長野大会:パネルディスカッション

「犯罪被害者にとって必要な支援とは」

コーディネーター :
長井(常磐大学大学院被害者学研究科教授)
パネリスト:
大崎礼子 (被害者遺族・集団登校小学生死亡事件)
中嶌実香 (長野県弁護士会犯罪被害者支援対策委員会委員長)
藤原久子 (長野県警察本部刑事部捜査第一課女性被害犯罪捜査指導係長)
間中壽一 (NPO法人長野犯罪被害者支援センター事業局長・相談員)

 【長井】 ただ今御紹介いただきました長井と申します。よろしくお願い申し上げます。それでは時間をともかく守ることを念頭に置きながらこのパネルディスカッションを進めていきたいと思います。

まず、パネリストの順に御発言いただければと思います。大崎さん、先ほどの基本講演に加えて何かお伝えしたいことがあればお話しいただいて、特になければお三方のお話を伺って、それを聞いてまた思いつかれたことをお話しいただければと思います。そのほうでよろしいですか、承知しました。

それでは中嶌先生から、弁護士会の犯罪被害者支援対策委員会としてどういうことを行っておられるのかお話しいただけますでしょうか。おおよそ時間が来ましたら合図をしますのでよろしくお願いいたします。

 【中嶌】 長野県弁護士会では犯罪被害者支援対策委員会がございまして、その委員会で弁護士の中で犯罪被害者支援に精通した弁護士を募って名簿化をしております。例えば日本司法支援センター「法テラス」や犯罪被害者支援センターから弁護を依頼したいという依頼があった場合には、それに対応して専門弁護士を紹介しております。専門弁護士を紹介するという関係で、その弁護士の専門性を維持し、またスキル向上のために研修会などを随時実施して弁護士の研修に努めることを行っております。

 【長井】 それから、最初もう少し具体的な内容も含めてお話しいただいて、このパネルディスカッションも具体的にいろいろ話し合えるように、情報提供やいろいろ御留意なさっている点などをお話しいただければいいのですが。

 【中嶌】 専門弁護士は、一応被害者支援に力を入れている弁護士で、自己推薦で名簿を作成しているのですけれども、その弁護士に均一的な支援をするという意味を込めまして、弁護士の研修制度に力を入れております。犯罪被害者支援対策委員会では主にその活動を中心に行っております。研修ですが、私たちの委員会で行っているのは長野県弁護士会主催で行っておりますが。その他にも日弁連(日本弁護士連合会)でも全国的に犯罪被害者支援ということで統一的な研修も行っております。

また、犯罪支援者支援に携わった弁護士達が一堂に会しまして、経験交流者集会としてそれぞれ支援した活動内容につきまして事例報告を行い、その経験を共有化するようにしております。弁護士の活動と申しますのは基本的には弁護士個人の活動になりますので、守秘義務の関係もございまして、長野県弁護士会や、例えばこちらの委員会でその個々の活動内容について具体的に把握することを制度的には行っていません。

ただ、被害者支援には、先ほども大崎様のお話にありましたように様々な活動形態がございますので、それを経験した弁護士とその貴重な経験を個別事例的なものとしてだけではなく、弁護士全体で共有できるようにという意味で、例えばその経験した弁護士に事例報告をしていただく形で、皆で今後の支援に役立て有益な物にしていく方向で実施するようにしております。

 【長井】 公開できるところは限られているかもしれませんけれども、もう少しこういう事例でこういう工夫をしたとか、こういう事案の場合にはこういう対応が可能だとか、あるいは難しいということもお話しいただけますでしょうか。

 【中嶌】 先ほども大崎さんの話を伺っていて本当に弁護士としても反省しなければいけないところが多々ありました。

1つは、やはり司法関係者は、刑事裁判にしても民事裁判にしても業務的に行っているものなので、自分たちにとっては当然のこととして行っているところがあります。ただ、初めて関わられた被害者の方は、もちろん初めての経験でございましょうし、先ほどもお話にあったように言葉1つとっても調書や実況見分というお話もございましたが、その一つひとつの内容がわからないし初めての経験である。

そういう部分が、弁護士をはじめとする司法関係者、裁判所も警察もそうだと思うのですが、そういう司法関係者を含めて法曹と私たちでは言っておりますれども、司法関係者から見ると被害者の方が分からないことに思いが至っていないところがあるのは非常に感じます。

まず、被害者の方から相談を受ける場合には、今後どう手続きが進んでいくのか、どう手続きが進んでいるのか、それによってどんな見通しがあるのかを、その場その場で適切に情報を提示していくことが必要だと思っております。

あと、先ほどの出た判決結果についても非常に納得し難い、承服し難いというお話も伺いましたけれども、どうしても法曹関係者はいろいろ全国各地で起こっている事件の中で処理していく姿勢に今まで立っていたものなので、どちらかと言えば加害者側の事情を今まで重視してきた傾向があったと思います。

弁護士もそうですけれども、まず戦後最初に被疑者、被告人の弁護から弁護士の活動は始まっております。被害者弁護という領域が比較的最近になって始められ、やっとそういう所に光が当たって進められてきた面があると思います。司法関係者、裁判所、検察庁も含めて、弁護士自身もまだそういう活動に慣れていないという言い方をするのが適切かどうかはわからないのですが、まだまだそこの部分の理解が、弁護士自身、弁護士会全体で進んでいない部分があることは否めないと思います。

このように被害者の方たちの声を聞いて、自分たちが今まで当然だと思って進めてきたことのどの部分が被害者の方たちに分かりにくいのかを日々学んで改善していく必要があると非常に感じております。

 【長井】 それでは、いろいろ御用意いただいたこともあるとは思いますので、第2回目の御発声の時にお願いします。続きまして長野県警の藤原さんから、およそ10分程度はお話しいただいて結構だと思いますので、よろしくお願いいたします。

 【藤原】 では続きまして、警察における被害者支援ということで御説明をさせていただきたいと思います。私、長野県警察本部捜査第一課で女性被害犯罪捜査指導係、これは性犯罪を担当する係になりますけれども、この係を担当しております藤原と申します。よろしくお願いいたします。

まず警察というところですけれども、事件・事故の届出からその後捜査をして被疑者が検挙され、その後の被害者の方の被害回復、負担軽減、またその後においては加害者からの再被害の防止、生活の面における保護等、非常に長い期間様々な警察活動を通じて、犯罪の発生した直後から被害者の方と非常に密接な関わりを持つ機関となります。

