岡山大会:民間支援団体からの報告

「支援者の立場からみた被害者支援の現状と課題」

 高原勝哉 (社団法人被害者サポートセンターおかやま理事長)

高原でございます。お手元の資料の中にレジュメが入っております。そのレジュメに従いましてVSCOを代表してご報告をさせていただきます。

レジュメの1ページをご覧ください。はじめにというところで、1999年全国被害者支援ネットワーク、これは私たちの上部団体でございますが、そこが犯罪被害者の権利宣言というのを発表いたしました。山内さんの事件から4年後、基本法も基本計画もまったく無かった時代のことです。

少し朗読をさせてください。「我が国の犯罪被害者は、生命身体等に重大な被害を受けた事件の重要な当事者でありながら、長い間刑事司法制度からも、社会からも「忘れられた存在」であった。多くの犯罪被害者は、我が国の犯罪被害者支援の充実を願いながらも、声をあげることさえ出来ず、苦しんできた。犯罪は社会の規範に反し、人間の基本的な権利を侵害するものであり、また誰もが犯罪被害者となりうる。それゆえに、犯罪被害者を理解と配慮をもって支援し、その回復を助けることは、本来、社会の当然の責務である。

犯罪被害者が大きな打撃から立ち直り、人間としての幸福を求めて再び歩み始められるように、犯罪被害者の権利を確立することは、単に福祉の推進にとって必要であるばかりでなく、国民の刑事司法に対する信頼を高め、社会全体の利益につながるものである。

国、地方公共団体は、被害者支援のための総合的な施策を講ずる責務を担うべきである。また、国民は、犯罪被害者のおかれている状況を理解し、支援に協力することが求められる。」

この権利宣言から以後、先ほどの内閣府の池田さんの話にありましたように、基本法や基本計画ができました。それ以外にも被害者の支援のための制度が大きく前進しております。しかし皆さん、国民全体の意識、弁護士、とりわけ加害者側の弁護士の意識、警察の第一線の皆さんの意識、行政を担っていらっしゃる第一線の方々の意識、この人たちの意識は深まっているのでしょうか。私はこの権利宣言の原点を広く広めていくことは、むしろ、これからの課題であると思っております。

ところで、今日私に与えられた時間は実質25分でございます。本当はいろいろなことをお話したいのですが、時間がありません。改めてこのレジュメの1ページをご覧ください。

我が国における犯罪被害者支援の歴史。犯罪被害者等の抱える様々な問題と、被害者類型別特徴。犯罪被害者等のための施策の基本理念。早期援助団体について刑事手続きや少年事件の悩みなど。VSCO、これは「被害者サポートセンターおかやま」の頭文字を取ったものですが、VSCOの支援活動の概要。こうしたことについてもお話したいのですが、残念ながら割愛せざるを得ません。ぜひお話しする代わりに資料として添付させていただきましたので、おうちに帰られまして、ご一読いただければ幸いです。

特に、山内久子さんが全力を振り絞りながらしてくださった話を思い浮かべながらお読みいただければ、本当に幸いでございます。

これからは私たちVSCOが支援をした事例の中から2つのケースを紹介させていただきます。

2ページですが、1つは大崎利章さんのケースであります。2010年2月25日午後5時30分に殺人放火事件が発生しました。加害者は大崎さんの実の弟、大崎さんの妻の峰子さんは、その人に刃物で殺され、息子さん2人も背中や耳に傷を負いました。自宅は放火され、住むことができなくなりました。判決は求刑通り、懲役27年でした。

その下にどんな支援をさせていただいたかということを書いていますが、ここで皆さんぜひ注目していただきたいのは、1番最後のところです。

関係機関連絡会というのができたのです。被害発生後、間もない時期に倉敷市の教育委員会の音頭取りで教育委員会、警察、児童相談所、市の保健福祉センターや、子育て支援課、地元の児童クラブ、そしてVSCO。こうした人たちが、一堂に会して関係機関連絡会を結成しました。

当時、大崎さんの息子さんは中学2年生と小学校1年生。そういう中で大崎さんは、家事の一切、子どもたちの通学の送迎、PTSDのひどい症状が発生していた子どもたちへの対応、あるいは、検察への事情聴取、裁判への対応等々一杯することがある中で、1日1日を過ごしておられました。

