中央大会:パネルディスカッション

 
テーマ:「犯罪被害者にやさしい地域社会をめざして」
サブテーマ:<1>「被害者のための真の連携とは」
      <2>「被害者の人権を考える」
コーディネーター:
 瀬戸真一(内閣府犯罪被害者等施策推進室参事官)
パネリスト:
 本村洋(全国犯罪被害者の会(あすの会)幹事)
 番敦子(弁護士・日弁連犯罪被害者支援委員会副委員長)
 堀河昌子(NPO法人大阪被害者支援アドボカシーセンター代表理事)
 高木勇人(警察庁長官官房給与厚生課犯罪被害者支援室長)
 大竹准一(神奈川県安全防災局犯罪被害者支援担当課長)

瀬戸:皆さん、こんにちは。内閣府犯罪被害者等施策推進室参事官の瀬戸と申します。

 ただ今からの時間は、私が司会を務めさせていただきまして「犯罪被害者にやさしい地域社会をめざして」をテーマにしたパネルディスカッションを行いたいと思います。では、ちょっと座って、お話しさせていただきます。

 本日は、それぞれの分野の方々にパネリストとしてご出席を頂いておりますので、これからパネリストの皆様方に「被害者のための真の連携とは」「被害者の人権を考える」という2つのサブテーマについて、それぞれ討論をしていただきたいと思います。

 また、今回の中央大会の参加者を募集させていただきました際に、併せて国民の皆様からご質問を募集しましたところ、2件ほどご質問がございました。この質問に関しましては、それぞれのサブテーマを議論させていただく際に併せて議論の対象に含めていただきたいと考えております。

 犯罪被害者等基本法が成立して、今日でちょうど4年目であります。犯罪被害者等基本計画が閣議決定されてから約3年が経過いたしましたが、基本計画等に定められた法制度の制定、改善といったステップは、ほぼ完了したと言えると思います。

 これについては、先ほど他の報告等があったところでございますけれども、現行の施策に不十分な点があるか否かを検証して、その手当てをどう図るかといった視点も重要でありますが、改善・新設されたこれら諸制度をどのように適切に運用していくかといったこともまた大事なことであろうと思います。

 この時期に今回のパネルディスカッションを行わせていただくわけですが、テーマとしましては、ここに演題に掲げさせていただいたとおり「犯罪被害者にやさしい地域社会をめざして」というのを選ばせていただきました。
 そして、2つのサブテーマをパネリストの方々に議論していただく中で、ご来場の皆様方にも連携、犯罪被害者の人権を考えることによって、犯罪被害者の方々にやさしい社会というのはどのようにして築いていけばよいのか、共に考えていただければと思います。

 さて、私の前置きが長くなりまして申し訳ありませんでしたが、議論を始める前に、本日のパネリストの皆様に自己紹介を兼ねまして日ごろの取り組みや感じていることなどを交えて、時間の都合で恐縮ですが、お一人5分前後ぐらいでコメントをいただければと思います。

 なお、高木室長と本村さんに関しましては、先ほどそれぞれご講演、ご報告をいただいたところでありますが、引き続きお付き合いよろしくお願いいたします。

 それでは、順番でございますけれども、誠に勝手ながら発言の順はこちらで決めさせていただき、単純に、あいうえお順とさせていただきます。

 最初は、神奈川県安全防災局犯罪被害者支援担当課長の大竹准一様にお願いいたします。

大竹:皆さん、こんにちは。今ご紹介いただきました神奈川県の犯罪被害者支援担当課長、大竹と申します。本日は、こういった機会を与えていただきましたことを深く感謝しております。

 神奈川県の犯罪被害者支援の取り組みですけれども、他の都道府県、自治体と比べて格段に先進的だというものではないと思います。ただ、こういった機会に県の取り組みをご紹介させていただくことでいろいろ情報交換をさせていただいたり、そういったことで参加させていただきました。是非、よろしくお願いいたします。

 これまでの県の取り組みと最近のトピックをざっとご紹介させていただきます。

 犯罪被害者等基本法が出来まして、その辺を踏まえまして、神奈川県では、平成18年、今から2年前になりますが、神奈川県庁全体の中でですね、既存のいろんな施策で犯罪被害者の方々に適用できるような、こういった施策を全庁的に出してもらいまして、それを取りまとめいたしました。

 そういった情報を基に、平成19年、去年の6月に犯罪被害者の方々への総合相談窓口を設置いたしました。専門の相談員の方、お二人の方に常時対応していただいているんですけども、そういった取り組みをまずスタートさせたという状況でございます。

