■新潟大会:パネルディスカッション

テーマ:「性犯罪被害者支援を考える」
コーディネーター:
 江口 歩(新潟県元気大使・NAMARA代表)
パネリスト:
 小林 美佳(「性犯罪被害にあうということ」著者)
 高野 義雄(日弁連犯罪被害者支援委員会委員、弁護士)
 福井 葉子(新潟県警部)
 中曽根えり子(公益社団法人にいがた被害者支援センター支援局長)

高野 高野です。私が弁護士になったのは平成2年です。その頃、犯罪被害者支援という言葉を弁護士が口にすることはほとんどありませんでした。平成8~11年頃にかけて民間の犯罪被害者支援団体が活動され、社会的に犯罪被害者の支援を行う体制がもっと必要なのではないかという世論が大きくなってきました。新潟県弁護士会でも犯罪被害者支援を行う委員会を作ろうということになり、平成12年に犯罪被害者支援対策委員会を作りました。そのときから私も委員として支援活動に携わっています。

福井: 新潟県警察の福井葉子と申します。現在は、新潟東警察署で地域第2課長として勤務しております。私は平成8年からの8年間、警察本部の捜査一課で性犯罪捜査に携わっていた経歴がありまして、今回、警察代表ということでお声がけをいただきました。よろしくお願いします。

中曽根: どうぞよろしくお願いします。私自身が交通事故被害者の遺族です。それがきっかけで平成18年、にいがた被害者支援センターの立ち上げ・設立からお手伝いさせていただきまして、現在、支援局長として勤務しております。よろしくお願いします。

江口: どうぞよろしくお願いいたします。NAMARAをどのぐらいの方が御存知か分かりませんが、本日はコーディネーターとして心してやりたいと思っております。よろしくお願いします。

江口: まず、小林さん、ありがとうございました。小林さんの話を聞きながら会場の様子も見ていました。中には涙を流される方もいらっしゃいました。パネリストの皆さんに、小林さんの講演をお聴きになっての感想を聞かせてください。では中曽根さんから。

中曽根さんは御長男を7歳で、交通事故で亡くされています。性犯罪・性暴力も同様ですが、私には6歳になったばかりの子どもがいて他人事ではありません。

中曽根: 私は遺族としてこの活動に関わってきていますが、美佳さんのお話を聞き、本も読ませていただき、いわゆる当事者、性被害の犯罪に遭われた方と私たち遺族には心理的な状態も含めて共通する点があると思います。突然の被害によって困難な状況に置かれ、その後、家族も含めて周りの人たちを素直に受け入れられない。美佳さんは被害に遭われてから年数が経ち、色々な思いを御自分で少しずつ乗り越えてこられているような気持ちがいたしました。

江口: 中曽根さんは、乗り越えることはできたでしょうか。

中曽根: 乗り越えようとしているところです。美佳さんもそうではないかと思うのですが。乗り越えたとは言えないと思います。

江口: なるほど。

中曽根: 一生続く問題だと思うのです。乗り越えようとしていると言い換えたほうがいいと思います。

江口: 分かりました。福井さんは女性被害者の方と実際に会っているわけですね。

福井: はい。

江口: 小林さんのお話を聞いて、これまでの経験を踏まえて感想を聞かせていただけますか。

福井: 私は平成8年から性犯罪捜査に携わったのですが、まさに私が捜査の担当をしているときに小林さんが被害に遭われていた。もし、新潟でこの被害に遭われていたら私が担当したかもしれないと率直に思いました。被害者の方の苦しみは相当なものだと実感しました。

平成8年2月に「被害者対策要綱」が制定されました。警察として被害者対策に本格的に取り組むための基本方針です。新潟県警でも同年7月から捜査一課に女性被害犯罪の捜査班が設置されて女性警察官が初めて配置になったのです。

女性として被害者の立場に立って寄り添い、被害者のニーズに応えてあげようと仕事に就いたのですけれども、小林さんのように被害に遭った方を目の当たりにすると、そんな甘いものではないと思い知らされてきました。

目の前でガタガタ震えている女性を抱きかかえながら調書を取ったこともありました。犯人を捕まえるためにそのときの状況を被害者本人からお聞きし、現場の確認を行い、証拠化するために写真を撮り、と御本人にとっては辛いことをお願いしなければならないということがあります。女性の立場からはそっとしておいてあげたいと思うときもあるのですけれども、捜査への協力によって辛い思いをさせてしまったときは、家に帰ってからも「彼女、すごく辛かっただろうな」という気持ちがあとをひきます。犯人を捕まえられないと辛い思いをさせたのに警察って無力だな、自分は何もできないなと自分を責めてしまって、精神的に大きな負担が警察官としてはありました。でも被害者の方の精神的なショックはそれ以上に大きいと感じました。

江口: 新潟県ではどんな事件があったのか、一例でもお話しいただけると。

福井: 警察に届出された事件しか把握していませんから、泣き寝入りされている方はいます。認知した事案は氷山の一角です。自宅に侵入されて被害に遭った方は多いようです。新潟では鍵をかけないお宅もあったりするので。

