島根大会:パネルディスカッション

「犯罪被害者支援の現状と課題 ~私たちのできること~」

コーディネーター:
桐山 香代子(島根県弁護士会犯罪被害者対策委員会委員)

パネリスト:
磯谷 富美子(闇サイト殺人事件被害者遺族、殺人事件被害者遺族の会「宙の会」幹事)
冨田 博子(島根県臨床心理士会会員、島根県警察スーパーアドバイザー)
河津 和彦(「子ども・女性みまもり運動」参加事業者、「山陰やさい家族」代表)
青木 美奈子(「浜田を明るく照らし隊」島根県立大学学生メンバー)

桐山: 只今紹介にあずかりました弁護士の桐山と申します。今日は「犯罪被害者支援の現状と課題~私たちのできること~」と題しまして、パネルディスカッションをこれから始めたいと思います。これから自己紹介をさせていただきます。今日はそれぞれの立場の方々が集まっていらっしゃいますので、いろいろなお話ができるかと思います。よろしくお願いいたします。では、私から簡単に自己紹介です。

いま紹介いただきました、弁護士です。島根県弁護士会に所属して活動しております。先ほど磯谷さんが仰いましたように、私も被害者の代理人もやりますし、被告人・犯人の弁護もする両方の立場を経験しております。島根県弁護士会の犯罪被害者対策委員会で委員長をしております。そこでは、被害者の支援活動も守備範囲に入っておりますが、法制度に対して意見を出す活動を主に行っております。今日、私は法律の専門家という立場から発言ということになります。

次にパネリストの自己紹介をさせていただきます。磯谷様は先ほど御講演あずかりました。それでは冨田様からお願いいたします。

冨田: 皆さんこんにちは。臨床心理士の冨田博子と申します。よろしくお願いいたします。私は7年ほど前に神奈川県から故郷の山陰島根に戻ってまいりまして、引き続き臨床心理士として活動しております。その1つが県警のスーパーアドバイザー、これは現在8名ほど県下に認定されておりますが、補導された少年たちの御家族へのカウンセリングと、彼らに対応される補導職員の方々への助言が役割です。

それと、県警から要請がありましたら被害者の方々へのカウンセリング、その後も被害者の方々の御要望がありましたら島根被害者サポートセンターへつなぎまして、両方合わせて11回、これはもちろん被害者の方に費用が掛からないカウンセリングの対応をしております。

その他の仕事としましては、乳幼児の子育て中のお母さん方への子育て相談、それとこれが一番主なのですが、中学校・高校のスクールカウンセラーをしておりまして、そのスーパーバイザーの役割もしております。学校で事件・事故、あるいは生徒さん、先生方の自死などがあったときに、学校への危機対応で、チームを組んで学校へ緊急支援に入ることもしております。今日はよろしくお願いいたします。

桐山: 河津様、お願いいたします。

河津: 皆様こんにちは。私は「山陰やさい家族」という青果業を行っています。私も10年前からUターンで東京から帰って来たのですが、東京にいる間にオウム真理教の地下鉄サリン事件、都内の大学に通っていたので同級生が何人かその地下鉄に乗って被害を受け、今でもフラッシュバックがあるという話を聞きます。

なぜ私が「女性・子どもみまもり隊」の活動をしているかというと、父が島根県警の警察官でその背中を見て育ったので、自分でも島根に帰って、安心・安全のまちづくりに何か御協力できれば良いと、今回4月からですが、「子ども・女性みまもり運動」の事業者として登録させてもらい、活動をしています。以上です。

桐山: では、最後に青木様、お願いいたします。

青木: 島根県立大学一回生の青木美奈子です。私は大学に入学してから、県大生と浜田市の方々が一緒に活動する「浜田を明るく照らし隊」という団体に入っています。これは、4年前に島根県立大学生だった平岡都さんが夜道を歩いていて突然何者かに連れ去られて殺害された事件がきっかけとなっています。このような悲惨な事件が2度と起こらないよう、浜田市民の方が明るい温かい街づくりをするために何かできることはないかと考え、立ち上げられました。

浜田市は電灯がついてはいるのですが、その事件をきっかけにしてもっと浜田が明るく安心・安全な街になったら良いという想いで活動を始めています。先月10月26日は丁度平岡さんの命日でしたが、毎年行っている「はまだ灯」というイベントを開催しました。これも、浜田市がもっと明るい街になって、安心・安全に市民の方々が暮らせる街になったら良いという試みで、活動の一環として行っています。

