福岡大会:パネルディスカッション

 
テーマ:「社会全体で支える犯罪被害者等支援のあり方」
コーディネーター:
 前田正治(久留米大学医学部精神神経科准教授・NPO法人福岡犯罪被害者支援センター理事)
オブザーバー:
 大久保恵美子(社団法人被害者支援都民センター理事兼事務局長・NPO法人全国被害者支援ネットワーク副理事長)
パネリスト:
 糸賀美恵(殺人事件被害者遺族)
 東大作(元NHKディレクター・現ブリティッシュコロンビア大学政治学科博士課程後期)
 芦塚増美(日本弁護士連合会犯罪被害者支援委員会副委員長・NPO法人全国被害者支援ネットワーク理事)
 森川友子(九州産業大学国際文化学部臨床心理学科講師)

前田:それでは、早速パネルディスカッションに入りたいと思います。私はこのパネルディスカッションのオーガナイザーを務めます、久留米大学、あるいは犯罪被害者支援センターの理事の前田でございます。よろしくお願いします。

 ただ今大久保さんの話を1時間基調講演として聞かせていただきました。この基調講演を元に今からパネルディスカッションを行っていきます。私は精神科医ですので、一言精神科医として大久保さんのお話の感想を述べさせてもらうと、私も精神科医をやって長い間、被害者の問題なんか全く関心が無いというか、そういう方に触れることも無かったわけですね。精神科医というのは統合失調症であるとかてんかんであるとかそういう病気の方たちによくお会いしていましたが、ある人間に大変な出来事が起こると精神的にどんなふうになっていくのかということは、実は精神科自身余り詳しく知って無かったんですね。自分の病気であることについては、自分の中で生み出される病気についてはよく研究もし、臨床もするわけですけども。そんな中で、被害者の方々たちにお会いしてみますと、これは本当この10年ぐらいのことですが、疾患病気の名前としてはPTSDであるとかそういった病気も、これは悲嘆反応ですね、こういった方々、お会いしてみますと、人がこれほど変わっていくのかと、これはもう本当に衝撃でございました。先ほど大久保さんが、脳が壊れたと、脳が壊れるというか、脳の機能が失調してしまうんだというお話されました。正にそのような変化が起こってくるわけでございます。私は犯罪被害者の方っていうのは、被害を受けた時が一番どん底だろうと思っていました。しかしながら、実際に治療を開始してみますと、あるいは治療に来られるまでの経緯を聞きますと、被害を受けてからがまたどん底になって、また下がっていってしまう、またどんどん具合が悪くなっていってしまうという、これは本当に精神科医としては本当に驚くべきことでございました。いろんなことを今連想しながら聞いていました。余りにもたくさんのことを大久保さんが語られたんで、ちょっとこれは消化不良でございますが、このパネルディスカッションを通じてもう少し詳しく様々な点について討議できればと思っています。

 パネルの進め方ですけども、先ず、手前に座っていらっしゃるパネリストの方から順番にお話ししていっていただこうと思います。先ず糸賀美恵さんからお話ししていただき、続いて東大作さん、そして芦塚増美さん、そして森川友子さん、この4人の方々にこの順番でお話ししていただきます。ただ、時間配分を少し変えまして、糸賀さんには少し長めにお話ししていただき、東さんにも少し長めに話していただき、地元の芦塚、森川さんには少し時間を短めに要点を絞ってお話ししていただくという形で、なるべくその後のディスカッションの時間をきちんと確保していきたいと思っております。では、よろしくお願いします。最初に、先ず糸賀美恵さんにお話ししていただきます。各パネルリストのプロフィールに関してはお手元のパンフレットに詳しく書いてありますので、私のほうでは割愛させていただこうと思っております。糸賀さんはご子息がある事件でお亡くなりになったというご遺族の方でございます。そのご自身の体験からこの犯罪被害者の問題について語っていただこうと思います。では、よろしくお願いします。

糸賀:皆さん、こんにちは。私、東京練馬区というところに住んでおります、犯罪被害者遺族ということですけど、なかなか被害者遺族ってこういう場所でお話しするのはとても大変だという人が多いのですが、このような大勢の皆さんの前で話を聞いていただけることを今日は本当に嬉しく思っております。

 先ず、私が遭った被害の事件の概要[PDF:380KB]からお話しさせていただきたいと思います。私は25歳の長男をかつて1年半ほど交際のあった加害者の女性に、平成14年の5月13日の早朝、寝ている息子の頚動脈にサバイバルナイフを突き刺されて殺されました。口から血を吐きながら「救急車を呼んで」というのが息子の最後の言葉だったようです。加害者は、どうせ助からないから早く楽にさせてあげようと、頭や胸、苦しみながら寝返りを打った背中等、十数箇所をめった刺しにして息子の命を奪いました。その後、加害者は血のついた手を洗い、電話の所に行き、救急車ではなく、自分の親に電話をしておりました。親は「逃げたら駄目だ、自分で警察に電話しろ」とそういう指示を出しておりました。

 加害者の供述書によると、「私の親は小さいころから2歳違いの妹ばかり可愛がって、私には愛情をかけてもらえなかった。そのため、妹をいじめるとなおさら自分は叱られ、母は妹をかばい、ずっとそんな生活が続いていた。小・中学校でもいじめに遭い、仲のいい友達もできず、家にも学校にも居場所が無かった。大きくなってからは、親から受けなかった愛情を男の人に求めることで、親のことは何とも思わなくなっていた。だから、家にはいたくなかった、いられなかった」そんな家を早く出たいと、専門学校卒業と同時に同級生と結婚。でも、そんな理由の結婚生活が上手くいくはずはありません。1年ほどで離婚。結婚している間もその後も何人もの男の人と付き合っていたことを事件後知りました。離婚して実家に戻りましたが、そこにはやはり居場所がなく、アパートで一人暮らしを始めました。そんな時息子と出会いまして、4、5カ月交際していたようですが、その後一人暮らしをしていた息子の部屋に住所を移してきました。息子の住んでいた部屋と私の家は歩いて3、4分ぐらいしか離れておらず、近いうちに結婚するつもりだという彼女の言葉を信じて、2人を家に呼んで食事をしたり、3人でボーリングに行ったり、食事に行ったり、買い物に行ったり、私には息子2人で、女の子がおりませんでしたので、娘ができたような幸せな生活が1年半ほど続いておりました。

 ところが、彼女は息子と交際中に、他に好きな人ができたからという理由で実家に戻りました。実家に戻ってその男性と付き合っているようでしたが、たった2カ月でその男性にも捨てられ、自分の思いどおりにならない人生に絶望して引きこもりになってしまったようです。3カ月ぐらい実家で引きこもっておりましたが、親からはただのサボり癖だと言われ、その家にもやはり居場所がなく、自殺願望を抱くようになりました。行くところが無いからいさせてほしいと息子の部屋へ入り込み、「私には親も友達もいない。ここを出ていったら死ぬしかない」と2回も手首を切って脅していたことを事件後知りました。子供の頃から優しかった息子は「死んだら駄目だ。死んだら何もなくなってしまうんだ」と、数カ月面倒を見ておりましたが、限界だったんだと思います、その年の1月に彼女を親のところに戻しました。実家に帰っても自殺願望から抜け出せなかった加害者は「自分だけが死んだのでは、正和君はこれからずっと仕事もできて、友達も大勢いて普通の生活をしていくのが憎い。自分には頼る人が正和君しかないと言ったのに、実家に帰した」というとんでもない逆恨みで殺害計画を立て、インターネットでサバイバルナイフを買い、その代金を母親に払わせて、そのサバイバルナイフをバックの底に隠し持ち、また息子の部屋へ入り込んできました。

 そんなこととは知らず、以前から親とは仲が悪いと聞いてた私は、よほど実家に居辛いのかと、息子よりも彼女のことを心配して、追い返すこともしませんでした。事件の数日前、彼女の両親が迎えに来た時に偶然息子の部屋の近くで両親に会いました。母親は「娘が行き先を告げず家を出て、居場所が分からなかったんですが、ここにいることが分かって2人で迎えに来ました。正和君には本当に迷惑をかけて申し訳ありません」と深々と頭を下げました。父親からは一言もありませんでしたが、ぺこっと頭を下げました。2人で頭を下げられたことで、やっと連れて帰ってくれると私は安心してしまいました。ところが、加害者は両親の顔を見て逃げ出し、親が迎えに来たことで、早く殺して自分も自殺しなければあの家に連れ戻されると焦りを感じ、「やり残したことがある。それが終わったら帰る」と親にメールを送り、事件の前日の夜、「明日は家に帰るから」と息子を安心させ、翌朝4時45分、熟睡中の息子をめった刺しにして命を奪いました。事件当日、テレビのニュースを見て大勢の友達が家に駆けつけてくれましたが、その時は私は現実から逃避してたのか、20人ぐらい来てくれた友達のためにお寿司を頼み、ビールをついで回って、涙を流している友達の姿を何か客観的に見ていたような記憶があります。翌日のお通夜も葬式もどう終わったのか、途切れ途切れにしか記憶がありません。

 それからの毎日は、食べられない、眠れない、外に出られない、知っている人に会いたくない。もし知らない人でも、会ったら何か噂話をしてるんじゃないかと、そういう気がして、外に出ることもできず、カーテンすらも開けることもできず、とても孤立した生活がしばらく続きました。その背景にあるのは、事件の翌日の新聞報道や、2、3日後に友達が持ってきてくれた週刊誌の記事にありました。週刊誌には、お通夜の時に弔問客を装ってきた記者が息子の遺影の写真と、間違いだらけの、10代で2人は結婚していた、なぜこんなことになったのか、などという、間違いだらけの記事が載せられておりました。死人に口無し、とよく言われますけど、生きてる加害者の言いたい放題で、殺された息子や私達遺族には人権も無いんだっていうことを感じました。事件は今から6年半も前のことです。加害者が自首、自白、2カ月近くもいつ殺そうかと思って狙っていたと、そういう殺意も計画性も全て認めたということもあると思いますが、事件からたった2カ月後に裁判が始まりました。私にとってその時はまだ、息子がなぜ殺されたのかということも分からず、近くに、歩いて3、4分の所に住んでいながらなぜ息子を救えなかったということで毎日毎日自分を責め、私よりもずっと大きかった息子が小さな骨つぼの中に入ってしまって、その骨つぼを私は毎日抱きながら息子に謝り続ける日が続いておりました。

