中央イベント:パネルディスカッション

「性犯罪被害者支援の取組と今後の課題」

コーディネーター:
飛鳥井 望(公益社団法人被害者支援都民センター理事長・精神科医)

パネリスト:
小西 聖子(武蔵野大学人間科学部長・心理臨床センター長)
望月 晶子(弁護士・NPO法人レイプクライシスセンターTSUBOMI代表)
前田 裕司(警視庁刑事部捜査第一課管理官(性犯罪捜査指導官))

飛鳥井: それでは「性犯罪被害者支援の取組と今後の課題」のパネルディスカッションを始めさせていただきたいと思います。

 本パネルの趣旨なのですけれども、先ほど小西先生からも、性犯罪被害の深刻な実態というお話がございましたが、本パネルの趣旨は性犯罪被害者支援のために現在行われている取組を御紹介させていただくとともに、今後の課題について議論をしまして、性犯罪被害を潜在化させないための方策を考える機会にしたいと思います。

 皆さん御承知のように、第3次犯罪被害者等基本計画が今年の4月よりスタートいたしました。その中で性犯罪被害者に関しては、医療費の負担軽減や自立の支援、それから警察におけるカウンセリングの充実、またワンストップ支援センターの設置の促進、あるいは捜査や公判などの過程における二次被害防止の配慮や各種の相談支援体制の充実等々が施策に盛り込まれているところでございます。

 ちょうど先週、この基本計画策定・推進専門委員等会議が持たれまして、私も専門委員として参加させていただいたのですが、その中でもこの基本計画に盛り込まれた具体的施策の進捗状況の把握方法等の報告や意見交換が行われました。実際に基本計画の進捗状況ということが、このように定期的に、今後は検討される予定でございます。

 それで早速、内閣府の男女共同参画局より、ワンストップ支援センターの設置状況のお話がありまして、今年の9月段階で32自治体の33か所と、本年度内には37都道府県に設置の見込みというふうな御報告がございました。また設置促進と安定運営のために交付金を今、概算要求中ということです。

 それから、警察庁の方からは、性犯罪被害者相談電話番号の統一化と、全国統一のダイヤルで相談ができるといったような体制作りを目指しまして、これも平成29年度に概算要求をされているというところでございます。

 今回、この中央イベントで性犯罪被害の問題を取り上げていただいたのですが、実は6年前の平成22年度にもこの中央イベントのパネルで、性犯罪被害者の支援の現状と今後ということでディスカッションが行われております。ちょうどこの第2次基本計画が始まる前ですね。だから今回と前回との間にこの第2次基本計画の5年間があったわけなのですが、前回のパネルの記録を今回また改めて読ませていただいたのですが、そのときにも性犯罪が被害者にもたらす深刻な爪痕ですとか、被害を申告しない、つまり届出をしない被害者がやはり多いということでの対策が必要だということ、それから、今でも言われていますが、いわゆる捜査ということと支援ということのギャップをどう埋めていくかといったような問題、それからもちろん、この性犯罪被害のもたらす影響について広く社会の理解が当然必要であるといったような議論が行われてまいりました。

 さて、それから6年がたったわけでございますので、同じ議論を同じようにしているというわけにもいきませんので、このパネルは特に2部構成にしておりまして、前半ではそれぞれの関わっておられる現場での取組、特にこの5年間、何がどう進歩してきたのかといったようなことですね、それについてお話をしていただいて、それから後半のディスカッションについてはこれからの5年間を見据えて、じゃあこれからはどうしていったらいいのかといったような形で議論をさせていただければと思います。

 パネリストは、先ほど御紹介にありましたけれども、警視庁からは前田裕司さん、それから弁護士でNPO法人のレイプクライシスセンターTSUBOMIの代表であります望月晶子さん、それから先ほど御講演をいただきました武蔵野大学心理臨床センター長の小西聖子さん、そして私も、都民センターでの取組ということで御紹介をさせていただきます。このパネリストの方々と一緒に考えて、フロアの方々にもまた考えていただく機会にしていただければと思います。

 それでは、早速ですけれども、前田さんの方から警察での取組についてのお話をしていただければと思います。

前田: 警視庁の捜査一課の管理官をしております前田と申します。

 【スライド1】私自身は平成20年から3年間、約5年前なのですが、その頃、やはりこの性犯捜査係で係長として警部として勤務していました。昨年の9月に人身安全関連事案というストーカーなどを扱う部署から管理官として変わりましたので、その5年前当時と比較して実際捜査側から見て相当変わったという面がありますので、それらを含めて説明したいと思います。

 捜査一課の方の性犯罪捜査というと、平成8年5月に捜査一課の中に性犯罪捜査班として設置しました。ですので、捜査一課の中でも一番歴史が浅くて、約20年余りという短い期間なのですが、その当初はやはり捜査員の数も少なくて被害者支援、正に被害者支援の活動が主でありました。その後は早期に事件化を図って、犯人を検挙するということによって、より被害者の精神的な負担軽減が図れるということで、被害者支援と事件捜査の両面で諸対策を図るように変わってきております。

 【スライド2】それでは、この表を見ていただきたいと思います。過去5年の推移ですが、5年前の平成23年度は強姦事件、強制わいせつ事件を合わせて1,015件を認知しています。検挙件数では624件で、検挙率は61.5%でした。そこから右肩上がりに若干、認知件数等、増えていったのですが、昨年から認知件数が減少傾向にあると。

 こうした中で、今年の傾向として、10月末の状況なのですが、認知件数全体では828件と、過去5年と比較して最も少なく、また、前年比もマイナス16件となっています。検挙率では平成23年と比較するとおおむね20ポイントも増加していて、81%という高い数値を示しています。私が係長当時と比較すると、悪質な手口、屋内に侵入したり、手足を縛ったり、緊縛をしたりと、そういった事案が少なくなってきております。指導と教養とか行き届いた形なので、各署での取組が徹底されてきているように感じております。

 この減少と検挙率の上昇には、やはり要因として防犯カメラの設置、性能の向上が大きな役割を示しているところです。特に悪質な事案には早期に被害者支援と事件化を図っているところですが、やはり安全・安心を確立するためには防犯意識も高める必要があります。アパート・マンションに防犯カメラを設置されているか、居住する人自身が確認をするなど、その一言がやはりアパート・マンションへの防犯カメラが設置される1つの促進する役割になるのかなと考えております。更なる促進の方もひとつよろしくお願いします。

 【スライド3】同じく、先ほども話したとおり、防犯カメラは長期保存では数か月から1年近く保存されているものもありますが、やはりほとんどのものは数週間で保存期間が切れています。ここに記載があるとおり、迅速な届出をしていただくことにより、犯人を割り出す様々な証拠資料を得ることができます。私が警部でいた5年前と比較しても、警視庁ホームページでの呼び掛けや各種団体による協議によって、多くの事件、特に悪質な事件については発生直後から遅くとも1日内外でおおむね届出をされるようになってきたと感じております。しかしながら、中にはしゅん巡して期間がたって、その後知人に相談して届出が出されるという事例も一部に散見されます。

 先ほども小西先生からもありましたが、相談を受けた場合はなるべく早く警察に届出をするよう、相談された場合は教示していただいて、場合によっては付き添って警察署に来ていただければ助かります。

 【スライド4】それと、先ほどうちの方の教養と言いましたが、女性警察官による被害者からの聴取ということで、性犯罪が発生した場合は基本的に、各警察署に配置されている女性警察官が性犯罪捜査員に指定され、被害者の求めに応じて、被害者が女性の方がいいと言った場合なのですが、女性警察官が聴取をすることとなっています。これらの女性警察官については年2回講習を実施をしており、聴取方法や被害者支援の在り方などを教示しているところです。これと併せて平成26年、2年前からは男性警察官についても、特に捜査を指揮する男性警察官についてこういった性犯罪についての在り方、支援の在り方というのを指導している状況です。

 また昨年度には、刃物を突きつけられて被害を受けた事案など、凶悪で被害程度の重いものについては、可能な限り、女性警察官が2名で対応してくださいというふうに、各署に事務連絡を出すなどして、被害者支援の充足を図っているところです。やはり見分とか検証とかいろいろとありますと、被害者がどうしても1人になってしまう場面というのがありますので、警察官が2人で対応しなさいというふうな形をとっている状況であります。

