中央イベント:基調講演

「性犯罪被害の実態と被害者への支援」

小西 聖子 (武蔵野大学人間科学部長・心理臨床センター長)

 よろしくお願いします。ただいま御紹介にあずかりました小西でございます。この犯罪被害者週間の中でお話をさせていただく機会を持ちまして、大変うれしく思っております。

 【スライド1】今日は、「性犯罪被害の実態と被害者への支援」という題を付けましたけれども、基本的には4つのお題をいただいています。一つは被害の実情、それから性犯罪被害がどのように精神に、あるいは身体に、社会的な適応に影響を及ぼすかということ。それから、性犯罪被害者への支援の問題。さらに、自分のそばにそういう人がいたらどうしたらいいかという実際的な問題ですね。ちょっと盛りだくさんなので、1時間でどの程度お話しできるか分かりませんけれども、それらのことについてお話ししたいと思います。

 ここにいらっしゃる皆様はいろいろな方がいらっしゃると思うのですけれども、ずっと一緒に被害者支援に携わってきてくださっている方もいらっしゃいますし、もしかしたらこの問題は余り今までは知らなかったという方もいらっしゃるのかもしれません。皆さんにお話しするということはなかなか難しいところもありますけれども、なるべく分かりやすくお話ししたいと思っております。

 【スライド2】まずは、性犯罪被害の実情です。先ほど潜在化というお話がありましたが、一体性犯罪というのはどれくらい警察に届けられているのか。あるいは、性暴力はどれくらいの人が経験しているのか。性犯罪という言葉と性暴力という言葉を使いましたけれども、性暴力の方がより広い概念で、性犯罪は犯罪に値するような性的な行為と、ここでは仮にそのくらいに思っていてください。

 【スライド3】まずは警察に今どれくらい届けられているのだろうか。これは、むしろ警察の方がたくさんいらっしゃいますから、その方が専門でしょうけれども、ちょっと私の方でまとめてお話しさせていただきます。これは平成27年版の犯罪白書のデータの一部を取ってきたものです。強姦の認知件数と検挙件数です。認知件数は、平成15年ぐらいを頂点として少し落ち気味だったのが、また今のところ変わっています。でも、平成元年よりもっとずっと前から、大体1,000件から1,500件ぐらいのところにあったことは変わりがないと思います。検挙の件数になりますと、たくさん認知件数があった時代も実は余り変わらず、一定の割合でここまで来ている。そういう点では、ちょうどなのですけれども、犯罪白書上で見ますと、殺人の件数と比較的よく似た値になっています。そちらも大体1,000件ぐらい。今年たしか1,000件を割ったと思いますけれども、それくらいの値です。

 そうしたら、日本で1年に1,000件ぐらい起こるのかなということになりますが、実は性暴力の被害ということで調査してみますと、それとはかなり違う実情が浮かび上がります。

 【スライド4】こちらは内閣府の男女共同参画局が定期的に、大体3年に1回ずっとこういう調査をしているのですけれども、そこで見ますと、この3年に1回の調査ももう数回になると思いますが、ほぼ変わらず成人女性の約15人に1人は、一度は異性から無理やりに性交された経験がある。被害を受けた女性の約7割の人はどこにも相談していない。あとの3割は警察に行くのかというと、そうではないですね。警察へ行く人は、相談も含めて大体数%ぐらいです。私はふだんは医療や心理の臨床のところにいるのですけれど、医療関係に相談する人なんて0.何%ぐらいです。本当に誰にも、家族にも友人にも言われない人が7割いるわけですね。

 この15人に1人の人が、一生に1回は被害に遭ったことがあるというのと、性犯罪の強姦として1年のうちに何ケースあるかということをなかなか直接比べることは難しいのですけれども、日本のこういう被害がどれくらい通報されているかということを調べた調査を見ますと、大体数%から10数%の間にあると言えると思います。極めて乱暴に言えば、大体10人に1人ぐらいしか届けてないよというのが今の実情だと言えます。

 では、他の国はどうなのかということなのですけれども、今、アメリカの通報率は大体20数%ぐらいです。そういう点では、性犯罪というのは本当にやはり、そもそも犯罪として届けにくいものである。さらに日本の場合、まだ届けにくい要素がほかにもあるというふうに考えられるかと思います。

 【スライド5】たまたまこの27年版犯罪白書というのが性犯罪の特集をしておりまして、いろいろなことが分かる調査でしたので、そこのデータから表を作成したり、これは大体データどおりの表なのですけれども、一部を切ってきました。これはなかなか興味深いグラフです。強姦検挙件数の被害者と被疑者の関係別構成比の推移。要するに、被害者と被疑者、加害者の間に面識があるか、身近な人も含めて知っている人かどうか。親族は別にあります。親族か、面識ありか、面識なしかというのを年度別に追ったものです。これは認知件数とは違って、明らかに変化しています。平成7年には、面識ありは20%。80%弱が面識なし。親族はもう見えないぐらいの値しかなかったものが、この約20年で、面識ありと面識なしがほぼ同じ、親族も見える程度のグラフになってきています。

 実は、先ほどの被害を受けた人の調査の中では、ほぼ一貫して3分の2から4分の3ぐらいが、面識のある人、あるいは親族からの被害です。そういうことを考えますと、むしろそういう被害の実態に近づきつつある。これはなかなか興味深い変化だと、このグラフを見て私は思いました。

