長崎大会:パネルディスカッション

「犯罪被害者支援とは何か」

コーディネーター :
中野明人(長崎短期大学教授)
パネリスト:
高橋幸夫(NPO法人おかやま犯罪被害者サポート・ファミリーズ副理事長)
前田和明(公益社団法人長崎犯罪被害者支援センター副理事長)
永岡亜也子(福崎博孝法律事務所弁護士)
蒔田(長崎県警察本部警務部警務課犯罪被害者支援室長)

【中野】 今、紹介いただきました長崎短期大学、中野と申します。今日、最後にパネルディスカッション「犯罪被害者支援とは何か」ということを、いろいろなパネリストと共に、そして会場の皆様と一緒に考えていきたいと思っております。本日、開催しております国民のつどい長崎大会、この大会は犯罪被害者週間の取組みの1つで、国民の理解を深める目的で、いろいろな活動が日本中で行われております。今日、最後のパネルディカッション。テーマは大きいのですが「犯罪被害者支援とは何か」。支援に関するいろいろな関わり方があると思いますが、今日はそれぞれの立場で被害者支援についてご意見を賜りながら、先ほど、どうすれば良いのかということを考え、感じることが大事だという御指摘もありましたので、会場の皆様と一緒に考え、感じていきたいと思っております。それでは順を追って、5分間ほど、各先生方から御意見を賜りたいと思います。まずは先ほど、御講演いただきました高橋先生どうもありがとうございました。経験を通して、知った犯罪被害者支援とは何かということにつきまして、御意見をお願いいたします。

【高橋】 皆さん、犯罪被害というのは、その時だけ新聞に出て、その事件の時だけ思っておられる。もちろん、それしか分からないのですが。被害者がその後、生きるということは、とても大変なのだということを、皆さんに知っていただきたいと思います。そしてその後、生きるのは、何のために生きるのと、自問自答するのですが、僕は自分の被害を知ってもらい、こんな目に遭ってはいけないよ、ということを皆さんに分かっていただきたい。そしてそれが防犯につながる。そのために、ちょっと苦しいけれども話をしようと。それから皆さんが傍観者から理解者になっていただく、そのきっかけになれば良いなと思っています。

そして僕は被害者として、皆さんから支援を受ける立場の方なのですが、ありがたいなと思う支援をしていただきたい。口先だけの支援とか、哀れな人に物をあげるような、上から目線の形だけはやめていただきたい。上から目線になりますと、シュンとしてしまう。二次被害なのですね。だから、そういった上から目線の形をまずやめていただいて、そして僕らと一緒になることはないですけど、できるだけ近いところで支援していただきたい。一緒にしていただきたい。そして公平、公正な裁きが受けられなかったときは、自殺の方向に行ってしまいます。だから公平、公正な裁判への支援をしていただけると、「そこまで皆さんしてくださるのだ。じゃあ、がんばろう」と思えます。僕一人だけではないのだ、やはり法廷も僕を認めてくれるのだと。そこでありがたいという気持ち、助かったという思いが湧いてくる。そういう支援をしていただきたい。被害者というのは、犯罪被害を一生、死ぬまで背負って生きて行きます。皆さんがそんなことにならないような、犯罪前の世界で、ずっと皆さんが生活して人生を終わっていただきたい。犯罪後の世界に来て人生を終わるのではなくて。そういうことを願って僕は話をさせていただいております。

【中野】 ありがとうございました。引き続きまして、今度は被害者支援をする側から前田先生、御意見を賜りたいと思います。よろしくお願いします。

【前田】 長崎犯罪被害者支援センターの前田でございます。私は臨床心理士という立場からずっとセンターの立上げに関わっておりまして、約10年間、こういう活動をしてまいりました。未だに支えるということの答えは出ておりません。今の高橋先生の言葉にもありましたけれども、支援者は被害者そのものになることはできないのであります。それでも、いろいろ考えながら、日々、微力を尽くしておるところであります。私だけ、パワーポイントを作ってまいりました。私どものセンターで、職員とか、ボランティアの相談員の研修とか育成をやっていきます。その中で私が常々、実際、研修の時には、参加しているそういう人たちに絵を描いてもらったりするのですけれど、まず支えるというイメージを具体化しようということで、次のようなことを考えております。