 そこで、同じく平成19年6月に今の私のポストでございます犯罪被害者支援担当課長というポストが出来ました。このポスト、何をやるのかといいますと、犯罪被害者支援の取り組みをもっと充実するということと、今ご紹介させていただきます神奈川県の犯罪被害者支援条例を作ると、こういったことを目的に設置されたポストということで、私、昨年の6月以降、約1年半になりますけれども、支援施策の充実と条例の制定に向けた取り組みを進めてきたという状況でございます。

 お手元に今日は「犯罪被害者等支援条例案の概要」というワンペーパーをお配りさせていただきました。

 この条例ですが、正にこの12月の県議会定例会に条例を提案したところでございます。この条例案は、骨の部分だけ情報提供させていただきましたけれども、これまで約1年かけまして有識者の方々による議論ですとか、犯罪被害者の方々、支援関係機関の方々からいろんなご意見を頂きながら策定したものでございます。

 様々、被害者の方々からとかご意見を頂いたのですが、自治体としてどういった分野、どういったところに力点を置いていくかというところでいろいろご意見を頂いた結果を踏まえまして、その条例の特徴といたしましては、犯罪被害者の方々がその被害により壊された日常生活を回復していく、そのためのきめ細かい支援を行政として行っていくということ、これが1点です。

 そしてもう一つが、犯罪被害者の方々を県民全体で支えていく、こういった地域社会づくりを行政として進めていくと、この2点。この2点を地方自治体としての観点といたしまして、その条例の基本理念等に位置付け、こうした観点から県として実施する施策の基本的な方向性について幅広く規定をしていると、こういった点が特徴ではないかと思います。

 もう一つが、また後ほどお話しする機会あろうかと思いますけれども、犯罪被害者支援の中核を担ってまいります県、警察、そして民間支援団体、この3者が一体となって、また市町村ですとか弁護士会、法テラス、臨床心理士会など様々な支援の関係機関との連携を強化して、被害者の方々が必要とする支援、情報をできるだけ一つの窓口で受けるようなことができる、こういった総合的支援体制を整備していくという、これがやはり条例の中に盛り込まれている一つの特徴ある取り組みなのではないかと思っております。

 また後ほどの議論の中で少し具体的にご紹介する点もあろうかと思いますが、そんなところが特徴の条例ということでご理解いただければと思います。

 最後に1点、犯罪被害者支援の仕事を自治体でやっていまして非常に感じる点なんですけれども、直接多くの被害者の方々にお会いしてお話を伺うにつけまして、やっぱり地方自治体として被害者の方々への支援、しっかりと取り組んでいくという、こういう必要性を強く感じているところです。

 ただ一方で、先ほど内閣府の殿川室長のご報告にもありましたが、やっぱり一番感じるのは、足下の県庁内も含めてですね、県民の方々にとってもまだまだその被害者の方々の苦しみですとか支援の必要性っていうのは、やはり遠い問題なんだなあということを感じるところがあります。

 また後ほどご紹介させていただきますけれども、警察、民間支援団体等様々な機関とも連携をしながらですね、いろんな機会を通じて被害者の方々の生の声をできるだけ多くの人々に伝えていくということ、これはやはり自治体として取り組むべきすごく重要な仕事だと考えてるところでございます。

 今後、この条例に基づいて具体的な支援施策を展開していくわけですけれども、今日は皆さんからのお話を伺いまして、是非今後の参考とさせていただきたいと思います。どうかよろしくお願いいたします。

 以上でございます。

瀬戸:ありがとうございました。

 続きまして、警察庁、高木室長、よろしくお願いします。

高木:はい。

 私は、この4月から警察庁の犯罪被害者支援室長を務めております高木と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

 私のおります犯罪被害者支援室では、警察によります犯罪被害者支援、その施策の企画立案、あるいは、こうした施策が都道府県の警察において適切に実施されるようにするための指導などを行っております。

 警察は、昭和56年から犯罪被害給付制度の運用によりまして被害者の経済的支援を行ってまいりましたけれども、経済的支援に限らない総合的、包括的な被害者支援を警察の組織全体として自覚的に行うようになったのは、今から12年ほど前になりますけれども、平成8年の被害者対策要綱の制定以後のことでありました。

