北海道大会:パネルディスカッション

「犯罪被害者支援のために必要なこと」

コーディネーター:
善養寺 圭子(北海道公安委員会指定「犯罪被害者等早期援助団体」公益社団法人 北海道家庭生活総合カウンセリングセンター理事長)

パネリスト:
木村 里美(一般社団法人 J-CAPTA チーフディレクター)
大場 精子(公益社団法人 みやぎ被害者支援センター 参与)
八代 眞由美(札幌人権擁護委員協議会会長、札幌弁護士会犯罪被害者支援委員会副委員長)
 

善養寺: こんにちは。中身の濃い、重たい内容の研修でしたので、ちょっと時間も押しておりますけれども、進めさせていただきたいと思います。

 私は今御紹介いただきましたように、長い名前の公益社団法人北海道家庭生活総合カウンセリングセンターで理事長をしております。その中に、北海道被害者相談室を設置するという設置要綱の中で、被害者の支援の活動も続けております。

 平成9年から相談室は開設されているんですが、平成19年に公安委員会の指定を受けまして、そこから直接支援という、先ほど御挨拶とかお話にありましたように、裁判所の付添い、それから事情聴取の付添い、いろんな形で直接的に被害者の方のお気持ちをおもんばかりながら、又は寄り添いながら支援をさせていただいている今、活動の主眼は大体そこにあります。電話による相談と、それから直接支援で、被害者の方の御意向を伺いながら、真摯にお仕事をさせていただいているところです。やってもやっても、次から次から色々配慮すべきことが出てくるぐらい大変な仕事なんですが、今までのお話の中にもあったように、被害者の方々が被害を力に変えていく、その変えていくエネルギーから私たちも力を頂きながら支援を続けているという、そういう団体でございます。

 私どもの団体の御紹介はこのぐらいにして、これからお3人の方の御意見を伺いたいと思います。

 一番最初に木村さんからいただきたいと思うのですが、J-CAPTAという、子供を被害に遭わせない、被害に巻き込まない、子供自身が自分で自分の身を守るために必要なことなどを中心にお話をいただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

木村: 御紹介ありがとうございます。基調講演を伺って、本当に私も今からできることを1つずつしていきたいなというふうに思いました。私は20年間続けているCAPという活動から、今回のテーマのヒントがあればと思い、お話しさせていただきます。資料に「CAPってなあに」というフリーペーパーを入れてございますので、参考に御覧になっていただければと思います。

 CAP(キャップ)というのは、チャイルド・アソールト・プリベンション、子供への暴力防止という意味です。子供に向かうあらゆる暴力を予防するためのプログラムを、出前講座のように学校の授業に呼んでもらって、そして直接子供に届ける活動をしています。日本では1995年に始まって、各地にCAPプログラムを提供する実践団体があって、全国の幼稚園、保育園、小中学校、それから特別支援学校、児童養護施設の場で実施されて、この21年間で520万人の子供と大人の皆さんに参加いただいています。

 北海道には7つのCAPグループがあります。私の今所属しているJ-CAPTAというのは、このCAPトレーニングセンターでCAPプログラムの実践者の養成・育成、それからCAPグループへの支援、そして子供の人権が尊重される社会を目指しての広報・啓発、アクション活動などを行っています。

 子供たちの周りには様々な暴力があります。例えば学校で起きているいじめや体罰、家庭で起きている虐待とかDV関係、地域でも誘拐とか痴漢などの性暴力とか、テロとか戦争といったような暴力もあります。これらの暴力は全て人の心と体を傷つけることです。その被害をCAPはばらばらに扱うのではなくて、包括的、全体的に捉えているところがCAPの特徴です。

 そのポイントは、人権ということの捉え方、考え方です。どんな暴力も人権侵害行為です。ですから私たちは子供たちに人権を教えるのですね。それも、いつでも自分が感じることのできる人権、それがCAPがお伝えしている子供の権利、安心、自信、自由ということです。

 何でこれが人権なのかというところが重要なんだと思うのですけれども、実は、CAPの始まりはアメリカだったのですけれども、性暴力の被害者支援の運動から生まれました。被害者に寄り添ってその声を聴く中で分かったことがあるのですね。それは被害者の皆さんが陥っている共通した心理状態です。暴力を受けると安心が奪われます。恐怖と不安の中では、本来持っている自分の力が失われて無力化していきます。そして、これまでできたことができなくなって、行けたところに行けなくなる。被害に遭うと人は恐怖の中で無力化され、選択できない状況に陥ってしまうということに気が付いたんです。暴力は人の安心、自信、そして選択する自由を奪うということなのです。

