金を削ってまでということには相ならない状況にございまして,そういった苦労というか,苦しみがございます。できるだけ要望に沿えるようにはいたしたいとは考えておりますが,どうしてもそういった制約があるというなかで現在対応いたしております。
○ 椎橋座長 ありがとうございます。
小西構成員,どうぞ。
○ 小西構成員 松村構成員の言われることは,本当にどういうふうに被害者が大変かはよく分かっているので,なかなか口が重くなるのですけれども,私自身が実際にこういう方たちにたくさんお会いするときに,むしろ刑事事件の被害者で犯給の対象になっている人の方が少ないのです。どういうことかというと,例えばDVの被害者とか,そういう方の中には刑事事件の対象にならないままで自分自身が障害を受けて,精神障害もあって,お子さんもいて,生保にしかならないという方も,というか,そういう方の方がたくさんお会いするわけです。
例えば子どもが生まれたときに重度の障害があって,お父さん,お母さんが今,例えば80歳というケースも結構ありまして,そういう方も同じような危機に立たされているのです。その中で例えば事件前の収入を全て補償するという形で考えられるかというと,多分それは,私は専門ではないですけれども,保険だったらできるのかもと思うが,この形で犯罪被害者だけをやっていくというのは難しいだろうなと,正直な気持ちです。
そうだとしたら,被害を受けた方,もちろん今,話した人たちも誰も自分には責任はないけれども,そういう不幸を背負ってしまっているわけで,そういう中でやはり例えばその人たちにはないいろんな問題も抱えていらっしゃるわけです。最後のことだってそうでしょうし,それにまつわって2次被害をたくさん受けるとか,そういうこともあるわけで,そこの部分は支援していかなければいけないし,今でも支援が薄いところがあると思います。ただ,もともと補償するという形になると,やはり様々なそういう苦労を持っている人たちがいて,先ほどDVの話のとき,私はまだ来たばかりで混乱していて話せなかったのですけれども,その人たちの生活も本当に大変です。むしろ刑事事件になってくれば,まだやりようがあるし,番先生が言われているような民事の事件に乗ってくれば,まだ闘いようがあるのだけれども,そこまで全くいかないままで鬱状態で,何もできないままで生保になっている人もいるわけです。
そういうことを考えると,なかなかフルには難しいのではないかというのは正直な気持ちとしてあります。
では,もし現実的に被害者の支援というのをもう一歩進めていくんだということを考える。そちらのほうに転換して具体的に進めていく。例えば今の基金の問題もあると思いますし,もっと別の形で現物給付していくというのもあると思うのですけれども,少しそういう形で進めたほうがいいのではないか。いろんな方の問題を知っているので,言うのは苦しいのですけれども,私としてはそういうふうに考えております。
○ 椎橋座長 ありがとうございます。
ほかに御意見ございますか。なかなか難しい問題ですので,どうしたらいいのか名案が浮かんでくるわけではないのですけれども,遡及適用というのは本当に難しいなという感じがいたします。
今日は松村構成員から犯罪被害者例というのが出されておりますので,これが非常に参考になるものだと思いますので,犯給制度及び社会保障制度の運用の中でどういうふうに,例えば厚労省の方もお見えですけれども,こういう事案だったら現在の制度の中で,このところはこういう制度が適用できるのではないかとか,そういうようなこともお知恵を借りながら,運用の問題としてさらに何ができるだろうか。あるいはどういうことをすべきなのかということについて,とりあえずそう考えることにしたらいかがかと思いますが,いかがでしょうか。
(「異議なし」と声あり)
○ 椎橋座長 それでは,この論点については今日のところはこの形で終わらせていただきたいと思います。
もう一つ論点がございます。海外での犯罪被害者についてどうするかということでございます。
前々回から海外での犯罪被害者ということで議論してきたわけでありますけれども,今までの議論の中から見えてきたこともございます。犯給法の精神としては社会の連帯共助の精神から経済的支給を行うということでありますけれども,その中で海外での犯罪被害者というのもいろいろな方がいらっしゃいます。どういう範囲の被害者あるいは御遺族について,犯給法の精神に合った救済ができるのかという問題があると思います。
例えば最近あったグアムの事件でありますが,あの場合は旅行者の方々でありました。国籍も日本人で住所も日本にあるということで,たまたま旅行に行ったときに被害に遭われたということで,そういう意味では社会の連帯共助の精神を示しやすいということが言いやすい事例かと思います。
あの場合,特に結婚式を行うということで,一番楽しくあるべき,幸せであるべきときに一転して不幸な状況になってしまったということでありますけれども,ともかく日本人が海外に旅行されて,そこで被害に遭ったというような被害者の方々であります。