今日は大学生の立場から何か思いついたことや考えなどが言えたらと思っています。よろしくお願いします。

桐山: それでは、基調講演の御感想からお話しいただきたいと思うのですが、河津さんいかがでしょうか。

河津: 昨日、事前にミーティングがありまして、その中で磯谷さんの資料を読ませていただくだけで胸が千切れそうな思いになったのが実際です。今日、磯谷さんのお母様からのお話を聞いて、私は子どもが2人いるのですが、もし自分の子供に何かあったらと思うと、磯谷さんのお母さんの想いがすごいと感心し、多分自分も同じように、その犯人に死刑を望むと思います。

今までは、殺人事件があって死刑と言われても他人事の気がしましたが、こういうシンポジウムで被害者の方の御意見を直接聞くことができたことは、私の子育てもですが、自分の知識、自分の街でこういう犯罪を犯してはいけないという決意が、今日、生まれてきたと思います。ありがとうございます。

桐山: 青木さん、いかがでしょうか。

青木: 磯谷さんの生の声を聞いて思ったのですが、やはり今の司法のことで加害者の次の更生の支援をすることが優先的に考えられている裁判だということを感じ、本当であれば被害者の方を第一に考えて、心のケア、警察の態度、裁判の態度、かかわる人ももっと被害者に寄り添ってあげられるような接し方であれば、被害者になったとしても、不安や心配がなく、事件と向き合えたのではないかと思います。

風化させたくないと仰っていたのがすごく印象的だったのですが、私も「浜田を明るく照らし隊」に入ってから平岡さんの事件を知って、今の私の世代で入ってきた1年生は、事件のことを知らないで県立大学に入っている学生もいると聞いているので、そうではなく、もっと世の中のことに疑問や関心を持って、忘れてはならないことは忘れずに、自分の身は自分で守れるようにしたいと思いました。

桐山: ありがとございました。今日磯谷さんが講演いただきました中から、何個かテーマを絞ってお話を進めていきたいと思います。

まず司法の関係で、捜査の段階でお困りになったこと。それから裁判でお困りになったことが何点か出てきました。その中で情報不足、警察から情報が出ない、調書作成時にとても緊張したということです。

それについてまず私から、私は警察官ではないのですが、制度として皆さんに知っていただきたいのは、警察でも被害者連絡制度がございまして、被害者となられた方に対して犯人の情報を捜査の支障のない範囲内で連絡、通知をしてくれる制度はあります。検察庁にもそういう制度はあります。ただし、世間一般には知られていなくて、今でも警察は被害者に何も教えてくれないという誤解があるのかも知れません。

調書作成のときに緊張されて、傍聴では1人ではなくて弁護士や被害者サポートセンターの方が付いてくれて心強かったということですが、これについても弁護士はそういう活動もしています。島根県の被害者サポートセンターでも、ボランティアの方々がいっぱい登録されておりまして、そこでは傍聴支援や一緒に傍聴してくれる傍聴同行、警察や病院に行くときに付添いをしてくれる制度があります。

調書を取る時は、取調室の中にはその対象者しか入れないのです。そこは限界なのですが、取調室なのか別の和やかな部屋なのかはいろいろあると思いますが、警察に1人で行くというのと、警察の取り調べ室の外で待っていてくれる人がいるというのはそれでも少しは違うかと思うので、そういう活動を被害者サポートセンターや弁護士が行っているということも、頭に残していただくとありがたいです。

すみません、私ばかりしゃべっていますが、裁判の関係では、確かに被害者は国選の弁護人を付けようと思ったら、現在では貯金がざっくり考えて150万円未満でないといけない。それに対して犯人・加害者は、一応50万円未満の預金を持っている被告人・被疑者に対しては弁護人を付けるという規定があり、それ以上の財産を持っている犯人に対しても、誰も弁護人がなってくれない等、何らかの要件を満たすと国選で弁護士を付けることができることになっております。

磯谷さんの仰ったように、被告人は弁護士を国選で事実上付けられ、被害者はそうではないという限界が現在では確かにあります。被害者支援を中心として活動している弁護士は、国選の被害者の制度を何とかしようと活動を確かに行っておりますが、今はそういう限界があることは本当に否めません。