 なので、もしそういうことがあったらどうしたらいいかということをプログラムの中でお伝えしているのですが、あらゆるケースに共通して使える効果的な方法は、開いたところに御紹介していますが。「No、Go、Tell」です。嫌だと言っていいよ、逃げていいよ、そして信頼できる人に相談しようということです。CAPは従来の「何々してはいけません」というような禁止のメッセージは使わないです。行動の制限は被害者の力を奪って、また孤立させてしまうんですね。ですからできること、していいことをいっぱい伝えます。「嫌と言っていいんだよ」、「でも、言えなくてもあなたは悪くないよ。ほかに何ができるだろう」、「逃げてもいいよ。でも、できなくてもあなたは悪くないよ。ほかに何ができるだろう」、「被害に遭った後でもいいから、諦めないで信頼できる人に相談しよう」というふうに、選択肢を広げていくアプローチなんです。そしてさらに、1人で解決しようと思わなくてもいい。人の力を借りること、助け合うことを勧めています。相談するということを促していますので、大人対象のプログラムの中では、どうやって子供の話を聴いたらいいかということも伝えています。

 このフリーペーパーを開くとポスターになっているんですけれども、この下のところに話の聴き方というのを紹介しています。「聴くことは誰でもできる心の手当て」というふうに書いているところですけれども、ちょっとここを紹介しますね。

 まず、聴くということなんですね。聴くことが大切です。それも否定せず、アドバイスせず、一生懸命聞きましょう。①番に紹介しています。

 そして②つ目、「話してくれてありがとう」と伝えましょう。そう言うことで力になりたいよということが伝わります。

 更に③つ目、被害者さんは自分を責めがちですから、どんなときも被害者は悪くないということを伝えたいので、「あなたが悪いんじゃない」というふうに言う。

 それから④つ目、悲しいとか怖いとか気持ちの言葉をもし言ったときには、繰り返して、反復して共感する。それが応急手当になります。

 そして⑤番目、びっくりするようなことを言っても「信じるよ」と伝えたんいですね。どうしても、「なぜ」「どうして」というふうに問い詰めがちなんですけれども、傷を深めないためにも、「信じるよ」としっかり伝える。

 それから⑥、選択肢が見えない状況に陥っているので、「どうしていいか分からない」と言ったら、「何かできることがあるよ」ということを一緒に考える。

 更に⑦つ目、「きっと大丈夫だよ」と希望が持てるように対話するということを紹介しています。

 この⑦番目は、東日本大震災の後に追加したんですけれども、私たち被災地でもCAPを届けるという活動を続けてきましたが、本当に大丈夫じゃない状況の中で、これは大人の決意として、大丈夫な社会を作るということも含めてこれを追加しました。これは後々になって、支援者の方々から「この言葉に自分自身が励まされた」という声をたくさん頂きました。

 この中に出てきた、「話してくれてありがどう」、「信じるよ」、「被害者は悪くない」という言葉と対応も、CAPを生み出した被害者運動の中で蓄積されたものです。応急手当をして被害で受けた傷を最小限にとどめて、必要な場合はさらなる専門機関につなげるというところまでを予防の役割として実践して広報啓発しています。

 CAPを使って自分を守れた、様々な被害に遭わないで済んだというサクセスストーリーもたくさん頂いています。一部、この用紙の裏側に載せていますけれども、見ていただければと思うのですが、CAPのプログラムに参加してくださった3年生の女の子がこんな感想を書いてくれました。「CAPを受けて、今まで心の中に眠っていた魂がよみがえったような気がします」。3年生の女の子です。

 それから、4年生の男の子は「心が軽くなって、体も軽くなりました」ってアンケートに書いているんですね。本当に心と体はつながっていて、知識があって、そこに温かい関係性があれば、子どもたちは本当に自分を回復していけるんだなというふうに思います。

 この「あなたは大切な人なんだよ」というメッセージを、私たちはこの活動で全ての子どもたちに伝えています。人の本来持っている生きる力に働き掛ける活動を通して、子供を暴力の被害者にも加害者にも、そして傍観者にもしないんだという、そんな活動がCAPの取組です。

