熊本大会:事例報告

「本県の性暴力被害の現状と支援活動について」

「子ども等の性暴力被害の現状と支援」
黒田 信子(社会福祉士・スクールソーシャルワーカー)

「性暴力被害者への支援」
髙橋 久代(公益社団法人くまもと被害者支援センター相談員)

「性暴力被害者への支援」
渡辺 絵美(弁護士)

「本県の性暴力被害の現状と警察の支援」
井野 新輝(熊本県警察犯罪被害者支援室長)

講評
山本 潤(SANE 性暴力被害者支援看護師)

黒田: こんにちは、今ご紹介いただきました黒田です。私は福祉の現場での仕事が長くて、20年以上、子供やその家族に対する支援を行っています。今日は、山本さんのお話を聞いて、これまで私がかかわってきた子供たちのことを思い出して胸がいっぱいになって、うまく皆さん方に事例がお伝えできるかなとちょっと不安な気持ちです。

一番安全で安心な場所である家庭の中で起こるこの性的虐待、守ってくれるはずの家族から守ってもらえない、もしくは知っていても知らないふりをされるつらさ、そういうことで子供たちがたくさん傷ついてきました。それでも、それを声に出して言うことって本当に難しくて、今日山本さんがご自身の体験をお話しくださったこと、これは本当に貴重なお話を伺ったと思います。でも、実際なかなかそこまで言えない子供たちがたくさんいます。今日は、そういうことのお話を少しでも皆さん方にお伝えして、実際にこんなことが起きているんだということをわかっていただければと思います。

児童虐待防止法が施行されて、虐待の定義がはっきりして、統計もとられるようになりました。それまで虐待というのは、家庭の中での養護が困難ということで、養護相談という統計の中に分類されていたので、はっきりした数がわかっていませんでした。平成24年度の児童相談所の虐待相談対応件数の統計では、全体で6万6,701件、その中で性的虐待として計上されているのはわずか2.2%、1,449件です。虐待の中で性的虐待は家庭の中の密室で行われて、発見がしづらく、統計にあらわれる数字よりもっともっとたくさんの数があると思います。

ほかの虐待は、家庭の中で保護者の生活がとても厳しくなったとか、夫婦間がうまくいかないとか、離婚をしたとか、いろんな保護者側の要件でされることがあります。また、子供側からすると、とても育てにくい子、発達が遅れている子、障害がある子で、保護者が育てていくのに非常に困難を伴うときもあります。でも、性的虐待に関しては全く子供に問題はありません。加害者とされる保護者側の欲望、身勝手、それによって子供を傷つけています。

子供は、自分が悪いからと思ったり、これは誰にも言ってはいけないよと言われて口をつぐんでしまったり、まして小さい子供であれば、みんなに訴えるすべがありません。本来、これは犯罪行為であるのに、家族間の中で行われたということで、家族を守ろうとして、家族全体でそこにふたをしてしまうことがあります。

ある事例では、高校生のお兄ちゃんが中学生の妹に性的な虐待をしました。それが分かったときに家族がまず考えたのは、兄の将来、この子が性的な加害者として表に出た場合に、将来進路はどうなるのだろうか、職業につけるのだろうか、そういう心配をまずされました。一方、妹の将来を考えたときに、この子は性的な被害を受けた子、特別な子、普通には生きていけないかもしれない。そういったことも考えて、誰にも相談せずにこのことにはふたをしてということで、兄弟を分離するために妹のほうを親戚の家に預けられました。妹は、保護者から、あなたのために、あなたを守るために分離したのよと言われたのですけれども、どうして被害者である妹のほうが本来のお父さん、お母さんと一緒に暮らせずに別のところで暮らさなければならなくなったのか、それはとても納得いかないものだったと思います。

こんなふうに家庭の中で起こることであり、数字に表れない、絶対秘密にしたいということで、さっき言いました2.2%、これ以上の数字が起こっていると思います。

性的虐待が子供に与える影響はとても深刻です。先ほどの山本さんのお話の中でもあったように、将来大人になるまで、大人になってからもいろんな影響が出てきます。性的虐待というのは、虐待の分類では1つですが、体が傷つくこと、例えば性交渉があった場合に病院に連れていきます。そこの中で裂傷があったり、中には性病の感染をされている子供さんもいました。そうであれば、当然身体的虐待にも当たると思います。また、心が傷ついて、将来への傷つき、生きづらさ、いろんなことを考えると心理的虐待にも当たります。また、虐待に気づかない家族、もしくは気づいたとしても、それを見て見ぬふりする家族、これは不適切な養育であり、ネグレクトにも当たると思っています。

思春期になって、自分自身がこういう性的な虐待を受けたということで男性に不信感を持ったり、もしくは過度に性の興味があったり、援助交際に走ったり、正常な発達を遂げることができない子供さんもたくさんいます。

家族関係で見ると、被害児童は性的な虐待者に対して、家族であるということでとても複雑な感情を抱きます。虐待として憎みながら、でも子供の心はお父さんとしての愛もある、でも憎しみもある複雑な感情になります。

あるケースでは父子家庭でした。お父さんからの性的な虐待を受けて保護しました。最初はとてもお父さんを憎んで、「あんなやつは絶対に許さない」、強い口調で言っておりましたけれども、いろんな事情を聞いたりみんながかかわることによって、随分長期間になってしまいました。そうしますと、子供は気持ちが変化してきて、「でもね。優しいところもあるお父さんなんだよ」と言ったり、「自分の体の中には半分はお父さんの血が流れているんだ」と言ったり、「でも、やっぱり許せない」と言ったり、本当に心が毎日毎日揺れている様子がよく分かりました。この子は心身のバランスを崩して精神科病院に長く入院をしました。

ある非行でかかわった子供がいます。最初、この子の問題行動ということで相談を受けました。深夜徘徊、不純異性交遊、なかなか家に寄りつかない、そういったことでお父さん、お母さんからの相談があり、学校からも「困った子供だ」ということで相談がありました。子供からよく話を聞いてみると、実はお母さんが夜勤のときに、お父さんが自分の部屋に入ってくる。自分の体をさわる。それがとっても嫌。だから、お母さんがいない日は絶対家に帰らない、そういった事実がわかってきました。最初はほかの問題行動だという、子供自身が問題だということにすり変えられても、本当は根底にはこういう性的虐待があったというケースもたくさんあります。

こういった場合に、子供が性的な虐待を訴えたときに家族が信じてくれない、「まさか、そんなことないでしょう。あなたの思い過ごしよ」とか、「いや、かわいいからそうなのよ」って言われてしまったり、もしくは虐待者も「そんなことはしていない」と否認したり、「あれはスキンシップだよ」というふうに言われたりすると、とても子供は傷つきます。「もう言うまい」と思います。中には「性的な交渉をしたことは認めるけれども、これは子供が誘ったからだ」、「実際に自分が誘ったときに嫌と言わなかったじゃないか」。まるで子供に責任があるように、問題の本質を子供に転嫁されることがあります。子供は大人を信じられなくなってしまいます。

被害に遭った子供の傷は大きいのですけれども、家族関係も変わってきます。夫婦が離婚したり子供が施設に預けられたり、家族がばらばらになります。中には、お母さんはそのことを知りながらも、加害者である男性と暮らすことを優先して「子供を施設に預かってください」と言われたケースありました。子供は「みんな私が悪くないと言うけども、なせ私が家族から離れて暮らさなきゃいけないの。どうして一緒に暮らすことはできないの。こんなことなら言わなければよかった」と言って、泣いた子もいました。

将来、こういった子供たちが大人になったときに影響が大きいなと思ったケースが1つあります。最初は子供の問題で相談に来られていたお母さんでした。私たちケースワーカーはいろんな相談があったときに、こういう問題が起きたときに家族としてみんながどうかかわっていったのか、このお父さんやお母さん、家族を支える人はいるのかということでキーパーソンを探します。その中で実家との関係が悪いということがわかりました。

お母さんは、自分自身も人とうまく関係が築けない、職場に行ってもなかなか人とうまくいかない、とても生きづらいということを訴えられました。子供にどうかかわっていいかわからない、子供が悪いことをしたときにはついつい、よく叱ってしまう、手を出すこともあります、というふうにお母さんは言われました。お母さんの子供のころの話を聞いていくと、実はお母さん自身が小さいころにお父さんから性的な虐待を受けていたということがわかりました。多分こういうのは全く数字にあらわれていない性的虐待だと思います。でも、その影響が、自分自身が大人になってお母さんになってからも、自分の子供を養育するときに表れています。

