滋賀大会:パネルディスカッション

 
テーマ:「犯罪被害者を地域で支えるために」
コーディネーター:
 千原美重子(滋賀県犯罪被害者支援連絡協議会会長・滋賀県臨床心理士会会長)
パネリスト:
 岩城順子(京都府犯罪被害者支援コーディネーター)
 荒川葉子(弁護士・滋賀弁護士会副会長)
 沖野良枝(NPO法人おうみ犯罪被害者支援センター理事長)
 十倉良一(京都新聞社論説副委員長)
 福永忠克(滋賀県県民文化生活部県民活動課長)
 中川好幸(滋賀県警察本部警察県民センター所長)

千原:失礼いたします。それではただ今から、パネルディスカッションを、16時30分まで、約1時間半行いたいと思います。本日、司会を務めさせていただきます、千原美重子と申します。どうぞ最後までよろしくお願い申します。

 さて、本当に連日、多くの犯罪が報道されております。その犯罪の被害により、人間の尊厳性が踏みにじられているということが本当に多いということに心が痛みます。本日、岩城さんのご講演を聴きながら、年を取りましたせいもございますでしょうか、本当に心が涙でいっぱいになりました。犯罪により被害を受けられた被害者やそのご遺族の方々は、犯罪の直接的な被害だけではなく、その犯罪により生じた身体的・精神的被害、経済的な被害など、本当に多くの問題を抱えられているっていうことが分かりました。犯罪被害に対する支援を求める社会的な機運が急速に高まるにつれまして、社会的な問題として、支援体制のシステムを見直し、人と組織を再構築していくという必要性が生じてまいりました。

 本日は、6名のパネリストの方々と、「犯罪被害者を地域で支えるために」というテーマで論議してまいりたいと存じます。先ず、先ほどご講演をいただきました岩城さんには、犯罪被害者のご遺族という当事者の立場でお話をしていただき、あとの5人の方々は、支援に関わっている支援者の立場でお話しいただきたいと存じます。5人の方々は、それぞれ異なる立場ですが、第一線で支援に取り組んでいらっしゃる立場で、どのような支援を目指されてるのか。できていることとできていないこと、活動状況と課題について、お一人約10分を目途にしてお話をいただきたいと存じます。 それでは先ず、始めるに当たりまして、お一人1、2分で自己紹介をお願いしたいと思います。どうぞ、岩城さんのほうから順にお願いいたします。

岩城:先ほどお話しさせていただきました岩城順子です。よろしくお願いします。

荒川:滋賀弁護士会副会長の荒川と申します。彦根で弁護士をやっております。よろしくお願いします。

沖野:おうみ犯罪被害者支援センターの理事をやっております、沖野でございます。よろしくお願いいたします。

十倉:京都新聞論説副委員長の十倉と申します。9月末まで、滋賀県滋賀本社で編集局長をやっておりました。今日はよろしくお願いします。

福永:県の県民活動課長の福永でございます。私は、犯罪被害者の支援の総合調整を担当する部署ということで、本日参加させていただきました。よろしくお願いいたします。

中川:警察本部警察県民センター所長の中川でございます。このセンターには、犯罪被害者支援室が設置されており、同室長を兼務しております。本日は、よろしくお願いを申し上げます。

千原:それでは、時間も過ぎていきますので、早速、被害者遺族の岩城さんから、被害者の方のニーズや要望をしっかりとお伝えいただきまして、私達もそれをしっかり承りたいと存じます。それでは岩城さん、よろしくお願い申します。

岩城:先ほどもお話ししましたように、私の事件は1996年に起こっています。ですから、今のように基本法も被害者に対する制度もなく、全部自分で探さなくてはなりませんでした。行政の窓口に行っても、自分から「犯罪被害者です」とは言えません。興味深げに聞かれたり、「あなたが悪かったから、そんな状態になったのではないか」と言われそうで、話すのが嫌でした。私は、何か助けてもらえる制度がないかと相談に行ったのに、職員の身の上話をされただけで、本当に腹が立ったのです。  けれども、障害者としての支援が必要でした。夫は単身赴任でしたので、お風呂に入れたり、私が寝込んだ時に助けが必要でした。ヘルパー制度もあったはずなのに、使えませんでした。いろいろ探し回って、障害者授産施設に交渉してお風呂に入れてもらったり、訪問看護ステーションを見付けることができましたが、長い時間がかかりました。また、日常生活支援などのボランティアは社会福祉協議会で相談すればよいのだと、随分後で知りました。

 支援センターが立ち上がったのも、この時期でした。一度、電話をかけたことがあります。でも、名乗ってくださらないんですよね。組織としての対応だから、それも仕方がないのかもしれませんが、「私はこんな個人的なことを話しているのに」と思いました。そして、「私はこう思います」とその方に言われ、ショックでした。別に本名でもなくても、通称名でよいですから、個人として話を聴いていただきたいと思いました。

 マスコミに対しては、私の場合、直接被害がありませんでしたが、聴き取りをした中には、チャイムが鳴ったのでドアを開けると、カメラを構えた人が目の前にいたと聞きました。また、どこからか写真を手に入れ、勝手に使われたことが不愉快だと言われています。犯人が捕まるまでは、いつも誰かに見られていたり、後をつけてこられたり、気持ちが悪くて外出ができなかったそうです。事件の大きさによってはすさまじい報道合戦になるのは、ご存じだと思います。

 それから、私が一番助けられたのは、弁護士さんでした。加害者は仕事を辞め、賠償の保障も無かったのですが、報酬金の約束もなく、10人の弁護団を組んでいただきました。裁判の時の付き添いも、ずっとしてもらっていました。民事裁判を起こしてから亡くなったのですが、命は賠償金にしか代えられないということを、時間をかけて説明されました。他の被害者の方の中には、弁護士本来の仕事を急ぎ過ぎて、会ってすぐ法規の本を持ってきて、「さあ、何ぼにしましょう。殺されてるからな」とか言われたり、「相手の財力がなかったら、勝っても紙切れ1枚しか貰えないから」と、民事裁判を起こされなかった方もおられました。事件直後の冷静な判断ができない時期に、専門家の言葉は強い強制力を持つと思います。

