中央イベント:基調講演

「男女間における繰り返される被害の現状と対策~ストーカー行為等の特徴と被害者支援~」

福井 裕輝 (性障害専門医療センター代表理事)

 御紹介いただきましてありがとうございます。福井です。60分という時間は思いのほか短くて、早速いきたいと思います。

 それでも幾つか前置きのようなものを少し言っておきたいのですけれども、先ほど紹介いただいたように、私は性犯罪者、それからストーカー、それらの治療を行っていますけれども、この2つは全く病理も対策も違うというのがありまして、それを混同するといろんなことの理解が難しくなってくるので、その点だけ留意していただければと思います。

 本日は、性犯罪については全く、ちょっとは出ますけれども、基本的には触れませんので、あくまでストーカーに限定した話です。

 あともう一つ、最初にお話をしておきたいのは、私はずっと加害者の治療、それから広い意味での加害者の支援、そういうものも再犯防止のためには必要だということを言い続けてきているのですけれども、時にいろいろと批判を受けたり、「そんなことをやっている暇があるんだったら、被害者のカウンセリングをしろ」とか言われたりするわけです。あるいは「なぜ加害者なんだ」ということを言われるのですけれども、その辺りのことからまずお話をしたいと思います。

 先ほど御紹介いただいたのですけれど、私は大学を卒業して、大学病院の精神科に勤務していました。1年間いました。その後、小浜というところで3年ほど一般の精神医療をやっていました。小浜というのは、地図を見ていただいたら分かるのですけれど、京都市からずうっと北のほうに行った日本海側のまちです。県としては京都府の真上なのですけれども、ここは福井県になります。いわゆる京都大学の関連病院ということで、一般の医療に行きました。

 これは駅を撮影した写真ですけれども、こんな感じで、非常に小さな駅です。小浜市というのは人口4~5万人ぐらいの非常に小さなまちで、総合病院が1つ、精神科もそこの病院に1カ所しかない。私と医長と2名でそこの医療人口、5~6万人と言われていましたけれど、それを全部診ているというようなときがありました。

 実を言うと、私はこの頃一生懸命被害者を診ていたのですね。被害者というのは非常に治療が大変で、特にこのまちというのは漁港の近くで、漁師とかそういう方が結構アルコールを飲まれたり。あるいは覚醒剤の依存の人とか、そういう方がたくさんいる中で、家庭内における性的虐待、あるいは強姦を始めとするいろんな性暴力を受けたという患者がどんどん来るのです。中にはPTSDになりうつ病になり、あるいは精神病を発症する人。

 よく話をするのは、トラウマを持った人が、いわゆる多重人格というのですけれども、専門用語としては解離性同一性障害と言うのですが、そういう子とかがいっぱい来ました。そのときに痛感したのは、一生懸命目の前の外来で診ても、家に帰ると義理の父親とかそういう人がずうっと虐待をしていると。その中に非常に医者として虚しさを感じて、どんなに被害者を診ても、根本的に加害者を変えていかない限りこれは防ぎようがないというのを痛感をしました。それが基本的な原点となっております。

 ということで、よく被害者をないがしろにしているとか、そういう感じで取られることがあるのですけれども、そうでないということをちょっとお話ししておきたいと思います。

 その後、結局、私は研究職に行ったために、実の臨床の現場を診ることはずっとなかったのですけれども、そのうちに臨床をやろうということで、加害者を診るというような活動をして現在に至っているということです。

 これは先ほども御紹介いただきましたけれども、NPO法人を作ってやり出したのがもう、約5年以上たちます。「性犯罪加害者の処遇制度を考える会」、この趣旨は日本の性犯罪、これはストーカーじゃなくて性犯罪ですけれども、対策は約30年遅れているといつも言っているのですけれども、実際そうだと思います。そういった加害者の再犯を防ぐような仕組みを国できっちりと作ってくれということを言うことを主たる目的として作ったのです。

 このホームページのところを見ていただきたいのですけれど、「被害者を生まないためには加害者をなくすしかない」と気づいたと。これは、NPOを設立するのに10人ほどメンバーが必要なのですけれども、法務省関係者、あるいは弁護士とか心理士、医者も含めて10人で立ち上げたのですが、これが基本的な共通の考え方です。

 そのようなことで活動を始めた。現実問題、これも話すと長いので簡単に言いますが、日本においては性犯罪者を一般の精神医療で診るという仕組みになっていません。例えば刑務所から出てきた、何でもいいですけれど、小児性愛で何度も捕まっている。「もう再犯はしたくないから治療を受けたい」と言って一般の精神科を受診すると、「それは治療の対象ではないので、お帰りください」と言って帰されるというのが、今の日本の現状です。

 とにかく受け皿がないということで、「誰かが診ないと」ということで現場を作ったのが平成23年4月に、SOMEC、性障害専門医療センターということで東京に設置をしました。

 これからお話ししますけれども、警察庁と連携するとか、するに当たって別の問題を抱えているストーカーに対する対策ということで、平成25年、約2年前から社団法人を作り、今に至っています。先日、10月には福岡に支部などを作って、今やっているところです。