従いまして、あらゆる場面において被害者の方の負担軽減を図るべく様々な施策を推進できるように取り組んでおります。今日はこれから大きく4つに分けて御紹介できればと思います。

1つ目は、犯罪被害者の方への情報提供になります。これは先ほどからもお話にも出ておりますが、被害者の方はこれまでに犯罪の被害に遭ったことがない方がほとんどです。そのため、警察では被害者の方に情報提供を行うために「被害者の手引」というパンフレットを作成しております。この目的は情報提供もありますけれども、やはり直後の混乱した状態にある被害者の方がその場でいろいろ説明されても、難しいことを突然いろいろ言われても分からない。その時におうちに帰って見直してもらう、また少し気持ちが落ち着いてから確認してもらう、そういう主旨でもお役に立つものなのではないかと思っております。

このパンフレットには、届出から後の裁判に至るまでの流れで、被害者の方が利用できる各種支援制度の紹介、警察・警察以外の相談先の紹介。被害者の方は心身ともに被害後いろいろなことが起こります。それは心や体への影響も多くありますから、その影響についての説明がいろいろと入っております。

この手引につきましては2種類ありまして、殺人や傷害、性犯罪といった身体犯といわれる被害者の方用。もう1つは、ひき逃げ事件、交通死亡事故などの重大な交通事故・事件の被害に遭われた方にお渡ししている物になります。この「被害者の手引」を、被害後の早い段階で事情聴取等を行った捜査員から配付することで早期に情報提供できるよう努めております。

また、情報提供するための制度としましては、もう1つ被害者連絡制度もあります。これは被害の届出をされた方は、その後事件の捜査はどうなっているのか、犯人は捕まったのかがとても重要な情報であると思います。この制度は、被害者の方や御遺族の方に対して、捜査に支障の無い範囲ではありますけれども、捜査状況、被疑者検挙の状況、逮捕された被疑者の住所・氏名などの情報についても、事件を担当する捜査員が連絡を行うものです。

これは被害者の方の意向を伺ってから行う制度でありまして、例えば「もうそういったことは聞きたくない」という方がいらっしゃれば連絡を最低限に控えるとか、そういった御希望にも沿えるものとなっております。

2つ目の取組としましては、相談・カウンセリング体制の整備があります。警察では犯罪被害者の方はもちろん、一般の住民の皆様からの様々な要望や御相談にお応えするため、警察安全相談と言われる窓口や、全国で統一の番号を設定して、その番号にかければ相談ができる仕組みも設置しております。あと、被害の内容によって少年相談、性犯罪の被害に遭われた方の相談、暴力団関係の相談を受け付ける通報ダイヤルなどがあったりします。

あと、カウンセリング体制で犯罪被害者の方への精神的な負担を軽減するために、警察の部内でもカウンセリングのできる体制を整えております。私は警察の中では警察官ではなく臨床心理士という立場から支援を行っていますけれども、私自身この性犯罪の専門の相談窓口、電話相談の担当、および県下の警察署に届出をしてきていただいた被害者の方、またその御家族の方などと、直接面接させていただいて相談を受けたり、助言等させていただいたりしております。

こういったカウンセリングの支援についてより質の高い適切な支援ができるように、その他の制度として私たち支援を行う職員がさらに専門の精神科医、臨床心理士の先生に相談をして「ここはこうした方がいいのではないか」「こういったことも考えられるのではないか」と助言を受ける制度もありまして、相談やカウンセリングが被害者の方に早期に提供できるように制度を設定しております。

次に3つ目としまして、経済的な負担の軽減に関する制度があります。これは被害者の方の経済的な負担を軽減するために、傷害やけがなどをされた場合に、病院からの診断書を警察に提出していただきますけれども、それにかかる診断書の作成料の経費、性犯罪の被害に遭われた方の緊急避妊の治療に関するお金ですとか、性感染症の心配も被害に遭われた方はありますので、検査の費用等が公費での負担になっております。

また、経済的な負担に関する支援では、犯罪被害給付制度もあります。これは殺人事件などの故意の犯罪行為によって亡くなられた犯罪被害者の方の御遺族、また御自身が大きなけがをされる、身体に障害が残るといった場合に社会の連帯共助の精神に基づいて国が犯罪被害者等給付金を支給する制度になっております。

最後になりますけれども、捜査過程における被害者の方の負担軽減への取組になります。警察に届出をされた被害者の方にはたくさん協力していただかなければならないことがあります。例えば、犯行の状況や犯人の様子について詳しく事情を伺う事情聴取、被害に遭った時の衣服を提出していただく証拠品の提出、被害現場等の状況を確認するときにその場に立ち会っていただく実況見分への立会などが主なものになります。しかし、こうしたことはやはり被害の状況を生々しく思い出させることにつながります。そのため、その負担の軽減を図ることをできる限り配慮するように努めております。

その負担軽減のための制度として、指定被害者支援要員制度があります。これは殺人や傷害、性犯罪などの、先ほども言いました身体犯と呼ばれる犯罪、ひき逃げ事件や交通死亡事故などの交通事故・事件が発生した際に、事件の捜査を担当する捜査員とは別に、支援を主たる業務とする捜査員が、共に被害者の方のおそばにいて、自宅等への送迎、病院への付添いや相談を受理したり、様々な情報提供を行うことを支援として実施しています。

こうした制度があることにより、捜査の過程で、被害者の方が初めてで何をどうしたらいいかわからない、そもそもどういうことが警察でできるのかがわからないときに、相談をお受けしたり、ゆっくり落ち着いて説明ができると思っております。

これらの取組以外にも、被害者の方の中には、届出後、また被害に遭うのではないか、加害者から仕返しされるのではないかと不安に感じる方も多くいらっしゃいます。その方々への再被害の防止、保護の措置にも応じることができます。届出後の生活の安全に対しても配意しているところです。

以上、御説明させていただいた取組がありますけれども、警察でできることは限られております。被害者の方に必要な支援は本当に様々な領域に及んでいると思います。そのために、警察で他の機関や専門の方と連携を取り、支援を進めることができるように、いろいろ取り組んでいるところであります。これは、長野県レベルでは長野県犯罪被害者支援連絡協議会が設立されておりまして、県下それぞれの警察署単位で地元の専門の方々と連携を取って、被害者の方への支援が途切れることなく必要な段階に提供されるように努めているところであります。

