埼玉大会:パネルディスカッション

「性暴力被害とその支援について」

コーディネーター:
飛鳥井 望(公益財団法人東京都医学総合研究所副所長)

パネリスト:
望月 晶子(弁護士)
山本 勉(越谷市立病院名誉院長)
新井 ひろみ(埼玉県警察本部警務部警務課犯罪被害者支援室長)

飛鳥井: 後半のプログラムは「性暴力被害とその支援について」、それぞれのお立場の専門家の方々を交えた議論を進めたいと思います。本大会は、犯罪被害者等に対して適切な配慮や支援がなされる社会づくりを推進するために、国、地方公共団体、それからさまざまな関係機関の方々の連携のもとに開催をしておるものでございます。本大会のトピックとして取り上げたのは、性暴力被害についていかに支援を今後構築していくかということでございます。

ご存じのように、性暴力被害の影響というものは、先ほどの小林美佳さんの基調講演でもお話があったように、大変大きな社会問題になっております。そして、事件化したものだけではなくて、大変多くの方が暗数としてといいますか、表に出せないで、しかし、個人的には苦しんでおられるという実情がございます。このパネルディスカッションではそういったなかなか支援が届きにくい方々も含めた上で、どうやって支援を展開していくかということでお話をしていくことができればと思います。

小林さんの先ほどすばらしい基調講演を賜りまして、その中で「あとは専門家の方々から有益な示唆が得られるでしょう」ということで、大きな宿題をいただきました。

それでは、まず簡単にパネリストの方も含めて自己紹介をお願いできればと思います。

私から始めますが、私は精神科の医師でございます。東京都の研究所に勤めておりますが、長らく被害者支援都民センターの理事もしておりまして、それから実際に今は犯罪被害者の方のためのいろんなプログラムを提供しております。精神科のコンサルタントとして定期的に都民センターで活動しております。臨床心理士と一緒に精神的な援助に携わっているという立場の者でございます。また、個人的にはいわゆるPTSDと言われるトラウマによる影響の研究や臨床実践の仕事もしてまいりました。

それでは、続いて、望月さんから。

望月: 東京で弁護士をしております望月晶子と申します。現在、今年で弁護士は15年目です。弁護士会の中にいろんな委員会というのがあるのですけれども、私は、弁護士になったときから犯罪被害者支援委員会というところに所属しまして、多くの犯罪被害者の方の支援をさせていただきました。その中で、女性弁護士ということで、性犯罪の被害者の方の支援をさせていただくことも多く、そういった弁護士としての支援をやってきた中でというか、弁護士だけでできることというのは本当にわずかだなということを感じまして、被害者の方のためにできるだけのことをという思いで、2年前、2012年の2月に、皆様のお手元にパンフレットを配らせていただいているかと思うのですけども、現在NPO法人になっていますレイプクライシスセンターTSUBOMIというところを立ち上げましていろいろな、臨床心理士さん、社会福祉士さん、精神保健福祉士さん、サバイバーの方などと一緒に性暴力被害者の直接支援というものを総合的にできるようなセンターを目指して活動を行っています。今日はよろしくお願いいたします。

飛鳥井: それでは、続いて山本さん、お願いします。

山本: 私は現在、公益社団法人埼玉犯罪被害者援助センターの理事をしております山本と申します。実は年齢を言いますと、もう古希を過ぎております。私は産婦人科医であり、産婦人科医師が少ないということで、いまだに週に4回、臨床の現場で仕事しております。そんな中で、実は1年ぐらい前に援助センターの理事を引き受けてくれないかと依頼がありました。被害者援助センターに属してまだ日数が浅いのですが、今回、犯罪被害者援助センターの紹介と産婦人科医としての支援についてお話しをしたいと思います。よろしくお願いいたします。

新井: 埼玉県警察本部警務課犯罪被害者支援室長の新井でございます。
これは当支援室のパンフレットです。「話してみませんか」書いてあるんですけれども、話していただく、話してみることで、今受けられる支援、どこか関係機関につなぐことのできる支援というのがたくさんあります。今日はそんな支援についてお話をして、皆さんに御理解いただければと思ってまいりました。どうぞよろしくお願いいたします。

飛鳥井: ありがとうございました。
それでは、早速ディスカッションに入りたいと思いますが、最初に現在の活動についてそれぞれの立場からちょっと御紹介をしていただければと思います。
望月さんのほうから、法律家のお立場から、法的な支援を含めて、今の活動について少し触れていただければと思います。

