■兵庫大会:パネルディスカッション

テーマ:「犯罪被害者支援のこれから」
コーディネーター:
 羽下 大信(甲南大学教授、NPO法人ひょうご被害者支援センター副理事長)
パネリスト:
 曽我部 とし子(犯罪被害者遺族の会・自助グループ「六甲友の会」会員)
 中川 勘太(弁護士・NPO法人ひょうご被害者支援センター理事)
 小野 義昭(兵庫県警察本部警務部警務課被害者支援室長)

羽下: ご紹介いただきました羽下と申します。

本日、今から1時間ほどパネルディスカッションに当てるということにいたしたいと思います。

短い口上を申し上げ、それから1時間の流れを手短に申し上げて始めたいと思います。

先ほど伊藤さんからのお話がありました。我々「六甲友の会」のメンバーとしても、全体像をごきょうだいの側から聞くというのは、ある意味では初めてのことでした。一般に、日常生活をしておりますと、こういう事件の様子は新聞、テレビなどで知ることができるわけですが、きょうのテーマであります被害者であられるということと被害者支援ということから考えますと、被害者の家族の方たちは、その後長く生きるわけです。事件そのものはその方が生きている限りご自分の中で消えることはないと、それを生きるということがどのようなことかというのは、伊藤さんの話にもありましたように、普通にしている限り人はどんどん孤立していく、ということだろうと思います。きょうだいでも夫婦でも、それぞれ感じることが違います。かかわりが違います。人とのつながりも違います。そんな中で、家族の中でも、お互いが通じるというのがなかなか難しくなっていく。しかも、その後時間が流れていく中で、人はどんどん孤立していく可能性がとても高いというように考えたらいかがかと思います。

この、人が孤立化していくということは、その人自身が生きる力が奪われていくということを意味するようです。この犯罪被害にかかわるさまざまな多種多様な方々、色々な多面的なかかわりをなさっている方々の存在は、こうした孤立化の方向ではなくて、人とつながっていき、遺族の方たちが自分自身から自分の中に力を引き出していくことに向けての支援をすること、というふうに考えたらいかがかなと思います。

本日、このパネルディスカッションはそれぞれ活動をされている3人の方にお話をいただくことにしております。先ほどご紹介がありましたように、曽我部とし子さん、中川勘太さん、それから小野義昭さんです。それぞれかかわりのスタンスは違います。また、かかわってきた活動の内容も、お仲間でもあると同時に内容が違いますので、みなさんのお話を伺いたいと思っています。

1人10分前後ぐらいお話しいただきまして、それからもう一回若干追加発言をいただいた後、コーディネーターの責任として若干の代表質問をして、話が広がることにつながればと、考えております。

可能なら会場からのご質問をと思うのですが、じっくりお話をうかがうことができなければせっかくの内容も生きないと思いますので、今回は残念ながら会場からの質問は割愛させていただきたいと思います。よろしくご協力ください。

それでは早速、曽我部さんからお話しをいただけるでしょうか。よろしくお願いします。

曽我部: すみません、ちょっと原稿を書いてきたので、読ませていただきます。お話ししたらいいのですけれども、多分まとまったことはできなくて、あちこち飛んでしまうと思いましたので、原稿書いてきました。それを読ませていただきます。

私の長男雅生は、平成8年6月9日、白昼、市街地にて全く面識のない男に背後より刺され亡くなりました。その年の12月、加害者は無罪、措置入院しますとのみ検事より電話で連絡がありました。

今、私が住んでおります明石市には、被害者支援条例の制定に向けて前向きに取り組んでいただきました。明石市は、歩道橋事故という悲しい経験をしているまちです。そのまちの明石の議会も市の担当部署の方々も、犯罪被害者の私の気持ちを時間をかけてじっくり聞いてくださいました。感謝しております。

被害者は、一番言いたいこと、聞いてほしいと思うことほど口に出せません。まるで苦い胃液が胃の底にあるようなものです。それをすべて吐き出せたらどんなにかすっとすることでしょう。歩道橋の被害者のサポートをしてこられた行政の方から聞いたことで一番印象に残っている話は、被害者の方々にいろいろ説明すると、わかりましたとの返事が返ってくる。だから、理解してもらえていると思っていたら、全然わかっておられなかった。被害者の方々のしんどい状況に対する理解が足りなかったと反省したということでした。この経験談をお聞きしたとき、なるほど、本当にそうだなと思いました。被害者は気力も失せているのかもしれませんが、わからないところがわからないのです。だから人にとりあえず「わかりました」と答えるのです。まるで高校のときの物理のテストみたいなものです。問題の意味が全然わからない。何のことかさっぱりわからん。けど、白紙で出すこともいかない。だから、何か適当に答えを書いた、それと同じようなものに思えました。

今、広く行政の方々にお願いしたいことは、支援にはお金をかけずに知恵を出し合っていただきたいということです。何かこれを言うと、財政難に苦しんでいるセンターの方からそんなこと言われては困るって、後でちょっと叱られるかもしれませんが、それはさておきということで、何か支援のために建物を建てたとしても、その建物の立派さが居心地のよさではありません。その立派な建物に、資格はあるが資質のない人を配置してしまうようなことが起きる、予算があるとどうしてもこんなふうになりがち、いわゆる箱物行政になってしまうのではないでしょうか。それよりも、個々の被害者、その一人一人が何をどうしてほしいかということを見きわめて、その一人一人に対してきめ細やかな支援が欲しいものです。