今日は法テラスという国の団体のパンフレットが中に入っておりますけれども、このパンフレットの中に、法的な制度として被害者支援の制度が入っておりますので、後ほどご覧ください。それからグリーンのパンフレット、これにも付添い、傍聴に関しての簡単な説明があります。これも良かったらご覧ください。

さて、捜査や裁判の段階で緊張したり、傍聴するのがとても辛かったということでしたが、これについて臨床心理士の立場からどのような支援をお考えになられますか。

冨田: では、臨床心理士の立場から少しお話をさせていただきます。本当にその瞬間までは当たり前と思っていた普通の日常が引き裂かれてしまうわけです。それからまったく未知の、知らなかった大変な世界が動き出す。今お話になられた事情聴取、現場検証や裁判に至るまで、待ったなしで次から次へ対応していかなければいけない。

その中で心理士としては、まず被害者の方の安全が確保できて守られているか。環境がきちんと整備されているか。衣食住など基本的な生活などが困られていないか。そういうものに様々な機関や関係者の支援が、支援の輪として様々な所から支援があるわけです。その中の支援の1つとして臨床心理士のカウンセリングもあると考えています。できるだけ事件後早いうちにお会いしていければと思っています。

1つの事例として、私は以前、付き合い始めていた男性が暴力事件で大けがをさせられて、その後亡くなられたという女性にお会いしたことがあります。頭痛、息苦しさ、眠れない、夜中に恐ろしい夢で何度も何度も目が覚める、こんなことが起きたのは嘘だ、信じられない、イライラする、何も信じられない、このままでは自分はおかしくなってしまうのではないかと、いろいろな思いが頭の中をぐるぐる回るということ。もう一つ、自分が何もできなかった、何の力にもなれなかったという強い自責の念がいっぱいの状態でした。

先ずゆっくり落ち着ける場でお聞きすること。これだけ強いストレスにさらされる時は、自分がおかしくなってしまうのではないかという感情が湧き起こる。人の心はそういうものでもあるのですよと、心の動きを1つずつ静かにお伝えしていく。自分の中がどうなってしまうのかということを静かにお伝えしていくことも、とても大事だと思っております。

我々臨床心理士は、犯罪被害者の方々をPTSDやうつ症を発生させないという支援を大きな役割と思っております。それは先ほども出ました、本当に心に大きな傷、トラウマを抱えてしまうと、何か月、1年後、あるいはもっと10年後でも、フラッシュバックというその時に引き戻されるような感覚が起きてきて、日常生活が続けられないほどの苦痛、不安にさいなまれる方がおられます。それがPTSD(心的外傷後ストレス障害)というものです。

そのような症状が出ない、そういうものを抱えないためにも適切な時期に適切な支援、対応が必要だと思っております。特別なことではなく、今被害者の方が感じておられる感情、苦しい、辛い、悲しい、腹が立つ、相手を殺してやりたいという思いを、安定した信頼関係の中で、そして守られた関係の中で、いろいろ湧き上がってくる感情を少しずつ言葉として表出していく作業はとても大切なことです。

こんなこと言ってはいけないのではないか、こんな言葉を出してはいけないのではないかと蓋をしてしまうのは、却って良いことではありませんし、その時、頭が真っ白で記憶が飛んでしまっている方もいらっしゃるのですが、そこのつながらなかった恐ろしい記憶や忘れてしまった記憶をゆっくり思い出して、記憶がつながっていくという作業も、少し客観的にこの状況を見ることができるということでは、とても大切なことだと思っています。

それは決して被害者の方に無理に、お話しくださいとか、思い出しなさいとすることでは絶対ありませんが、表出する感情をありのままに受け止め、それに共感していくこと。その苦しさをすべて心理士が理解するというような思い上がった気持はありませんけれども、真剣に、真摯にそれを受け止める。そうして向き合うという思いを共感する。何か分かってもらえた、と思ってくださることが、その被害者の方の自分自身の最初の一歩の手助けになるのではないかと思っています。

先ほども二次被害のことが、本当にいろいろな場で二次被害にさらされておられて、マスコミの取材や報道はもちろんですが、先ほど何度もありました司法の場、捜査の段階で、あるいはお医者さんにも、レイプされた人が「それぐらいのけがで良かったね」という言葉を掛けられて二次的に傷ついた方もたくさんおられます。