 【スライド5】医療機関への対策、病院の付添い、これについては夜間や休日に被害者の診察に協力していただくよう、各方面に病院を選定して、迅速かつ適切な診断を行えるように努めております。また、病院へは女性警察官が被害者に付き添い、先ほど話したとおり、より事象の程度の高いものや、場合によっては女性2名が付き添ったり、また、さらに親族間の性的虐待事案などでは犯罪被害者支援室員や捜査員が積極的に聴取に立ち会ったり、児童相談所への通告や聴取をすることなどの支援を実施している状況になります。

 【スライド6】医療費に係る性犯罪被害者支援ということで、精神的・経済的負担を軽減することを目的として、次に掲げる医療費を公費で負担をしています。診察料、診断書料、性感染検査費用、緊急避妊費用、人工妊娠中絶費用、カウンセリング費用です。これについても公費で負担をしています。ただし上限もありますし、公費で負担するものですから、この中に場合によっては該当しないという場合もあることは事実であります。

 【スライド7】そして、今後の課題といいますか、今課題となっているところでありますが、SNS(ソーシャルネットワークサービス)等を活用した出会い系サイトの中での性犯罪について、いわゆる男性側と女性側の認識の違いの差、特に被疑者の部屋に、電車がなくなる時間や、いわゆる深夜に赴いた場合、男性側が性交渉を相手が了承しているという認識でいると、女性側はそこまで認識がなかったというふうな場合も実際あります。

 また近年、大学生やグループ内による、宅飲みと称してお酒を飲んで、そこから性犯罪に発展するケースも多く見受けられます。こうした状況を作り出すことのないように、男性、女性を問わず、家庭や学校での教育や教養が必要なのではないかと思っております。

 また、犯罪被害者支援室では大学生や社会人に対して、身近な人が被害に遭ってしまったときの適切な話し方を含め、出前型の研修等を行っていますので、もしそういった場合は教養の方を依頼いただければと思います。

 また、事件化へのハードルとしまして、ここに記載があるとおり起訴状等、これは専門的になるのですが、起訴状への被害者氏名を記載することについての是非といいますか、これについてはストーカーが問題化したときに、一時、裁判所でもこういった形で被害者の氏名を載せないで起訴になったという事案がありました。しかしながら、揺り戻しではないのですが、今は起訴状に被害者の氏名がほとんどの事案で記載されるという形になっております。これについては、被害者の方がこれによって被害届を出さないという場合がありますので、こういった場を借りて、皆様に理解いただき、活動していただければ、被害者もより被害届を出しやすい環境になるのかなと思っています。

 あと、やはり実際、先日も事件としてあったのですが、年少児童が強制わいせつ等の被害に遭った場合、潜在化というか、やはり御両親などに恥ずかしくて告げられないという子供がたくさんいます。親御さんが聞き取ってくれればいいのですが、なかなか言い出しづらいと。もし言い出したとしても、やはり子供の供述というか、その信ぴょう性をはかる上で証拠化が難しいという状況があります。ですので、今司法面接のような形で検事さんが聴取したりしているのですが、警察官にも誘導しないで聴取できる技量、そういった取調べというのも必要になってくるのではないかなと思います。

 【スライド8】最後に、先ほどお話ししたとおり、事例としまして、今年、巣鴨警察署で扱った東大生による強制わいせつ事件がありました。これは集団心理の中でこういった事件に発展していったということです。昔と比較するとやはり男女間の関係の近さとか、あと携帯電話やインターネットなども、環境が全く違っていますよね。ですので、やはりそういったものをサポートするというか、学校での教養とか家庭での教養とか、そういったことがより強くなってくるのではないかなと思っています。

 ちょっと長くなりましたが、私の方からは以上になります。

飛鳥井: どうもありがとうございました。最後に御指摘いただいたところが本当にそのとおりだと思うのですね。かつて、集団の性暴行というのは不良少年グループがやることだったのですが、最近は日本を代表するような有名大学のサークルで起きていて、つまり高学歴で、頭もいい、育ちもいい青年たちが日常の学園生活の延長で集団性暴力を働くといったような社会になっていると。それから、SNSの問題もありましたけれども、思春期の中学生、高校生の女の子が自撮りで性的な画像をどんどん流すという、恐らくこれも10年前、20年前とは明らかに性に関するカルチャーが変わってきておりますので、性犯罪被害の取組ということについても、社会の変化ということにも対応していかなければいけないという、大変複雑な課題がまた積み重なっている状況だと思います。

 それでは、続いて望月さん、お願いいたします。

望月: 弁護士の望月と申します。

 【スライド1】私は2000年に弁護士登録をしまして、現在、弁護士17年目です。弁護士になった当初から犯罪被害者支援委員会という弁護士会の組織に所属しまして、いろいろな犯罪の被害に遭われた方の支援に携わらせていただきました。その中で女性弁護士ということで、女性の性被害に遭われた方の支援を数多くやらせていただいて、そういう経験をしていく中で、被害者の方というのは本当に何て大変なんだろう、というのは、その事件自体がもちろんすごく大変なのですけれども、先ほど小西先生が丸い図でいろんな支援が必要、生活面、病院や社会福祉などいろいろなことが必要という図を書いてくださっていましたけれども、被害者が被害に遭った後、いろいろな支援を自分で全部探して、一つ一つ求めていかなければいけない。警察に行き、病院に行き、そこから「じゃあ、心がつらいから、カウンセリングはどこに行ったらいいんだろう」、「どこの弁護士さんに行ったら被害者を助けてくれるんだろう」、そういう情報がほとんどない中で被害者の方が本当に1人で全部やっているという姿を見て、とてもいても立ってもいられない気持ちになりまして、国や東京都とかに「性犯罪被害者のためのワンストップ支援センターを作ってください」というような働きかけをしたりもしていたのですけれども、6~7年前にはそういう動きもほとんどないというか、基本計画の中にうたわれてはいても、なかなか実現がいつになるのかなという思いがあって、それで自分でNPO法人を作って、レイプクライシスセンターTSUBOMIとして性犯罪被害者の方の支援をする活動をしています。

 ですので、私からは、弁護士による性犯罪被害者支援一般と、私自身がやっているレイプクライシスセンターTSUBOMIの活動、2つについてお話をさせていただきます。

 【スライド2】先ほど小西先生からは強姦の件数、1,000件から1,500件ぐらいというのを教えていただいたのですけれども、性犯罪をもっと広く、いろいろな犯罪というふうに捉えてみると、本当にその件数というのはすごく多くて、強制わいせつ、公然わいせつ、わいせつ物頒布、ストーカー、青少年育成条例違反、児童買春、児童ポルノ、児童福祉法違反、出会い系サイト、本当にいろいろな類型の犯罪が今はあって、それらを単純に合計すると、この平成26年で1万8,000件、平成25年で1万9,000件というのが認知されています。

 ただ、ここには、これらは飽くまで性犯罪全てを網羅しているわけではなくて、例えば条例で取り締まられている痴漢や盗撮は入っていませんし、先ほどの無理やり性交されて警察に相談した女性というのは4%ぐらいしかいませんから、ここから漏れている数というのはものすごくたくさんあるわけです。ですので、性犯罪の件数というのはもう年に何万件もあるのではないかと。ですから1日に何十件、下手したら何百件起きているわけで、決してどこか遠くで起こっている問題ではなくて、日々身近なところで起きている犯罪だというふうに認識していただけたらと思います。

 ただ、先ほど小西先生が「医者に相談する被害者もすごく少ない」っておっしゃっていましたけれども、弁護士に相談してくれる被害者もとても少ないです。去年の内閣府の調査ではもう数字が上がっていない、0.1%にすらなっていないぐらいで、なので、もともと被害に遭って弁護士に相談するという発想が生まれないということも多いと思いますし、あと、前に相談に来てくださった方に言われたのが、インターネットで「性犯罪」、「弁護士」というふうに入れて検索したときに出てくるのは、加害者に対して「無罪にします」とか「何とか示談を成立させます」という、そういう加害者側の弁護をする弁護士のことばかり出てくるというふうに言われました。実際にそのとおりで、私たち弁護士会では犯罪被害者のための電話相談や面接相談もやっているのですけれども、そういうものは全然出てこなくて、世間に伝わっているのは弁護士は加害者の弁護をするというようなことになってしまっているのが多いのかなと思うのですけれども、実際には私たち弁護士は、被害者の方のためにいろいろなことをできますし、しています。