同じ犯罪被害者とは言っても2001年の9.11事件の被害者,それから,これは最近のアルジェリアの事件の方々。これらの事案においては海外赴任者の方が犠牲者となっております。海外に赴任して仕事をしておられる方とか,あるいは留学生として長期間海外で勉強されておられる方々が被害に遭うことがありますけれども,そういう方々はいろいろな関係で在外投票の関係があったり,税金の関係があったりということがあると思いますが,日本の住所から転出した形で海外に出られる方がたくさんいらっしゃいます。要するに住所は日本にはないという方々でございます。
これらの場合は,御家族は,要は海外で被害に遭われた方にすれば御遺族の立場になる方は,日本におられることもありますし,あるいは御家族そろって赴任されていらっしゃる方も多いという場合があると思います。
さらに,もっと日本との間が浅いのではないかという事例としては,以前,海外での邦人保護事例として外務省から御発表いただいた中に,御家族も含めて移民されているという事案の報告もいただきました。ですから一口に海外での犯罪被害と言っても,どのような被害者について日本国としての支援を考えたほうがいいのかということについて,御意見を頂きたいと思います。いかがでしょうか。
○ 内閣府大臣官房審議官犯罪被害者等施策推進室長 なかなか御発言が出にくい部分があろうかと思うのですけれども,これはそういう意味で一応犯給制度をとりあえず前提に議論してみないと分かりにくいこともあってということで,社会連帯共助からはどうだろうかという形で論点を提示させていただいているわけでございます。
警察庁の方で検討はしたことはないのかもしれないけれどもという観点で,まずは聞いてみたいと思うのですが,海外に適用しない理由というのは,基本的には事実の困難性とか公平性の問題ですから,そこの部分を抜きにして,社会連帯共助の精神という観点から見たときに,仮に海外に適用するとしたらどのあたりまでは考えられるだろうし,やはりこれは違うのではないかあたりについて,しっかりと検討されていないと思うのですけれども,漠然としてどんなふうに考えられ得るのか。まずは警察庁から御発言を頂ければと思うのですが,いかがでしょうか。
○ 椎橋座長 警察庁の方,いかがですか。御検討されておりますでしょうか。
○ 警察庁長官官房給与厚生課犯罪被害者支援室長 社会の連帯共助というところから,この範囲の話を出していただいておりますが,犯給法の理念自体は社会の連帯共助というところから生まれてきているものの,事実の調査は非常に困難であるというところ自体は動かし難くて,また,社会の連帯共助という理念があれば,全て犯給だということでも恐らくないのであろうと思っているところでございまして,御指摘のとおり余りがっちりここについてどうであるべきという意見を,警察庁として有しているわけではないというのが現状です。
○ 椎橋座長 番構成員,どうぞ。
○ 番構成員 素朴に考えると,たまたま海外に行って巻き込まれたというのがイメージとしてあります。住所は日本にある。その縛りが必要なのかなと。短期間の留学とかはどうなるのかという細かなところまで検討しているわけではないのですけれども,そこで海外に居を構えて仕事をする,あるいは研究をする,勉強をするという場合は,少し違うのではないかと感想としては持っています。どうしても補充的にはなると思うのです。日本での犯罪事実の調査というのも実際に大変でしょうから,それでも救わなければいけないというのはどういう場合かというと,やはりある程度限定されるのではないか。単に国籍要件だけでは難しいのではないかと思います。
○ 椎橋座長 中曽根構成員,どうぞ。
○ 中曽根構成員 支給のことに関してというよりは,支給も含めてになるのかもしれないのですけれども,結局,例えばたまたま海外に勉強のためとか何かで出かけていってとか,留学中でという場合で事件に遭われた場合などは,日本に御家族,御遺族となる方がおられて,その方の精神的なサポートなどは今までどのようにやってきたかなということを考えていくと,その御遺族とか御家族がお住まいの県の行政とか民間の援助団体などと例えば外務省さんとが連携をしながら,その御遺族とか御家族のまずは精神的なサポートも含めてすることは,少なくとも必要なのではないかと思っています。
ちなみに,国土交通省さんの出した「公共交通事業者による被害者等支援計画作成ガイドライン」に基づき,航空と鉄道の大手5社が被害者等支援計画を策定したことを,最近ニュースで見たのですけれども,そういうのも含めて一つ一つの団体が支援できるようになることは理想的で,大事なことなのですが,横のつながりがもう少しきちんとないと,一つ一つの団体が支援をしていても,ほかの団体が見えない部分がたくさんあるように思うので,横のつながりの連携をしっかりしていくべきなのではないかと思います。
○ 椎橋座長 ほかにいかがでしょうか。
小西構成員,どうぞ。
○ 小西構成員 基本的には確かに海外にいらしても,犯給が対象になればいいと思いますけれども,多分,今,都道府県の公安委員会で裁定されている制度のことを考えると,かなりいろいろ大変なのかなというのは一つあります。でも,そこは努力してやったらいいかなと思います。もう一つ,少し違う視点で申しわけないのですが,こういう海外の被害者で非常に大変な人というのは救ってもいいのではないか。多分,皆さんそういうふうに思われていると思います。思い出していただきたいのですが,検討会2の心理療法に関して必要とされる方が実際にいらっしゃって,その分の費用の公費負担ができれば救われる人がいるのではないかということについては,何も議論がなかったと思います。