 概要はこのぐらいにした上で、まず今日は一応、私は医者なので、医学的観点からストーカーというのはどんなものなのかというお話をちょっとしたいと思います。

 これは医学というわけではないのですけれど、ストーカー規制法の第2条です。法文をそのまま持ってきてつらつらと書いてありますけれど、ざっくり言うと、何か相手に対して一方的に好意、恋愛感情を持って、そのうちにこじれて相手に迷惑、攻撃をするようなものだというような大体の定義になっていて、こんなふうに思われていると思います。これが違うんだという話を今からしていきたいのです。いろんな面で違うと思っています。

 まず、実は医学的なストーカーの定義というのは、世界的に結構明確に言われています。要は、加害者が被害者に出したメッセージによって、思考や行動を修正できないということです。つまり、ストーカー的ですね。例えば、「相手に振られた」と言ってストーカーのような感情になることは誰しも一時的にあるわけですけれど、そこからストーカー規制法に引っかかるような行動に出るのか、あるいはもっとひどい場合には相手を殺害するとか、あるいはある程度のところで気持ちを収めて普通の生活に戻っていくか、そこの線引きというのはこういうふうに与えられています。

 つまり、被害者から「あなたに好意なんかないよ」ということを聞いたら、「あっ、そうか」ということを受け入れて、だんだんと気持ちを変えていく。それができないというのが基本的なストーカーの医学的な定義です。

 実は、これは妄想に似た面があります。妄想というのは基本的には統合失調症を始めとする精神病に付随する症状で、ストーカーがそうだと言っているわけではないですけれど、大きく2つあります。了解不能性と訂正不能性とがあります。

 了解不能というのは、聞いていてよく分からないと。例えば、FBIに追いかけられているとか、家の中に盗聴器を仕掛けられたとか、ちょっと了解できるとは思えないことを言う。訂正不能というのは、「いや、そんなことないよ」と一生懸命説得しても、妄想を持った人が説得を受けて、「はい、分かりました。確かに私はそんな追いかけられたり、被害に遭っていません」みたいに改められるものではないというものです。

 ここに「奇妙で」と書いてありますが、ストーカーは一見するとそんなに奇妙さを感じないですね。特に元配偶者とか交際相手に縁を切られたということからストーカーになった場合は、何となく了解できちゃうということがあるかと思いますが、そこから彼らがやる行動を見るとあまりにもひどいということになるわけです。私も加害者をいっぱい診てきましたが、彼らの話をよく聞くと、実はかなり了解不能で、その内面というのはちょっと理解できない。一般の延長で、振られて行き過ぎたとか、かけ違えたかとか、そんなことでは説明がつかない病理を持っていると思っています。

 これは勝手に私が名づけたのですけれど、これを「ストーカー妄想」と呼んでいます。一般の精神病の妄想ではない。とはいえ、普通の正常の心理の延長では理解し難いような独特のものがあるということで、一般への啓蒙というか、彼らの複雑な病理があることを知ってもらうために、あえてこういう名前をつけていつも話をしています。

 そんなわけで、ストーカーかどうかという、先ほど定義を申し上げましたけれど、これの判断というのは結構難しい。妄想のほうがまだ分かりやすい。より厄介といいますか。何か事が起きるたびに「何で警察は見逃したんだ」とか、そういうバッシングを受けると思うのですけれども、正直、私はぱっと聞いて、これを見分けるというのはかなり難しいと思います。専門的な技量が必要なのです。そういう意味で言うと日本もこういったトレーニングみたいなものが今後たくさん要るのではないかと思います。

 ちょっと定義として、この「ストーカー妄想」というのを一つ加えて、話を進めたいと思います。

 歴史みたいな話ですけれども、実はストーカーというのは、スラング、俗語としてでき上がってきた言葉で、もともとは獲物を狩るとか、獲物を狩る人というような意味から、アメリカで使われ出した言葉です。

 その後に、パパラッチとか書いてありますけれども、芸能人とかをワーッと追いかけるような人々を揶揄するというか、そういうような言葉としてわっと広まっていったというのが経過です。

 その後、大きく転換を迎えたのは、これは1980年代の後半に起きた事件ですが次に出すこの男性です。真ん中の男ですけれども、彼が映画を見て、ジョディ・フォスターという女優がいるかと思いますが、彼女に対し一方的に恋愛感情のようなものを持って、ずうっとストーカー行為をしたのです。それを周囲から妨害をされて、いろんなことを失敗したのですが、それがうまくいかないということをきっかけとして、自分の存在を知ってもらおうということを意図して未遂に終わりましたが、大統領の暗殺を図るということをしました。このことで非常に国民はびっくりしましたし、怒ったわけです。それが先ほど申し上げた1980年代後半でした。

 実はもう一つ、女優が殺されるという事件が89年に起きました。そのような流れの中で、アメリカは素早く、1990年に最初に反ストーカー法というものを成立させた、そんなような流れになっています。今のストーカーという日本の言葉の語源はこういうところから来ているということを知っておいていただいてもいいのではないかと思います。