善養寺: ありがとうございました。被害者支援運動から発祥したCAPのアプローチと、誰でもできる応急手当として、いろんなことを教えていただいたように思います。ありがとうございました。

 次のパネリストの方は宮城県からお越しいただきました。私どもと同じ民間団体で、みやぎ被害者支援センターの参与をしていらっしゃる大場さんです。具体的な事例を通して御紹介いただきたいと思いますが、3・11の大震災でいち早く活動されたということも含めて御発表いただければと思います。よろしくお願いいたします。

大場: 津軽海峡を越してまいりました宮城の大場でございます。

 時間がないので早口になると思いますが、皆さんの聞き上手でよろしくお願いしたいと思います。

 具体的事例を示しながら私はお話を進めたいと思いますが、平成21年の5月に裁判員裁判制度が始まって、全国で初めて少年に死刑判決が出た事件に関わった支援員の1人として、みやぎ被害者支援センターの活動の一端について御紹介をさせていただきます。

 当該事例は、事件の大きさはもちろんのこと、その陰で私たち支援員がどのように関わってきたか、関係機関と連携をしながらどのように関わってきたかということをお話ししたいと思います。

 事件の内容は、平成22年の2月の未明に宮城県の沿岸部、沿岸部と記憶をしていただきます。当時18歳の少年2名が、2名の女性と男性1人を刺身包丁で刺し、女性2名が死亡、男性がひん死の重傷を負うという悲惨な事件でした。この事件に、お配りしているチャートを見ていただくとお分かりかと思いますが、事件発生翌日に警察からの支援要請が入りましてセンターが関わることになったわけです。

 当初の被害者のニーズは、生活支援、お通夜、葬儀、家事支援。2つ目、付添い支援、それから法律相談。今日弁護士さんもいらしていますが、弁護士につなぐという法律相談、これが当初、早い時期での支援でございました。

 しかし、その過程でセンターとして支援の限界が出てまいりました。この限界が契機となりまして、後段でお話を申し上げたいと思いますが、関係機関との連携の必要性が求められることになりました。

 それでは、ここで唐突ではございますが、被害と被災ということをレジメにお示ししておりますが、ちょっと触れさせていただきたいと思います。

 私は冒頭に事件内容を紹介したときに「沿岸部」と申し上げました。「沿岸部で発生した事件」と申し上げました。皆さん御存知のように、平成23年3月11日、東日本大震災が、津波と地震という複合大震災として宮城、岩手、福島を中心に襲いました。全国の皆さんには物心両面から本当に御支援をいただき、改めてこの席から感謝を申し上げたいと思います。特に今日コーディネーターを務めていらっしゃいます善養寺先生には、無理を申し上げまして500個以上のホッカイロを送っていただきました。非常に助かりました。これは県警と分けて使わせていただきました。本当にありがとうございました。

 紹介事例の被害者も、沿岸部の居住だったために大きな被災を受けることになります。被害と被災という二重の苦しみを受けることになりました。その中でセンターとしては、職員の安否確認はもちろんいたしましたけれども、事件被害者等の安否確認を早急に行いました。地元の担当支援員は、交通網と通信網が遮断される寒い中、瓦れきの中を3家族を尋ねて歩きました。しかし、どこに避難したものか、水浸しの後の家を訪ねてもなかなか被害者の御遺族、御家族とはお会いすることはできませんでした。

 9日目にやっと自衛隊員によって救済をされて、離れた地域に避難をしていたということが分かって、その確認ができて9日目に私のところに深夜に地元の支援員から電話が入りました。全員無事であったことは確認できたわけです。そこから被災と被害者ということの支援が、地元の支援員では始まりました。

 その後当該事件は、災害被災から9か月後に控訴審を迎えることになっていました。控訴審までの期間、被災と被害の両輪での支援を行ってまいりました。一方で、今日配布した資料に写真が2枚ついていると思います。1枚目は仙台空港の被災直後の写真です。今は被災前よりきれいに復興しております。

 もう1枚の写真は、御遺体安置所での写真です。この中で私どもがサポートカウンセリングと被害者の悲嘆の傾聴に努めました。被害者支援の一方で、被災者支援活動も災害の時期に行うことになりました。

 センターの支援員全員被災者の立場に置かれた中で、3月17日から5月5日までの40日間、毎日3名延べ120名の支援員を派遣いたしました。御遺体安置所に家族を探しに来る皆さんのサポートを続けました。このような中で被害者支援と被災者支援というものを一緒に経験をいたしました。被害者支援活動の中で、二度とあってはならない、二度とない経験だったと思っております。