 この被害者対策要綱は、被害者の視点に立った各種の施策を総合的に推進しようとするものでありますけれども、その制定の当時、私自身も警察庁の刑事企画課というところにおりまして、被害者対策要綱に従って更に具体的な施策を推進する、そのために例えば被害者への情報提供のための制度、私どもでは被害者連絡制度あるいは被害者の手引きの交付などと言っておりますけれども、こういった施策の立案に携わってまいりました。

 その後、犯罪被害者等基本法が制定されまして、被害者の保護は警察の責務のみにとどまるのではなくて、国、地方公共団体が被害者のための施策を策定して実施する責務を負うんだということとされました。

 また、警察関係につきましても、その間、犯罪被害者等給付金支給法が2度にわたって改正されまして、先ほどもご報告申し上げましたとおり、現在では犯罪被害者支援法となっております。このように、12年の経過の中で被害者関係施策は相当に進んできたというような感慨を覚えているところでございます。

 そして、では現時点で被害者の支援のためにどのようなことをすべきか、どのようなことをしなければならないのかという、いわばメニューは、かなりはっきりしてきたという状況でありますので、これからの最も大きな課題は、こうしたメニューに従って施策を確実に実施していく。私ども警察について言えば、第一線の都道府県警察におきまして、その現場において被害者のためのきめ細かな施策が現実化していく、こういったことが最も重要なことであろうと考えております。

 もう一つ重要な課題は、先ほど殿川室長からもありましたけれども、いわゆる広報啓発であると思っております。
 被害者支援に関する広報啓発活動につきましては、現在、警察においては、資料にも配らせていただいておりますけれども「社会全体で被害者を支え、被害者も加害者も出さない街づくり」といったものを展開しております。手元の資料でご確認いただければと思います。

 具体的には、先ほども若干申しましたけれども、被害者やご遺族の方々に講演をしていただいたり、中高生を対象にした命の大切さを学ぶ教室、あるいは大学生を対象にした講義といったことを通じまして犯罪被害の実態、あるいは被害者の方々が受けた痛み、あるいは命の大切さ、こういったものをなるべく実感していただけるようにと、そういったことを通じて社会全体として被害者を支えようと、こういった機運を醸成して被害者支援の充実を図っていこうと、こういったものであります。

 さらに、その実際の実施例につきましても資料のほうにお示しをいたしました。後ほど、お時間がありましたらば、ご参照いただければ幸いであります。

 こういった被害者支援に関する広報啓発は、究極的には犯罪の無い街づくりにまで繋がっていくものというふうに考えておりまして、いろんな工夫をしながらこれから私ども警察といたしましても取り組んでまいりたいと、このように考えております。本日は、どうぞよろしくお願いいたします。

瀬戸:ありがとうございました。

 続きまして、弁護士で日本弁護士連合会犯罪被害者支援委員会副委員長の番様、お願いいたします。

番:はい。

 第二東京弁護士会に所属しております弁護士の番と申します。よろしくお願いいたします。

 私は、今ご紹介いただきましたとおり日弁連の犯罪被害者支援委員会の副委員長と、自分が所属しております第二東京弁護士会の犯罪被害者支援委員会の委員長を務めております。

 弁護士会で犯罪被害者支援という活動が取り上げられるようになったのは、97年ぐらいのことです。

 そして、2000年ぐらいになりますと、大規模会で犯罪被害者に対する相談業務などが始まっております。

 私は、実は女性の権利を考える、両性の平等に関する委員会に登録からずっと関わってまいりまして、ちょうど犯罪被害者支援の問題を弁護士会でどう取り上げるかという時に、関連委員会からということで参加しまして、それ以来、ずっと被害者問題に関わっております。

 ちょうど私が、この被害者ということで取り組み始めましたのは2000年ぐらいなんですけれども、日弁連のほうにも参りまして、2002年からずっと副委員長を務めております。

 特に、今日施行されます被害者参加制度、これに関しては、あすの会が平成15年、2003年に署名活動を始めたんですけれども、それをバックアップするかのように日弁連の私の所属している委員会でこの問題を取り上げまして、10月に行われた日弁連の一番大きな大会であります人権擁護大会で敢えて参加の問題を取り上げ、それ以来ですね、この参加については日弁連内外を始めとしてずっとディスカッションしてまいりました。今日は、こういう日にこちらで被害者問題について皆様と語り合えるということは、とても感慨深いものがございます。