望月: では、性暴力被害者への弁護士による支援ということでお話しさせていただきます。

最初に、性犯罪の件数というものを見たいのですが、皆さん、自分が被害に遭うはずがないとか、性犯罪なんていうのは関係ないというふうに思っていらっしゃる方が、性犯罪に限らず犯罪一般について思っていらっしゃる方が多いのではないかと思うのですけれども、これを見ていただきますとわかるように、強姦、これは警察が認知した件数で、平成24年では強姦で1,240件、強制わいせつで7,263件、公然わいせつ2,975件、わいせつ物頒布等1,320件、ストーカー規制法で328件、青少年保護育成条例で2,310件と、児童買春児童ポルノなども含め、これを全部合計しますと、警察が認知した件数だけで1万8,166件、ほぼ毎日のように何十件も性犯罪というのは起きているわけでして、強姦でも毎日3~4件は起きて、認知されているわけです。

ですけれども、内閣府が平成23年に行った調査によれば、異性から無理やり性交された女性のうち、警察に連絡・相談した被害者というのは3.7%にすぎないことからすれば、この1,240件の30倍ぐらいの女性が、異性から無理やり性交されている。となると毎日何十人、100人単位の女性がそういう目に遭っているというのが現実だということを、この数字で明らかにわかると思います。

私のお話としては、私たち弁護士がどういう支援をするかということなのですけれども、これも同じ内閣府の調査からですが、異性から無理やり性交されて、民間の専門家や専門機関、そして弁護士・弁護士会、カウンセラー・カウンセリング機関、民間シェルター、こういったものを全て合わせて、こういう民間の機関に相談した被害者というのは0.7%にすぎません。ですので、私たち弁護士のところに相談に来てくださっている方というのは、被害に遭った人の中で0.1%いるかいないかなのではないかと思います。だから私たちは、来てくれた被害者に本当に真摯に対応しなければいけないと思ってやっています。

弁護士による被害者支援、ここにずらっと書きましたけれども、ちょっと時系列で、これは必ずしも性暴力被害者に特化したものではありませんが、一般的に弁護士が被害者のためにどういうことをできるのか、しているのかということをご説明したいと思います。

かつてというか、多分今でも弁護士というのは犯罪者の味方というか、国選弁護人、加害者のためにいかに無罪を勝ち取るかとか、いかに刑罰を軽くするかということに、弁護士はそういう仕事をしていると思われるのではないかと思うのですけれども、今では被害者のためにも弁護士はいろんな仕事をしています。

事件が発生すれば、まず警察にすら行けない人のために一緒に被害届をつくって警察に行くというようなこともします。マスコミ対応をしたり、それから示談対応、加害者側との示談対応をしたり、裁判になれば裁判の中で、被害者が参加すると言えばそのお手伝いをしたり、犯罪被害者等給付金の申請の手伝い、それから、事件が発生して裁判が終わって、加害者が刑務所に行った後も、加害者が刑務所の中でどういうような生活態度であるか、そういう加害者情報をもらうことができますので、そういう情報を代わって代理人で受け取ったりとか、加害者が仮釈放になるかもしれないというときに意見を述べるお手伝いをしたりとか、加害者が出てくるに当たって心情を伝えることができる制度があるので、そういうことの手伝い、いろんな局面で被害者の方のために私たち弁護士はいろんなことをしています。

これも本当にちょっと前までは、加害者側には弁護士会がお金を出す当番弁護士や、国がお金を出す国選弁護人という制度があって、何で加害者には無料で弁護士がつけられるのに、被害者にはないのという状況だったのですけれども、近年、被害者も弁護士の支援を受けることが増えてきて、数年前から被害者が裁判に参加する場合には、弁護士に委託して援助が受けられるようになりました。そして、経済的に余裕のない方については、被害者参加する場合には、国が弁護士報酬負担してくれますし、被害者参加以外の支援については、日弁連が弁護士費用を負担する制度があります。

今ちょっと簡単に被害者参加って申し上げてしまったのですけれども、詳しいことは時間がないので御説明できませんが、今は被害者の方が裁判に積極的に出て参加をして、証人や被告人に対して質問をしたり、加害者をどれくらいの刑にして欲しいといった意見を述べたりというようなことができる制度があります。

これも、性犯罪の被害者が自ら積極的に裁判に参加することなんてなかなか無いのじゃないかというふうに思われるかもしれませんけれども、実際、被害者参加の数というのは意外に多くて、平成25年のデータですが、強姦罪、強姦の被害者で52件、強姦致死傷で34件、集団強姦、集団強姦致傷でも2件、強制わいせつで70件、強制わいせつ致死傷で30件、強盗強姦8件といった、200名以上を超える被害者の方が去年1年で、自ら積極的に裁判に参加しています。

もっともこれは必ずしも被害者本人ではなく、弁護士に頼むこともできますので、必ずしも被害者本人が裁判所に行った、法廷に行ったかどうかはわかりませんけれども、少なくともこの遮へいがされている分についてはご本人もいらしたのではないかと思いますし、意外に性犯罪の被害者というのはみずから積極的に裁判に関わるという意思を持っていることがあるので、その場合に私たち弁護士がするべき支援というのは非常に多いです。