 そして、犯人逮捕のためには、警察しか頼るところがありません。少しでも情報が欲しいので相談に行くと、「管轄」という言葉が壁になります。それぞれの署で情報開示に差があったり、話を十分に聞かないで「管轄が違う」とあちこちの署をたらい回しにされ、苛立ちが募ったと聞きました。また、司法解剖後の対処ですが、真夜中でも「今から来てください」と言われると、すぐ言うことを聞かないといけないと思い込むようなところもあります。しかも遺体には、裸に白い布がかぶせてあるだけだったということにショックを受けられたと聞いています。今はどのようになっているのかは、ちょっと分かりませんが。以上です。

千原:ありがとうございました。岩城さんのほうから、支援センターに対して、また弁護士さんに対して、それからメディアに対して、行政について、警察の対応について、体験を基にしてお話をなさったわけでございますけれども、そういうことについても少し入れながら、お話をしていただければと存じます。座られてる順番が変わりますけれども、先ず、NPO法人の沖野さんのほうから、お願いしたいと存じます。どうぞよろしくお願い申します。

沖野:では、私は、ボランティアによる民間支援団体の立場から、私達がこれまで微力ながら行ってまいりました支援活動の経過について、ご報告させていただきたいと思います。

 最近、大阪で相次いでひき逃げ殺人事件が起こったり、東京や埼玉での連続殺人事件など、本当に身も心も凍りつくような悲惨な事件が相次いでおります。こうした事件に遭われた被害者やご遺族の衝撃や怒り、身を切られるような本当に辛いお気持ちは、当事者ではない私達の想像を絶するところだと思います。また、そうした被害者の方々に対して、私達はなすすべを持たないというのも正直なところです。

 しかし、私達も、いつ、どんなことで、ある日突然大きな事件の被害者になり、場合によっては、私達自身が加害者になるかもしれない今日の社会であることを考えますと、本当に他人事ではないと思います。もしそうした立場に陥った時、自分はどのようにして立ち直ることができるのかと考えたり、また、私達に何かできることはないのだろうかと話し合う中で、私達は平成12年6月、民間ボランティア組織として当センターを設立し、翌13年9月にNPO法人として認証を受けました。その後、今日まで、犯罪被害に関する相談、直接的支援、電話相談員養成研修、調査・研修などの委託事業、市民への広報、教育、啓発などの活動を進めてまいりました。

 支援活動の中心は、被害者やご遺族からの電話や面接による相談業務に置いてまいりました。相談には、毎年当センターが開催します相談員養成研修を受け、その後の専門的な訓練を積んだ約40名のボランティア相談員が対応させていただき、心のケアや、可能な問題解決の方法を相談者の方と共に考えながら、年間、百数十件の方の相談に対応してまいりました。その間、県や市などの行政及び警察の相談事業との連携や、法的な対応が必要なケースには法律相談や法テラスを紹介させていただき、県弁護士会との連携も進めてまいりました。また、現在8名のスタッフによる直接的支援では、被害に遭われた方やご遺族のご希望に沿った支援として、病院や裁判所への付き添い、不安なお気持ちへの傾聴、家事・買い物など、日常生活の援助などに努めてまいりました。

 また、広報・啓発活動では、地域住民や県民の方々に対して、被害者の方々の状況をお伝えし、被害者支援への理解と協力を得るために、例年、犯罪被害者週間キャンペーン活動として、被害者支援フォーラムを開催してまいりました。また、関係機関・団体との連携による街頭活動、各種のパネル展への参加、マスコミへの広報、また、要請に応じて、被害者支援に関する講演や出張講義なども行ってまいりました。県の委託事業として、これまで、DV被害の現状や対策に関する調査活動、DVや交通事故相談アドバイザー研修などを実施してまいりました。こうしたセンターの活動は、年1回から2回発行します機関誌により、会員や賛助会員、また、協力者や一般市民の方々にいろいろな機会に報告させていただき、啓発活動の一部としております。  8年目を迎えました現在、こうしたこれまでの活動は今後も継続していくとともに、さらに活動の範囲を発展させ、強化していきたいと考えております。

 そこで、犯罪発生後のできるだけ早い時期から、被害者の方々の不安で辛いお気持ちを酌んだ、心と生活を支えるための具体的な援助が提供できるよう、現在、犯罪被害者早期援助団体の指定を受ける取り組みを進めているところです。犯罪被害者早期援助団体は、犯罪行為の発生後、速やかに被害者などを援助し、犯罪被害などの早期軽減を目的として設立される法人で、公安委員会が指定するものです。この指定を受けることにより、重大犯罪の発生直後から、被害者やご遺族のご承諾や同意を得たうえでの情報提供を受けることができ、私達支援センターの迅速で的確な支援が、早い段階から可能になると考えております。突然の事態に、混乱や不安、悲しみの中で何もできない、何もする気にならない時に、買い物や料理、お掃除や洗濯など、本当に必要な、しかも些細な身の回りのお手伝いをさせていただくことで、被害に遭われた方の心の支えとなり、日々の生活の維持と落ち着きを得ていただき、徐々に立ち直られることが、このセンターからの支援によって望めるのではないかと思っております。

 先ほどの岩城さんのお話の中にも触れられていましたが、当センターでも、これまで電話相談に関しては、加害者からの報復や暴力など、相談員への二次的な被害を回避するために、電話相談員の対応は匿名を原則としております。しかし、それによって被害者の方の心をかえって傷つけることになるのであれば、私達も、改めて検討することも必要かと考えております。もちろん早期援助団体の指定を受けましたら、直接支援では、支援者の自己紹介や役割の説明など、身分や立場を明らかにし、心がつながり合う信頼関係を築くこと、場合によっては、可能な支援策を提示させていただくこともありますが、その際も、最終的には被害者の方の選択と意思決定を尊重するなど、基本的な心構えをさらに徹底する必要があると考えております。

 私達は、思いも拠らない犯罪に巻き込まれた被害者、ご家族、ご遺族の方々が、再び平穏な状況を取り戻し、落ち着いた生活に戻られ、傷ついたお気持ちを少しでも癒していただくためには、隣人・友人を含め、その地域の人々からの心からの理解と支援が非常に大切と考えております。孤立され、閉ざされがちな被害者の方々が、地域や社会から置き去りにされてはいない、支えてくれる人がいるといった安心感や信頼感、絆を取り戻すことが、被害からの回復に繋がると確信しております。