そして、資格があっても資質のない人と申しましたが、こんなことがありました。事件から2年ほどたったころ、今から10年以上前の話です。家の近くに人権擁護委員の看板を掲げてある家がありました。随分迷いましたが、思い切ってその家を訪問しました。人権擁護委員を名乗られる上品な奥様が応対に出てこられました。私は名前や住所を告げ、事件のあらましを話ししました。加害者に人権はあっても被害者に人権がないと言われていることなどを話しました。そして、お力添えをいただけるようにお願いしました。しかし、そのご婦人の口から出た言葉は、委員会でもその話が出たけれども、神戸事件、いわゆる土師淳君の事件、あれは特別なことだいうことになったと申されました。私は個人の自宅を訪問しているのであり、それ以上強く申すべきではないと思い、そのまま帰りました。しかし、そのご婦人に数日後、道でばったり出会いました。その方は、お連れ立ちになっている友人らしき人に、私のことをとても気の毒な人ですと言って、右手で右耳のあたりを渦巻いて、こういう人に息子さんが刺されたのですと、手で人を刺すしぐさをしました。私はあぜんとしました。右手で右耳のあたりに渦巻きをつくる、こんなしぐさを平然とする人が人権擁護委員なのかと驚きました。しかるべき教育も受けた方に違いないのに、それは被害者の私もひどく傷つくことでしたが、精神障害者も侮辱することだと思いました。

しかし、これは10年以上昔の話です。先日、テレビのニュース番組で、人権擁護委員会が児童虐待防止活動に取り組んでいる様子が紹介されました。一人でも多くの児童が救い出されること、また虐待をしている母親たちをも救い出されることをお願いしたい、それが犯罪抑止につながることと存じます。根気強い地道な運動になることでしょうが、気の長いご努力をお願いします。

また、最後に、県でも被害者支援の条例の制定をお願いします。例えば、明石市と神戸市の西区では生活圏が同じです。JR土山駅周辺は1市2町が微妙に入り組んでいると聞き及びます。道1本を隔てているだけで支援の差が生じるのはいかがなものかと存じます。被害者支援条例制定に向けてのご努力をよろしくお願い申し上げます。

羽下: ありがとうございました。

それでは、引き続いて中川さん、お願いできますか。

中川: ひょうご被害者支援センターの理事であり、弁護士の中川と申します。

きょうは被害者支援のこれからということでありまして、私が思うところの民間の支援団体のこれからの支援というのを1つお話しさせていただくのと、あと刑事司法、刑事裁判における被害者の支援といいますか被害者の地位のあり方について1点、その合計2点のお話をさせていただきたいと思います。

まず、私はひょうご被害者支援センターの理事で、弁護士というのは実は被害者支援は本業ではないです、というより全く無力であります。先ほどの伊藤さんのお話、あるいは曽我部さんのお話にありましたような被害者の方、ご遺族の方が受けた深い心の傷、あるいは大きい悲嘆、心が麻痺するような衝撃、その後にやってくる激しい怒り、そうしたものを前にして、我々弁護士ができることはほぼ何もないと言っても過言ではありません。我々は、単に一般の方より若干裁判手続に詳しいだろうということで生業にしているだけの職業ですから、必ずしもそうした被害者の方のご支援をするということについては専門でも何でもないわけです。

ただ、仕事の性質上、どうしてもそうした事件、事故があった場合に被害者、ご遺族の方と接することはしばしばあるわけです。そして、そうした方々に何か力になることがあるだろうかと考えた場合に、先ほど申し上げたように弁護士の力というのは、ほぼ何もないと言っても過言ではありませんので、どうしてもチームを組む必要がある。例えば、心のケアの問題につきましてはカウンセラーの方、あるいは精神科医の方、臨床心理士の方、あるいは生活面の支援、あるいは公的な機関への同行等の日常の付き添い等についてはボランティアの方の支援、そして何よりも被害者、ご遺族の方ご自身が支援をしておられる、そうした被害者、ご遺族として、別の被害に遭われたご遺族の方を支援している方も複数おられまして、そうした方々による支援、例えば六甲友の会のような自助グループをご紹介するとかそうしたこと。そうしたネットワーク、あるいはチームといったものによって被害者の支援を可能にする。これが、弁護士が加わったひょうご被害者支援センター、あるいは全国にある民間の被害者支援団体の存在意義だろうと考えているわけです。

それで、そうしたセンターの、できて10年ぐらいになるわけですけれども、かねてからの課題として、初期のアクセスの問題がありました。何かといいますと、事件、事故が起きてから早い段階で被害者の方、あるいはご遺族の方にどのようにして接触するのかという問題です。当然のことながら、被害者の方、ご遺族の方というのは、通常はそうした経験があるのは初めてでありまして、犯罪被害に遭われた場合、あるいはご遺族になられた場合にどこに連絡して、だれに支援を求めていいのか精通している人はまずいないわけです。ですから、待っていてもセンターに連絡がかかってくるわけではないわけです。ただ、押しかけるようにセンターの方から連絡をするのは、これはまた、ただでさえ傷ついておられる被害者、ご遺族の方に対して、心に土足で入り込むような、そうした二次被害を与えかねない、そうしたジレンマを抱えておりました。