江口: 鍵が開いているところに侵入して、ということですか。

福井: 夜、夏場だと窓を開けたまま、無施錠のまま寝ていて侵入されてという被害です。そのうち約4割の犯人は被害者が知っている相手というものです。

江口: 先ほど加害者が親という話もありましたけれども。

福井: そういう事案もあるようです。それで余計に届出ができないという事情があると思います。

江口: 分かりました。高野さん、弁護士として、もし加害者から弁護してくれと言われたらどうされますか。

高野 断れる場合は断ります。断れない場合は国選弁護人制度により名簿に従って割り当てられます。順番が回ってくると簡単には断れないので引き受けることもあります。

江口: 被害者支援側だけれども、加害者側の弁護をするということですね。

高野 そうです。

江口: 複雑ですね。

高野 そうですね。被害者に加害者側から慰謝料をお支払いして示談をしてくださいといったことをすることになるわけですけど、辛いですね。

江口: 小林さんのお話を聞いて、率直な感想をお願いします。

高野 実際に性犯罪の被害に遭うと辛いのだな、ということを改めて教えていただきました。出された本、2冊とも拝読してそのときも感じましたけれども、今日改めて感じました。私はここ数年のうちに性犯罪の被害に遭った方の相談をいくつか受けたのですが、どの方も犯罪に遭ってから何か月も経って、中には1年以上も経って精神科に通院して治療を受けていると仰っていました。それだけダメージから回復するのが難しいのだと感じました。

もう一つは、性犯罪被害に遭った方に対して自分たちは無力な存在だとも感じました。小林さんのお話に「寄り添ってくれる人がいたら、言っちゃ悪いけど被害者支援センターはなくてもいいし、警察もなくてもいい」という言葉がありました。その中に弁護士は出てきませんでした。"なくてもいい存在"ですらないのが弁護士かなと。

江口: 小林さん、弁護士に触れていらっしゃらないのは犯人が捕まらないから裁判に至っていない、ということになるわけですか。

小林: 私、今、弁護士事務所で働いているのでいなくなると困る…というのは冗談ですが、特に意識したつもりはなくて、弁護士について無意識のうちに言わなかったということは、やはり自分の身を守るためなのかもしれない。

江口: このつどいが始まる前に打ち合わせがありました。講演の中に男性が隣にいるだけで「うわっ」と思うときがある、とありました。打ち合わせのとき、僕は小林さんの隣に座りました。コーディネーターとしてパネリストの良さを引き出そうと色々探るためでした。正直なところどうだったのですか。こういうことも嫌いでしょう。

小林: いや、そんなことは。

江口: そうですか。僕は楽屋でちょっと乱暴なしゃべり方をしました。そうしたら小林さんが「ちょっと一人にさせてもらえませんか」みたいな感じになって、何か言いすぎたかなと正直思ったのです。

小林さんから色々話がありましたけれども、僕は理解なんか一つもできていないのです。なので逆に僕は、勉強の意味も込めてコーディネーターを務めようと思います。何も分からないと支援しようと思っていて逆に傷つけていたりすることもきっとあると思いますし。

小林: 江口さん、最初に控え室に入ってこられたとき「おとといはエロティズムでああだこうだ、ついさっきまでも性を楽しく語ろう、みたいなことをやってきたんですよ。性だらけです」というのが第一声でした。

電車の中吊り広告の言葉が気になった時期があります。自分でレイプという言葉を口にするまでずいぶん時間がかかっているのです。世の中の人は性を楽しむものとして見ているけれど、自分は到底、もう楽しめる状態にはなかったので無神経に楽しんでいる人に対して嫌悪感があって、嫌いとは言ってないです。嫌悪感があって、江口さんが入ってきたときに怖いなと思ったのは確かです。ところが話をしていくうちに、その誤解が解けていく様子が分かるのです。私、今、性犯罪・性暴力ということの質問をいただいたのですが、たくさんの被害者とやり取りをしていて、言葉に非常に敏感になっている人が多いのです。私自身もそうでしたが、例えば私の本のタイトルも『性犯罪被害にあうということ』『性犯罪被害とたたかうということ』というタイトルで性犯罪という言葉を使っているのですが、多くの被害者たちは性犯罪という言葉を結構嫌がる傾向が強いです。

江口: それはなぜでしょう。

小林: 「犯罪」という言葉が警察マター、弁護士マターにならないと裁判沙汰にならないと、犯罪という認定を受けないことにはその犯罪に引っかからない。自分たちは言えていない、打ち明けられない以上、犯罪の中に入れていないと思っているのです。性犯罪・暴力という言葉で何とか救い出すようにしてくれないと困ると言う人たちが多い。だから性犯罪という言葉を使う。私も当初は「小林さん、どうして性犯罪って使うの。私たちは性暴力がいいんだけど」という御意見を結構いただいたのです。

ただ、私は社会に対して、性犯罪というところに壁があるという意味も含めて、そのままのタイトルにしたのです。その捉える側、性暴力・性犯罪被害に遭った人たちの過敏さ、敏感さも知っておいてほしい。知った上で発言してほしいという思いで指摘したのです。