 最初は、アメリカの反ストーカー規制法のようなものは州法として始まったのですが、結構ここに重要なことがありまして、これも英語でずらずら書いてありますけれど、ストーカーの定義は「ハラス」なのです。嫌がらせだと。最初のほうにも申し上げましたけれども、何か行き過ぎた恋愛とか、愛情とか、かけ違いだとか、そんなんじゃなくて、そもそも相手に対する嫌がらせとしてやっているんだと。

 脳の話も後でしますが、愛情の感情とは全く別の回路が並行して動いているようなものだということを知っておいていただきたいと思います。

 その例として、イギリスというのは、そもそも嫌がらせ行為防止法のようなものの延長でストーカー自体の取り締まりをしていたということです。

 こんなふうにして現代に及んで、そもそもハラスメントだと。基本は女性の権利意識の向上とかそういうのに伴って、こういったものがどんどん世界的にも進んでいるということが言えるのではないかと思います。ストーカーはハラスメントだということを理解しておいてください。

 医学的定義ということで一旦、恋、恋愛なんかではなくて嫌がらせなのですね。もう少し病理の話をしたいと思います。

 これも世界的にストーカーというのはいろいろと分類されるのですが、大体4つか5つというのがいろんな研究者のもので、一応これは私のオリジナルではあるのですけれど、そんなに世界と変わらないで、大体同じと思ってやっています。「執着型」、「一方型」、「破壊型」、「求愛型」というふうになっています。

 「執着型」というのは恐らく一番皆さんなじみが深いのじゃないかなと思いますけれども、もともと親密な関係にあった者が、壊れてストーカー化するということです。なので、もともとの恋人同士とか夫婦といった場合です。

 一つつけ加えておきたいのは、これは親子とか、あるいは医者・患者なんて言われますけれど、教師・生徒とか。こういうものも同様の行為に及ぶということ。今日はあまりそこまで広げられないですけれど、一つ、日本にストーカー規制法が導入されたとき、「恋愛の」というような言葉が入っているために、要は男女間のトラブルでしか言えないものですけれど、世界的には唯一日本だけで、一般的にはこういう例えば教師・生徒であろうと、あるいはクレーマーのようなものとか、そういうものも全部本来はストーカーで、ごみをまき散らすとか、音を流して近所迷惑とか、そういうものも全部本来はストーカーだというのは一つのトピックとしてお話ししておきたいと思います。

 あとは「一方型」というのがあります。これは妄想などで相手をずうっと追いかけ回すというようなことですね。ただ、これは世間にはあまり出てこないので、さらっと流したいと思います。

 あとは「破壊型」というのがあります。これはいろんな逸脱行動の中にストーカーが入っているというようなケースです。非常に有名なところでは池田小の児童の殺害事件の加害者がですが、彼は最後に児童8名を殺害するということをやりましたが、彼は人生の中で3回ぐらいストーカーをやっていますね。そういうことで、ほかにも凶悪な傷害なりいっぱいある中にストーカーも入っているという、そんなケースです。

 あとは「求愛型」というのがあって、これは一方型とちょっと似ているのですが、若干違って、相手と関係を築きたいのに、うまく自分の感情を伝えられないとか、コミュニケーションが苦手だというところから、突然殺害に至るというような特徴があります。日本の事案でいうと、新橋のストーカー殺人という、耳かき事件とかということで評判になりましたが、彼なんかはこのパターンに当てはまると思います。

 医学的な分類というお話を。これもストーカーという言葉は最近だと言いましたけれど、現象としては古くからいろんな研究の蓄積があって、ざくっと「こんな病気がなりやすい」というのが4つほどあります。1つは妄想に絡むものです。それから、反社会性パーソナリティ障害と自己愛性パーソナリティ障害、それからもう一つが発達障害というふうになります。

 妄想というと、今は統合失調症を始めとする精神病と、あと妄想性障害(パラノイア)と言われるような病気があります。これも古くからクレランボー症候群とかオセロ症候群とか、恋愛妄想あるいは嫉妬から相手にいろんなストーカー的な行為をするというようなことは、症例報告とか研究報告が大量にあります。

 あとは、反社会性パーソナリティ障害ですね。共感性が乏しくて、衝動で攻撃的に行動するというパターンです。

 一番難しいのは、私も直接接したわけではないので分からないですけれど、逗子の事案とか、あとは三鷹の事件。あの加害者などもこれではないかと思うのですが、自己愛ですね。自己愛というのは非常に難しいのですけれど、プライドにもいろいろあって、いいプライドと、よろしくないプライドぐらいにしておきたいと思いますけれど、でも自分がかわいいがために他人を踏み台にして利用するというような、そんなところがあります。

 彼らの特徴は、自分の欲求が満たされないと非常に怒る、過剰に怒るということと、あとは自分が正しいという非常に強い確信と同時に、被害意識を持っている。客観的に見ると、明らかに加害者側というか、自己愛の強い人のほうが悪いと見えても、本人はそうは感じなくて、「相手のせいでこうなったんだ」ということを強く確信していますね。

 あとは、「本当は自分のことを愛している」とか、「相手は能力が低くて、まだ自分のよさが分からないんだ」というような、幻想のようなものをずっと持ち続けるために、なかなか切り替えができないというところがあります。