こうした点につきまして、昨年、平成21年に当センターが公安委員会より早期援助団体という認定を受けました。これは何かといいますと、警察から、一定の事件、事故が発生して、被害者の方の同意が得られれば、その情報を民間のセンターに提供する、こういう仕組みです。当然のことながら我が国では、事件、事故が起きた場合に最初に接触するのは警察であります。その警察のほうで、被害者あるいはご遺族の方のご意向をお聞きして、必要と判断し、かつそうした被害者、ご遺族の方が同意すればセンターのほうに情報が入り、早い段階でのアクセスが可能になる、そうした状況に昨年、平成21年からなったわけです。

そして、現在、当被害者支援センターは早い段階で警察からそうした情報の提供を受けて一定の支援をするという活動に踏み出しているわけですが、ここでやはり最大の問題として挙げられますのは、生活支援とか当初の犯罪直後の支援に対するマンパワーを初めとする資源の不足であります。これは何かといいますと、裁判が始まった後の支援というのは、ある程度時間もたっておりますし、専門家も多いわけです。ただ、犯罪直後の状態、被害に遭った直後の状態というのは、例えばあるご遺族の方は何もする気がなくなって食事も買いにいけない。食料品を買いに行くのにスーパーに行くのもつらいという方もおられますし、あるいは一定の重大事件だと、被害直後にいわゆるメディアスクラム、マスコミの過熱報道によって外に出られない、家に帰ろうとするとそこにマスコミが人垣をなしている。そうした状況で生活が破壊されている。そうした方々がおられるわけです。そうした方々の支援をしようと思えば、早期の段階に介入して、弁護士のみならずそうしたボランティアの方であるとか、心の面についてはカウンセラー等の方がチームを組んで早い段階で入っていかなければならないのですが、何よりも物理的に日常生活をサポートする、例えば一緒に買い物に行くとか、あるいはちょっと近所の病院に行くのに付き添うとか、そうしたことが実は非常に重要で、かつ必要なのですが、そうした点についての支援というのがほとんどできない、必要性は認識しながらも、そうしたマンパワーも予算もないというのが現状です。

実は、内閣府等が制定した犯罪被害者等基本法ないし基本計画には、そうした生活支援の必要性、重要性はうたわれておるのですが、それを実現するための必要な個別具体的な法律がない。あるいは、先ほど曽我部さんがおっしゃったような条例がないという状況でして、したがって予算もつかない。当然、そうした生活支援をするための資源、人的資源を含めた資源がないというのが現状です。今後、当センターとしてはそうした生活支援等を含めた早期の段階での支援の必要性を認識して、それを可能にするような働きかけ、あるいは研修、あるいは実地に少しでも多くのボランティア等が支援できるようにする、これがこれからの被害者支援に必要なことではないかなと、そのように思うわけですね。

これが民間団体等の支援について私が思うことでして、次に刑事司法について、刑事裁判について思うことについても1点述べておきます。

昨年、平成21年は刑事裁判の革命といっていい年でした。何かというと、皆さんご承知のとおり裁判員裁判が施行されたわけです。それとは奇しくも同時にですが、被害者参加制度というものも施行されました。厳密には被害者参加は平成20年12月の施行なわけですが、実際に裁判になっているのは平成21年に入ってからですので、平成21年にほぼ同時に裁判員裁判と被害者参加というものが施行されるに至ったわけです。今現在、徐々にそうした運用が定着しつつあるわけですが、実はこの被害者参加という制度、一部では非常に評判が悪かったというか、反対する声が強かったのです。どこかというと弁護士会です。弁護士会の多くの弁護士にとっては、法廷に被害者の方が入って、当事者席に座って、検察官の横に当事者のように座られた上、被告人に対して質問し、一部の証人尋問をする、そして最後意見を述べる、そうした被害者参加という制度を認めてしまうと、法廷が報復の場になる、あるいはリンチの場になるといって強硬に反対した弁護士会の一部の方々がおられたわけです。そして、先ほど申し上げたように、奇しくも同時に裁判員制度が始まるということもあり、被害者の方、ご遺族の方が法廷で生の声を上げ、被告人に対して攻撃的な質問等をすることによって裁判員がそれに流されて、不当な判決、被告人に著しく不利な判決が出る、そうした懸念を呈する向きもあったわけです。

そうした反対はあったわけですが、無事にといいますか、平成20年12月に犯罪被害者参加制度が施行され、平成21年に裁判員裁判と同時に運用が始まったわけですけれども、実際にそうした先ほど申し上げた一部の弁護士の方々の懸念は全く的外れであることが判明したわけです。実際に犯罪被害者参加制度が行われたケースで、法廷が報復の場になったということは寡聞にして知りませんし、そうした事象が生じたという問題を提起されたことも実際には全くないというのが現状です。被害者の方は、当然重篤な被害であれば、内心では直接報復したいという思いを持っている方も数多くおられるでしょうし、それは人間として当然のことですけれども、それを実際の法廷で生の被告人にぶつけるほど理性がない被害者の方は、通常おられないわけです。法律のルールに従ってきちんと法律の範囲で被告人に質問し、あるいは自分の意見を述べられる。そうした理性的な法廷が現時点で被害者参加制度のもと展開されております。