 当時の裁判では、検察官とは一度も話すことも無く、遺族はただ意見陳述ができるということだけで、加害者の量刑を決めるためだけの裁判を法廷の傍聴席でじっと聞いていることしかできませんでした。実の親から逃げ回り、行き場のない引きこもりの加害者を親身になって面倒を見ながら家にいさせてあげた息子がなぜ殺されたのか、それさえも分からず、生きている加害者の刑を軽くするために息子の人格までも否定されたという、そう感じる裁判でした。加害者は、真実を語ることもなく、息子や私達遺族に謝罪をすることも無い裁判でした。もちろん反省の言葉一言もありません。2回目の公判では、先に加害者の親が情状証人として証言台に立ち、その後主人が意見陳述をすることになっておりました。私はあの親が息子にどう謝るのかと待っていましたが、直前になって親は証言台に立つことを拒否し、主人の意見陳述だけになってしまいました。涙でぐしゃぐしゃになりながらの主人の意見陳述が終わり、裁判長が今のお父さんの言ったことを聞いてどう思いますかと加害者に聞いたところ、加害者は涙一つこぼすこともなく、「何もありませ~ん」と首を横に振りました。そしてたった一言「罪を償ったら死んでお詫びをします」と言ったその言葉を私は今でも忘れることはありません。

 加害者の親は事件直後に私達の住所を教えて欲しいと手紙を書いて弁護士に渡していたそうです。最初は謝る気持ちもあったのかもしれません。しかし、弁護士はその手紙を渡すこともなく、加害者の親に「二十歳を過ぎた子供の犯罪は親の責任は問われることはない。接触しないほうがいい」と、そう親に指示を出しておりました。そのため、4回の裁判に親も来ておりましたが、目が合っても頭を下げることもなく、裁判が終わると同時に弁護士と一緒に逃げるように帰っていきました。逃げたいんだろうとは思います。でも、本人も親もそれは人間として許さることなんでしょうか。殺された息子に本当に悪かったと謝ってくれたら、私達もこんなに辛い思いをしなくて済んだのではないかと思います。検察側は懲役13年を求刑しましたが、自首をしていること、事実関係を認めていること、前科前歴がないこと、被告人は若年であること、反省していることという理由で減刑もされました。加害者は25歳。25歳が若年といって救わるのなら、25歳で何の罪もない命を絶たれた息子の人生は一体何で救われるんでしょうか。反省しているといっても、裁判の中では何も出てきませんでした。なぜ反省しているのかといったら、自分の親に迷惑をかけた、自分の親に大変な思いをさせた、それが裁判では反省していると認められてしまったわけです。過去の判例に基づいた1回の裁判が1、2時間の、1カ月1回で4回、本当に簡単な裁判でした。私はこのような事件に遭うまで法律も知らず、息子2人に恵まれ、幸せな生活を送っておりました。事件後、法律を学んでみると、生きている加害者には保護や保障、人権に守られているのに対して、殺された被害者や遺族には何の助けもない法律だということを感じました。それまで私は、本来加害者についた弁護士は、例えば正当防衛であったとか、被害者にもよっぽど重大な過失があった場合の弁護をしているものだと思っていました。そして、被害に遭った人は国や司法から守られているものだと、私はそう思っておりました。ところが、被害者って裁判ではただの傍聴人でしかないということを感じました。

 1年ほど経って私はあの親に、本人は刑務所行っているものですから、親に息子に謝って欲しいと、家へ来てもらって、私は息子に謝って欲しいということを言ったんですが、父親からは「懲役12年に慰謝料は含まれているんですよ」と言われました。私はお金のことを言ってるのではないと言ったんですが、母親には「同じ子供を持つ親として、子供を殺された親の気持ちが分かりますか?」と言ったところ、母親からは謝罪の言葉もなく、「私達も大変な思いをしたんですよ。正和君が追い出してくれたら、こんなことにはならなかった。私達もこんな大変な思いをしなかったんだ」と息子を責める言葉でした。私は苦しくて悔しくて、殺されても悪く言わる息子が不憫で、その夜、走ってくる車のヘッドライトめがけて道路に飛び出しておりました。幸い車が避けてくれて大事には至りませんでしたが、その時の私は主人のことも次男のことも何も考えることができずに、死にたいというよりも、死んだほうが楽になれる、死んだら息子のところに行けると、そういうところまで落ち込んでおりました。

 私の知り合いにも、中学生の時に同級生だった男に、21歳の時にお嬢さんを殺され、3年後に犯人は自首してきたんですけれど、その裁判でお母さんがその被告人本人に傷つけられ、数年後に娘のところへ行きたいと電車に飛び込んでしまったというお母さんがいます。私はそういう命を救わなければならないと今は思えるようになりました。それは、事件から2年ほど経ってやっと被害者支援都民センターと巡り会うことができました。自助グループへの誘いの手紙を頂き、毎月出かけるようになりました。仕事場とか友達の間では事件のことは何も話すことができずにおりましたので、その事件のことに関する苦しいこと、悲しいこと、悔しいこと、そういうことを自助グループのメンバーやセンターの人たちは本当に自分のことのように聞いてくれました。センターの皆さんのサポートや同じ苦しみや悲しみを持つ人の話を聞いたり、また、それまで友人にも話せなかったことを口に出すということで、2年間胸の中に封じ込めていたこの苦しみを吐き出せる場所がある、そんな場所があるということを知り、少しずつ心の中の傷が小さくなってきたということを感じております。

 私は今、被害者支援都民センターの紹介で法テラスの犯罪被害者支援の担当のオペレーターをしております。犯罪被害者等基本法ができてから、更生保護法の改正とか少年法の改正、給付金の改正とか、今年12月からは被害者参加制度とか損害賠償命令制度、あと被害者国選弁護制度などの制度が変わりましたけれど、それを今、例えば法テラスにお電話をいただいた方から裁判所に連絡をして、法テラスの中には千何百人の精通弁護士の名簿がありますので、その中から弁護士の紹介をするという、私もとても荷が重いんですけれど、やっとこんな制度ができたのかと本当に嬉しく思っております。また、事件や事故が起きると真っ先に直面する警察の方とか、自治体の方ですね、またネットワークの方、特に私は司法関係の人には二次被害を受けることなく早い時期から支援を受けられるようになることを望んでおります。私も実はこのような事件に巻き込まれるまで、テレビを見て殺人事件とかがありますけど、「ああ、可哀想に」って、本当にそこまでしか分からなかったんです。今は私達がこういう被害者の置かれてきた現状とか命の大切さということをこういう多くの人たちに聞いていただくことが犯罪の防止にも繋がるんではないかと考えております。

 被害者も自分の力である程度は立ち直らなければならないと思います。でも、そのためには先ず周りの人たちの温かい言葉がけや理解が必要だと感じております。また、誤った報道や興味本位の報道によって、自分を責めたり、周りの人との距離を置かざるを得ない環境に陥ってしまう人も多いのかと思います。私の場合は、幸いなことに都民センターと知り合うその2年間の間にも、息子の友達に助けられておりました。25歳というのと、近くに住んでいたっていうことがあるのですが、例えばこれが息子が遠くで事件に遭ったりとか、あと小さい子供だったっていう場合はとても子供の親との距離もすごく離れてしまうっていう被害者の方もおります。そういう人に対しても、周りの人の人間関係というのが、人と人との繋がりですよね、それが私にとっても一番必要だったんではないかということを改めて感じております。私は、息子の友達にも今でも感謝しております。あと都民センターと出会うことが無かったら、いつまでも人を憎み、苦しい悲しいといって、いつ死んでもいいという投げやりな人生で一生が終わってしまったのではないかと思っております。都民センターにはそういう意味で本当に感謝しております。ぜひ皆さんにも、全国にもっと身近に、自治体など相談できる窓口を是非立ち上げていただきたいと思っております。ありがとうございました。

前田:糸賀さん、本当にありがとうございました。糸賀さんには加害者に対する許せない思いというのを話していただきました。それから、後のほうでは、様々な人との出会い、これが糸賀さんをある意味で回復、回復というか、一縷の望みを与えたんだろうと思うということで、特に都民センターの存在とか大きかったんだというお話を聞きました。私は糸賀さんの話を聞いていまして、勝手な推測ですけど、母親として何ができたんだろうか、あるいはそういったことでずっと自分で責め続けられてきたのではないかなと思って聞いておりました。非常に感銘を受けました。

 それでは、東大作さんのほうにお話をしていただこうと思います。東大作さんは私は個人的には非常に親しい人であります。元々NHKのディレクターでございまして、この犯罪被害者支援の問題に以前からずっと深く詳しくメディアの一員として関わっていただき、そしてまた素晴らしい番組をたくさん手がけて、この被害者支援の世論作りに大きな一役を買ったと思います。現在はブリティッシュ・コロンビア大学で博士論文の制作に明け暮れている毎日だと思いますが、今日はバンクーバーのほうからこちらに来ていただきました。東さん、よろしくお願いします。

東:今日はこのような席にご招待いただきまして、本当にありがとうございました。今、ブリティッシュ・コロンビア大学のアピーチディキャンディデートという形で、戦争などにどう平和を構築するかという平和構築の研究をしている者です。ただ、私は1995年から99年まで福岡におりまして、その時はNHKの福岡支局のディレクターだったわけですけが、ガルーダ航空機事故の被害者の方の精神的ケアに関する番組を前田先生と協力して作らせていただいて、それが前田先生との出会いでした。それ以外にも、志免町というゴミの処理に苦しむ町の自治体の状況を取材して作った「クローズアップ現代」ですとか、HIV感染者の診療ネットワークを作ろうとする開業医の方の動きを追った「クローズアップ現代」ですとか、あと、福岡の10の病院が行った縛らぬ介護、つまり拘束性、痴呆性の老人に対してですね、病院ではもう縛らないというのを宣言した病院を1年間取材しまして出した「NHKスペシャル」ですとか、そういった番組を福岡で作っておりました。その後、2000年に東京に転勤しまして、政治番組班に最初2年、その後遊軍に5年いたわけですけども、その間、ここのプロフィールに載せていただいたような番組、国際紛争に関する番組と並行してずっと取材させていただいてたのがこの犯罪被害者の問題で、今日はそのことの私が体験してきたことと、私がずっと見てきた犯罪被害者の方の運動が実った形で今回法改正がなされ、明後日から制度が実施されるわけですけども、その制度の実施に向けてどういう課題があるんじゃないかと私なりに思っていることをお話しさせていただければと思っています。