そうだとしたら,これができて,どうして向こうができないということは,私としてはとても疑問に思っています。同じことなのだと思うのです。連帯共助というのを強調するのであれば,必要な人から,できるところからやるということも十分あり得たはずなのになと。そのときにそういう議論がなかったのは残念だと思っているので,それはちょっと言わせていただきたいと思いました。
○ 椎橋座長 事務局,どうぞ。
○ 内閣府犯罪被害者等施策推進室参事官 済みません,お言葉ではあるのですが,検討会2で被害者に対する精神的なケアが必要ではないといった方向で議論してきたわけではないと私たちは思っております。他方,カウンセリングの中にどんなものが入ってくるのかということが,そもそも支給範囲の問題としてはっきりしなかったということと,どのような方がなさるカウンセリングなり心理療法という形で枠付けができるのかというあたりがはっきりしなかったということ。また,現行でいきますと一部精神医療のところにも引っかかってくるというふうになりますと,医療と,医療には入らないのだけれども,心理療法という枠づけをどういうふうにして考えていったらいいのかということで,制度の中でいろいろ仕組めないのか,警察庁さんにも非常に前向きに考えていただいたというふうに私としては思っておりまして,他方,制度の中に入れるには切り取る基準が枠組みとして見当たらなかったということで,引き続きどこの部分が切り取れるようになるのかということについて,勉強会を進めていっていただいている状況でございます。
○ 小西構成員 ここで議論することではないと思うので,余り言いたくないのですけれども,今のご発言に私は異議があります。
少なくとも例えば海外の被害者の方で要件に合う人だけを切り取ることは,例えばカウンセリングや心理療法のことで考えれば医師という資格がある人が,ある療法をやっているケースがあるわけで,それで役に立っている。その分にどうして支給できないのかということと基本的に同じことだと思うのです。
だからこちらをつぶせとか,そういうことではないのです。全然ないのです。むしろそういうふうに考えることができたのではないかと言いたかっただけです。このことはここで話すべきではないと思います。すみません,どうしても一言言いたくなってしまいました。
○ 内閣府大臣官房審議官犯罪被害者等施策推進室長 1点だけ。
まさに切り取ることが可能かどうか自体が大変難しいことで,過去それは無理だとされていたものにつきまして,今回論点として一応挙げさせていただいておりますので,それができるという方向で考えているかということ自体が,そこまでの話にはまだなっていないものということでございますので,現時点ではまず4のアということで,仮に何らかの,そういう意味では犯給制度だけを考えているわけでもないわけですけれども,何らかの形で仮に海外の人に経済的な救済を差し伸べるとしても,どういう範囲を考えるべきなのだろうかということについて,御意見をここでは承れればという形で提示させていただいているところでございます。よろしくお願いいたします。
○ 椎橋座長 松村構成員,どうぞ。
○ 松村構成員 これはどこまでカバーすべきかという問題は非常に難しいのですけれども,一般的には海外旅行をしたときに,外務省さんが危険地帯ということで指定しているところがありますね。あそこに行った場合には自己責任があると思いますので,それを対象にするのは難しかろう。その地域以外のところに行ったときにたまたま犯罪に遭ったといった場合は,日本国籍があるならば,それはカバーしてもいいのではないかと考えます。
○ 椎橋座長 瀬川構成員,どうぞ。
○ 瀬川構成員 この論点表を見ると,このまま議論がすすむのかなというふうに考え,先ほど施策推進室長からもそういう話ぶりだったのですけれども,今の支援室長の話からいくと従来の議論のままで,認定資料の難しさからできないんだということを強調されたと思います。その議論に入るまでもないという趣旨だったのか,それはどうですか。
○ 警察庁長官官房給与厚生課犯罪被害者支援室長 私が申し上げましたのは,現在の犯給制度そのものでやろうとすると,この事案の調査というのはなかなか難しい話になってまいります。それ以外の制度ということについて決して否定しているわけではないということでございます。
○ 瀬川構成員 後半にその点が出てきますけれども,調査ということで出てきますが,その問題がある程度クリアできれば,アの議論に入ってもいいというお考えでよろしいですか。
○ 警察庁長官官房給与厚生課犯罪被害者支援室長 本来,警察庁のみがお答えすることでもないかと思います。警察庁がやるべきことなのか,どちらがやるべきことなのかというのもございますけれども,結局,一個一個というよりは全体としてお考えいただくべきことなのかなと考えてございます。