また、裁判員裁判のもとにおいても、裁判員裁判で被害者参加があったケースでの裁判員の方というのが判決後に答えた記者会見等によると、被害者遺族の会の声というのは非常に胸に響くけれども、それはそれとして理性的に量刑を決めたり、あるいは評議をして判断する必要があると感じたというコメントがほとんどでして、いたずらに被害者の方の思いのみに引きずられて判決をすることはなく、実際にも現在の統計では裁判員裁判での被害者参加が行われたケースにおいて、特に量刑が重い、刑が重いという傾向はないという結論になっております。

そうした観点から見ると、先ほど申し上げた一部の弁護士が心配していたような、被害者参加が行われたら法廷が激しい感情と報復の場になって、それに裁判員が流されて不当な結果が出るなんていうことは、これは完全な的外れな懸念でありまして、実際には法廷において被害者の方は理性的にご自身の気持ち、思いを伝えられ、それを裁判員は真摯に受けとめ、かつ冷静に評議をして判決を出している。これが現時点での実態のように見受けられるわけです。

これは実は非常に貴重な成果でありまして、犯罪被害者参加制度については随分前から議論がありながらなかなか導入されなかったわけですが、実際にやってみるとそれほど問題ない、むしろ法廷で直接に当事者がそこで声を出すという、そういうきちんとした、調査裁判ではない、生の人間の血が通った法廷になるという意味で、非常に裁判としてもすぐれたものになる、そうしたことが実証できたわけですから、今後、運用面においても被害者参加制度をより拡充して、実際の被害者、ご遺族の方がより参加しやすい制度にすることによって、刑事司法をより拡充していく必要があると、このように思うわけです。

ですから、きょう私が申し上げたいこととしては、民間の支援団体としては生活支援、危機介入的な被害直後の支援の必要性、そしてそれをサポートする資源の重要性を認識することが大事であるということ、刑事司法においては、被害者参加制度というのは刑事司法をゆがめるどころか非常に有意義なものであることが立証されているので、それを前進する施策が必要である、運用が必要であると、そのようなことになるわけです。

以上、簡単ですが申し上げさせていただきました。

羽下: ありがとうございました。

それでは、引き続きまして被害者支援室長の小野さんからご発言いただきたいと思います。お願いいたします。

小野: 被害者支援室長の小野でございます。よろしくお願いいたします。

私のほうから、警察が被害者支援においてどういう役割を果たすのか、それと今後、警察の被害者支援がどうあるべきか、についてお話しをさせていただきたいと思います。

冒頭ごあいさつにもありましたように、非常に治安情勢厳しいものがあります。やはり県民、国民の皆さんは警察にいろんな要求、要望を持っておられると思います。1つは犯罪、これを抑えてほしい、という声が大きいのと、もう一つは、こういう社会ですので、どうしても避けられない犯罪が発生した場合は、やはりしっかりと警察においても被害者を支えてほしいと、こういう願いが非常に強いと思います。被害者を支える、この中には当然犯人を検挙して事案を解明して、何があったかというそういう事実を被害者の方、あるいはご遺族の方に理解していただく。こういう県民あるいは国民の皆さんの思い、我々警察は組織、全警察職員挙げてしっかりとその思いを認識して、それにこたえるべく努力する必要がある、という状態にあるのではないかなというように思います。

では、警察がどのような支援をやっているのか、あるいはかかわっているのか。これは私の考えでございますけれども、大きく分けて3つあると思います。1つは、冒頭申しました事案の解明ですね。これまでいろんなご遺族、被害者の方のお話を聞く中で、回復するステップに上がるには、やはり何があったかという事実を知りたい。これをなくしてスタートラインに立てないという声が非常に多くございます。当然警察だけで事案の解明できませんので、いろんな主要機関を含めて携わるわけなのですけれども、少なくとも初動として事件捜査を担当して、犯人を検挙して、適正な捜査をして事案を解明する、これが1つの被害者に対する非常に大きな回復に向けた支援になるのかというふうに思います。

次、2点目は、被害直後の初期的な応急処置といいますか手当、これが警察に非常に求められているんじゃないかというように思います。犯罪被害を受けて非常に混乱されている被害者、この方の傷にいち早く適切に処置をする、傷をおさえる、こういう活動が警察に求められているというふうに思っております。これはおさえる時期がずれても出血がひどくなりますし、余りいじくり回しても菌が入って二次的被害を与える。ここの部分というのは非常に難しいんですけれども、この部分を我々警察は担っているということだと思います。

3つ目は、警察だけではできない支援、いわゆる回復ですね、けがをした後はやっぱり回復していっていただかないといけない。その支援をできる民間の団体をはじめ関係機関につないでいく、こういう責務が我々にはあるんじゃないかなというように思います。当然この中には社会全体に被害者の実態を知っていただくという啓発活動ですね、こういったものも当然含まれていくと思います。やはり発生直後に一番苦しんでおられる、混乱されている、今後の見通しが立たない、こういった非常に苦しい状態に置かれている被害者、ご遺族の方をしっかりと回復するためにつないでいく、これも1つ警察の大きな役割じゃないかなというふうに思っております。