 私がこの問題について関わったのは非常にはっきりしておりまして、2000年に、現在全国犯罪被害者の会と言われている「あすの会」という会が発足しまして、糸賀さんも今会員になっておられると思うんですが、岡村勲さんという、当時日弁連の副会長とかもされた後、代理人を務めていた会社を恐喝していた恐喝犯が、その恐喝を止めるようにと手紙を書いた岡村弁護士を逆恨みして、岡村さんを殺すために何度か家に入ろうとしましたが、最終的には岡村さん自身に会えないということで、全く関係のない奥様に刃を向けました。彼自身が弁護士になって38年後に初めて被害者になったということが今から13年ほど前にありました。彼は2年間ぐらい夢遊病者みたいな形で生活されておりましたが、2000年にほかの5人の被害者の方と一緒に「全国犯罪被害者の会」というのを立ち上げて、そこで正に被害者の方の権利とその後の保障というその二つを運動の目的に掲げて活動を開始されました。それを私は岡村さんと一緒にその会の運動をずっと取材をして、2000年の10月に、最初に「NHKスペシャル、犯罪被害者はなぜ救われないのか」という番組を放送させていただきました。その後、2002年にその犯罪被害者の会がドイツに調査団を派遣しまして、岡村さん自身がドイツに行き、いかに犯罪の被害に遭った方が刑事裁判の中に実際に参加し、検察官の隣に座って、自らの弁護人と共に刑事裁判に参加しているかというのを実際にこの目で見る、しかもその状況をドイツの裁判官が模擬裁判をしてくれまして、それをすべて撮影させてくれるということがありました。

 それと同時に、ドイツには「白い輪」という組織を中心として犯罪被害者の方に対する非常にきめ細かい法律支援もしくは経済的支援が行われておりまして、かつ一生の後遺症を負ってしまったような方に対しては、当時のお金で月20万円ぐらいの年金を一生保障するというようなことも制度として既に確立されていたんです。それは別に最初から始まっていたわけではなくて、先ほど大久保さんからもお話がありましたように、昔はドイツも全くそういう被害者の方に対する配慮というのはなく、裁判、司法における証拠品として扱われていたという現実はありました。それは、僕がインタビューした裁判官の人も検察官の人も弁護士の方もみんなおっしゃっていました。だけど、それではいけないということに気が付いて、ドイツの中でそれを訴え始めた被害者の方や、そのことに感銘を受けてメディアで訴え続けた方、いろんな方の動きがありまして、これではいけないということで一連の法律改正が始まりました。今現在においては被害者の方が刑事裁判にも参加できる。そしてその中で、民事裁判を起こさなくても損害賠償を請求できる。かつ、損害賠償を請求しても、加害者にお金がない場合が非常に多いですから、加害者にお金がない場合、国が肩がわりして保障するということもドイツではされていると。しかも、それに加えて「白い輪」という民間支援団体が全国に何千人というボランティアを抱えて、被害に遭った方がいればすぐにそこに駆けつけて、法律に関する情報を提供したり、それについての支援をしたりということをやっているというのを実際に現実に見て、それを番組にして「クローズアップ現代」で放送したり、最終的には「NHKスペシャル」でも再度放送させていただいたりしました。この犯罪被害者の会の運動というのは、まさに大久保さんが1人で始められたその支援センターもしくは支援というものとある種の車の両輪となって、現在の被害者の方の権利と保障に向けた運動を作っていったものだったと思っています。

 その後、犯罪被害者の会で支援というか署名活動もしまして、それを小泉さんに直接渡すということもあり、直接法改正も訴えられて、そのことを受けて小泉さんが自民党と政府両方に検討するように指示を出しました。その結果、自民党が2004年に被害者の方の権利に関する中間報告を出しました。これを受けて2004年の12月に犯罪被害者等基本法が成立したと。これがまさにこの国においての画期的な転換点でありまして、これを基に、正に今日行われているような内閣府を通じた犯罪被害者の検討委員会も作られましたし、継続してこの問題について国として対応していくということが正式に国会を通じて決まったのです。しかも、これは与野党が衆議院参議院ともに全会一致で賛成してこれをやりましょうとなったことは、本当にこの問題をまだ全くのゼロの時から取材してきた人間としてはまさに感無量のものがありました。私は2004年の段階で、元々持っていた目標なんかもあってNHKを辞めて、ブリティッシュ・コロンビア大学のMAの修士課程の学生になったわけですけども、そういった2004年に基本法ができたことなども踏まえて、2006年に、実際のその基本法の後にできるはずの被害者の参加制度とか損害賠償制度を後押しするためということもあり、講談社から『犯罪被害者の声が聞こえますか』という本を出させていただきました。さらに去年できた実際に法制の改正を受けて、今年の4月に新潮文庫からこういう形で『犯罪被害者の声が聞こえますか』という本を出版させていただいて、私なりにできる範囲でやれることはしたいと思って、この10年間過ごしてまいりました。

 そういった立場から見て、まさに明後日から始まる法律、新しい制度の中での課題ですが、幾つかございまして、一つ、ずっと取材をしてきた者として不安に感じておりますのは、司法に実際に携わっておられている裁判官や弁護士の方、検察官の方が、どこまでこの法律とか制度が変わったという趣旨を十分に把握されて、その精神に則った、被害者の方に配慮した運用ができるのかどうかという点が、すごく大きな問題として今後浮上してくるだろうと思うのです。先ほど大久保さんからも糸賀さんからもお話がありましたように、被害者の方が、最もかけがえのない者に対して、それを殺めた者が中傷したり誹謗したりすることを黙って見てなければいけないということ自体がものすごい二次被害を生むんだという点については、僕自身は経験したことが無いから分かりませんが、生むんではないかという確信は私なりにあって、これは直さなきゃいけないと思い、私なりに番組を作ったり本を出したりはしてきました。

 ただ、実際にそれを運用するとなった場合に、では、どの段階で、どういう形で参加していくのか。もしかしたら裁判が始まった段階ではまだ被害者の方は、実際にバーの中に入って検察官の隣に座って加害者と向き合って対峙することができない方もいらっしゃるかもしれない。だけど、その時に、これは選択肢として参加しないことはできるんですよ、できるんですが、全く参加しないという選択肢をするのか、もしくは最初は代理人の方に中に入っていただき、自分は傍聴席にいて進展を見守る、でも、その中で加害者の言っていることを聞いて「これは許せない、これについてはどうしても反論したい」ということが出てきた時に、弁護人の方とも打ち合わせをして中に入って、自らが質問する場合もあるかもしれません。弁護人、つまり代理人の方にしてもらうこともあるかもしれないし、新たな証拠を提出する場合もあるかもしれないし、最終的に求刑、つまり「検察官が5年と言っても、私としては10年をお願いしたい」ということも言うかもしれない。でも、それはその被害者の方の極めて精神的に傷を負った状態の中でのプロセスを見ながら、単に被害者の人と一緒に歩む弁護人、つまり代理人だけじゃなくて、それを実際に一緒に裁判を作っていく裁判官の方とか検察官の方とか、みんながその状況をある種配慮しながら運用していかなきゃいけないと。

 これは、5年ほど前に前田先生にこういうことが起きるかもしれませんねって話した時、「いやあ、東さん、これ起きたら革命ですよ」という話を前田さんがされたのを僕はよく覚えています。やっぱり革命的なことなんだと思うんですよね。それをこういうふうに変えたからこんなにいろいろ問題が出てきちゃってよくないじゃなかっていうことじゃなくて、いかに本当にいいものにしていくかっていうのは正にこれから。司法の方々、そして実際にその司法の方々も含めて一生懸命やられているものを、うまくいったといって報道してくださるマスコミの方がいれば、さらに頑張ろうという気になれるでしょうし、もし問題があれば、きちっと指摘して報道するというような中で是正がされていくという、メディアの方も含めて全体としていかにこの問題を良くしていくか。そこに支援センターの役割も入ってくるんだと思いますが、これが非常に重要で、制度ができたことはすごくいいんですが、それをいかに本当に魂の入ったものにできるかというのは正にこれからの問題であると思います。

 そのことについて一つ非常に象徴的なことを申し上げますと、こちらの福岡に来てから一つご紹介いただいた『西日本新聞』さんの記事なんですけが、福岡で地裁で行われた模擬裁判の様子というのがこの『西日本新聞』に出て、写真も載っているわけですね。これを見ると、犯罪被害者の方とその代理人の方は検察官の後ろに座るという形になっているわけです。しかも、検察官の方たちは、証拠の内容とか陳述調書とかいろんな裁判で出てくる資料を見るためのモニターが付いているわけですけども、この写真を見ても、実際にその模擬裁判に出られた方に聞いても、被害者の方とその代理人のところにはモニターが無かった。これは結構一つの象徴的なことなんですが、本を宣伝するわけではありませんが、私がドイツに行った時の模擬裁判の写真がここに出てますが、やはり検察官の隣に被害者とその代理人がいて、全く同等な形で参加するという形を取っているわけですね。これはかなり大きな違いを生むことがありまして、一つは、ずっと被害者の方が訴えてこられたのは、重大犯罪においては加害者と会えるのは裁判の場でしかないという事実があるわけです。裁判の場でしか会えない。その裁判の場で自分の言いたいことをきちっと相手に伝えたり、もし相手が本当に自分に対して謝罪の気持ちを持ってくれているなら謝罪の言葉を伝えて欲しいという思いがあるわけです。だけど、その被害者の方の前に検察官が立っていると、それが直接することができなくなる。そうすると何のためにこの制度を入れたのかという一つの根本的な疑問が生じてきてしまう可能性があるわけです。