そういう中で、地元の関係者の皆さんが早い時期にこうして集まって、大崎さんが再び生きる力を取り戻すために何をすればいいんだろう、何ができるだろうということで、会議を約半年の間開きました。非常に助かったと思います。大崎さんも随分力づけられたと思います。

その中で私たちVSCOは何をしたのかということを、その上に書いてありますので、若干コメントさせていただきます。

まずテレビ局に要望書を発送しました。これは事件直後の全国ネットのあるテレビ会社がなぜこの事件が起こったのか。それは事件直前に被害者と加害者が口論をしたからだという報道がありました。しかし、実際はしていなかったのです。まして、奥さんには何も落ち度はありませんでした。これは後の判決で裁判官がはっきりと明言してくれておりますが、被害直後にこんな報道をするテレビを見て、大崎さんは非常に残念がって、怒り心頭でしたが、何とかならないだろうかという訴えがありまして、結局、内容証明を出して要望をしたということでございます。

その次の全国ネットワークの被害者緊急支援金の活用というのはどういうことかと言いますと、当時、犯罪被害者等給付金という制度ができていました。できていましたが、被害直後にはちょっと使いづらいのです。それだけではなしに、あとから言いますが、加害者と大崎さんが兄弟である。「兄弟には犯罪被害者等給付金は払わない」という規定がございますので、端からこれの活用は無理です。しかし、経済的に非常に困窮された大崎さんは息子たちの入院代も払えず、奥さんの葬儀にかかったお寺さんへの費用も払えないという状態の中で日々を送っておられました。たまたま全国ネットワークでは、日本財団の支援を得まして、当時で被害者1人3万円の支援金を支給するという制度を作っておりましたので、9万円が彼らの手元に入ったわけです。すずめの涙ですが、「非常に助かった」と言ってくださっております。

その次の精神科医による治療とその付き添い。これはどういうことかと言えば、子ども2人は目の前で母親を殺されています。何回も何回も刃物で突かれて、挙句の果てにはその柄が折れて、そういう状態の中で母親が殺された。自分たちも残った包丁の柄をつかんで「殺してやる」と言って追いかけ回されて、結果として死には至りませんでしたが、非常に恐怖におびえていたというのがまず1つ。それに加えて、長男のほうは柔道部でしたので、自分がきちんと守ってやれなかったという、ものすごく自分を責める気持ちもありました。

さらに放火で家を焼かれてますから、唯一焼け残っていた敷地内の離れに親子3人が住んでいたのですが、よくテレビに出てきますように、警察の黄色いテープがずっと屋敷中張りめぐらされまして、それをかいくぐらないと出入りができないのです。その度に目の前10メートルほどにある事件の現場を常に目撃しながら3カ月も出入りを続けていたという状況の中で、PTSDが非常に重い状態で、一刻も早く精神科医の診断治療が必要でした。

その時に、私どもVSCOではカンパを集めましてそれを元手にして犯罪被害者支援基金をいうのを作っておりましたから、それを活用して月に2回平均精神科医に行ってもらいました。そんなことをしながら活動していますが、事件から2年も経って、いまだにお父さんと、2人の息子は精神科医に通院しております。

そして、最後に捜査や刑事裁判への支援とあります。山内さんの場合には何も法制度が出来ていなかった時でしたから、傍聴席にしか座れない、遺影さえも持ち込めない。今はそうではなくて、大崎さんの場合には訴訟参加と言いまして、柵の中に入って検察官の、岡山の場合は後ろの席に座ることができる。その大崎さんを支援する弁護士も隣に座ることができる。遺影を持ちこめることは当然という状況になっております。そのことを付け加えておきたいと思います。

次にA子さんの場合。加害者は母親の再婚相手の男、義理の父親です。A子さんはその男に中学2年のころから性的虐待や暴行を繰り返し受け、2009年12月には自宅の浴室で男の暴力を恐れて、抵抗できなくなっていたことに乗じて姦淫などされた。準強姦と言うのですが、それが認められて懲役10年の判決が出ました。

私たちが何をしたかと言えば、まずは刑事告訴のサポートです。要するに、普通のレイプというのは暴行や脅迫によって抵抗できなくしてレイプするのが強姦なのですが、そうではなくて、酒を飲ませたとか、酩酊させた、あるいは、睡眠薬を飲ませて判断能力が弱っている時にレイプしたようなことを準強姦と言うのです。約15年の間にわたって継続的に性的児童虐待を受け続けた、そのこと自体が心理的に抵抗できない状態になったという認定でこの判決が出されました。