以上4点で説明をさせていただきました。私からの説明は以上です。

 【長井】 ありがとうございました。それでは間中さん、よろしくお願いいたします。

 【間中】 御紹介いただきました長野犯罪被害者支援センターで事業を担当しております間中と申します。どうぞよろしくお願いします。私からは民間支援団体といたしまして、どのような組織で今日まで至っているのか、経過の問題。それから事業の内容などにつきまして、皆さんに御理解いただくために御紹介申し上げたいと思います。よろしくお願いしたいと思います。

まず私どもの設立でございますが、最初に平成11年5月に私どものセンターは長野県警さんなどの御指導により誕生いたしております。当時は、多くの皆様から犯罪被害者の御理解なども全くまだ寄せられる以前の状態でございました。最初は、犯罪被害者、御遺族の方などからの電話相談を中心に受けることで始まったわけです。その後、平成15年に長野県知事からNPO団体としての認証を頂きまして、活動法人としての活動が開始されました。

さらに、今までは電話相談を中心に行っていたわけでございますが、16年に入りまして被害者に直接寄り添った支援、私どもでは直接的な支援と呼んでおりますが、被害者に寄り添っていろいろな直接的支援を行っております。これについては後ほどまた説明させていただきたいと思います。その後平成22年になりまして、国税庁長官から認定NPO法人の認証をいただきまして、さらに活動の内容を深めて実施しております。

さらに平成24年、今年の5月に、先ほど県警本部長さんから御紹介いただきましたが、県の公安委員会から犯罪被害者等早期援助団体の指定を受けております。この指定につきまして御説明させていただきますと、実は私どものセンターも指定を受けるまでは、指定の無い段階で犯罪被害者の方からお寄せいただきます御相談の内容だけを基に支援の体制を組んでいました。

この早期援助団体の指定を受けることの一番の根本は、「犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律」という少し長い名前の法律がございますが、この法律に基づきまして非常に細かい規定がございます。この規定の中で特に目的とされていることは、営利を目的としない団体法人であること。さらに適正かつ確実に行うことができる項目として人の問題、あるいは施設の問題、個人情報を扱う私どもセンターといたしまして確実な施設でなければならないという問題、経済的な状態。これを確実に確保した団体が指定を受けるわけでございます。

この公安委員会の早期援助団体の指定を受けますと、どうなるかと言いますと、今まではすべて犯罪被害者あるいは御遺族の方からお寄せいただいた電話を基に支援を開始していたのですが、最初に犯罪被害者としての事件を扱う警察署から犯罪被害者等の御意見を聞いて了解を得られた上で、警察署の方から私どものセンターへ「こういう事件が起き、こういう被害者の方がこういうことを望んでいます」と情報が寄せられます。非常にいろいろな支援を進める上で犯罪被害者の方がいつまでもお一人で悩むことのない被害者支援が行われるのではないかと大変期待をしているところでございます。

この関係につきまして非常にいろいろな面で私どもでも準備を整えつつ支援活動を行っております。組織の概要につきまして、現在組織として私どもでは理事長以下、副理事長、理事を合わせて13名の方に活動していただいております。この理事の中には弁護士様、短大教授、あるいは臨床心理士、精神科の先生、それぞれの方に参加していただきまして犯罪被害者の方からお寄せいただく相談、あるいは支援の内容によって非常に複雑な問題も絡んでいる、これに対応できる弁護士先生、あるいは精神科の先生などが、非常に深い悩みをお持ちになっておられる被害者の方に対応できる体制づくりが行われています。

また、個々の支援活動をされる相談員ですが、これは現状では全くボランティアの方に参加していただいて行っております。ボランティアの方が現在長野県下で31名おいでになります。このボランティア31名がそれぞれ長野県に全く平等に配置されていれば一番よろしいのですが、これが少し偏った状態があり、非常に現在の一番の課題となっています。

次に事業の内容です。当初に申し上げましたとおり、電話の相談により犯罪被害者の方からお寄せいただきますいろいろな犯罪、被害に関します相談をお受けしています。この電話相談をお受けしますのは、先ほど申し上げました31名のボランティアの相談員の方が中心になって行っております。被害者の皆様からは財産的な問題、あるいは各種の被害の問題、精神的な被害の問題を非常にたくさんお寄せいただいております。

また、電話の相談に関係しまして、さらにもう少し被害者の方から細かい内容をおうかがいしなければならない、場合によっては先ほど申しました直接的な支援をやっていかないと被害者の方からお寄せいただいた相談内容に対応することができないと判断した場合には、被害者の方に直接私どもの施設へお出でいただきまして、面接相談で対応していきます。相談の電話だけでなく、お会いしていろいろ抱えておられます悩みごとなどお伺いしている面接相談が、私どもの被害者支援の一番の基礎となる対応でございます。

さらに、被害者の抱えておられます悩み事、非常に複雑なものもございますが、多くの被害者は、被害のあと裁判が始まりますと、御自身としては裁判がどういう形で行われているのか、裁判所などという所はよほどのことが無い限り承知されていないということが非常に多いわけです。

行われます裁判で被害者、御遺族の方が傍聴を希望される。場合によっては、裁判中に加害者が来ますので、加害者の顔を見ることはとても遺族の立場として忍びませんので見ません、と御希望される被害者の方もおいでになります。こういった被害者の方につきましては先ほど申しましたボランティアの相談員の皆様が直接裁判所の傍聴席で裁判の内容を傍聴しまして、その結果を被害者、御遺族の方にお伝えする代理傍聴の体制もとっております。

さらに、大勢の方につきましては御自分の受けた身体的な被害などで、どうしても病院へ行かなければならない、この病院へ行くことについてもすべての交通機関が整った所での病院の通院でしたら被害者自身もそれほど手数がかかることではないのですが、長野県は御承知のとおりかなり広い分野で広がっています。被害者のおられる位置も、全く交通機関が無い所の方もおられます。被害者の御要望により病院の付添いも実施しております。

この他、多くの被害者の方がいろいろ受けます精神的な被害につきましては、現在私どもに入っていただいています臨床心理士のカウンセリングを受ける体制もとれる状態になっております。このカウンセリングを受ける際の付添いも実施しております。

また、遡りますが、事件直後のまだ警察署へ届出をしていない状態の被害者の方も御相談される場合がたくさんございます。これにつきましては、被害者の方の内容をお聞きした上で警察署事件担当の方と相談しまして、警察署への付添いを私どものボランティアの皆さんにお願いしてやるという形も取られております。