いろいろなことをやっていく中で、性犯罪に特別なものというものは制度としてはないのですけれども、性犯罪の場合によく使うものというか、使われるべきものとしては、被害者の方の名前を公開の法廷で明らかにしないとか、裁判に出る場合に付添いがついたり、被害者支援センターの方などに付添いに来てもらったりとか、被害者が裁判に出る場合に遮へい措置をするというような制度が、今はあります。これらについて、性犯罪だから当然にこういった措置がとられるわけではないので、私たち弁護士が支援をしていく中で裁判所や検察官に働きかけてこういうことをやっていく必要があります。

今の付添いとか遮へいについて、ちょっと具体的なイメージを持っていただければと思って絵にしました。特に性犯罪で、裁判員裁判なんかの場合に、目の前に裁判官3人、裁判員が6人ずらっと並んだ法廷に被害者が行くというのは非常に不安なのですけれども、その場合に、例えば被害者が裁判でここに座る。これは加害者ですね。被害者が頑張って裁判所に行っても、加害者を見たくない、見られたくない、傍聴席から一般の人に見られたくないというような場合にはこういう遮へい措置をとってもらうことができます。

あと、被害者が自ら意見を述べたいですとか、証人として出廷して何か証言しなければいけないという場合、もちろんビデオリンクという方法もありますけれども、実際に法廷で証言するような場合には、ここに、証言台に被害者が立って、その周りに衝立を立てる。そしてなおかつ、支援センターの方のような、安心できる方にそばについていてもらう。そうやって被害者の方が裁判に来ても安心できるように、現在ではある程度整備がなされて、進んできてはいます。こういったことができるだけ被害者の方に行き届くように、私たち弁護士としては支援活動を行っています。

飛鳥井: ありがとうございました。それでは山本さんのほうから、産婦人科医の立場、それからまた現在、埼玉での性犯罪被害者への支援協定といったような動きもあるということで、そのようなご紹介も含めてお話をお願いいたします。

山本: スライドをよろしくお願い致します。

既に望月先生のご講演から、性犯罪の実態についてお話がありましたが、殺人というのは「肉体の死」を来すと言われますが、強姦にまつわる強制わいせつとか、いわゆる性暴力犯罪は「魂の死」を招くと言われています。すなわち、被害者が被害を一生背負っていかなければいけないという、極めて憎むべき犯罪だと考えてよろしいかと思います。既に強姦の件数について、あるいはその実際に届けられる件数についてお話がありましたが、少しつけ加えますと、性犯罪の被害者の約50%は、未成年であるという実態で、これはまた非常に大きな問題であると思います。

性犯罪の被害率の傾向を見てみますと、アメリカというのはやはり昔から性犯罪大国と言われておりますけれども、アイルランドが世界で最も被害率が高く、意外と低いのがフランスということになります。日本の被害率の1.3%という数字は人口割ですから、男性、女性を合わせての数値でありまして、実際は約2.6%と言う事になります。

さて、平成16年に犯罪被害者等基本法が制定されました。この法律は性犯罪を含むあらゆる犯罪に遭遇した方々を救済する目的で制定され、犯罪被害者の権利、利益の保護を図るものでありますが、法律が制定されて未だ8年しか経過しておりません。

ここで産婦人科の性犯罪に対する取組のお話しを致します。先ず、産婦人科医の全国的な団体として「公益社団法人日本産婦人科医会」と言う組織があります。既に平成14年に「性犯罪被害者の取り扱いについて」という、記事が医会の機関紙に掲載され、産婦人科医として性犯罪に対する対応について注意喚起が促されております。そして、マニュアルの作成、チェックリストの作成、性犯罪被害者の取り扱いを「産婦人科診療ガイドライン」に載せるという事を平成14年から現在に至るまでやっております。その経過の中で、「ノルレボ錠」と言う名称の緊急避妊薬を日本産婦人科医会が強力に厚生労働省に働きかけて早急に承認させた経緯があります。

その日本産婦人科医会の下部組織に埼玉県産婦人科医会がありまして、埼玉県産婦人科医会は平成25年9月に埼玉県、埼玉県警察本部、公益社団法人埼玉犯罪被害者援助センターとの4者間で、「暴力・性犯罪被害者への支援における連携・協力に関する協定」を締結致しました。これは、それまでは個々に行われていた性犯罪被害者の支援を関係各分野が協力して行おうというもので、極めて大きな意義を有するものであります。

まず埼玉犯罪被害者援助センターそのものはどういう目的で、どういうことをやるのかということですけれども、ここに性被害ということが書いてありますが、それ以外にも全ての犯罪被害で苦しんでいる人たちを、一日でも早くその被害から解放されて、ふだんの生活に戻れる様な援助を目的とする、ということで平成14年に埼玉県犯罪被害者援助センターが設立されました。具体的には被害者に寄り添う形での援助が中心になされております。時間がありませんので、詳しいことは割愛させていただきます。