 関係機関との連携については後段でお話を申し上げたいと思います。

善養寺: ありがとうございました。被災と被害からの回復のためのサポートカウンセリング、悲嘆に付き添うというか寄り添うというか、大変な御経験をされたと思います。ありがとうございました。

 次に、札幌の札幌人権擁護委員協議会の会長さんでもあられて、それから札幌弁護士会の犯罪被害者支援委員会の副委員長をされている八代先生の方から御発言をお願いしたいと思います。

八代: 弁護士の八代でございます。今日は私、人権擁護委員という立場ででも参加させていただいているんですが、皆さん、人権擁護委員ってどんなことをやっている人なのか、お分かりになるでしょうかね。聞いたことありますでしょうか。

 人権擁護委員というのは法務大臣の委嘱を受けて全国各地にいるんですけれども、その地域に根ざして人権相談を行ったり、人権に関する啓発活動を行ったりしています。各地の法務局に人権擁護部ってあるんですが、その法務局と協力し合って人権侵害の救済に当たっているという、そういうような活動をしております。

 それから、札幌弁護士会の犯罪被害者支援委員会というのは、その名称のとおり弁護士会の中に委員会というのがあるんですが、弁護士会の中では、自分の本来の弁護士の活動以外にも、みんなで会の仕事として各方面の委員会活動をしています。それで、自分の興味のある分野に自分が「この委員会に所属したいよ」と言って配属されるんですが、犯罪被害者支援委員会というのは、最近では非常に若い女性弁護士が希望する、それから一度この委員会に配属されて活動すると、被害者の方の支援というのは非常に重い仕事であるけれども、やりがいがあるということで、委員会に長くいるという傾向がある、そんな委員会です。

 今日私が、まず冒頭でお話ししようと思っているのは、犯罪被害者の受ける二次被害について、これだけで本当は1時間ぐらい話さなきゃならないのですが、ちょびっとだけ、さわりだけ。その後に、被害者の法的支援として、弁護士に何ができるのだろうということをお話しさせていただきます。

 まず、犯罪被害者の二次被害として考えられることなのですけれども、最近多いのは市民によるネット上の犯罪被害者の特定とかバッシングですね。名前が出されていなくても、いろんな情報から被害者の氏名、住所、勤務先なんかを特定する、あるいは名前が公表されている被害者に関してはバッシングするというふうなことが大変深刻な問題として起こっています。

 それから、私たち弁護士を含めて相談機関とか、支援者の言動によって非常に傷つくという、今日の基調講演でもございましたけれども、やっぱりいろんな言葉で被害者の思いを、そんなつもりはないんだけれども傷つけてしまうということも、不用意な発言ということも多くあります。

 それから、捜査機関による二次被害。警察官、検察官の取調べの最中、その後の対応による二次被害。刑事裁判、民事裁判、裁判上における二次被害というのも考えられます。

 まず、ネット上の被害者の特定やバッシングによる被害ということについて、ちょっと具体例をお話しします。実は人権擁護委員の方に、ある被害者の娘さんを特定して、どこどこ学校に通っている何歳の娘さんだとの書き込みに関する相談がありました。そのお父さんが直接の被害者の事件だったんですけれども、娘さんをも特定していろいろネット上に非常に侮辱するような書き込みがなされて、顔写真も載せられた。ひどいのは、この娘さんとは別人の全く関係のないお嬢さんの顔写真で、「これがその娘だ」なんていう、そんな特定の仕方なんかもあって、やはり家族で大変深刻な被害を受けていました。

 ネット上の書き込みということになりますと、通常はサイトの管理会社、運営会社にその削除要請をするということになります。この事件は非常に複数のサイトにものすごくいっぱいの書き込みがなされたんですね。ですから、法務局の人権擁護部の方では、その中でとても悪質な2サイトを特定して、そこで1つは削除要請をして消えたんですが、もう一つはなかなかそのサイト運営者というのに行き当たりませんでした。というのは、いろいろ変わっていくんですよね。特定したと思ったら、「いやいや、それはもうつぶれて、どこが引き継いだ」とかということで、本当に特定するだけでも大変な作業です。削除要請というのは個人でももちろん、ネット上でできるんですけれども、なかなかそのサイトの管理会社、運営会社を特定するということが難しいということで、法務局が支援に乗り出して、最終的に大変苦労しながらも管理会社を突きとめて削除要請をして、ようやく削除されたという事案がありました。