全国初めてのことでした。正直言いまして、岡山県警さんは、これをたぶん受けてくれないのではないかと思っていたのですが、きちんと受け止めてくれました。と同時に、A子さんも過去の記憶を思い出さなければいけないのですが、それを一生懸命きちんとした形で思い出して話をされた。そして、私たちが協力している精神科医から、まさに性的虐待による深刻なPTSD状態になっているから、抵抗できないという意見書を出してもらいまして、それで有罪判決を勝ち取ることができたという事件でございます。

もうあと5分しかないですね。半分くらいしかお話できていませんが、そういうことを含めながら、私たちは被害者の支援をしています。

それは最初に言いました権利宣言ができてから、本当に多くの方々が、一生懸命になって被害者支援の制度を作ってくれた。これを活用しながら今は支援ができているという状況です。ですから、そのこともぜひご理解いただきながら、しかしまだまだ、被害者支援は緒についたばかりです。ということも併せてお話させていただきます。

時間がありませんので、レジュメ3ページの今後の課題の項目だけを読ませていただきます。

県民に対する広報啓発の徹底。県警に性犯罪110番ができてだいぶ時間が経つのですが、知らないと言う人が81%。VSCOという民間の団体があることを知らないと言う人が93.8%です。

次のページで大崎さんの場合、兄弟だという理由だけで、犯給金、これは国民の税金ですが、それを1円ももらえないのです。そこにも書いてありますが、犯罪被害者が犯罪行為を誘発した時、その他当該犯罪被害につき、犯罪被害者にもその責めに帰すべき行為があった時には、それは制限をされてもやむを得ないと私も思いますが、何も被害者側に落ち度がなく、ただ兄弟と言うだけで1円ももらえない。息子2人は叔父、甥ということで、3分の2カットで、3分の1だけもらいましたが、これはやはりおかしいと思います。ぜひ早急にこういう古い条項は撤廃をしていただきたい。

それから岡山県では、本当に各市町村のご協力で、すべての市町村、あるいは、県そのものにも条例ができましたが、大崎さんのようなケースの場合、心だけではなくて、現実にお金をもって支援してくだされば本当に助かります。ということですべての県から市町村にそのような制度ができることを切望しております。

次はそこに表がありますが、要するに性犯罪被害者に対するネットワークを、ぜひ岡山県に張り巡らせたいということでございます。内閣府の第2次基本計画の中で性的被害者のためのワンストップ支援センターの設置というのを提唱しておられますが、これを岡山流に考えた提案がこの枠内のことであります。

今、性被害に遭った人たちが警察に訴えるのはわずか数パーセントです。その理由の1つには、加害者が知り合いだということが大きい理由になっています。しかし、被害者は性感染症にかかる危険を持っている、あるいは、妊娠する可能性もあります。ですから、警察に言うか言わないかはあとで考えればいいじゃないか、とりあえず今はピルのいいのが発達していて、72時間以内に飲めばそれを防ぐことができるというのが現状にありますので、できれば県下の各警察署の管内にせめて1つの病院くらい、協力産婦人科医を登録していただいて、まずそこへ駆け込む。とりあえず、自分の身を守ってから、それから後、警察に言うとか言わないとか、後々のことを考えればいいのではないかと思いまして、今これを提案しており、詰めの段階に入っておりますので、年明けて適当な時期には、マスコミの皆さんにも発表できるのではないかと思っております。

最後に1つだけ。山内さんのお嬢さんはストーカーの被害に遭われました。ストーカー規制法というのが、西暦2000年に議員立法でできました。山内さんの事件の5年後です。しかし、ストーカー規制法そのものがもうちょっと手を加えて、よりいいものにする必要性がありますし、ただ単に警察による規制だけでは、十分にストーカー被害からの回復はできないと思います。抜本的なストーカー被害者に対する支援策がそろそろ提案されてもいい時期ではないかと思っておりますので、とりわけこの点につきましては、内閣府の池田様にぜひ議員立法と言わず、内閣府が主導しながら、これらの施策を進めていただければ、ありがたいなと思っている次第でございます。

非常に駆け足になりましたが、時間が来ましたのでこれで終わりにしますが、どうぞ皆さん、これからも私たちが住んでいる岡山県という地域社会、立場は違うともいろいろな人たちが力を出し合って、被害者の皆さんが生きる力を取り戻すことができる社会を作っていくことにお力をお貸しいただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

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