先ほど、「埼玉県被害者援助センターを含めた4者間で協定を結んだ」と申しましたが、協定締結後、援助センターはその組織の中に性犯罪被害に特化した「アイリスホットライン」という名称の部署を設け、ホットライン(専用電話)の設置、ホームページを立ち上げ、相談時間を延長、マニュアル作成等々を実行し、性犯罪に対しての連携、協力、そして支援を現在積極的に行っているところであります。例えば、このリーフレットにQ&Aが書いてありますけが、「警察には相談できないけれども、どうしたらいいでしょうか」という相談。警察というのは性犯罪被害者には敷居が高いという認識があるわけですから、警察を抜きにした形で性犯罪被害者からの相談を「アイリスホットライン」で積極的にやっているということです。「アイリスホットライン」のホームページを後でご覧になっていただければありがたいと思います。

それでは「アイリスホットライン」というのはどのような支援を行っているかと申しますと、今お話ししました電話相談、面接相談、それから付添い支援ですね。法律相談といたしまして弁護士による毎月2回の無料相談を行っております。更にカウンセリング、そして被害者の治療補助等も行っており、以上のようにこの「アイリスホットライン」というのは性犯罪被害者に対して幅広く援助・支援を行っております。

どれほどの方々が「アイリスホットライン」、あるいは「犯罪被害者援助センター」に来所しているかといいますと、まだアイリスの認知度は低く1年間で71件位、それからセンターのほうには278件、トータルとして349件であります。また、ホームページのアクセス数につきましては、まだ立ち上げて間もないものですから、大体援助センターが3,000件、アイリスが350~360件です。電話件数についてはセンターが306件、アイリスが56件です。1日平均にしますと、センターは2.1件、アイリスは0.5件となっております。

次に医療側が性暴力被害者にどの様な対応をしているか、というお話をしてみたいと思います。性犯罪・性暴力を受けた方が、医療機関に来院する流れが2つあります。本人のみ、あるいは友人、家族と一緒に来院する場合と本人が警察官に付き添われ来院する場合です。警察官と一緒の場合は警察官から状況説明を受け、医師が証拠を採取する、あるいは各種検査、治療をするというような流れです。警察は早速、捜査に乗り出します。

本人が警察官を伴わずに来院した場合は、「警察に連絡しますか、しませんか」を問い、警察に届ける希望があれば、所轄の警察署に連絡し警察官の来院を待ちます。警察に届けることを希望しない場合、医師は警察に届けずに、必要な検査・治療行います。しかし、そこで診療が済むと全てが終了することになってしまうわけですから、「アイリスホットライン」の存在を説明し、相談することを強く勧めます。

性犯罪被害者に対する医師の役割は、ここに6項目書いております。まず、けがをしている事が多いわけですから、外傷の評価と治療をしっかりやるという事が大切です。即ち細かな、よく見なければわからないような傷があるか否か、そういうところまできちっと診なければ将来、刑事事件に発展したときには証拠としては残らないわけですから、「くまなく診る」ということをします。性暴力の中の約40%は外傷があり、そのうちの1%は入院を必要とし、0.1%が致死的であると言われております。診察・検査後の処置として消毒と鎮痛剤、抗菌薬の投与そして妊娠の可能性があるか否かということを判断致します。診断書は診察結果を詳記し、治療内容、治療期間を記載します。

妊娠について述べます。強姦による妊娠率は5%から10%と云われ、米国では年間3万5,000人が妊娠していると云われております。本邦では先ほどお話ししました様に、「ノルレボ錠」を性交後72時間以内に投与すれば妊娠は約1.1%から1.5%以内に抑えられます。そういう意味では非常に有力な薬剤でありますが、ただ副作用もないわけではございません。また、被害の日から3週間以上を過ぎても月経がなければ妊娠の可能性を考えなければいけません。ただ、微妙な問題がありまして、パートナーとの性交渉の日数の差が殆どなければ、どちらの男性が妊娠の原因になっているかという問題もあるものですから、遺伝子検査が行われる国もある様ですが、日本ではまだそこまでの体制はございません。「ノルレボ錠」は1999年にフランスで初めて承認され、日本での承認はそれから13年後であります。100%ではありませんが、犯罪行為による望まぬ妊娠を予防する事が出来るようになった事は画期的な事であります。