この特に3つ目ですね、この役割を果たすために、先ほど中川先生もおっしゃいました、昨年、早期援助団体の指定を受けた民間被害者支援団体、ひょうご被害者支援センターとの連携というのを新しく協働事業として始めました。本年度から相談業務、あるいは直接的な支援ですね、付き添い、法廷の支援傍聴も含めて、こういった業務をお願いする、あるいは支援員の研修をやってください、こういった業務を県警のほうから民間団体に委託をしたというところでございます。これによりまして、おそらくたくさん社会的資源とよく言われるのですけれども、被害者を支援する制度というのが現在でも多くあると思うのです。なかなか被害者の方というのはそこまでたどり着けない、どこで何がされているのかよくわからない、こういうところをぜひともパイプ役としてつないでいただきたいという期待は非常に持っております。

まだまだ半年ほどということで始まったばかりですので、実際の運用状況の検証というのはこれから必要だと思いますけれども、私がこれまで支援にかかわってきた中で肌で感じるのは、間違いなく支援が充実してきているというふうに感じております。

じゃ、これから警察は被害者支援をどのように進めるんだという話です。当然こういう委託事業、新しい新規施策、基本計画によりましてどんどん毎年のように新規施策ができてまいります。当然これをきちっと理解して、制度の趣旨、あるいは被害者にどういうメリットがあるかというのを職員全体に周知徹底を図って、漏れのない支援をやっていく。これは当然のことでありますけれども、もう一つ大切なのは、やはり当初羽下先生おっしゃられたように心の問題にどうしても帰着してしまう。私もいろいろちょっとそのあたりこれからどうするのかなというふうに考えるのですけれども、やはり制度を動かすのも人ですし、支援に当たるのも人。それに加えて警察というのは大きな治安を維持する組織でありますので、組織がついているよという安心感ですね、こういう事を総合的に持っていただくというのが必要ではないかなというように感じております。

ことしの8月でした、ある県外の殺人事件のご遺族とお話しする時がありまして、そのときに警察に求める支援という話になりました。そこで、そのご遺族、男性の方ですけれどもおっしゃったのが、「室長ね、今いろいろ支援制度ができて、確かにそれはありがたいですし、きちっとしていただきたい。でもね、ちょっと気持ちがしんどいときに、ちょっと休めるとまり木のような存在で警察はあってほしいんですよ」、こういうふうなことをおっしゃっておりました。とまり木、なるほど、ご遺族の方はこのようなことを求められているんだなというふうに改めて思った次第なんですけれども、じゃ、そういう期待にどうこたえるか。やはりとまって折れるような木ではいけませんので、しっかりと信頼をしていただく、これは個人的な問題も含めてなんですけれども、しっかりと相手の立場に立って物事を考えて仕事を進める、きちっと説明する、こういう姿勢がやはり求められているものだと思います。また、組織的には警察という存在、そばにいるというだけでやはり安心していただける部分も非常に多いのかなというように感じております。

やや精神論的な話になってしまいますけれども、こういった支援する側の気持ちですね、こういったものを何とか、きょうご講演いただきました伊藤裕美さんをはじめご遺族の方々の声をもっともっと警察職員全体に広げる、我々のさまざまな話を聞いていただく、こういう地味な努力ではありますけれども、継続してそういう意識を高めていく必要がある、このように現在考えております。

私のほうからは以上でございます。

羽下: どうもありがとうございました。

それでは、先ほど申し上げましたように、もしあればということで結構ですが、曽我部さん、どうでしょうか。話し終わった後、あるいは後のお二人の話を聞かれて、もうちょっと言いたいなということがあれば追加して言っていただくことがあるでしょうか。

曽我部: 犯罪被害者等基本法ができまして、犯罪被害者白書を読ませていただいたのですけれども、取り組みます、取り組みます、取り組みますというのは書いてあるんですけれども、では具体的にどのようにしてくれるのだろうというと、そこのところがよくわからないんです。何か机上の空論というか、具体的に何をしてもらえるのか、ちょっとまだ見えてこないんです。

羽下: 始まったばっかりで、なかなか書けるほどの蓄積が白書にはないのかもしれません。

曽我部さんに僕から伺いたいなと思ったことは2つありまして、1つは先ほどおっしゃっていただいた行政の枠を超えた形での条例が欲しいということでした。これは曽我部さんから見たら、それがあると、どんな利点があるように見えるでしょうか。

曽我部: まず、就学時の児童とか中学生を持ってらっしゃる方は、どうしても実質的に学校へ行けなくなると思うんです。例えば1週間にしろ10日にしろ。そういう授業のおくれみたいなものを取り戻すためのその人個人に勉強を教えてもらえるとか、具体的にそういうことがあればいいし、社会が知ってもらうというのでしょうか、会社も実質上休まなければいけないですし、会社に勤めている同僚とか雇い主であるとかが理解してもらうということが大事です。

羽下: 条例を背景にそれが可能になるのではないかなということですよね。

曽我部: そうですね。社会がよく知るということ、啓発活動等も重要かと思います。

羽下: 啓発的なニュアンスもあるということですね。ありがとうございました。

それからもう1点ですが、僕の知るところでは、曽我部さんは事件のその後、家族、あるいは遺族としてこういう活動にかかわられ、また精神障害者の方々への活動、社会的な存在としての彼らへサポートする活動もなさっていると伺っています。遺族として活動してみて、最初の段階のこういう法律もなかった時代から随分な変化があるわけですけど、被害の遺族、家族でありながらでも、一方で活動してみてどのような手ごたえかというあたりを少しお話いただけると、みなさんに理解が得られると思いますが、いかがでしょうか?