 それから、二次被害の中で大きいのは、相談者や捜査機関による心ない言葉ということがあります。特に性犯罪被害に関しては、慎重な配慮をしなければならないところを、うかつに、例えば「なぜ逃げなかったの」とか、「あなたが怒らせたんじゃないの」とか、「挑発したんじゃないの」とか、「あなたの被害はまだましな方なんだよね」とかということを何気なく言ってしまう。でも、それに対して被害者がどれだけ傷つくかというのは想像に難くないと思います。

 弁護士の被害者支援の中でもそのようなことがあってはならないということで、もちろん弁護士自身が研修もしています。それから、そういうことが捜査機関で行われたらそれに対して苦情を言う、抗議をするということも含めて弁護士の活動の中に入っております。

 さて、ちょっと時間がないので、被害者の法的支援として弁護士ができることについてお話しします。皆さんに配布された袋の中、底の方に「被害者のために弁護士ができること」というリーフレットが入っていると思います。ここにも本当にさわりのことしか書いていないんですが、まず被害者の相談を早期に受けるということが、私たち弁護士の重要な仕事になっております。

 刑事事件の流れについて被害者が分かっていないと、いたずらに不安に襲われます。「これから私、どうなっちゃうんだろう」、「何をしなくちゃならないんだろう」ということで大変な混とんの中にいるわけですね。混乱するばかりです。それから、被害に遭った直後だったら、どんな証拠を残しておけばいいんだろうということも、やはり法律のプロに聞いておくべきだと思います。そういうことを聞いた上で、じゃあ被害届を出すのか、自分はどうするのかということを判断するためにも、是非早期に弁護士の被害者相談を受けていただきたいと思います。

 それから、カウンセリングセンターの方々もそういう支援をなさっていますけれども、警察署に被害届とか告訴状を出すときのお手伝い、その相談とか同行とか支援をやります。

 それから、刑事裁判になったとき、被害者は意見陳述ということができるんですけれども、それを一緒に作ってあげたり、話を聞き取ったりということ。また、証言をする際の付添いなんていうこともできます。意見陳述というのは、必ずしも刑事裁判の法廷に行って、そこで自分が堂々とやらなきゃならないというわけではないです。文書で出して裁判官に読んでもらうということもできます。

 意見陳述というのは、例えば裁判員裁判の場合なんかは、やっぱり生の声、現在の自分の心情を語るということは非常に意味があることなんですね。被害者の調書というのは、被害を受けた直後に警察官、検察官が聞き取ってまとめたもので、それが刑事裁判の中で朗読されたりします。要旨の告知ということで要約されたり、あるいは全文が朗読されたりするんですが、その調書というのは犯罪に遭った直後の聞き取った内容をまとめたものなんですね。だから刑事裁判をやる頃になったら、自分の精神的状態とか体調とかもどんどん変わってくる。学校や仕事や家庭生活もいろんな変化があるんですね。それが、調書だけでは裁判官とか裁判員に伝わらないんですね。

 「学校を中退せざるを得なくなりました」とかという話は、やっぱり皆さん被害が大変なんだなということをじかに感じるということで、この意見陳述はとても大切です。

 また、一定の重要な事件では被害者参加というのができまして、恐らく小樽ドリームビーチ事件とか先ほどの砂川の事件なんかは、法廷の検察官側にたくさん人が並んでいたと思うんですが、あれは検察官の隣に被害者支援弁護士の席もあって座れるんですね。皆さんから見たら誰が検察官で弁護士かは見分けがつかないと思うんですが、一定の重要な事件で被害者参加ができる事件では、そうやって弁護士が実際に法廷の席に座って、被告人に質問したり証人に質問したりもできるという制度があります。

 それから、加害者に被害弁償させるということも重要なことです。お金なんてということじゃないんですね。やっぱり被害弁償させるというのは被害者として当然のことですし、示談をする、あるいは刑事裁判中の損害賠償命令なんていうこともありますし、別途民事訴訟を起こす場合のお手伝いもできます。

 それから、犯罪被害者給付金の請求手続のお手伝い。道警の犯罪被害者支援室で犯罪被害者給付金のいろんな手続をやってくれる方がいらっしゃるんですけれども、そういう方につないだりということをやっています。