 あとは発達障害と呼ばれるものです。これもコミュニケーションとか対人関係をつくるのが苦手というところから、うまく相手に気持ちが伝えられないというようなことで問題が起きます。あと、男性に限って言うと、非常に男性性を過剰に持ち出すというようなことも影響しています。

 実際上はこう簡単にいかなくて、ケースバイケースで、ほとんどの場合はこれらの要素を少しずつ持っているとか、そういうことが大多数なのですけれど、ざっくり言うと、関係性の分類と疾病の分類となります。要は執着するからなるというのは自己愛の問題であり、あと一方的に何か妄想のようなものをやってするのが精神病系です。あと破壊型と呼ばれる社会性パーソナリティ障害と求愛型の発達障害です。

 実際上、ストーカー規制法のレベルで問題になってくるのは、この執着型と求愛型で、精神病系については、何かおかしいということになると周囲が病院とかに連れていくわけです。病院の通報もありますし保健所とかが動いて何らかの治療に結びつくということができます。

 あとは、反社会性パーソナリティ障害については、あまりストーカー規制法レベルでどうこうというより、ほかにもいろいろな事件を起こしているので、それで別の罪名とかで対応とかをされることが多いというふうになります。

 現場では、この自己愛と、あと発達障害のこういった問題とか、あるいは傾向みたいなものの見極めというのが非常に重要になってくると思います。

 あとは少し脳の病態ということを言っておきたいのですけれども、これは2009年の「Science」という著名なジャーナルに載った論文ですが、ここにストーカーなども説明できるかもしれないということが書いてあって、私もこれを読んで非常にぴったり当てはまると思ったのは、英語で申し訳ないですけれど、ゲイン、相手が何か獲得をすることが非常に自分の苦しみになる。逆に、相手に何か痛みを与えることが自分を楽にするという。それが獲得になる。「他人の不幸は蜜の味」と書いてありますけれども、日本語で言うとそういうことだと思います。

 これは、脳の部位としては、専門用語なので言葉自体は別にいいですけれど、帯状回といわれるところと線条体というところが関係しています。一つの報酬系です。快楽とは違うのですけれども、1個のこれが報酬系として機能しています。この辺はちょっと私の仮説みたいなものも入っていますけれども、病理として「他人の不幸は蜜の味」という状態にあるというのがストーカーだということです。

 あと、もう一つ言っておかないといけないのは、「他人の不幸は蜜の味」というのは分かった。彼らは、長い人だと10年とかずうっとストーカーを続けるのです。それが単にこれだけで説明がつかなくて、なぜ長期間に及ぶのか、もういい加減諦める、あるいは別の相手に行ったらどうなのというふうに普通の感覚では思うわけですが、それがなかなかできないというところがあります。これについて、基本的に非常に彼らは環境の整理が苦手ですね。

 ここに挙げているのは、マインドマップというものがあるのですけれど、それの応用みたいなもので、いろんな感情を書き出して整理してもらうということです。普通はこのようにきれいに書けるのですけれども、彼らはあっちこっちに飛んで。どこがどういうものにつながっているかということをうまく説明できないという、非常に独特の病理を持っているということです。ということで、私の現在考えている医学的定義というのはこんなふうになります。

 これはちょっと別の現象面から見てみると、基本的にグリーフワークと書いてありますけれど、悲嘆作業ということですが、それの障害だというふうに言えると思います。グリーフワークというのは、何か自分にとって大事なもの、親でもいいですが、恋人を失うというのもそうですね。それからペットでもいいですが、そういうものを失うと、みんなそのことを認められない、あるいは怒りの感情を感じて絶望するというような、いろんな複雑な心理を持った上で、だんだんと、例えば「喪に服する」という言葉があると思いますけれども、そういう時間をかけていくと、そういった言葉を、気持ちを整理して切り替えて「新しい人生をまた歩もう」と言って、再建の段階に行くわけですが、彼らというのは基本的にこの3段階未満でのところでずっとうろうろしていて、4に行けない状態だというふうに基本的に言えると思います。なので、非常につらいと思います。一度でもそういう自分にとって大切なものを無くしたという経験がある人ならば、その直後のような状態が何年も続いているということで、その辺が彼らの苦しみでもあるわけです。

 あと、私も治療ということをずっと言っているのですけれど、「本当に彼らは治療に来るのか」ということを聞かれるのですが、この辺については彼らにも治療の動機があるのです。「分かった」と、そのあなたの気持ちは分かった。「でも、その苦しい状態を変えて新しい生活をしたいでしょう」ということが、彼らを「じゃあ、受けてみよう」ということでカウンセリングなり何なりに来る動機になっていると思います。

 これを一言、「恨みの中毒」というふうに言っています。中毒にもいろいろあると思います。アルコール中毒、覚醒剤中毒。彼らも相手に対する強い恨みを持っている。そのことがいろんな物事をだめにして、自分あるいは相手を傷つけたりということも分かっていて、やめたいということを考えていても、止まらない、コントロールできないというような、そういう状態が彼らの病理と思います。

 これも同様に、一般啓蒙というつもりで、ちょっと大胆な言葉の使い方ですけれど、「ストーカー病」というふうに言っています。彼らについてどうするかというと、刑事罰を与えるということがまず真っ先に浮かぶと思うのですけれど、そうでなくて、医学的な観点、あるいは病気と一旦見てみることによって少し彼らの捉え方も変わるのじゃないかというような願いも込めてこういう言葉を使っています。