 当センターは、民間のボランティア組織として、今後も地域に根ざした支え手、悲しみに届く手として被害者のお気持ちに寄り添い、さまざまなご要望に十分応じられる支援活動を、地域の人々、行政、司法、警察、医療、福祉などの関係機関と専門職との連携・協力をより緊密にしながら進めていきたいと考えております。ご清聴ありがとうございました。

千原:ありがとうございました。今、沖野さんのほうから、早期援助団体の指定を受けられることになったら、また対応が違ってくるというご回答をいただきました。これから、いろいろとまたご審議いただけるということ、ありがとうございます。

 それでは、次に弁護士のお立場から、荒川さんのほうから、被害者保護の法制度につきましてご説明していただきたいと存じます。お願いいたします。

荒川:犯罪被害者を保護するための法制度というのは、従来から幾つかありました。例えば、不起訴になった交通事故の被害者の方が民事裁判に用いるために、不起訴記録の中の実況見分調書を閲覧、これは見ることですね。それから謄写、コピーすることです。をしたり、交通事故に限らず、裁判になった事件の被害者の方が、裁判終了後に刑事記録を閲覧・謄写することができました。

 平成12年には、これを更に進めて、裁判の終了前でも公判記録の閲覧・謄写ができるようになりました。さらに、被害者が証人として法廷で証言する時に、場合によっては親や心理カウンセラーなどが横に付き添ったり、あるいは、被告人や傍聴席との間についたてを置いて姿を見えないようにしたり、また別室で、テレビモニターを通じて証言することができるようにもなりました。それから、平成19年には、後でお話しする被害者参加制度、損害賠償命令申立制度などが制定されました。このように、近年、徐々にではありますが、被害者を保護する制度が整備されつつあります。

 では、個々の弁護士がどのような支援ができるのでしょうか。先ず一つ目。被害届や告訴状、告発状というものを被害者の代わりに作成をしたり、あるいは、代理で提出したりすることができます。それから、2番目としまして、捜査段階で被害者の方が事情聴取に行かれるのに同行することができる。3番目に、刑事裁判になった時に、被害者の方の法廷傍聴の付き添いをすることもできる。和歌山のカレー事件では、地裁・高裁合わせて計54回の法廷傍聴付き添いというのが行われたようです。弁護団から事前に裁判所に申し入れて、特別傍聴券というものを確保されていたそうです。滋賀弁護士会では、名神高速道路で日系のブラジル人の方7名が亡くなった事故がありますが、この時は、弁護士と通訳が傍聴に付き添いまして、公判の終了後前に、公判の内容を通訳を通して説明をする。このような支援活動も行いました。それから4番目としまして、刑事記録の謄写を代理で行うということができる。次に5番目、被害者参加人のための国選弁護士制度による支援。これが考えられます。

 では、被害者参加人のための国選弁護士制度というのを少しご説明します。これまでの刑事裁判では、被害者は最大の当事者であるにも関わらず、蚊帳の外に置かれておりました。そこで、重大事件については直接刑事裁判に参加できるようにしたのが、この被害者参加制度で、来月から施行されます。対象となる事件は、殺人、傷害致死、自動車運転過失致死傷、強制猥褻、強姦・強盗など、一定の重大犯罪です。

 被害者参加人には、五つの権限が与えられています。一つ目としまして、公判の期日に在廷ができるということ。これは、傍聴席という意味じゃなくて、公判の中にということですね。それから2番目としまして、内容には制限がありますが、証人尋問ができる。3番目。同じく内容に制限がありますが、被告人質問ができるようになりました。そして4番目。従来は、心情面に関しての意見陳述が認められていました。それとは別に、今度は、事実または法律の適用についての意見陳述ができるようにもなりました。そして5番目、検察官の権限行使につき意見を述べることができる。このような5つの権限が与えられています。

 そして、この被害者参加制度と同時に、被害者参加人を支援するための国選弁護士制度が立ち上がりました。資力が一定基準を満たない人。ただしこれは、自己申告によるものなんですが、法テラスに申し込むことにより、法テラスが国選人名簿の中から候補者を指名して、裁判所が選定をいたします。原則、弁護士費用は償還不要。すなわち、還していただくことは要りません。ただし、虚偽の資力の申告をして裁判所の判断を誤らせた場合は、償還していただくということもあります。このような被害者参加人を支援する国選弁護士制度も、この12月から立ち上がります。

 次に、個々の弁護士ができる法廷外の支援についてお話しします。これが先ほどの続き番号で、6番になりますが、加害者からの示談の申し入れに関する対応です。それから7番目、報道機関への対応。8番目としまして、犯罪被害者等給付金の申請を代理で行う。そして9番目、損害賠償命令の裁判を代理で行う。

 この損害賠償命令の裁判というのは、被害者参加制度と同じく、この12月から施行されます。重大な犯罪の被害者が、刑事裁判の手続きを利用して、民事の損害賠償請求ができるようにしたものです。刑事事件の弁論終結までに被害者が申し出ますと、有罪の判決が言い渡されたあとに4回以内の審理の期日が開かれ、そして、損害の賠償が命じられるということです。この制度のメリットは、刑事事件を担当していた裁判所が、刑事訴訟記録を職権で取り調べますので、新たに刑事記録を提出するという必要がありません。また、請求金額に関わらず、申立手数料が2,000円であるというようなことが挙げられます。ただし、そこで異議が出されると、通常の民事訴訟の手続きに移行いたします。また、この制度の対象となる事件は、被害者参加制度と重なる部分が多いんですが、交通事故などの過失犯には利用できませんし、また、強盗罪などの財産犯にも利用できません。

 それから、個々の弁護士が支援できる内容としまして10番目、最後ですが、刑事手続きとは関係なく、通常の損害賠償請求訴訟というのを提起することができます。

 これまで、個々の弁護の支援についてご説明いたしましたが、今度は、弁護士が関わっている組織による支援についてお話しします。先ず、司法支援センター。これ、「法テラス」と言いますが、ここの行っている犯罪被害者支援についてご説明します。

 生命、身体、自由、性的自由に対する犯罪、あるいは配偶者暴力。DVといわれるものですね。それから、ストーカー行為などの被害者の方が、損害や苦痛の回復を図るための制度や支援団体などに関する情報を先ず提供いたします。それから、被害者のために法律相談を行ったり、また、先ほど述べた支援活動を行ったりする犯罪被害者支援精通弁護士というものを紹介いたします。これらは、犯罪被害者法律援助事業といいます。また、先ほど述べましたように、被害者からの請求によって国選被害者参加弁護士を指名して、また、その報酬も法テラスが支払います。そして、損害賠償命令の裁判や、通常の損害賠償請求訴訟を行おうとする被害者のために弁護士費用を立て替えるという、民事法律扶助制度というものもありますが、これを扱うのも法テラスです。