犯罪被害には関係ありませんけれど、いろいろな世の中の事象、支えるということで考えましたときに、例えば朝顔と支柱ですね。朝顔の場合、この支えの柱なしには恐らく花を咲かせることはできないのではないかと。これは非常に強い支えです。ですから、これは民間の被害者支援センターなどでやることより、もっと強力です。庇護とか保護とか、あるいは今日も度々テーマに出ておりますけれど、法律、あるいは制度、それから国の考え方、施策によって、がっちり固めていただきたい部分ではないか。もちろん今日の人形劇にもありましたが、当事者、国民の意見みたいなものがそういう法律に反映していくという1つの良い例を見せていただきました。まず、がっちり支えるというのは、こういうイメージなのかなと。これはちょっと民間の、私どものセンターには重たいなという話を常々しています。

それから、その次でございます。日本でも非常に人気のサッカーですね。サッカーとサポーターの関係。サポーター無しに試合は成立しないと聞いております。選手とサポーターは一緒に戦えません。御覧のとおり、コートの中では選手が一生懸命がんばっており、ある程度の距離を取りまして、サポーターは応援、声援を送っておるわけであります。さっきの高橋先生の話は、他人事というのではないよ、という話だったのですけど、せめてこのくらいの関係には、国民全員が犯罪被害、それから犯罪に関して関心を持っていただければなと。もちろんサッカーを見ているような娯楽とか楽しみということではありませんが、実際、こういうことが起こっているのだということにまず気がついていただかないといけないという気がします。

ただ、私どものサポートセンターでは、これはちょっと距離が飛び過ぎだろうと考えております。もう少し心理的、物理的に被害者に近付く方法はないか、何かそういうイメージはないかということで、次のようなことを考えております。マラソンなのですね。マラソンは今、非常に盛んであります。画面には、ほとんどランナーしか映っておりません。そこに2枚写真を出しておりますが、左側の写真を見ていただきますと、すぐ後ろの車は伴走車なのですね。ペースをキープしたりとか、あるいは、がんばれとかアドバイスを含めて、何かどうも声を掛けているような、丁度良い写真がありましたので、これを持ってまいりました。それから、その右でございますけれども、これは給水場ですね。テレビの画面には映りませんが、マラソンのランナーの後方で、こういうチームが支えております。マラソンのチームは記録をもちろん出すことも大事でしょうけど、完走させるということに、随分いろいろな心を砕くのだという話を聞いたことがございます。丁度被害者支援センターと被害者の関係というのは、私が個人で考えますに、こういうマラソンのランナーと後方支援の伴走車や給水場といったチーム。このくらいの関係が良さそうじゃないだろうかと常々、思っております。

最後になりますが、具体的にセンターとしまして、被害者を支えるポイントということでありまして、まず繰り返し相談ができる体制を作るということであります。他にもいろいろな被害者支援以外の相談所、あるいは相談電話がありますけれども、1度限りで終わるということが結構多いようです。あるいは、どこか余所を紹介して、ガイダンス的に対応して終わりというようなところがあります。私どものセンターは例えば電話、あるいは相談に関しても1度の電話とか、1回の相談で終わらないように、続けてまたどうぞという声掛けをしながら、暫くお付合いをするという配慮をしております。

それから2番目です。被害者の求めに応じた支援。電話相談というのは、あくまでも入口でしかありませんので、今、申しましたように、電話相談も繰り返し、どうぞということで対応いたします。その内容などに応じて、求めがあれば直接センターに来ていただいて、面接相談を受ける、あるいは私どものスタッフが被害者のもとを訪れて、相談に応じるということがございます。その後、例えば、もうちょっと具体的に裁判の傍聴、あるいは法廷に関して同席する、それから手当が必要な方であれば、病院にお連れするというような直接支援も今、どんどん増えてきているところです。

それから、もう1つです。出会いや自助グループのきっかけ作りということです。今、長崎と佐世保で1カ月に1回、定例開催をしております。要するに被害に遭われた方は生活が崩れてしまうというお話がさっきから出ておりましたが、どうしても家庭の中に引きこもって、外出もしない。それから、どなたとも交流のきっかけがないという状況も聞いていますので、同じように被害に遭われた方同士に御案内を差し上げまして、場所の提供をして、私どもが仲介になって、同じ立場での被害者同士の出会いのきっかけを作るということもやっております。今日もたくさん集会にお集まりいただきましたけれども、こういう感じではありません。やはり被害者さん御本人というのは、中々人に知られたくないとか、どんな人が来るのだろうという不安があって、参加者というのは1組か2組ぐらいです。けれども、そういう場があるということを御案内して、是非利用していただくというような気長な案内を続けていきたいと思っております。