 【スライド3】時系列に沿って弁護士が被害者の方のためにどんなことができるのかというのをお話ししたいと思います。弁護士は決して、裁判所で証人尋問とかばかりしているわけではなくて、被害者の方のためにずっといろいろなことをしています。

 例えば、まず、事件発生直後ですね。すぐ警察にいらした方であればここは必要ないですけれども、やはりむしろ警察に行かない、すぐには駆け込まないという方の方が多い。そういうときに時間がたてばたつほど、証拠がないとか自分の言うことが信じてもらえるかなという不安が生まれてきて、警察に行くことのハードルが高くなってしまいます。そういうときに私たち弁護士が一緒にお話を聞いて、被害届や告訴状を作って一緒に警察に行く、そういうことをします。

 次、マスコミ対応と書きましたけれども、先ほどの東大生事件のように、ここのところしばらく、いろんな大学での集団強姦みたいなことが話題になっていますけれども、そういうふうに世間の注目を集めるような事件が起きると、被害者はそっとしておいてほしいと思っているにもかかわらず、マスコミが押し掛けてきたりする、そういうときに被害者の代理人となってマスコミ対応をする、「被害者に直接接触しないでください」ですとか、そういったシャットアウトしたりですとか、若しくは、例えば被害者の方からコメントを発したいというときに、その代理人となってマスコミ対応というのもしています。

 それで、警察で事件が受理されたりして、取調べをするときには、私たち弁護士がそれに同行するということもします。事件が事件として扱われていくと、加害者側から「お金を払いたいので示談をしてほしい」といった示談の申入れがあることもあります。そのときに被害者としては、お金を受け取ってしまっていいのか、受け取ったらどういうふうに、どんな効果か生まれるのかという、それは本当にケースバイケースで、いろいろなことがあるのですけれども、やっぱり加害者がお金を払うというのは、自分を裁判にしないでほしいですとか、処罰を軽くしてほしい、そういう思いがあるから「お金を払いたい」と言ってくることが多いので、その場合にどう対応するのか。お金を受け取らないで、強い処罰意思、厳罰にしてくださいという態度を示すのか、それとも受け取っても許さないよと、受け取っても許さないと言っていいのかどうか、それが本人は分からなくなってしまうので、「受け取ったからといって許さなくてもいいんですよ」というアドバイスをします。示談書を交わすときに加害者側の弁護士が作った、何か難しい文言、意味がよく分からない、それに署名しなくてはいけないのかというようなことについて、一緒に説明したり考えたりというようなこともします。

 それから、検察審査会に申し立て、これは被害者の方が勇気を出して頑張って、被害届を出して捜査で被害状況の話をしても、検察官の方で「これは事件化しません。裁判にしません。不起訴処分にします」という判断をしたときに、被害者側の方がそれに納得がいかないというときに検察審査会というところに申立てをして、その不起訴処分について審査をしてもらうことができます。そういう申立てについても、私たちはお手伝いをします。

 それから、無事にというか、裁判になったときに、裁判ではいろいろな証拠が出されて裁判の記録がつくられます。そういう記録を裁判所で取って、コピーを取って被害者の方にお見せして、一緒に記録を検討して、「今、裁判ではこういう証拠が出ていて、これはこういう意味を持っている」というような御説明をしたり、一緒に検討したりということもします。

 次に、被害者参加。2008年から被害者の方が、被害者参加といって、一般傍聴席ではなくて、中に入って検察官と一緒に座って、証人や被告人に質問したり、刑務所に何年行ってほしいというような求刑に関する意見を述べたりできるようになりました。そういう被害者参加をするときにも、我々弁護士が被害者参加弁護士としてお手伝いするということをしています。

 それから、裁判で判決が出ると、加害者側の弁護人の場合には、判決が出れば基本的に仕事は終わりですけれども、被害者の方の場合にはその後、どこの刑務所に行ったのか、刑務所の中でどのような態度なのか、そして「もうすぐ満期じゃなくて、仮釈放になりそうなんだけれども、その審査がありますよ」ですとか、場合によっては刑務所を出てどの辺りに住む予定なのか、そういった加害者に関する情報を取得することができます。

 それについても、被害者の方が、情報は一応持っておきたいけれども、逐一知りたくはない、何か特別なときだけに知りたい、というようなときには、私たち弁護士が代わりに加害者情報を取得して被害者の方にお伝えするというようなこともしています。

 ですので、弁護士だからといっても、裁判の場所だけを手伝っているのではなくて、事件発生から加害者が刑務所から出てくるところまで、被害者の方とすごく長いお付き合いをして支援をさせていただくことができます。

 ですので、なかなか被害者の方が弁護士を頼むという発想は少ないのかもしれないのですけれども、これだけのことをします、できますので、是非被害に遭われたら弁護士を利用するということを考えていただきたいなと思っています。

 【スライド4】今、被害者参加ということを申し上げたのですけれども、性犯罪の被害に遭われた方が裁判所に自ら行って被害者参加なんかするのかなという、ちょっと疑問をお持ちの方もいるかもしれないなと思って、性犯罪被害者の裁判の参加についてちょっとまとめてみました。

 これは2015年の数字なのですけれども、強制わいせつの方が118、強制わいせつ致死傷で33、強姦で64、強姦致死傷で48、集団強姦で4、集団強姦致死傷で3、強盗強姦で9、合計279名の方というのが積極的に被害者参加をされています。

 もっとも、被害者参加といっても、必ず御本人が法廷に行かなければいけないわけではなくて、全てを、ここに弁護士に委託した被害者とありますけれども、弁護士に自分がやりたいことをやってもらうということもできますので、必ずしも被害者御本人が法廷にいらしたとは限りませんけれども、性的な被害に遭った方の中でも、本当にこもってしまう方もいますけれども、こういうふうに積極的に裁判に参加をしていらっしゃる方というのも相当数いらっしゃいます。

 この右に遮蔽というのがあるのですが、法廷に行ったときに傍聴人や被告人から見られないように遮蔽措置をとってもらうことができます。だから、この遮蔽をしていた114人の方というのは、少なくとも御本人ないし親といった方が法廷にいらしていたんだなということが分かります。

 【スライド5、6】これは、私が支援した被害者の方が裁判員裁判で被害者参加をしたときなのですけれども、今申し上げたつい立というのがここに、例えばここに被害者の方が座って、ここに傍聴人がいて、ここに加害者がいるというような場合に、つい立を立てて、証言するときもここについ立を立てて、傍聴人から見られない、加害者からも見られない、見ないというようなことができるのですが、裁判員からはどうしても名前も知られるし顔も見られてしまう、それがつらい、嫌だということで、私が支援した方は、もう顔がほとんど出ない、帽子をかぶってマフラーをぐるぐるに巻いてというような、こういうスタイルで被害者参加をされていました。ここに書いてありますけれども、悩んだが、どれだけつらい思いをしたか、自分で言わないと後悔するという強い思いから、自ら裁判に参加してくださいました。

 【スライド7】今、弁護士は被害者の方のために本当にいろいろなことをしますよと申し上げましたけれども、偶然、先ほど小西先生が書いてくださった図とちょっと似た図を私も書いていて、こういういろいろな支援が必要だということを本当に実感してTSUBOMIを立ち上げました。

 【スライド8、9】これがTSUBOMIのリーフレットなのですけれども、何年か前にこの大会でTSUBOMIのリーフレットを200部ぐらい置かせてもらったら、200部そのまま丸々送り返されてきたことがあって、とても悲しい思いをして、今日はあそこの、皆さんから左後ろの端にTSUBOMIのリーフレットが置いてあるので、これが終わったら是非持って帰っていただけたらとてもうれしいです。

 それで、私たちTSUBOMIでは、被害者の方のために電話相談、メール相談、面接相談、それから付添い、法律相談、これは弁護士紹介というようなことを行っています。

 【スライド 10】次がTSUBOMIでの相談件数なのですけれども、2012年の2月から始めまして、先月、2016年10月までの相談件数は約1,500。これは電話相談の総数が1,507件、お1人一応3回までお電話くださって大丈夫ですよというふうにしているので、実相談件数は1,010件です。

 【スライド11】どんな相談が多いかというと、強姦、強姦未遂、強制わいせつといったものが半分以上で、非常に深刻な相談が多いです。

 【スライド13】ちょっと時間がないので飛ばしますと、私たちは特に被害者の方の性別は限定せず、「男性からの相談も受けますよ」というふうにしていますので、女性920に対して男性79、1割弱の相談が男性からです。