身近な人、隣近所、知り合いの人、インターネット、手紙、電話等で早く励まそうという想いで、「早く事件のことは忘れなさい」「これが運命なんだよ」「時間が解決するから」「元気を出しなさい」「あなたがしっかりしなくては」とか、励ましで安易に掛ける言葉は、傷ついて本当に必死にぎりぎりのところにおられる方々には、それがさらに傷として残ってしまうこともあります。

こういう言葉を安易に掛けてしまうということは、いろいろ私自身の気持ちも振り返って考えてみますと、自分自身や子どもたちが酷い被害にあってしまう、誰でも起きることなのだというよりも、被害者の人達は、社会的には異質な、自分達とは関係ない違う人達なのではないかという想いが少しでも自分自身の中にあれば、本当の意味で被害者の方に共感することは難しいと思います。

被害者の方の想いを大切に聞く、寄り添うということの中で二次被害を起こさないこと。我々の根底にそういう思いがないかと、自分のこととして考えていかなければいけないことだと、今日はとても強く感じております。すみません、心理からそのような呼び掛けをしております。

桐山: 言葉による二次被害がありました。磯谷さんは先ほど司法の場でいろいろな言葉に傷つけられたと仰っておられましたが、それ以外に、今発表されたように、身近な近くにいる人からの言葉や、何気ない言葉が実はグサッときてしまったことがありましたでしょうか、それに対して、例えば被害者サポートセンターからの支援がどうだったか、もしありましたら教えていただけますか。

磯谷: 本当にご近所や皆様が一生懸命支えてくださった状況の中にいましたので、特別傷ついたということは先ほどお話ししたことが主です。ただ、ご近所の方にお会いしたときに「元気になって良かったね」と本当に気持ちとして掛けてくださるのですが、その言葉を素直に受け取れない。私の中ではきっと「良かったね」と喜んでくださっていると分かっても、本当は元気じゃないんだということがずっと胸の中にあって、それは今でもそうです。

お声掛けをもしされるのでしたら、一言まだ付けていただいた方が良いと思います。「本当は時間が経っても苦しいでしょうけど、少しでもこうなって良かったね」と。「そうじゃないんだよね、元気そうに見えるけど本当は違うんだよね」という一言があると、分かってくださっているのかなという気持ちになれます。本当は良い意味での声掛けが、却ってどこかで引っ掛かるということはあります。

桐山: 次に署名活動について、最初は磯谷さんとお姉さんと2人で始めて、周りの人に協力を求めるのは遠慮をされてしまったということですが、このような被害者の方の言葉について、地域住民の立場から河津さん、いかがでしょうか。署名活動がもしあるとすれば、どのような支援ができますでしょうか。

河津: 自分の暮らす地域と、仕事をしている地域の両方あるのですが、今の地域があまり人のことを思いやらない地域です。私はマンションに住んでいますが、まず大人が挨拶しない。隣近所のことを知らない。その中で地域との関係性を生み出すのが非常に難しい時代でして、やはり大人が率先してコミュニティを作っていくことがすごく必要だと、今実感しています。

やはり地域の一人ひとりがこういう犯罪に向けてもっと勉強していかないといけないし、多分今日聞きに来られている方々の多くが県庁や警察関係者だと思うのですが、もっと一般市民の方がこの会場に来ていただけないと本当の意味がないと私は思っています。

私が今日やることは、家に帰ってまず家族とこの話をする。そして自分の住んでいる地域とこの話をするということが、犯罪被害に遭われた方の署名活動の拡大にもつながっていくということがまずあります。今日来られた方はまずおうちに帰られて、御主人でも御家族でも良いので家族で話し合ってみてください。以上です。

桐山: 青木さんはいかがでしょうか。先ほど浜田の活動も簡単に御紹介されていましたけれども。

青木: 河津さんと同じで、私も島根県出身で、小中高とずっと地域の方々と登下校中に出会ったときには、全然顔を知らない人でも、挨拶をしてくださいと教育を受けてきました。しかし、大学に入って県外から来ている同級生に話を聞くと、そうではなくて登下校中はいつ事件が起きてもおかしくない、危ない世の中だからという理由で、知らない人には挨拶をしてはいけないという教育を受けてきたと聞いて、それは今まで考えたことがありませんでした。地域の方々の結びつきが強いほど、もっと安全で安心な街になるのではないかと思っています。