 さて、ごめんなさい、長くなっちゃって申し訳ないのですが、「弁護士がこんなことできるよ」と今お話ししましたけど、皆さん一番心配なのは、「弁護士に頼んだらすごくお金がかかるんじゃないの」ということだと思います。でも、心配しないでいただきたいと思うのですが、犯罪被害者支援の場合にはいろんな制度があります。日本弁護士連合会がやっている法律援助という制度があったり、法テラスの犯罪被害者の支援の制度を使うこともできます。非常に潤沢なお金があるというか、ものすごくお金があるよという方については資産制限というのがかかる場合もありますが、ほとんどの場合、私はこの支援を使って被害者に負担をさせないで、負担がなく弁護士の支援を受けられるという制度がありますので、そこは皆さん、頭に入れて、皆さんに広めていただきたいと思っています。

善養寺: ありがとうございました。お3人の方からいろいろな形での支援の在り方を報告いただいたと思います。

 犯罪に遭われた被害者の支援をしながら、何から回復をさせるのかというと、今お話にあったような法的な被害からの回復、心理的な被害からの回復、経済的な回復、社会的な回復、本当にいろんなことがあると思いますが、お3人の方にこれから御発表いただきたいのは、今後の支援の在り方をどう考えていらっしゃるのか。できることは、どういうことがあるのかということをもうちょっと具体的に、他機関との連携も含めて御発言いただければと思います。

 木村さんからお願いいたします。

木村: 被害者にも加害者にも傍観者にもならない社会を作るということが必要だなというふうに思うんですね。予防は大事だと思います。それも人権教育をベースにした取組、楽しく、参加型で、怖くなく、正しい情報をみんなが持つということが大事だなと思うんですね。

 同時に、今お話を伺って、支援のための法整備、それから専門機関の充実ということも本当に必要だなというふうに思うんです。

 被害者にならないためにできることに加えて私たちCAPは、傍観者にならない取組を広げていきたいなと思うんですね。プログラムの中でも、もし自分がいじめられたらどうしたらいいかということと同時に、いじめているのを見たら何ができるかということも話し合います。それから、せっかく助けても、またいじめられることになったらどうしたらいいかということなども話し合うんですね。あるいは、子供が痴漢に遭っているのを見たら、見た人はできることがあるとか、それから不審者に出会ったらこんなことができるよということ、たとえば特別な叫び声とか、いろんなことを教えているんですけれども、もし特別な叫び声を誰かが出していたら、聞いた人はどうしたらいいかという、一人一人が傍観者にならないで行動できることということを教えています。

 時間はあるかな。ちょっと事前の打合せで特別な声を、以前コーディネーターの善養寺さんが違うところでお聞きいただいて、「それがすごく印象に残った」と言っていただいて、やってみようかなとか思っちゃったんですけど、やってみますか。(拍手)

 「もし怖くなったら声を出していいよ」とか「声を出しなさい」とか、大人は言っていますけど、どうやって出すかということまで教えられてないですね。本当に一つの例ですけれども、しっかりとおなかから出す。意味があって、自分は強い、変なことしないで、という意味が入っている、こんな声なんです。「オーッ!」、どうかな。(拍手)

 こんなことを具体的に教えて、そしてこの声が聞こえたら、みんなも一緒に声を出して助けに行ってねという、自分の安全も守りながら、でも、友達とも助け合うんだというところを勧めています。一人一人が傍観者にならないで、つながりのある温かいコミュニティを作っていきたいなと思うんですね。

 それからもう1点、加害者ということに関して、捕まえるというのは警察に任せたいと思うんですが、加害者を生み出さない社会を作るためにできることはたくさんあると思うんですね。被害はたまたまその人に起きたことではなくて、その人だけの問題ではない。社会の中にある課題、要因が加害を生み出しているということをしっかり見極めて対応するということ、そのためにも被害者の声を聴くことが大事だなと思います。

 どの世代を通して比べてみても、子供が一番被害に遭っているんです。その子供の声を聴いていくこと、そして子供を中心に置いた社会を作るということ。「子供共同参画社会」と私たち名付けていますけれども、それを私のCAPの立場では推進していきたいなと思っています。いろんな方と連携して進めていきたいなというふうに思っています。

善養寺: ありがとうございました。子供共同参画社会、つながりを育成しようという、その形がよく見えたように思います。ありがとうございました。

 では、次には、大場さんに連携の話を先ほどしていただきましたけれども、連携するときに心得として大事なこととか、何に気を付けましょうかということも含めてお願いしたいと思います。