犯罪被害者のお抱えになっておられる多くの悩みにつきまして、被害者からの御意見をお伺いした上で付き添うことで支援が行われています。

 【長井】 ありがとうございました。すみません。時間の関係で中断していただけますでしょうか、また必ず発言していただくチャンスはもう一度差し上げますので、その時におっしゃっていただければと思います。

 【間中】 分かりました。

 【長井】 ありがとうございました。大崎さんにお尋ねします。お三方のお話を伺って、御自身で経験されたことも含めて、もう少し具体的な内容を尋ねてみたい、あるいはこの点は長野県ではどうなっているのか、岩手県ではこうなっています、ということがもしあればおっしゃっていただければと思いますけれども、いかがでしょうか。

 【大崎】 まず、司法関係者の方々の取組、委員会についていろいろお話をお聞きしました。本当に、加害者には弁護人がついて、私の娘の事故の場合は、加害者の弁護人が弁護をするわけです。そして、減刑を求めるときに、加害者の弁護人が、娘の事故のちょうど1年前、1999年11月28日に東名高速で乗用車家族4人、後ろに1歳と3歳の女の子が乗っていて、そこに飲酒運転の大型トラックが追突して車が炎上した。後ろに乗っていた1歳と3歳のお子さんは焼死してしまった、すごく悲惨な事故がありました。

その1年前に起きた事故の判定を真似て、その方が極めて悪質だから減刑をして欲しいと裁判官に求める場面があって、すごく悔しい思い、それでも被害者の立場としては何も言うことができない、黙ってただ見ているだけの状況がありまして、とても悔しくて悲しい思いが増幅した場面がありました。

本当に弁護士選びで、私は刑事裁判が終わって民事裁判をするときに非常に大変な思いをしました。弁護士の知り合いがいるわけでもなく、どこに相談をしたらいいのか。訪ねて行ってもすごく横柄な態度でソファーにでんと構えてタバコを吸いながら私たちの話を聞く。最初そういう弁護士との出会いがあって、とても嫌な思いをしました。

被害者に対してどのような思いで相談に乗ってくれようとしているのか、ただ単に何十人何百人という依頼者の中の一人にすぎないと思って対応しているのかと、疑問に残るような弁護士の方もいらっしゃいました。良い弁護士選びはすごく苦労したところがあります。

30分5000円という料金を払って相談に行くのですけれど、30分で到底相談できるようなことでもありません。依頼につながるまでに中々時間がかかりました。弁護士さんの資質にも、いろいろいらっしゃるでしょうけれど、被害者に対して、そういう態度の弁護士さんもまだまだいらっしゃるのだということがあります。

 【長井】 ありがとうございました。それは中嶌弁護士、長野県の対策委員会としては通常の弁護士業務と何をどのように違えて配慮なさっているのか、もしあれば御発言いただけますでしょうか。

 【中嶌】 従来の弁護士の相談は、コンサルティング、依頼者に聞かれたことに対してその結論を答える、見通しを答えることを主にやってまいりましたので、そういう活動しかしてこなかった弁護士は、どうしても被害者に限らず依頼者から聞かれたことについて結論をまず話してしまう。見通しを話してしまう。

弁護士によって、話を聞いて弁護士なりにその結論が大体見通せるのですが、結論に影響しない話を聞かないで遮ってしまう。弁護士にとって必要な情報だけを得ようとする。弁護士の側にとって必要な情報だけで結論を出そうとするという相談形態が主流であったと弁護士自身も自覚し、そういうことがあったという思いがあります。

この犯罪被害者支援対策委員会も、新しい委員会ですけれども、その活動していく中で心掛けていることは、従来の弁護士の相談体制ではなく、むしろカウンセリング的な要素、被害者の方がどういうことを思い、どのようなことを望んでいらっしゃるのかをまずは聞く姿勢を持つことを心掛けておりますし、そのような対応で相談に臨むということを研修会などでも会員に広く周知するようにしております。その部分が、従前の弁護士の相談と被害者支援に携わる場合で違う1点です。

そうは申しましても、今の弁護士の態度がというお話ですけれども、弁護士の態度がというより弁護士も実務を念頭に置いて動いておりますので、例えば条件が同じような事例があった場合にそれが先例とか判例と言いますけれども、前の時にはどのよう処理されたのかはやはり踏まえざるを得ない。

従前の結論と全く違う結論が後日出ることは、今の司法ではあまり考えられませんので、どうしても前例を参考にせざるを得ない。そうすると当該相談にいらっしゃった方の案件についてもこういう結論になりますという見通しにならざるを得ない。ただ、問題は結論がその見通しにならざるを得ないとしても、「結論はこうです」という言い方、依頼者の方を突き放し、対決するような形で、結論はこうですという態度ではなく、今の司法ではこういう結論にならざるを得ないけれども、その中でも変えていける部分は無いのかと被害者の方の気持ちに寄り添って、一緒にいろいろ解決方法を探して、寄り添えるような弁護活動が求められているのではないかと思っております。

前例、先例に拘束されざるを得ないとお話をいたしました。ただ、司法も動きます。本当に交通事故・交通事件がそうであるように、従前の自動車運転は業務上過失で最高刑が5年と決まっておりましたが、それに加えてだんだん、極めて悪質性の高いものについては危険運転致死傷という類型ができましたし、同じ適用条文の中でも非常に加害者の悪質性や被害の重大性に重点がおかれ、より判決自体も重い結果になる。そのように社会・司法も動いておりますので、弁護士は司法を変えていく方向に向けての活動も重要になると考えております。

 【長井】 先ほど控室でお話を聞いた一部ですけれども、結論ではなくむしろ過程、プロセスを重視するという御発言がありました。そこのところで何かあれば一言教えていただけますか。

 【中嶌】 先ほどもお話がありましたように、弁護士は事務所にでんと構えていて相談にいらっしゃった方に対して「結論はこうですよ」と答えるというのがどうも弁護士のイメージかもしれないのですが、そうではなく、犯罪被害者の支援に携わっている弁護士は決してそういう態度の弁護士ではなく、本当に依頼者の方のとにかく最初の相談でも丁寧に話を聞く、話を伺うというところにも非常に気が向いている、配慮するように弁護士自身もなっております。

また、いわゆる弁護士が行ういろいろな法廷活動、例えば刑事裁判に参加する被害者参加の付添い弁護をいたしますけれども、そういうこととは離れて、検察庁・裁判所に対してまず席を確保する、入廷・退廷するときに周りの他の傍聴人の方の目、マスコミの目もありますので、どういう形で法廷に入ったり、出たりするのかということ。