署名活動に似たような募金活動を、街頭募金の活動を高校のときにしたことがありますが、そのときにもやはり知っている人は募金をしてくれますが、自分に関係ないなという感じで通り過ぎてしまう方も中にはいらっしゃるので、そうではなく、どんな事件も自分のこととして捕えられる世の中になって欲しいと思っています。

そのために、私も大学生として浜田市に住むには地域の方ともっと話し合いをして、知らない人でも出会ったら積極的に声を掛け、挨拶も、知らない人でも気軽にこんにちはという会話ができる街になったら良いと思っています。

桐山: 今のお話は犯人を作らないという防犯活動にも大変役に立つお話だと思います。先ほど河津さんが仰ったように、皆さん被害者にならないためでもありますので、お考えになってくださると有り難いと思います。

では次に、マスコミ被害は、被害者にとっては、事件が大きく騒がれますと、大きくなればなるほどマスコミ被害も大きくなります。これについて少しお話をさせていただきたいのですが、確かにメディアスクラムとか言いますが、過剰な取材に対する苦情の申立ての窓口がそれぞれの新聞社にあり、放送機関ではBPOという略称の機関に、過剰な取材だからやめてくれと苦情を申し立てる窓口はちゃんとあるのです。週刊誌の協会にも確かあったと思います。

しかし、1回やられてしまうとあとで訂正しても、皆さんの頭に残るのは最初のインパクトです。なので、あとで訂正するという制度はありますが、あまり最初のインパクトが頭に刷り込まれてしまうと被害者はとても辛い立場になります。ただし、先ほど磯谷さんが仰った、マスコミがあったからこそということもありました。磯谷さん、どうでしょう、もう少しその負の部分とプラスの部分、何か補足的にございましたら。

磯谷: 多くの人に何かを伝えようとすると、やはりマスコミの存在はすごく大きいものだと思います。多くの被害者の方に聞きますけれども、マスコミさんがいらっしゃるのは、来て欲しくないときに押し掛けて来て、聞いて欲しいときにはもう来てもらえないとよく仰っています。だから、ある程度事件が落ち着いたら、被害者の方ももっとちゃんと言いたいことが整理されてくるのだと思いますが、そういう時期にこそどういう気持なのか聞いてあげて欲しいと思います。

事件早々というのは本当に分かりきったことを聞かれます。その時はどうでした、どんな感情でしたって、そんなこと聞かなくても分かっているでしょうということを、わざわざ口に出して言うことがすごく辛いことであると分かっていらっしゃらないのかもしれませんけれども。しかし遺族は、声を出さないと記事にできないと言われることもあり、その言葉を言わそうとしてくるので、お立場的には分かるのですが、被害者や遺族にとってはちょっと事件早々の取材は辛いです。

桐山: それについてはこれからお話をしようと思うのですが、早期の被害者支援という観点から、事件当初から弁護士が報道の窓口に立つと、報道機関サイドも穏やかな取材になるという事例があったとは、私も弁護士仲間から漏れ聞いています。そういうことで弁護士を使ってもらうこともあります。

では次に、民間の被害者支援団体や自助グループの関係でお話を進めたいと思うのですが、先ほど磯谷さんがご指摘されたのですが、最初に警察から被害者団体の紹介を受けていた。その存在は知っていたけれどもお願いはできなかった。それは紹介ではなく、取り次ぎをして欲しかったということ。これは本当にとても重要な視点です。

被害者支援の窓口はそれこそ探せば山ほどあります。それを本当にいろいろな犯罪被害者の方に対して、皆さん行政の立場からも弁護士の立場からも、紹介することはよくやるのですが、そうすると被害者の方は混乱してしまいます。

あれはあそこに行きなさい。これについてはこっちに行きなさい。あれについてはこっちに行きなさい。「私こんなに振り回されるのかしら」ということを、本当に私も被害者の方から相談を受けて、そういうことを訴えた方が何名かいらっしゃいました。ですので、紹介ではなく取り次ぎも、「ではこういうことでお話を通しますね」とそこまで言って欲しいと御希望の犯罪被害者の方はいっぱいいらっしゃいます。