 そして、最後になりましたが、滋賀弁護士会にも、犯罪被害者支援センターここでは主に、関連諸機関との協議・調整、会内制度の整備。例えば規則の制定とか、名簿の選出とかです。それから、会員の研修などを行っております。

 先ほどの岩城さんのお話の中にもありましたけれども、時間をかけてゆっくり説明をしてもらったという弁護士さんの活動を私も見習いたいと思いますし、お褒めの言葉にあずかって、弁護士冥利に尽きるなと思います。以上です。

千原:ありがとうございます。伺いましたらば、被害者保護の法制度がここ数年で大きく動いているという報告をいただきました。ありがとうございます。  それでは、次に報道機関の立場から、京都新聞の十倉さんにご発言をお願い申し上げます。

十倉:はい。最初、千原さんから、支援の立場の者が並んでるとおっしゃったのですけど、この中で私だけがちょっと違うかな。今日は少し辛い視線を感じております。先ほど岩城さんもおっしゃいましたが、犯罪被害者の方の二次被害の中に報道被害っていうのが入っていまして、ご指摘を受けております。一方で記者というのは、非常に事件報道については使命感に燃えてやってるわけであります。私個人は、事件報道の主役っていうのは被害者だと思ってるんですけども、実際は被害者から取材拒否を受けたりしています。今、現場の記者は悩んでいるということです。それと同時に新しい模索も始まってますので、そういったことを今日は率直に、ざっくばらんにお話しできたらなと思っております。

 私ごとですけども、最初の振り出しが滋賀県の八日市でして、そこから滋賀県警、京都府警を担当しました。新聞記者を31年8か月やっていますが、21年8か月が現場の記者で、その内の11年7か月、半分以上が警察担当、いわゆるサツ回りっていうのをやっておりました。新聞記者のスタートというのは、支局に配属されます。行政の取材もしますし、それから町の話題も書きますが、そこでの最初の辛い体験は、「新聞記者を鍛えるにはここだ」っていう警察取材なんです。会場には警察の方がたくさんいらっしゃいますけれども、なかなか厳しい対応をされる。捜査のことを言えないのは当たり前ですから、そこで取材をするっていうのは大変なことなんですね。

 その時に警察の方から教えられるのは、被害者についてですね。僕らも取材で現場に入りますが、刑事さん達は「現場100回」といって聞き込みに回られます。夏の暑い日、冬の寒い日、あんまり成果なくても毎日毎日回られる。ある時、刑事さんとそういう苦労話をしてるいると、胸のポケットから出されたのが、被害者の写真なんです。被害者の無念さ、あるいはご遺族の怒りや悲しみを思うと、「自分の辛さなんて」ということをおっしゃるわけですね。

 それともう一つ、琵琶湖で水死事故があるんですけども、僕らは、すぐ記事になるようにいろんなことを警察から聞こうとする。すると、「おまえ、仏さんを拝んでこい」と言われたことがあります。きちんと仏さんに対してそういう気持ちが無い、被害者に対してそういう気持ちが無いものが、字面だけで取材していいのかということだったんです。そういうことを教えられました。

 若い記者が、亡くなった方のご自宅に写真を頂きに行くことがあります。私も、幼い姉妹が家庭用のプールで亡くなった、水死です。遺族の方には申し訳ないのですが、ニュースになるので、ご自宅に取材に行って「お写真貸してください」と言うんですけども、そこでご家族の嘆きだとか、声が聞こえてくるんです。怒りみたいなものもありました。自分を責めておられるような言葉も聞こえました。そういったことを私が知ってるか、知ってないか、聞いたか、聞いてないかっていうのは、違うと思うんですね。写真は採れませんでした。それでも仕方がないと僕は思っています。

 もう一つは、1987年に群馬県の御巣鷹山に日航ジャンボ機が墜落した事故です。私も京都から出向いて、ご家族の取材をしました。その時、亡くなったかどうか分からないという状態の中で、ご家族と一緒に行動を共にするわけですね。ご家族の方は、安否がまだ分からないので何とか知りたいということで、我々のほうに、情報がどうなってるか情報交換するわけですね。忘れもしないですけど、関係のご家族がたくさんいらっしゃって、タクシーが足らないもんだから、われわれの取材車に乗せてくれと言われて、乗っていただいたことがありました。そこで、ほとんど話しないんですけども、ご家族だってすぐ分かるんです。そういう取材をしていました。

 その当時私の感じたのは、やはり犯罪被害者の方と、あるいは事故の被害者と、私達は同じ方向を向いてたなということです。私自身が勝手に思ってたのかも分からないけれども、いつの間にか被害者の方が私の目の前から消えて、背中を向けられて、どんどん遠ざかって行った。あるいは反発されてる。そんな状況になっていったと思います。

 先ほど事件報道の主役は被害者だというように申し上げました。いまだにそう思ってます。事件報道の使命というのは真相の解明だとか社会不安の解消だとか、再発の防止だとかいろいろと言われてますけども、それはもちろんそうなんだけども、やはり事件報道から被害者が見えなくなるっていうのは、事件の本質が消えてしまうと思うんですね。そこで泣いておられる方、悲しんでおられる方、怒っておられる方、その方の重みがあるから、伝える、社会の人に分かっていただく。そういったことが事件報道の神髄だと、僕はいまだに思っているんです。警察の容疑者逮捕はニュースはなんだけど、僕はそれ以上に大切なのは、犯罪被害者の取材だと思ってるんです。非常に辛いですが、記者はそういう怒りや悲しみに触れない限り、伝えるべき本質が見えてこないんじゃないかなと今、思っております。

 ただ、皆さんから二次被害、報道被害ということが指摘されています。ご自宅に押しかけて近隣に迷惑をかけるとか、間違った報道、誤解を生む報道、プライバシーを侵害してると。もう一つ、顔写真ですけれども、先ほど勝手に掲載してるということをおっしゃいました。私もご本人から聞いたことがあります。どうせ載せるんだったら、もっときれいな写真を載せてほしいという声も聞きました。