 もう一つは、実際に日本の今回の制度設計においては、検察官の了解を得た上で初めて被害者とかその代理人は質問をしたり証拠を提出したりできることになっているわけですが、検察官の人の了解を得なければならないにもかかわらず、しかもその後ろに座っていなくてはいけないとなると、ある種の従属感というか、独立性が少なくなってしまうという面もあり得るでしょう。もし明日、犯罪被害者の会で模擬裁判をする時は、その時は先ず必ず検察官の隣に被害者と代理人が座っていると思います。それが当たり前だと東京では思われています。それが実は都道府県ごとに座り方が違うというようなことになると、それは制度の運用をしていく上で非常に大きな問題になると思うんです。ただ、これは始ったばかりですから、どこの都道府県でもどんな制度でも最初から完璧ということはないわけで、僕はそれ自体をどうこう言う気は全くないんですが、そういうことも含めて、お互いに支援センター同士、もしくは関係省庁同士連絡、もしくは相談、話し合いを続けて、少しでもよりいいものにしていくと。

 それをやる時に、なぜそんなに工夫を凝らしたり、これまでやってきたことを変えなきゃいけないんだろうかという疑問を持つ方もいらっしゃるかと思うんですけど、それは2005年の基本法を受けた基本計画の中で、今までのような、社会秩序を守るために裁判とか司法というのはあるわけではなくて、それもありますが、同時に被害者の人の権利・利益を保護し、守る、それを尊重する、回復する、そのためにも司法の目的はあるんだということを正式に書き込んだんですね。そこで実は裁判の目的は大きく変わってしまっていて、一つにはきちっとケアを、罪を裁いて社会秩序を守るっていうことはあるけれど、一方で被害者の方の回復を図っていく最初の一歩なんだというふうに、裁判の定義、裁判の目的を日本は変えたんです。そのためにはこれからいろんな意味で、もちろん僕みたいにここで言うのは簡単ですが、日々日常の中でそれを作っていくことっていうのは本当に大変なことだと思いますが、それを被害者の声に耳を傾けながら、一遍には上手くいかなくても、少しずついい方向に向いていっていただけれたらなと一市民として思っています。私自身いつ被害に遭うか本当に分からないというのは現実でありまして、実際に自分がそういう目に遭ったら、藁をも縋る思いでいろんな人の支援、情報提供、そして法律的な制度を利用して自分自身の回復を図るということをしたいと思うんです。だから、そこはそういった気持ちに応えていける、いくっていうのは、日本という国を少しでもよくしていく上でも非常に重要なことだと思いますので、まさにこういった支援とか、またこの裁判に関わるいろんな司法制度関係者の方ですとか、または一般の人としてボランティアとしてこういった問題に関わる方、全ての方の今後の本当にご活躍とかご努力を期待したいと思っています。

前田:ありがとうございました。東さんからは、犯罪被害者等基本法の成立、ここに至るまでの経緯を非常に分かりやすくお話ししていただきまして、特に取り分け今、明後日から始まる、来週から始まります司法制度改革の具体的な短長について東さんの思いをいろいろ聞かせていただきました。また先ほどの『西日本新聞』の記事ですかね、検察官の後ろに被害者がいるということ、検察官の肩越しにじゃないと主張できないということ、これはそもそものこの司法制度改革の精神というか、魂がどこに行っているのかなというのは今の話を聞いて本当に思いました。どうもありがとうございました。

 東さんからそういった、特に司法制度改革の後の、改革後の運用の問題の一端も聞くことができたんですが、これについてさらに芦塚さんのほうからご意見をいただこうと思っています。芦塚さんは地元福岡の弁護士でいらして、福岡県の犯罪被害者支援委員の委員長をされてたり、あるいは日弁連でもそういった仕事をされています。福岡犯罪被害者支援センターの理事もされています。そのようなお立場で、特にこの司法制度改革について芦塚さんのご意見を賜りたいと思います。よろしくお願いします。

芦塚:高いところから失礼いたします。福岡犯罪被害者支援センターの芦塚と申します。全国ネットワークの理事もしております。

 私が犯罪被害者の問題に取り組むようになりましたのは、前に座っていらっしゃいます内川理事長との知り合いですね、内川理事長から勧められてこの支援活動に入るようになりました。平成11年7月に準備会がありまして、内川理事長から来ないかと言われて、そこから延々と今日まで続いております。この準備会に行きますと、ドクターの方々、内閣の先生方がいらっしゃいまして、そこから医療・福祉・法律の連携ということを打ち出してまいりました。特に自治体では厚生労働省の通達に包まれて医療とか保護の行政をなさっています。大学病院は最先端の医療をしたい、どうしてもギャップが生じます。そういう厚労省のあの膨大な通達を読み解くにはどうしても弁護士が必要ということで、私が介入いたしまして様々な支援活動を行ってました。福岡の弁護士として、福祉が充実であるということ、福祉が大切であるということを打ち出しておりまして、それが犯罪被害者等基本法第14条、福祉サービス、医療サービに結びついたんではないかと自負しております。

 先ほど武居副知事からご案内のとおり、今年から福岡犯罪被害者支援サポートセンターを福岡県、北九州市、福岡市委託として開設いたしております。5月の県知事の記者会見では、「熱心な人だから委託する」と麻生知事におっしゃっていただきましたので、その熱心さに、その言葉に負けないように頑張っていくつもりでございます。お手元に資料がありますとおり、電話相談、カウンセリング、支援制度紹介、付き添い支援等をやっております。様々な支援活動をやってまいりました。今日は被害者の方もたくさん来られています。「あすの会九州集会」を始めとする被害者の方も来られていまして、入り口にパネルがあったと思いますが、「あすの会」の活動のパネルがあります。お帰りに是非ご覧いただきたいと思います。私もある事件を通して岡村勲弁護士と知り合いになりまして、私が岡村勲先生の事務所に行ったり、あるいは岡村先生が私の事務所に来たりして、そういう交流が続いております。岡村先生がこの参加について様々な活動をなさっているということを知って、ささやかながら、本当に僅かな力でありますけども、協力してまいりました。

 「あすの会」の九州集会といたしましては署名活動を平成15年2月に行っております。パネルに署名活動であったと思うんですが、平成15年2月に博多駅で開催しました。当時は非常に寒かったんですけど、カイロを持ちながら被害者の方が署名活動をなさっておりました。私も立ち会いましたけど、本当に寒い中、活動なさってまして、光市の本村洋さんも来られていましてね、寒い中コートも着ないで寒そうにしていたのを覚えております。それが本村さんとの最初の出会いでした。そういうようなお付き合いもあります。「あすの会」は全国活動で人形劇というのを開催いたしまして、ストーリーはご家族を殺された犯罪被害者のお父さん・お母さんのストーリーでございます。全国各地で開催いたしました。私も、福井、北海道、鹿児島、佐賀の4箇所で見ておりま。「あすの会」の方がそういう人形劇で様々なアピールをされました。弁護士もまた協力いたしました。静岡と東京の弁護士が中心、あるいは被害者の方も一緒にいました。

 今から4年前に訴訟参加制度案要綱というのを作り、3年前に附帯私訴制度案要綱というのを作りました。これは「あすの会」のホームページで閲覧可能な状態です。この制度案要綱が今回の参加の原案になっているというか、大幅に削られた部分がありますが、基本理念は特に一緒。特に「附帯私訴」とは言わないで「損害賠償命令制度」と言っています。刑事の裁判中には民事を止めておいて、刑事判決後に民事を復活するやり方、これはこの弁護士たちが考えたすごく素晴らしい制度であります。私も3年ぐらい前にこの法案を見せられまして、その親しい弁護士から、これはちょっと法制審通らないよと正直言ったのがもう、法制審議会というのは政府の審議会の中で一番権威がある審議会でございまして、東京大学の教授、京都大学の教授、裁判官、検察官ずらっと揃って、日弁連もいますけども、そこで法案を通さなきゃいけない、全会一致が原則、そこでも違い過ぎるということでもう、そういう会話を3年前にしたのを覚えております。

 やがて、先ほど東さんのお話があったとおり、岡村先生の話がありまして、非常に感動的な話、これはインターネットで取り出した資料ですけども、平成19年5月29日に法務委員会で岡村先生がお話しになって、切々と今までの自分の言葉で話されております。「私が犯罪被害者の遺族になって、美しいと思った刑事司法がいかに被害者を苦しめてきたものであるかということを身をもって体験したのでございます。企業を恐喝してきた男が要求に応じなかった代理人の私を逆恨みして自宅に押しかけ、不在だった私の代わりに妻を殺害するという事件に遭遇した。弁護士になって38年目のことでした」ということです。「当時は今と違って、情報提供もなく、遺族が事件の真相を知ろうとするためには傍聴しかありませんでした。しかし、法廷でのやりとりや証人尋問は聞くことができても、目撃者の供述調書等は朗読されることもありませんでした。傍聴しただけでは詳細を知ることができませんでした」。これは先ほど糸賀さんのお話と全く同じですね。こういう状態でありました。こういう話を経て、やがて国会で成立していきました。この新しい法案は学者の方も協力してくださいまして、法務委員会の参考人審議質疑で東京大学法学部教授の大沢先生がお話しになっております。「犯罪被害者等基本法の趣旨とするところと突きつけ合わせ、刑事裁判の目的ないし構造を維持しつつ、被害者の方々の尊厳に配慮しつつ、適切な訴訟参加の機会を開こうとしたもの」と言うことができます。これは東京大学法学部の先生が、「決して今の刑事訴訟の根幹を変えるものではない」と。検察官のコミュニケーション、検察官の主体性をある程度残すという、ここで「あすの会」から見れば少し妥協が入っているんですけども、やはり東京大学法学部の教授の先生の考えでは、検察官のコミュニケーションということで、ある程度検察官のコントロール権を残す形で法案を成立させていただきました。これが制度の内容であります。

 制度の内容ですけども、新聞報道等とかを見ますと、被害者が質問するのが当然の前提みたいに言われているんですが、これは違います。参加について5つの権利があります。5つの権利とはどういうことかと申しますと、最初に1つ、被害者が公判期日に出席すること、つまりバーの中に入ること。在廷権ともいいます。出席権です。検察官の権限行使に対し意見を述べること、これが2番目です。様々な要望を検察官に対し言える。つまり「あすの会」の主張はフランス型の私人訴追を認めるものでしたけども、そうじゃなくて、先ほどの大沢先生にあるとおり、ある程度検察官のコントロール権を優位にしたために、じゃあ被害者に何を残すかということで、被害者側から検察官の権限行使に意見を述べるという規定を設けております。3番目、証人に尋問すること。そして4番目、被告人に質問すること。5番目、事実関係や法律関係の適用について意見を陳述すること。被害者論告ともいいます。この5つの権利があります。この5つの権利には全部行使してもいいし、1つ行使してもいい。つまり在廷権の行使、黙って座っているだけでもいいわけです。これが参加制度。質問はしなくてもいい、これが参加制度です。新聞報道で質問が前提だなんて書いていますが、それは違います。この5つの権を被害者が行使してもいいし、被害者参加弁護士に委託してもいいわけです。だから5×2、ここの最低限10通りのやり方がありますから、あと2個か3個か組み合わせたら、様々な組み合わせがある。それだけ被害者の心情に配慮する形を取っております。