それから、性感染症の予防という事で、1回の強姦でどれ位、罹患するかを示しましたが、必ずしも全てが感染するということではありません。実は、性感染症で注意しなければいけない疾患は7つございまして、淋菌、クラミジア、トリコモナス、カンジダ、梅毒、B型肝炎、HIV、この中で最も注意しなければならない感染症はB型肝炎です。この疾患は放っておきますと、将来肝炎になり肝硬変になり、肝がんになり、死に至ると云ういう事で、ほかの感染症はコントロールできますが、このB型肝炎だけは治療法が確立しておりません。ちなみにHIVによるAIDSは寛解といいまして発症予防が可能となりましたが、B型肝炎はそこまでに至ってはおりません。

性犯罪被害時及びその後の通院にかかる費用についてでありますが、現在、公費負担制度というのがございまして、これは地方自治体が援助しております。どこまでお金を出すかということは県により異なりますが、埼玉県の場合は性犯罪に関わる通常の医療行為は全て無料です。人工妊娠中絶の費用も負担することになっております。但し現在、この公費負担制度を利用できる場合は警察に被害届を出している場合に限ります。

心理的・精神的サポートの提供につきましては、飛鳥井先生の専門分野でありますので、私は割愛させていただきますけれども、とにかくその後のメンタルヘルスというのは極めて大事ですということだけをお伝えしたいと思います。長期的影響に対するケアというのは、いろいろな疾患がありますが、この点は本邦では極めて不十分でございまして、今後考えていかなければいけない重要な課題です。

それから、10月31日に性犯罪の厳罰化を議論する国の有識者会議が開催されましたが、翌日の朝日新聞に、「性犯罪を減らす」という見出しで話し合われた内容が記載されておりました。この中の1つは、「強盗は懲役5年以上なのに、何で性犯罪の強姦が3年以上なんだ、これは話としてはおかしいのではないか」という意見であります。しかし厳罰化が性犯罪を減らすことの抑止力になるのかというと、難しい問題もあるようです。一方で性犯罪者は再犯が多いという事実があります。繰り返す性犯罪者は疾患を有する者という捉え方で治療を行い、社会システムの中で減らすような努力も必要であると思います。先ほど御講演された小林さんが性犯罪者の厳罰化に対してコメントを載せております。

最後に、全ての性犯罪被害者に対する支援のあるべき姿というのは、先ずは中長期的支援が行える、警察への被害申告がなくても誰でも支援が受けられる、そして特に心理的な支援を長期的に行なえる、更にこれらの事が1カ所で行う事ができれば理想的ですが、なかなかそこまでは難しいのが現実です。

性暴力被害をゼロにするためにはどうしたらいいかというと、それは性暴力加害者をゼロにする社会を目指すということしかないと思います。しかし、極めて難しい現実があるということを述べまして、私の講演とさせていただきます。
どうもありがとうございました。

飛鳥井: ありがとうございました。それでは、続いて新井さんから、警察の立場からのいろいろな被害者支援の話を含めてお願いします。

新井: 性暴力を中心とした支援についてお話をさせていただきます。

まず、大きく分けて4項目になります。性暴力は心身ともに被害者に重大な被害を与えるということで、警察としても二次被害を防止するために細かな対応を行っております。

まず1点目、直接的支援について申し上げます。これは、警察は届け出により捜査を開始するわけですが、女性の被害者の方には女性警察官を事件支援要員として指定しまして、事情聴取や病院などの付添いやカウンセリングなどの活動をさせていただいております。

そのほか、当犯罪被害者支援室は犯罪被害者相談センターを兼ねておりまして、臨床心理士による被害者相談なども受け付けております。なお、少年の被害者の方もいらっしゃるわけなので、それについても少年サポートセンターのカウンセラーのほうにも引き継ぎを行わせていただいております。

やはり話をするということは、誰かがそばにいる、誰かに話を聞いてもらうということは被害回復に非常に重要だと思っております。1人ではないと感じていただくためにも、警察に対する届け出を躊躇されるという場合もありますけれども、やはり勇気を持って是非警察に話をしていただければというふうに思います。

2点目、経済的支援について申し上げます。これは時間の関係でちょっと割愛いたしますが、今山本さんからもありましたように、公費負担ということで、被害者の方の負担を減らすために、診察費の文書料や初診料などの負担をさせていただいております。

特に性犯罪の被害者の方に関しましては、初回処置費用ですとか感染症の検査のための費用、人工中絶費用なども公費負担させていただいております。そのほか、届け出をしていただいたときに衣類が汚れているとか、そういうような方については代替着衣というのも用意しておりまして、それも提供させていただいています。なお、落ち着いて話が聞けるようにということで、犯罪被害者の方専用の相談室を設けておりますので、警察署の相談について安心して来ていただければというふうに思います。

3点目は、支援制度に関する必要な情報提供・説明についてです。情報提供も大切です。なぜかというと、被害に遭ったけど、どこに相談していいだろうというようなところで窓口を見つけるということで必要なわけです。