先日の新聞記事でこんなことが書いてありました。もしかしたらご覧になった方がいらっしゃるかもしれませんけれども、兵庫県の尼崎市で起きた、8人を殺害して3人が行方不明になったという事件で、その被告の次男の裁判がありました。そこの弁護人が冒頭陳述の中で「彼は幼いころから被告、自分のお母さんから殴られて性的虐待も受けていた。そういったことから、とても困難な事態に直面したときに心のシャッターを閉ざして無関心状態になってしまう。この事件の中で、彼が本当は主としてやったわけではない」というふうな形でくくられていました。

またもう一つ、大阪市のマンションで2人の幼い子が餓死するという悲惨な事件がありました。それを取材したルポライターの方が言われていたのですけれども、お母さんは幼少期に自分のお母さんから、きちんとした養育を受けておらず、ネグレクトだった。こういうふうな形で育った子は、自分自身が困難な事態に直面してもなかなかSOSを出すことができないと指摘されていました。家族の中で守られなかったという経験は、こんなに大人になっても影響が大きく、生きづらさがあります。

1つだけ事例を紹介したいと思います。ある女の子が実のお父さんから性的な虐待を受けました。「何かちょっと太ったみたい」ということで、周りが気づいたときにはもう妊娠7カ月、産まざるを得ない状況でした。これに関しては警察も介入して、家の中に加害者と被害者がいる状況になりました。女の子の祖父母からすると、お父さんである自分の息子は加害者、そして自分の孫が被害者となりました。女の子のお母さんからすると、自分の夫が加害者です。「とても家庭の中に置いておくことはできない」ということで、女の子は家族から離されて出産をしました。本来は祝福されて赤ちゃんの誕生をみんなで喜ぶ出産ですけれども、みんなとても祝福して「よかった」ということにはなりませんでした。1人で出産をして、その後も家に帰ることはできず、女の子は社会的養護の子として育ちました。また、生まれた赤ちゃんも女の子が引き取って育てる力もなく、またそこの実家に引き取るということもできずに、ほかの方に養育をゆだねることになりました。赤ちゃんの戸籍は、父親の欄が空欄です。

この赤ちゃんが大きくなったときには、自分のルーツを探します。自分はどうして実のお父さん、お母さんに育ててもらえなかったんだろうか。一体、自分のお父さんはどういう人なんだろうか。そういったことを考えたときに、一体誰がこの赤ちゃんに、赤ちゃん自身のことについて説明してあげられるのでしょうか。生まれてすぐから大きな荷物を背負って、この子は今から生きていかなきゃいけないんだなという思いで、本当に暗い気持ちになりました。

幼稚園のお絵描きで男性の性器を書いた子供がいました。保育園の先生が「おかしいな」と思って相談がありました。その子から話を聞くと、その子はお風呂に入るときには必ずお父さんがその子だけを連れてお風呂に入る。そして自分の性器をさわらせたり女の子の性器をさわったりしていました。まだこの子は小さくて、やっている意味がよくわからずに絵を描いたんだと思うのですけれども、大きくなって自分がされていた意味がわかったときに、お父さんに対してどんな思いを持つか、想像できると思います。父親からこういった性的虐待をされたということが、将来にわたって大きな影響を持ちます。

こういう性的虐待がわかったときに子供にとってとっても大切なことは、お母さんやほかの家族が自分を守ってくれるかどうかです。ある相談では、母親の内縁関係の男性から性的虐待を受けた子供に対して、母親は「男性を取られた」と、同性として女の子に嫉妬しました。子供は一番助けてほしかったお母さんに助けてもらえなかった。「多分、あなたが悪いとお母さんに言われるから、もう言わない」と口を閉ざしてしまいました。

いろんな相談の中でDVが絡んだ相談もあります。DVは配偶者からの暴力なのですけれども、その中には性的強要も含まれます。あるお母さんからの相談で、毎晩毎晩夫が求めてくる。もう私は嫌。体もさわられたくないんだけれども、でも、拒むと声が大きくなって、「子供に聞こえるからやめて」と言っても、「おまえが俺の言うことを聞かないからだ」と、もっともっと声を荒らげるので、仕方がないから、通り過ぎるまで自分はもう本当に物になって、通り過ぎるのを待つんです。子供には絶対聞かせたくない。そういうふうに言われたお母さんがいらっしゃいました。

ある子供は、夫婦がけんかを始めると突然固まってしまう。さっきお話があったフリージングですけども、それと、ある1人の子は突然寝てしまう。解離状態になる子もいました。子供は親が思っている以上に、夫婦の関係に敏感です。子供にわからないようにと思って、夫婦関係も声を荒らげさせないようにとしても、子供はちゃんとわかって、傷ついています。

こういう子供たち、家族に対する支援のポイントをちょっと考えてみました。現在は性的虐待を受けた子供に対して事情を聞かなければいけません。先ほど山本さんの話の中で、「みんなに性的な経験を話してください。隣の人に言ってください」というところがありましたけれども、多分誰も言わなかったと思いますし、言えなかったと思います。性的な虐待を受けた子供はそういったことを言わなければいけないのです。

言うときには、何度も聞かなくていいように司法面接という技法を取り入れてやります。訴えたときには、時には子供を現場に連れていかなければいけないこともあります。その場で、どういう状況で何が起こったのかを話すことは子供にはとてもつらいものです。子供が口ごもったり、うつむいたり、涙ぐむこともあります。決して急がせないで、とてもきつそうだったら「今日はここまでにしよう」とか、その後、フォローすることがとても大事になります。

一方、聞く側、相談を受ける側からすると、自分自身がそこの中に身を置きかえて、自分自身のような感じで、とても加害者に怒りを持つことがあります。その怒りがあまり強くなると支援者もその中に巻き込まれてしまいます。お互いが当事者になってしまって、適切な支援ができません。「あなたの言うことを信じるよ」「あなたは悪くない」「何があってもあなたの味方だよ」「見捨てない」「あなたを守る」「あなたに寄り添う」、このメッセージを出し続けることがとても大事だと思います。

家庭の中で起こっていることで、家族に話せない子供もいます。周りが気づくこともあります。「何か変だな」、そう思ったら子供の話をよく聞いてみることはとても大事です。子供とかかわる立場の人たちは、子供の小さな変化、それはやっと発することができたSOSの第一歩だと思います。それを感じて支援をしていってほしいと思っております。それが、性的虐待を早く発見して被害を少なくして、将来への影響を食いとめる第一歩ではないかなと思います。ありがとうございました。

それでは、私の報告はこれで、次はくまもと犯罪支援センターの髙橋さんのほうのお話にいきます。お願いいたします。

髙橋: 皆様こんにちは、ただいま紹介に預かりました髙橋と申します。どうぞよろしくお願いします。

黒田さんの現場からのお話を聞いて、私もちょっと胸が重たくなって、深いため息をついてしまいました。この深いため息というのは、やっぱりお話を聞くだけでもかなりストレスがかかりますので、その事によるストレスケアの一つです。皆様もちょっとショックを受けられた方もいらっしゃるのではないかと思いますが、支援の現場ではこういうリアルな話がずっと起こってきます。

そこでちょっと一息、深呼吸していただけますか。これは私の準備の深呼吸でもあるのですが、皆様に私の報告を聞いていただくときに、少し重たい内容になりますので、どうぞ、フーッと深呼吸をして、おなかの中のちょっと重たいものを外に出してください。それから私の話を始めたいと思います。

まず、くまもと被害者支援センターの紹介を少しさせていただきます。センターは平成15年に社団法人熊本犯罪被害者支援センターとして設立しました。その後、平成21年には公益社団法人の認定を受け、「熊本」を平仮名に変え、「犯罪」を取りまして、「くまもと被害者支援センター」と、親しみやすい名前に改名しました。そして公益性の高い団体として広報啓発活動や相談支援活動に従事し、現在に至っています。センターの詳しい活動につきましては、皆様にお配りしましたリーフレット、2種類ありますが、詳しく書いてありますので、どうぞご覧になってください。