 だから、大沢先生の話にあるとおり、刑事訴訟法の基本構造を変えない範囲で被害者の様々な要望に配慮するのが今度12月1日からある参加制度でございますので、理解をしていただきたいと思います。この点につきましては、法テラスのホームページに詳しく書いてあります。だから、性被害の方は今まで全く行けませんでしたけども、弁護士さん、代わりに裁判に行って様子を見てくださいと、弁護士の傍聴だけも可能です。あるいは性被害の方は、論告ですね、求刑ギリギリ言ってやりたいという方もいらっしゃいます。検察官、量刑がありますからいろいろ言えるとか言えないとかあるんですけども、参加弁護士は求刑ギリギリ堂々と言えますから、こうやって被害者の要望に応える制度ということです。

 だから、マスコミの方もいらっしゃるかと思いますが、参加制度は決して質問を強制するものではなく、被害者に配慮した制度であります。私達被害者の弁護士といたしましても、質問はしてもいいし、しなくてもいいです、そういう案内をしています。質問は、できる時にしてください。ある被害者の方、地方裁判所だとできないかもしれない、高等裁判所ではやれるかもしれないとおっしゃられた方もいらっしゃいます。そういう方で、現行法の刑事訴訟法の基本構造を変えない範囲で被害者のニーズに応えるのが新しい参加制度です。ただ、参加制度は殺人、傷害など重大犯罪に限られるということと、起訴後の制度ですから、起訴前に告訴したいというのは、これは参加制度ではなくて、これはまた法テラスの法律援助事業になるんですが、予算の制約上限られていまして、起訴後になっています。まだまだ不成熟なところがあって、「あすの会」の方には申し訳ないと思っています。こういった制度がありますので、これは大学の先生たちが精密に議論してできた制度であって、決して刑事弁護を混乱させるものでもなく、裁判をめちゃくちゃにする制度でもないということを是非ご理解いただきたいと思います。

 以上です。

前田:司法改正に伴う刑事訴訟法の改正、あるいは附帯私訴の問題についてかなり詳しい問題点を明らかにしていただきました。実際のところ、私も話を聞いてても、何度聞いてもよくわからない難しいところがあります。先ほど芦塚さんが言われたように、たくさん運用の方法があるんですね。いろんな方法があって、かなり柔軟にできるわけですけども、言葉を変えると、弁護士さん、あるいは検察官の方によって随分やり方が違ってしまって、かなり法の改正の趣旨を理解していただかないと有効に使えない可能性があるということ、その危惧を芦塚さんはお話しされたんだと思います。これについては後ほどまたディスカッションをしていきたいと思います。

 さて、最後になりましたけども、森川さんのほうからお話を賜りたいと思います。森川さんは臨床心理士でございまして、この福岡県で活躍されております。福岡県警の「ミズ・リリーフ・ライン」という被害者の方々の電話受付のホットダイヤルのようなところがありますけども、そこの初代のいわゆるカウンセラーとして警察の中から被害者の声をずっと聞いてた方でございます。森川さんのほうには今までのパネリストと違いまして、性犯罪被害の問題、森川さんは女性でらっしゃいまして、性犯罪被害の問題にずっと関わってらっしゃっいました。性犯罪被害者の問題について今日はお話ししていただこうと思います。よろしくお願いします。

森川:ありがとうございます。失礼してお話しさせていただきたいと思います。お手元の資料[PDF:208KB]のパワーポイントの形になっている分がそうでございます。

 私は平成8年に警察に入りまして、犯罪被害者の相談電話を担当いたしました。それまでも心理士をしていたんですけども、電話相談でよその機関で、警察に相談電話ができると聞いた時に、ああ、そういえば被害者の方の相談っていうのをほとんど電話相談で受けたことがなかったなとその時改めて気づいたような状態でした。やはり専門の窓口が無いと被害者の方はかけてもこられなかったんだなと痛感をいたしました。そして、それから6年半の間電話を担当しました。性犯罪の被害については、そのころからテレビドラマがあったりして、被害者に関する情報というか、こんな心情になるんだということを一般の我々も知ることができるような状態にだんだんとなってきたわけですけど、お手元の資料の「性犯罪認知件数」というのを見ていただくと、平成10年がこの程度、次のセルが飛んで17年になっておりますけど、件数としては強姦と強制猥褻合わせて減ってはいないという、いまだ深刻な状態があると言えると思います。性犯罪というのは魂の殺人としばしば言われますように、非常に恐怖感が強く、本当に生きた心地がしなかったと多くの方がおっしゃる。そのデータは警察の科警研の調査で、被害者の方々にアンケート調査をした結果では、その被害中にどうでしたかという問いに「とても怖かった」という方が強姦の被害者では87.3%、強制猥褻の方では78.2%ということで、非常に死の恐怖を感じる被害であることが言えると思います。

 その後もいろいろな非常に苦しい状況が続くんですが、右のページに行きまして、心理的な反応や症状で言えば、大久保さんのほうからかなりご説明がありましたので、お分かりかと思いますけど、PTSDに値する過覚醒や再体験、回避とか、こういったものに加えて、非常に長く体の調子が整わないとか、あるいは「否定的自己像」と書きましたけども、自分がつまらない人間のように思える。それは被害の最中に結構長い時間加害者と接して、尊重とは全く逆の扱いを受けるということの感覚が残っていたりとか、あるいは、もうこんなことを早く忘れて本当の自分に戻りたいと思ってもなかなか心身が整わないということで、自己嫌悪になっていかれるということで、長期間の苦痛がある、そのことを電話でも本当に日々感じておりました。

 こういった心理的な症状の他にも、被害者の方っていうのは非常に大きな問題として、再被害に遭うんじゃないかという不安があります。具体的に、性犯罪は屋外よりも屋内のほうが実際は多かったり、自宅ですね、今福岡県で言えば、マンションの鍵が開いているところを一件一件回って、犯人が、たまたま開けてた家に侵入してという被害が多いというふうに報じれていますけど、そのように自宅を犯人に知られているという問題。それから、被害の時に被害者の持ち物を犯人が持っていくことがあり、こちらの情報をまだ犯人が持ったままでいるとか、あるいは被害時にビデオを撮影されたといったことから、犯人が自分のことをよく覚えていて、また来るのではないかという不安にさらされるという問題があります。実際に犯人が再接触してくるケースも少なくないです。犯人が捕まったら捕まったで、出所、今は被害者の連絡制度がありますから、何年の刑でいついつ頃には仮出所の可能性が出てきてとか、あるいは出所の1カ月前には出所があるというふうに連絡がある等するわけですけど、でも、それで身の安全を守ろうと一生懸命なさったとしても、完全っていうのは無いとどの被害者の方もおっしゃる。だから、実際出てくると聞いた時のこの気持ちの悪さといいますか、そういうような非常に身に迫った不安がございます。

 それから、この資料[PDF:208KB]で3と書いてる見出しのところですけど、性犯罪で言えば、身体面の治療も必要になってきます。ちょっと話の時期が前後して申し訳ないんですが、被害直後から婦人科関係の問題がありまして、性犯罪の犯人は何十人と被害者を作っていることがしばしばありますので、被害者のほうも性病に罹らされたという不安があったり、また妊娠の不安などが出てきます。そういうことを予防するためには、被害者は婦人科関連の治療が必要なわけです。妊娠については、例えば緊急避妊薬、ピルの大量服用をすると妊娠を大きい確率で防げるっていうことがありますから、早期治療が非常に重要なんですが、被害者自らそのことを知っていることは少ないので、早い段階でどこかに相談していただいた方は情報をお伝えできますが、そうでなければ、時期を逃すということもあります。

 そうやって本当に婦人科に行くこと自体も慣れないことで苦痛が大きいんですが、その後のもし警察に届け出たい等で司法の手続に乗っていく場合、被害者にとっては全く馴染みのないことばかりです。手続については、本当にどうしたらいいか見当がつかない。その辺の警察署でいいのか、それとも本部に行ったほうがいいのかなど、あるいは民事、刑事とは聞くけど、何のことか、それから届け出をしたい、したくない、いや、でもしたいということで、一番被害者の方が心に思われるのは、やはり思い出して話すのがどのくらい辛いことなんだろうかと。非常に辛いんじゃないか。それから、みんな届け出したくない、100%届け出したくないという方ばかりじゃなくても、何割かは届け出したいけど、その残りの何割でもうこれ以上の思い出す苦しみは耐えらないということで諦めておられる方が多いのではないでしょうか。確実なデータを採ることは難しいと思いますが、何割ぐらいの人が警察に届けるのかという調査でありましたら、被害に遭われた方の10%ぐらい、高く見積もってそのくらいではないかと言われていますので、残りの9割の方は非常に逡巡されながら胸に納めておられることだと思います。もちろん捜査になりますと思い出して辛いとか、あるいは警察に届けなくても、損害弁償請求をしたい、犯人に国から罰してもらうよりも身をもって自分に償ってもらいたいという方は民事的な手続のほうを望まれますが、裁判にかける前に示談ということをしたいけど、どうしたらいいか分からないとか、示談に相手が応じないとか、いろんな困り事と言いますか手続の悩みが出てきます。