江口: そうでしたか。ありがとうございます。進行の中でも仮に「違うわよ」というときは素直に御指摘ください。

今日は会場に学生さんたちが来ていらっしゃるので、ちょっと感想を聞きたいと思います。メモをとっていますね、どこから来ましたか。

会場1: 燕市から来ています。

江口: 学生さんですか。

会場1: はい。

江口: 今日はどういう理由でここに。

会場1: 各自、自主参加というかたちで。

江口: では、自分で選んで来たということですか。

会場1: はい、ここにいる人たちはそうなります。

江口: その前に何でここを選んで来たの。

会場1: 学校から教えられました。

江口: 今日、こういう話は初めてですか。

会場1: はい。

江口: 率直な感想を。

会場1: もともと性犯罪について考えたことがなかったので、今日のこの講演を聴いて、すごく考えさせられる内容でした。

江口: 特に印象に残ったところは。

会場1: 被害者のその後の生活にも影響しているところです。

江口: なるほど。では、女性にも聞いてみます。どんな感想でしたか。

会場2: はい。今まで性被害というのを深く考えていなかったので、今日、ここの会場に来てお話を聴いて、深く考えるようになりました。一人で悩む人が少なくないという言葉に、ああそうなんだなと思いました。

江口: ありがとうございます。皆さん、大きな拍手をお願いします。

僕、ここに座って小林さんの講演を聴いていて、若い子たちが率直にどう思っているか、顔の表情とかを見ていたわけです。みんなずっと舞台に集中していたから、どんな感想を持っているんだろうなと思って実はリサーチしてみました。驚いたことに、周りに被害に遭った子がいると言う人がいました。率直なところを教えてもらっていいですか。

会場3: 性犯罪を受けた子の話を中学生のときに友だちから聞いて、でも自分が聞いたときにどう反応していいか分からなくて、もっと違う対応をしてあげれば転校もせずに仲良くしていられたのかなと、たくさん考えさせられました。

江口: ありがとうございます。

ではもうお一方。お隣の方にも。

会場4: このような犯罪に偏見を持たずにみんなで理解を深めていくことが大切だと思いました。

江口: 皆さん、大きな拍手をお願いします。

小林: 彼女のお友だちと、もしちょっとでも連絡が取れる機会があったとしたら、例えば小林美佳という被害者の話を聴いてこんなことを感じた、と伝えてくれると嬉しいです。今、話してくださった人が苦しんでいる、思い返して覚えていてくれて、涙を流してくれているというのがそのお友だちに直接伝わらないのは残念だけれども、いつかどこかで伝わるといいなと思いました。私は彼女のお友だちではないけれども、自分の友だちがそういうふうにしてくれたらと感じたので、本当にありがとうございます。

江口: ありがとうございます。「性犯罪被害者支援を考える」というテーマについて中曽根さんにあらためてお聞きします。センターでは交通事故のほかにも性犯罪なども含めて支援されているのですか。

中曽根: はい、平成18年にセンターは設立されました。翌19年11月からは面接相談と交通事故の被害者の御遺族の自助グループを始めました。

平成20年1月からは病院への付き添い、裁判所への付き添い、被害者の方の代わりに代理傍聴をする等の直接支援を始めました。NPO法人になった後、現在の公益社団法人になりました。平成23年3月15日からは、犯罪被害者等早期援助団体という公安委員会指定の団体になりました。

公安委員会指定の早期援助団体とは、事件が起こり、その事件の被害者や御遺族が事情聴取などに応じるわけですが、その後、被害者の了解のもとに警察からいち早く被害当事者や御遺族の方の情報がセンターに寄せられ、長期的な支援に取り組むことができるような団体です。

設立時から性被害に関する相談に応じています。電話相談も含めて見知らぬ男性からの性犯罪被害、知人から性犯罪被害に遭ったという相談、親族間、例えば父親とか兄弟から性虐待を受けている、受けていたという相談。学校の先生や大学の教授、職場の上司などからの性暴力。それから盗撮やセクハラといった性暴力などこの5年間に色々な相談がありました。

江口: 相談を受けた後は、どういう動きになっているのですか。

中曽根: 電話相談では、警察に被害届を出していないという相談を受けることがあります。誰にも言えないけれども電話相談は匿名なので、ここなら話を聞いてくれるだろう、誰かに話をしたいとかけてきてくださっていると思います。

江口: 性被害に遭った人と直接会ってケアしていく支援は、今、新潟には。

中曽根: それもやっています。

江口: それはまだ、わずかですか。

中曽根: そうですね。数は多くありません。例えば、警察へ付き添っていくとか。また、裁判になると犯人=被告人と顔を合わせるのが嫌なので、裁判の様子を知らせてほしいと代理の傍聴を頼まれる場合もあります。

江口: そういうものも支援になるわけですね。

中曽根: そうです。今は「きちんと罪を償ってほしい」「被害に遭ってから今日までのことを話したい」、あるいは裁判で被告人が言っていることは違うのではないかということを法廷の中で述べることができる被害者参加制度もできました。裁判で、意見陳述で被告人に自分の今の状況を話す、処罰感情を話すときの付き添いもさせていただいています。性被害に遭われた方の場合は遮蔽措置やビデオリンクという方法で傍聴席からも被告人からも姿を出さないかたちで証言ができるのですが、そのときの付き添い支援もしています。

江口: そういうところにたどりつくまで、例えば、被害に遭った、裁判も終えた。だけど傷は消えない。そうした思いで生活している人の支援には何かあるのですか。

中曽根: 裁判が終わったからといって心の傷が消えるわけではありません。被害に遭われた方にはずっと波があると思います。少し状態がいいかなと思うとまた気持ちが沈んでしまうこともある、その繰り返しだろうと思います。電話をかけていただけるエネルギーがある方には電話でお話をする、あるいは、来ていただける場合はゆっくりと話をお聴きしたりしています。