それではまず、センターの相談・支援のチャートによってどのように相談・支援に入っていくかということについて紹介いたします。
センターには、殺人や性暴力被害、暴行傷害、交通事故、DV(ドメスティックバイオレンス)、ストーカー、そのほかにもさまざまな相談が寄せられます。付添いなどの直接的な支援を行う場合は、電話相談から面接相談を行い、被害者のニーズに沿った直接的な支援を行うケース、また警察が被害者の同意を得て住所や名前など、被害の状況などをセンターに伝え、センターが支援を開始するというようなケース、二通りがあります。いずれのケースにしましても担当者2名で支援を行いますし、支援を終結するまで同じスタッフが担当をいたします。

直接的支援では、警察や検察庁、裁判所などへの付添いや病院付添い、生活支援などさまざまな支援を行っています。必要に応じて法律相談や心理相談を案内したり、場合によっては関係機関と連携して支援を行うこともあります。法律相談では、センターに協力してくださる弁護士さんがいらっしゃいますので、裁判のことや被害弁償のことなど、さまざまなことに関して相談、対応していただいています。心理相談は心理士による相談の対応なのですけれども、医療的ケアが必要と心理士の方が判断された場合には、専門の医療機関につなぐこともあります。

では、この10年間の相談件数とその内容について、少し紹介します。この10年間の相談支援件数は、総数で6,181件、これは電話相談、面接相談、メール相談を合わせた件数です。年間に平均すると561件、この560件台の件数は、10年間ほとんど変わっていません。ただ、相談の内容が変わってきました。初めのころは消費者問題などのように、消費者センターにつなぐような相談が多かったのですが、近年は性暴力被害や殺人など重大犯罪の相談も増えてきました。また、直接的支援は1,518件、年平均すると138件になりますが、当初から比べると、設立当初は36件という少ない件数でしたが、近年はその3倍増になっています。

この件数を多いと見るか少ないと見るか、それは比較の対象がないのでちょっとわかりづらいとは思いますが、九州の中では支援が多い件数となります。ただ、熊本県内の事件発生件数から考えると、まだまだ支援を必要とされている被害者の方はおられるのではないかなと考えています。この間に支援を行った被害者やご遺族の人数ですが、268人となります。1年に平均すると26.8人、27人弱の方の支援に携わったわけですが、ただ、お1人の被害者だけではなく、その御家族、周りの方に対しても関わっていきますので、この人数の何倍かの方に関わっていったことにもなります。

では、どのような犯罪被害者の支援を行ってきたかといいますと、やはり性暴力被害に関する支援が多かったと思います。画面の罪種一覧、下のほうになりますが、ごらんになっていただけますか。強姦被害が全体の35%です。次いで殺人や強盗、傷害致死傷など30%です。その次に強制わいせつ被害など16%です。この中にはセクハラや青少年育成条例違反の被害者も含まれています。また、DV・ストーカー被害の背景には性暴力が含まれていることも多く、この事案も含めると支援の対象の5割強が性暴力被害者だったということがわかると思います。

では、ここからは支援センターがどのような支援を行っているかということについて、具体的な事例を紹介しながらお話ししたいと思います。この事例につきましては、被害者ご本人の承諾を得ております。「自分と同じように被害に遭われた方に対して、支援が必要であるということを知っていただくために協力させていただきます」と言ってくださったAさんに、心から感謝申し上げます。

事案の概要ですが、住居侵入、強姦致傷、窃盗の被害に遭われたAさんの支援です。熊本県内在住の女性で、自宅で就寝中に加害者が侵入し性暴力被害に遭われました。抵抗した際に手首の捻挫などの受傷と、携帯電話など貴重品を奪われ、窃盗被害も受けておられます。その直後に警察に届けを出して、間もなく犯人は逮捕されました。警察からの提供情報により検察庁での事情聴取から、支援センターの支援を始めました。

被害者の状況ですが、被害直後、この頃のAさんは不眠やフラッシュバックに苦しんでおられました。また、生活のためにかけ持ちで勤めていた仕事も休みがちになり、1つの職場から退職を言い渡されてしまったそうです。そして何より辛いのは、被害に遭ったその部屋で暮らさなければならないことだと話されました。私たちは不動産などを調べたりして転居を勧めましたけれども、いろいろな事情によってすぐには引越しできないということで、その後も不眠が長く続いたようです。

ここからは画面と、皆様のお手元の資料が違うものになります。皆様のお手元の資料は事例紹介の補足資料としてご覧になってください。警察に被害を届けると、犯人の逮捕のために捜査の協力を求められます。それは被害に遭ったときのことを何度も何度も思い出さなければならず、「とてもつらかった」とAさんは言っておられました。また、病院受診では、婦人科の受診には「警察の女性警察官の方が付添ってくださったので心強かった」と言っておられました。しかし、抵抗したときに手首を痛めて、整形外科を受診されたのですけれども、診断書の提出を求められたためドクターに事情を説明しなければならない事へのストレスや、治療が長く続きましたので、その治療費の支払いなどにも経済的な負担が課せられるなど、問題を幾つも抱えておられました。

そのためセンターでは、治療費の一部、ほんの一部なのですが、支援センターの被害者緊急支援金を援助させていただきました。この被害者緊急支援金といいますのは、センターが皆様からのご寄附や賛助会員様の会費の中から、経済的に困窮されている被害者の方の治療費や転居費用の一部に充てていただくために、つくっている被害者緊急支援金です。それを一部充てさせていただきました。

そして、事件が警察から検察庁に送られると、次は検事さんからの聞き取りがあります。ここでも被害に遭ったことを詳しく話さなければならないので、そのこともつらかったようです。加害者が一部否認しているということもそのときに聞き、ますますAさんの心は傷ついていきました。私たちは、彼女のつらさや悲しみ、感情をただただ聞いて受け止めるしかできませんでした。その時は本当に無力感を感じました。

その後、起訴されましたので、裁判に向き合う心の準備をしなければなりませんでした。起訴というのは検事さんが裁判を開始するために行う手続なのですが、起訴されると「裁判が始まる」という意識を持ち始めます。そして、事件は裁判員裁判の対象となりましたので、一般の裁判員の人にAさんの個人の情報が知られるということの不安、そしてマスコミ報道の不安も現実的になってきました。

また、「被害者参加制度」という、被害者が裁判に参加するという制度の利用についても悩まなければならなくなりました。被害者の権利として裁判に参加できるわけですけれども、やっぱり性暴力被害者にとっては、同じ法廷の中で加害者と対峙するというのは、とても大きな負担で勇気の要ることです。「被害者参加制度」についてはお手元の資料をごらんください。

支援センターでは法律相談を設定し、弁護士さんから被害者が参加することのメリット、デメリットなどをお話ししていただきました。また、そのころに検事さんから「裁判で証人出廷をしてほしい」との要請がありました。これは加害者が犯行を一部否認していたために、被害者本人から被害の状況を証言してもらいたいというものでした。

何を否認していたかといいますと、ちょっと考えられないんですけれども、住居侵入したのに、「目が合ったから(部屋に)入ってもいいと思った」とか、「傷つけていない」「けがはさせていない」「強姦でもない」「強制わいせつだった」などと、保身としか考えられないような主張を繰り返しました。犯行を否認し反省のない加害者に対する怒りと悲しみは、Aさんの心をさらに苦しめました。

私たちは専門家のカウンセリングを勧めましたが、Aさんからは「カウンセリングを受けようという心の余裕もありません。支援センターの方に私の気持ちを聞いてもらえればそれだけで十分です」という返事が返ってきました。そのため、その後は付添ったあとにAさんの気持ちを十分聞き取れるように、面談の時間を長く取るように心がけました。そしてAさんは、「加害者に自分の犯した罪に向き合わせたい」と被害者参加を決意されました。

裁判に向けての準備もAさんには負担が大きかったと思います。裁判の中で行う意見陳述、これは法廷の中で自分の気持ちを述べるわけですが、事件に関する書類に目を通した上で自分の気持ちを書面にまとめなければいけません。つらい作業です。そのときのことをまた思い出さなければいけない訳ですから。しかし、Aさんは被害後にどんな思いで生活をしてきたのか、自分自身を消し去りたいという思いと戦い続けながら生活してきたことを綴った意見陳述書を書き上げられました。

そして、裁判員裁判は6日連続で開かれました。そのうち4日間をAさんは法廷の中に入り、被害者参加されました。性犯罪被害者の場合には被害者のプライバシーに配慮した制度が、少しずつですが、充実してきていまして、今回の場合にも「遮へい」や「ビデオリンク」という形で、傍聴人や加害者から個人が特定されないように、視線にさらされないように、検察庁のスタッフの皆さんや裁判所の関係者の方たちがしっかりAさんを守ってくださいました。遮へいやビデオリンクについては補足資料をごらんください。