あと、検察庁との間でも、検察官との役割分担で、法廷活動以外でも被害者の方が嫌な思いをすることなく裁判に関わっていかれるように配慮するように変わってきております。そういうところに目を向け、力を入れて今後もやっていきたいと考えております。

 【長井】 ありがとうございました。実際に相互信頼関係に基づいて、結論よりはプロセスそのものを重視して良い関係を築く弁護士の方々が、長野県だけではなくて全国的に出てきたら、それはとても素晴らしいことだと私も思います。

大崎さん、もう一度お尋ねしますが、やはり被害者のお立場から、今度は警察あるいは民間の被害者支援団体の先ほどの御説明、あるいは実際に経験された現実を踏まえて質問されたいこと、注文、こういうところをこうしていただければというような御発言があればよろしくお願いいたします。

 【大崎】 警察の方との関わりは、事故後実況見分があるとか、遺族調書を取るところから私は関わりが始まっていきました。先ほど、被害者への情報提供で手引やパンフレットを後からでも見られるように早い段階で配布しているということで、それはとても大事なことだと感じています。

私もやはり警察の方からそういった物を頂きました。でも、結局読めなかったです。それを読もうという気力もなくて、早い段階で配布してもらうのは本当にいいことですけれど、早い段階だからこそ娘を失った、大切な人を失った悲しみ、苦悩はすごく大きいので、もらっても読めなかったり、読む気力が出なかったりということがありましたので、そこに人の言葉も添えられるといいのかなと。

一応、手引やパンフレットをもとに説明をしていただく時期やタイミングはあると思いますので、何度か「どうですか、御覧になりましたか」と確認をしていただいて、「もしよろしければ御説明させていただきますよ」と1回きりではなく、何度か確認していってくれるのが大事でないかと感じています。そういったところはどうなのでしょう、パンフレットを渡したり、手引を渡して、その後はどういう対応でしょうか。

 【長井】 では、藤原さん、よろしくお願いいたします。

 【藤原】 今お話がありました、やはり時期やタイミングは非常に大きいものだと思います。制度的なことを申しますと、先ほども少し触れさせていただきましたが、被害者連絡制度という制度があります。これによって、例えば1カ月後、またその3カ月後であったり、被害者の方の要望によって「もういいです」とおっしゃられる場合もあれば、続けてくださいとおっしゃられる場合もある。その要望に沿って捜査員は連絡を続けております。

私は日頃、性犯罪の被害者の方の支援をしていることが多いのですけれども、実際警察署で直接被害者の方と続けて連絡をしていく捜査員と話すことも数多くあります。犯人が捕まらないで連絡をすると、被害者の方に言う言葉が無いと言う者もいます。でも、その連絡をすることによって被害者の方に、忘れられていない、事件をまだ警察では捜査していることを伝えることができます。

また、今の気持ちから何かを相談したい、こういうことを知りたいということを、被害者の方が自分から警察にかけるのは日が経つとかけづらいと思いますので、そういう警察側からの連絡のタイミングで、こういうことを聞いてみよう、少しお話ししてみようと思える、そういう機会として機能していると思っています。

ただ、例えば手引の内容まで読めたか読めなかったかとか、個々の方々の事情に応じてきめ細やかな対応をすることは、やはりまだまだ注意しなければいけないと今伺っていて思ったところでもあります。

 【長井】 ありがとうございました。警察関係者の責務・活動はいろいろあると思いますけれど、必ずしも担当者だけではなく、例えば被害当事者の方にもっと冷静になれる、被害者にとって心強い第三者を同席した上で、その方に手引の読み方などいろいろ一緒に聞いておいていただければ、その方を仲介して行うこともできると、お話を伺ってイメージいたしました。

それでは大崎さん、民間支援センターについては何か御質問、御要望等ありますか。

 【大崎】 あと、警察でもう1つ。

 【長井】 はい、どうぞ。

 【大崎】 カウンセリングの件ですが、体制を整えているとおっしゃっていました。私も何度か勧められて、最初は断っていたのですけれど、やはり何度も時間をおいて、どうですかと繰り返し勧めていただいたことで、徐々に受けてみようという気持ちになりました。先ほどのお話の中にありましたように、他の子が犠牲になれば良かったのにという、すごく苦しい感情があったので、そのことを相談してみようと思って会ってはみたのですけれど、初めて会う人がどのような人なのか、どこまで話していいのか、不安や不信感はやはりどうしても持ってしまう。

遺族調書の時も、私の場合は男性の警察官が一人、1対1で向き合って行われる状況の中で、その警察官が私たちに何をしてくれるのか、この人をどこまで信用していいのか。関わってくる人一人ひとりに対してそういう思いがどうしても芽生えてしまって、その辺を被害者が安心して話せるようにもしていただきたいと思っていますけれども。

 【長井】 その点に関して長野県警は、藤原さん、何かありますでしょうか。

 【藤原】 非常に難しいことだと思います。大きく言えば警察に対する信頼をどのように抱いていただくか。これは、最近不祥事等も多くありますので、そのことが不信感につながる方も多いかと思います。

でも、基本的には、基本の活動や真面目に働いていることを愚直に示していくことで、やはり全体的な信頼を抱いていただけるように努力することしかないと思っています。個々の被害者の方、御遺族の方と接した時にどのようにしたら安心していただけるようにできるかということで、私が日頃研修等で話させていただいていることを御紹介します。

説明責任が私たちにあるのだ、と言わせていただいています。それは、警察に来て何をしてもらうのか、どういう役割を果たしてもらうのかについて情報を持っているのが警察です。なので、警察の側に説明する責任がある。

被害者の方、御遺族の方、もしくは被害者の御家族、ついて来られた方に、今から何をしてもらう、これをしてもらい協力していただくことはどんな意味があるのかをなるべく情報を提供して納得し了解してもらう。それで初めて、調書を取るなどの協力をしていただく。そういう細かな手続きを取ることについては、警察の側に果たす責任があることを繰り返し説明するようにしています。

これは緊急の場面では大変だったりするかもしれないので、終わった後で「ごめんね、さっきのはこういう意味で」ということもあるかもしれないです。ただ、それをできるだけわかっていただこう、納得してもらおうという姿勢は大事だと。そういったことを日頃からお願いして、なるべく心に留めて実践してもらうようにしています。そのことは御紹介できるかと思います。