曽我部: そうですね、私「風通信」という小さな新聞というのを出しているのですけれども。

羽下: 断続的に通信を出していらっしゃるのですね。

曽我部: はい、通信を出しています。

羽下: 個人通信ですね。

曽我部: 個人通信です。それ最初に出したきっかけというのは、明石には5円通信(一部5円)というミニコミ誌が最初あったのですけど、そこに二次被害について書かせて欲しいと言いました。心ない言葉をかけられる、傷ついているのですけど、言う方は、私は、傷つけようと思って言った人はいないと思うので、こういう言葉をかけないでください、しっかりしているねとか、先ほど伊藤さんもお話にありましたけれども、本当におっしゃる言葉で傷ついているから、こういうことを言わないでくださいというのを書かせてくださいというのが最初のことでした。兄弟のことを書いたときには、本当に知らなかった、兄弟の苦しみなんか全く気づかなかったというような返事が返ってきました。

羽下: 出して活動すると、普通に生活してらっしゃる方に通じると、あ、そうなのかと、わかってくれるという、そのための活動なのですね。それはやっぱり手ごたえありという感じですね。

曽我部: そうです、はい。

羽下: これはさっき質問したことの一部ですが、とりわけ精神障害者の方にかかわる活動をされたいと思ったきっかけというのは何なんでしょうか。

曽我部: 私もうつになった経験がありまして、そこで同じ人を見ているという経験から、精神障害者というのは病気であるという認識がまだ社会にはないと思いますので、それが大きいです。差別をなくすということなのだと思います。

羽下: 先ほど挙げられた例でいいますと、通常の意識を持ったと思われる方でも、すらっと差別的な発言を言ってしまうことがある。これはやっぱり曽我部さんとしても随分「はっ」とした、これはやっぱりいけないのではないかというのがあるんでしょうね。

曽我部: それから被害者感情を、精神障害者による私は被害者なのですけれども、被害者感情を述べることが、精神障害者の差別を助長するというように見られる方も、ジャーナリストの中でそういう発言をされた方もいらっしゃるんですけど、それは全く違うと思うので、これからも訴えていきたいと思っております。

羽下: それを絡めてしまう、精神障害者だから犯罪だとか、そういう結びつきではないのだということにやっぱり曽我部さんとしては大事なとこがあるんだということなのですね。ありがとうございました。

それでは、中川さん、どうでしょうか。

中川: 今、曽我部さんのお話伺って思ったのですけれども、被害直後にお子さんが学校に行けないとか、あるいは会社にご自身が行けないとか、そうした苦しみがあったり、それによって生じる生活が苦しくなるという現実、こうしたものが頭でわかっていても、実際実感してそれを施策に反映したり、あるいはセンターとして活動しなければならないということになかなか結びつかない部分でして、そうした意味でも、条例をつくることも当然必要でしょうが、センターとしても、あるいは一般社会において被害者の方がそうした苦しみを現実に味わうということを共通の認識として考えていかなければいけないんじゃないかと、そう思った次第です。

羽下: 少しお伺いしてみたいと思うのは、弁護士さんという立場から考えて、警察の小野さんがお話しになったこととはまた違った意味で、事件発生の初期で接触をすること。それが早期援助団体に指定されることによって道はついた。ただ、なかなか、ある意味では一番必要で、一方で一番難しいあたりで、そうスルスルといかないという現実があるとして、そこには何が足りないでしょうかね。滑り出しにくいさまざまな事情があるのはあるんですけど、弁護士である中川さんから見たら、これがあったらそこが違ってくるのかなみたいなヒントが、もし思いついたことがあれば言っていただけると助かります。

中川: 何が足りないというよりすべてが足りないというか、人、物、金すべてがないというのが実際のところでして、こういう危機介入的な直後の支援をするというのは、非常に口で言うのは簡単ですが実に難しい問題でありまして、実務的に例えばボランティアの方を、普通の毎週の平日に動けるような形でご用意いただいて、そしてそうした方々に要請があったら動いてくださる、待機いただく事、実はすごく難しいことです。ボランティアの方というのも通常ほかの仕事持たれているわけですし、そうした方ご自身の仕事もある。そうした中で、好意で無償のことをしてくださるわけですから、その人たちに余り無理が言えないわけですね。そうした人の問題。あと、お金の問題についても言わずもがなでして、そうした方々、あるいはそうした方々とともに動く専門職の、例えば臨床心理士の方であるとか、あるいは弁護士等が、若干でも費用が出ることによってより動きやすくなる、あるいはボランティアの方でも交通費が出ればより動きやすくなる、そうした実際面での金、あるいは物、そうした部分で人員と予算、そうした全体が不足しているので、なかなか今現在すぐには実現しづらいので、やはり必要性を認識しながら、そうした危機介入が必要であるという必要性を認識し、少しずつやっていくという実績をつくるしかないのかなと今は思っています。