これについて民間団体のサポートで、先ほど磯谷さんからは、いろいろ月に1回ぐらいサポートセンターのボランティアの人に話を聞いていただいたということです。何だ、話を聞くだけで、そんなのが犯罪被害者支援なのかと考える方もいらっしゃいますでしょうが、いかがですか、磯谷さん、お話を聞いてもらうということが犯罪被害者支援になりますか。

磯谷: 聞いていただくだけでもなります。やはりそういうお話は誰にでもできるお話ではないですから、専門の方が、もちろん聞いた方は守秘義務がありますので他に漏らされませんので、そういう意味では聞いていただくだけでも大きかったと思います。

桐山: 心理学の立場からどういう効果があるのか、御教示いただければ。

冨田: そうですね、いろいろな迷いがあったり、いろいろな思いが頭の中でぐるぐる回ってきているときは、何かを決定することがとても難しい状態ではないかと思います。犯罪被害で家を転居してお子さんをどうするか、どこに住所を移してどこの小学校に決めて行けば良いかということに直面しておられるお母さんなどは、何か決めようとするとすごく頭の中が騒がしくなってきて、何かを決める勇気が出ない。

このことを話すだけで、私がああしなさい、こうしなさいという立場や役割では一切ないのですが、いろいろなことをお話しされる中で、お母さん自身がだんだん整理ができてくる。今一番の優先順位はやはりこれだと、話をされる中で御自身の頭の中が整理されて気持ちが少し整理されていく。

解決にはならないかもしれませんけれども、いろいろな激しい感情やストレスを貯めていかれる状態だと思うので、ガス抜きということもとても大切なことだし、御自身の整理に役立つ。その中で御自分でできること、ちょっと手伝ってもらわないとできないこと。それはどういう支援をしてもらえば良いかということを御自身の力で、自分の治癒力で、全部誰かにやってもらうということではなく、少しずつ自分でできてきた、できていけるという思いを引き出すような支援もとても大事だと思います。

やはり知って、ゆっくり時間をかけて思いを聞いていくということは、ただ話を聞いてもらうだけではなく、そこにいろいろな意味合いがあるのではないかと思っています。

桐山: さて、島根県でも民間団体として島根被害者サポートセンターがあります。今日もパンフレットがここにあります。この中には島根被害者サポートセンターがやっている支援活動を簡単に紹介しています。電話相談、面接相談、カウンセリング、あとは付添支援、法廷傍聴同行。それから、支援活動と共に啓発活動も行っています。ただ、これが皆さんの認知度という点でお聞きしたいのですが、河津さん、被害者サポートセンターの活動なり、存在なりを御存知でしたでしょうか。

河津: まったく知りませんでした。事前の打ち合わせのときにも質問したのですが、そういう制度を使った場合に有料か無料かというのもやはり聞いておきたかったのですが。今日、磯谷さんのお母さんが言われたように、被害者には薄く加害者には厚い、そういう金額的な面があるというのを聞いてとても残念で、もっと被害者の方に厚い制度に国がもっと変えていかないといけないと感じました。

桐山: 青木さんはいかがですか。

青木: 私も今日までまったく知らなかったです。こういうパンフレットをいただいても、多分私たち大学生の世代は、興味がないことにはすぐゴミ箱に紙を捨ててしまう世代だと思うのです。そうではなくて、もっと自分のこととしてパンフレットなり、最近ではインターネットが流通しているので、そういうもので情報をどんどん拡散していけたらと、今日は思いました。

桐山: 費用の点が出てきましたので、被害者サポートセンターでは相談は無料です。カウンセリングも、回数制限がありますが無料です。ボランティアでやっておりますので。あとカウンセリングの点では、最初に御紹介ありましたけれども警察関係でも。

冨田: はい、警察の被害者カウンセリングが6回無料で、その後希望される場合は被害者サポートセンターにつなげれば5回が無料ですので、約11回のサポート、カウンセリングが無料で受けられます。これは毎週でなくても2週に1回、最初毎週で次は隔週で良いとか希望に添えますし、場所も警察署だったり被害者サポートセンターを使ったり、いろいろな場所を考えていくことができます。