それから最後。生徒や学生への講演活動。これはもう、今日のまとめみたいなことになるかも分かりませんが、とにかく他人事ではないと。こういう犯罪被害というのが日常生活の中で、自分にも降り掛かってくるのだよ、ということで、被害が起きた後の支援だけではありませんで、今の被害状況を中学生、高校生を中心に各学校に、私どもセンターのスタッフ、それから被害者さん御本人が回っていただいて、その実態を講演する活動もしております。これも間接的ではありますが、支援になるだろうということを考えております。

さっきの3枚の写真の中で、様々な支えるということがあったと思いますけれども、私ども、被害者支援センターとしましては、マラソンランナーとその後方支援のチームという形で支援を続けていきたいなと思っております。ただ、これもさっき、人形劇団の方からも指摘がありましたけど、支援する側の都合での、一人よがりにならないように、常に自問をし続けながら、続けていきたいと思っております。ありがとうございました。

【中野】 ありがとうございました。次に、「弁護士」という立場からみた、「被害者支援」についてご意見をお願いいたします。永岡先生、よろしくお願いいたします。

【永岡】 弁護士の永岡と申します。どうぞよろしくお願いいたします。今回、「犯罪被害者支援とは何か」というテーマでして、非常に難しいと思っております。犯罪被害支援は、誰か1人が担えば良いとか、どこかの職種、どこかの団体がとりあえず担ってくれれば良いという簡単なものではないと思っています。様々な人たちが、様々な職種、団体の人たちが皆さんで輪を作って、支援の取組みをしていかなければならないだろうと思っております。その中で弁護士の立場で今回、呼んでいただいておりますので、弁護士としては、どういう関わり方ができるのかということを、私なりに考えてみました。

まず弁護士の立場で、被害者の方々と関わる場面というのは、従来は民事の損害賠償請求とか、民事の所謂、損害回復のところでした。刑事の中では、先ほど人形劇や高橋先生のお話の中でもありましたが、弁護士が被害者の方に携わるというのは中々難しいところがありました。法制度がそもそも整ってなかったというところもありますが、刑事の手続きの中では、被害者は手続きの当事者ではないと、証拠としての位置付けと従来、長年、そういうふうに言われてまいりました。ですので、法廷のバーの中にも入れないという、つらい時代が大分、長かったと思います。それを皆様方、被害者の「あすの会」の方々ですとか、支援団体の方々の草の根活動の結果、漸く権利として勝ち取られた。その結果が今、大分、ニュースでも取り上げられるようになってまいりましたが、被害者参加という制度につながっているものと思います。そういう制度ができあがって、漸く弁護士も、刑事事件でも被害者のサイドで携わることができるようになってきた。ということで、少し弁護士が被害者に関わっていく在り方が変容してきているように思っております。

当然、民事の損害賠償請求、今の刑事の被害者参加、損害賠償命令とか、いろいろと刑事手続の中でも、被害者をフォローしていくという制度が出来上がっていますので、そこに弁護士が携わるという場面で、まずはやはり相談をお受けして、その中で、事件に実際に携わっていくということになります。しかし弁護士の方も今までそこまで深く携わってなかった分、ここ数年そういう制度が発足したということで、一生懸命、勉強会をしたり、臨床心理士さんですとか、実際に被害に遭われた方々のお話をお聞きして、二次被害が起こらないようにということで、一生懸命、勉強をしながら、少しずつ一緒に手を取り合いながらサポートができるようにということで、がんばっているところであります。

弁護士は、皆さんも想像されるとおりかもしれませんが、大体1回の相談が30分でとか、時間がどうしても区切られている業務になります。けれども、被害者の方々はやはり簡単にまとめて話ができるような心理状況でもないと、皆さんからお聞きしていますし、なるべく長い時間を取って、少しでも話をしやすくできるような環境で、相談業務をお受けできるようにということで、弁護士会等々でも取り組んでいるところであります。

そういったような立場で、被害者に寄り添ってという業務もあるのですが、当然、刑事の裁判になりますと、先ほどの図にも出ていましたが、弁護士には、被告人の弁護人としての、所謂、加害者の弁護人としての立場というのは否定できないものがあります。被告人の、加害者の側の弁護人というのは、弁護士にしか務まらないものとなっていますので、ここはどうしても切り離せないものです。ですので、被害者側で法廷の中に一緒に入る弁護士であっても、特に長崎の場合は、まだ人数もそれほど多くないですので、当然、一方、別の事件では加害者側の弁護人としてバーの中に入っているというのが現実です。いずれ時代が進んで、人数が増えてくれば、もしかすると被害者専門の弁護士というのができてくるのかも知れないですが、今の長崎では、そういう現状ではないというところはお分かりいただきたいと思っております。