○ 瀬川構成員 私が前に言いましたように,事実の認定の難しさがあることは分かるのですけれども,しかし,このまま引きずっていって,この制度の下で現在では無理だという形で終わっていいのかということを申し上げたい。
というのは,例えば犯罪の国際化ということを言われたのは30年前だと思いますが,その当時に逃亡犯罪人の引渡しとか,国際捜査共助ということが問題になり,80年代初めに関連の法律ができた。最近の実情を見るとこれだけ日本人が海外に出ていって,そこで被害を受けて,特にグアムの事件のような場合にも,認定資料が問題なので何もできないという形で終わっていいのかということを考えないと,この会議の意味が薄れると私は思います。
一歩進めるというか,そういう気持ちはないのかということをおたずねしたい。認定資料の問題というのは,そこから出られませんということを今,言おうとされているのかということです。
○ 警察庁長官官房給与厚生課犯罪被害者支援室長 これは警察庁への御質問ということでいいですか。
○ 瀬川構成員 はい。
○ 警察庁長官官房審議官 私ども警察庁といたしまして,現在の犯給制度の枠内,犯給制度として考えた場合,やはり海外での事実調査の困難性という問題がございます。ただ,国によってちゃんと事実調査ができるところがあるのではないかという御議論もあろうかと思いますが,それは制度を作っていく場合の公平性を考えた場合に,果たして分かっている者だけを対象とするような制度ということで御理解が得られるかという問題があろうかと思っております。
そういった意味で,犯給制度として海外の被害者の方々を対象にするのは難しい問題がある。ただ,お気の毒な海外で被害に遭われた方について何らかの措置がとられ得るものがないのかどうか,何かできないのかどうかというのは,やはりこの場でまさに御議論いただき,政府全体としても考えていくべき課題だと考えております。
○ 瀬川構成員 分かりました。そうすると認定資料というか,いわゆる事実認定の問題で恐らく30年前と現在とかなり違うと思うのですが,この点は余り進んでいないと考えていますか。例えば国際捜査共助は条約とか協定が結ばれており,その点では30年前の状況とはかなり違うのではないでしょうか。いわゆる犯給法ができた当時と今では,国際的な状況というのはかなり違うと思うのですが,この点はどうですか。
○ 警察庁長官官房審議官 国際捜査共助あるいは国際捜査協力について申し上げますと,確かに従来より事案自体も多くなっておりますし,海外捜査機関との捜査協力も,従来より,この制度発足当時よりは随分進展したことは事実でございます。ただ,変わりがないのは捜査協力と申しましても,結局は相手国の捜査機関がどこまで捜査ができるかどうかというところにかなり依存する部分というのは相変わらずあるということでございまして,そこはそういった意味で,国内における犯罪捜査を我が国の警察として責任を持って完遂できるというところとは若干事情が異なることがあるということは,変わらぬ事情としてあるということでございます。
○ 瀬川構成員 そうすると,現在でもまだその点は十分な資料というか,証明というのができにくい状況のほうが大きいと考えていますか。
○ 警察庁長官官房審議官 そうですね。やはり犯罪捜査という意味もございますし,それ以外の現在の国内の犯給制度を前提といたしますと,国内でいろんな調査をしております被害者と加害者の関係あるいはその他の事情,そういった関係の調査も含めまして考えますと,なかなか海外での犯罪被害についてこういった事実関係を調査するのは,以前に比べると多少それは分かるような状況が出ているとは言え,困難な状況があることは申し上げざるを得ない状況であると認識しております。
○ 瀬川構成員 実態なので審議官の方がよく御存じだと思うのですけれども,多少ぐらいしか進歩していないとお考えなのですね。
○ 警察庁長官官房審議官 繰り返しになりますが,要するに犯罪被害者の認定に必要な資料の入手という意味では,相変わらず困難性があると認識してございます。
○ 椎橋座長 黒澤構成員,どうぞ。
○ 黒澤構成員 犯給法の制度から考えてみる必要もあるのではないかと思っておりますが,私もできるだけ広く支給できればいいなとは思うのですけれども,個人的見解として犯給法の土台で考えたときに,4のアの話になるのですが,事実調査とかそういう問題も確かにあるのですけれども,要するに連帯して共助すべき被害者,遺族の範囲はどうかということを考えてみたときに,これは不法行為の補完という意味合いもあるのですが,結局,主権の及ばないところでの不法行為であるわけです。法制度に対する信頼とか,そういったものは日本国のものとは違うと考えるべきだと思うのです。
それから,代替手段として,特に危険な国に行く,外務省からいろいろ言われているような情報が出ているようなところについては,やはり危険を賭して行くのかどうか。であるとするならば,保険を掛けることをすすめておられましたけれども,保険を掛けることでそういった代替手段,要はこの犯給法の土台を考えたときに,社会が連帯して共助すべき,まさに被害者遺族の範囲はどうなのかということを趣旨そのものとして,そこは議論する。事実確認が難しいとかそういったことももちろんあるのですけれども,そこが一体どうなのか。やはり逆行することを申し上げているのかもしれませんが,そこは考えないといけないのではないかという気がします。個人的にはとにかく広く救えるようにするのが一番いいとは思っております。