 そういった話が出てきたのは、神戸児童連続殺傷事件や和歌山毒カレー事件、日野小学校の児童殺害事件だとか、その辺りから。いわゆるメディアスクラム、集団的過熱報道と言われているものです。新聞やテレビ、ワイドショーが殺到して、近隣の生活を乱してるということなんです。その当時の様子を神戸連続児童殺傷事件の遺族の方が書いておられて、非常に辛いところです。霊安所から出てきた瞬間に、何人もの男にパッと取り囲まれたと。マイクを押しつけられ、「どんなお気持ですか」なんていうことを聞かれた。いちばん悲しい時にですね。耐えられなかったということを書いておられます。

 それで、メディアスクラムについての対応を我々も考えてまして、地元の支局長、幹部が集まって、節度ある取材・報道を申し合わせるようにしています。滋賀県では長浜の2園児殺害事件。この時はそういう対応を取らせていただいております。それから、現場の記者達が、ご遺族や被害者に手紙を出して、声を上げていただくのを待つということをしています。

 実際に、いろんなことを言われながら交流も始まっています。先ほどの神戸連続児童殺傷事件のご遺族ですけども、記者が報道する立場と被害者を思う人間としての心の狭間で、苦しみながら報道の立場を切々と語ったのを聞いて、「だけども私は、許せないことは許せない」ということをおっしゃって、そのあと、この記者と交流を続けているということを同じ手記に書いておられます。事件報道はやっぱり変わっていったと思うんですね。最初にどっとすごいニュースが流れますが、その後も起訴の段階だとか、初公判の段階、判決、それから事件から1年、2年、それで切って、ご遺族のコメントとか手記をいただくようになってきてます。

 大阪や東京の記者たち、それから京都新聞でも、ご遺族をお呼びして勉強会などもしております。私自身が社会報道部長の時に、殺人事件で肉親を奪われた人達から話を聴くということをやりました。娘さんが殺されたご遺族に電話すると、渋々なんですけど会っていただけました。マスコミには会いたくなかったんだけれども、年月がたってですね、遺族として声を上げなければならないと思って会うことにした、と言っていただきました。

 マスコミは自分が正義だと思って、取材に応じないのはおかしいという感じで接してくる。遺族というのは、その当時は気が動転して、話なんかできる状態じゃない。頭真っ白で、なぜ話さないといけないのか。近所を取材して迷惑だということをおっしゃってました。でも、先ほど言いましたように、「今、声を上げたい。」ということで会っていただいた。ただ、匿名で掲載する約束をしてたんですけども、直前になって断られました。ご近所だとか、家族の方のことがあったと思うんです。

 それから、息子さんを殺された方なんですが、私と会っていただいたことについて、こうおっしゃってました。「私は、社会にどう思われようが、自分の心情を訴え続けるのが責務だと思うようになった。そのために、間に立つペンを持つ人を信用するしかないんだ」と言われました。非常にドキッとしました。最初は拒否してたんだけれども、今、何か伝えたいことを、ペンに託すメッセージだったと思うんです。

 もう時間来ました。それで、これからですが、事件報道が変わっていくと同時に、今はこういうシンポジウムなどがありまして、犯罪被害者の報道というのは増えてきています。京都新聞では、宣伝ですけども、この国民のつどいを契機に、3回の連載を滋賀版でやってます。そういった機会を捉えて、いろんな支援、まだ小さいんですよ、それをなるべく大きく扱うことによって関心を集めて、それぞれの活動が充実し、そして横の連携ができるような、そういった橋渡しをメディアとしてできればいいなと、考えております。

千原:ありがとうございました。十倉さんの方から、被害者に寄り添い、被害者の声に耳を傾ける報道でなければ、事件報道の神髄を伝えることはできないと。そういう情報を伝えるときの根本になる言葉を頂戴いたしました。本当にありがとうございます。

 それでは、次に警察の立場から、中川さんに、警察における被害者支援の取り組みについてお話しいただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

中川:多くの人々は、平和な日常生活の中で突然犯罪の被害に遭います。突然平和な、平凡な生活が奪われるわけですから、被害者やご家族にとってみると、戸惑い、あるいは困惑し、頭の中が真っ白になると思います。例えば、怪我等の身体の被害があった時、どこの病院に行けばいいのか。治療費はどうなるのか。あるいは入院して仕事を休む場合、大きな障害を負って仕事に就くことができなくなった場合、これから先の生活はどうなるのかなど、不安に駆られる毎日に陥るわけであります。先ほど岩城さんの講演の中にもありましたけども、どうしていいか分からない。だれも助けてくれない。一人で悩むしかないわけです。

 このように様々な問題を抱えた被害者にとって、自分でそういった問題を解決することは、到底不可能です。そういった時に、これらの問題についてアドバイスが欲しい。あるいは、経済的な支援、心のケアといったものを求めるわけです。こういった被害者の方の要望に応えるために、社会的な支援が必要とされているのです。そういった中、警察で行っている被害者支援について、ご紹介をさせていただきたいと思います。

 警察は、多くの場合、最初に被害者の方と接することとなります。最初に接する警察官の言動によって、少しでも被害者の方の苦痛を和らげるために、被害者の方やご家族の要望に沿った各種支援を推進しております。推進体制としまして、警察本部の警察県民センターを中心に、警察本部の各所属、県下12警察署に137人の被害者支援担当者を指定をしております。支援内容としましては、「被害者の手引」を被害者の方に交付しまして、今後の捜査の流れや刑事手続きの概要について説明をするほか、被害者の要望に応じた連絡・相談体制を確立します。そうした中で、被害者の方やご家族の抱える問題に対応をしております。精神的ダメージが非常に大きな犯罪被害者の方の場合は、被害者の方やご家族に付き添って差し上げることが必要なこともあります。時には数日間、昼夜を問わず担当者が付き添うこともあります。

 それでは、警察における被害者支援の取り組みについて申し上げたいと思います。警察では、犯罪に遭われた被害者の方の相談に応じる専用電話、「犯罪被害者サポートテレホン」を設置しまして、平日の午前8時半から午後5時15分までの間、女性警察官を含む2人の係員が各種相談に対応をしております。