その中で、私も当然、通常、加害者の側の弁護人も務めておりますし、逆に被害者参加弁護士として活動させていただいたこともあります。同時期にそういう立場、両方の立場で携わらせていただいた経験もありますけれども、その中で感じたことは、よく被害者さんからお聞きするのには、先ほどの人形劇の中でもありましたし、高橋先生のお言葉にもありましたが、事件の真相を知りたい。一番真相を知ることができる場面というのは、やはり刑事裁判の場面だと思います。被告人本人が語る機会がある場面ですので、一番真相に近付ける場面ではないかと思っています。ただ、被害者参加弁護士の側から携わっていても、中々そこの真相解明には手が届かないところがあるのではないかなと私は思っていまして、逆に加害者側の弁護人の立場でこそ、真相解明の方に尽力できるのではないかと思っています。当然、加害者の弁護人ですので、必然的に限界はございますけれども、本当に真に被告人が反省しているということであれば、当然、事件の真相を明らかにした上で、本人の口から動機等を語ってもらい、少しでも被害者さんに伝えられるものを引き出す役割が、加害者側の弁護人には期待できるのではないかと、完全に個人的見解ですけれども、思っています。

ですので、弁護士の立場からの被害者への関わり方としては、間接的で、支援活動と言えるかは分からないですが、加害者の弁護人の、被害者の視点を持った活動というのが重要になってくるのではないかと、私は思っています。ただ、被害者の方々は非常に苦しい中で、わらにもすがる思いで、弁護士の所へたどり着く方もいらっしゃいますので、いずれにしろ、刑事の弁護人として活動するにせよ、被害者側の代理人や被害者参加弁護士として活動するにせよ、被害者の思いというのはできる限り受け止めて、できる限りそれを裁判官や被告人に伝えられるようなお手伝いをしていかなければいけない。ともすれば、従来の刑事裁判であれば、被害者の存在というのは忘れ去られた存在でしたけれども、そうではない制度が今、出来上がっている中で、被害者の存在を常に意識した上での活動をしていかなければいけないと思っているところであります。

【中野】 はい、ありがとうございました。最後に警察活動における被害者支援につきまして、蒔田室長、よろしくお願いします。

【蒔田】 警察本部の犯罪被害者支援室長の蒔田でございます。私、昨年4月に現在の犯罪被害者支援室長を命じられて、現在、日々発生する事件の被害者支援を中心として、仕事をしております。そういった中で、自分が警察の被害者支援と思っていることについて3点ほどお話をしたいと思います。その1つは、被害者に寄り添った支援が必要であるということです。2つ目は、途切れのない継続した支援が必要であるということ。3つ目は、社会全体で犯罪被害者を支える支援が必要である。これについてお話をさせていただきます。

1つ目の寄り添った支援でございます。警察は当然、事件発生直後、最も被害者に身近にあります。そして支援に携わる機関でございます。したがいまして、発生当初から被害者の支援、またその後の支援に、警察の支援が大きく影響するものと思っております。警察の支援といたしまして、被害者支援要員制度とか、それから捜査状況の被害者連絡制度、診断書料等を公費で負担する制度又は殺人等で亡くなられた場合、遺族給付金などを支給します犯罪被害給付金制度などがございます。しかし1番の要は、この指定被害者支援要員制度が県下の本部、県下の10警察署、高速道路交通警察隊に約500名の担当者がおります。これが事件発生直後から被害者の捜査に関して、事情聴取の付添い、病院への付添い又は捜査状況の説明。また、被害者の不安、要望を一番聞く立場にありますので、その要望を聞きながら各機関に連絡をしたりする。こういうことが警察の被害者支援の大きな要になっています。このように、被害者に付き添いまして、警察の各種支援制度を実施して、1つの問題を解決します。「事情聴取だから付き添いました」。また、いろいろな問題が出たら「関係機関に連絡しました」。これでは、本当の支援というのではないと思っております。被害者がずっと思い悩んでいる問題は継続してあるわけでございます。当たった警察官がその被害者がいつでも相談、連絡ができるような関係。これが、私が考えている寄り添った支援ということでございます。現在、500名のそういう要員がおりますけど、しかし数年前の事件で、まだお礼が来たり、それから連絡を取っているという特別な支援要員になっている。現在離れておりますけれども、そういった警察職員もおります。このような寄り添った支援に努めてまいりたいと思っております。