【スライド14】今、「作ってください」「作ろう」と言っている病院のワンストップセンターは、被害直後の御相談が多いと思うのですけれども、TSUBOMIの電話相談では、もちろん、被害直後の相談も多いですけれども、5年前、それから10年以上前、何十年も前に被害に遭って誰にも言えずに我慢していましたというような御相談も多いです。 

 【スライド21】それ以外のところは飛ばして、最後のまとめになりますが、そういうTSUBOMIでの経験してきたことなんかを踏まえて今後の課題と思っているのは、潜在化の一因として、相談機関、ワンストップ支援センターにしても私がやっているような相談のところにしても、相談機関がどこにあるのか、どこに相談していいかということが知られていない。相談機関を周知していくということは非常に重要だと思っています。

 インターネットがあっても、さっき被害者の方がなかなか弁護士にたどり着けないという状況があると申し上げたように、どこに相談していいか分からないということが多いので、知っていただく、これはとても大切なことだと思っています。

 それから、男性相談。男性被害者の方が潜在化していると小西先生もおっしゃっていましたけれども、男性の方が本当にもっと、被害を言っても信じてもらえないんじゃないかとか、抵抗しなかった自分が悪いんじゃないかとか、肉体的に反応してしまったということは、自分は被害者じゃないんじゃないかという、被害を認識できなかったりとか、抱えている複雑さというのはものすごく計り知れないものがあるので、男性専門の相談窓口というのもこれからは作っていく必要があるのじゃないかなと思っています。

 それから、最近、LGBTが認知されてきましたけれども、LGBTの方というのは逆に、女性とか男性というのがはっきりしていると、自分はどっちに相談していいのか、自分を女性として受け入れてもらえるのかというところで迷ってしまわれ、ためらわれてしまわれるようなので、逆に性別を特定しない、誰でも相談できますよというような窓口もやっぱり必要なんじゃないかなと思っています。

 あとちょっとだけ。ここ、「TSUBOMIの課題」というふうに書いたのですけれども、結局いろいろなワンストップ支援センターがこの5年間でようやくできてきて、警察の方でもいろいろな対応が変わってきてというようなことがあっても、それでもやっぱり私がやっているような一民間団体への相談というのも、今年も半年で200件近くあって、その必要性、ニーズがすごく高い。ですけれども、こういう相談を民間で運営していくというのはとても大変、人も足りないしお金も足りない。やっぱりこういうことは国や地方公共団体が責任を持って取り組んでいただく必要があると思います。

 以前、内閣府で「ワンストップ支援センターの手引き」を作ったときに、「将来的には各都道府県に1つ」というふうに書いてありましたけれども、それを超えて、国連の基準である女性20万人当たりに一つはセンターを作る、それぐらいのことを国に責任を持ってやっていっていただきたいなと思っています。

 以上です。

飛鳥井: どうもありがとうございました。

 それでは、続きまして私の方から、被害者支援都民センターの取組についてお話をさせていただきます。

 【スライド1】簡単に自己紹介させていただきます。私も小西先生と同じ精神科医でありまして、研究所で20年ほどPTSDの研究をしてまいりました。そういう御縁がございまして、平成16年からこの都民センターの理事を務めさせていただいております。またその関係で、数年前からは東京都の犯罪被害者支援連絡会の会長も務めさせていただきまして、また、昨年度からは全国被害者支援ネットワークの理事のお仕事もさせていただいております。

 【スライド2】都民センターには、平成20年から東京都と共同しまして総合相談窓口というのが設置されました。都道府県レベルでは恐らくこの東京都だけの取組だと思うのですが、非常に行政にとっても民間団体にとっても相乗効果で、お互いとてもいい影響というか、ウィンウィンの関係を今維持しております。

 私もこの総合相談窓口の中で精神科コンサルテーションの仕事をさせていただいております。そういう総合相談窓口が設置されてから、いわゆる専門職の配置ということも進みまして、現在、被害相談員13名のうち臨床心理士が6名、それから社会福祉士も2名おります。活動は、他のセンターと同じように電話、メール等での相談、それから心理カウンセリング、直接的支援ですね、付添い等の支援、それから自助グループ支援や広報啓発活動を行っております。

 【スライド3】先ほど「いい効果があった」と言いましたけれども、やはり総合相談窓口を設置してから件数が倍増しております。それまで大体2,000件から3,000件ぐらいだったのが、今5,000件から6,000件ぐらいというふうに、件数が大分増えました。

 【スライド4】それで、実はその4割が性被害なのですね。一番多い。電話相談が1,800件、面接が534件、直接的支援が217件と、性被害が一番多いというのが今の実態でございます。

 【スライド5】支援センターの支援の流れ、これもほかのセンターと同じですけれども、まず相談を受けて、それから警察情報から受けた依頼もございます。それから、支援が開始されて、面接相談があり、直接的支援があり、その中で心理的支援が必要であれば、最初の段階から臨床心理士が一緒に相談に乗ったり、本当にもうオフィスが一緒ですので事例検討も一緒に行ったりとか。さらに、専門的な心理面接が必要な場合は臨床心理士が定期的に会う。それから、都民センターの特徴としまして、これから御紹介しますが、PTSDの専門的な心理療法も現在提供をしております。その過程ではいろいろな関係機関との連携を図っております。

 【スライド6】性被害でも、ここに挙げたようないろいろな連携先がございます。警察、弁護士、検察、それから職場の産業医ですとか学校のスクールカウンセラーの方ですとか、それから様々な行政機関、医療機関、産婦人科、精神科、いろいろなところと連携をしております。私自身も都民センターでの事例検討だけではなくて、最近、警視庁の犯罪被害者支援室にも定期的にお伺いして、被害者カウンセリングアドバイザーをしております。やはり警視庁の支援室がかなり早い段階から動きますので、そういったようなごく早期の事例ですとか、それからやはり警察でずっとケアをしていて、なかなかそこから都民センターには紹介しにくいような事例というのもありますので、そういったようなケースについて事例検討に参加をしたりします。それはまた、都民センターで見させていただくようなケースとはまたちょっと違った側面もあるので、私としても大変勉強になっております。

 それから、東京地検にも犯罪被害者支援室というのが立ち上がりまして、こちらとも人的な交流もございますし、それから今年は大野(前)検事総長が直々に都民センターに視察に来られた機会に、検察での被害者支援についていろいろ意見交換をさせていただきました。

 それを受けて、どうしても検察での事情聴取は、二次被害ゼロにはできないので、絶対二次被害は起きるのです。けれども、その影響をできるだけ緩和したいということで、トラウマケアですとか心理教育についても東京地検の方でも今後取り組んでいきたいということですので、早速、また年が明けましたら一緒に勉強していこうといった話が出ております。

 実際の事例についてもいろいろ情報交換をさせていただいております。したがいまして、いろいろな連携、総合相談窓口としての東京都と都民センター、それから警察、検察といったところの連携がなるべく途絶えないように、なるべく円滑な連携ができるようにといったことを心掛けております。

 【スライド7】さて、ちょっと別な話なのですが、今年の2月から3月に全国被害者支援ネットワークで調査団を組みまして、イギリスとドイツに調査派遣をいたしました。その中の訪問先の一つにスコットランドのグラスゴーにあります性暴力付託センター(SARC)、「アーチウェイ」という組織なのですが、そこを見学してまいりまして、いろいろ実情を見てきたという次第です。

 【スライド8】そこでいろいろと示唆的なことがあったのですが、イギリスには各地域にこのSARCがございますが、考え方が非常にはっきりしておりまして、まず、婦人科診察室を備えた国民健康サービス、これは全て無料でこのケアが受けられます。それから、警察との協力関係のもとにワンストップ機能。イギリスではワンストップショップといいますけれども、その機能を果たす。医師による法的な医学検査を行い、証拠採取を行う。これは警察に届けない場合でも証拠保管ができるというシステムをとっております。