大場: それでは、前段でお話しした事例の後段ということでお話を申し上げたいと思います。支援の過程の中で、当初、2週間の生活支援を考えていたわけです。それが新たな課題が出てきたわけです。それには医療的な問題、介護等の問題、それから残された家族の継続的なメンタルケアの問題。センターとしてできること、できないことを慎重に内部で検討、協議を行いました。

 検討の結果、御遺族の要望を受け入れて、行政機関と協力をしなければどうにもこれは解決しないということになりまして、県・市関係8の機関、20名に及ぶ方に集まっていただきました。情報管理の徹底を期すために関係各課とも責任者の方にも出席していただきました。支援センターからは責任者、担当者を含め5名が出席しました。

 事件前から、協議の場ではお互い事件の前から部門部門で、すなわち、点として関わっていたものが、カンファレンスを開くことによって協力支援をするための線につながったわけです。それが非常に功を奏しました。行政との役割分担を明確にすることによって、センターとしての今後の支援目標設定と支援計画が明確になりました。

 これはどういうことかといいますと、弁護士と司法とつながりの必要性が出てまいります。そうなると付添い支援の問題、少年審判が始まる、公判が始まる、控訴するだろう、あるいは上告するだろうという予測を全部立ててコーディネートいたしました。行政で担当していただくことが明確になり、非常に助かりました。行政機関等との連携が後の支援にも非常に役に立ち、支援計画を明確にすることができたと。

 連携に当たっての留意点はチャートの中の下の方に書いておりますが、もう一度繰り返させていただきます。これは非常に大事なことなんですね。関係機関と連携することについて、事前に被害者等の御遺族から同意が得られているということが前提になります。それから連携先、機関相互との情報の管理が担保されていること、非常に大事なことです。そして、相互の限界を理解して、相互に限界があります、行政にも限界がある、センターにも弁護士さんたちにも限界がありますね。その線上で途切れのない支援に心を配ることが非常に大事であると思います。

 連携会議の開催に当たっては、キーパーソンになる窓口が明確であることが大切と考えます。この事件の場合は警察が窓口になっていただきました。当センターから連携カンファレンスを開きましょうよと働き掛けたわけですが、その中心になったのはやはり公的機関で、関係者の協力依頼はスムーズに行われたと思っています。

 ここで私のまとめといたしまして、被害者の声から実際どういうことを被害者は望んでいるのかということをお話し申し上げて、私のお話を最後にしたいと思います。被害者の望む支援と被害者の実際の声、これが、この事件だけでなく被害者支援という中でトータルでまとめております。

 「私たち被害者は、事件直後に被害者の心理状態の分析やカウンセリングのみを望んでいるわけではありません。どこの病院に行ったらいいのか。治療費はどうすればいいのか。仕事を休む場合や、もし障害が残った場合の生活費はどうすればよいのか。残された子供の養育はどうすればいいのか。被害者等がこれから生きていくために実質的な支援が欲しいのです」と話しております。

 また、「何かお役に立つことがあったらおっしゃってください」ではなく、「私たちにはこのような支援ができて、こんなお役に立てます」と、具体的なメニューを示していただかないと、混乱期にある被害者等はとても何もできないんです。これが率直な、被害者の本当の声を私は代弁いたしております。

 ただ、被害者等には、専門家との関係はとても大切だと私は思っております。しかし、被害者等が望んでいる支援を考えたときには、皆さん、私どももソーシャルワーカー的な、ファシリテーター的な役割をすることが大事ではないかと、このような役割を持っているところというのは、私ども民間の団体だけでなく、関係機関団体、特に行政の窓口には被害者支援のための必要なノウハウを持った窓口がたくさん存在します。

 私、前段の事例で本当に経験をいたしました。点、点でやっていたものが線につながったということがありますので、やっぱり被害者支援にとっては関係機関団体との連携は、早いうちからキーパーソンを決めてやるべきだということを事例を通して感じましたので、提言させていただきます。

善養寺: ありがとうございます。これからの被害者支援はそうでなくちゃいけないと思いますし、点と点を結んで線にして、それを面にすると。みんなで支えていくことを目指していかなければいけないだろうと思います。ありがとうございました。