今見ていただいているのは「被害者の手引」というものです。被害者の方に、警察が届け出を受けましたときに配布させていただいております。交通事故の被害に遭われた方は別の手引きですけれども、このような形で情報提供として行っております。中に何が書いてあるかといいますと、相談窓口であります。犯罪被害者支援室、けいさつ総合相談センター、警察の内部の窓口ではありますが、そのほかに検察庁や公益社団法人埼玉犯罪被害者援助センター、アイリスホットライン、それから法テラスであります日本司法支援センターの連絡先なども書いてあります。

次に、この手引きの中に犯罪被害者給付金制度というのも書いてあります。これは故意の犯罪行為によりまして重大な被害を受けた被害者の方に対する負担軽減ということで、国が給付金ということで給付しているものです。種類は3つあります。最高約3,000万円まで支給される遺族給付金、重傷病給付金は、けがの治療費とかが含まれるのですけれども、120万円まで支給されております。障害給付金は障害が残った方に、最高約4,000万円まで支給されるということで、この3種類について給付金の制度を表示しております。親族間で行われた犯罪ですとか、一定の規制はありますけれども、都道府県公安委員会の裁定によりまして全部又は一部は支給されないこともありますが、被害者の負担軽減に役に立っているのではないかと思います。過去に性被害に遭われてPTSDを発症された方がいらっしゃったのですけども、障害給付金を支給されたというような事例があります。

4点目は、関係機関との連携について申し上げます。先ほど話題が出ました協定の関係です。まずその前に、武蔵浦和合同庁舎のラムザには、当犯罪被害者支援室と民間の被害者援助団体と、埼玉県がいわゆるワンストップということで、同じフロアに集約しております。これは一度相談をしていただいた方が同じことを何度もお話ししなくても、1回の相談で必要な支援が提供できる目的で体制を取らせていただいています。相談によっては支援協議や会議などを設けて、必要な支援ができるようになっています。

あわせまして、このいわゆるワンストップの三者と、先ほどの協定における産婦人科医会、四者で締結をさせていただきました。この協定の意味は非常に大きくて、警察に届け出をしない方が産婦人科医に来た場合に、警察への通報を促していただく。それから「警察には届け出をしたくないわ」という方については、民間の援助センターに促していただいて支援につなげていくというような取組をさせていただいています。

飛鳥井: 3人のパネリストの方、ありがとうございました。

それでは私のほうからも、精神科医という立場から被害者支援都民センターでの活動を紹介させていただきます。

都民センターが大体、年間で5,700件の相談件数がございます。埼玉のアイリスのホットラインのような性被害に特化したサービスはないのですが、実はその5,700件のうちの約4割2,400件が性被害の相談です。これはもうダンドツで、いろいろな被害の中ではやはり性被害が多いというのが昨今の事情でございます。

それから、PTSDという立場から見ますと、深刻な性被害は最もPTSDの発症率が高いということが知られておりまして、約半数の方がPTSDの状態になられます。自然災害や交通事故などに比べてPTSDの発症率が高いということが知られております。したがって、私どものところに相談に来られる方も、実に多くの方がPTSDの症状で困っておられる。先ほどの小林さんのお話にもありましたけれども、フラッシュバックですとか、それからいろいろな物事を避けてしまうような回避症状ですとか、さまざまな心身の影響が出てまいります。そのために非常に自分を責めてしまったり、あるいは自分が汚れてしまったといったような、自分を否定的に見るといったようなことがございまして、生活の全体が萎縮してしまう。

その中で、辛うじて生きていかれるのですけども、仕事があり、あるいは勉強がありといったような場面でふだんのご自分の力が発揮できないために、雪だるま現象というんですが、二次的、三次的にいろいろなことがうまくいかなくなっていく。いわば人生が、ボタンをかけ違っていくといったような状態になるんですね。それをいかに早く食いとめて、もとの健康な生活に戻っていっていただけるかというのが、この性被害からの回復という意味ではとても大きなテーマになります。

従来はもちろん、そうなると精神科ですとか心療内科とか、あるいは臨床心理士さんといったところに紹介をさせていただいていたのですけれども、やはりでこぼこがございまして、慣れている方と、それから実はほとんど経験のない方がおられたりして、なかなか十分なケアというものが期待できないといったようなこともございます。そこで思い切って都民センターでは、通常の支援と並行してPTSDのための専門的な心理ケアプログラムを現在は提供しております。

方法は認知行動療法というものなのですけれども、今PTSDの治療に最も有効であるということが国際的にも検証されているものでございまして、それを並行して進めておりまして、実に多くの方がそのことで、かなり早い段階で回復をしていっていただけるということが実現をしております。

こういう取組は、東京モデルとして行っているのですが、まだまだ国内でも少ないですし、世界的にもまだ少ないのですけれども、こういうような有効なケアのモデルと被害者支援とがうまく連携したようなことがいろんなところで行えるようになっていくことができればということを願っております。