裁判の2日目にビデオリンクによる証人尋問がありました。ビデオリンクというのは別室で証言するということです。ただ、別室で証言するとはいえ、被害に遭った状況を詳しく話さなければならないのでそれはつらいことでした。その緊張感はそばに付添った私にもとても伝わってきました。ただ、裁判が開かれている間、御家族が傍聴席から見守ってくださいましたので、家族の支えはご本人にとっては心強いものだったと思います。

そして、加害者の主張は全て退けられました。罪名もそのままに、住居侵入、強姦致傷、窃盗という罪名で、懲役8年の実刑判決がおりました。

しかし、加害者はこれを不服として控訴しました。控訴というのは被告人に与えられた権利で、高等裁判所での裁判のやり直しを求める訴えのことです。熊本の場合には福岡の高等裁判所でまた裁判が開かれることになりました。この時も、Aさんは更なる悲しみと怒りを感じました。「明らかに罪を犯しているのに、反省することなく裁判のやり直しを訴える権利があることに、驚きとやるせなさを感じた」と、話されました。控訴審でもAさんは裁判所から遮へい措置をとってもらい、被害者参加をして意見陳述をされました。

しかし、このときに加害者の家族から心ない嫌がらせを受けました。二次被害を受けたのです。これは想定外の出来事でしたけれども、付き添いをした私たちは大いに反省しなければならないことで、守ってあげられなかったという苦い経験は、どんな時も細心の心配りが必要であるということを再認識させられることになりました。

そして、控訴審でも棄却になりましたが、またもやこれを不服として被告人は最高裁に上告しました。この事は裁判に終止符を打てないAさんにとって、また失望感を味わうことにもなりました。ただ、3カ月後に上告の棄却となりまして、裁判員裁判から約1年後に裁判は終結しました。

加害者の懲役刑は8年でしたが、控訴審、上告審のこの1年間は未決勾留期間として差し引きとなりますので、加害者が刑務所に服役するのは約7年間となりました。このこともAさんにとっては納得のいかないことでした。

Aさんとこの裁判を振り返ってお話をしたことですが、まず、Aさんがおっしゃったのは「司法の不平等を感じました」ということです。この控訴に関しても「(加害者の権利は)守られているんだなということを感じた」とおっしゃっていました。また、被害の事実を裁判員や裁判官にわかってもらえたのはよかったけれども、そのために費やした時間や心の負担、緊張感、それはとても大きいものだったということも話されました。しかし、「事件直後から支えてくださった警察の捜査員の方、検察庁の検事さん、厳しく被害者に追及してくださった被害者参加の弁護士さん、そして私たち支援員がいたから裁判に向き合うことができた。心強い存在だったと思う」と言ってくださいました。

今回紹介しましたAさんのように、性暴力被害に遭い、つらい思いをされている方はたくさんいらっしゃいます。私たちはそういう方たちにたくさん接してきました。

最後に、これまでの支援の経験から必要と考えられる支援の内容についてお話ししたいと思います。被害に遭われた方は、画面にありますような状況があります。まず、医療的ケアの早期対応が必要です。そのときに婦人科やカウンセリングなどに付添ってくれる人がいるのはとても心強いことだと思います。そして被害届を出すか出さないか、そのことについても悩まれます。そのときに、届けを出した後の手続など情報提供があれば、ご自身の決断の一助にもなると思います。

そして、被害者の方は誰にも相談できずに、孤独になりがちです。そのときに、今は安全だと思えるように支えてくれている人が、その人の存在が必要です。また、山本さんのお話にありましたように、「強姦神話」などによる二次被害を受けてしまいがちです。そのようなときに「あなたが悪いわけではない」と言い続けて、つらさを共有してくれる人が必要です。
「強姦神話」や「二次被害」については補足資料をご覧ください。

被害に遭われた方は心と身体に深い傷を負い、長く苦しまれます。このような状況にある被害者を支えるには、ご自身の回復力と家族や親しい人の支えが大切です。加えて二次被害を与えないような社会の理解が必要です。そして被害者を支える第三者による支援として、専門の相談機関や医療機関、警察などの捜査、裁判所などの司法機関など、このような関係機関が被害者の負担のない形で連携がとれれば、被害者は孤独にならずに済むのではないでしょうか。

私たちは被害に遭った方から相談を受けたときに、「話してくれてありがとう」「どうか1人で悩まないでください。あなたが悪いわけではないのだから」「これからのことを一緒に考えていきましょう」と伝えます。被害に遭ったことを誰かに話せることが回復の第一歩だと考えています。そのためにも支援センターのような相談窓口の存在を知っていただき、相談対応を充実させていきたいと思っています。

私の発表はこれで終わらせていただきます。
続きまして弁護士で、弁護士会の被害者支援委員会の委員でもいらっしゃいます渡辺絵美先生にマイクをつなぎたいと思います。

渡辺: こんにちは、弁護士の渡辺絵美です。検事時代は性犯罪捜査に携わることも多く、また、弁護士になってからも性暴力被害者の支援に携わってきました。私のこれまでの経験上、被害者の方から質問を受けることが多いことを中心に、今日は法的支援についてお話をしていきたいと思います。また、弁護士にいつ相談に行けばいいのかがわからなかったですとか、もっと早く弁護士に相談に行けていればよかったという声も聞くことから、そのあたりのお話もしていけたらと思っております。

まず被害者として、加害者に対してどのようなことを考えるでしょうか。加害者を捕まえてほしい、加害者を処罰してほしい、治療費を支払ってほしい、心が傷ついたので慰謝料を支払ってほしいなど、加害者に対して思うことはさまざまだと思います。この中には刑事手続の中で実現していくものと民事手続の中で実現していくものがあります。刑事手続というのは刑事裁判とそれに関する手続、民事手続というのは民事裁判とそれに関する手続のことです。

では、具体的に刑事裁判、民事裁判というのはどのようなものなのかということをまず見ていきたいと思います。簡単に言うと刑事裁判というのは、国家が個人に刑罰を科すためのものです。それに対して民事裁判というのは、個人と個人の紛争を解決するためのものです。ですから、加害者を処罰してほしいというのは刑事裁判の話になります。加害者に慰謝料を支払ってほしいというのは、個人である被害者と個人である加害者間の話になるので、民事裁判の話になるわけです。

刑事手続がどのように進むのかということから見ていきましょう。刑事裁判とそれに関する手続のことを刑事手続と言っていきますが、犯罪が発生し、捜査が始まります。通常の事件では最初に警察が捜査をして、その後検察官に事件が送致されるという流れになります。被害者は最初に警察で被害状況についての話を聞かれることになります。その後、先ほど髙橋さんの話でも出てきましたが、検察官からも再度、被害状況などについて話を聞かれることが多いです。「なぜ警察でも話をしたのに、また検察官に話をしなければならないのですか」ということも疑問に思われると思うのですが、検察官が起訴するか不起訴にするかということを決めるので、検察官自身も必要に応じて被害者自身から話を聞く必要があるのです。検察官は証拠関係を検討して起訴か不起訴かを決めます。

起訴というのは、被告人に刑罰を科すことを求めて訴えを起こしていくことです。起訴には公判請求と略式請求というものがあります。公判請求されると刑事裁判になります。こちらは皆さんがニュースなどで、裁判官がいて検察官、弁護人が並んでいる法廷の場面をご覧になったことがあると思いますけれども、あれが刑事裁判になります。略式請求から略式命令というのは、こちらも同じように刑罰を科すことを求めるのですけれども、裁判を開くのではなく、100万円以下の罰金の場合に、検察官が適用するものを決めます。この場合だと裁判官が書面で審査をするので、裁判は開かれずに判断がされることになります。

刑事裁判では、被害者が裁判所に証拠を出して被害を証明しないといけないのでしょうかという質問も受けることがあります。これについてはその必要はありません。裁判所に証拠を出して加害者の有罪を証明するのは検察官です。刑事事件、刑事裁判の場合には、加害者のことを被告人と言います。被害者自身が証拠を集めて裁判所に提出する必要はありません。被告人が事実関係を争っている場合などには、先ほどの髙橋さんの事例報告でもありましたけれども、被害者が証人として法廷で話をしなければいけないということがあります。