 この「ストーカー病」という言葉ですけれども、実際の場面で言うと、こういう現象に該当すると思います。警察が何か、口頭あるいは書面で警告とかをします。基本的に8割ぐらいは大人しく収まって、ストーカー行為等をやめると言われています。ところが、2割の者はそれを、そういった警察の介入によっても相変わらず続けるか、あるいは逆恨みとか、そういうことで復讐をしたりということでより悪化する。要はコントロールが効いてないということですね。この2割が基本的に問題になっただけで、こういった人々をどうするのか。警告を受けて、「あっ、もうやめなきゃ」と言って止まる人はそれでいいのですけれども、そうでないこの2割についてどうするのかということを考えようということです。

 あと、少し彼らの内面側からこの同じ現象を見てみたいと思うのですが、警察の介入について、やはり彼らは非常に「怖い」と言います。当然、留置なんかされると、なおさら「もう一生やりません」というふうに強い反省とともに止まる。そういう意味では介入の効果があるわけです。

 でも、同時に被害者に対して非常に強い憎しみを抱きます。「よくも自分のことを警察に言いに行ったな」ということで、この辺は非常に厄介なところで、だから「はい」というふうに相談に行くと、相手がストップするとは限らない。むしろ募らせて復讐される可能性があるというのが事実だと思います。

 ということで、警察の介入は8割止まるので、かなりの有効性があることは確かなのですけれども、諸刃の剣だというふうにいつも思っています。つまり振るときには、切れ味がいい分、副作用というかそういう側面も持ち合わせているので、単純に、どんどん警告すればいいとか、そういうことでは止まらないということです。

 もう少し考えてみたいのは、今まではどちらかというとストーカー全般ということもあったのですが、殺害に至るということがどうなのかということを考えてみたいと思うのです。

 これは逗子の事案の被害者の御主人の言葉です。「もし死ななくても、相手が捕まっても、ずうっと狙われた。生きるも死ぬも地獄」ということです。この事案については、被害者が警察に届出をしたと。4月の9日だったと思いますけれど、ところが、メールというものが規制法の中に入っていなかったということで、いろんな処置が見送られたと。その結果によって11月に殺害されるということに至ったわけですが、この被害者の御主人の言葉ですが、仮にあそこで、彼は執行猶予中だったのですけれど、再逮捕をして実刑になったとしても、執行猶予中の再犯ということで最長で2年。そもそも実刑になるかどうかも分からないですし、実刑になったとしても1年、仮釈放になれば1年かそのぐらいで出てくると。「仮にそうなっても、出てきたらまた狙われるだろう」ということを意味していると思います。

 あとは、彼らの内面を聞くと、彼らは非常に自分を正当化して、被害者意識が強いというふうに言いましたけれども、ほとんどあだ討ちという感覚に近いと思っています。自分がやられた、したがって、やり返されて当然だと。その辺の自分の正当性に対する確信はかなりのものがあって、結構、重大事案のものに記者とかが接見に行った記録とかも読ませてもらったり実際、鑑定とかに関わったりもあるのですが、異様に彼らはこういった、まさにあだ討ちという感覚なので、逮捕なんかされても堂々として出てくると思うのですが、それは彼らの内面を非常に反映していると思います。

 じゃあ、そういった彼らをどうするのかというと、もうずっと閉じ込めておくしかないということになります。日本に終身刑はないですけれど、無期懲役では20年そこらで出てくる。終身刑か何か、そういうのを導入するしかないという話になってきます。もちろん、そのようなことはできません。

 ちなみに、アメリカのヒンクリーという男は、医療的な処分になり、刑務所に入れられてもう30年以上たちますが、病院から退院できないということで、保安処分として現在に至っているということになっています。実質的な終身刑みたいなものです。

 もう一つ、これは司法の司法精神医学の専門家の間でよく使われることで、拡大自殺という考え方があります。他人を殺して死刑になっていいというような、そういう発想になっているのです。自殺と他殺というのは非常に表裏一体で、自分に対する生きる望みとか希望を失うと、それが自分に向くと自殺にいく、それが他人に向かうと殺害するという、そういった暴力行為になります。そういったものは、例えば茨城県で3名を殺害して死刑になった者が公判で「自殺するのは痛いから嫌だった。3人殺せば死刑になるだろうと思って殺しました」というようなことで、堂々と述べたことがあります。そういう彼に対しては仮に死刑だと言っても、「どうぞ、死刑にするならしてください」という状態は事実上、私も話をしていて受けます。彼に対してはどんな刑罰を科しても効果がないということになります。

 そんなようなことで、私がこのストーカーの問題を扱うようになってから言い出したのが、司法と医療の連携ということを言っています。医療側としてはいろんなことを、やることはいっぱいあるのですけれども、病態の解明から、彼らの治療あるいは社会復帰をどうするかということです。