その2つ目は、途切れのない継続した支援でございます。警察のできる支援というのは、先ほどお話いたしましたけど、限られております。被害者の方々が長期的に生活をしていくとか、平穏な生活を取り戻す。これは大変長期の時間を要する問題でございます。そこには、生活支援、就職支援又は子どもさんの就学、それから長期的な心身のケア又は周りの人たちの理解、協力、いろいろな問題を抱えております。これらの問題を解決するためには、やはり関係機関が連携をしながら、総合的に、段階的に支援を進めていく必要があるかと思います。この関係機関、団体として、県単位で長崎県被害者支援連絡協議会というものがございます。また、警察署単位では被害者支援地域ネットワークが23地区設置されております。これは医師会、弁護士会、防犯協会、民間被害者支援団体とか、それから県の被害者支援関係グループなど、県単位でも40機関の団体がございます。このような多くの機関、団体が1つにまとまって、被害者の支援に当たる。これは周りをつなぐきっかけにはなります。また、段階的に被害者の方は、要望がございますので、これもやはりつないでいかなければならない。関係機関、団体が連携しながら、そして、そのつなぎ目として警察が、民間の長崎犯罪被害者支援センターと連携しながら途切れのない支援に努めてまいりたいと思っております。

3つ目が、社会全体で被害者の方々を支える社会環境作りということでございます。被害者の方は、本当に被害に遭われたら、周りの噂、職場などでの無理解といったことで、事件で精神的にショックがある上に、心無い言葉によって多くの方が傷つけられております。そして孤立する場面も見受けられます。したがいまして、今日の、この大会もそうでございますが、県民の皆様に、そういった被害者の思いを理解していただくために、こういう週間が設けられています。また県警といたしましても、11月中は広報月間に設定しております。集中した犯罪被害者支援の取組みをしているところでございます。しかしながら、特にこの中で、効果があると思われるのは、中学生、高校生を対象とした命の大切さを学ぶ学校講演事業でございます。これは隣にいらっしゃいます、長崎犯罪被害者支援センターの方にお願いして、各中学、高校に犯罪被害者の声を聞かせて、そして講演をやっている。そういった被害者の声によって、中学生、高校生が涙を流すという面も見られました。これによりまして、被害者の痛み、人の痛み又は思いやりが醸成されると思っております。こういう中学生、高校生を生むことによって、社会人になったときに、そういった悲しい思い、思いやりといった意識が治安の向上につながるものと思っております。被害者の声を反映して、皆さんの支えという社会環境作りが達成されるならば、私自身、安全な安心できる街づくりにも貢献できるものと思っておりますので、皆さんの御協力、御支援をよろしくお願いいたします。以上で説明を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。

【中野】 はい、ありがとうございました。今、4名のパネリストの方々からそれぞれの立場で被害者支援について御意見を賜りました。今日の人形劇の中にも被害者は真相を知りたいというセリフがあったり、今日の御講演の中でも被害者の心情の、いろいろな心情の1つに「知りたい」という被害者の願い、思いがあったと思います。先ほどの永岡先生のお話の中では、個人的な見解という断りもありましたが、加害者本人から何があったのかという真相を語らせる、それも弁護士の大切な役割ではないかという御意見もありました。その点、高橋先生、先ほどの永岡先生が弁護士として被害者の気持ちを代弁して、加害者側に何があったのかということを語らせる重要性の御意見をお伺いして、いかがだったでしょうか。

【高橋】 永岡先生を前にして、こういうことを言っては、どうも失礼なようなのですが、日弁連、僕、大嫌いなのですね。というのは、法律が加害者、被告人の方に、いいように弁護するのですね。悪いように弁護することはまずないですよね。弁護する限りは、やはり被告人に、得になるようなことを、僕はすると思うのです。被告人には黙秘権というのがありますよね。自分に都合の悪いことは話さなくても良いよ。これで真相が出るのでしょうかね。それから被告人の弁護士は、悪い事をしゃべらせない。都合の悪いことをしゃべらせるということは、被告人の弁護にならない。僕はそう考えます。弁護するということは、やはり助ける、あるいは都合の良い方に持っていく形なのですが、その辺り、先生、いかがなのでしょうか。