 また、犯罪被害者カウンセリング制度につきましては、被害者の方やそのご家族の精神的被害の回復、あるいは軽減を図るために、無償で、臨床心理士の資格を有するカウンセラーによるカウンセリングを実施しております。被害者の方が抱えているさまざまな問題の中でも、精神的な被害というものは非常に深刻であります。被害者の方がご自身の力だけで傷ついた心を回復させるということは、先ほども言いましたけども、非常に難しいという現状の中で、より早い被害の回復を図っていただくためには、専門的な知識や技術を有する専門家に相談し、助言を受けるカウンセリングが、非常に有効であると思っております。そのため警察では、事件発生直後の初期段階において、被害者の方からの要望によって、被害者カウンセラーによるカウンセリングを実施しております。これが中長期にわたる場合には、カウンセリングを行う専門の機関や団体をご紹介をしているところでございます。

 また、公費負担制度についてであります。この制度は、身体被害を受けた場合、診断書経費、初診料、初回処置料などの経費を警察の公費によって負担する制度でありまして、被害者の方の精神的・経済的な軽減を図っております。

 犯罪被害者給付制度について説明をします。この制度は、通り魔殺人等の故意の犯罪行為によって不慮の死を遂げたご遺族、または身体に障害を負われた被害者の方に対して、社会の連帯共助の精神の立場から、国が犯罪被害者等給付金を支給し、被害者の方やそのご遺族の経済的な打撃の緩和をする制度です。本年7月にはこの制度の大幅な拡充が行われており、7月1日以降に発生した犯罪の被害者の方、あるいはご遺族に対して適用されることとなっております。

 次に、関係機関・団体との連携についてご紹介をさせていただきます。犯罪被害者のニーズ、生活上の支援や医療、裁判に関することなど、被害者の方の支援は多岐に渡り、こうした被害者の方の要望に応えるため、平成10年、滋賀県犯罪被害者支援連絡協議会が設立され、現在、検察庁、弁護士会、臨床心理士会、報道機関など、46の関係機関・団体で構成され、相互の連携・協力の下に地域に密着した支援活動を行っております。また本県では、民間被害者支援団体、NPOおうみ犯罪被害者センターが積極的に活動をされておられますが、一層の活動の充実のために、公安委員会から犯罪被害者等早期援助団体の指定を受けるべく、人的・財政的基盤の整備に現在取り組んでおられます。公安委員会の指定が受けられますと、役職のある方に秘密を守る義務が課せられますので、被害者の方は安心して援助が受けられますし、また、被害者の方の同意を得た上で、警察からの情報提供も可能になりますことから、被害者の方のニーズに応じた迅速な支援を行うことができることになります。警察としましても、おうみ犯罪被害者支援センターの公安委員会指定を目指した活動につきまして、注目しているところです。

 以上、警察の取り組みなどについて申し上げましたが、きめ細かい、途切れることのない被害者支援は、警察だけでは到底できるものではございません。県を始めとする関係機関・団体の役割は大きいと考えます。警察としましても、今後も関係機関・団体との連携を図りつつ、少しでも被害者の方やそのご家族の支えとなれるよう、支援の充実を図って参ります。県民の皆さんにおかれましては、この大会を機に被害者支援の充実への理解を深められますよう、また、関係機関・団体の皆様には、一層の積極的な活動をお願いをしたいと思います。

千原:ありがとうございました。警察における被害者支援について、非常にきめ細かくお話しいただきました。県下の警察、137人の担当者がおいでになるということですが、本日、ここにもたくさんおいでになってるんじゃないかと思います。今後ともそういう形でよろしくお願いしたいと思います。

 それでは、最後のパネリストになられましたけれども、被害者が孤立するのを防いで、誰でも行ける総合窓口ということが分かっていれば、心の通った地域ぐるみの支援ができると思います。そういう行政の立場から、福永さんに、滋賀県における犯罪被害者支援の施策の取り組みについてお話をいただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

福永:はい。そういたしましたら、私の方から、県の取り組みということでお話をさせていただきたいと思っております。

 最初、開会の時に知事の方からもあいさつの中でございましたが、滋賀県では平成15年に「『なくそう犯罪』滋賀安全なまちづくり条例」という条例を作って、先ず犯罪を減らしていこうという動き。それは、県民の皆様、そしていろんな事業者の皆様。そして、警察の方々、行政と。これが一丸となってやっていこうということになっておりまして、その中に、犯罪被害者の支援につきましても条例を受けた基本方針の中に位置づけております。それで、知事もおっしゃいましたが、昨年の10月でございますが、犯罪被害者の支援施策の取組指針という県の指針を作り、全庁的に、いわゆる県庁力を最大化し、総合的にやっていこうと考えて、指針を策定したところでございます。

 それでは、この指針の中身について少しお話をさせていただきます。本日「滋賀県犯罪被害者支援施策の取組指針の概要」という、資料を入れさせていただいております。あまり時間もございませんので、主なものだけ、ご紹介させていただきたいと思います。

 先ず基本的な目標といたしましては、一番上に書いてございますように、犯罪被害者に関する問題を社会全体で考え、共に支え合い、安心して暮らすことができる滋賀の実現を目指していくというのが基本的な目標でございます。取り組み方針として二つございます。上段の方にございますのが、重点的な取組方針の1として、いわゆる平穏な日常生活への復帰を、県挙げて支援をしていこうということです。それからもう一つが、下の方にございます、犯罪被害者を理解し、共に支え合う社会を作っていこうということの二つでございます。

 それで、上の方の平穏な日常生活の復帰の支援の中に、先ほどコーディネーターの方からもご紹介がございましたように、情報提供、相談体制というのを先ず充実しようということで、昨年7月に私がおります県民活動課の中に総合的な窓口を設置するということで、犯罪被害者支援アドバイザーという方を1名来ていただきまして、電話相談、あるいは必要に応じて面接なりをしていただく。うちの課で全ての施策をやっているわけではございませんので、相談の内容に応じまして、どちらに相談したらいいのか、いわゆる専門的な機関へ橋渡しをする、そういう窓口。先ずここに電話していただけたら、どこに相談したらいいか。今日お越しいただいています弁護士会のほうの、先ほどご説明がございました法テラスのようなものもございますし、例えば精神的なものでしたら、また専門の部署もありますので、そういったものを相談をさせていただくということでございます。

 やはり中にはですね、いろいろと困っておられる。例えばご家族が被害に遭ったけれども、どこにもなかなか言えない。誰に相談したらいいのか、相手が誠実な対応をしてくれないという相談も私どもも聞いております。そういう時に、できる限り具体的に相談できる先をご紹介していくというものでございます。