では、刑事手続のどの段階で弁護士に相談や依頼をすればいいのでしょうか。どの段階でも構いません。被害に遭った直後であれば、やはり先ほどの報告の中に出てきたような、被害届について迷っているという状況のときに、被害届を出したら今後どういうことが考えられるか、見通しとしてどうであるかというようなことを法的にアドバイスいたします。また、告訴をどうするかということについても同じようにアドバイスをいたします。

起訴後であれば、あとから詳しく説明しますが、被害者参加制度というものを使うときに一緒に裁判に出ることも可能です。また、被害者参加ということはしないんだけれども、刑事裁判を見に行きたい。でも、自分だけで行ってもよくわからないので、弁護士についてきてもらって、法的にどういったことが行われたのかを説明してほしいということも可能です。そういった場合には一緒に同行して説明をすることもできます。

それから、マスコミへの対応も可能です。不起訴になってしまったんだけれども、納得がいかないという場合に検察審査会というところに、不起訴になったことへの不服申立てをする、この手続についても相談していただいたり依頼していただくことが可能です。

では、続いて民事手続がどのように進むかということについて見ていきたいと思います。被害者から加害者に対して治療費や慰謝料などの損害賠償請求をするということが考えられます。通常はいきなり民事裁判を起こすのではなく、交渉から入っていくことが多いと思います。交渉の段階で合意が成立した場合には示談が成立となります。示談が成立しない場合などには民事裁判を起こすかどうかを検討していくことになります。民事裁判の中で当事者の合意ができると和解ということになりますし、そこで合意ができない場合には判決になります。

判決なり和解なりで「加害者が被害者に対して幾ら支払いなさい」というものが出た場合、加害者のほうが任意にそれを支払ってくれるということもありますけれども、実際には金額は決まったけれども、支払ってくれないとなった場合には強制執行の手続を検討していくことになります。

民事裁判では被害者が裁判所に証拠を出して被害等を証明しないといけないのでしょうか。こちらは「はい」という答えになります。民事裁判は個人と個人の関係ですから、先ほどの刑事裁判のように検察官が証拠を出してくれるということはありません。被害者自身が証拠を集めて、それを裁判所に提出して立証していく必要があります。こちらも事実関係に争いがあれば被害者自身が法廷で話をする可能性があります。

民事手続についても、どの段階で弁護士に相談・依頼をすればいいのでしょうかという質問がありますけれども、こちらについてもどの段階でも可能です。交渉の段階から弁護士に依頼して、代理人として頼むこともあるでしょうし、交渉の段階では相談でアドバイスだけをもらって、裁判になったときには依頼をするということもあると思います。もちろん「お金を払ってくれないから」という強制執行の段階になって相談に来ていただくということでも全く構いません。

 

今、刑事手続と民事手続というものを見ていきましたけれども、この2つの関係はどうなっているのでしょうか。「両方進める必要があるんですか」という質問もよく受けます。これはそれぞれ別々の手続なので、両方進めることもできれば、どちらかだけを進めることも可能です。加害者に全く資力がない、お金がないので、民事裁判はしないんだけれども、刑事裁判で加害者をきちんと処罰してほしいという場合もあるでしょうし、また逆に、何らかの理由で、「刑事事件にはしたくないんだけれども、損害についてはきちんと支払ってほしい」という場合には民事手続だけを進めていくということもあります。

「どの手続を進めればいいかわかりません。どうしたらいいでしょうか」という質問もあります。こちらについては相談をしていただければ、どのような選択肢があるのか、どのような見通しかなどを説明して、被害者の方の意向を聞きながら個々の事案に応じた対応を一緒に検討して考えていくことになります。

「弁護士に相談したら依頼しなければならなくなるのではないですか」、「行ったら依頼しなきゃいけないと思って、なかなか来れませんでした」という方もいらっしゃるんですけれども、そんなことは実際にはありません。依頼をするかしないかを決めるためにも、まずは相談をしていただきたいと思います。相談と依頼というのは全く別なので、相談だけで終わるという場合も少なくありません。実際、被害届を出すかどうかということで迷われていても、相談に来てそのあとの見通しがどうなるかということを聞くことによって解決するということもあると思いますので、それほど敷居が高いと思わずに相談に来ていただくというのがいいのではないかと思います。

続いて、「弁護士に相談したら警察にも届けなければならなくなるのではないか。警察に行くかどうかまだ決まっていないので、悩んでいて弁護士に相談に行けない」という場合もあると思います。実際には弁護士には守秘義務がありますので、被害者からの相談内容を勝手に警察に話すことはありません。警察に届けた場合と届けない場合で、今後どのようなことが予想されるかなど、被害者が情報を得た上で判断をすることが大事だと思います。判断をするための情報を得るためにまず相談していただきたいなと思っています。先ほど「刑事でも民事でもどの段階でも相談や依頼に来ていただくことができますよ」という話をしたのですが、そうであるとしたら早い段階で来ていただくのがいいのではないかというのが私の考えです。

「被害者のための制度があると聞きましたが、どのような制度があるのでしょうか」、刑事、民事の手続上、被害者のためのさまざまな制度があるので、こちらに挙げました。ここに挙げているのは主なものになりますけれども、本日はこのうちの、1つ目の被害者参加制度と、2つ目の損害賠償命令制度について具体的に見ていきたいと思います。

まず、1つ目の被害者参加制度ですが、こちらは刑事裁判において被害者が参加していくという制度になります。対象事件としてはどのようなものがあるでしょうか。対象事件はこちらに挙げているとおりです。強制わいせつ、強姦なども対象となっています。

では、被害者参加をするとどのようなことができるのかを見ていきましょう。この制度は平成20年から始まった制度ですが、それまでは国家が個人に刑罰を科すためのものという刑事裁判においては、被害者というのは第三者的な位置づけでした。ですから、証人として出る以外は傍聴席にいるしかなくて、被告人に対して直接質問をするということも認められていませんでした。被害者参加が認められるようになってからは、この1から5までのことが被害者自身にできるようになりました まず、1つ目の1公判期日に出席することができるというものですが、これは傍聴席から傍聴するというものではなくて、法廷の中で検察官側の席に座ることができるというものです。

2つ目として、2検察官の訴訟活動に関して意見を述べたり、検察官に説明を求めることができます。

3つ目として、3被告人の親などが情状証人として出てきた場合に、一定の要件を満たせばその情状証人に対して尋問をすることができます。

4つ目として、4被告人に質問をすることもできます。

5つ目として、5事実または法律の適用について意見を述べることができます。

ここでは被告人に対しての求刑、「刑としてはこれぐらいのものがふさわしいんだ」という、被害者自身の求刑意見というものも言っていただくことができます。被害者参加するとこれら1から5まで全部しなければいけないというわけではなくて、どれをやるかを選択して、一部だけを行うことも可能です。

「被害者参加したいのですが、自分だけでできるか自信がありません。どうしたらいいでしょうか」。こちらは先ほどの髙橋さんの話でも出てきましたけれども、弁護士に依頼をしていただくと、弁護士と一緒に被害者参加ができます。また、性犯罪の被害者などで、自分自身は法廷に行きたくないんだということであれば、被害者に代わって弁護士だけが公判期日に出席することも可能です。弁護士と一緒に公判期日に出席して役割分担をしていくということも可能です。

「弁護士と一緒に被害者参加したいのですが、お金がありません。弁護士を頼むことはできませんか?」、国選被害者参加弁護士制度というものがあります。これは経済的に余裕がない被害者の方も弁護士による援助を受けていただけるようにするため、裁判所が弁護士を選定して、国がその費用を負担するという制度です。被害者の資力が200万円未満である場合に適用が可能です。

続いて、損害賠償命令制度について見ていきたいと思います。まず対象事件ですが、このとおりです。こちらでも強制わいせつ、強姦が対象となっています。

では、損害賠償命令制度とはどのような制度でしょうか。まず前提として、刑事裁判と民事裁判というのは全く別の制度ということでしたね。なので、刑事裁判で加害者に刑罰を科すための手続が進んだとしても、被害者が損害賠償請求したいという場合には、被害者が別に民事裁判を起こす必要があります。その場合には被害者自身が被害を証明するための証拠を集めて裁判所に提出することになります。通常、刑事裁判と民事裁判というのは別の裁判官が審理することになるので、民事裁判をする場合には被害者が刑事裁判を審理したのとは別の裁判官に対して、自分が被害に遭ったということを含めて証明していかなければならないということです。これだと民事裁判をする場合の被害者の負担というのが大きいですよね。そこで導入されたのが損害賠償命令制度です。