 【スライド6】さらに、このデータもなかなか出てこないデータなのですが、これは白書のデータからちょっと私が作り直したものです。数字を見て作り直しましたが、性犯罪というと女性のことばかり考えられますけれども、今の日本の刑法上でいいますと、男性は強姦の被害というのは法的にありませんから、全部男性の性犯罪の被害は強制わいせつに入っています。女性の強制わいせつの被害、男性の強制わいせつの被害、それから女性の強姦被害の被害者のそれぞれの年代別のグラフを取ってみたものです。

 これを見ていただきますと、実は女性と男性の被害の件数は桁が、100倍とは言いませんけれども、2桁実際には違うのですが、男性は3桁、100人台です。女性はもう1万に近いような数なのですけれども、そうしますと、見ていただくと、男性の強制わいせつの被害者の年齢構成比は、6~12歳、13~19歳、20~24歳、このようになっています。女性の強制わいせつは、0~5歳、6~12歳が一番多くて、若い方に偏っています。13~19歳で、女性被害者で強制わいせつの被害者は未成年でほとんどを占めていると言っていいくらいです。

 一方、強姦の方は、むしろ男性の強制わいせつと同じような年齢の構成を示しています。多分子供に対する性被害が、強姦ではなくて強制わいせつでとられているというようなことも影響しているのかもしれませんけれども、もし刑法が改正されて、男性の強姦被害というものが考えられるようになると、またこの構成も変わってくるかもしれません。でも、これで見る限り、何といっても性犯罪の被害者は若い人が多いです。それはどこでも変わらない事実だと思います。

 余り変わらないように見える警察の認知の件数の中にも、内実を見ると結構変化しているものがありますし、一方でもっと変化してもいいように思える被害者全体の通報率、例えば誰かに相談しましたかというような値は、今のところまだ余り大きな変化はありません。それは社会全体が変わってこないといけないのかもしれないなと思います。むしろ警察に関わるデータは、少し警察の方針が変われば、犯罪白書に載ってくるものは変わってくるのかもしれませんし、政策の反映が早いのかもしれないと思っています。

 【スライド7】とても簡単に行きますけれども、では性犯罪被害が心身に与える影響にはどのようなものがあるか。一言で言うと、このブロックの答えは長期にわたる深刻な影響がある、これに尽きます。

 【スライド8】これはWHOが2012年に出しています性暴力被害の影響ということについて4つに分けて書いてあるものですけれども、様々な被害がありますね。一つはリプロダクティブ・ヘルス、性と生殖に関する健康の問題。例えば、意図しない妊娠とか、エイズを含む性感染症なんかもここに入ってきます。

 それから、皆様よく御存じだと思いますが、精神健康の問題もあります。行動上の影響、例えばリスクの高い行動。無防備な性行為とか、若年期の合意に基づく性的関係とか、被害ではなくて犯罪です。次なる性暴力被害とか、加害の高いリスク、こういうものも出てきます。ここのところがちょっと意外なところかもしれませんけれども、実は犯罪被害そのもの、とりわけ青少年の被害というものは、被害者の非常にリスクの高い行動と関連があることが分かっています。例えばいろいろな性産業に若年で関わってしまうような人たち、そういうところには被害経験のある人がたくさんいることが分かっていますし、それから矯正施設にいるような若年の女の子たちの中には、性被害の経験は非常に高い。これも各国共通で分かっていることです。

 そういう点では、性犯罪の被害というのは、今度は逆に加害の方にも、特に男性の被害者の場合は、今度は加害の方のリスクを高めるというふうにも様々な研究は示しておりまして、こういう行動上の影響もたくさんあります。さらに、実際に命に関わるような問題もその中で起きてきまして、自殺とか危険な妊娠中絶とか、レイプによって生まれた子供の殺害なども報告されています。

 強姦による妊娠というのは、思っていたより多い。思っていたよりって、どういうふうに思っていたんだと言われそうですけれど、私は今、東京のレイプワンストップセンターと連携して精神科の臨床をしていますが、そういうところで見ますと、性被害の後、妊娠をしてしまっているのだけれども、それにうまく対応できていないケースというのがそんなに少なくないことがよく分かりました。そういう点では、本当に様々な人の命に関わっていく問題があるということも言えます。

 【スライド9】もう少し狭義の犯罪被害という点から見たものが、この調査です。これで見ていただきますと、これは内閣府でずっと犯罪被害類型別の継続調査というのをなさっていまして、それの2015年の結果ですけれども、そんなに毎年変わりません。これはインターネットでやっている調査なのですね。その中で1,300人の被害者中、500人が回答されていまして、この調査の新しいところは、そういう被害のない対象群というのもある程度の数を集めて取っているところですけれども、このK6というのは不安とうつに関しての非常に簡単な検査だと思っていただくといいと思います。そうしますと、性犯罪の被害を受けた方がやはり一番点数が高くて、次が殺人。殺人ということは、殺人の遺族の方です。それから、暴力事件の被害の方が高いということが分かります。対象群に比べますと犯罪被害者はみんな高いですね。

 実際に被害者の臨床という形でやっていても、臨床的に一番大変だなと思うのは、殺人事件の遺族の方と性犯罪の被害者の方です。PTSDなどが起きている確率もとても高くて、そういう私の実感とこの調査は大変合っているものです。これはメンタルヘルスに与える影響ですね。