 そのようなことで、ここ何年か警察庁と連携していろいろとやっています。その辺の御紹介と同時に提案みたいな話も少ししたいと思います。

 医療というと、治療が先に来るのですけれど、基本的に2つから成り立っていて、まず評価しないと話にならない。どんな科でもそうですけれど、内科でもいいですけれど、血糖値は幾らなのかとか、きちんと状態を調べた上で、「では、こういった治療を施そう」とアセスメントをした上で次に治療的なものを考える。

 その1つのアセスメントの試みみたいなもので、これは警察庁から依頼を受けて、加害者の危険度評価チェックリストと一般的に言われているもので、ここに書いてありますが、危険度評価になるようなものを作ってくれということで、3年ぐらいかけてやりました。

 いろいろとレビューしたり、実際に受刑者と接見したりしながら、臨床経験を加えて作りました。最終的には、運用としては被害者が警察署に行って、被害者から見た加害者像と、被害者自身の性格特性みたいなものと、また前科前歴のようなものをデータベースから入力することによって危険度評価をするというふうになっています。これが今、警察庁では配付されていて、ばばばっと、こういうふうにクリックして、チェックをして、右下の「次へ」とかいうのを選択すると、例えば「極めて高い」とかというふうに出ます。

 基本的には4段階になっていまして、青い部分が低いですけれど、低度、中度、高度、極めて高い、4段階というふうになっています。極めて高いというと1.7%ぐらいで、私が常に述べているのは、大体この8.6と1.7の、大まかに10%ぐらいですね、こういうものについて警察としてはきっちりと対応してほしいなというふうに考えています。

 これは私がやったこととは別に、警察庁のほうで独自に追跡調査をした結果ですが、高度と極めて高い。極めて高い例で、最初の段階で警察が何らかの処置をしたのが56%。でも、そのまま見送った場合には33%ぐらいが再加害、被害に遭うというようなことになっています。あるいは行動についても50%以上、6割ぐらいが何らかの具体的な行動に出ているので、それなりの信頼性があるのかなというふうに私としては思っています。これは2年ぐらい前から全国で使われていると思います。これがアセスメントの話です。

 あとは治療です。我々のところを含めて世界でも大体この3つぐらい、認知行動療法と言われるものと、弁証法的行動療法。それからあとはグリーフワーク、悲嘆作業の問題だと思いますけれど、悲嘆療法というようなものの有効性というのも、いろいろ論文なんかには載っています。

 一応、我々のところのものをちらっと紹介しておきますけれども、週1回でこんなふうに、動機づけから始まって、再発防止までの治療までやっています。あとは弁証法的行動療法といいますのは、患者さん自身のパーソナリティにいろいろ問題があって、それ自体に働きかけるという、比較的新しい治療です。

 あとは、これを我々のところだけでやっていてもだめなので、やるのなら日本全国に広めてほしいということで、提案していって、きっちりとその認定のカウンセラー制度のようなものを作って、あとはスーパーバイザー制といって中央からきちんとやっているかどうかという質を保つというような仕組みです。このようなことを導入してもらって日本全国に広げてほしいというのが私の考え方で、それも位置づけています。というぐらいのことを1年以上前までずうっと言い続けたのですけれど。

 その後、昨年警察庁から予算をいただきまして、オーストラリアとイギリスという2つが一番世界でも進んでいると言われており、そこに視察に行ってきたので、その様子を少し紹介したいと思います。

 これはオーストラリアのメルボルンの近くです。こういう治療の施設があります。これはストーカーに限らず、性犯罪とか児童虐待とか、いろいろ入っていますが、特徴は研究施設と治療施設が一体になっていて、何かコントロールスタディをやって、「これは意味がある」と言ったら、すぐ政策、法案になって、実行に移されるというあたりがオーストラリアの非常にいいところだと思っています。

 この方は、ストーカーのリスクアセスメントを作られた、結構世界的に有名な方です。これは精神科医で、この方も有名な人です。これが先ほど言った研究所部門で、今恐らく彼女がストーカー研究の世界のトップだと思います。特に病理なんかについて。

 ここはメルボルンの治療施設なのですが、彼らは週2回の、全40セッションをやっていて、1人に大体100万円の治療費をかけています。年間100人から200人ぐらいを診ていて、それだけで何億円というお金になると思うのですが、治療施設を含めると大体10億円ぐらいの予算の中で運用しているという話でした。

 あとは、これはクイーンズランド州に行って見てきました。これは少し方向性の違う試みで、これは州警察の本部です。警察の中にこういう組織があります。一番左の男性が心理の方です。真ん中の女性が警察官で、一番右が精神科医で、要はストーカーの事案があったら、それを心理の方と医者も含めて、どういうふうに解決するかということを相談しながら対応を考えるというような仕組み、それが警察の内部に組織自体があります。

 あとは、イギリスにも行ってきました。これはハンプシャー州の警察です。最後のほうでお話ししますが、MAPPA(マッパ)という仕組みがありますが、この人はそこの統括をしている男性です。これはまた後でお話しします。こちらは、ストーキングクリニックという仕組みがあって、ストーカーの専門の制度です。