 八代先生からは、先ほど「こういうことができるんですよ」という御提言を頂いたので、それを受けながら、もっと実際のことをお話しいただけたら。

八代: 先ほど弁護士にできることをお話ししましたが、課題としては犯罪被害者が弁護士に依頼できるということが余り周知されていない。弁護士が犯罪と関わるというのは、むしろ被疑者、被告人の弁護をするのが弁護士の仕事だろうというふうに、そういうイメージを持たれていますので、犯罪被害者側にも弁護士がつけるんだよということを広く周知していただきたい。周知されていないというところがちょっと課題です。

 それで、犯罪被害者支援委員会では、警察、検察と連携して、弁護士に相談できることを直接被害者にアナウンスしていただいて、弁護士を紹介するというルートを作っていただいたりしています。

 被害者の現在の悩みを把握して、その関係機関とまさに連携をするという、先ほどの大場さんのお話にありましたとおり、本当に弁護士が単独じゃ全然限界があるんですね。だからやはり幅広く関係機関と連携するということが重要になってきます。

 弁護士は、いろいろな場面で精神科医とか産婦人科医とつながっています。ですから、必ず被害者にそういう受診をする必要があれば、具体的に診察の予約を取ってあげるとかということもしていますし、各専門機関につなげています。

 一つ事例を御紹介したいんですが、ちょっと生々しい事件で、実の父親が9歳の長女の裸の写真をネット上に公開していたということで、児童ポルノ法違反で逮捕されたという事件があったんですが、その後、その自宅にガサ入れをしたら、まさにその長女に対するかん淫場面がビデオで撮影されていたということで、また再逮捕され、更にいろんなビデオから、母親の友達のお子さんにもそういう加害行為をしていたということがありました。

 それで、この事件、実刑で懲役11年という判決だったんですが、実はある地方に住んでいる親子だったんですけれども、児童相談所を通じて、まさにその核になるのが児童相談所だったんですけれども、その町役場の住民課の担当者、それから保健師さん、それから私、精神科医なんかでケース会議を持ちまして、その母子の今後の生活の安定とか、それから裁判に対する不安、そういうことについて総合的に話し合って協力体制を築いていこうということで、本当に町役場の方から私のところに2日に1回、「こんな状態なんだけど、次は何をしたらいいですか」という問合せが来て、私がその町の顧問弁護士かのように対応した事件がありました。

 例えば、先ほど申し上げました刑事手続の説明とか、親子の不安を検察官に伝えて、それから秘匿しなければならない部分はどこなのかということの要望を出したりというところのほかに、離婚をしなくちゃならないということになりますよね。離婚手続で、勾留されているわけですから、その間、刑事弁護人を通じて離婚届を差し入れたりということのほかに、その親子にはちょっと借金があったんですね。じゃあ、生活保護を受けさせるために、その借金の整理も必要だろうということで債務整理をしようとしていたところで、「いや、実は直前にお母さんが交通事故に遭って、交通事故の保険金が入るんですよ」という話。じゃあ、その保険金で債権者に一部返し、一部生活費に使うなど、そういうのもみんなで協議しながら、この母と子の生活の再建に向けてみんなが協力しながら進めていったという事案がありました。

 児童精神科医にも継続的にかかり、お母さんもやはり不安定になっているので、お母さんも精神科医につなぐというようなことで、総合的な支援をしました。やはり本当に専門家同士の集まりでも専門分野が違いますから、できることには限界があり、その中で連携をしていき、そういう体制を整えるということが非常に重要だなというふうに思っています。

善養寺: ありがとうございました。皆さんお3人の方から、被害からの回復に必要な模索と対策、出てきたことからの点々をつないでいって面にしていくようなサポートの仕方。今日は短い時間で、駆け足でこのパネルをしたので、「えっ、もう終わっちゃうの」という方もいらっしゃると思いますが、是非、今日お聞きになったことを参考にして、そしてここで発言したパネラーのところにノックをしながら、社会全体で広めていければいいということを願いながら、お時間の都合もありまして、パネルディスカッションはこれで閉じさせていただきたいと思います。

 高石さんの話も、いつもいつも聞かせていただきながら、考えることが山ほどあるなということで承りました。また、日も短くなって、外は多分もう真っ暗だろうと思いますので、どうぞ事故のないようにお家までお帰りいただければと思います。

 駆け足で申し訳ありませんでしたけれども、これでパネルディスカッションを閉じさせていただきたいと思います。お3人の先生、ありがとうございました。皆様お聞きいただきましてありがとうございました。

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