 【スライド10】ちょっと古いデータなのですけれども、アメリカで取られて、どこにでも引かれているPTSDの疫学研究のデータを少し持ってきましたので、見てください。これは全米で8,000人を無作為抽出しまして、女性半分、男性半分ですけれども、それで様々な症状について聞いているうちのPTSDに関するところを持ってきたものです。米国の女性の中では、この濃い色の方が、どれくらいの人が一生のうちにそういう被害体験をしたか、トラウマ体験をしたかということです。この薄い色の方は、このトラウマ体験をした濃い緑色の人のうちの何%の人が関連するPTSDを持っていたかということです。これで見ていただきますと、レイプの被害者が約9.2%ですから、10人に1人弱ということになります。この値も、アメリカでもいろんな調査によって15%のものもありますし、もうちょっと低いものもありますし、いろいろですが、この調査は非常によく引かれている調査です。

 それから、例えば自然災害、例えば東日本大震災で津波に遭った、津波で命を落としそうになったというのは大きなトラウマ体験ですけれども、そういうトラウマ体験をした人のうちのPTSDになる人は5.4%です。だから、こちらは結構体験する人は多いんだけれども、PTSDになる人は比較的少ないのです。

 そうすると、二つの割合を掛け合わせたものが実際のPTSDの人の数を示しているというのはお分かりだと思いますが、では、今度は違う視点で、アメリカ人女性の中でどういうトラウマ体験でPTSDになる人が多いかと考えると、レイプの被害者が一番多いことが分かっています。

 【スライド11】もう一つ見ていただきたいのは、こちらは男性の場合です。男性の被害者の場合には、これを見てください。アメリカは法律の定義が違うので、男性が例えばアナルセックスとかオーラルセックスの被害に遭っても、レイプの中に入ってきます。そうしますと、ここでは0.7%しか出ていません。4,000人の0.7%というと、オーダーがかなり低いです。30人弱ぐらいということになります。その人たち、レイプの体験をした人の中のPTSDの率は何と65%で、女性より高いぐらいです。ちょっとデータが小さいので、値の妥当性については勘案しなくてはいけないかもしれませんけれども、女性の45.9%より高いですね。

 このデータだけではなく、男性の性暴力被害を受けた人たちのPTSDの率は女性より高いというデータは複数あります。性犯罪のことを考えるなら、女性だけでなく男性のことも考えないといけないということは、こういうところからも見えてきます。言えないのは女性だけでなく、むしろ男性はもっと言えないということがあらわれていると思います。

 それから、さっき女性になかった戦闘体験、アメリカは戦争をずっとやっている国ですから、戦闘体験者が、今ですともう朝鮮戦争の人はいないかもしれませんけれども、ベトナム戦争からイラクやアフガニスタンで戦っている人までずっとみんないるわけです。6.4%の人がアメリカ人の男性の中で戦闘体験を持ったことがあって、その中の38.8%、これは1990年に調査されたデータですからもっとベトナム戦争なんかが多い時代かもしれません。これも結構PTSDになりやすいもので、アメリカ人の男性の中でPTSDになった人のうち、どういうトラウマ体験が一番多いかと考えると、男性の場合は戦闘体験です。

 それは何か納得がいくような気がするのですが、日本ではどうなるのかなと考えみると、少なくともPTSDの発生とか治療に関する限り、文化差は余りないのです。例えば、アメリカで有効だった治療というのは日本でも有効です。症状もアメリカと日本で変わるわけではありません。そういうことを考えてみると、この戦闘体験をした人がゼロに近い状態である日本の中では、男性もその他の暴力の被害というのがPTSDの原因になるけれども、PTSDという観点から見ると、女性のPTSDの方がかなり多いと考えられるのかなと思われます。

 【スライド12】次は、実際に自分がやっていることでお示ししようかなと思って、まだ未熟なデータなのですけれども、持ってきました。これは学会で発表したもので、一緒にやっている淺野さんが出しているデータですけれども、私は今、東京都のワンストップセンターと連携して、その中で具合が悪い方、精神科に来た方がいいなと思う人に、支援員さんに同行してもらって、産婦人科と同じ病院の中で精神科を見るという試みをしています。大学もあるので週に1回しかできないので、そんなに大きいデータではないのですけれども、実際に始めましてから約3年ちょっとです。

 その間に、紹介により初診となった患者さんのうち、同意が得られた人のデータですけれども、性暴力被害を受けた方は30名で、受診された方の平均年齢が27歳です。未成年が16.7%で、小学生も中学生もいましたし、高校生となるとかなりたくさんいます。全体にすごく若い患者層といいますか、ふだんやっている臨床よりはずっと若い人たちを相手にすることになります。精神科既往歴ありの方が56%、いろんな既往歴がある人が結構あります。もともと精神科の既往がある方は、被害に遭った後もいろんな症状が出やすいし、打撃に弱いですね。ですから、こういう方が比較的多い。被害後3か月以内に来ている人が過半数で、これはもう本当に特筆すべきことです。

 以前、とにかく精神科に来た性暴力の被害者で調査に応じてくださる人に調査をとったことが2001年ぐらいにあったのです。その時は、この被害後の平均値が約6年から7年でした。ものすごくたってからでしか人は来てくれなかったのですけれども、今は被害後3か月以内の人が過半数で来られます。レイプの被害がやはり過半数。被害時にアルコール摂取があった人が3分の1。いろんなアルコール摂取がありますね。強制的に飲まされて被害に遭ったという人もいれば、一緒に飲みに行って、その時にたくさん飲まされているうちに被害に遭ったみたいな人もいるし、それから仕事でアルコールを摂取していたというような人もいます。