 これはどうなっているかというと、ここに集まっているのは被害者の支援とかをしている人が相談を持ちかけてくるところです。この中に座っているのは警察官、それから日本でいうと保護観察官、あとは加害者治療をする者、あとアドボケーターといって、被害者、加害者の両方にアプローチして関係を取り持ったり調整をするような、そういう仕組みをやる人ですね。そういう人らが全部集まって、どういうふうに彼らに対応したらいいかということを話し合った上で行動に移すという仕組みです。これが、ここから始まって、今は「トルコまで行った」というふうに言って、ヨーロッパ中に広まっているという話です。

 こちらは、同様にイギリスなのですけれど、スコットランドのエジンバラに行ってきました。こちらも似たようなところではあるのですが、一番左にいる男性が精神科医で、その横に心理系がいて、あとは保護観察官に当たる人がいて、あと警察官がいて、もう一つ特筆すべきところは、右から2番目の女性は被害者支援をやっている人です。これは日本にはなかなかというか、ほとんどあり得ない状況で、私なんかは最初にお話ししましたけれど、加害者支援なんて言うと「けしからん」と言うのですけれど、そうではなくて、同じ場所に座ってディスカッションしながら対応を考える。そこに「日本ではそういうのは非常に抵抗が強いんだ」という話をしたら、「何で。目標は一緒でしょう」ということで、この女性は「そういうことに対して抵抗はない」ということを言っていました。

 要はざっくり言うと、日本で言うと厚労省、警察庁、法務省、加害者支援、被害者支援が、みんなで一体となっていろんなケースを解決していこうと、そういう仕組みになっているということです。

 まず一つ私が提案ということで、最近言っているのは、このストーキングクリニックというのを日本でもやってほしい。ちなみに、これはほとんど予算が要らないと私は思っています。具体的に移すことを考えた上で、場所は、どこか警察の一部でも使って、専門家に来てもらってアドバイスをして話し合いをするというぐらいのことなので、特に新しく人を雇うとか、そんなことをしなくてもできるのではないかと思っています。

 先ほど言いましたけれど、こんなようなメンバーで構成されているということです。これは流れで言うと、まず警察に事案が行って、チェックリストを使っていただくのはいいのですが、もうちょっときっちりとアセスメントしないと、自分で作っておいて何ですけれど、あれだけではやはりそんなきっぱりとできるのは無理だと。個別に、どういうケースなのかを綿密に検討した上で、この者には治療を勧める、あるいはこの者には別の、警告なり何なりの刑事手法的な対処を考えて、どうするのかと。あるいはストーキングクリニックの現場を見ていると、被害者に対する対応の仕方なんかの指導とかもいろいろ話し合いがされていました。「彼女は男性に会いながらも気を引くような行動をしたりするから、ちょっとやめさせといて」というようなことも重要なアドバイスというか。ストーカーというのは関係性の問題というのがある意味あるので、そういったこともやはり防ぐという意味では重要です。

 次に、治療か行政処分かということになってきて、まあ、今の中で精一杯やるとなると多分、一つ日本で法制度としてありながら、あまり有効活用されてないなと思うのは禁止命令と思いますけれども、やったとして、先ほど申し上げたようにどこまで効くかということについて、私はちょっと懐疑的なところがあって、禁止命令をどんどん出したから、これだけで止まるというふうには思ってないですけれど、有効活用するというのは1つの手ではあると思います。

 その先を少し考えてみたのですけれど、よくダイバージョンとかいって、刑罰か治療かという二分法のような感じでどうしても考えがちなのですけれども、私も法務省の医療少年院というところで働いて、厚生労働省の観察の病棟の目の前が研究所でしたので、そこでいろんな患者も診て、精神鑑定も100を超えていると思いますが、多数やってきても、こう簡単にはやはりいかないですし、かなり重なり合うと。治療と称しながら、日本の精神医療の中でも、ただ隔離をして、一時はロボトミーをするとか。

 あと、正直なところを言って、昔の文献を見ると日本の精神医療の歴史の恥ずかしい部分でもありますが、ストーカーは事実上保安処分で、精神病院とかに収容されていたのです。恐らくロボトミーの時代なんかには、「これは厄介だ」と言ってぱっとロボトミーなんていうのが多分されていたと思います。なので、単に治療に回せば全部解決するということでもないし、そう簡単にはいかない重なる部分があるというところです。

 私はそういうことで、最近言っているのは治療的保安処分というふうに考えています。保安処分とかいうと、我々の世界でも精神神経学会というのがあって、そこから石でも投げられそうですし、日弁連からもいろいろ言われそうですけれども、あくまで治療的保安処分というふうに言いたい。つまり、重なり合う部分でぎりぎりのところをきちんと、何か第三者の機関とか、そういう行き過ぎないような規制みたいなのは当然必要ですけれど、そこで医療にできることと司法ができることの、本当にぎりぎりのところを、あとは技術の進歩とかがあるので、そこを模索していく必要があるというふうに思っています。

 1個はGPSを導入するということを最近言っています。GPSというと、何か監視というふうになっていますけれども、単にこれは全地球測位システムという、場所を調べるというだけなのです。今も言いましたように電子監視システムというと、聞こえも悪いですし、また当然人権派が「許さない。そんな監視するなんて、けしからん」ということになると思うので、これは私もこれをそのまま導入ということはないのですけれど、あるいは世界的にも行われているわけではないのですが、勝手に被害者加害者支援システムというふうに名づけていますけれども、単に監視するだけでは彼らは止まらないというのが私の正直な印象です。