 【長井】 ありがとうございました。とても重要なポイントで、いろいろな職種の世界では、当然その職種ではこれが常識、というのがあるわけですが、それを被害者が全く知らないで入るので振り回される感じを非常に強く持つわけです。報道関係者も臨床心理士もみんなそうだと思います。

それでは今度、民間の被害者支援団体についていかがでしょうか、大崎さん。

 【大崎】 私の娘の事故があった時には岩手の支援センターが設立されていなかったのですが、本当に事故直後からなるべく早い段階で支援があればよかった。例えば、葬儀や生活支援です。私の場合は本当に家事も出来ない状態でしたので、生活支援や、警察に足を運んだり、検察庁に行ったり、裁判の傍聴に行ったり、弁護士探しもそうです。

そういったところで早いうちから段階を経ての支援はすごく必要だと感じています。事故後は人の集まる場所に行くのも嫌でしたので、その対応をして欲しいと思いましたけれども、実際長野では直接支援はどういうことがされているのでしょうか。

 【長井】 間中さん、よろしくお願いします。

 【間中】 今、お話しいただきましたように、事件直後の被害者、御遺族の方の状態は非常に複雑なものがございます。御相談を頂いた段階では、被害者の方は私どものセンターに何を望んでおられるのかを把握することが一番大切なことだと、私どももボランティアの皆さんと日頃話をしております。

また、被害者の方自身が持っておられる悩みは、この事件だから被害者がこういう悩みを持っているという判断は全くできない状態がございます。と言いますのは、犯罪被害者それぞれ一人ひとりが全く違った悩みをお持ちになっているということです。私どもは、被害者の方と電話相談をお受けした後、まず被害者が私どものセンターに求めておられることを把握するために、電話相談だけでなく、先ほども申しましたように面接の機会に非常に重点を置いて面接計画を立てるように実施しております。その上で被害者の方の御意見、ニーズを聞いて対応していくという形になります。

 【長井】 御発言の途中すみません、面接をなさるということですが、特に配慮なさっている、こういうきめ細かい配慮を面接の中で、連絡を取るところからやっていますということが、もしあれば御説明いただければ。

 【間中】 そうですね、やはり一番被害者自身・御遺族自身を理解することではないかと私どもの中では言っております。被害者がどんな悩みを抱えているのか、まずそのことから入って被害者を理解していくことが一番ではないかと思っております。

 【長井】 ありがとうございました。大崎さん、もう一度お尋ねします。交通犯罪について、他の犯罪の被害と比べて思うところがあれば少しお話しいただけますでしょうか。

 【大崎】 交通犯罪については、やはり社会の意識は交通事故軽視。殺人とかに比べると交通事故は軽いという意識が本当に身近な所にあるということです。事故後にかけられる言葉の中には「事故だから仕方がない」「運が悪かった」という言葉で簡単に片付けられる。そういう言葉にはすごく深い悲しみと憤りを覚えることがありました。

 【長井】 各パネリストに、もし言い足りないところ、ここの所は強調しておきたいというところがあれば、お一人、2分ずつぐらいお話しいただいて結構です。では、中嶌先生からどうぞ。

 【中嶌】 他の関係機関等もお越しですね。今日出席いただいている方達の関係で申しますと、何度もお話に出ておりますが、やはり連携して対応していくことが重要だと私も感じております。

今までずっとお話に出ておりましたように、被害者の方が望まれている支援は多岐に渡っていると思います。その中で弁護士が担える部分は、法的な救済になると思います。その場合であっても、やはり法的な解決、裁判で解決するとなると、証拠があるかといったことをどうしても問題にせざるを得なくなってくる。そうすると弁護士の所に来た段階で、特に被害を受けたことに対する加害者側の犯罪を立証するものがそろっていないと、法的な解決という点では難しい場合が多くなってしまう。

そうしますと、やはり犯罪が発生した時点で、警察もしくは医療の関係で証拠を保全できるのならば早い段階で保全されていることが望ましい。その上で、警察は刑事(事件)の方で担当いたしますけれども、それとは別に民事(事件)で解決することになれば弁護士が対応することになります。

法的な解決は、例えば民事で解決する場合でも現在の司法は金銭賠償が原則ですので、損害賠償金が いくらかという方法でしか解決がなされません。ただ、それで被害者の法的救済が終わるのかといえば決してそんなことは無いわけです。そういう意味では、法的な救済だけでは得られない場面での支援、被害者の方のカウンセリングを含めた精神的に支える、もしくは生活支援の場面でカウンセラー等の専門家の支援を仰ぐ形で連携していくことが、被害者の様々な要望に応えていく1つの解決方法と考えております。ありがとうございます。

 【長井】 わかりました。藤原さん、何かあればどうぞ。

 【藤原】 私は性犯罪の被害者の方の支援を日頃行っておりますが、その中で相談の電話を受理しております。捜査第一課にあります「女性被害犯罪ダイヤルサポート110」という電話です。これは、「匿名でもかまいませんし、どんな方でもおかけください、女性が対応します」と、設定としては緩く、いろいろな人にかけてもらえるように設置しています。

ここにかけてこられる方の性犯罪関係の相談は、被害に遭ってからとても期間が経っていて、もう十何年と経っている、知っている人からの被害で届出はするつもりはない、でも気持ちが納まらないという相談ですとか、届出を受けて捜査をする機関にある相談電話でありながら、それを望まない方からの相談が非常に多くあります。その時に私は本当に自分が無力だと思うことがあります。

犯罪の被害に遭ったことを警察に届ける、届け出ないという時期の支援が無いことも感じます。今回とずれてしまうかもしれないのですけれども、警察の中にいて支援をしていると、案外警察でできる支援は、被害者の方の全生活を考えた中では、影響は大きいとは思うのですが、割と狭い範囲のことです。被害者の方には、例えば届出をして、事情聴取を受けても、その後家に帰ると毎日の生活がある。人間関係もあれば、会社の人、友達との関係もあり、その他のこともいろいろある。

まずその方の支援を考えた時に、例えば届出をする・しない、しない場合にどういう選択肢、どういう支援があって、その人が何を選択して何の支援を受けるのかと、大きく考えた時に支援のあり方はもっともっと広く、多くのことに協力が必要なのだとよく感じることがあります。

 【長井】 ありがとうございました。お願いします。

 【間中】 それでは私から、長野県の特色的な事例としまして、親族間の殺傷事件に関する被害者御遺族の方からの御相談も非常にたくさん寄せられております。長野県警の統計によりますと平成22年の殺人事件が19件発生したと報じられております。このうち親族間の事件が何と13件、5割以上が親族間の事件であったということでございます。