 過去の性被害歴も約3分の1、これは結構多いと思われると思いますけれども、先ほどお示ししたように、1回被害に遭うと、人はその次に被害に遭いやすくなります。1回被害に遭うと、とても大きなダメージが来ます。自己評価も下がるし、無気力になるし、自分に価値があると思えなければ、当然人は自分を守るという気持ちにはならないですよね。様々な状況が悪くなって、ちょっと今はそのことを詳しくお話しできないのですけれども、再被害率というのはかなり高い。それは当然だろうなと思っています。

 ワンストップセンターには、1年で3,000件ぐらいのコンタクトがあるので、その中の大体100人から200人ぐらいの方が面接まで進んでいるのです。そのうちの30人ですから、ごくわずかな人なので、特に状態が重い人と思わないといけないのですけれども、そういう人の中には過去の性被害歴がある人も結構います。

 【スライド13】ちなみに、これはまだすごく簡単なものなのですけれども、PTSDと診断されるかどうかということだけで考えますと、約8割弱の人がPTSD。この急性ストレス障害という人も、まだ1か月たっていないだけなので、ほぼ8割強がPTSDで、この適応障害になっている人も、この3人のうちの2人ぐらいはPTSDというにはちょっと症状が足りないので適応障害と診断しているという形です。そういう点では、精神科医から言いますと、性犯罪被害者の臨床というのは本当にPTSDの臨床です。

 例えば、虐待とかDVとか、あるいは殺人事件の遺族の方とか、それぞれにどういうことが一番問題になるかというのは少し違うと思いますが、このPTSDとの関連が高いというのは、性犯罪被害者の一つの特徴なのではないかなと思っています。

 【スライド14】本当にまだ臨床の印象としか言えないのですけれども、若い被害者が多いこと、それから早期に来所する人が多くて、普通の臨床よりはずっと勝負が早いこと。それから、PTSDの症状が出現する人が多い。やっぱり早くつながる人、誰かが支援してくれる人は回復が早いです。一番きれいに回復する人の典型は、高校生ぐらいの若い人がレイプの被害を受けて、お母さんも一緒に付いてきて、とにかく支援体制もあって、1か月以内に来られてというような方は一番回復しやすいと思います。一方で孤立している、誰も助けてくれる人や心配してくれる人がいなかったり、それから受診が困難、遠いところに住んでいるとか、そういう物理的な問題もありますね。遠いところにいたり、あるいは働かないと自分が食べていけないので受診することが難しかったり、あるいは具合が悪くて受診ができなかったり、経済的な問題があったり、そういうことがあると回復の困難さが増します。

 例えば、東京に出てきて一人暮らしをしていて、親とも縁が切れてしまっていて、かつ生活の問題も抱えていて、通うのに1時間半かかるというような方は、なかなかちょっと難しい印象があります。ここはまだちょっと印象なのですけれども、これからもう少し研究を進めたいなと思っているところです。

 【スライド 15】それでは、性犯罪被害者に対して必要な支援とは何か。

 【スライド16】何か一つの支援が必要だということで、それで足りると思っている方はどなたもいらっしゃらないと思います。多様な支援が必要ですね。これは思い付いたものを書くだけでも、例えば警察とか弁護士さんとか、そこを一緒にするなと言われるかもしれませんけれども、でも私から見ると、そういう司法に関わる支援というのが、一つ犯罪の被害者としては大きな必要性がありますよね。それから、医療の支援、産婦人科も必要だし、精神科も結構必要になります。さらに、医療だけでなく心理的な支援も大きく必要です。

 それから、かなり大事だなと思うのが、その治療をしていくにも、それから支援をしていくにも、それから司法の過程を順調に歩んでいくためにも、経済的な支援というのがとても大きく効いてくる。お金がないと、本当にそっちの方がまず先になってしまって、様々なことができなくなります。さらに、もしお金が何とかあって、こういう支援ができても、例えば自分の家で被害に遭った人がそこで生活できないとか、あるいは例えば自分の職場で被害に遭った人は職場に行くことができなかったり、職場でなくても職場の近辺で被害に遭った方だと、大体そこの駅を通れなくなったりしていますので、そういう生活を今どうするかという問題の支援も必要になってくると思います。

 そういう点では、このどれも欠けてはいけなくて、全てをやっていく必要がある。どうしても自分がやっている場所が一番見えてしまうのですけれども、他のことがもっと必要だなと思うケースもたくさんあります。

 にも関わらず、その性暴力被害あるいは性犯罪被害の支援がなかなかうまく進んでこなかったのはどうしてだろう。進んできていると言われるかもしれませんが。

 一番最初に私がこういう犯罪の被害者を診るようになったのは1993年なのです。実際にその時に来ていただいて、この人たちはどうしてこんなに苦しいのに、何の支援も入っていないのだろうというのが、本当に第一印象でありました。

 そこから今振り返ってみると、すごくいろいろなことが変わったと思います。もちろん基本法ができたということはとても大きなことですよね。その中で、例えば潜在化していた被害、例えばDVの被害とかストーカーの被害なんかも結構潜在化していたと思います。1993年の段階では、DVという言葉もストーカーという言葉もほとんどありませんでした。どこか本には書いてあったかもしれないけれども。だけど、今それを知らない方はいないし、本当に大学で聞いていても、大学生の日常会話にそういう言葉が出てきます。それぐらい知られるようになったのです。