 そうではなくて、これは1つの私の案ですけれども、ある場所、被害者の住んでいる家とか職場とか、あるいはそのルートということが判明しているのであれば、そこに接近すると何か警告が鳴る。あるいは被害者に対して半径何キロ以内に近づくと、そこで何かアラームが鳴る。その他については加害者は自由に行動できるということで、特に人権上の問題というような、そういうものを技術的にはできるのではないかなと思っています。

 これが加害者支援とも言っているのは、禁止命令というのはイギリスなんかでも聞いたのですけれど、イギリスがGPSをやっているわけではないのですけれど、非常に細かくケースごとに禁止命令を出して、例えば「この道路に入るな」とか、いろんなものを出すのですけれど、そこには治療的意味があるんだと。専門的には行動療法というふうに言うのですけれども、そこに入らないということをずっと守ることによって、例えば相手に対する執着心がだんだん和らいだり、これは必ずしも加害者に何か罰則を与えるというだけではなくて、あるいは我々の治療の中でも、メールを何度も送ってしまうのをやめられないというのは、それはどうしたらいいのか、そういうことを具体的に認知行動療法というのをやっていくことなので、これ自体には治療的な意味があると思います。

 あとは、これを実行するにはどうするか。一つ私が考えているのは、単に急に導入すると、いろんな反発もあって結局動かないということになるので、実刑になって半年、1年で出てくるのであれば、実刑にして行刑施設に収容する代替としてこのシステムを本人に持ってもらう。特にこれを国費で導入するというと、多分予算的に大変だというふうに予測されるので、本人にそれは例えば支払いをしてもらうというようなことです。

 あとはいろんな管轄ですね。法務省でやるのか警察庁でやるのか厚労省が扱うのかという、いろんなことがあるとは思いますけれど、そういったことも議論しながらやったらいいのではないかと思います。

 あとは、少し省庁に対して思っていることを伝えたいと思います。これは海外に行って言われたことですけれども、いろんな重大事案なんかで、ぱっと接触をして、それに逆恨みした者が殺害に行くということをやっています。「何で保護しないのか。そんなの殺されるに決まっているじゃないか」という、「シンプルだね」と言ってばかにされましたけれども、そういう日本の問題で、まずきっちり、ただ全例を保護するというのはやはり難しいので、それはアセスメントというのが重要になってくると思います。

 あとは、今、治療を促すという試みが行われていますけれども、なかなか実際上、来る人が少ないというのがあって、動機づけをどうするのかということは一つ問題になると思います。

 あとは、保護手法については、やはり医療が貧困過ぎます。これはストーカーに限らないのですが、あとは保護観察も今のでは、正直、無いほうがましだというぐらいに思っています。

 ただ別に、現場の方は一生懸命やっているのはよく分かっていて、やるのなら予算も印象としては今の50倍とかそのぐらいの予算の中で保護観察制度というのをやらないと、保護司が足りないとかそういうレベルで議論していても全然解決にならないと思います。

 あと省庁で言うと、厚労省は本当に全くやる気がないというか、コメントもしたくないのか何だか分からないですけれど、一緒に考えようというのがないです。これは私もその直轄の研究所に5年間いたのですけれど、非常に恥ずかしいことと思っています。医者としてもです。

 最大の問題は、連携ができないということです。縦割り社会とよく言われると思うのですけれど、実際聞いてみると、役所の方も「プライドがあってね」とかということをおっしゃるけれど、ストーカーにも、よいプライドと悪いプライドと言いましたが、悪いプライドとしか言いようがないと思います。

 これについてはイギリスの状況も聞いてきたのですけれど、やはりプライドとかというのは世界共通みたいで、「イギリスでもそうだよ」と。そんな、日本でいうと厚労省ですね、「あんなようなところと一緒にやりたくない」とか。それはあるけれども、連携をしなさいという法案があって、それを守らないことに対して罰則規定があって、話によりますと日本でいう最高裁まで行って、最終的にどっちが悪いとか、そういうのが争われたということを聞きましたけれども、これが必要じゃないかと思います。

 ちなみに、これはイギリスではMAPPAと呼ばれていて、多機関公衆保護協定ともいいます。要はみんなで、省庁でプライドとか何とか言って縦割りでやっているんじゃなくて、ストーカーならストーカーの問題について同じ席に着いて話し合いをしなさいということです。

 ほかにも、こういったふうにずらずらと、いろんな暴力関係が並んでいますが、いろんな問題にこれらが含まれています。

 私が言いたいのは、今回は犯罪被害者週間ということでお呼びいただきましたけれども、途中でも述べましたように、目的としていることは同じはずで、こういったことのない社会を作る、再犯を防ぐ、被害に遭わない、そのためには加害者を治療なりいろんな手段を使いながら更生させていくということになると思います。そんなようなことで、この中に被害者支援の方もおられると思いますけれども、協力体制を作りながらこういった重大事案をゼロにできたらというふうに考えております。

 以上です。

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