【永岡】 これも私の個人的な見解なのですけれども、加害者側の弁護人としてやる活動の中で、ただ単にその人を擁護するだけが弁護なのかなというふうに私は思っています。真に反省をして、もう2度と、ないと、更生しますと裁判所に、もし訴えかけるとしますよね。それであれば当然、自分の問題点、やってしまったことについては紛れもない事実ですので、それは振り返って、真に受け止めてもらった上で、そこからその人も出発しなければいけない。当然、被害者の方もそこから真相を知って、漸く前に進めるというところはあると思いますが、加害者は加害者で当然、ずっと隔離しておけるわけではない。いずれ社会に戻ってくるときには、またそういうことが、同じような苦しみを受ける方があってはならない。ですので弁護人としても、本人にも分かってもらった上で、立ち直るような働き掛けをすべきではないかと思っています。そのためにはやはり起こしてしまった事件については、自分でも振り返って、受け止めてもらわなければいけない。それを法廷の中、公判廷の中で、自ら話してもらって、こういうことをしてしまった、その原因はこれだったと。後は本人がそれについてどういうふうに今後、していこうと思うかというところを考えていくというのが本人、加害者にとっても1つ重要であり、被害者にとっても今後そういう人が出ないというところで、社会の安全なりにもつながると思います。そういうふうに活動していくのも弁護人の在り方ではないかと私は思っています。

【中野】 ありがとうございました。弁護士という名前から弁護する、誰を弁護するのかというこれまでの役割にちょっと違った視点がこれから求められるのではないかというところを永岡先生、先ほど語っていただきました。知りたいという思い、なぜこういうことが起きてしまったのか、そういう知りたいという思いについて、改めまして高橋先生、被害者の立場から知りたいという思いについて御意見をいただければと思います。

【高橋】 被害に遭ったときは、何が起こったのか分からないのですよね。こんなことになったといった途端に被害者はパニックになっています。大変だということは分かるけど、じゃあ、どう大変で、どうなってしまって、どうしてこんなことが起こってしまったのということになりますと、被害者はもう頭の中がこんがらがってしまって、ガチャガチャなのですね。そういう中で、ちょっと時間を置くと、ああっと思う。そうしたら、僕の場合、僕の女房はどういうふうな形で、どういうふうなことになってしまって、今、こんなことになっているのかなというのを整理する。その整理を誰がするのか。人形劇団の場合には、ちゃんと最後の辺りはなってきたのでしょうけど、それでも、その前はお父さんがそこで亡くなられた。真実を知るということは、本当につらいことなのですが、つらいことを隠してしまうと、これがさらにつらさを増してしまう。知らずに過ぎたいのだけれども、知らなかったら、何か自分が無責任な人間というような、自分を責めてしまう。だからそこを被害者の方も、加害者の方も、本当はこうなのだと素直に法廷の前に出るようになったらありがたいのですが。

弁護という形になりますと、弁護ということは、庇うということですね。それから加害者は、罪を償うと直ぐに言われるのですが、償うということは、最初のスライドで出しましたね。十数年入っていたらいいやと。でも入ったら、たぶん第一審のときの最初のときには、罪を償うと言って十数年で終わったのだろうと思うのですけど、出てきたときには全然。また同じことですよね。口で言うことは簡単なのだけれども、本当にそれがその人の更生になるのかどうか。少年法などもそうですが、少年に更生の可能性があるから罪を低くしようという、可能性はあくまで推測なのですよね。じゃあ、その推測を誰が保証するのか。罪を軽くした。可能性は確かにある。でも悪くなる可能性だってあるわけなのですよね。そこのところを僕は公平にやってほしい。正しく更生するばかりでなくて、さらに悪くなる可能性だってある。そこは推測の段階なのです。その辺りがどうも僕としては納得がいかないのですね。そこが裁判官に分かるのかどうか。あるいは弁護士さんに分かるのかどうか。精神科医の場合、退院してもらうとき、この人は病気が治っただろうという形なのですね。でも、それは3日か4日先までは、まあ大丈夫だろうと。でも1か月後はまた再発しているかも分からない。だから推測というのは、なかなか本当はできない、保証はできない。命の問題が出てくるわけですから。そこを安易に更生の可能性があるという形にすべきでない。更生しない人もいるということ。マイナスの方も考えてほしいということです。

【中野】 分かりました。ちょっと時間が限られるのですが、今日、皆様の御発言の中に共通してあったのが、心に寄り添う支援という、それもまたキーワードかなと思ってお話をお伺いしておりました。それぞれの立場で心に寄り添う、言葉で言うのはよく耳にするのですけど、中々実感として心に寄り添うというのは難しいなと思っております。前田先生、心に寄り添う支援という言葉から何か御意見いただけますでしょうか。