 レジュメ[PDF:208KB]を捲っていただいて。そして、こうしたことだけでも大変なんですが、経済的な面でも非常に困ってこられる現状があります。例えば住居の問題でありましたら、被害現場に住んでいる方が結構おられまして、もうそこには居られない、とても生きれないということで、親御さんなどがすぐアパートとかを変えてあげられる方はよいのですが、例えば単身で、私ぐらいの年の者が被害に遭ったということでありますと、親にも言いたくない、心配かけたくない、友達にも頼りたくないということになった時に、被害現場の家から引っ越したいけど、そこから引っ越す精神的なエネルギーも無いし、経済的な保障も無いといったことでありますとか、これは細かい字で書いていますけど、公営住宅に緊急入居とかになる、DV被害者についてはそういう制度があると思いますけど、では、性犯罪の被害者が今すぐ引っ越したいとかいう時に使えるものではないと思うわけです。そのほかに生活保障の問題もあって、非常に長く休職しているけども、扶助は無いんでしょうかと。3年、5年、10年と影響がある方も少なくない中で、そこを保障する制度は今無いと思いますし、長さで言えば本当に、幼いころに被害に遭われた方は対人関係の非常に苦しさなどあってなかなか常勤の職につけなかったりということで、影響で言えば本当に救済されるべき方の裾野は非常に広いと思います。治療費の問題も、現行の犯罪被害者給付金、大分改正はされておりますけども、十分とは言えないと思います。

 こうした問題を抱えながら生活をしていかれるわけですが、被害から時が経ったの相談というのは、どうやって周りの人とやっていくかという相談も増えてきます。例えば身近な人の関係であれば、周りの人はもう十中八九早く治ってほしい、それはそうです、沈んだ顔を見るのが本当に心が痛い。だから、被害者の方が頑張った笑顔でいると、ああもう治ってくれた、でも、やっぱり波があって顔も取り繕えない状態になると、ああやっぱりまだあるのかということで、それを見て被害者の方が心配かけてるなとか、そういうことが非常に多いなと思いますし、周りの方は早く忘れなさいとおっしゃる方が多いという印象があります。学校や職場に行かれれば、前よりも集中力が落ちてて、前ほどしっかり仕事や勉強ができないとか、そういうことでなかなか職場に帰れない。もとの接客業には戻れないとか、いろんな問題があります。こういう相談に接すると、本当に何か社会全体が犯罪被害者の方の心情といいますか、本当に時間がかかることなんだということを少なくとも知ってもらいたいと思う相談が多かったです。とはいえ、周囲の方も本当に困られることで、代理被害といいますけど、被害者の方と同じ症状を呈されたり、私があの時こうしていたらこの人は被害に遭わなかったんじゃないかといった自責の念とか、あるいは長く被害者の方がそばにいて欲しいっていうふうに願われる方が多いですよね。身の危険があるので、もう片時でも1人でいるのは辛いとか、そういうことでずっと周りの方が付き添っておられたりして、周りの方も限界になってこられたり等、周囲の方の状況も深刻でございました。

 こういった現状を踏まえて、私達、そして、できれば社会がどうあったらいいのかなということですが、非常に思い切って申し上げますと、やはりレイプクライシスセンター、諸外国にあるような緊急支援の治療システムがあれば非常に救われる部分が大きいのではないかと思います。国によっていろいろ差はあると思うのですが、例えばカナダでありますと総合病院に、小さい字で申し訳ありませんが、救急部門があって、1日24時間、週7日と、休み無しで性犯罪の治療ができるセンターがあると。秘密が守られる入り口から入って治療を受けられるということで、プログラムとしては、例えば医療サービスということで、来所してすぐ診察があって妊娠や性感染症の予防ができる。本人がどうした場合、法的証拠を採取できるということで、この辺がかなり日本と違うといいますか、日本の場合は被害者が例えば警察に届け出て、警察のほうからきちんと処理してくれる産婦人科に同行して、そこで治療を受けた人は無料といいますか、診断書などですね、最近は初期治療が無料になるという制度がありますからいいのですが、いや、警察に届けたくないという方は自力でそういう病院を見つけて、自費で治療を受けて、緊急避妊薬などでしたら万の単位がつくようなものを自分で払うということなので、かなり被害者の負担が違うのではないでしょうか。自分でこういうところを探すというのがそもそも違い、最初、警察に届けるか届けないか、相談するかしないか決めるよりも先ず治療を受けたいというのが被害者の方だと思うので、そういう意味ではこういうレイプクライシスセンターのほうが理想的だなと思います。  それが理想なんですが、非常に大きな話ではあるかもしれませんので、今日から、明日から、今までもできたこととして、私達みんなが被害者の方の心情を理解してそばにいたり、今までの話にもありましたけど、身の回りのできることを肩がわりしたり、そして短期的や長期的な心情について理解すること。そして、専門家でありましたら、司法、医療といろいろ書かせていただきましたが、どの専門家も二次被害や被害者の方の心情について非常に初級の研修の段階から研修が確立していればいいなと思いますし、例えば医療でありましたら、すべての医院でレイプキット、検査ですね、緊急避妊薬が使用できる状態にあるのかどうか、警察であればどの警察もそうやって被害者支援してますよという、検察庁などですね、弁護士の方とか、いろいろそういうことはやっています、というのがもう分かっていますけど、医療の面でどれだけされてるかというのは一般の私達には見えないところがあるので、こういう実態調査もあればいいなと思っております。先ほども申しましたけど、届け出る方が10%ぐらいしかおられないという以上、届け出ない方、司法に乗らない方の支援も真剣に社会で考えていけたらいいといいますか、それが責務ではないかと思っております。以上です。

前田:森川さん、ありがとうございました。この性犯罪被害者の問題、取り分けレイプの被害者の方の問題というのは非常に深刻なものがありまして、私ども精神科医療においても、一般に被害者の方で来られる中で最もひどい人たちがこの性犯罪被害者の方たちでございます。アメリカのあるレポートによると、レイプの被害者のうちの20%が2年以内に自殺を企図しているという深刻なレポートもあります。取り分け今、森川さんご指摘されたように、この司法制度改革の恩恵に預るどころか、被害届さえ出していない。そして、皆さんが事後症状を長い間隠して生きていくということ、この大変さというか、そこを森川さんのほうからご指摘していただいたわけでございます。

 さて、4人の方々のご報告が終わりまして、これからパネリストの方々とディスカッションしていきたいと思います。今日は様々な問題がありますが、特に被害者の支援の問題についてディスカッションできればと思います。これに関しても司法の問題、それから事務的には支援のあり方とか、あるいは民間支援のあり方、それから専門家による支援、弁護士とか医師など、あるいは、先ほどから話がありましたが、隣近所の方たちの支援です、いわゆる地域での支援ということ、様々なレベルでの支援があるわけでございます。これを今から約30分ぐらいの時間ですべてをやるわけにいきません。取り敢えず、来週から施行されるこの司法面での改革について少し討議できたらと思っています。始めに糸賀さんにお伺いしたいと思います。糸賀さん。この司法制度改革がありまして、ご自身がご遺族になられて一番被害者として期待するところはどの辺りか、あるいはどの辺を一番懸念されているか、被害者として思われるところをお話ししていただければと思います。例えば被害者が法廷の中に行って陳述できることなど、いかがでしょうか。

糸賀:私の場合はですが、先ほどもお話ししましたけれど、2カ月というところで裁判が始まったので、早過ぎて、その時期ではできないんではないかというのがあります。もう少し今、公判前整理手続などやっていれば、そのうちに何とか、やはり加害者に向かって何か言いたいとか、例えば私もそうでしたけど、なぜ息子を殺したのかということを直接本人に言いたいというのはあります。あと、難しいのですが、うちの場合は加害者を知っているわけです。本当に一度は娘みたいに可愛がった人間でしたし、そういうのははっきり言って余り顔も見たくないくらいですが、誰だか知らない人に殺されてしまったとか、先ほどお話のあった性犯罪という方の場合は、やはり相手も見たくないというのもあると思いますが、知らないままでなく、会って言ってやりたい、真実を知りたい、そういう気持ちになると思います。

 被害者も人それぞれだっていうところもあるのですが、例えば先ほども話があったように、どうしてもやらなければならないと考えるとすごく負担だと思います。けれど、本当にやりたい人はその場でできるでしょうし、やりたくないとか、できないなと思っていても、裁判を1、2回見ているうちに、例えば、被疑者がとんでもないことを言い出した、それは事実ではないっていうことをやはり言いたくなることはあると思うんです。だから、こういう制度も被害者のためには本当に画期的な制度、正直言ってなぜ今までこのようなものが無かったのか思います。私も自分の裁判になるまでただ傍聴するしかなかった、という思いばかりだったので、もしその制度が昔6年半もあったら、私もやってたかもしれない。なぜ息子を殺したんだって本当に言ってやりたかったです。加害者が死んでお詫びをしますって言ったのですが、そのとおり死んでくれと言いたかったかもしれないです。

前田:糸賀さんがおっしゃったのは、例えば事件があって2カ月後から裁判が始まる、その時も非常に困難な最中でどうしていいかさっぱりわからないという状況から始まっていく。そんな中で被害者と直面をして自分の思いを述べるっていうのは相当勇気が要ります。しかし、加害者が全く事実と異なることを平然と言ったり、そういうことを見聞きすることで気持ちは変わっていくんですね。最初はこんな制度要らないと思ってても、途中でいるかもしれない、変更したいとか、司法参加っていうのは現実的には、先ほどたくさんのパターンがあるということがありましたが、最初は、自分はこんな制度使わなくてもいいと、別に弁護人も要らないという被害者の方も、途中から弁護人がやっぱり欲しいといって、少し気持ちが整理してきて、例えば加害者に対する怒りが出てきた時に、途中から変更してきたり、というふうにして法を運用できるということはあるんでしょうか。これは芦塚さんに聞いたほうがいいと思いますが。

芦塚:それは可能です。糸賀さんの事件の時は平成14年ですけども、今、公判前整理ということでかなり、起訴が始まる前に主張の整理をします。名古屋の闇サイト事件というのがありまして、全く知らない男性が知り合って女性を殺した事件があったのですが、これは第1回公判が今年の9月でした。ところが、事件は去年の夏ぐらいです。その間どうなっていたかというと、公判前整理なんです。お互いの主張の整理で、被害者にとってみればその間に回復できるというものがあるのが公判前整理です。少し始まるのが遅くなる。逆に言えば、公判前整理の時は被害者に情報が入らないといいますか、そのような色々な面があるということで、うまく利用すればいいかと思います。

前田:実際にかなり被害者の方がこの制度を積極的に利用するということを見込まれているんでしょうか、例えば法テラスの活用の場面ですね。それはいかがなんでしょうか。今現在でも司法関係者の認知の度合いとかご理解の程度ということなのですが。