江口: 性犯罪に関して言うならば、相談窓口はほかにもありますか。

中曽根: 警察相談もあります。

江口: 福井さん、そういった窓口。あるいは自助グループみたいなものは。

福井: 警察には自助グループというのはないです。

江口: そうですか。

福井: 個人情報保護もありますので、被害に遭った人はこんな人がいますということはお教えできないので。

江口: 自助グループがどこかにあるという情報は。

福井: まず支援センターにおつなぎして、という形になるかと思います。

江口: なるほど。私の経験をちょっと話します。刑務所に慰問に行ったときのことです。受刑者は全員坊主頭なのだけど一人だけ髪の毛が伸びている。その理由を聞いたら、「彼は間もなく出所です」という看守の説明でした。なるほど、社会に復帰するために準備しているのですねと続けたら「彼はまた半年後に戻ってきますね」と言うわけです。何でそんなことが分かるのですかと聞いたら「彼はエレベーターの中で女の子と2人きりになっちゃうと襲っちゃうやつなんです」。だから行ったり来たりしているわけですと。ということは、被害者はどんどん増えているわけです。

相談できるところは、支援センターぐらいしかないということになってしまうのでしょうか。

福井: 警察では「女性被害110番」(名称は自治体により異なる)相談を各都道府県が実施しています。性犯罪の捜査、相談電話窓口を警察本部に設置し、女性警察官が担当・受理しています。被害に遭って、警察にすぐ届出できるという方は数少ないと思うのです。まず体が心配で病院に行く方など色々かと思うのですが、新潟県産科婦人科学会にもお願いして、もしそういう被害に遭われた患者さんが来たときには御本人の同意を得て、警察にも届出するようにとお願いをしてネットワーク作りはしています。警察だけではなく、センターに電話が行く場合もありますし病院から入ってくる場合もあると思います。とにかく、どこかに訴えてもらって線としてつながっていってくれたら、その先の支援につながっていくと思うのですけれども、一人で悩んでいる方のほうが非常に心配だなという感じがします。

江口: 生々しい話をしてしまいますけれども、性犯罪を受けました。ひょっとしたら精液が入ったかもしれない。消毒だけでは済まなくて妊娠してしまったといった相談はありますか。

福井: あります。警察に届出していただいた場合、妊娠や性感染症、それから体内に証拠物が残っている場合が多くありますので身体への負担、御本人の不安感を取り除くためにも一刻も早く病院で診察をとお勧めしています。特に妊娠については、被害から72時間以内であれば緊急避妊薬を飲むと98パーセント程度、妊娠を避けることができるとされていますので、緊急性を重視した対応をとっています。

ただ、いきなり「産婦人科に行く」と言われても御本人は動揺していると思います。まず御本人に、受診する必要性を十分に説明する。御本人の希望する病院があるのか、女医がいいのか。例えば、自分の近所の病院は嫌だとか、少し遠いところがいいとか、なるべく希望に合うような病院を産婦人科の先生たちとのネットワークで連絡を取って探します。御本人から病院に事情を説明するのはなかなか難しいと思うので、合意をもらったうえで警察から「こういう被害に遭われた患者さんです」と説明し、担当する先生が分かってくれるかたちでお願いしています。

病院の診察による初診料や診断書料、緊急避妊の措置、性感染症の検査費用は警察で負担できる制度もあります。担当の警察官に相談してもらえばと思います。

江口: 72時間以内に病院に行けない人も相当いるでしょう。妊娠したことも気付かないまま何か月も経っていた、中絶もできないぐらいまでになってしまったというのは。

福井: 実際ありますね。私の担当した事件では小学生が妊娠してしまって。

江口: 小学生。

福井: 小学校5年生の産婦人科での診療に立ち会ったことがあります。中絶することはできたのですけれども、妊娠から何か月か経ってしまった頃でした。

江口: どうしたらいいのですか。

福井: 新潟の県民性として一人で耐えてしまうところもあるでしょうが、やはり勇気を出して誰かに相談するのが一番いいと思います。一人で悩んでいると、特にこの被害の場合には妊娠、性感染症の心配もあるということです。こちらの会場にいらっしゃる皆様のところに、もしそういう相談や話がいったときには、まずは病院などへの受診を早めにお願いしたいと思います。

江口: 小林美佳さんが話してくれました。被害に遭った話を聴いてくれる、側にそういう人にいてもらうことが一番のケアになりますと。同時に、被害に遭った人もある程度情報を知っていたほうがいいと思います。相談を受けたら、僕だったら「72時間、3日間、その間であれば何とか妊娠しないで済む可能性が98パーセント」と伝えると思います。

福井: そうですね。緊急避妊薬を処方してもらって服用する、早い時間であれば確実にということです。

江口: ちょっと別の角度で話を進めましょう。高野さん。先ほど僕が体験した刑務所での話を紹介しました。半年後にまた戻ってくる。性犯罪は再犯率が高いイメージがあるのですけれども実際にはどうなのでしょう。

高野 私は性犯罪を専門でやっているわけではないので、インターネットで調べてみました。『犯罪白書』を法務省が毎年発行しています。その平成18年版がネット上に公開されていました。平成12年から、刑務所を出所した人が5年間のうちにまた罪を犯したかどうかを調べた結果が載っていました。全犯罪の再犯率が約 40パーセントで、性犯罪で刑務所に入っていた人の再犯率は11~12パーセントでした。