損害賠償命令制度では、刑事裁判をした裁判所が刑事事件に引き続き、被害者から加害者への損害賠償請求が認められるか、認められるとして幾らが妥当かを判断していきます。損害賠償命令についての審理をする期日というものが原則4回以内とか、損害賠償命令という裁判所の判断がなされたとしても、当事者から異議申立てがされれば、通常の民事裁判に移行するというような制限はありますけれども、被害者にとってはメリットが大きい制度となっています。

損害賠償命令制度のメリットとしてどのようなものがあるかということをまとめてみました。3つほどあります。まず、1つ目としては被害事実の立証が容易であるということです。刑事裁判で審理した記録を民事上の責任追及である損害賠償の判断で使ってもらえることになります。

2つ目として、刑事裁判をした裁判所に判断をしてもらえるので、判断が早いということが挙げられます。

3つ目として、裁判所に納める費用が安いという点が挙げられます。通常、民事裁判をする場合には請求する金額に応じて裁判所に納める印紙代というものが決まっています。例えば100万円の請求だったら1万円、1,000万円の請求だったら5万円、3,000万円の請求だったら11万円というふうに決まっています。これに対して、損害賠償命令制度を使う場合には、請求する金額にかかわらず裁判所に納める費用が一律2,000円となっていて、被害者の負担が軽くなっています。

「既に刑事事件の判決は確定したのですが、今からでも損害賠償命令の申立てができるでしょうか」。これは残念ながらできません。損害賠償命令の申立てができるのは、刑事事件が地方裁判所に係属後、弁論が終結するまでと決まっています。ですから、損害賠償命令制度を使いたいという被害者の方は、早めに準備を進める必要があります。

もう一度、被害者のための制度を見ておきましょう。本日は時間の関係上、1番目の被害者参加制度、2番目の損害賠償命令制度について見ていきましたけれども、例えば3番目の証人保護制度で、先ほど髙橋さんの話に出てきたような、証人となるときのビデオリンクですとか、付き添いをしたり、ついたてを立てる遮へいだったりとか、ほかにもこのようにさまざまな被害者のための制度があります。

「被害者のためのさまざまな制度があることは分かりましたが、すぐに内容までは理解できなかったのですが……」。被害者支援の分野に関しては新しい法律がどんどんできてきており、選択肢もさまざまです。被害者の方が結果的には何も法的手続を取らないとしても、そういう法的手続が取れることを知った上で選択していただくということが大事だと思っています。相談に来ていただいて、状況に応じた制度を教えてもらって、そこから選択していっていただきたいなと思います。

「国選被害者参加弁護士制度以外にも弁護士費用を援助する制度はあるのでしょうか?」、こちらについても幾つかありまして、損害賠償命令制度を使ったり、民事裁判で損害賠償請求をしたいというような場合には、法テラスがやっている費用の立替払い制度の「民事法律扶助」というものがあります。また、被害届を出すとか法廷の傍聴に付添ってほしいとか、そういったもので使える日本弁護士連合会の「委託援助」という制度もあります。

「被害後は病院や警察にも行かなければならず、自分で弁護士を探して相談に行く気力が残っていないのですが」、熊本県での設置を目指しているワンストップ支援センターではそこから弁護士への相談にもつながるような制度を想定しています。ワンストップ支援センターの設置によって、これまで法的支援が受けられなかった被害者の方たちにも支援ができるようになることを望んでいます。

私からの話は以上です。

引き続き、熊本県警犯罪被害者支援室の井野室長から、ワンストップ支援センターの概要などについてのお話をいただきたいと思います。井野室長、よろしくお願いいたします。

井野: ただいま御紹介いただきました警察本部犯罪被害者支援室の井野と申します。非常に長い時間になりましたので、皆さん方、お疲れではないかなと思っております。私のほうからは、県内におきます性犯罪の現状、また警察としての被害者支援の取組、そして今御紹介がございましたけれども、現在県内におきまして、性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの設置に向けた取組を進めております。この概要などにつきまして簡単に、また駆け足で御説明をさせていただきたいと思っております。

まず、県下の性犯罪の現状になります。これにつきましては皆さんのほうに資料として配布しておりますし、また、スクリーンのほうにも投影をさせていただいているところです。昨年1年間の強姦事件の発生件数につきましては、22件を認知しております。また、強制わいせつ事件につきましては、84件の認知になっております。また、これ以外に警察本部でありますとか、あるいは警察署のほうで、性犯罪の相談というような形で受けるケースがございます。この件数が116件となっております。過去5年間の推移を見てみますと、昨年が最も件数的には高い状況になっております。これは全国的な特徴でもございます。一方、性被害の発生時間帯を分析した結果が下のグラフになります。青と緑につきましては午後8時から午前4時まで、この時間帯での発生が非常に多いといった状況でございます。

ある新聞記者の方からごくごく最近、「熊本県は人口比に占める被害者の割合が非常に高いのではないでしょうか」というようなご質問がございました。私自身もちょっと心配になりまして、昨年の統計に基づいて分析をしてみますと、熊本は全国で多い順から17番目になります。最も多いのは大阪でございまして、熊本の大体3倍になります。次が福岡県でして、熊本の約2倍の被害率を示しております。九州では福岡、沖縄、次に多いのが熊本といった状況でございます。

一方、一般の方が警察に届け出をすれば、それが認知件数として計上されるのではないかといった御質問を受けることがございますけれども、そうではございません。我々警察としましては、被害者から詳細な事情聴取をいたします。その上で事実をしっかりと整理をして、最終的に被害者に申告の意思があるかどうか確認をし、申告の意思があるということであれば書面として被害届の提出をいただいて、それが認知件数というような形で計上されるといった形になります。当然、中には最終的に被害申告に至らないというケースも見られるところです。といいますのは、やはり事件捜査を行う上で、被害者からの協力確保は欠かせませんし、被害者の協力なくして事実の認定はできません。ですから、あくまでも警察としましては被害者の意思に沿って捜査を進めさせていただいているといったところです。

ただし、いずれの形にしましても、被害者が警察に届けをするということは重要な意味がございます。といいますのは、性犯罪の分析をしますと、多くのケースが面識犯、要するに知っている相手から被害に遭ったというケースが多く見られます。したがいまして、何ら被害者がアプローチをしないと、結局再被害のリスクを高めてしまう、そういった状況がございますものですから、警察としましては、被害に遭ったら必ず被害の届けをしていただきたい、というふうに被害者にお願いをしているところでございます。

一方、こういった被害者に対して、我々警察としましてはその二次的被害の防止、軽減に向けたさまざまな取組をやっているところでございます。その取組の概要につきましては、画面のほうに5つほど挙げさせていただいております。
まずは、被害直後の危機介入という役割です。特に被害直後は支援の提供の場面が非常に多く、被害者自身も精神的にバランスを崩しているといった状況にありますので、警察のほうで被害者対応に当たる専門の警察官を指定して、付き添いであるとか、あるいは相談への対応を行わせていただいているところです。

この運用対象事件というのが決まっておりまして、性犯罪はもちろんそうなのですけれども、殺人、傷害致死、強盗、あるいは交通死亡事故、ひき逃げ事故等の発生があれば、基本的にはこの被害者支援要員を運用して支援活動に当たらせていただいているといったところです。昨年中の運用件数につきましては377件でございました。うち性犯罪関係については124件の運用を行っているところでございます。

2点目の役割が情報の提供という役割です。
被害者にとって今後の捜査の手続であるとか、捜査の進捗状況、さらには支援のために利用できる制度あるいは窓口、そういった基本的な情報を被害者のほうにタイムリーに提供するということも必要になります。そういった場合に担当の警察官のほうから具体的な情報を提供するわけですけれども、被害者は非常に感情が麻痺しているような状態ですので、警察としてはいろんな情報を取りまとめました「支援の手引き」というのをおつくりしております。これを確実に被害者のほうに手交することによって、情報提供というような形で結びつけているといったところでございます。