親族間の事件は今、介護殺人とか老老介護の問題とかの言葉も出ております。長野県は非常に長寿高齢化の県で、全国でも有数な長寿の県だと言われております。これに反しまして老老介護の問題、あるいは介護の行く末にどうしようもなくなった状態で、どちらかが手を出してしまう殺人事件あるいは傷害事件になってしまう場合が非常に多いわけです。

これに対して私どもといたしましても、本来的には夫婦の中での加害者・被害者ですので中々支援は難しい状態でございます。多く寄せられています内容では、たまたま事件の現場にいた小さな子どもさんが事件現場を見ていたために、学校へ行って絵を描くときに非常に複雑な絵を描いてしまう。目が1つの人や目が3つもある妖怪。こういった非常に悲しい相談も寄せられております。また、現場を見た子どもが全く外へ出られなくなってしまっている実態もあります。これは何年もこの状態が続いている。

さらに、事件直後に御相談を受けた場合の状態ですが、被害者、御遺族の方が、それぞれ亡くなった方の手続を役場あるいは市役所等に行ってしなければならない。長野市のように大きい市の場合でしたら、戸籍係の所へ行ってもあまり苦にならないかもしれませんが、ごく小さな村では役場へ行くことが被害者、御遺族にとっては負担が非常に大きいわけです。こんな状態があるために、私どもはそれぞれの機関との連携に非常に重きを置いていろいろな活動を進めております。先ほども連携について中嶌先生の方からお話がありました。

市町村で犯罪被害者を担当しておられる方から御連絡をいただきました。この御連絡は、犯罪被害に遭った遺族の立場で、現場を見てしまったために外に出られなくなった方がおられたのですが、この方がたまたま長く生活保護を受領して生活をしている状態で、なんとか立ち直ることができませんかと御相談を頂きました。すぐこの御子息の方と面接をしました。その結果、精神的な悩みが非常に大きいことから、すぐ私どものセンターに入っておられます臨床心理士の方とカウンセリングをするようになりました。その結果、大分本人の気持ちも和らいでこられたというお話も聞いております。

また、小さな村で起きた親族間の事件の関係につきまして、村の犯罪被害者担当の方と相談しまして、御遺族の方が村の役場へ出掛けるときに大勢の皆さんにお会いしないような状態に、ぜひ何とか手続きをしてもらえませんかとお願いをしました。村役場の担当の方はすごく好意的に扱っていただきまして、村役場ではそれぞれの場所へ行かず小さな部屋を開けていただきまして、その部屋に犯罪被害者御遺族の方が伺い、村役場の中でも戸籍だけではなく保険の問題等それぞれ5つぐらいの担当の課と相談をしなければならない、抱えていたいろいろな問題を、この小さな部屋で済ませることができ、手続がすべて終わった段階で御遺族の方から私どもに、「非常に助かりました」とありがたいお話も伺わせていただいております。

親族間の問題は非常に複雑な問題が絡んでおりますが、ぜひいろいろな所でこうした問題につきまして御承知するような内容がございましたら、早目に私どもへ御連絡をいただければ、私どもで御面接をした上でそれなりに対応をしていく体制が取られます。ぜひ連携の大切さということをどうぞよろしくお願いしたいと思います。

 【長井】 ありがとうございました。私からも少し発言させていただきます。既に多くの方が御承知だと思います。犯罪被害を何かの例に例えるならばどういうことなのかということです。私は講義の時によく言う例えですけれども、もともと飲み込めない、消化できないものを悪意と力でもって喉に押し込められる経験。一度喉を通って胃の中にそのものが入ってしまえば吐き出すこともできない、消化することもできない。また、外科手術によって取り出すこともできない。言ってみれば悪性腫瘍の様な感じ。心理的な経験とすればそういう経験をなさる。

初めは非常に苦しくて中々吐き出せない。それが常に一日の生活の朝から晩まで苦痛、違和感がずっとある。年月の経過と共に徐々に痛み・違和感が和らぐにしても、それが消え去るわけでは決してない。遺族の方々も時折おっしゃいます。胃の中に塊があって気の置けない友達と日中食事をしながらいろいろお話しできて楽しい時間が過ごせたときには、違和感がその間だけ消えている。でも自宅に帰って服を着替える頃になると、いつもの苦痛を伴う違和感が、またしっかり胃の中に塊があるような感じがあるとおっしゃる方がいらっしゃいます。

犯罪被害者の実際の姿は、自分からもちろん望まなかったのに、ある意味暴力で飲み込まされたそのものを一生抱え続けなくてはいけない、というのが運命のような現実だと思います。したがってそういう心理的な経験を被害後ずっと背負っていく犯罪被害者等の方々に、どういう肩書、学歴、職位であろうと、専門家であろうとなかろうと、一体何ができるのか。基本的には関わることによってその内なる違和感を悪化させないように配慮することに尽きるのではないかと思います。

大崎さんや他のパネリストの方からも御発言がありましたけれど、被害者を理解することはそういう点で非常に重要で、第三者的な観点からの客観的な理解ではなく、今自分の目の前にいる被害者が一体何を感じ、何を考えているのか。その人の観点からしてみれば過去の出来事が10年前の出来事であっても、それを今どう思えるのか。誰かが私にしたことはどういうふうにしか思えないとか。その被害者の観点に立って理解しようとして初めて、先ほど申し上げました被害者の持つ違和感を悪化させないで済むわけです。また、相手を相手の観点から理解することなしに結論を急いだり、提案をしたり、評価をしたりということはできる限り控えるべきだと考えます。一度傷つけられた、心の傷を負わせられた被害者の方々は、その地域社会で住民のひとりとして生活されます。このパネルディスカッションにおいても、どなたも明言はされていませんが、被害者問題は被害当事者と、また職業的に被害者等に関わる人たちだけの問題では決してありません。多くの人が、いつ被害に遭うかわかりません。また、善意で行おうとしたこと、伝えようとしたことが、結局は傷口を広げているということにも大いになりうるわけです。その地域社会でずっと生活し続ける被害者等の方々が、「できればこんな社会にはいたくない、生きていることが苦しい」という思いを募らせることのないような関わりを、われわれすべての市民、住民が考えなくてはいけない、と日頃感じているところです。