罪を犯しても、執行猶予付きの判決があります。3年とか5年の執行猶予期間中、何も悪いことをしなかったら刑務所に入らなくてもいいという制度です。そういう判決を受けた人が、その5年間のうちにまた罪を犯したかどうかを調べた数字は全犯罪平均で10パーセントちょっと。性犯罪の執行猶予の人の再犯率が4パーセント前後。皆様も御自分で調べていただければと思います。

江口: 全ての犯罪の再犯率より性犯罪のほうが少ない数字ですね。

高野 はい。『犯罪白書』にはその少ない数字が載っていたのです。しかし、性犯罪の場合は犯罪として検挙されない件数が相当あるわけです。小林さんの2冊目の本『性犯罪被害とたたかうこと』の中に約3,000人からの連絡があり、そのうち警察に相談した人は120人、そのうちさらに裁判までいった人は30人という数字が載っているように。

警察に行かない人が多くて、警察に行っても誰が犯人か分からない場合もあって、それで再犯率が低く出ている可能性もあるという指摘もあります。ですから本当に100パーセント犯罪が認知されて、100パーセント犯人が捕まった場合の再犯率が他の犯罪よりも低いのか、同じくらいなのか、もっと高いのかは今のところの調査では分からないわけです。

江口: 一概にデータを鵜呑みにしないほうがいいという面があるわけですね。

高野 一般には性犯罪の再犯率は高いという意識が広まっていると思いますけれども、それは正しくないかもしれないということも頭に入れてほしいです。

江口: 正直なところ実体が分からない。分からないところを手探りでやっているのが実態かもしれない。性犯罪被害に遭ってしまうと「あなたがそんな格好をしているからでしょう」と、被害者なのに被害を誘発したのはあなただ、みたいな話を聞くのですが。小林さん、どうなのですか。

小林: 強姦神話と言われるものがどうやらあるようです。

江口: それは何ですか。

小林: 被害者がそういう格好、例えば、ミニスカートをはいていたからいけないとか、再犯率が多い加害者は突発的に性欲が抑えられなくてそういう犯罪をするとか、何項目か挙げられているのですが、それは全部間違いという意味の項目分けです。「あなたがそんな格好をしていたから悪い」「そんなところに行ったから悪い」というのは、意外と聞かない。そういうふうに言われる人は、私のところに声を届けてくれた人の中ではわずかです。

性犯罪や性暴力の被害にあった人は、被害に遭った直後から「自分がいけなかったんだ」となぜか思ってしまっている。だから、何を言われても「あなたが悪かったんでしょう」と社会が言っているように聞こえている人たちがとても多いと思うのです。私の場合も、あの公園の周りを通ったから悪いと思ったのです。だから通った私が悪いのだけどね、と前置きして話をしていたこともあります。でも実際には、見知らぬ人からの犯罪の場合は少ない。内閣府の発表した調査だと、性犯罪のうち6割は顔見知りからの犯行です。

例えば、一緒に飲みに行って泥酔してホテルに行ってとなると、泥酔した自分が悪い。「一緒に飲みに行ったんでしょう」と。上司に無理やり誘われてキスされたとか、強姦されたと訴えても「上司の付き合いに乗ったんでしょう、電話の誘いに乗ったんでしょう」と言われることは多いと思うのです。だから顔見知りの場合は、確かにそういうことを言われるケースがあると思います。

江口: そう考えると、強姦罪と強制わいせつ罪はどういった範ちゅうになるのですか。

高野 性的な行為を行って相手に嫌な思いをさせるようなことをすれば、それは強制わいせつになります。ただ、強制わいせつというくくりは広くて、性的な行為の中の一部に姦淫(かんいん)行為があったらそれは強姦罪。姦淫する目的で行動したけれども姦淫までは行かなかったら強姦未遂ということになります。その犯人が頭のなかで何を目的としていたか。既遂になったら強姦罪ですけれども、ならなかった場合は頭の中でどう考えていたかによって区分するしかないと思います。

江口: 頭の中で考えていたら、もう強姦未遂になってしまうわけですか。

高野 頭の中でどのような目的を持って行動したか。行動がなければ犯罪にならないわけです。

江口: 強姦しようという目的で未遂で終わったら、それは強制わいせつ罪に入らなくて強姦未遂罪に入るということなのですね。

高野 そうです。

江口: 小林さんの講演に、色々支援をしてもらいたいという項目に「話せる人がほしい」というのがありました。もうちょっと具体的に言うと3,000人の中からこういうものがあると支援はスムーズにいくのでは、こういうことがあるといい、こういうふうに世の中が変わればいい、というのはありましたか。

小林: 世の中がこう変わってくれたらいいというのはありましたが、発展的、具体的となるとはっきりは分からない。聞けば聞くほど分からないし、何なのだ、と思うのは江口さんと同感です。ただ、今の法律の話でも、強姦、強制わいせつのくくりが色々ありますが、男の人には当てはまらなかったりするわけです。男の人は同じようにされてもおそらく強姦罪はあり得ないでしょう。