 そのほか、緊急の医学的な処置ですね。また、看護師や相談員による被害相談等、初期の精神援助を提供する。つまり、婦人科的な医療と証拠採取と初期の精神援助、この3つを1か所で行うというのが、この性暴力付託センターの考え方でありまして、対象は、したがいまして証拠採取が可能な時期ということで、例えばアーチウェイの場合は事件後7日以内の被害者を対象としております。そして、更にそれ以上の援助が必要な、例えば法的支援サービスや専門的な心理ケアが必要という場合は、もうがっちり連携した機関がございますので、そこに紹介していくといったようなシステムを作っております。

 アーチウェイの担当者の人が強調していたのは、被害者がほっと息をつけるような、安心できる環境を整備すること。いわゆる警察署で最初に扱われると、なかなかそういう被害者に優しい環境ではありませんので、被害者がほっとできるような環境を提供することで、警察通報への抵抗感を軽減し、性犯罪の摘発率向上に寄与するということをうたっておられました。

 【スライド9】さて、私どもも、性被害の相談も多いのですけれども、いわゆるこういうワンストップ的な機能ではなく、その後の受皿となるという役割を果たしております。精神的支援につきましても、総合相談窓口として、都からの助成を受けて行っております。一歩踏み込んでPTSD、結局、先ほど小西先生のお話にもありましたけれども、やはり最終的には性被害者の苦悩というのはPTSDの問題が非常に大きいものですから、PTSDの専門的な認知行動療法、PE療法というものを活用しておりまして、これについては東京都の犯罪被害者等の支援推進計画にも東京都の取組として盛り込んでいただきました。今は人権部と都民センターの共同事業として行っております。

 対象は、殺人、強盗、暴行傷害、強姦、強制わいせつ、傷害致死傷、交通犯罪等、身体に重大な被害を受けた身体被害者で、都内に住所を有する人ですね。したがって、一般の相談よりはより犯罪性の高い事例の方を中心にしております。こういう方は精神科の医療機関にも余りかからないし、カウンセリングの機関にもかからないですね。しかし、実際に相談に来られた方はもうPTSDのウルトラハイリスク集団であります。もう大体精神的な苦痛を抱えておられる方は、ほとんどがPTSDの診断がつく方なのですね。

 【スライド10】それに対しましては、心理的な専門ケアを提供しておりまして、最初は心理アセスメントですとかトラウマの心理教育、あるいはリラクゼーションをして、それだけで実はすっと収まる方も少なくありません。それから更に、支持的なカウンセリングを行う方もおられます。ただし、それだけではなかなかPTSDレベルの症状が緩和しない方の場合は、成人の場合ですとPE療法というPTSDの認知行動療法を提供しております。それからお子さんの場合は、子供のトラウマにフォーカスした認知行動療法というものがございまして、大人の治療をちょっと子供向けにしたものですけれども、これを提供できるシステムを今作りつつあります。

 それから、御遺族の方にはPTSDプラス、悲嘆という喪失による精神的ないろいろな症状ですとか反応がございますので、それを加えた外傷性悲嘆治療プログラムというのを今提供しております。

 【スライド11】それで、大体の内訳、これは昨年度のケースなのですけれども、前の年からの継続のケースも合わせて、大体127名の方、面接件数の合計が719件なのですが、55%が性被害でした。それで、支持的な心理療法で終わる方が大体36%、これは御本人を対象にした場合ですね。何らかの認知行動療法プログラムを提供する方が25%ですから、大体支持的精神心理療法よりもちょっと少ないぐらいの方には、もう専門的な認知行動療法を提供しております。

 【スライド 12】こういったようなプログラムを導入しましてから、最初の連続50例の結果というのを、これは中間で集計をしたときのデータです。女性が96%、やはり性被害が72%と多数を占めておりました。精神科に通院して向精神薬を服用しているという方が大体半数ぐらいだったですね。中断率というのが50例のうち2例の方だけで、48例の方はプログラムを終了しております。完了した方は、全例症状スコアが改善をしております。それから、単に症状が良くなるというだけではなくて、被害後にやはり仕事に行けなくなった、あるいは学校に行けなくなったという方のうち、9割の方が復職、復学を果たしているということで、社会的な機能も取り戻すことができております。

 といったような非常に有望な結果を得ております。当初は果たしてどうかなと思って導入したのですが、今、都民センター全体で、こういうプログラムが全く違和感なく行われております。

 【スライド13】いわゆる最前線の被害者支援機関でこういう専門的な心理治療プログラムを導入する意義なのですけれども、最も有効性を期待できる心理療法を無料で提供させていただいております。それから、期間が限定的であるということと、PTSD症状の程度、治療動機の程度、生活条件、それから司法手続との兼ね合いですね。やはりその段階で非常にストレスとなるような時期については、少し治療の負担を減らすとか、あるいは公判開始までに少し時間がある場合には、その前までに治療を終えるとか、いろいろ非常に融通性を持って提供しております。

 また、一番大きいことは、この被害者支援と心理療法を同一機関で提供するということで、相談員と心理士が共同でできるわけですね。別の機関に行って、また最初からお話しして、そこで治療を受けて、そこでどういうことをやっているかを支援員も知らない。それから逆に、臨床心理士の方は被害者支援ということに余り詳しくありませんので、それが今どういう状況なのかということもよく分かっていないということがしばしば起こるのですけれども、そういうことがなくて、本当に同じオフィスで日々情報交換しながら支援と心理療法を提供しております。

 それによってもう一つ副産物というのは、臨床心理士以外の相談員の心理マインドというのがやっぱりどんどん向上していくということがありまして、それが臨床心理士以外の相談員であっても、また性被害者の相談を受けるときにとても役に立つのですね。ということで、組織全体の相談機能というものが向上するといったような、一つの副産物のような効果もございます。

 それから、PTSDを抱えたまま、たとえば10年前、15年前の強姦の被害者の方が相談に来て、それまでずっとPTSD症状を抱えて縮こまった生活をされているという方は決してまれではありません。要するに、最初はPTSD症状だけだったのが、どんどんそれで生活の歯車が狂っていって、二次的、三次的にいろんな雪だるま現象で生活の困難が増えていくということがよくあります。それをなるべく早い段階で症状が解決して健全な生活に回復をしていただくということで、このPTSDが遷延化した二次的影響がもたらす雪だるま現象と破綻を防ぐという意味では役に立っているかなというように考えています。

 【スライド14】ということで、都民センターは広報啓発活動を熱心に行っていますが、まず電話の1本、それからメールの1本をいただければ、そこから、その人に合わせたいろいろな支援を展開できるというところまで今実現しつつありますので、お近くの方、もしもお困りの方があれば是非御相談いただくようにお勧めしていただければと思います。

 どうもありがとうございました。

 それでは、それぞれのパネリストの方からの御発表を終えましたので、これから後半のディスカッションの時間に入りたいと思います。まず、ディスカッションでは、特に今回のテーマが性犯罪被害を潜在化させないためにどういうふうにしたらいいかということを御一緒に考える機会としたいと思います。

 まず、なぜ潜在化するという要因なのですが、これについてはパネリストの方からもいろいろ事前に御意見を伺いましたけれども、大体皆さん共通のことを挙げておられます。

 潜在化の要因については、内閣府の調査の結果というものがありまして、これはレイプの被害者の方で相談しなかった方に理由を聞いた調査ですね。そこで出てきた答えというのが、まず「恥ずかしくて誰にも言えなかったから」と、それから「自分さえ我慢すれば何とかこのままやっていけると思ったから」と、それから「そのことについて思い出したくなかったから」と、「自分にも悪いところ、落ち度があると思ったから」と、「相談しても無駄だと思ったから」と、これが大体トップ5の答えでありました。

 ここに現れているのは、性被害特有の羞恥心といいますか、恥ずかしいと思う感情ですね。それから、大きいのはやっぱり自分にも落ち度があったというような自責感。それから、先ほど来から出ておりますように、実態は7割ぐらいが顔見知りなのですね。全く知らない人というのはむしろ数が少なくて、実態は7割ぐらいは顔見知りということで、当然、自分が被害を訴えた場合にその後の関係性がどうなるかといったような懸念が出てまいります。また「逆恨みされるんじゃないか」といったような恐怖感もある。

 こういうような気持ちから、被害者の方はどう思うかというと、「もう忘れたい」、「なかったことにしよう」、あるいは、いわゆる否認の気持ちが働いたり、「これはもうしょうがない。自分1人で抱え込んで、あとは我慢していくしかしょうがない」といったような抱え込みの心理が働いたりするということも珍しくありません。