先ほど山本さんから「魂の死」とか「魂の殺人」ということが言われましたが、本当に長期の爪痕が残るんですね。単にPTSDかどうかということだけではなくて、深刻な性暴力の被害というのは長期の爪痕を被害者の人に残して、そのためにその後の人生にいろいろな悪影響を及ぼしますので、それをいかに軽減していくかというのが支援という立場からも大変重要なポイントだと考えております。精神科医の間でもだんだんとそういう知識は今広がっているところだと思います。

それでは、それぞれの立場からの報告がありまして、今後の問題としていろいろ課題がございます。確かに10年前はほとんど何もなかった。しかし、この10年間でいろいろな領域でお話があったような進展というものがございます。それでもまだまだこれから先を見て、いろいろなことを検討していかなければならないのですが、それについて少しお話しいただければと思います。

まず山本さんから、産婦人科の立場から見て、これから拠点病院化していこうかといったようなお話と、それから援助センターでの活動をさらに広げるといったようなお話についてお願いいたします。

山本: まず援助センターの側から申しますと、人員が限られている、実際に被害者からの電話を受ける時間が限られている、土日祭日はやっていないということもあるわけで、更にサービスを充実させるためには、人、物、金と申しますか、そういうものが充実しなければ難しいのかな、と。これは国の指導よりも地方公共団体が積極的に介入していただく必要があると思います。今私たちのやっているこのセンターというのは、あくまでも民間でありまして、皆様の浄財に頼ってやっている会なものですから、公的な援助も得て被害者に対するサービスをもう少し広げられなければならないというところが1つです。

それから、医師の側から申し上げますと、性犯罪被害者に積極的に立ち向かう医者は、意外と少ないということです。埼玉県は、埼玉県医師会は東西南北4つに区分けがされておりますから、それぞれの区分けの中に1カ所なり2カ所なりに拠点病院をつくりまして、その病院を受診すれば365日、24時間診察を受けられる体制が出来れば、と思っておりますけれども、今のところはそういうシステムはございません。将来への課題と思っている次第です。

飛鳥井: ありがとうございました。それでは、新井さんのほうから、本当にこの10年間いろいろな制度やサービスはそれなりに整ってきているのですが、それそのものがまだ知られていないといったような実情があって、そういうもどかしさを感じられているということなので、是非この機会に少しアピールしていただくことがあればと思います。

新井: ありがとうございます。まずいろんな支援というのは警察も年々充実しているという状況であります。ただいま申し上げましたように各関係機関との連携についても、少しずつではありますが、進めている状況であります。しかし、残念ながらまだその制度が知られていないのではないかなというふうに思われるところもあります。ですので、今後の支援といたしましては、まず3点ありまして、いわゆるワンストップサービスですね。これの充実をまず1点目に挙げさせていただきたいと思います。埼玉県犯罪被害者援助センターは、民間ではありますけれども、埼玉県公安委員会が指定いたします早期援助団体というふうになっております。県のほうは、県の防犯・交通安全課というところが被害者支援の窓口として、各市町村、その他の関係機関との連携・調整をやっていただいているところですので、ラムザになるべく多く来て、利用していただき、支援につなげていただければというようなことを思っております。

2点目は、先ほど申し上げた四者協定の充実です。ちょうど1年たちましてアンケートを実施いたしました。直接、医療機関に行かれた方が、警察の届け出をされた、それから援助センターの支援につながったという事例はありますが、まだまだ少ないので、これについても充実を図っていければと思います。

それから3点目、最後です。警察の施策ですね。充実はしてきておりますが、更に警察内部の教養を進める。また、一般に向けていろんな機会を通じ、「こんなのができますよ」ということをアピールして理解していただき、支援をつなげて、被害者の方が少しでも早く回復できるような、そんな形になればいいというふうに思っております。

飛鳥井: それでは望月さんのほうから、望月さんは弁護士としてのお仕事のかたわら被害者支援のためのNPO法人の活動もされておりますので、そういったような活動から見た今後の支援のあり方について、少しお話を伺えればと思います。

望月: 今先生方が、365日、24時間ですとかワンストップセンターというお話をしてくださいましたけれども、国連では国連がつくった女性に対する暴力を規制する法律を制定するためのハンドブックでは、女性20万人当たりに1軒、レイプクライシスセンター、国連の定義で言いますと被害者に必要十分なサービス、妊娠検査、緊急避妊、性病、けがの治療、心理的ケア、こういったものを、警察に被害届を出すか否かは関係なく公費で提供するところを設立すべきというふうにされています。