【前田】 先ほど、3パターンの絵を見ていただきました。マラソンランナーが黙って走るというわけではないですね。被害者さんというマラソンランナーは、今も出てきましたけれども、複雑な、感情的な怒りであったり、悲しみであったり、あるいはもうそれではなくて、何だか分からないような混乱の状態で走っておられます。先ほど、永岡先生と高橋先生の間で、法廷でのやり取りという話も出てきましたけれども、私ども、センターではまず、そういう被害者の方の、整理のつかない感情を言葉にしていただきたい。ですから電話できちっとした相談でないことが多いです。それから何回か電話を受けて、直接面接でお会いするときなども、全然整理なんてできてないのです。やはり今申しました、そういう事件に遭遇して、被害者になった理不尽さとか、その辺の感情的なものをとにかく言葉にしてくださいということで、ひたすらその辺の感情をまず出していただくことに関して、何回も来ていただきながら、少しずつ整理していくということをお手伝いしているというところです。

そこである程度、実質的な支援の方向性が出た場合は、先ほど申しましたように、法廷への付添い、弁護士さんの御紹介、あるいは病院に行って手当をしてもらう段取りなどを作ったりというふうに流れていっております。とにかく1回で何か例えば言語化しろと言っても、語り尽くせるものではありません。こちらも1回で聞けるものではありませんので、どうぞまたお出でくださいと。あるいはこちらから何時いつ伺わせていただきますという形で、繰り返し繰り返し、そういう気持ちを言語化していただく。その辺のところがまず私どものセンターの取っ掛かりではあります。

【中野】 先ほど、蒔田室長からも寄り添った支援というお話がありました。どうも長い間、支え合える仕組み作りに必要なのが連携というお話もありましたが、連携にとって何が一番大切だというところで、蒔田室長、再度、御意見いただければと思います。

【蒔田】 連携で一番必要だというのは、関係機関は40団体ありまして、皆さんが、他の機関がどういう支援をやっているかということをきっちり理解することが必要ではないかと思いますね。支援の施策というのは各機関かなりあります。例えば、支援にあたる警察官、他の民間被害者支援団体でも構いませんけど、こういう中心となる方が被害者の思いと各関係機関の支援制度を早めに熟知して、専門的な人が窓口を一体的に対応するということが必要ではないかと思っています。現状では中々難しいですが、それに向けて努力をしてまいりたいと思っております。

【中野】 はい、ありがとうございました。いくつかテーマが各御発言の中にあったと思います。今日は、「犯罪被害者支援とは何か」という非常に大きいテーマで、最後のパネルディスカッションをするということになりました。どうも、やはり社会的に孤立をさせない、そういう社会作りというところで、長いスパンで被害者と関わるという社会作りをしていくために、実は多くの方々の関わりが必要である。今日は警察の立場であったり、弁護士、あるいは支援センター、そして被害者というそれぞれの立場で、御意見を賜りましたが、実は、非常に長い支援が途切れないためには、いろいろな人がいろいろな立場で自分ができることを、それぞれがするという形で、多くの方々の関わりを必要とするということが分かってきたと、私は思いました。

犯罪被害者の大変さというのは、いろいろなところで私も被害者の方々と関わりながら、ある日突然、人生が一変してしまう。それも良い方向ではなく、悪い方向に人生が変わる。この突然さがダメージを与えてくるということが今までの経験を通して、理解をしております。「被害者支援とは何か」というお話だったのですけど、本当に特別にこれだというのは、中々特効薬的なものはないのかも知れません。実は、私たち一人ひとりがそれぞれの立場で、まず今日考えて、感じるというお話を高橋先生にしていただきました。改めて被害に遭うということを想像して生きる人は誰もいないわけで、そんな中で、今日の人形劇、講演、そしてこのパネルディスカッションを通しまして、改めて被害に遭うということをそれぞれの立場で考えることで、まずは傍観者が理解者に変わっていくのではないかという御指摘をいただきました。やはり距離が近まって、自分のこととして感じる人が1人増えるだけで、随分と住みやすい社会が出来ていくと思います。

生きるのがつらい、普通に私たち何事もなく生活をしていて、生きるのがつらいと思うことは中々ないのですが、犯罪被害に遭うということは突然、生きることにつらさを覚えるという出来事でもあります。そういう意味では、誰だって被害者になり得るのだというお話の中で、それぞれができる被害者に対する理解、そして関わりということを是非、今日の大会を通して皆様にお考えをいただければと思います。今日、会場にお越しの皆様、一人ひとりの御理解が少し広がるだけで、その輪が、理解が随分と広がっていきます。生きにくさを感じる被害者の皆様が少しでも安心して生活できる環境を皆様と一緒に作り上げていきたいと思います。ちょっと不慣れな進行で申し訳ございませんでした。