 それで、性被害者特有の心境として、これまでもお話のあった社会的偏見ですね。ソーシャルスティグマと言われますが、それから二次被害の恐れ。それをたとえ訴えたとしても、逆にいろいろな無理解から、かえって傷つくんではないかといったようなことで口を閉ざしてしまうという二次被害の恐れということが確かにある。今でも厳然としてありますし、レイプ神話というものがあります。

 ただ、このアンケートの調査の答えを見ますと、それ以上に、御自分自身のセルフスティグマというのですか、自分に対する偏見ですね。自分自身を恥じて責めるというような気持ち。こういうセルフスティグマがその援助希求行動の大きなブレーキとなっているといったような実態もまた見えてくるかと思いますので、そういう面もどうやって和らげていくかということが、今後の取組を考えていく上でも重要なポイントになるかと思います。

 そこで、その潜在化を防ぐための方策として、これからパネリストの方も交えて、いろいろディスカッションを進めていきたいと思いますが、まず、潜在化を防ぐためには届出しやすい環境作り、相談しやすい環境作りということが、当然そこが目指すべきことなのですが、まず届出しやすい環境作りということで、警察に届出しやすい環境作りに向けた取組としては、今後どんなことを考えられるか。先ほどお話にあったように、この5年、10年の間でも非常に取組としては改善しているということは確かなのですね。昔とは大きく違って、届け出ることでの負担の軽減ですとか、そのための例えば女性警察官の配置ですとか、それから遮蔽ですとかビデオリンクですとか、いろいろなことを、被害者の負担を考える取組がされておりますが、今後に向けて更にどういったようなことが考えられるかですね。また、届け出ることでのメリットをどう伝えたらいいのかということについて、これは警視庁の前田さんから、何かコメントがあればお願いします。

前田: 被害者が届け出しやすい取組ということで、一つ今実際にやっているのは、新聞、テレビなどの報道の在り方もすごく今、相当神経をすり減らして、いろいろと考えて公表しています。被害者の年齢や住所とか職業など公表せずに実施をしていると。報道を見て被害者が被害届の提出をしゅん巡することのないように指導しているところであります。

 そのほかにも、先ほどお話ししたとおり、男性警察官の意識の改革というところが結構大きいところじゃないかなと思っております。平成8年当時から女性警察官の聴取の仕方というのを随分指導してきたところではあるのですが、実はその平成26年からやっている男性警察官の意識の構造の在り方、聴取のやり方、気の配り方というのが、結果として被害者が被害届を出しやすい、警察が受理しやすい、受理できる一つの対策になるのかなと思っております。

 あとは、被害届が出ないというのは、おおむねは先ほど言ったとおり子供であったり、学校の先生と生徒の関係であったり、力関係、面識があるなどのところが大きいですから、特に学校の教育やあとスクールカウンセラーなどが、パトロールじゃないですけど、子供などと話をして、そこで被害が確認できたら警察に届け出るとか、そういった取組、警察との連携の仕方とか、そういったところは今後必要になってくるんじゃないかなと私自身は思っています。

飛鳥井: ありがとうございました。それから、被害者の方、もちろん御自分で声を上げて届けられる方もおりますけれども、実態はやはり迷っておられる。届けようか届けまいか迷っていたけど、届けた方がいいのかなと思ったけれども、その行動が取れないときに、その周囲の勧めで、やはり最初に友達に連絡して「やっぱり警察に届けた方がいいんじゃない」と言われて初めて届け出るといったような方の方が、数は多いかもしれません。

 そのときに、被害者がちゅうちょしながらも、やはり届け出ようかという気持ちになってもらうために、周囲がどういったようなことを考えたらいいのかということですね。ちゅうちょする気持ちに、まず共感的な理解を示し、しかし、同時に警察に届け出ることでのメリットをお話しし、そして最終的には本人の決断を尊重するといったようなプロセスがあるわけなのですが、そのプロセスの中で、それでも少し背中を押してあげるようなことはどんなふうにでき得るのかということ、これは望月さんと小西さんにお伺いしたいのですが、まず望月さんからお願いします。

望月: 私自身は余り届けることを積極的に勧めはしないというか、おつらいんだろうなということを考えると、私自身がなかなか背中を押せるタイプではないのであれなのですけれども、やっぱり被害者の方がすごく恥ずかしいと思ってしまうというのは、もともと性というのはオープンに語られるものではなくて、それは合意の上でのセックスであっても人には言わない。それがさらにそういう犯罪行為として行われたときに、より言えなくなってしまうというのはすごくもっともなことで。ただ、性的なことを恥ずかしいと思う、それは当たり前のことだけれども、性的な被害に遭ったことを恥ずかしいと思う必要はないと。心の中は、もちろんぐちゃぐちゃになっているわけですけれども、そこをきちんと区別して、被害に遭ったということ自体は全く恥ずかしいことじゃないんだよというところをサポートしてあげることは必要なんじゃないかなと思っています。

 あとは警察に行く。なかなか被害直後であればあるほど被害者の方というのはダメージを受けていて、相手に対して怒りとか処罰したいというふうな感情、積極的な感情が生まれるには少し時間がかかってしまう。なので、そういう気持ちになれないということを理解しつつ、事件の加害者が野放しになっている状態の怖さと、今警察に行って、そのことで得られる安心感というところで、背中を押すとすればそういうことになるのかなと思います。

飛鳥井: 小西先生はいかがですか。

小西: とても難しいことだと思うのですね。今、飛鳥井先生が一言で言われた、その人に「大変だね」というふうに共感して、共感するんだけど、「それはあなたのせいじゃないんだよ」と言って、そこまでで、もうとっても力が要るので、じゃお家の家族の人に、あるいはお友達に「そういうことをしなさい」と言うのもなかなか難しいよなというのが実状なんだと思うのですね。

 そうだとしたら逆に、そういうことができたり、あるいは警察でどういうことがあって、どういうメリットが被害者にあるのかというのが分からなければ、やみくもに「行きなさい」と言ったって当然行かないのが普通ですよね。どんなことがあるのかなということが分かったり、さっきお話しした具体的な知識ということですけれど、例えばそういう知識や、それからさっき飛鳥井先生が言われていました自責感ですね。被害者はみんな自責感があるんだけれども、それって症状なのですよね。

 トラウマ体験をした人は、本当にほぼ100%、自分が全然悪くなくても、お父さんに性的な暴行をされた娘でさえ、「自分が悪い」と思うんですね。だから、そうだとしたら、そういうことは「そうじゃないよ」ということが言える知識なんかを、本人はとても得る力がないから、周りの人が得てあげて、伝える。

 例えば、なかなか警察って大変なところではあるわけですね。行くと、確かに早く行けばすごくいろんな証拠が取れるというのもあるけれども、本人にとっては急性期に、例えばかなり長い時間、短くても数時間、長ければもっともっと警察にいないといけないみたいなことが実際にあるわけだけど、でも、それでも「そうするとすごくいいことが、犯人が捕まったり、それからちゃんと処罰できたり、そういうことがあるんだよ」ということをやっぱり誰か、少し身近で信頼できる人が伝えてもらうと違うのかな。

 本人に役に立つような選択ができるということを目指すのだったらば、行く前に「ああ、私は駄目だ。こんなことはできない」となってしまう前に、周囲の人がそういうことを全部知れというのはちょっと私は無理な気がするので、そういう情報を周囲の人が集めてあげるのがいいのじゃないかなと。ちょっと間接的なんですけど、そういうふうに思います。

飛鳥井: 今、望月さんが言われたんですけど、実際の被害者の方は加害者を処罰したいから届け出るという人は、本当に直後の時期というのはほとんどいないんですよね。「そのことはもういいです」と言って、本当に身の安全が脅かされたときは、とにかく警察に守ってほしいということで行って、次の理由は、ほかに被害者を出したくないからというようなことですね。自分が届け出ることで次の被害者を防ぐことができるという、人のことを守りたいと思って届け出ることがあります。処罰感情が出てくるのは、確かにもうちょっと落ち着いてからであって、ただ、そうなったときに、実は「もう証拠がありません」となると、事件としては非常に複雑なものになってしまうということがあるので。

 先ほど海外の例でもお話ししましたけれども、やはり迷っているときから証拠をいかに確保するかということ、これが日本でも今後、何かそういうシステムというのは考えていかなければいけないかなと思うんですね。後になって「やっぱり届け出たい」という方が出たときに、その手立てというものが非常に乏しくなってくるということがあります。つまり、事件化することの手立てがですね。