○ 内閣府大臣官房審議官犯罪被害者等施策推進室長 黒澤構成員の話に全く重複するような感じなのですが,先ほど松村構成員から特に危険地帯のお話もありましたけれども,やはり日本において日本政府が一定の安全環境を提供していることとの絡みも含めて,社会連帯共助の精神だというふうに考える場合であれば,海外のところまでどこまで同じように及ぼすのかというのは1つの論点だろうと思います。それはいわば危険渡航地域だという厳しい条件ならさすがにという考え方もあるでしょうし,そもそも海外に行かれるだけの方なのだし,保険を掛けて行けばいいんだという議論は過去にもたしかあったと思いますので,そこを本当は乗り越え得る議論なのかどうかというのは,論点としてはやはりあるのだろうと思います。
このあたり,もちろん日本に残されている御遺族に対してどういう支援をすべきかというのはまた別かもしれませんけれども,経済的給付という観点から考えたときに,素朴な疑問点と申し上げれば海外旅行されている方だなと思ってしまうような立場もあるのではないかという感じがいたしまして,そのあたりについてどう考えたらいいのかなと自分で自問自答しておりましたので,今,黒澤構成員からの御指摘と全く同じなのですが,つい解説させていただくような形で恐縮でございますけれども,このあたりをどう考えるべきなのか。
このあたりはそういう意味で,先ほどこの法律の精神からいくとどこまで及び得るのだろうということについて,警察庁サイドでは事実の問題だけではなく,そこあたりは考えていないのだろうかという形で質問させていただいたところでございます。
○ 椎橋座長 いろいろ議論が出てまいりましたけれども,警察庁の方にお伺いしたいのですが,海外で日本人が被害に遭った場合に,その方をどうするかという場合に,現在どうしているかということとの関係でも,日本人が海外で被害に遭った場合にどういう原因であの事件が起きて,誰が犯人なのかというようなことについて警察の補充調査義務が各都道府県公安委員会にあるのでしょうか。
○ 警察庁長官官房給与厚生課犯罪被害者支援室長 国内の事案についてですか。海外の事案ですか。犯給法上ということでございましょうか。
(椎橋座長うなずく)
犯給法は,現在は海外の事案について対象としておりませんので,補助的な調査とかそういうことは現行としてはやっておらないということでございます。
○ 椎橋座長 海外の事案について調査されていないわけではないということですね。
○ 警察庁長官官房給与厚生課犯罪被害者支援室長 犯給法で申しますと,申請できる方というのが日本国内の犯罪行為についてということになりますので,申請がありました場合に申請書に基づき,さらにいろんなところに報告を求めるなどして調査をするということで実施をしておりますので,海外の事案については対象となっていないので申請できず,調査をしないということとなります。
○ 内閣府大臣官房審議官犯罪被害者等施策推進室長 今のご発言に関連してですが,要するに事実認定は困難な場合というのは国内でもあり得るのだろうと思うのです。申請された場合に,その場合に国内であれば警察はそうは言っても補充調査をして明らかにする責任がある。公平性の確保のためにするんだとなっている。海外ではそれができないということだからそうなのか。それとも国内もそんな補充調査義務はない。そうだとすれば,要は国内であってもほとんどは警察が把握していますから,事実確認はできますけれどもというだけであって,あくまで基本的な要件の立証責任は申請者側にあり,ただ,警察が事実上お手伝いをしているのであって,義務的にそれを警察側でしっかり立証すべきまでの責任を負っているわけではないということか,その辺はどうなのでしょうか。
○ 警察庁長官官房給与厚生課犯罪被害者支援室長 義務的にと申し上げていいのかどうか,分かりはしないのですけれども,国内で申請がございました場合にどういうことをするかと申しますと,申請書につけて出していただきますのは事案の概要ということもございますが,その他,収入に関する事項ですとか,戸籍に関する事項などは被害者の方から頂戴するのが原則でございます。
そうではなくて,事件の概要というか,事件の背景とかそういったことにつきましては,捜査を担当した機関等に対しまして報告を求めるという形で調査を行うのが基本的なやり方でありまして,この調査を求めないで裁定をしている例というのは少なくとも承知はしておりませんので,基本的に捜査機関等に対して調査は行っているということとなります。
○ 内閣府大臣官房審議官犯罪被害者等施策推進室長 その場合に,調査したのだけれども,はっきりしないという場合,調査側に責任があるわけではないから基本的には認定できないということになるのだと思いますが,それは海外の場合でも同じように調査側は確認できないので,申請者側がしっかりと資料をそろえたときだけに限られるんだということは,法律的には余り違いがないように思うのですけれども,その辺はどういうふうにお考えなのでしょうか。