 私自身は、それ以来、法制審議会とか最高裁の関連する規則制定諮問委員会などにも参加しまして、この問題に関して参加制度、それから損害賠償命令制度に関しては考えられるすべての会議に出ておりまして、今回、国選の被害者参加弁護士制度が出来るということで、弁護士会では、その体制整備ということが急務だったわけです。それに関しても、いろいろな会議等すべて出席してまいりました。

 参加の国選の制度だけではなくてですね、皆さんご存じかどうか、犯罪発生直後から弁護士が刑事手続に関連する被害者支援活動をするに当たりまして、援助制度というものが、今、法テラスに委託している事業なんですが、弁護士費用をほとんど交付ですね、そういうような制度がありまして、それも国選とともに12月1日から変わります。資力基準を全部国選と同レベルにするというようなことがありまして。

 それから、損害賠償命令制度については、新たな民事扶助の基準が決まりました。そういうものすべて会議でいろいろ決めてったわけです。そこに全部参加しました。ちょっと意地になってるのかと自分で思うくらい全部参加してまいりました。

 今年の後半は、本当に国選の制度をいかにきちっと作っていくかということで、全国の弁護士会15、6カ所回りまして講演等してまいりました。何とか、法テラスの発表では1,300人ぐらいの弁護士が名簿にまず登載されたと聞いております。東京では170人ぐらい。数はそれほど問題ではなく、実は質だろうと思っておりまして、これからも研修等をもっともっと進めまして、この被害者参加制度が本当に被害者の方たちが望むような形で進んでいくことを弁護士として支援できることを非常に祈っております。

 実は、私は業務としても被害者問題がとても多くて、特に女性の被害者事件、セクハラ、DV、それから性被害の依頼者をたくさん抱えております。まだ弁護士会の女性の割合というのは2割いったかいかないかというレベルで、新しい若い弁護士の登録が、だんだんと増えますと、恐らくもう少し女性の割合が増えるんですが、まだまだ少なくて、やはり性被害の方などはどうしても女性の弁護士というご希望も多くて、これから参加制度が出来るとそういうご希望も更に多くなるのではないか、けれども、まだやはりなかなか名簿にも女性の割合が少なくてですね、これから女性の弁護士にも声を掛けて、更に名簿の中の、国選の名簿の女性の割合を増やしていかなければいけないなと思っております。

 弁護士は、やはり刑事弁護人のイメージが強くて、なかなか被害者のために動く弁護士というのは想像つかないという方が多いのではないかと思いますが、それでも各地、一生懸命、被害者のために支援活動している弁護士はたくさんおります。その体制を更に広げていくことが今後の目標になるかと思います。

 東京では、毎日、被害者のための無料電話相談をしておりまして、3つ弁護士会ございますが、昨年4月から番号が一つになりまして、全国から受け付けております。どうぞご利用いただければと思います。今日は、よろしくお願いいたします。

瀬戸:ありがとうございました。

 続きまして、NPO法人大阪被害者支援アドボカシーセンター代表の堀河様、お願いいたします。

堀河:ただいまご紹介をいただきましたNPO法人大阪被害者支援アドボカシーセンターの堀河と申します。

 私たち民間のセンターがどういう働きをしているかということを少しお話しさせていただきたいと思っております。

 私たちのセンターは、1995年、阪神淡路大震災の折に大阪YWCAが「こころのケアネットワーク」という精神的ケアをするボランティア活動を展開いたしましたが、その活動しておりました者が中心となって、この活動をいろいろな面で支えてくださった現全国被害者支援ネットワークの山上皓先生より、是非被災された皆さんへの活動をこれから犯罪被害者を、犯罪被害を受けられた被害者の方たちのために役立ててほしいという要請を受け設立いたしました。

 災害による被害者も犯罪被害による被害者も、そのことで生活が一転してしまうような大きな精神的、また身体的、社会的、経済的なダメージを受けるわけですから、そのトラウマからの回復っていうのは同じように図らなければならないという強い要請を受けまして、1996年4月に大阪被害者相談室として立ち上がりました。

 東京では既に1992年に犯罪被害者相談室として立ち上がっておられましたけれども、私たちは災害を経験したということで、災害による皆さんへの支援も視野に入れて大阪被害者相談室として立ち上がりました。

 主に心のケアということで電話相談を中心に活動を始めたわけですけれども、かかってくる電話の中で、例えば性被害を受けられた方たちが電話で相談をされてきます。私たちが「それはいつ頃のことでしたか?」とお聞きしたら、10年前だった、20年前だったというふうに、やっと今になって話すことができて、何の批判も受けずに、受け入れてもらうことができ「ああ、少し気が晴れた」という答えが最終的には返ってくるわけですね。