 ということで、それからせっかくの機会ですので、警察の取組への注文ということではいかがでしょうか。望月さん、いかがでしょうか。今後の警察の取組については何か。

望月: 警察の取組ですか。よくやってくださっているところはあるとは思うんですけれども、やっぱりまだまだ現場の警察官の方が冷たかったりするところがあって、私は、3年くらい前だったかな、友人からの被害に遭った20代の女性の被害届を出しに行ったときに、やっぱり「友達を加害者に、犯人にしちゃっていいの」ということを、私が一緒にいてさえ、被害者の方にそういうことを現場の警察官から言われました。せっかく勇気を出して警察に行った被害者を、はなから「友達を加害者にするようなことをするべきではないでしょう」みたいなことを押し付けられたら、被害者は本当にそこで潰れちゃうというか、もう駄目になっちゃう。本当に、それこそ自分の方が悪いんじゃないか、自分が加害者を作り出しているんじゃないかぐらいの意識を持ってしまうので、まだまだもちろん数が多いので、いろいろ現場の方は大変だと思うんですけれども、そういう教育をしてほしいと思います。

 ただ、やっぱり警察官の仕事というのは、加害者を捕まえて有罪にする、それが主な仕事ですから、被害者のところまでなかなか心を配るのが大変だということであれば、それは逆に、そういう方の専門家、支援員や相談員が捜査に立ち会う、取調べに立ち会うというようなことを認めていってくれれば、もう少し和らぐのではないかと思っています。

飛鳥井: ありがとうございました。そのことも含めて、先ほど前田さんからお話にあった男性警察官の意識改革ということが、昨年度から始まったということで、この5年間でどれだけ意識改革ができるかということが重要なポイントになるかと思います。

 では、ちょっと時間が押してきましたので、次のテーマとして、届出しやすい環境作りと同時に大事なのが、相談しやすい環境作りですね。届け出るか届け出ないかを別として、まず相談できるような環境作りをするということ。ここでの課題がいろいろありまして、各相談機関、警察にも相談窓口があります。それから被害者支援センターもありますしワンストップセンターもあり、女性の相談センターもありといったような、いろいろな相談機関の情報を周知徹底してアクセスしやすくするといったような課題もございますし、それから相談することのメリットをどのように伝えていくかといったようなことも課題でありますが、この点につきまして、相談しやすい環境作りということについて、では小西さんお願いします。

小西: そうですね。先ほどの発表の中でもお話ししましたけれど、今の私の率直な印象は、警察もそうですが、警察だけじゃなく自分が所属している医療とか、あるいは支援の相談全てにわたって、すごく一生懸命やっていて成果を上げている機関もあれば、もう旧態依然な、それぞれの教育としてはみんなやっているんでしょうけど、それでも二次被害を与えちゃいそうな人たちもやっぱりいるというのが現状ですね。

 当然そうだとすれば、政策的にはそういうところに教育を入れていくということなんだけど、それだけではなかなか良くならないということもあると思うんですね。そういう意味では様々な相談を上手に使う。何かリテラシーと言えばいいのかもしれないけれども、そういう力をみんなが常識的に持つといいますか、そういう方向にちょっといかないと、例えば警察官の中に1人でも、まあ今1人じゃないと思うけど、旧態依然の人がいたら、たくさんの人が努力されてもやっぱりうまくいかないと思うんですよね。そういうふうに考えると、上手に見つけていくための情報とかそういうものがとても大事になる。

 なかなか難しいです。例えばネットって何でも書けるから、皆さん多分ネットでいろんな、クリニックなんかの情報を見ても、どこがいいか、きっとお分かりにならないと思うんですよね。そうだとしたら、そうじゃない人づての情報をちゃんと伝えていくという力がやっぱり必要なのかなと思います。

飛鳥井: 望月さん、いかがですか。この相談しやすい環境作り。

望月: そういう被害に遭ったときに、警察に相談するということは誰でも思い浮かぶと思うんですけれども、それ以外に今せっかく全国にワンストップ支援センターができていたり、ちょっと私がやっている相談機関とかがあっても、そういうことがよく知られていないと、どこに相談したらいいかが分からないというのが、なかなかアクセスできない原因だと思うんです。

 今、被害に遭うまでは、被害に遭ったらどうしようなんていうことを考えている人はほとんどいないわけで、さっきちょっと性犯罪の件数を申し上げましたけれども、実は性犯罪というのはこんなにたくさんあるんだということで、いつ被害に遭うか分からない、実はそういう環境に我々はいるのだと。じゃ、被害に遭ったらここに相談しましょう、もし警察のハードルが高ければ民間の支援する機関もありますよと、そういうことを教育、さっき被害者の年齢が若いというのがありましたが、これは中学、高校ぐらいからそういうことを知識としてみんなが共有して、被害に遭ったら相談できるんだ、相談していいんだ、ここに相談すればいいんだというような環境を社会全体で作っていくことが必要じゃないかと思っています。

飛鳥井: 前田さんもいかがでしょうか。警察に届けるという以外に、警察でも届けなくても相談を熱心にされていますので、特にこれからの5年間を見据えて、相談しやすい環境作りという意味では、どういうところが一番ポイントになるというふうにお考えですか。

前田: この5年間で相当、意識は変わりました。それはなぜかというと、被害者側の意識です。相当な教育によって被害者が被害届を出しに来てくれる数が相当増えました。実際、自分たちがやって、被害届が埋もれていたというのは、私の中にはほぼ少ないかなと。その中でも被害届を出さないというか、出ていない、出せなかった事案というのは、先ほど話したとおり、被害者と被疑者の中に強い関係性があって、もう一つは小学生の幼児とか児童で、恥ずかしくて実は言えなかったり、いわゆるいじめとか虐待とすごく似ているところがあるような気がします。もう一つは、被害者自身がお酒を飲んでいたりして、意識がなくて、被害に遭ったかどうか分からない。この三つが被害届を出さないというか、出ていない事案が多いのかなと思います。

 そうした中で、当時と比べると本当にこういうような啓発活動があったおかげで、警察としては、一番最後、被害者の被害を受け止めて、それを、被疑者を捕まえてやる最後のとりでだというふうにうちの方は受け止めています。また、それを現場の警察官に指導をしているのも、やはり捜査一課の役割だというふうに認識しています。この5年間で大幅に変わりました。

 ただ、警察の中には、先ほどおっしゃったとおり、全てがそうかというと、それはどんな仕事であろうとも、どんな学生であろうとも、先ほどの新聞で出た学生であっても、全てがそれは100正しくいくかというと、それはなかなか難しいところであると思います。しかしながら、教育等によって今後というか、この5年間で、自分が見ている限りでは相当変わったし、現場の警察官の意識も相当変わりました。

 今後更にそれを高めていくんであれば、やはりそういった教育とか教養とか学校とかを含めて、うちら警察もそうなんですけども、さらに通報するメリットとかというのを出していくしかないのかなと思っています。

 警察へ通報してくるのは、やっぱり自分の通勤経路や自宅での被害というのは、もう一度狙われる可能性が高いですから、通報をしていただくことが多いですし、警察としても被害者のためにやってやるというふうな気持ちでいます。さらにまた教養の方をしていきたいと思います。

飛鳥井: 先ほども広報啓発、それから教育の役割が非常に重要だというようなお話がありました。また、その広報啓発の際には、やはり当事者の方の発信力というのは非常に大きいですし、これまでも実際、性犯罪被害当事者の方が、いかに性犯罪というものは深刻なものかということについて、勇気をもって声を出してくれて、それが大きな社会的な啓発につながったと思います。ただ、相談することのメリットを伝えていく、そこから援助希求行動を更に育てていくためには、相談支援を受けて良かったといったような体験をもっともっと発信していただけるといいなと、そういう機会を今後の取組に取り入れていただいて、いかに深刻かということと同時に、そういう深刻な事態であっても相談をして支援を受けることで、このようにまた自分の人生を取り戻すことができたといったような形の発信をしていただいて、それを国民全体が知ることができれば、それじゃどこかに相談するように少し背中を押してあげようかな、あるいは自分自身もどこかに相談してみようかなといったような気持ちがより強まるのではないかということが期待できるかと思うのですね。