 【スライド17】それに比べると、性犯罪被害もこの数年間でかなり進んできましたけれども、まだ一歩ちょっと遅れている感じが私の印象としてはあります。どうしてなのだろうなと考えるのですが、それは一つはやっぱりこういう悪循環があるのだと思っています。どこからスタートしていいのか分からないのですけれども、ここからですかね。性暴力被害の心身への影響、さっきお話ししたような影響がすごく深刻なことが理解されていません。本人も分かっていません。そのために、偏見や誤解に基づいた被害者への対処というのがたくさんあります。被害から6か月ぐらいの時に、まだ学校に行けない人がたくさんいるのですけれども、「怠けているだけじゃないの」みたいなことを、心配している家族でさえ、そういうことを結構言ったりします。

 さらに、最近いろんな事件がありましたけれども、相手が有名人だったりすると、被害者の状況もお構いなくいろんなことが報道されてしまったり、被害者の問題が取り沙汰されてしまったり、偏見や誤解に基づいた被害者への対処というのも今でも変わらずあります。例えば「もうちょっと抵抗できなかったの」とか、「そこでノーと言えばよかったんじゃないの」みたいなことは今でもたくさん言われますが、そういうことが言えない状況というのが、実際に話を聞いてみるとたくさんあるのです。だけど、それが分かっていないので、偏見や誤解に基づいた被害者への対処があります。

 そうなると、結局いろいろな人から二次被害を受けることになる。家族に話して、家族から二次被害を受ける。学校の先生に話して、学校の先生から二次被害を受ける。警察に話して、警察から二次被害を受ける。医者に話して、医者から二次被害を受ける。そのようにいろんな二次被害を受け続ける。そうなると、もう「こんな目に遭うのだったら誰にも言わないわ」という話になってきますよね。みんな誰にも言わないので、そうすると性暴力被害の心身への影響が表に出てこないということになります。これがぐるぐる回っている状況というのが、やっぱりあるのではないかなと思います。

 【スライド18】例えば今の話で、私は時々、裁判になっているようなケースで意見書を書いたりすることがあるのですけれども、そういう捜査の段階なんかで一番よく聞く疑問は、「この人、元気そうなんですけどね」と。結構感情が麻ひしてしまっている人なんかもいますし、どれだけつらいと思っても、人はいつもつらいかっこうをしているわけではありませんよね。皆さんだって、今、例えばおなかが痛いとか気持ちが悪いということがあったとしたって、誰か大事な人に会って挨拶するなら、きっとにこにこ挨拶すると思います。人って、そんなにいつも苦しそうにはしていられないのですよ。見かけが元気そうだと、本当にやつれてかわいそうだという感じと全く逆に、「大丈夫じゃないですか」みたいな感じになったりすることが結構あります。一方で、すごく泣いたりすると、本当に気の毒な人だみたいな感じで扱われていることもあります。これはもう家族でも警察でもどこでもそうです。

 被害に遭ったのに、なぜ新たな性的な関係を持つのか分からない。怖くて避けるのが当然なのにと、これもよく聞かれますね。さっきお話ししたように、自己評価が下がると、新たな脅威をうまくよけることができません。それから、PTSDになると何が危険で、何が危険でないかをしっかり分けることができなくなります。みんな危険に見えてしまう、逆に言うと、もうどうでもよくなってしまうというような感じもあります。そのようなことがあるんだけれども、やっぱりこういう疑問を持たれる。被害に遭ったのに、なぜ危ないことをするのか。中学生、高校生だと割とこういうことがあります。学校の先生から被害に遭った後、今度はたくさんのボーイフレンドと性交渉をするというようなケースを持ったことがありますけれども、被害に遭ったからこそそうなるのですけれども、そのことを人はなかなか分からない。

 それから、さっきPTSDと比較的関連が深いと言いましたけれども、PTSDの症状の中には記憶がないというのもあります。解離性の健忘というものです。頭を打って記憶がないのとは違いますが、そういう解離性の健忘があったときに、どうも人からはある部分はしっかり覚えていて、ある部分を覚えていないことが、何だかうそみたいと思われるらしくて、「都合の悪いことだけ覚えていないのではないか」みたいに言われたりすることもあります。

 これは私がもうふだんたくさん、繰り返し繰り返し聞く疑問、周りの方から聞く疑問を出してみただけなのですけれども、こういうことが先ほどの、この偏見や誤解に基づいた被害者への対処のもとになっているし、その原因はやっぱり性暴力被害の心身への影響が理解されていないからだと思うからです。

 【スライド19】今日、ここは具体的なことを入れてみました。「どうして抵抗しないんですか」というのがとてもよく聞かれます。だけど、殺されると思えば抵抗しないのは当たり前なのです。人は生き延びる方が先ですよね。例えば、抵抗すれば殺されるのではないかと思ったので、無理やり笑顔にするようにして、相手に嫌な感じを与えないようにしようと思ったとか、せめて妊娠したくなかったのでコンドームを付けてほしいと言ったというような、これは実際に被害者の方が言ったことなのですけれども、こういうのが人の心理としても当然、例えば自分の生命の危機だというふうに感じれば、こういうことが起こってくるわけですが、こういうことが誤解を招くのはちょっと悲しいなと思っています。