3点目が再被害の防止というような役割です。
被害に遭っても、なお被害に遭う可能性がある、そういった被害者がおられます。そういった被害者に対しましては組織的に再被害の防止の措置を講じなければいけないといった状況です。特にDVの被害者で、公的なシェルターとか民間のシェルターのほうに入所されるケースは大丈夫なのですけれども、なかなか諸事情で入れないという被害者もおられます。そういった場合、警察としましては民間のホテル等を借上げまして、一定期間ホテルで保護するといった取組を行っております。本年度中のDVに関する運用件数につきましては、5件運用しております。また、性犯罪の被害者に関しましては、本年は2件の運用を行っております。このような制度を使って再被害の防止の措置を講じているといった状況でございます。

4点目が支援のための社会資源の活用という役割です。
我々警察もそうなのですけれども、行政機関の支援活動というのは一定の限界がございます。どういった限界かといいますと、活動内容に対する限界、あるいは活動期間の限界、さらには専門性の限界、そういったもろもろの活動上の限界がございます。
したがいまして、より専門性を持って中長期的な支援対応ができる専門の機関につないでいくという部分も、我々警察に課せられた大きな役割ではないかなと思っております。

昨年度中、今日は髙橋さんがお見えなのですけれども、くまもと被害者支援センターのほうに14件の被害者情報の提供を行っております。うち半数が性犯罪の被害者の情報の提供となります。しっかりと専門の機関の方におつなぎして、中長期的な支援対応を実現するということも非常に重要となっております。

最後は、経済的負担の軽減という役割です。
一般的に性犯罪の被害者が警察のほうに届け出てこられますと、産婦人科病院の方に医療的な措置をお願いする場合がございます。その場合の診断書料であるとか鑑定資料採取の費用、あるいは緊急避妊の措置料、性感染症検査料、さらには人工妊娠中絶費用、こういったもろもろの項目について公費で支出することによって、経済的な負担を軽減しているといった状況でございます。

一方で、国におきましても犯罪被害給付制度というのがございます。画面に出ている制度なのですけれども、この制度は3つに分かれております。1つは遺族に対して国が見舞金を給付する遺族給付金、また、1カ月以上の加療かつ3日以上の入院を要する場合の1年間の保険診療にかかる自己負担額を給付する重傷病給付金、それと障害等級に応じて給付する障害給付金、この3つです。

実は先般、11月1日付でこの給付制度の規則の一部改正がなされております。この改正の概要につきましては、皆さんの方のレジュメにも落とさせていただいておりますけれども、要点は2つございます。1つは、従来、親族間の犯罪であれば不支給、支給しないという形でした。ただ、今回の改正におきまして、別居の兄弟姉妹間の犯罪の場合は原則3分の1支給しますというような形で、支給対象の拡大を図っているところでございます。

もう1点の改正点につきましては、親族間の犯罪で、給付すべき特段の事情があって、その背景事情に障害者虐待、児童虐待あるいは高齢者虐待があって、なおかつ被害者に帰すべき責任がない場合につきましては全額支給が可能というような形で、支給対象の拡充を行っているところでございます。

この給付制度につきましては、警察の我々犯罪被害者支援室の方で事務をさせていただいております。年間10件から20件の申請を受付けております。最終的には公安委員会のほうで御裁定をいただくわけなのですけれども、年間の裁定額につきましては大体2,000万円から3,000万円を見舞金として給付させていただいているといった状況でございます。

以上が警察における被害者支援の取組概要になります。

次に御説明をさせていただきますのは、県内における性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの設置に向けた取組でございます。実は、平成23年11月から12月にかけまして、国のほうでは全国の国民を対象に男女間の性暴力に関する実態調査が行われております。その調査結果を抜粋したものを画面のほうに落とさせていただいております。

見ておわかりのとおり、「過去に被害に遭った経験がございますか。」というご質問に対して、回答者の7.6%が「過去に経験があります。」と回答しています。非常に高い被害率、そういった実態が明らかになっているところです。「相手方は誰ですか。」という問いに対して、約8割の方が知っている相手から性的な暴行を受けたというふうに回答をしております。また、「その時期はいつの時期ですか。」という形の質問に対しましては、約4割の方が20歳未満で被害に遭っているといった実態も明らかになっております。

また、相談率ですが、被害者の約7割の方がどこにも相談をしていないという状況です。自分の兄弟にも友人にも両親にも、どこにも相談ができずに、被害者の孤立化という部分がクローズアップされてきているといった状況です。そして、「警察の方に届け出、相談しましたか。」という割合は、3.7%。要するに100人のうち3人か4人しか警察に届け出をしていないといった実態です。非常に被害が潜在化をしてしまっている。そういった実態が明らかになっております。

また、その後の影響ですが、7割の方が生活上に支障を来しているといった状況でございます。特に最近は若者を中心にインターネットの社会になりまして、インターネット空間を活用して知り合って被害に遭った場合、どうしても被害者というのは自責感を抱えてしまいます。また、社会的な風評被害という部分を恐れるあまり、被害自体が潜在化していく、そういった危険性があるということも危惧されているといった状況でございます。

このような性暴力被害の現状を踏まえまして、被害の届け出の有無にかかわらず、被害直後から産婦人科医療、あるいは法的支援、心理的支援、捜査の関連支援等々を可能な限り1カ所で対応できるような支援の新たな枠組みづくりとして進めているのが、このワンストップ支援センターになります。県内においてどういったセンターが一番望ましいのかを協議・検討するため、本年4月に設置検討委員会を開設いたしました。4回にわたり協議・検討を重ねていただきまして、最終的にはその取りまとめ結果を7月に答申書としてご提出をいただいたところでございます。本日の山本様につきましてもオブザーバーとしてご参加いただきましたし、渡辺先生も委員の1人としてご参加をいただいたところでございます。

現在、全国におきましても、私の知る範囲では16都道府県でこういったワンストップ支援センターの設置が進められているといった状況でございます。ただし、全国それぞれ運営の形は違います。設置の形態としては、全ての支援機能を病院に一極集中する病院拠点型、それと、1つの相談センターと1つの拠点病院をタイアップして支援体制をつくる相談センター拠点型といった設置の形態も見られるところですが、本県におきましては1つの相談センターを中心に、県内に複数の協力病院を確保して支援活動を実現していく、相談センター中心の連携型が一番望ましいのではないかというような形で答申を受けまして、現在その設置に向けた諸準備を進めております。来年度の運用開始に向けて取組を進めているところでございます。

その支援の内容なのですけれども、皆さんのレジュメの一番後段部分に体系的に落とさせていただいております。まず、新たな相談センターを開設したいというふうに思っております。これは性暴力に特化した専門の相談センターになります。その相談センターにおきましては相談活動、直接支援活動、それと専門的な支援活動、この3つの支援活動を展開していただくことになっております。相談活動と直接支援活動につきましては、基本的には24時間対応ができるように取組を進めているところです。

ただし、相談センター機能を行政が行っているところもございます。しかしながら、先ほど申し上げましたとおり、行政機関ではもろもろのいろんな限界がございます。より質の高い中長期的な支援活動を展開するためには、専門機関である民間団体などにこのセンター機能を業務委託したいというふうに考えております。

一方で産婦人科医療機能です。この協力病院に対しましては4つの要件を充足していただくことにしております。1つ目は研修を受けた職員による支援対応という部分です。被害者対応に当たっては一般的なスキルが必要になります。そういった研修を受けた病院のスタッフが対応に当たっていただくというところです。

2番目は必要な情報の提供という部分です。病院におきましても警察のもろもろの制度であるとか、今度新たに開設されます相談センターの活動内容、そういった情報を病院のスタッフの方からしっかりお伝えをしていただくというところです。

それと、終日の受け入れ対応という部分ですけれども、ここの部分は相談センターのほうに夜間帯に相談があって、速やかな医療措置が必要な場合、夜間帯であっても被害者を受け入れていただくというような形になります。

最後に、届け出前の証拠資料の採取です。現在、警察に届け出があれば、警察から病院のほうに一緒に行って資料の採取等を行っておりますけれども、この運用開始後は被害の届け出前であっても病院で先行して、本人の同意のもとに資料を採取していただいて、病院の先生から被害者匿名というような形で警察に証拠資料を提出していただく、そういった新たな取組を開始したいというふうに思っております。

この4つの要件を充足する病院を協力病院として確保し、運用したいと思っております。現在、県内におきましては16の産婦人科病院から内諾をいただいております。したがいまして、本県におきましては、1つの相談センターと16の病院が今後タイアップして、被害者の受け皿として機能していくような形を目指しているところです。

以上が本県におけるワンストップ支援センターの概要になりますけれども、この新たな取組は、女性を守る、子供を守る、そういった取組でございますので、速やかに運用が開始できるよう諸準備を今後も強力に進めてまいりたいと思っております。