法律の関係者、専門家の観点からすれば、犯罪被害者等基本法ができたから、ものすごく大きな一歩前進ではないかと思われるかもしれませんが、被害者等の立場からすれば、制度はできた。でも、変わらないものがある。それは何か、人の心です。

子どもも大人もそうですけれども、人間の精神的な健康の基本には、しっかりした過去経験の積み重ねがあり、外部からいくら刺激を受けてもそう簡単には変わらないだけの、しっかりした自分を持っていることが精神的健康の基本ではあります。しかし、そのことが、被害者支援あるいは被害者に対する認識を新たにする場合、妨げになっているところが大である、とも考えられます。ですから、それぞれの立場において被害者に関わる、あるいはひょっとして関わるかもしれないと思われる方の場合には、自分の持っている常識、価値観、親としての責任、子どもとしての務め等、こう考えて当然でしょうと自分が信じて疑わないことを、第三者である被害者にそのまま伝えてはいけないということです。良い影響をもたらそうとするのであれば、まずは被害者の観点から丁寧に理解しようとすること。

最後に間中さんがおっしゃっていたことで連想することですけれども、大崎さんも例外ではないわけですが、死亡届を出すにあたっては必ず住民票のある役所に行かなくてはいけない。届を提出すること自体が大変精神的な負担になるのですけれども、そのような被害者等の心情への配慮が自治体の窓口全体に行き届いているかというと、なかなかそうではありません。

国外での殺人事件の御遺族で、特殊な状況を今は詳細に説明できませんが、損壊された遺体の出てこない事件がありました。加害者が自分で罪を認めて服役したほうが刑期が軽減されることを計算したうえで有罪を認めたケースです。ご遺族のお母さんは、市役所に死亡届のために来られた際、窓口の担当者には何も配慮してもらえなかったということです。すぐ隣には出産を間近に控えたお母さんが母子手帳を持って何かの手続きに来られていたそうです。その真横で「実は死亡届を出しに来たのですけれども、私の場合、特殊でして」とご遺族が述べ、その場で「え、何が特殊なのですか」と担当者に尋ねられ、ご遺族は詳細に話したくない事情を述べられました。要するに来られた方の表情や口調などから心情を察して、「別室でお聞きしたほうがよろしいでしょうか」という気遣いさえあれば、ものすごくご遺族の気持ちは和らいだであろうと思われるのですけれども、それがまったくない。最初は総合案内の人、窓口の中間管理職、さらにその部署の責任者の方に計3回同じことを詳しく説明しなくてはいけなかったという方が、2年ほど前にいらっしゃるわけです。関東で起こったことです。

この種の届出ひとつ例に取っても窓口の方のちょっとした気遣い、配慮で、被害者の経験することはまったく違います。それは一生に1回しかありません。弁護士に傷つけられた時も一生に1回、警察官の対応が良くても一生に1回。みんな一生に1回です。では経験したことを、被害者の皆さんが「あなたのこういうところが悪かったですよ」と言うだけのエネルギーがあるかというと、ありません。

したがいまして、ある人が二次被害を与えてしまったとしても、自分が二次被害を与えてしまったということを認識できない場合もあります。犯罪被害者やご遺族の間では、「あそこでこういうことがあった。あなたもそうだったの」とこの種の情報を共有する機会は多いと思いますけれども、それがなかなか刑事司法関係者等に伝わらないのが現状です。

そういう点で、被害者支援に関わる職業人はいろいろな職務の研修に加えて、犯罪被害者等と良い距離間を保ちながら良い関係を築き、自分たちへの批判的な意見であっても、被害者等からいつでも、きちんと伝えてもらい、自分たちの対応を改善できるような関係作りを今後も発展させ、また維持していただきたいと思う次第です。

最後にほんの20~30秒ですが、何か御発言なさりたいことがあれば、大崎さん、ぜひお話しください。順番にお願いします。

 【大崎】 長井先生がおっしゃっていたことと重複するかもしれませんけれど、やはり周囲の理解は一番重要だと思います。そこから支援は始まっていくと思うので、本当に皆さんには被害者が一時的なものではなくずっとその苦悩が続いていく、その支援も一時的なものではなく長期的な視点から支援を考えていただきたいと思います。

それから様々な支援メディアがあることを今日お聞きしましたけれども、そういう選択肢も被害者の方に示してあげることはすごく大事なことだと思います。考えがまとまらないという状況に追い込まれますので、そういう選択肢を出してあげる。でも、決めるのは被害者、遺族ですので、もし被害者が望まなければそれは支援にはならないと思います。本当にもし自分が同じ様な被害に遭ったらどのように対応して欲しいのかという相手の立場に立って、想像して接していただきたいと思っています。

 【長井】 ありがとうございました。中嶌先生よろしくお願いします。

 【中嶌】 今日の大崎さんのお話の中で、相談に来られるときに、相談に対応する側がどういう人間なのか、自分を受け入れてくれるのかということが非常に不安で、心配があるというお話を伺って、それが非常に心に残りました。被害者の方が弁護士の所に安心して相談に来ていただけるように、弁護士の側も配慮できるように研鑽を積んでいかなければならないと思いました。ありがとうございました。

 【長井】 ありがとうございました。

 【藤原】 本日の大崎さんの話をはじめ皆さんの意見も聞いている中で、警察は特に犯罪の被害に遭われた方が、まず第一にその被害を他の人に話す、すごく重要な場であって、さらにその被害者の方が届出するのではなかったと思うか、してよかったと思うか、そういう大きな判断をするところに関わる立場にいるのだということを改めて実感しました。ありがとうございました。

 【長井】 ありがとうございました。ほんの一言だけ、間中さん、もしあれば。

 【間中】 時間が無いようでございます。1つだけ事例を申し上げたいと思います。

 【長井】 途中で切るかもしれません。

 【間中】 はい、いいです。私の受信した1つでございますが、立ち直りのための支援を非常に私どもの中では重点を置いております。1つの交通事故でお子さんを亡くされた御遺族の方が非常に悩んでおられて、いつまでたっても晴れた状態になれないということをおっしゃっていました。

 【長井】 すみません、時間を厳守する立場からしますと、申し訳ございません。

 【間中】 そうですか、別の機会に申し上げることにしまして終わりにさせてもらいます。失礼しました。

 【長井】 それでは皆様、お聞き苦しい、お見苦しい点も多々あったとは思いますけれど、御清聴ありがとうございました。またパネリストの皆さまもありがとうございました。以上をもちましてパネルディスカッションを終わります。ありがとうございました。

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