 それから、人間怖いときには、ワッと緊張して戦いのモードになるということもありますけれども、一方でもうどうしていいか分からないので、麻ひしてしまうということも多いのです。そういう麻ひする仕組みというのが、余り人に知られていないために、途中から恐怖心がなくなり何も考えなくなった。だから、そこから後は全然抵抗していないとか、そこからどうなったかは全然記憶がないですとか、こういう話もよく聞きます。被害者と接していらっしゃる人は、こんな話を本当によく聞かれると思います。

 それから、「何で抵抗しないんですかね」という人に私が時々聞きたくなるのは、自分より体格が大きくて力で強制する人に、ずっとあらがってはいられないのは普通ですよね。例えば、身長が150cmの女の人と180cmの男の人がいると、身長が2割増しですね。そうすると、体重は倍ぐらいは違います。そういう状態のときに抵抗しろって、どういうことなのと思ったりするのですけれども、それも紙の上で見ていたりすると、なかなか分からないこともあるのです。何とか分かってもらおうと思って、ではあなたが170cmだったら、身長2割増しで体重2倍の人がそばにいて脅してきたときに、あなたはどうしますかと聞きたいのですけれども、そういうすごい普通のことがなかなか分かってもらえないということを体験します。

 この辺は本当に単なる知識の問題だと思うのです。そういうことが多いのだと分かれば変わっていくことなのに、20年ぐらいずっと同じことを言っているなという気がするところです。

 人は命を守るように反応しますけれども、強姦の被害に遭えば、その後に大きな心的外傷が残ります。だから、命を守るように、例えばもう殺されると思ったら何にも抵抗しないというのは普通のことなのですけれども、ではそれで精神的な被害がないのかといえば、後にトラウマ体験が残ってくる。トラウマ体験がPTSDの原因となってくるということがよく見られます。

 これは本当に一例なのです。偏見と言う言葉を使えば、じゃあちょっと勉強すればなくなるようなことだよねと皆さん思われるかもしれませんが、決してそうではない。それはどんな偏見もそうかもしれませんが、やっぱりその人の立場に立ってよく聞いてみないと分からないことがたくさんあります。

 【スライド20】こういうことを実際の被害者の方の例で経験すると、性暴力被害はやっぱり分かりにくいなと私は思っているのですね。そういう被害を受けたことがない人には分かりにくい。それは一つは、感情が麻ひすることがとても多くて、みんながみんな悲しくてワーッと泣いているわけではない。むしろ感情が動かないような人が多い。それから、そういう人たちは被害に遭わないようにすごく用心して行動するのかというと、むしろ被害にまた遭いやすくなるし、性的行動も変化している。

 性暴力の被害が、一番最初に研究論文に出てきた時には、レイプトラウマシンドロームという名前が付けられていました。それはPTSDが診断の公式の名前として出てくるもっと前のことです。1970年代のことなのですけれども、その頃からすでに性暴力被害者の症状の一つとして、性的行動の変化、抑制に行く人もいるけれども、むしろ過剰になってしまう人もいるということは知られているのですが、その辺がなかなか分かってもらいにくいところなのだなと思います。

 【スライド 21】このように考えてくると、支援のポイントとなることは、一つはこういう二次被害の防止です。性暴力被害に関する偏見をなくしていくこと。それは被害についてよく知ること。被害者の状況についてよく知ること、そういうことが必要だと思います。さらに、やっぱり当事者がなかなか自分の意思というのをうまく言えないような状態にあることも多いので、ついつい周りがいろいろなことをやってしまうけれども、どんな犯罪でもそうですが、当事者の決定を尊重することがとても大事だということを忘れないこと。それから、トラウマ反応について、性犯罪の場合は知っておかないと、なかなかよい対処はできないと思います。精神医学や臨床心理学の専門家でなくても、やっぱり知っておいた方がいいのではないかと思っています。

 それから、もう一つは孤立を防ぐことです。いろいろ臨床をやってみて、やっぱりこれが一番影響していると思います。誰か一緒に考えるとか、一緒に支えてくれる人がいるだけで、人は全然違います。研究では、それをソーシャルサポートと言ったりしますけれど、本当にどなたかが一緒に付いてきてくださって、私はどうしてあげればいいですかと言ってくれると、臨床では本当にそれだけで大分ほっとします。そういう人がいるのだなと思えます。そうでなかったら、やっぱり制度的に誰かそういう人を作っていかなければいけないということになると思います。

 それから、被害に遭うというのは、信頼を裏切られる体験ですから、人のことをとても信用しにくくなっているのです。信用するのが怖くなっています。信用するのが怖いのに、それでも例えば、病院に来てくれるということは、ちょっとは信用してもいいかと思っているわけです。全く信用ならない人のところには来られないと思いますので。そういう信用の萌芽を裏切らないということがとても大事なことだと思います。

 【スライド22】これは性暴力被害のうまくいかないのはなぜかという絵ですけれども、こういう状態にあるのを逆にすればいいのだと思うのです。同じなのですけれども、もし性暴力被害の心身への影響がちゃんと理解されれば、被害者への共感的関わりとか、役に立つ支援というのが出しやすくなりますよね。そうすると、二次被害を起こさないで済むし、本人もスムーズに回復することができる。こういう方がたくさん出てくれば、被害があることが社会にもっと知られるようになる。被害を受けるということがどういうことなのか社会が分かるようになる。社会が分かるようになれば、心身への影響を理解するということがまた起きてくる。だから、さっきと逆の方向にこのサイクルを回していかなくてはいけないのではないかな、そのように考えればいいのではないかなと思っています。