芦塚:それは先ず安定的なこの参加の運用を積み重ね、実績を積み重なっていけばご理解が深まっていくと思ってますから、決してそういう不安視はしておりません。

前田:それをこういった場でアピールしていき、メディアに取り上げてもらって、積極的に司法関係者にもアピールしていくっていうことが非常に大事だということですね。

 東さんは久しぶりにバンクーバーから日本に帰ってこられて、一つは、ものすごく進歩していった現状、この司法改革が行われた現状を見て隔世の感があるとおっしゃいましたが、同時にそしてたくさんの懸念もあるということをおっしゃいました。このアピールに関してメディアの果たした役割は非常に大きかったと思うんですけども、今までのお話を聞きますと、必ずしも司法関係者の間に広く周知しているわけではないんじゃないだろうかと。先ほどの新聞記事もそうですが。このあたりに関してメディアとしての例えば一つの役割であるとか、今そこを離れた東さんとして何か提言、ご意見なりありましょうか。

東:参加制度については主に二つ三つ、大きな目的といいますか、意義があり、それをきちっと踏まえるというのは大事だと思うんです。一つは、真実を知りたいという被害者の方の思いに裁判が応えられるようにするということだと思います。岡村さんがいつもおっしゃっていたのは、誰だって自分の親とか妻、子供の死に目に会えなかったら、最期どうやって息を引き取ったかというのを聞くでしょう。それを一番知りたいと思うでしょう。自分の目の前で殺されてしまった場合は別ですけど、我々被害者は、それを見ることができないんです。なぜ自分の肉親がそういう目に遭ってしまったかっていうのを先ず知りたい。だけど、今の司法はそれを知らせてくれる仕組みになってないんだと。それを変えたいんだというのは非常に大きな思いとしてあられましたし、それは多くの被害者の方がそう思っておられると思います。今、糸賀さんがおっしゃった。つまり、被疑者とか被告人に対してこれを言いたいということだけじゃなく、そもそもなぜそういうことが起きてしまったのか。今の裁判制度の中では証拠物件とか調書とかそういったものは被害者の人には手に入りませんでしたから、証拠物件55を見てください、これについてはこうです、ああですなどと何となく暗号が飛び交うのですが、被害者の方にとっては何を話しているか分からない裁判だったわけです。だけど、これからは被害者の方にもそういった調書ですとかいろんな証拠の書類ですとか物証とかも全部一応開示して、とにかく何を今、裁判の中でやっているか、そしてなぜ自分の肉親の方にそういう悲劇が起きたのかということを、自分自身の場合もあるかもしれませんが、それが分かるようになるということが一つの目的なんだということをメディアの人も司法関係者の方もよく熟知することはすごく大事だと思うのです。そうすると、例えば席の問題なんかも含めてどう配慮しようかっていうことが出てきます。

 二つ目は、何度も出ているように名誉を汚されたようなことを言われた場合にきちっと反論もできたり、それに対して自分なりの思いを伝えたりと、もしくは相手から謝罪をきちっと受け入れたりという面があります。ですからそれは、一つは真実を知れる、もう一つは自分自身が参加して自分の思いをきちっと伝えたい、相手の思いを知りたいということがある。それをすることによって、100%自分が思った刑罰にはならないかもしれないけれども、自分としてはやれるだけのことはやったよというある種の納得感を裁判を通じて持っていただくような形にできるかどうかというのが大きな点だと思います。その三つの目的が実はこの参加制度にあるんだということをマスコミの方も司法の方もよく踏まえて、それが実際に実践されていくかどうかを監視、モニタリング、提言していくということが重要じゃないかと思います。これは結構大変で、それと伴って損害賠償請求というのも始まるわけですけども、これも途中で刑事裁判が無罪になって、その無罪になってしまった場合、損害賠償請求もゼロになってしまいますから。でも、民事裁判というのは刑事よりも証拠が厳密でなくても有罪になる可能性があるわけです。そうすると、刑事が終わる前に民事裁判に移行するということも被害者としては選択肢として取れるのですが、その辺りのことはものすごく難しく、僕でもなかなかよく分からない。

 だから、本当に細かい情報提供と、最後は決めるのは被害者の方ですが、実は裁判はこうなっていて、今の場合はこうなんだけど、こうなっていって、その場合は、こういう選択肢があるんですということを、法律の専門家の方、支援センターの方もそうですし、精神科、医療などを支援する方もそうです。そういう方がそれぞれの分野でフォローしていく必要があって、それがきちっとできているかどうかというのをメディアとかがきちっとフォローし、こういうふうに上手くいったっていうことであれば、是非それは伝えて欲しいと思いますし、こういう点でまだ改善点があるんじゃないかっていうことがあれば、またそれを伝えていく。被害者問題に終わりはないとよく言いますけども、本当にそういう面があって、新しい制度を作ったら、またそれを踏まえた問題、課題も出てくると思います。それを一個一個クリアしていくことでだんだんよくしていくんだという思いをみんなが持つということが大事なのかなと思います。

前田:メディアの加害性といいましょうか、メディアが被害者をどれだけ傷つけるかとよく言われるんですけども、一方でメディアの果たすべき役割も一生懸命大きくて、こういった司法制度改革ができたのもメディアの役割が非常に大きかったと思います。また、しかし、総論賛成各論反対ではないんですけども、これから実際運用に当たって、本当に様々な問題っていうのが出てくると思います、それをきちんと伝えていく、そして正しい運用に持っていくということが本当に大事なのでしょう。そこには是非、今日もたくさん来られている、メディアの方々のご協力をお願いしたいということを思っています。

 さて、大久保さん、この点について何か、特に司法制度改革についてどうでしょうか。

大久保:基本法の前文の中にもありますように、犯罪被害者が被害に遭った後、なるべく早く元の生活を少しでも取り戻すためには様々なことが必要だと思います。そういう中で、今、東さんもおっしゃってくださった、被害者が回復をするためには、とにかくやれることはやったというある種の達成感を持つことがなければ、いつまでも自責の念で、あの時ああしていればよかった、こうしてやればよかったということになりがちです。もちろん新しい制度ができました。これは被害者の回復にとても大きく役に立つものだと思います。ただし、被害直後から、この制度はどういうものなのか、今、被害者として何ができる時期なのかということを事細かくしっかりと被害者の人に情報提供をし、そして被害者の方が1人だけでそれを行う時に不安だということであれば、一緒に付いていく。その支援に携わる者がいなければ、せっかくできた制度もなかなか被害者には使いづらいと思うんです。先ほど公判前手続ですとか、あるいは検察官や弁護士さんがしっかりとその制度を被害者に伝えているだろうかという話がありましたが、被害者支援センターで関わっております被害者の方の置かれている現状を見ますと、今は検察庁もかなり丁寧になりまして、刑事裁判が始まるかなり前にいついつどこでどういうふうに裁判が開かれますと同時に、これは公判前手続によって行いますということをきちっと通知を出しているんですけれども、被害者の相談に乗っている時、「ここに公判前手続って書いてありますよ」ってこちら支援者側から言われて初めて「何ですか、それ?」という質問が出るくらです。

 それと同じように、今現在できるものでも意見陳述という制度があります。でも、裁判という場で自分が何か話をする、あるいは読むというような作業を誰でもができるわけではないんです。普段の生活をしているのであれば、そこへ足を向けるということさえもない時に、不安を抱えながら、あるいは自分が傷つけられたり大切な家族を殺されたその精神症状でそういう所へ立つということ自体がとても不安なものですから、分からずに「いえ、結構です」とおっしゃってしまう方も中にはいらっしゃいます。でも、そういう時に被害者支援センターが被害直後から被害者の方とずっと接触をして、その方に必要な情報提供して、精神的な回復に必要な面接をして、あるいはどこかに行く時に一緒に付いていってということをいつもいつもやっていますと、被害者の方も何か不安なことがあるとすぐ聞いてきてくれます。そういう時に、「意見陳述はこういうものなんですよ、他にこういう方が書いた意見陳述書がありますので、もし新しい被害者の方が出たら参考にしてもらって構わないですよとお聞きしていますので、これを読んでみますか」と。あるいは、「一行書いても涙でとても字が書けないと思いますので、一緒に書きますよ、お手伝いしますよ」、そういう形でお話をしますと、結構皆さん勇気を奮ってそれを証言をしたり意見陳述をしたりっていうことがあります。それをするまでとても不安を抱えていた方たち、その「それを終えた後、必ず皆さん「これでようやく第一歩が踏み出せました、目の前が明るくなりました」と100%の皆さんがおっしゃってくださいますので、そういう制度を安心して使えるような形にしなければいけないと思います。

 それとあと、やはり被害者にとりましては、警察、検察庁、弁護士さん、裁判所、すべて敷居が高いです。分からないが故に、こんなことを聞いたら笑われるのではないかと思ってしまいます。それも被害者支援センターで相談にのっている被害者の方に聞いてみますと「検事さんからいろいろ説明をしてもらえたけれども、実は何のことかよく分からなかったんです。でも、聞き直すのが格好悪いので、分かったふりをして戻ってきてしまいました。あれはどういうことだったんでしょうか?」、そんなふうに聞かれることがよくあります。「遠慮なく聞いていいんですよ。それは被害者として全く遠慮する必要のないことですよ。大丈夫、一人でやってみてください。できなかったら一緒にやりますよ」って言いますと、勇気を奮って検察官とまた連絡を取ることができて、その時しっかりと説明を受けて、それまで何も聞いてくれない検事さんという評価だった方が「すごくいい人で、よく話も聞いてくれて、気持ちも分かってくれたんですよ」つまり、とても専門家との関係をスムーズにすることができるというのも支援センターの役割なのではないかと思うんです。

 被害者支援、あるいは司法の中には専門家がたくさんいらっしゃいます。でも、専門家の方はどちらかといいますと大変忙しいですし、ピンポイントで被害者に関わるということが多いと思います。それに比べまして被害者支援センターというのは、被害直後から刑事裁判が終わるまで、あるいは終わっても、そう簡単に被害回復できるものではないわけです。何年か経ちましても、いつでも、何か日常生活を送っていて不安なことが出た時、精神的に調子が悪くなった時、安心して相談していただける場でもあるので、そういう形で被害者支援センターが早い段階から被害者の方に接して、専門家と専門家を繋ぐような立場、あるいは一種の通訳のような立場でお互いの理解を深めることができるような役割を果たすことができればよいのではないかと思っています。被害者支援都民センターは犯罪被害給付金の制度、実はこの10月から新しい長い名前に変わりましたが、その23条に民間支援団体との連携ということが書かれています。これは田村本部長さんが、「警察だけでは支援ができない、民間団体との連携がなければ長きにわたる被害者の苦悩を少しでも軽減をして社会復帰に結びつけることができない」ということで、苦労して入れ込んでくださった制度化してくれたものなのです。