そうすると、どうしたらいいんだろうと皆様、考えれば考えるほど深みにはまっていくと思うのです。でも、もっと早い段階でこういう話を知っていれば、聞いていれば、情報を身につけていれば対処の方法が分かると思うのです。私が困ったのは、やはりどうしていいか分からない。誰に助けを求めたらいいのか分からない。72時間以内に飲めば妊娠を防げる薬があったのを知らなかったとなると、情報不足がどんどん悪いほうに行ってしまうので、その情報をできるだけ早い段階で皆様が身につけておける世の中にならないといけないと思うのです。私は、それは教育だと思っています。

江口: 学校の授業なのか課外授業かはさておき。そういうことになりますよね。

小林: そうですね。例えば宮城県、京都府など教育にとても力を入れてくれている地域もあったりするのですが、それは稀です。私は今、東京に住んでいるのですけれども、自分が通っていた小学校にこの情報は大事だと思って教育の中に取り込んでくださいとお願いに行ったことがあったのです。何の授業でもいいから性暴力というものの存在とその後の対応、してはいけないこと、受けた場合、ということを入れてくださいと。副校長と保健の先生が対応してくれて「性暴力の教育をすることは非常に危険です。男の子たちを触発してそっちの方向に導く可能性がある。いじめの教育で暴力はいかんということ、性教育で体の仕組みもやっているのでわざわざそんな教育をする必要はないでしょう。都のマニュアルどおりやっています」と返ってきて、教育の場はすごく消極的です。

江口: なるほど。

小林: 今日ここに足を運んでくださった方は、誰かに相談をされても情報を持っているので、ある程度の情報を探し提供することができると思うのです。110番、119番にかけるように連絡できる場所を探す、情報を自分たちが持ち合わせていることは大事だと思います。

江口: 被害者を増やさないということを考えた場合、犯罪者を減らさなければいけないという大きな話になってしまう。今日のつどいを性被害者をどう支援するかにくくって考えると、もっと情報を共有できる場所、機会が大事。

小林: 支援センター、警察、弁護士それぞれの活動が力を見せてくださって情報発信の場として、こんなにたくさんある。

江口: 教育の場でも取り組めればとても早いですよね。

小林: ぜひ、新潟県教育委員会に頑張っていただけたらと思います。

江口: 再び福井さんから警察として今後、どんな取り組み、支援をしていくのかお聞かせください。

福井: 私も性犯罪捜査に携わって被害に遭った方が来たときに警察の手続き、警察でできる支援をPRするのですけれども、こういう公の場で事前に知っておいていただくという機会はあまりなかったような気がします。

例えば、普通の方は御自身が直接被害に遭わなければ、テレビのドラマの中のこと、自分は被害に遭わないものだと全く興味を示さないところがある。被害に遭って初めて、こんなことが本当にあるなんて知りませんでしたとなる。警察ではこんな支援もしていますよと話をして「いや知りませんでした」というのが実際だと思います。ですから事前にPRすることは必要です。

江口: 県警と我々NAMARAは一緒に手を組んで、薬物乱用防止推進団体になっています。そこもお金がないのですが、前回はデザインを勉強している専門学生に啓発のポスターを作ってもらったわけです。薬物乱用は若い子たちにまで広がっているので、どうやったら薬物乱用が防止できるかみんなで考えて自分たちでポスターを作ることが啓蒙活動になるわけです。様々なポスターができあがって、どのポスターを採用しようかという動きも報道対象になりました。工夫をすればお金がなくても何かいろいろ展開できます、ということです。

福井: 薬物乱用は公にPRできても性暴力、性犯罪というとタブー視されがちですが。

江口: 薬物乱用も大変です。ダルクという薬物支援団体が支援拠点を作ろうとしたら、地域住民から反対されるような状況です。

福井: PRを続けることは非常に大事で、それが本当の理解につながっていくのかなと感じました。

江口: 弁護士会は、例えば、支援委員会は具体的にどんな仕事をされているのですか。

高野 弁護士会に被害に遭った人から弁護士に相談したい、誰に相談したらいいか分からないという話が来たとき、すぐに適切な弁護士を紹介できるようにしておく必要があるということで相談に乗りますという弁護士の名簿を作ってあります。弁護士会事務局ではその名簿をもとにして紹介することになっています。

その名簿は、一般の名簿と特定事件の名簿と分けてあります。特定事件というのは主に性犯罪を念頭に置いています。性犯罪に遭った人は心の被害が大きいので、そういうことについての理解を深める研修を受けた弁護士を特定事件名簿に載せてあります。性犯罪被害の方の相談依頼があった場合は、その名簿に載っている弁護士を推薦するということになります。1回目の相談は無料で応じることになります。また、弁護士が話を聞いている最中に不適切なことを言って、また心を傷つけてしまうことがないようにするために研修会を開いています。

江口: 弁護士も不適切なことを言ってしまうことがあるのですか。

高野  犯罪被害者の方にアンケートをとると「相談に行った弁護士にひどいことを言われた」という回答が来ることもあるので、そういうことが無いようにしようと研修をしています。

江口: 被害者対応についての情報は県警もセンターも連携はとれているのでしょうか。

高野  そうです。今年初めに正式に協定書を結んで、こういう仕組みで支援センターに相談に行った人が弁護士に相談したい場合は、弁護士会に連絡が来る。

江口: ということは結構、地盤ができてきているのだから、後押しをもうちょっとやれば新潟から色々な先進的なことができるかもしれない。そこで中曽根さん、にいがた被害者支援センターはどれだけ知名度がありますか。