今日は最後に被害者の心に寄り添うということを願いながら、「被害者支援とは何か」ということを考えてまいりましたが、それぞれ最後、一言ずつ、会場の皆様にメッセージをいただきまして、このパネルディスカッションを締めたいと思います。それでは高橋先生から、最後、一言ずつ順番にお願いします。

【高橋】 今日は本当にありがとうございます。こういうふうに、あまり面白くない、つらい話に皆さんがわざわざ足を運んで来てくださった、そのこと自体が僕にとって、被害者にとっても支援なのです。本当にありがたいなと、これだけの方が、聞いて楽しい話ではないのにも関わらず、ここに来てくださったこと、これが僕にとっての支援になっているのです。皆さん、支援していないと思われるかも知れません。もう僕はこれで、いろいろな方が来てくださり、ありがたいと思っております。本当にありがとうございました。

【前田】 くどいのですが、一応、今日は目で見て分かっていただくということで、3枚の絵を出しました。今、高橋先生がおっしゃったように、こうやって来ていただいていますので、皆さんはさっきのサッカーのチームとサポーターの関係には、恐らくなっておられると思います。ところが、ああいう関係になっていない方が大部分なのですね。やはりニュースで見て、ひどいことに遭っているなと思っても、それで次の日は忘れているような状況があります。そしてさっきも言いましたけど、他人事ではないということで、自分に降り掛かってきたら、どうなのだろうということです。支える方法はいろいろあると思います。少なくともサッカーとサポーターの関係は私、悪くはないと思っております。できるだけ、そういう人たちが広がっていただければありがたいと思いますし、それから先ほど、サポートセンターはこういうつもりでやっていますと言いました。マラソンのランナーとチームというやり方で、私どもは暫くは、やってみようかなと思っております。

そして今日、人形劇を見せていただきましたけれど、実は何年か前に1回、来ていただいていたのですね。何年か前は、あの人形劇は裁判所で親が非常に踏みにじられて、あれで終わりだったのですよ。ところがそれから何年かして、今日再演をしていただきました。その後に制度が変わったというところが出てきましたね。あの辺のところが、こじつけるわけではありませんけど、朝顔とさっきの支えの棒ですね、ああいう関係ではないのですけど、すぐにはできないのですが、皆さんが関わっていっていただいて、それからずっと法律とかに反映していく1つの証拠ではないかと思っております。是非、3枚の絵を印象に残して帰っていただければ幸いだったと思います。ありがとうございました。

【永岡】 本日は人形劇から始まり、いろいろなお話もお聞きできて、私個人としても非常に刺激をいただくことができました。犯罪被害者というのは常々、仕事として携わっているときも思うのですが、特異な方、特異な対象というわけでは、本来はなかった筈で、日常生活を皆さんと同じように過ごしていたら、たまたま犯罪にあたってしまったというだけの話なのですね。本当は同じように生活できていた筈の方々であって、決してレッテル貼りではないですけれども、特殊な人なのだというようなイメージ作りをしていただかないで、同じ人なのだということで、是非とも受け入れていただきたいと思っております。私個人としても、これから被害者の方々とまた接する機会が仕事でもありますけれども、言葉をそのまま受け止めて、少しでも被害者の方々の心に寄り添えるように、接していきたいと思っております。そういう思いを今日改めて強く持ちました。どうもありがとうございました。

【蒔田】 私の方は、昨年来から被害者の方々の声を聞いており、この支えになるということは誰でもできると、被害者の方がおっしゃっておられます。警察官でもなります。友達でもなります。裁判の結果の判事さんの言葉でもなります。誰でもこの支えになることができます。その支えによって前向きに生きようとする笑顔が見られる方もいらっしゃいます。そういった笑顔が見られるようになるには、我々一人一人のハートであり、思いであると思っております。どうもありがとうございました。

【中野】 ありがとうございました。この大会が終わりまして、帰りの道すがら、そして家で犯罪被害者について話すきっかけが増えたり、そのことを通して家族で語り合ったり、友達と語り合うきっかけになれば、非常に有意義な会だったと思っております。改めまして、この「犯罪被害者支援とは何か」ということにつきましては、私たち、関わる側が一生懸命、それぞれの関わり方を追求していきたいと思います。その中で多くの県民の方々のお力もいただきながら、被害者支援というものに携わっていきたいと思っておりますので、今後とも御理解と御支援、御協力のほどをよろしくお願いします。以上をもちまして、パネルディスカッション「犯罪被害者支援とは何か」につきまして終了したいと思います。どうも御清聴ありがとうございました。

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