 【スライド23】これはちょっとだけ宣伝というか、私が一緒に連携して関わっているところはSARC東京です。SARC東京でやっていることは、24時間のホットライン、被害直後の面接相談、産婦人科的医療の提供、警察への通報、弁護士の紹介、精神科医の紹介。このあたりはみんな付添い同行支援してくれます。自分の体験で言うと、多分精神科って普通の方にとってはものすごく敷居の高いところで、同行支援がなかったら皆さん来てくださらないと思います。同行があって初めて、「まあ行ってみようか」という気になるし、行ってみると、ちょっといいことがある。そのようにして働けるものなのだなと思っています。

 【スライド24】これが最後ですが、今度は、では身近な人が性犯罪の被害を受けたらどうしたらいいのか。先ほど、一番最初に7割の人は誰にも言わないと言いました。その7割の次にあるのは、友人と家族です。一番たくさん話される相手は友人と家族なのですね。被害直後の人は、一番最初には例えば恋人に連絡したり、お母さんに連絡したり、そういうことをする人が多いです。警察にすぐ連絡する人だって、聞いてみると、その前には家族に連絡して、家族と一緒に行かれたりすることが多くて、被害を受けたら110番という具合にはやっぱりなかなかいかないですね。一番最初に連絡を受ける人というのは、とても大事な人です。

 【スライド 25】もし皆様方のそばにそういう人がいらしたらということで、最後は15分お話ししたいと思います。やることの順番は決まっています。決まっていますといいますか、まずはとにかく安全かどうか確かめることです。でも、これもなかなか難しいです。突然子供から電話が掛かって、何かがあったみたいに分かったときに、心配の余り怒ってしまったりする人もやっぱりいます。だけど、とにかく今安全なのかどうか。それから、本人が安心できているのかどうか。安全・安心って災害なんかでよく使われる言葉ですけれども、この場合もまずは安全か、安心かということを確かめておくことが必要だと思います。例えば、まだ被害の危険があるかもしれませんし、危ないところにいるかもしれませんし、本人は気が付いていないけれども、何か身体的なけががあるかもしれません。

 それから、その次に考えることは、例えばお友達の場合なんかはそうだと思いますが、このままこの人は生活していけるのかどうかです。例えば、夜に被害に遭った、家で被害に遭った。家には帰れません。では、どうするのというようなところで、このまま生活していけるのか。お金も取られてしまったというなら、どうすればいいのか。もちろん警察に言うということがこの中に入ってくるわけですけれども、その後、日常生活がどうなるかということを誰かが考えてくれないと、うまくいかないことが多いです。

 日常生活がめちゃめちゃになったまま過ごしている人も中にはいます。私が会った人のうち、それこそ本当にちゃんと警察に届けられればまだよかったのでしょうけれども、届けることもしないで、自分の家に帰って閉じこもったきりになって2、3日そのままでいた。ほとんど御飯も食べないでいたという人もいます。やっぱりその2、3日は、とてもつらい2、3日で、そこから後にも影響を与えます。誰か見てくれる、全部見てもらわなくてもいいけれども、誰か心配してくれる人がいるのかどうかということを確かめる必要があります。

 先ほどお話ししたように、誰かが支援してくれること、考えてくれること、それからもう一つは正しい具体的な情報が出せることが大事です。正しい具体的な情報とは何ということですけれども、「お医者さんへ行ったらいいのに」とか、そういうことでは具体的ではないです。何科の医者にどうやって掛かればいいか分からないといけないし、普通はそういうことを人は何も知りません。

 では、どうするのか。結局そうなると、こういう分からないことを具体的に知っていくためには、この段階で周りの方が相談するということも必要になることがあると思います。それから、ネットにはいろいろな情報があります。ネットを引く余裕があれば、なかなかそこまで一遍には思い至らない方も多いですけれども、ネットが引ければ大分いろいろな情報があります。

 それから、どこに行けばいいのか分からないという方もいますけれども、そういう意味ではどこでもいいです。少なくともどこでもいいという言い方ができるように支援をする側はならないといけないと思います。例えば、警察に行けばいいのか、男女共同参画センターの相談窓口に行けばいいのか、あるいはワンストップセンターに行けばいいのか、産婦人科に行けばいいのか、精神科に行けばいいのかというのは、実は今、「どこでもいいですよ」とは言えないところがある。そうなのですけれども、幾つか具体的にちゃんと受けてくれる公的なところもありますし、さらに熱心にやってくださるところもあれば、余りよく知らない素人さんと同じみたいなところもあります。やっぱりそういう具体的な情報を得ないと、なかなか助けになりませんので、そこは誰かに今度はまた相談したり、情報を得たりしながらやっていく必要があります。

 こういうこと全てが、どちらかといえば、被害を受けた人を心理的に支えるサポートですけれども、更に本人の気持ちに添って、もしお話しされるのだったら聞いてあげたりとか、そういうことも必要になってきます。でも、むしろ何を言うかというよりは、こういうことがちゃんとできることが本人の心理にはすごく大きな支えになると思います。

 うちは臨床心理学の大学院を持っているので、学生さんにこういう話をすると、「どう言えばいいですか」という質問がすごく来るのですけれども、一言で被害者を元気にする言い方なんかありません。むしろこういうたくさんのことを知って、ちゃんとサポートできるのだということが自然に伝わることがすごく大事なのだと思います。