中曽根: 江口さんは御存知なかったですよね。

江口: ごめんなさい。今回の仕事で初めて知りました。

中曽根: それなりに広報活動をしてはいるのですけれども、5年経っても認知されていないというのが正直なところだと思います。多分自分たちが普段生活しているなかで、自分は犯罪には遭わないと思っている方がほとんどだと思うのです。私もそうでした。テレビのニュース等を見ていてああかわいそう、大変だなとは思うけれども、それは自分の身には起きないだろうと思っている。だから広報活動をしていても、意外と耳に入ってこないのではないかなと思います。

江口: だから小林美佳さんの存在は大きいです。こういうイベントがあることによって、こういうつどいがあるということで、新潟にも性被害を受けた方がいらっしゃると明らかになってきたわけです。小林さんの他にも、こうした場に顔を出している人はいらっしゃるのでしょうか。今は、小林さんが象徴的にいますけれども。他にもいてもいいなと思っていたら新潟にも性被害に遭って、顔は出せませんけれどもステージ上に出ても構わない、という方も出てきたのです。性犯罪の話をどんどんPRしていかないといけない。一緒にやりましょうという人がこのイベントがきっかけで出てきたのです。

小林: 新潟にそういう方が現れてくださったら私も楽になる、というと語弊がありますが私一人だと「また小林でしょ」みたいになりかねないのでたくさんいるということを知っていただきたい。

犯罪被害がどうしても他人事になってしまうのもやむを得ないと思うのですが、今日、皆様が情報を持って帰るだけで違うのと、こうした情報は与えてもらえないものだと諦めないでほしいと思います。

例えば、72時間以内に飲めば妊娠を防げるアフターピルという薬があります。ところが処方してくれる病院が本当に少なくて、私も東京で3、4件、被害者の子を連れて回りました。しかも保険が使えなくて2粒で2万1千円もするのです。そんなお金出せないよと思うじゃないですか。せっかく情報を知っていてもその2万円は一体誰が出すのか、ということになる。警察の方が教えてくれたように、初回の治療費は負担してもらえる場合がある。警察に被害届を出すのが条件ですが、逆に、被害届を出さなくてももらえる方法があるかもしれない。まず病院に行き、その後警察に行ってお金ももらって、その後は1回無料だったよねと言って支援センターに相談に行くとか、今度は弁護士につないでもらったり、法テラスに相談に行くとか。

被害者側も支える側も、情報をうまく使っていかないといけないと思うのです。与える側はいっしょくたに与えることはできないかもしれないけど、たくさんの情報を持っているというのは非常に大事なので、今日、1回で終わってしまうとここの部分しかもらえない。でも次に出てきた被害者の方が伝えてくれることはまた違って、それと一緒にやる主催者側の人員も変わってくると、また違う情報が与えられるということでぜひずっと続けていただいて。

江口: 必ず、われわれはこれを継続してやっていきます。

小林: 多分、新潟の方が楽になるのではないかと思います。

江口: 最後にこれを続けていく決意を聞いていきたいと思います。

高野 毎年、このフォーラムをやってきました。来年もこういう催しはあると思いますので参加していただければと思います。

被害に遭った人が、相談先を探す窓口は弁護士会のほかに「法テラス」というところがあります。日本司法支援センターが正式名称で、略称法テラスです。法テラスに連絡すると、犯罪被害の支援について経験、知識がある弁護士を紹介してくれる制度にもなっていますので、利用していただけたらと思います。

江口: 福井さん、今日は若手も来ています。トイレの近くに若い子を見かけたので、学生さん、と聞いたら「警察です」。何で警察から、と言ったら「勉強のために来ました」って。小林さんの話を聞いてどうだった。「とってもためになりました」と生き生きとしていました。

福井: 警察では被害者支援連絡協議会の事務局として、警察を中心に各関係団体と連携を密に保つために会議を開いたりしています。そこで今日、こうした話があったことをPRしてまた盛り上げていきたいと思っています。

江口: またやりましょう。多分、自分たちだけで何かやろうとすると限界があります。

福井: 警察だけでは盛り上がらないので、連絡協議会などを通じて色々な団体の方の協力をいただいて、それで盛り上げていけたらと思います。

江口: 中曽根さん、お願いします。

中曽根: センターは民間の援助団体ですので、また色々お声をかけていただけたら考えていけます。

江口: 逆に、こういうことをお手伝いしてほしいということはないですか。精一杯やっていらっしゃいますけれども、もっと活動を円滑に進めたいと思ったときに、この会場で聞いている方が興味を持たれている可能性、何かお手伝いしたいと思っている方もいらっしゃるかもしれない。中には連携を取りたいと思っている団体もいるかもしれない。そういったところに何か呼びかけがあれば。

中曽根: そうですね。先ほど小林さんが仰ったように、被害に遭われた方は同じようなことを仰います。この人なら話してもいいなと思う人を見つける「動物的勘がはたらく」と言うのです。逆に、今までいい人だと思っていたのに自分にとっては良くないんだ、自分の気持ちを理解してくれないというのが被害の後に分かる場合もある。もし、皆様の周りにそういう被害にあった方がいたら真摯に向き合ってほしい。逃げないで話を聴いてほしいと思います。

