犯罪被害者等に関する青少年向け啓発用教材
「私たちに出来ること ―痛みをうけとめるために ともに生きるために―」

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インタビュー

山上皓さん大久保恵美子さん阿久津照美さん

「なぜ生命を奪われたのか、考えても考えても答えは見つからない」

社団法人被害者支援都民センター 事務局長 大久保 恵美子さん(保健師)
社団法人被害者支援都民センター 事務局長 大久保 恵美子さん(保健師) 1990年、長男を飲酒運転による交通犯罪で奪われる。その後、勤務していた富山県の保健所を退職、犯罪被害者自助グループ「小さな家」を主宰。現在、(社)被害者支援都民センター事務局長として、被害者からの電話相談・面接相談・自助グループ支援等を行っている。犯罪被害者の現状と必要な支援に関する講演活動等も多数。著書に『―犯罪被害者支援の軌跡―「犯罪被害者心のケア」』他。

大久保恵美子さんは、自身も犯罪被害者の遺族です。友人と歩道を歩いていた長男は、歩道に乗り上げてきた飲酒運転の車にひき逃げされました。加害者は、悲しみに暮れる大久保さんを突然訪ね、「酒は飲んでいたが、私はまともに運転していた」と言い放って帰っていきました。季節も日時もわからなくなった日々、そんな時に届いたアメリカの支援団体からの思いがけない温かい手紙、わかってくれる人もいるのだと知った時に湧いてきた勇気……。そしていま大久保さんは、同じ苦しみに投げ込まれた人々の心強い支えとなっています。

大き過ぎる悲しみに襲われる時

 ある日突然、何の前触れもなく、自分の体を傷つけられたり、大切な家族の命が奪われてしまう。朝、ふつうに話していた家族がもういない、二度と会うことはできない、犯罪被害にあうというのはそういうことです。そのような状況に陥ることを、人は想像できるでしょうか。

 まず、遺族を襲うのは想像を超える大きなショックです。自分が被害者になった、子どもが殺されたという実感さえもてず、「茫然自失」の状態になります。あまりにショックが大き過ぎて、それに耐えるために「そんな事件が起きるわけがない」「自分に関係ないことだ」と否認します。また感情が麻痺して「子どもが亡くなったのに、お母さんはとてもしっかりしていて、お葬式のあいさつもちゃんとしていた。強い人だ」などと思われる状態にもなります。
 けれども、混乱の時期が過ぎたあと、悲しみと苦しみがいっぺんにやってきます。「どうしてこんなことになったんだろう」と、一生懸命答えを探し続けます。けれども、探しても探しても答えは見つかりません。夜眠れなくなったり、傷つけられて倒れている家族の姿が毎日毎日浮かんできたり、季節も、今日が何月何日であるのかさえわからなくなったりします。仕事や学校どころではありません。ご飯も作れないし、掃除もできません。「やらなければ」という思いはあっても、頭も身体も動きません。「早く立ち直って」という周囲の期待も感じます。それなのにしっかりできないのは自分が弱いからだと自分を責めてしまいます。
 感情のコントロールができなくなり、以前のその人には考えられない言動をしてしまい、まわりからは「人が変わったようだ」と言われてしまうこともあります。

 犯罪被害にあうと起こる典型的ないくつかの症状があります。

 例えば、亡くなった家族との思い出が辛すぎてこれを避けようとする「回避症状」として、子どもの部屋の前を通れなかったり、亡くなった人が好きだったおかずを作れなくなったり、思い出がたくさん詰まっている自宅で暮らせなくなったりします。
 「過覚醒」は、自分で自分の感情をコントロールできなくなってしまうものです。まわりの人がよかれと思ってかけてくれた言葉にも怒りを感じ、「あなたに何がわかるのよ」などと反応してしまう。そうなると家族どうしで怒りをぶつけ合い、家族関係が壊れてしまう、あるいは離婚してしまうということもあります。
 「フラッシュバック」は、事件のことが繰り返し目の前に現れる症状です。いま目の前でまた事件が起こっているかのような感覚、そのリアルさは、フラッシュバックを経験したことのない人にはとても想像できないほどです。家族が殺された時の現場にはいなかったとしても、繰り返し起きるフラッシュバックに、「自分はこのままおかしくなってしまうのではないか」と、不安になります。
 似たような報道をテレビや新聞で見るだけで事件のことがよみがえり、布団をかぶって一日家から出られない、という方もたくさんいます。ほんの小さな物音やカーテンの揺らぎにおびえ、刑務所にいるはずの犯人が襲ってきたにちがいないと思い込み、家中の鍵を掛けて回ることも、被害にあった人にはよく見られる行動です。

 これらすべては、犯罪被害にあった人間の自然な反応なのです。

 さらに、刑事手続のなかで何度も事件のことについて話をしなければならない、あるいは裁判で意見陳述や証言をしなければならない、ということも負担になります。役所や病院や警察などの関係機関、また近所や仕事場・学校などで心ない言葉を投げかけられることもあります(「二次的被害」)。
 「自分だけがどうしてこんなに苦しんでいるんだろうか」「どうして誰も助けてくれないんだろうか」「助けてもらえないのは何か自分が悪かったからではないか」??様々な思いが混乱した頭の中でぐるぐる回ります。もちろん、冷静に考えれば、悪いのはほかの誰でもなく犯人です。でも、あまりに苦しすぎる時、人は自分を責めてしまうのです。  こうして犯罪被害者の多くは、自分はひとりだという孤立感と疎外感に押しつぶされそうになってしまいます。

真正面からしっかりと、温かく受け止めて。

 犯罪被害者が近くにいたら、あなたはどうしますか。何ができますか。そっとしておいてほしいだろうからと、しばらく距離をおくことにしますか。「あまり気を落とさないで」「元気を出して」などと何かアドバイスをしようと思いますか。

 確かに、被害にあった人やその遺族を前に、自分にできることを探すのはむずかしいことです。

 大切なことは、もし自分の家族が被害にあったらどうするかと考えて、自分にできることから始めることです。傷ついた相手をよく見て、状況を敏感にとらえ、感性豊かに、自分の心の底から出る自分の言葉で声をかけることです。
 犯罪被害にあって、「自分の命も危なかったかもしれない」「大切な家族を殺された自分はもう生きている価値はない」と思いながら困難な人生を生きていく被害者は、相手が自分のことを心から心配してくれているのか、それとも表面的な興味や関心で接しているのかということが、一目で見抜けるようになってしまいます。
 また被害者は自分が何を必要としているのかさえ、考えることができなくなっていますから、例えば「何かお手伝いすることはありますか」という聞き方よりは、「買い物に行ってきましょうか」「掃除を手伝いましょうか」と具体的に言う方がよいのです。
 また被害者は、事件のことについて話したくないという気持ちもありますが、反対に「この人なら安心して話ができる」と思える人には、話を聞いてほしいのです。そういう時は、もしかしたら同じ話の繰り返しになるかもしれませんが、十分に耳を傾けて聞いてあげてください。
 自分の被害体験を繰り返し話すことによって、「ああ、被害を受けたのは本当のことなんだ」と受け止めることができるようになってきます。それは精神的な回復にとても役立ちます。そしてようやくこれからの自分の生き方を考えたり、夢や希望を抱くことができるようになるのです。

 質問せず、意見を言おうと思わずに、ただしっかり受け止めて話を聞いてあげることが、回復のための大きな助けになります。

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