日本でも第二次犯罪被害者等基本計画で、性犯罪被害者のためのワンストップ支援センターの設置促進というのがうたわれ、内閣府でその手引きを作成したり警察庁ではモデル事業を行いました。ですが、実際にはワンストップ支援センターの、ぼちぼちとですけれども、最初につくったのは、今大阪のSACHICO(サチコ)も民営ですし東京のSARC(サーク)も民営、なかなかやはり資金的な問題ですとか、人材確保も大変ですけれども、まだ全国で10件いくかいかないかというところではないかと思います。

センターのあり方としては、病院の中にセンターをつくる病院拠点型ですとか、相談センターを中心とした連携型というようなものが、内閣府がつくった手引きの中でも示されていますが、なぜ、性暴力被害者に特化したワンストップセンターが必要なのかというところですけども、飛鳥井先生も山本先生も都民センターとか支援センターで一般的な犯罪被害者全ての方の支援に携わってやってくださっているのですけれども、私も自分がNPOを立ち上げるときに性暴力に限る必要性がどこまであるのかなというのがよくわからないまま、いろんな人たちのそういうものが必要だというような声がワーッとあったもので、志を同じくするというか仲間と一緒に立ち上げたのですけれども、やっぱり先ほどの小林さんの講演であったように、自分が汚れてしまったとか誰にも言えないという性暴力被害者の特殊性で、そういうときに一般に被害者を受け入れているというところに行くと、「どういう被害に遭ったんですか」と聞かれてしまう。そこから言えない。だけれども、性暴力に特化していれば、そこに行ったときに「ああ、あなたは性暴力の被害に遭ったのね」と、行っただけで、電話をかけるだけでわかってもらえる。そういう場所があるのはすごく相談しやすいというか行きやすいというふうに言われました。なので、私たちも2年半の間に1,100件の御相談、平日の2時から5時しかやっていないにもかかわらず、それだけの相談をお受けしているので、存在意義があるのかなと思っています。

ワンストップということですけれども、被害者の方に必要な支援としては、最初に欠かせないものとして、やはり婦人科、外科、それから警察といったところが最初の入口になるのかなと思いますけれども、やはりその後ずっと生活していくに当たっては心理的なケア、精神科とか、それから社会福祉、生活支援ですとか裁判とか、そういうことになれば私たち弁護士、あと、被害者が孤立しない、何か変わってしまった、なかなか前と同じにできないというようなときに、やはり周りの方の理解が必要なわけですけれども、だから被害者の人にとって必要な支援というのは本当にありとあらゆる分野にわたっている。

私がそのNPOを立ち上げたきっかけというか、すごく思ったのは、先ほど弁護士にたどり着く人じゃなくて、民間機関に相談に行った人は0.7%と申し上げましたけれども、例えば弁護士のところに来るまでに、その人は1人で警察に行き、警察から病院に連れていってもらうこともあるけれども、多くの被害者は1人で警察に行って、1人で病院に行って、1人で市役所、区役所に行って、1人で何とかして弁護士を探して、どこに行けばいいのかわからない、誰に相談すればいいのかわからない。弁護士や精神科では、婦人科もそうかもしれませんが、誰もが性暴力被害者の支援をウェルカムでやっているわけではない、できるわけではないので、その被害者の方が自分に必要な支援を受けるというのは非常に大変です。

ですので、私が思ったのは、本当に全ての専門機関が連携をしてつながって、「ここに行けば、そこから安心した病院を紹介してもらえる、そして福祉につなげてもらえる、弁護士を紹介してもらえる」、そういう安心して、ここに行けばどこかにつなげてもらえるというようなところをつくりたいと思ってやっています。

せっかく第二次犯罪被害者等基本計画の中でもワンストップ支援センターの設置促進がうたわれていますし、これから本当に全国的に性暴力被害者を支援するセンターが広がっていっていただきたいなというふうに思っています

飛鳥井: ありがとうございました。最後にとても貴重な御提言があったと思います。関係機関はいろいろ、それぞれが努力はしているのですけれども、それをつないでいくといいますか、きちっとさまざまなサービスが切れ目なくつながっていくということが、とても支援では必要だと思います。

それから、もう1点ですけれども、今日来られている方はほとんどそういったような専門家のプログラムにかかわっている方ではないと思うのですね。しかし、まずそういうところにつなげていくのは皆さんのお力を借りる必要がございますし、被害者の方自身はちょっとどうしていいかわからないというときに、周りにいる方がその気持ちを理解し寄り添って、そしてちょっと背中を押してもらう。「こういうところがあるから相談に行こうよ」、あるいは「私がついていくから一緒に相談に行こうよ」という一言を言っていただけると、そこから始まるんですね。そしてどこかにつないでいただければ、それぞれ専門家同士で一生懸命、関係の支援につながっていく努力をしていきますので、その最初のワンアクションは是非皆様のお力をお借りできればと思います。

ということで、今日は3人のパネリストの先生方、どうもありがとうございました。これでパネルディスカッションを終えさせていただきます。ご清聴ありがとうございました。

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