○ 警察庁長官官房給与厚生課犯罪被害者支援室長 物にもよってまいりますが,事実の関係につきまして,日本の警察でございますと日本国内で起きたことについてはしっかりと捜査はしております。ただ,それでも刑事事件上は,どちらかと言うと例えば加害者有利に考えることになっておりますので,加害者の証言などを主に認許をしたような場合があるといたしますと,果たしてこのままでいいのかというのは私どもとしては検討することとしております。
その上で,もしその結論が加害者の証言だけによっているものであれば,そこは被害者有利の方に考えるという判断を,調査の結果,することもございまして,必ずしも証明できなかったからそれで被害者側負担で終わりということにしているわけではなくて,その点につきましては証言や周りの証拠など,さまざまな点を踏まえまして調査を行うことといたしておるところでございます。
○ 椎橋座長 外務省の方,どうぞ。
○ 外務省領事局海外邦人安全課課長補佐 外務省です。
若干,今の論点から外れます。危険地帯かどうかということと,滞在目的について何人かの構成員から挙げられていたので申し上げたいと思います。
危険地帯についてなのですけれども,危険地帯であっても観光に行く方は実際にいらっしゃいます。紛争地域に観光で行って,犯罪被害に遭われる方がいる。実際に今,シリアが非常に危ない事態になっていますけれども,この前,新聞報道がありまして,シリアで迷彩服を着て観光している日本人が実際にいるのです。そういう危険な旅行を好む方は確かにいらっしゃいます。
もう一つ,滞在目的についてなのですけれども,駐在とか旅行のほかに,例えば業務で行っているという意味でジャーナリストの方。当然のことなのですが,業務で危険なところに行っている。必ずしも大手報道機関ではなくてフリージャーナリストの方もいらっしゃる。また,危険地帯ではなくて,例えばタイで政治的な混乱が起こったときに銃撃されて亡くなったケースがありましたけれども,このときは観光客の方については私どもは,不測の事態に巻き込まれないように十分注意して下さい等と危険情報を出しましたが,在留邦人の方は退避しなさいというような危険情報は出していません。ですので,内容によってかなりのばらつきがありますし,滞在目的と私どもが出している危険情報に関しましても,必ずしもすっぱり割り切れることではないことを是非承知していただきたいと思います。
以上です。
○ 椎橋座長 ありがとうございました。
ほかにございますか。海外での犯罪被害者の問題についていろいろ御意見いただきましたけれども,この点についてはもし経済的補償をするとした場合に,対象を広げれば広げるほど公平性という観点からはなかなか難しいということになってくると思います。どうしても公平性の観点というのは欠かせないとは思いますが,公平性の観点を余り強く言いますと,そのために本当に救済すべきだと多くの国民が考える場合にも何もできなくなってしまいかねないところがあると思います。
今日論点として出されたところにあるように,可能性として今日いろいろ御意見を頂きましたけれども,例えば犯罪発生地を限定する。外務省が指定するような危険な地域に行っている方とか,そういった方は除くとか,あるいは当然そういう場合は保険に入って行ってもらう。保険に入っている方については対象外にするとか,対象事件を限定するということで死亡事案に限るとか,あるいはそれに近いような非常に重度の被害を負った方に限るとか,いろいろな観点からこういう場合は経済的補償をすべきという場合を限定していくということで,その限定された範囲内については,被害者に話して支給できるかどうか更に検討するというようなことを,更に詰めていってみてもいいのではないかというような感じがいたします。本日の議論の私の印象的なまとめですけれども,そういうような空気が強かったように伺います。
そういう形でさらに議論を深めていくという形で,この海外での被害者の問題についてはまとめたいと思いますが,いかがでしょうか。事務局,どうぞ。
○ 内閣府犯罪被害者等施策推進室参事官 これは警察庁の御発言の中にも少し出てきたので確認という意味でさせていただきたいのですが,ある程度事実調査の範囲を限定したとしても,どちらにしてもやはり難しい国は残りますし,難しい事件というのは残ってくると思います。そういった形で事実認定というのはある程度範囲を限ったとしてもばらつきが出てくる。そういう場合には公平性という観点がどうしても残ってしまって,そういうものであると,そもそも事実認定にばらつきがあるような状態なので,犯給制度というのはこれの適用ということで海外への救済というのはお考えにはできないと思っていらっしゃるのか,それはそれなりに事実認定の範囲を限定すれば,まだ犯給制度という形でお考えいただく余地があるのか,それは論点の設定の仕方として御教示いただければと思います。
○ 警察庁長官官房給与厚生課犯罪被害者支援室長 調査すべき事実を限定するという時点で,少なくとも犯給制度ではないと思っております。全く違う2制度を1つの法律の下に置くということもできないわけではないのかもしれないのですが,少なくとも犯給制度ではなくなると思っております。