 都民センターは確か平成13年の5月から犯罪被害者等早期援助団体となりました。早期援助団体といいますのは、被害者が出ますと、警察が被害者の方に「支援センターがありますが、連絡をしていいですか?」ということを確認して了解を得ることができた被害者の方のお名前ですとか住所とか被害概要を支援センターに伝えてくださることになっています。ですから、被害者の方も安心をして支援センターに相談をすることができる制度でもあるわけです。だからと言いまして、実は、先ほど話の中でもお話しさせていただきましたが、民間支援センターだからといって何でもできるわけではありません。お金も人もありません。その時は、ここにお集まりの皆さんの関係機関ですとか、あるいは自治体の皆さんに遠慮なく連絡を入れさせていただいて、その被害者の方がその地域で安心をして暮らせるように様々な制度や施策を使わせていただきたいということを一緒にお願いに行くということもできるわけです。警察は早期援助団体以外の、例えば自治体の皆さんには被害者情報を伝えるということはできません。そういう点から、早い段階で、被害者情報を得た支援センターがその被害者の方の回復のためには何が必要なのかということをしっかり判断して、被害者の方と一緒に行動しながら、自治体にもお願いをするというような連携の場ができれば、被害者の方は安心をしてそこに住み続けることができるのではないでしょうか。そのように考えています。ただ、民間支援センターはまだまだ弱小ですので、皆様のお力添えをぜひお願いしたいと考えております。

前田:ありがとうございました。今、大久保さんのおっしゃったことを考えてみると、先ず、司法の場というのは基本的にはすごくドラマティックといいましょうか、すごく大変な場で、私は何度も医師として証言に立つことがあるんですけども、本当に辛かったです。こんなことはやりたくもないとも思ってました。ましてや被害者の方がそこに参加するっていうのは、どういった改革があっても大変なことだろうと思います。それから、司法というのは裁く場でありますから、どうしても被害者の方にとても満足するような判決が出るわけでは全くないわけです。従って、私の患者さんなんかで裁判に臨む方には、本当に体に気をつけていきましょうと、心身気をつけてやっていきましょうということをくれぐれも言うわけでございます。今の大久保さんのお話を聞くと、司法を生かすためにも、そこでサポートする、これがないと司法制度もうまく使えない。特に先ほどおっしゃった検察官のことなども本当にいい例だと思いますけども、そういった意味で民間支援団体が、今おっしゃった通訳といいましょうか、あるいはコーディネーターのような役割を果たせればと思います。実は福岡県においても、県の機関の仕事を一部担っているっていう形で今この春からやっております。しかしながら、こういった形態というのは初めてございまして、慣れないことばかりでございました。先ず、市民の皆様の支援を頂きたいということが第一です。第二に、私は被害者の方々からの意見をよく聞かなくてはいけないと思うのです。被害者の方たちからは批判を受けて、そして育ててもらうというところもこの支援センターにいっぱいあるんじゃないかなと思っています。その辺で息の長い支援を、支援センターのほうの支援をお願いしたいと思っているわけでございます。

 さて、時間も余りなくなってしまったんですけども、この民間支援、森川さん、最後に、警察におられた立場として、そんな立場で民間支援の団体とのこうあって欲しいというような要望といいましょうか、あるいは民間支援に限らなくてもよいのですが、例えば先ほど出ている警察での支援をよりスムーズにさせるような支援のあり方っていうことですね。民間支援団体の活動もそうですけども、自助グループであるとか、何か森川さんのお考えはあるでしょうか。

森川:ただ、警察などで幾ら相談員がいて、非常に中立的に被害者の方のニーズを聞きたいということでいるんですけど、やはり被害者の方にとっては警察の色がついた人という感覚で見られますから、本当に中立なのかな、本当に私の立場に立ってくれてるのかなって思われるわけです。そこで言えば、どの機関からも独立した、本当に被害者の方を支える民間団体というのは非常に必要だなということを感じます。どこの機関も長く支援できますよ。本当にピンポイントっておっしゃいましたけど、こっからここまではうちができるけど、ということはどうしてもありますから、民間支援センターでないとできないことがたくさんある、それが整ってきたんだというのを今聞かせていただいて実感しております。

前田:ありがとうございました。それでは、もう時間になりました。最後に今日4人のパネリストの方、もう時間が余り無いので、一言ずつでいいんですが、このパネルディスカッションの感想をおっしゃっていただければと思います。

糸賀:今日はどうもありがとうございました。私は法テラスで電話を受けておりまして、遺族とか性犯罪の方のお電話が本当に少ないのです。というのには、やはり精神的な立ち直り、立ち直ったころには裁判も終わっていてという、悪循環ではないけど、そういうことがありますので、特に警察などの方には、本当に傷つけないようになるべく早く、これからの参加制度などが始まりますと、とにかく急いで弁護士まで繋げなければならないということを感じております。周りの方たちとか、やはり被害者って被害に遭うとどうしていいかわからなくなってしまう、そういう時にある程度周りの方がサポートしてこういう所がある、支援センターがあるよとか、そのようなことで繋げていただくことが一番いいんではないかと思っております。今日はどうもありがとうございました。

前田:ありがとうございました。東さん、どうぞ。

東:今日は、明後日から新しい司法制度が始まるということで、そのことについての議論が多かったと思うのですが、元々は被害に遭った方が、全く同じ状態に戻られなくても、少しでもそうなれるようにみんなで回復を応援しようということが基本法の理念で、その中の一つが司法の改革だと思うんです。ですから、一方で加害者がお金を持っていない場合、賠償されないという現実はずっと残るわけで、そのためには経済的な支援というのも非常に重要なんだと思います。今回の犯罪被害者給付金の改正で、交通事故の自賠責並みの水準まで上げるということになったのは本当に画期的なことですが、まだやはり幾つか不十分な点はあって、一つは医療の無料化、もしくは介護の長期療養が必要になってしまった被害者の介護費用の無料化というものが実現されなかったということがあります。今一応最初の1年間については、先ず自分が負担をして、その後、高額医療費の還付を受けて、その差額の部分については国が払ってくれるという形で、1年間分は結果的には負担をしなくてもいいということになっているわけですけども、1年以上の医療が必要になった方については全額、被害者と被害者の家族の負担なんですね。

 こういったことについては直していかなくてはいけないとは思いますが、政治というのは、被害者の方とか、もしくは国民の方が、もしくはそれを受けたメディアの方が訴えない限り変えることはあり得ませんので、こういった今回積み残したことについての息の長い運動とか、もしくは被害者センターの方が被害者の方の声を受けた時にそれを中央に伝えていったりすることは、これからも非常に重要になると思いますし、しかも今回の法律の改正は、その改正の後に被害になった人しか対象になりませんので、既に被害に受けてずっと寝たきりで暮らしている方には何の、何の支援の追加もないんです。その辺りも、今、民間基金を作って何とかしようという動きはありますが、それもやはりマスコミの方とか皆さんの声があって初めて政治家の人も動くという面は現実としてありますので、そういういった運動をこれからも息長く是非やっていただきたい。昨日、警察の方と飲んだ時に「とにかく被害者の方の声を聞かなきゃだめですよね。声を聞いたら本当に僕らもどう行動しなきゃいけないんだっていうことが分かるようになりました」と警察官の方が言ってくださった時に、非常に僕は心強い思いがしました。原点はそこにあると思うので、そういったことをこれからも皆さんが続けていただけたら本当にありがたいなと、日本人の一人として思っております。

芦塚:弁護士と被害者の関係というのがなかなか難しいというところで、弁護士の立ち位置についていろんな問題があります、ただ、医療・福祉の面での弁護士の位置ということでは、前田ドクターをはじめ、新しい領域を教えていただき、非常に感謝しております。ただ、余り弁護士が目立ち過ぎると、あくまで中心は被害者です、被害者が中心であって、弁護士はそっと後ろで見守る。余り弁護士が目立ち過ぎると、弁護士が有名になりたいからこんなことやってんのかと、いろんな信頼関係の喪失、被害者と被害者弁護士の間の信頼関係が損失になります。その点を是非注意してこれからもやっていきたいと思います。よろしくお願いします。

森川:ここ十何年間の間に制度は前より大分進んできたと感じるんですが、これだけ制度が複雑になってきますと、それをどう理解して使っていくか、そこに非常にたくさんの支援が必要だなということを私自身何か痛感した一日でした。

前田:ありがとうございました。もう時間がなくなってしまいましたが、私は精神科医としてトラウマの問題をずっと臨床あるいは研究でやってきました。日本は災害大国でございまして、地震や風水害とかに頻繁に遭っているわけでございます。一昨年のアメリカのカトリーナ災害を見てもそうなんですが、日本は災害においては素晴らしい人の輪と知恵の輪があって、地の利、人の利があって、それを本当に素晴らしい昔からの地域のシステムで乗り切っていくことができるわけです。本当にアメリカに比べても素晴らしいシステムだと思います。ただ、犯罪被害の問題に関しては災害で発揮できる日本の風土・文化の良さがうまく出てきません。したがって、被害者の方が孤立化していくということが非常に多いわけでございます。先ほど東さんが言った、こういう犯罪被害の問題は人ごとではありません。いつ自分がなってもおかしくないのです。そういった意味では災害と何ら変わることはないわけでございます。是非、皆様の支援をいただきながら、われわれもまた研鑽して、そして、またいつどこで起こってもおかしくないわけですし、今それで苦しんでいる方もたくさんおられるわけですから、その支援に少しずつ進んでいけたらと思います。

 今日は、非常に長い時間、大久保さんの基調講演に始まり、それから2時間の非常に有意義なパネルディスカッションを皆様のご協力で無事終えることができました。今日は本当にまとめというようなお話は一切できません。これから本当に始まったばかりということでございます。今後も末長いご支援をよろしく、ご協力をよろしくお願いしたいと思います。これにて本日のパネルディスカッションは終わりたいと思います。どうもありがとうございました。
 

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