羽下: 例えばそれは法律という面から、素人考えですけど申し上げてみたいので感想聞かせていただきたいのですが、例えば臨床心理系の人間でこういう緊急支援にそれなりの経験があって行くことができる状況があったとしても、すっ飛んで行かねばいけない状況のときに、「すみません、授業がありまして。さぼったら補講しなきゃならなくて」というような事があるわけです。また精神科医でも診察があって、それを休むわけにいきません。あるいは弁護士さんでも約束がありますみたいな形になると、結局蓄積があっても使えないわけですよね。これを可能にする法律というのは考えられるのでしょうか。例えばオブリゲーションをフリーにするルールをつくるとか。法律にするのかどうかはともかくとして、きょうお見えの冨永さんも学校事故で廻っておられますが、すぐ動ける人がなかなかいない、この人を確保すること、人がいるのだけど行けないという状況を突破するには、法律家としては何が整備できるかというあたりではどうでしょうか。

中川: 制度の問題もあるのでしょうが、例えば我々弁護士でいうと、兵庫県弁護士会で今500人ぐらい弁護士がいると思うんですけれども、実際犯罪被害者支援をするということで被害者参加の代理人をお願いしようと思って名前浮かぶのって10人か20人かだと思うんです。それ以上いてもプラスアルファぐらいでして、そうした一部の人に負担が集中している。そうすると、当然ながら被害者ご遺族の支援をする弁護士にとってはそれぞれ非常に重要な案件なわけですから、前にお受けした事件の公判が来週に入っているので今は受けられないということが当然出現するわけです。先ほどの臨床心理士の方でもそうだと思いますが、やはりそれぞれが非常に重要なものなので、急に言われても動けないということなので、やはりこれは制度を幾らつくってもそれに伴う人ですね、数の問題、これがないとなかなかクリアできない問題なのかなと思います。

羽下: 人が動けるようにするには、まだ幾つかの条件が要るだろうと思うのです。そして、すぐにチームを組んでいかないこと、効果がないのなら、それを可能にする方法は、やっぱり工夫の余地がまだあるということだろうと思うんですよね。ありがとうございました。

じゃ、小野さん、いかがでしょうか。プラスアルファで何かもしあれば。

小野: 先ほど中川先生が人の問題という話があって、警察から委託事業という話もありましたけれども、何でもかんでも押しつけているのではないかと、そういうふうに思われてもいけませんが、実は委託という形でお願いした中でも、やはり警察の支援を続けるべきものがありますので、いわゆる両輪的に協働しながらやっていく、こういう形を今整えつつあります。

これには1つ大きなメリットがありまして、警察で支援する中で把握する民間にお願いする支援が出てくるのと、民間の方が支援に入っていただくことで警察の不足を指摘していただけるという、そういったメリットがありまして、相乗効果でさらに支援が充実するという形が理想的かなと今は思っております。おっしゃられたとおり、人的に非常に厳しい現実があります。命の大切さを学ぶ授業ということで精力的にお話しさせていただいているんですけれども、ここにも支援員の方が「SIEN結」というような形でかかわっていただいている。この日は中学校で講演、この日は直接支援、この日は面接相談、特に最近になりまして多忙を極められているという現実があります。こういった中で、よく中川先生とも人をどうしようかというような話をさせていただくんですけれども、とりあえず身のたけに合ったところで頑張っていって、徐々にという、先ほどおっしゃられたとおりなのです。我々警察としましても、そのあたりの現在は人的な資源を見ながらお願いする支援を選択しているというような、こういう状況であります。将来的にはやはりもっともっと支援員の方が充実され、我々も協力するところは協力して育成といいますか、ちょっと上から目線なのですけれども、協力させていただいて、支援の充実をさらに図っていきたいなというように考えています。

羽下: はい、ありがとうございました。

1つぜひ伺ってみたいことがありまして、それは、我々被害者支援センターは警察からの委託で被害者に関する研修会を毎年持っておりまして、現職の警察官の方が毎年、4、50人位、お役目という面も含めて参加いただいて、もう5年目になりますか。これは我々研修する側にとっても手ごたえがあるのですけれども、かねてより被害者という方がどんな立場に立つか、どんなことが必要か、どんな支援があればその後随分しのぎやすくなるかというようなことを、さまざまワークショップなどを含めてやっているわけです。ついては、少し広い話をしますと、この10年ぐらい、警察官の方々の当たりがすごくよくなったという印象があって、実は僕自身も個人のカウンセリングをしているクライアントがいまして、この方が街中でパニックになって、交番に駆け込みましたら、とても親切にしていただいたと話していました。被害者という、あるいはその家族という方たちがどんな位置に立つかということを随分感度よく応答していただく方向が出てきたんじゃないかなという感触を持っています。この点については小野さん自身の印象をひとつ聞かせていただきたい、研修の意味みたいなものが実感としてどんなところでお感じになるかというところですね。現職のフロントラインにいらっしゃる警察官などの話から、被害者支援ということに関してお感じになることが、これは研修等の結びつきはどこかあるかなとかいう点が1つ。