 あと、もう一つ下の方に、深刻な犯罪被害からの回復支援というものもあります。これは、どちらかというと精神的被害からの回復支援という形で、やはり最初に警察の方でご対応いただくのですが、その後どうしていったらいいのかというのは、いわゆるメンタルの部分がございますので、専門家、臨床心理士の方などいろいろいらっしゃいます、そういった方々にご相談をいただく。あるいは、日常生活の復帰に向けた支援という形で、国の内閣府でもこういう形をぜひともという形で聞いておりますが、県営住宅に優先的に入居していただく。今いる所にはなかなか住めないという方もおられる場合には、そういったご相談にも応じさせていただく、あるいは安全の確保。この辺につきましては、警察のほうが中心になっていただくと思いますが、そういったものにも取り組んでおります。

 それからもう一つが、犯罪被害者を支える社会づくりということで、いわゆる県民の理解の促進ということです。本日、内閣府さんのご協力の下にと言いますか、中心にやっていただき、この「国民のつどい」という行事がございますが、これを滋賀でさせていただくということで、滋賀県民の方々に少しでも犯罪被害者についてご理解をいただきたいという取り組みをさせていただいておりますし、また併せまして、既にいろんなところにもご案内を申し上げておるんですけれども、これもまた内閣府さんの予算でやっておりますけれども、「命のメッセンジャー」という形で、犯罪被害者の方のいろんな思いを直接聞いていただく。地域、あるいは学校、いろいろな方々に聞いていただくということで、まだこれは今年度の事業でございますが、今からでも、「是非とも一度私達の組織でもやってみよう」という方がございましたら、お申し込みを私ども県民活動課のほうにいただきましたら調整をさせていただきますので、是非ともご活用をいただきたいと思っております。

 あと、いわゆる民間支援団体の支援というのが書いてあります。それは、本日こちらにパネリストでも来ていただいております、NPO法人おうみ犯罪被害者支援センターが、今日の行事にも非常にご協力いただいております。また、それ以外にも組織がございますが、こういったところとの連携になろうと思います。なかなか人的な面、特に財政的な面でセンターは厳しいというお話も私も伺っておりますので、県の財政も非常に厳しいという中でございますが、そこはやはり犯罪被害者の支援というものの重大性を考えまして、県としましても、今後、来年度に向けて精いっぱい努力をさせていただきたいと考えております。具体的なことにつきましては、今この場では申し上げられませんが、私なりにできる限りその点は頑張らさせていただきたいというふうに考えております。

 こういったことで県が取り組んでおるわけですけれども、やはり一番大切なことは、岩城さんのご講演なり、皆様の発言にもありましたけれども、なかなか県の一般の職員は、犯罪被害者に直接お会いするということがほとんど無いと思います。ただ、「無いから分からないんだ」というのでは、何にもならないと思っております。このような方達からお話があった時に、これを自分のこととして考えるということが一番大切ではないのかなと。自分のところの制度では難しいと思った時に、「いや、もうこれは駄目です」というお話をすることではなく、もっと工夫できないのかと。一緒に考えようという姿勢を、やはり県の職員、あるいは本日お見えいただいております市や町の職員の皆様方も、一緒に考えていくことが行政の役割ではないのかなと思っております。

 私は、やはり本当に困っている人を助けるのが行政じゃないのかと強く思っておりますので、そういう気持ちを持ってやることが必要なのではと思います。岩城さんがおっしゃったように、特別なことをするのじゃなくしてですね、できることを、どのようにすればいいのかなということだと思っております。その辺の運用面とか、あるいは気持ちとか、そういったもので変わると思いますので、私どものほうで庁内の連絡の会議も持っておりますので、今日お聴きしました話をまた踏まえまして、県庁内、あるいは市町の皆様がたにも伝えていきたいと思っております。  以上、簡単でございますけど、県のほうの取り組みをご紹介させていただきました。

千原:ありがとうございました。パネリストの皆様には、本当に短時間でメリハリをつけて、取り組みについて熱く語っていただきました。お話を聴かせていただいて、滋賀県では、こうしたさまざまな支援団体、またはメディア等々が犯罪被害者の方々をサポートするという体制が構築されているのではないかという状況を、理解できるようにお話しいただいたと思います。

 そこで、この現状を聴かれまして、岩城さんはどのように感じられましたか。再度お話を伺えますか。

岩城:私は現在、京都府の犯罪被害者支援コーディネーターをさせていただいておりますが、京都府は、今年の1月に全国で初めて「犯罪被害者支援サポートチーム」をスタートさせました。総合的で継続的な支援のために、被害者支援に関わる府や市町村、警察など公的な機関と、民間の団体が連携するネットワークを作りました。被害者専用の相談電話を設置して、直接被害者からの相談も受け付けます。被害者のニーズに応じた支援を判断し、その関係機関や団体に橋渡しをする役割をしています。住民にとって最も身近な存在である制度の実施機関の市町村にも、相談窓口を置くことも大切です。日ごろから市町村の担当者と顔の見える関係を築くために、こちらから出向いたり、研修に来ていただいたりしています。

 府や市町村の連携協力や、各機関の被害者支援制度と人のネットワークは、途切れのない支援体制を作るうえでとても重要です。これは、12年前、私が最も欲しかった制度でした。けれども、被害者のために制度を作ることには時間がかかります。被害者にとって特別な制度が、たくさん必要かなと考えてしまうこともあります。基本計画や制度やマニュアルができても、その制度を使うのは人なのです。私が今の立場になって何が辛かったと考えると、税金を支払っている住民なのに、手を差し伸べてもらえなかったことにショックを受けたのだと思います。公的機関で働く人は、社会の安心と安全を守るために税金が使われているのだと思うのです。一人の問題ではなく、社会的な問題として考えねばならないと思っています。

 最近、「二次被害」という言葉が浸透してきたことで、対応する側に、言葉遣いに気をつけなくてはならないという思いだけが先行し、逆に被害者に言葉をかけることを躊躇されてしまうことがあるかもしれません。けれども、しっかり話を受け止め、共感し、自分のために時間を使ってくれると感じたら、救われるのです。相談者が勇気を振り絞って窓口に訪れた時に、話を聴いてもらえる。どんなことに困り、何を求めているのか、一緒に考えてくれる人がいる。そのことが有難いのではないかと思うのです。たとえ相談者が望む制度が無くてもです。