 先ほど小西先生がリテラシーという言葉を言われましたけれども、この性的なトラウマについてどういったような精神的な困難があり、それがまた回復するためにはどういったようなプロセスがあるのかといった、全体の知識ですね。それについてのリテラシーというものをいかに広めていくかということなんですが、小西先生からもう一言、相談しやすい環境作り、これからの5年ということを見たときにポイントとなることを1つでも2つでも何か御意見をいただければと思います。

小西: 今、ちょっと突然聞かれて、これからの5年のポイントは言いにくいんですけど、一つやっぱりちょっと明るいお話で、本気で自分で思っていることを言うとしたら、性犯罪被害は良くなります。飛鳥井先生が言われた認知行動療法の話がありましたけれど、そういう点ではとても具合が悪くなるけど、ちゃんと支援すればすごくよくなる。精神科をずっと臨床でやってきて、その中ではとても支援のしがいのある被害なんです。そういうイメージも多分一般の方には伝わってないですよね。それは伝わっていってもいいことかなって。そういうふうに良くなることもあるので。

 ただ、余り大声で言えないのは、今のところ、まずそういうことを支援できる人がすごく少なかったり、あるいはそういうところまで持っていけるような社会的な支援や弁護士さんの支援や、警察の支援というのが、どこかではできているところがある。さっきの都民センターのお話もすばらしいですよね。でも、どこかではできていても、全国ではできてないので、やはりそういうものを広げていくというのがここから5年の間に必要なのかな。確かに良くなるんだよというイメージを持たずに、「こんなにひどいんです」ということだけ言っているのは、少しいけないことかなと、今の飛鳥井先生の話を聞いて思いました。

飛鳥井: 大変いい御指摘、ありがとうございました。確かに暗いイメージしかなくて、支援の情報を伝えるというのは、伝える方も非常につらいんですよね。やっぱりそうやって支援を受けることによってちゃんと回復していけるんだというイメージを、支援者の側も持っていないとやはり本当にきちんとしたメッセージが伝えられないといったようなことがあるかと思います。

 それでは、残り時間が少なくなってきました。もう一つの最後のテーマ、多機関連携の在り方ですね。先ほど来、まず直接的には警察の役割があります。それから産婦人科や精神科での医療の役割がある。それから、相談機関の役割があって、一時的なケアを行うところから、さらに心理的な支援、法的な支援、生活支援と、二次的な支援に広げていく、そこをつないでいかなければいけない、そういう機関連携が必要なんですが、この多機関連携の在り方について、ちょっと時間も押していますので、お1人一言ずつ、御自分が考えるポイントというものをお話ししていただければと思います。それでは、前田さんから。

前田: 一言だけです。警察もストーカー、DVと私は異動してきたのですけども、昔よりも家庭内のトラブルにまで事件捜査をするように、大分変わってきました。

 今後は、やはり先ほども話をしたとおり、最近よくあるいじめとかの問題もありますけど、多機関で言うなら児童相談所、あと学校のスクールカウンセラーですか、そういった教育の現場と更に連携を深めて、情報の共有化を図っていく必要はあるのかなと思います。あと、被害者支援という面でいけば、実際、捜査一課の女性捜査員も、被害者参加制度で、被害者側に弁護士さんを付けて戦っていくというのをやっていますので、更にそこを強くして、より被害者のニーズに沿った支援ができるようにしていくのがベターなのかなと思います。

望月: 厳密な意味でのワンストップ支援センター、そこにさえ行けばというのがなかなか難しい以上、やっぱりいろいろな関係機関が連携していくというのは非常に重要なことだと思っています。

 ただ、やっぱり本当に性暴力被害者の支援をできるかと言うと、何かまるで私が自分はできると言っているみたいで、あれなのですけど、そうじゃなくて、ちゃんと支援ができるような人材を育成するということが、これからすごく大切になると思います。それはお医者さんもそうだし、弁護士もそうですし、そういう方、本当にきちんとした知識やノウハウと、あとマインドを持った人、そういう人たちがきちんとつながって、ばらばらに支援をするのではなくて、チームを作って支援をするというようなことがこれからできていくようになればいいと思います。

 先ほどおっしゃっていた「被害者もまた幸せになってほしい」というところが、私は本当に性暴力の被害者の支援をしているときには、「絶対この人にまた笑顔を取り戻してほしい。幸せになってほしい」という強い思いを持ってやっているのですけども、そういうチームを組んだ支援者がみんなでそういうふうにやっていけば、また被害者は、回復と言っていいのかな、できるんじゃないかなと。なので、私たちとしては性暴力被害というのはものすごく甚大な影響を与えて、人の一生を変えてしまうんだよ、自殺しちゃう場合もあるんだよというメッセージを、それを社会とか加害者に対しては発信しているわけですけれども、一方で被害者に対しては、「その被害によってあなたの人生がめちゃくちゃになるわけじゃないんだよ。あなたはまたあなたの人生を取り戻してやっていけるんだよ」ということを、そういう願いを持ってチームで連携していけたらなと思っています。

小西: 私は、SARC東京と連携を持ってやるようになってからとても楽になりました。いろんなことを共同してやれるからですね。この連携に関して私が言いたいことは、一つだけです。毎年1回定期の会議を開いても、ちっとも人は連携できません。実際のケースをお互いに話し合うと初めて連携することができるので、そういう試みをやっぱりやらなくてはいけないし、そういうところにお金を使っていってほしいと思っています。

飛鳥井: 大変重要な御指摘、それぞれの方からいただきました。最後に、今小西先生が言われたことは私も全く同感でありまして、「多機関連携を強めましょう」と言うと、「じゃあ会議を持ちましょう」ということになるのですが、実際はやはり人と人とのつながりの中で連携が育っていく。

 私の体験した例ですと、ある深刻な性犯罪被害の例で、警視庁の女性警察官の方が関わったのですが、やっぱりもう一つぴんとこない。何でこの人がこんなに苦しんでいるのかということ、一生懸命やっているのですが、もう一つぴんとこないという感じがあったのですね。同じ女性であっても。何でこんなふうに、この人はこんな状態になっているのかと。

 しかし、それで都民センターと一緒に支援をして、ずっとこの都民センターの支援のプロセスを一緒に見ていくと、確かに被害者の方が変わると同時に、その警察官の方が変わるのですね。その後また大分たってから、今度はその警察官の方が非常に心理的な苦痛を訴えた被害者の方に、「すぐ都民センターで心理的な援助を受けた方がいいでしょう」と勧めてくれたといったようなことがあって、実際の被害者の方を中心にして連携をしていくことによって、その支援者の意識も変わっていくんだなと。これは単に座学で勉強したりとか集まって単に定例会議を開くということだけでは、なかなかそこまではいかないということ。ただ、そういったようなことは、非常に時間がかかりますので、本当に一つ一つ、そういう積み重ねを国全体でやっていく、それぞれの機関同士でそういう積み重ねをしていくということがとても大事なんだろうなということ、まさに同じような気持ちでおります。

 今日は、残された時間はわずかになりましたけれども、長時間にわたって3人のパネリストの方、ありがとうございました。前回、6年前のパネルのときは、いかに性被害というものが深刻なものか、これは取組をしていかなければならないといったようなことを発信できたと思いますが、今日はそれから更に進んで、この5年間、そうは言ってもいろいろ足りないところはありますけれども、警察でも、それからいろいろな相談機関でも、いろいろな取組ということは着実に進歩しているんだと思います。一歩一歩進歩しておりますし、これは第3次基本計画で更に、これもまた一歩一歩ですけれども、進歩していけるかと思います。

 それから、望月弁護士の方から、とてもいい言葉がございました。いかに性犯罪被害が苦しいかといったようなメッセージから、第3次基本計画ではもう一度その人の人生を取り戻してもらえるんだと、そういうことが可能なんだといったようなメッセージも伝えて、そのために支援というものがありますし、「こういうことが提供できるんですよ」ということを発信していけるような、そういったような、またこの次の5年間であればと思います。

 長時間にわたるパネルとなりましたけれども、またこのようなパネルが更に5年後、このイベントで開かれて、本当に今言ったようなことが実現できたかどうかということをまた議論できるような機会があればと思います。パネリストの方、どうもありがとうございました。最後にもう一度拍手をお願いいたします。

    警察庁 National Police Agency〒100-8974 東京都千代田区霞が関2丁目1番2号
    電話番号 03-3581-0141(代表)