センターも研修を受けた相談員たちが一生懸命やっています。被害届を出す前に電話をかけてこられる方もいますが、電話の向こうで信頼できる人なのか、話していい人なのかを探っている様子を感じるときがあります。センターでは電話を取った者がその方の気持ちが動揺しないよう、ある程度冷静に、その人の話に向き合ってきちんと聴くように心がけています。お話をしていく中で、警察に被害届を出すかどうかも含めて、相談をしてこられた方たちが御自分で考えていくのではないかと思います。

センターは弁護士会との締結もいたしましたし、臨床心理士会とも無料のカウンセリングをセンター内で3回ほど実施するという締結も近々行うことになっています。それから法テラスとも、被害者の方が情報提供してもいいということであればセンターのほうにすぐにつながるようなかたちを採っています。

そういう意味でも皆様も一人ひとり、被害に遭われた方を理解しようと心がけてもらいたいと思います。

江口: ここで会場の方で、実は私もそういう支援をしている団体です、という方、いらっしゃいますか。性犯罪ではなくても、犯罪の支援とかやられていて勉強のために来ているという方はいらっしゃいますか。そういうところも情報としてお知らせしてもらえればと思います。簡単で申し訳ないのですけれども情報交換をお願いします。

会場5: NPO法人でDV、性虐待とかに遭われた女性の相談を行っている団体です。

団体名は「女のスペース・ながおか」です。新潟にも「女のスペース・にいがた」というところがあります。

江口: 僕から一人、紹介したい人がいます。せっかくだから壇上に来ていただいて、どういった活動をされているのかを。

月乃: ありがとうございます。私は新潟市で心身障害者のパフォーマンス集団「こわれ者の祭典」というイベントをやっています。色々な病気を持ちながら生きていこう、そこから踏まえて「生きづらさを持ちながら生きていこう」という主旨でメッセージ活動をしています。私たちは生きづらさを持ちながら生きる活動の一環としてインターネットラジオをやっているのですが、そこに小林美佳さんに御出演していただいてインタビューを放送した経緯があります。「オールニートニッポン」と検索していただくと「月乃光司のハート宅配便」という番組が出てきて、オンデマンドコーナーで小林さんのインタビューが聴けます。生の声だとリアリティがあるので、聴いてみてください。

私は性被害、性暴力を受けた人と、アルコール依存症、薬物依存症の当事者が集まる自助グループ・中間施設でお会いする機会があります。私も当事者の一人です。特に若年の薬物依存症者で性暴力を受けた人の確率がすごく高い。なぜかというと肉親からの性暴力に声を出せない方々が生きづらさを持ち、出す場所がないがためにアルコール・薬物に依存し、それが次の生きづらさに派生する人がある程度いるのです。残念なことですが現実の話です。支援を考えるということでしたら、薬物依存症、摂食障害になる人にも性犯罪被害を受けた方々がいることをぜひ皆様、気持ちに留めておいていただけたらと思います。

自助グループ・中間施設で出会う彼女、彼らは、性被害を受けたときに話すところがなかったのです。もし犯罪被害を受けた直後に人に話せたら、相談できたら、依存に至らなかったのかもしれないと思います。社会的啓蒙が浸透してうつ病とHIVは前と比べたらかなり言葉として出しやすくなりました。病気と性被害を受けたことを比べるのは大変申し訳ないのですけれども、性暴力も言葉と活字が日常的にどんどん出るようになれば「私は性被害を受けた」と言いやすい環境になる。そうしてアフターピルのこと、相談窓口がここにあることが伝わる。そういう機会がどんどん増えたらいいと思います。

今日、私が美佳さんの講演の中で一番印象に残ったのは舘ひろしのエピソードです。支援を考えるとはユーモアです。ユーモアを持ったお巡りさんが彼女にとって最も重大なキーパーソンだったから。

江口: どうもありがとうございました。新潟にも色々と相談できる場所があり、僕の中では何かあったときに相談できるのが月乃さんだったりするわけです。結局、講演の最後の話に行き着く。一人ひとりにアナウンスしていって、しかも継続していって広がる人間関係が大事ということになります。

性犯罪というけれども全部つながっている。虐待からつながっていくケースもあったり、逆に性犯罪から薬物に行ったりと、関係性は混沌としています。だから側にいる人と信頼できる関係を築いておくことが最終的に自分を救うし、相手を救うことになるのだろうなと感じました。

間もなく時間です。最後に小林さんから一言いただいて。

小林: 日本の社会が性暴力に注目するようになったというのも、私が被害に遭った時代よりはほんの少し変わってきているのかなという気もします。ただ、一方で、地方に行くたびに思うのは、性暴力は言ってはいけないこと、隠しておくべきこと、何でそんなこと言っているの、我慢しなさいという環境が強く残っていることです。おそらく新潟も都市部を離れるとそういう風潮があるかもしれません。

それでも時代は変わってきていて、性被害・性暴力のことを発言してもいい空気を新たに作っていくことが大事かもしれないと今日、皆様が感じてくれていたら嬉しいです。思いの丈はいただいた時間でたくさん話しました。皆様も理解を、寄り添うことを大事にしてくださっていると感じました。どうか、これからの新潟が被害に遭った人が少しでも継続して住みよく、発言しやすく、声をあげやすく、加害してしまった人が肩身狭く生きるような県になることを祈っています。

江口: ありがとうございました。できることは限られていますけれども、できる範囲でやっていくことをここで誓います。

皆様、どうもありがとうございました。パネラーの人たちに大きな拍手をお願いします。小林美佳さんに大きな拍手をお願いします。

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