桐山: ありがとうございます。では、時間も迫ってきました。弁護士費用の紹介だけ。先ほどパンフレットをご覧いただきました法テラスは国の機関ですけれども、法テラスでは法律相談が無料になる制度があります。では誰でも彼でも無料になるのかというと、そこまでは中々いかなくて、ある一定の収入以下の方々については法律相談が無料になります。それから、弁護士を代理人として頼んだ時の弁護士費用の立替制度を法テラスがやっております。そういう制度もあるということを今日ここで御紹介させてください。

それでは今まで話を進めてきましたが、このようなパネリストや私の話について、磯谷さんから何か御感想がありますでしょうか。

磯谷: 私が受けていない心のケアの部分ですが、やはり受けていないので、無料で11回まで受けることができるなんて知らなくて。ただ、受けようという人がどれくらいいらっしゃるのか、そのとっつきがとても難しいのではないかと。まず知らない人に辛い内容を話すのは、余程でないと中々できないのではないか、その入り口をどう開いてくださるのかがちょっと気になります。

桐山: ありがとうございました。では、最後にそれぞれの立場から一言ずつお言葉をいただければと思います。まず、冨田さんからお願いいたします。

冨田: はい、今のカウンセリングの導入ですが、やはり自分で受けたいというよりも、その被害の、例えば交通事故だったらそこに居合わせた警察官の方からこういう制度があるから是非受けた方が良いとか、その場で出会った警察関係者の方から警察の被害者支援は勧められて、中々自分でというのは本当に難しいと思います。

そのときにどういう人が良いか、女の人が良いのか男の人が良いのか、ちょっと年配の人が良いのか若そうな人が良いのかということまで、サポートセンターや警察もちょっと話をしてくれると聞いたことがあります。ご参考までに。そんなに敷居は高くないですので、もし必要ならばいつでもと思っております。

今日の決意としては、今日のお話は本当にまだ傷口から血が滲むのではないかという思いでお話をしてくださったのではないかと思います。本当に風化させていかない活動をこれからもしていきたいと思いますし、私自身はスクールカウンセラーとして学校にも出向いておりますので、本当に子供たちが自分の命、人の命、相手の命を大切にしていくことが予防教育としてとても大事だと思っておりますので、そういう活動をこれからもしていきたいと思っています。今日は本当にありがとうございました。

桐山: 河津さん、お願いいたします。

河津: 今後の決意ということで「子ども・女性みまもり運動」ですが、犯罪被害者には交通犯罪もあると思います。最近私が行った事例は、2年前ぐらいですか、鹿島に来る道で車が正面衝突して、警察が来るまでの対応は誰でもできることだと思うので、警察、消防に連絡、あと被害に遭われた方の様態の確認は必ずしていこうと思います。先週は大東町内で80歳のおじいちゃんが横断歩道を渡ろうとされていたのですけれども、中々渡り切れずにおられたので、私は車を一時止めまして、一緒に横断歩道を歩いてあげるようにしました。小さいことでも良いので、県民の安全・安心を守っていけたらなと思っています。以上です。

桐山: 青木さん、お願いいたします。

青木: 今日の話を聞いて、磯谷さんが、話を聞いてくれると安心すると仰っていて、私もこういう場所に来ることがあまりなくて、磯谷さんのような方の話を聞くのは本当に勉強になったし、いつでも犯罪が起こり、自分に降りかかるということを知って、そういうことを私たち大学生の世代がもっと関心を持って、浜田にもそういう事件があったことをきっかけに、磯谷さんのような方を浜田市にも呼んで応援をしていただきたいと思いました。

風化させないということが本当に大切で、忘れてはいけないことが大切だと思い、今日勉強したことも、そのうち2、3日たったら普通の何もなかったこととして済ませないで、どこか心の中に留めて自分の意識を変えていけたらと思っています。同時に、もっと明るく安心・安全な街にするために、大学生が地域の方々と一緒になって、何か温かい街にできるアイデアをどんどん出していけたらと思いました。

桐山: ありがとうございました。犯人、加害者になるのは交通事故を除けば多分一握りの人だと思うのですが、被害者にはいつでも、今すぐにでもなるのかもしれません。ですので、被害者、犯罪者は遠い国のどこかの全然違うテレビの中のニュースの話ではないということを、今日磯谷さんも仰っていましたけれども、私も本当に肝に銘じてこれからも活動していきたいと思います。

皆さん、今日のお話を何とか1つでも頭に留めていただけたら幸いです。ありがとうございました。皆さんお疲れさまでした。

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