 【スライド26】今のを詳しく書いたものなので、簡単にいきますけれども、それから加害者の問題というのがさっきのところには出てこなかったのですが、加害者がずっとそのままになっていたら、危険もたくさんあります。警察へ連絡する場合は、なるべく早い方がいいというのは、これは警察の方がおっしゃっていただけると思いますけれども、支援する立場からも連絡するのだったら絶対に早い方がいいです。その方が犯人の情報もたくさんあると思います。

 救急や産婦人科の受診が必要な場合は、例えば性感染症の心配とか、妊娠の心配とか、あるいは妊娠に対処するとか、証拠採取をしてもらうとか、そのようなことで必要になる場合もあります。そういうことを具体的にやっていきます。具体的に言うと、それぞれやることがあるのですけれども、今日はポリシーだけお示しするようにしようと思います。

 【スライド 27】実際には誰かがいることで被害者に安心してもらいたいのですけれども、実は相談を受けた側も、自分もショックを受けるので、反応してしまって、なかなか難しいですね。「そんなこと起こるわけないでしょう」みたいに否認という状況になってしまうこともあります。受ける方もショックなので、なかなか頭に入らないのですね。身近に相談できるところがあれば、是非本当にどこでも、ワンストップ支援センターでも、被害者支援団体でも、地域の相談でも何でもいいです。相談してください。ここにいらっしゃる方で知らない方はいないと思いますけれども、警察にも相談機能があります。そこに掛けることもできますし、電話だったら匿名でも大丈夫です。

 正直、ここなら必ず大丈夫という普通名詞というか、こういうところでここなら大丈夫ですというところはありません。だけど、どこから支援につながってもいいけれども、これは私の本当に正直な気持ちです。現状ではここは助けにならないと思ったら、別のところにもう1回相談した方がいいです。例えば病院なんかでも、余り関心のない病院もあります。そうだとしたら、医者は駄目だと思って止めてしまわないで、必要であればもう1軒行ってみたり、あるいはいろんなところに相談した上で聞いて行ってみたり、そういうことをした方がいいというのが、残念ながら今の現状だと思います。支援する側としては、どこでもある程度以上のことができる、専門的なところはそこに的確に連携ができるというのが大事なことかなと思っています。

 【スライド28】これは要るかどうかなと思ったのですけれども、そういうことをした後に必要なのは、当事者になったら、次はリラックスするということが必要ですね。これも学生さんに、「どういうことをすれば良くなりますか」とよく質問を受けるのですけれども、リラックスするだけでそんなに具合がよくなったりはしません。しませんけれども、いつもやっていること、いつも食べているもの、いつも見ているもの、いつも話していることに近づくということがとても大事だと思います。そういうことができればすごくいいけれども、それでも当日は眠れないのが正常なことですし、いろいろな事情でまだまだ寝ることもできないという状態の方もいます。

 【スライド29】基本的には、被害から1~2日は具合が悪くても、だんだんよくなることが多いです。そのまま衝撃から立ち直っていく人もいます。でも、先ほどPTSDの人がかなりいると言いましたよね。レイプの被害者のうちの半数ぐらいの人がなかなかそのようにはならずに、具合が悪いのが長く続いたりしてしまいます。そういうときには、そういうのが続いてきたら、とりあえずは精神科なり相談なりに行ってもらえればいいかなと思います。

 幸いということではないですが、精神科での治療というのは、そんなに1、2日を争うわけではないことが多いです。むしろ、避妊とか、ピルで妊娠の予防をするのだったら、産婦人科の方は本当に急いだ方がいいし、証拠についてもそうだと思いますけれども、精神科の方はそういうことはないと言えると思います。

 【スライド30】今日いらっしゃっている方に具体的な症状をお話しする必要はないような気もしますけれども、被害に遭った方にすごくよくある症状をランダムに挙げてみました。男性が怖くて人混みに行けない。混んだ電車に乗れないので、学校や会社に行けない。怖い夢を見る。事件と関わるようなテレビのニュースを見たり、似たような人が出てくると見ていられない。事件に関わることがあると記憶が思い出されて、動悸があり、冷や汗をかいたりする。自分が汚れてしまって価値がないと思える。ほんの一部ですけれども、こういうことをおっしゃる方が多いです。

 さっき男性にも被害があると言いましたが、男性の被害の加害者は、多くは男性です。男性から年少の子供への被害というのが一番多いと思いますけれども、中には性的虐待で女性から男性へ、あるいは集団で女性から男性へというケースもございます。そのときには、当然ここのところが変わってくるわけですけれども、こういうようなことがずっと続いているときには、どうしたらいいかというお題だとしたら、トラウマを扱えるような精神科に来てくださいということですね。

 【スライド31】そばに誰かがいて、その人のために考えてくれるというのが一番のサポートだと思います。横に並んで一緒に考えていくしかないことも、今の状況ではたくさんあります。何もかも正解を知っている人がいて支援をするわけではないです。そういう形で誰か支えてくれるというのが、本当に最初の一歩であり、最後の一歩であるというのが、支援の一番本質的なところかなと思います。

 4つのお題で、なかなかたくさんの範囲でしたので、まとまりが悪くて申し訳ありません。これで私のお話はおしまいにさせていただきます。どうもありがとうございました。

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