○ 内閣府大臣官房審議官犯罪被害者等施策推進室長 確認の意味ですけれども,前からあるのは,単純にこの犯給制度を適用できないという言い方だったので,犯給制度の外縁は何なのかということだろうと思うのです。犯給制度の目的の範囲内に入るものであれば,あるいは犯給制度の理由の範囲内に入るものであれば,必ずしも同じ形で全て給付しなければいけないというわけではないと法律制度であれば考えることは可能だと思いますので,そこは単純にはできないということまでは分かるのですが,一定の要素を入れたとき,制度として全く別のものになるからというのであれば,また別制度かもしれませんけれども,そこはまさにどこまでが似ているものか,準じたものかでその制度に収まるとか,そういう議論になるのだと思いますので,余りそこにこだわり過ぎて,そこで切られてしまうと議論にならないのではないかという感じがいたします。
○ 瀬川構成員 警察庁のおっしゃることは,大事な問題だと前も言いましたように認識していますが,しかし,先ほど言いましたように犯罪の国際化と言われたのがおよそ30年前にあって,それから30年たって,国際捜査共助の法律はたしか1980年だと思いますけれども,そこから30年たって,先ほど言いましたようにいろんな条約ができたり協定ができて,それでもほとんど余り進歩していないみたいな言い方で終わるようなことは,かえって問題があるのではないかと私は思います。むしろ実際は犯人の引渡しとか,条約とか含めてそうですけれども,国際捜査共助というのは恐らく年間50~60件ぐらいあると思うのです。そういう意味では,かなりこの10年ぐらいで件数も増えているし,状況はかなり変化しているのではないか。その変化している状況の中で,まだなお認定が難しいんだと壁を全然崩さないというのもおかしいのではないかという気がしています。
なぜかというと,それは犯給法の精神からいけば,社会連帯の共助ということに現在はなっているわけですから,そこから考えて,気の毒な方がおられるとすれば,それはやはり何とかしようという方向で模索できないのか。今すぐ制度が実現できるかどうかという問題ではなくて,何かその方向性は考えられないのかということをここで問うているわけです。
○ 椎橋座長 警察庁の方,どうぞ。
○ 警察庁長官官房審議官 私どもは海外での犯罪被害者の救済について,全く否定的というわけではございません。若干誤解があるので発言させていただきますが,それから,国際的な捜査協力とか逃亡犯罪人引渡しも含めて,過去に比べて随分進展しておることも,これはそのとおりでございます。
ただ,申し上げたいのは,現行の犯給制度を前提とするような海外での事情調査というのは,極めて困難であるという事情は全く変わっていないということを申し上げておるわけでございます。
そういうことを前提といたしますと,やはり海外での犯罪被害者について犯給制度そのもののような形のものを考えていくというのは,極めて困難であろうと考えております。ただ,だからと言って海外での犯罪被害者についての経済的支援について,何らかの形で政府として考えていかなければいけないということについて,全く否定しているものではない。そういうことでございます。
○ 瀬川構成員 私が聞いているのは,運用上の何か工夫はないのかということをお聞きしているわけです。現行法上,無理だと言われたら,そうですかと言わざるを得ないのですけれども,今後,海外のことについてもう少し前向きに考えることができないのか。我が国は海外で被害に遭った人に何もしないという国なのかということになると思うので,何か制度上の改善というか,工夫というものはないのでしょうか。今すぐ答えを求めているわけではないので,ぜひ一緒に考えていきたいということであります。
○ 椎橋座長 海外で犯罪被害に遭われた方について,何らかの経済的支援をしたい。そういう気持ちでは共通するわけです。それについて現在の犯給法でできるのか,それとも,それはできないので別の法律あるいは制度を作ってやるべきなのか。どういう方向でやっていくべきなのかということについては,かなり認識の違いがあるということだと思いますが,例えば仮に犯給法でやるという場合,海外での被害者の場合に現在,国内で行われている犯給法の適用と全く同じに考える必要はないと思うのです。
先ほど外縁という言い方をされましたけれども,全く異質のものになるとこれは特例というか,例外という形でも難しいと思うのですが,非常に状況が違っている中での,しかし,この被害に遭われた方というのが,ある意味では海外で被害に遭われた方というだけの違いだという面もあるので,全く日本で行うような事実認定と同じようにする必要はないと思いますし,特に刑事裁判に頼るような認定をすることを求めなければならないというわけではないと思います。