以上で私の説明を終わらせていただきます。ありがとうございました。

山本: はい、ありがとうございました。黒田様からは性虐待に遭った子供たちの苦しみを、髙橋様からはAさんの裁判事例を通して、やっぱり裁判がどれだけ被害者に大きな負担を与えているのか、だけれども、それを支援していく支援センターでの取組についてお話をいただき、本当にありがとうございます。

渡辺先生からは、裁判システムをわかりやすく説明していただきました。新しい賠償制度について、知らなかったのでとても勉強になりました。ありがとうございます。井野様からも警察の新しい取組についてお話しいただき、進んでいないと思っても、こういうふうに皆さんの取組の結果、少しずつ動いているのかなということを実感することができました。

御依頼に当たって、「被害者及び被害者への支援活動を行っている立場からの提案と、あとワンストップ支援センター設置に向けての期待についてということで話してください」というふうに言われたので、今から少し、10分ぐらい耳をお貸しください。

お話の中で、「見えるものと見えないもの」というお話があったかと思います。黒田様のお話の中にも井野さんのお話の中にも、見えにくい被害者の存在、それをどういうふうに可視化していくかというような、論点があったかと思います。見えているものというのもとても重要です。データを取って、何が起こっているのかということをしっかり認識していくということも大事なのですけれども、一方で語ることが難しい人の声というのをどういうふうに聞いていくのかということも大切なことです。

そして、もし見えているものがあるとしたら、この見えているところに対してどのように適切に対応できるのかということも、とても重要と考えます。被害者支援が適切に行われていれば、例えば言うことができない被害者でも「ああ、私もそういうことをしてもらえるかもしれない」と、そういう期待を持つことができるからです。

日本の被害者支援システムはアメリカや欧米と比べれば30~40年遅れていると言われています。ここの距離をどのように埋めていけるか。適切な被害者支援を行い、それが見えるようにして、ちゃんと声が聞けるようになっていくことが必要なことだと思います。そのために、新しい取組としてワンストップセンターというのが出てきて、井野さんからのお話をお聞きしたわけですけれども、始まったところなので、その土地でできること、その土地の事情を考えながら進めていくというのが大切だと思います。

しかし、私が考えるに、ワンストップシステムというのは1カ所でというよりも、1回でという意味だというふうに考えています。

これはアメリカの、子供への性的虐待が行われた時に聞き取られる司法面接の場面なんですけれども、被害に遭った子供さんに専門の訓練を受けた支援員が、どういうことが起こったのかということを、1回できちんと聞き取りをする。そしてその場面に、マジックミラー越しに、今ちょっと写真の関係上2人しかいませんけれども、警察官や検察官、そして医療職、ケースワーカーの人たちが同席して、聞き取りで足りないところを聞くわけですね。やっぱりそれぞれに考えていることが違うわけです。警察官はどうやって加害者を捕まえて証拠を確保できるか。検察官は裁判に勝つにはどういうふうにすればいいのか。医療者だったら、聞き取り後に体を診察することになっていますので、どういうふうに身体を見て証拠を確保するか、どういうケアが必要なのか。ケースワーカーだったらこの子を今後安全に保護するために、またトラウマケアをするためにはどうすればいいのかということなどを考えていきます。その聞き取りはすべてビデオで録画しています。

子供さんの場合は1回で聞き取りを終わらせて、裁判の時はこのビデオを使って証言をしてもらうわけです。髙橋さんのお話にもありましたけれども、何回も何回も同じ話をしないといけないというのは大変なので、1回で終わるようにしているんですね。子供の場合は特にお話が変わりやすいので、そういう取り組みをしていますし、大人の場合も支援にかかわる人たちが1回で集まって、聞き取りをするということが行われています。

日本では、医療とか司法、いろいろな法律システムを乗り越えていかなければいけないですけれども、やっぱりワンストップというのは本当に1回でということを目指していく必要がある。そのことが被害者の負担を軽減していくというふうに思っています。

こういうことが行われたのは、やっぱり被害者を支援する取組の中で、被害者から制度は近寄りがたく、手続もわからない、たらい回しにされるという訴えがあったからですね。日本のワンストップの中でも、こっちでも話さなければいけないし、検察でも話さなければいけない、裁判でも話さなければいけない、そういうことはシステム上起こるわけですよね。その同じ説明を何回も求められるということを変えていくということが、心身の負担や苦痛の軽減のために必要だと思います。1カ所で支援を受けるということはすごく取組れているので、チームとして1回で聞き取る、そうした協働した取組もできればいいのではないかというふうに思います。

アメリカの検事さんのお話を聞いた時にが「システムの中で、各方面の専門家が一堂に会して希望やニーズに沿った形で熱心に支援を提供するということが、ワンストップシステムの面目躍如たるところです」と述べられていました。他にも、「こういう家族の問題とか性暴力被害とか、そういう暴力にすごく熱心に取組人というのはちょっと変わった人なんですよ。だけど、その変わったことに非常に熱心に取組、熱意のある人が100人に1人いたら、その1人を集めて、そしていいチームをつくっていく、そしてシステムに働きかけていくということがすごく大事だ」とも言われていました。

今回、4人の方のお話を聞いて、皆さんとても熱意を持って取組でおられるので、私はその点について本当にとてもうれしく思っています。

もう一つ、このリンダ・ジンガロさんという方は私がとても敬愛しているカナダのカウンセラーの方ですけれども、この方も性暴力被害に遭って、その後カウンセラーとして活動されている方であります。この方が日本に講演に来られた時に、私たちにこう教えてくれました。

私たち、この熱心な専門家とか支援者が、やっぱりこうやって泣いている赤ちゃんを助けようと一生懸命取組でいる。ある程度は助けられるかもしれない。だけれども、泣いている赤ちゃんはどんどん運ばれてくる。それはどういうことなのか。この川上のほうに赤ちゃんを投げ落としている、そういうシステム、そういう人たちがいるわけです。そこに焦点を当てて、それを変えていかないと、この仕事はいつまでたっても終わらないし、私たちにとってもとても徒労になってしまったりとか、もうやり切れないという、そういう思いになってしまうことがあります。やはりこの川上を変えていくということにも、被害支援をしていきながら働きかけていく必要があるというふうに思います。

そして最後に、ちょっとこちらのほうは時間がないので飛ばしますけれども、やはりいろいろな人たちが、被害者だけではなく身近な人、専門職、地域社会という方がかかわって、被害者だけではなく、そして支援者だけでもなく、見守り、文化や芸術を豊かにしていくことが必要であるということを私も考えています。

最後に私が好きな、「星の王子様」を書いたサン=テグジュペリの言葉を紹介させていただきます。
「やさしく愛することで、わたしはあなたを自分自身に立ち返らせてあげたい。愛はそのプロセスとなるでしょう」。
この性暴力被害の問題というのは、被害者だとか加害者とかだけで起こっていることではないというふうに私は考えています。支援者などごく一部の人たちが関わることだけでもなく、この社会の中に暮らす人々が、こういう被害に遭った人に対し優しく愛する、そして弱さにつけ込まないとか、弱々しさを利用しないとか、そういうことをも必要ですし、自分自身に立ち返ることができるように、この社会に住む多くの人が愛をもってかかわってくれれば、これはすばらしいことではないかなというふうに思います。ちょっと理想論かもしれませんけれども、私自身はいつもそういう思いでかかわっています。

これで私の講評は終わりなんですけれども、長い時間、しかも性暴力という重たい話を聞いていただいたので、ちょっと最後にクロージングをしたいなというふうに思います。そうですね。1回ね、髙橋さんがしていただいたように、ちょっと伸びをしていきましょうか。ありがとうございます。

そして、もしよければ最後のほうに、自分を優しく愛することを書いて、近いうちに実行してもらえればと思います。例えば私だったらちょっと贅沢をしたい時、スタバのカフェラテを飲んだりとかしています。ホテルのドアマンにドアを開けてもらって、「どうぞ」と言ってもらうために、わざわざホテルのところに行ったりしている人もいます。そういうふうに少し自分の気持ちを大事にする、自分に優しくするということをちょっと余白に書いていただいたりして、それをしてもらうのもいいのかなと思います。
今日はありがとうございました。

警察庁 National Police Agency〒100-8974 東京都千代田区霞が関2丁目1番2号
電話番号 03-3581-0141(代表)