 私は、息子の同級生が成長した姿を見ると心が揺れます。時には、ふいに侵入してくる精神的な痛みもあります。加害者が家庭を持って、人並みに生活をしているのかなと考えると、複雑な思いもします。被害者にとって事件に終わりはないのです。加害者が犯した罪に対して、自分のしたことを無かったことにされるのがいちばん腹立たしいことなのですが、加害者の情報も被害の回復には必要です。その中で加害者側の弁護士が、裁判が終わってから罪を償うとはどういうことか。子供が二十歳を過ぎていても、親としての責任を果たすことや、誠意を持って取り組むためには、働いて自分で責任を取ることを教えました。そして加害者に就職の紹介をしたことを、私の弁護士から聞きました。そのことがせめてもの救いになっています。

千原:ありがとうございました。本日のパネルディスカッションに参加されまして、会場の皆様方も、今後の課題が見えてこられたんじゃないかなと思います。たくさんある中で、少し整理をさせていただきまして、5つほど挙げさせていただきたいと思います。

 一つは、岩城さんが基調講演で話されました中で、しばらくは自分が犯罪被害者だとは気付かなかった時があったと言われたことがあります。犯罪被害者として支援を申し出られない時の、地域での気付きであるとか、支援についての情報などが、ここにおいでになる県民の皆様方、また他府県の皆様方にとって支援を受けることは私達の権利だという認識が伝わっていただければと思います。それから2つ目は、支援の申し出があった時に、管轄外というのではなくて、途切れない支援体制のネットワークをこれから、たくさんそれぞれ持ってらっしゃるんですが、そのネットワークをどのようにして確かなものにしていくのかということ。

 それから、3番目。制度ができてもそれを使うのは人なんだということでございます。二次被害を与えはしないかという思いで、かえって関われなくなってしまうということを指摘していただいたんですけれども、今後は、具体的な支援のスキルについての研修等々も必要ではないかと存じました。それから4番目に、事件に終わりがないということを今、おっしゃっていただきました。そういう中で、加害者に関する情報を知ることが大事ではないかということをおっしゃったと思います。

 5番目に、最後に岩城さんが、学校でボランティア活動をされてると言われました。暴力では解決しないというメッセージを送られるということですが、やはり息子さんの語り部として、今、さまざまな犯罪被害の予防の方にも力を入れていただいてるんじゃないかと思います。そういう意味での予防的な関わりが地域でも必要であるんじゃないかということを、メッセージとして教えていただいたというふうに思います。

 まだまだたくさんありますけれども、約束の時間も迫ってまいりましたので、最後にパネリストの皆様に1、2分ほど、本日のパネルディスカッションのまだおっしゃっていない点、また、これだけは伝えたいと思っていらっしゃる点を、どなたでもお話しいただきたいと思います。はい、十倉さん、お願いいたします。

十倉:先ず、制度はできたけど、人だよという話です。国の犯罪被害者等基本法というのができて、今まで遅れてたのが一気に国際水準に来たと思うんですね。これは誰がやったのかといったら、犯罪被害者の方達、当事者の皆さんです。そういう人が動いたということで、日本の役所の方達も動かされたというのが現実だと思います。そういう人が何人いるかということだと思います。それからもう一つは滋賀県で、先ほど連絡協議会だとか取り組み指針とか出ているけれども、これは夏休みの宿題計画と一緒で、作ったからって安心しちゃだめなんですよね。まだ宿題も何もできてないんじゃないでしょうか。やはり人が出てこないといけない。特に僕は、県にお願いしたいなと思ってます。警察は10年ぐらい前から取り組んでいて、蓄積があります。経験もあるし、ものすごく真面目ですし、熱心です。熱心さが余って、みんな頼っちゃって、お任せになってないかなという心配です。端から見たことですから、本当はみんなよく頑張ってるのかも分からないけれども、どうもそう見える。だからそこをですね、なぜ県なのかというと、市町の橋渡しをしていただける立場であるからです。人材の育成を県も柱に挙げておられるけれども、県自体の人材を育成しなければならないと僕は思っています。

千原:ありがとうございます。それでは、それを受けていただいて、行政の福永さん。

福永:すいません。今、十倉さんから厳しいメッセージをいただきました。当然、制度を作るのが目的ではありませんので、それが県民の、あるいは犯罪被害者の方々に役立つものにならなければならない。私もそのとおりだと思っております。

 そういう意味から、本日を機会にですね、先ずは県庁内でこのことをみんなで共有できる、そういう形を進めるとともに、先ほどおっしゃいました市町。本日もお越しいただいておりますが、市町も、「うちは犯罪なんかあんまり無いので、関係ない」というような意識をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。でも、こういう犯罪被害者は、いつどこで、誰が犯罪被害者になるか分からないというのが現実でございます、どこの市町に行っても対応してくれる人がいる。そういう人をきちんと置くんだということを、市町の幹部職員さんも含めて県のほうからメッセージとして伝えていって、多くの市町でそういう窓口が…。「多く」というのもよくないですね。全ての市町でそういう窓口が置かれるように、県として頑張っていきたいというふうに思っております。

千原:ありがとうございます。お時間も5分になりましたんですけれども、まとめをさせていただくということでございます。犯罪被害者の立場に立ち、その心を感じ取り、犯罪被害者の方々の尊厳性を守るという目的をもち、しっかりとしたネットワークを構築し、それを動かしていくことが大切であるということを、6人のパネリストの方々からお話をいただきました。

 本日のパネルディスカッションで議論いただきました中で、滋賀県における犯罪被害者支援を発展させるためのよい方向性を頂いたのではないかと。本当に貴重な発言を頂戴したと思います。パネリストの皆さん、本当にありがとうございました。そして、最後まで熱心にパネルディスカッションに参加いただきましたパネリストの皆さんと同時に、本当に真剣にお聴きいただきました会場の皆様に感謝申し上げまして、本日のパネルディスカッションを終了させていただきたいと思います。最後に、ここにおいでの皆々様が、さらに犯罪被害者の方々の支援に活躍をしていただくということを期待申し上げて、このパネルディスカッションを終わりたいと思います。最後まで真剣にご討議下さりありがとう存じました。
 

Copyright (C) National Police Agency. All Rights Reserved.