また,裁判のように犯人が決まるまでは犯給法の認定ができないというわけではないので,その点でも刑事裁判制度とは違う面がある。さらにそれを海外の事例に照らして,要するにどういう犯罪の被害者であるかということが分かればいい。あるいはやや乱暴な言い方をすれば,分かった場合だけでいいというような制度設計ができないのかどうかということなのです。それから,そのほかの面でのいろいろな限定をした上で,海外での被害者について特例というか例外というか,そういう部分を作れる可能性があるか。そういう検討の余地があるかどうか。全く今の時点で犯給法としては全く無理だ。だから検討するにしても別の制度法律でやるべきだ。あるいはまだもう少しここはかなり斬新に思い切った例外というのも取り込むことができるような形の犯給法の制度設計ができるかどうかを検討する余地はあると考えられるのかどうか。いかがでしょうか。
○ 警察庁長官官房審議官 やはり仕組みとか制度そのものが,もはや何と申しますか,犯給制度の枠を超えたようなものになりますと,これはむしろ犯給制度ではなくて,新たな制度として検討していくことが合理的なのではないかと考えています。
○ 椎橋座長 岩村構成員,どうぞ。
○ 岩村構成員 今の座長のお話は余り理解できなかったのですが,今のような方向で検討しますと,むしろそもそも日本の犯給法そのものを変えないと平仄が合わないことになってしまう気がします。つまり外国の人については緩くていいというふうになりかねないので,そうするとなぜ日本国内だけ厳しくするんだということになってしまいますから,ちょっと今の座長のお話は直ちに理解できなかったところです。
○ 椎橋座長 ほかにいかがですか。中曽根構成員,どうぞ。
○ 中曽根構成員 給付金のことで1つだけお願いしたいことがあるのです。
給付金の裁定までに非常に時間がかかるということを前回もお話したのですけれども,裁定には早くても3か月から半年,どうしても1年ぐらいかかるということは実際に支援をしていて感じることなのですが,最低でも3分の1は支給されることが分かっている場合には,先にその3分の1だけを出していただくというやり方はできないものなのかなと思っているのです。
○ 警察庁長官官房給与厚生課犯罪被害者支援室長 先日も仮給付の件数が少ないということで御指摘をいただいたところなのですけれども,制度といたしましては,まさに不支給ではないことは分かる事例については若干早い仮給付という制度を設けております。しかし,そこそこ時間がかかるものですから,それぐらいでできるなら,本給付をそれぐらいの時間でできるだけ早めにやろうというやり方で進めてはきております。しかし,御必要があってということなどの御要望もきちんと被害者の方からお伺いをいたしまして,仮給付の制度をきちんと使っていくようにしたいと思っております。
○ 椎橋座長 それでは,時間がまいりましたので,そろそろ終わりにしたいと思いますけれども,次回に向けて事務局にお願いしたいという,先ほど言い足りなかったということがございましたので,松村構成員の御意見との関係で,犯給金では足りないので年金制度をという点でございますけれども,この点についていろいろ今までの議論で支給水準の問題でもあるという御意見もたくさん出されておりました。
そこで改めて海外調査結果について,参考までに支給水準の観点でまとめてみることもしてみたいと思いますが,そういうようなことも事務局にお願いしたいと思います。
海外の被害者への経済的支援の点については,どういう枠組みでやるべきかということについてはいろいろな御意見が分かれました。ただ,海外の被害者についても何らかの形で経済的支援を検討すべきだという点については特に異論はなかったと思いますので,どういう枠組みでならやれるのかということについて,事務局でもう一度整理した上で御提案してみたいと思いますので,よろしくお願いしたいと思います。
それでは,時間になりましたので,次回の予定について事務局からお願いしたいと思います。
○ 内閣府犯罪被害者等施策推進室参事官 次回は9月9日,本日と同じく午後4時からです。超過いたしまして申し訳ございませんでした。
また御議論いただくべき点については御相談させていただきたいと思うのですが,そろそろ取りまとめという観点にもいかなければいけません。取りまとめの形式の仕方もございまして,経済的支援に関する検討会の取りまとめは提言という形で割とコンパクトにまとまったところではございますが,検討会2の場合は検討会の争点が非常に限られていたけれども,スマートな提言ということにもならなかったことから,なぜそういう提言になったのかという,るる検討会での議論をなぞるような形になっています。
ということで,取りまとめのまとめ方もいろいろあるのかなと思いますので,取りまとめの形式についても次回は論点に含めさせていただきたいと思います。御参考までに次回までには検討会1として,ここまでどういう御議論をしていただいたかということをまとめてお見せしたいと思っております。
○ 椎橋座長 どうもありがとうございました。不手際で随分時間が超過してしまいまして,申し訳ありませんでした。これで第14回「犯罪被害給付制度の拡充及び新たな補償制度の創設に関する検討会」を終了したいと思います。どうもありがとうございました。

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