犯罪被害者等に関する青少年向け啓発用教材
「私たちに出来ること ―痛みをうけとめるために ともに生きるために―」

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犯罪被害者の声

「ありのままに話せる場所」

小畑 智子さん
NPO法人全国被害者支援ネットワーク・社団法人被害者支援都民センター発行
「犯罪被害者の声」平成19年5月より

 平成10年7月12日、飲酒運転で交通事故を起こし逃走中の車によって、長男(当時20歳)は、ひき逃げされ、命を奪われました。

 「将来、家具を作りたい」との夢を持ち、学校とアルバイトに追われていた日々の中、久しぶりに友だちと会い、友だちの車の窓越しに話をするために車道に出たとき、信号を無視して暴走してきた車によって、20メートル先まで飛ばされました。頭を強く打ち、即死状態であったということでした。医師からは「息子さんはあまりに一瞬のことで痛みも何もなかったと思います」と言われたときも、「痛くなくて本当によかった」と、他人事のように、そのときの私は思いました。加害者の車の中には一緒に飲んだ友だちも同乗していたとのことでした。
 何一つ落ち度がなかった息子の命を奪った加害者も、当時の法律ではたった懲役2年という判決でした。私たちは納得のいかないまま、何をしても息子は戻らないとの思いで、辛いことから逃げて、民事裁判を起こすことをしませんでした。あまりにも突然のことで、当時の私は、すべての感情を閉じ込めてしまい、加害者への憎しみさえも薄れていた気がします。
 しかし、自分の身に何が起こったのかも分からないまま命を落とした息子の無念な気持ちを思ったとき、何もしなかったことを後悔しました。同じような悪質な運転によって命を奪われた遺族の方々が刑法改正の署名活動をするのをテレビなどで見るたび、何もしなかった自分を責めて、辛い日々を送っていました。

 息子の2回目の命日に何気なくつけたテレビで、被害者支援都民センターを知りました。

 あまりにも偶然で、息子が導いてくれたとの思いから、その場ですぐに電話をしました。私はそれまでの2年間、人様の前で取り乱して泣くことはありませんでした。ずっと頑張っていた気がしますが、もう限界でした。
 被害者支援都民センターでは、1年間面接をしていただき、それまでずっと閉じ込めていた心の内を何もかも安心して話すことができました。その後、被害者自助グループへ参加することで、同じ体験をした人たちが、心を共有することで癒され、少しずつ前向きに考えられるようになりました。当時の私は、友人たちの何気ない言葉にも傷つき、また、家族であっても感情の出し方に違いがあり、心のすべてを話せませんでした。突然愛する家族を奪われて、現実を受け入れることはなかなかできません。そして、それまでの生活もすべて奪われてしまいます。

 被害者支援都民センターに出会って6年半になります。今の私は、それまで閉じ込めていた怒りや悲しみの感情を少しずつ取り戻すことができました。息子を奪われた日から、8年半になりますが、今でも息子のことを思うと、胸が張り裂けそうに辛い気持ちになります。こんな気持ちは、一生変わることはないでしょうが、こんな気持ちをありのままに話すことができる唯一の場所が、被害者自助グループなのです。
 私は、被害者支援都民センターに出会えたことを心から感謝しています。被害にあってしまった方々に、このような場の存在をぜひ伝えてほしいと思います。

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