それから、これはちょっと複雑で申しわけないのですが、家族、あるいは遺族が要求してくる説明をそのとおり説明するということと、それからやっぱり、かかわる警察の側として、そのとき必要な説明をするということとは基本的には違うだろうと思うのです。その辺の現在の実感というんですかね、難しさが一番あるところかと思うのですけど、これはどうなっているんですか、あれはどうなっているんですかということを要求どおり説明するわけではない。でも、必要な説明をしなきゃいけないとなったときの、ご自分の切り分け方といいますか、そこら辺はこういうふうにすると何かいい感じだなというのが思ってらっしゃることがあればぜひ教えていただきたいなと思います。

小野: まず1点目、研修の意義というところで、先ほど10年来当たりがよくなってきたといったおほめの言葉をいただきましてですけれども、ちょうど10年前といいますと平成12年、ご案内の皆さんも多いかと思います、当時警察の不適正な職務執行が続発したというところで、警察の存在意義を問われた、そういう厳しい時代であります。犯罪も非常に当時多発しておりまして、このままでは警察いかんだろうということで、もう一回足元を見直せということで、警察改革要綱というのが定められました。これは全警察職員が警察の存在、何のために仕事しているのだと、それを見つめ直す1つのバイブルといいますか指針が示された。その中で、やはり国民のための警察ということが大きな指針として掲げられました。その中で、非常に重要な位置づけが犯罪被害者の支援というところがうたわれているということであります。10年たちましたけれども、これは決してこれからも恐らくそういう意識の継続というのはなくならないと思うのですけれども、継続して職員の意識改革といいますか、意識の高揚に努めていく必要があるんじゃないかと。そのあたりが先生の時期と若干重なりますので、出てきていたら非常にありがたいなというように思います。

我々が研修に行かせていただいているというところに入りますけれども、やはり刑事手続というのは、皆さんやっぱり余りご存じない、支援に当たられる方は特に犯人を検挙して裁判に至るまでの過程ですね、これを余りよくご存じない。実は警察は非常に限られた期間の中で検察庁に送検する、こういう制限があるわけですね。1つは48時間、もう一つは拘留期間の20日間。この間にさまざまな捜査を尽くして送検しないといけない。こうなると、やはり被害者の、あるいはご遺族の理解と協力というのは、これはもう欠かせない問題。したがいまして、さまざまなそういう過程で、期間のないところで焦りに陥って、いろんな不用意なお願いをしたり、警察本位の捜査を進めたりということで二次被害を与えてしまっているという部分もやはりなきにしもあらず、非常に多い部分かなというふうに思っております。したがいまして、こういうこともやっぱり支援に当たる人は、知っておいていただきたいなというのは我々の気持ちでありますし、こういう期間の中で必死になってといいますか、何とか公判維持できるような資料を集め、起訴していただけるように頑張っているというところもご理解いただけたらということで、そのあたりの研修でお話しをさせていただいたりしております。

それと2点目ですね、被害者あるいはご遺族の方が説明を求められていることに対してということ。やはり捜査上の秘密というようによく言ってしまうのですけれども、現場でも、私でもそうだったんですけれども、それはちょっとここの公判に影響しますのでとか、あるいは、まだ捜査中なのではっきりしたことわかりませんのでと。そういう形で、本当にお知りになりたい情報というのは実はほとんどお伝えできないというのが現状かなと思います。ただ、この対応に当たるにつきましては、なぜ言えないのかというのをもっと丁寧に現場は説明するべきだと思います。それでご理解いただく。それでもなおかつご理解いただけなかったら、それはもうどうしようもないなというところになるかと思うのですけれども、できるだけ言えない、お教えできない理由をわかるように丁寧に説明していきたいなというように私は考えております。

羽下: そこ大事だと僕も思いますね。我々カウンセラーも学校に入りまして説明を求められたときに、それは秘密ですみたいなこと言って先生方を白けさせるというようなことをこれまで繰り返してきましたが、そうじゃなくて、どういう事情で、何の目的で、あるいはどういう方たちのために、何を守るために公開はできないと、逆にこのことはこういう形でなら公開できる、外形的なことをこういうこととして説明するという努力をする必要があると感じています。それがないと事態がそこでとまってしまう。遺族の方も家族の方もとまってしまって、だんだんそれがまた膨らんできて、先程の孤立化や、支援に対しても拒否的になってしまう危険がある。やはりそこで可能な限り、次なるステップに行けたらいいなと思うんです。そこら辺は一生懸命とか、何かを守ろうとしてということだけでは動かないところがあるなと感じますね。

はい、ありがとうございました。瞬く間に時間が来てしまいました。皆様方のきょうのお話を聞いて、それぞれお感じになり、お思いのこともあろうかと思います。皆さんにご発言いただく機会がきょうは残念ながらありませんが、お持ち帰りいただき、また仲間と話していただきまして、犯罪被害者にかかわるさまざまな方々、またそれへの関心を深めていただけたらと思います。どうもご参加ありがとうございました。これで終わりたいと思います。

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