 私たちは、心に深く傷を受け、身体的、また精神的な苦痛を受けながら、どこにも言えない、どこにも相談できずにずっとそのまま自分独りが我慢をして、悩みとして抱えられていた訳で深刻な問題だということを初めて電話の向こうから聞こえてくる声の中で実感したわけです。

 こういうことが本当に必要だということで、それから活動が徐々に広がってきたわけですけれども、その中では、犯給法の改正ということの中で、心のケアというか、間接的な支援っていう電話相談だけではなく、被害を受けられた後に、警察に行く、検察庁に行く、裁判になる、その他精神的ないろいろなもので、病院にも行かなければならないといった時に、どこからも支援を受けられない人には直接的に支援をしていくことの必要性を感じ始めました。

 その折に、2001年に大阪教育大学附属池田小学校の児童殺傷事件が起こりまして、私たちも今まで犯罪被害に対しての様々な研修や学習をさせていただいたので、何らかの協力ができないかということで、メンタルサポートチームの一員としてそれに参加し、直接被害を受けられた保護者の皆さん、また子供への家庭訪問される先生に同行して、直接的な被害者支援を実際に行う経験をいたしました。その中では、直後のケアの必要性を実感をさせていただくことになりました。

 それをきっかけに、2000年犯給法の改正の23条で法人資格を取ると早期に警察からの情報がもたらされるということで、2002年にNPO法人大阪被害者支援アドボカシーセンターと名称を変え、再出発いたしました。

 このアドボカシーセンターという名前は、どうしてこういうことを付けたのか、これはとてもいいことだ、否、難しくて意味がわからない、というような両方の意見に分かれているのですけども、アドボカシーという言葉の中には権利擁護とか、代弁をする、支援をするというような意味があるわけです。なかなか声を上げられない被害者の方たちもたくさんいらっしゃるわけですけれども、本村さんを始めたくさんの被害者の方たちが声を上げられるようになって、権利確立のための犯罪被害者等基本法が成立しましたが、そういう声を上げられるところ、まだまだ声を上げられないところで、被害者の方たちがたくさんの問題を提起されるということは、社会の中で解決していかなければならない問題がたくさん含まれているということで、私たちは、その権利擁護のためのお手伝いもさせていただく意味であえて難しいアドボカシーセンターという名前を付けて再出発をいたしました。

 今では、電話相談が中心ですけど、直接的支援も行っているということで、今日皆様の所に私どものリーフレットも入れさせていただいております。裁判所、検察、様々な所への付き添い、また面接相談と、直接被害者の方にお目にかかって被害回復のため、また問題解決のための手助けができればと活動を続けおります。

 この2008年9月に大阪府の公安委員会より犯罪被害者等早期援助団体の指定を受けましたので、早期に被害者の方たちが被害回復をされて本当に社会生活が取り戻されるような形で支援が続けていければと思っています。

 また、行政の皆さま、各地方自治体などが支援活動についての取り組みや指針が示されておりますけれども、民間の被害者支援センターが支援を行うことの意義、今は全国被害者支援ネットワークに46の都道府県、46団体が属し、大きくなってきましたが、直後から、そして途切れることのない支援が民間団体によっては行われると思っております。そしてまた、きめ細やかな支援もまた可能になってくる訳です。

いろいろなプロの方たちが支援に関わっていらっしゃいますが、職業人ではないけれども、被害者支援についてしっかりと研修し、身に付けて、被害者の方たちに二次被害も与えないような形で私どもが関わる、そのことで被害者が被害などによって奪われてしまった、社会に対しての安心・安全感を再び回復し、信頼を取り戻していただき、ともに社会で生きていくことができるための役割を担っている訳です。民間被害者支援団体は、そういう信頼感を取り戻していただくために役立っているのではないのかと自負しております。また被害者の方たちに二次被害を与えない形での支援活動をこれからも充実させていくために力を注いでいきたいと思っております。

瀬戸:ありがとうございました。

 続きまして、本日基調講演をいただきました本村さん、もし補足等あればお願いします。

本村:特に補足は無いのですが、全国犯罪被害者の会ということころで、犯罪被害者の当事者だけの集まりの会で、被害者の立場に立脚して、いろんな施策をこれまで提案させてもらいました。

 ただ、全国犯罪被害者の会と言ってますけど、実は弁護士の方がたくさん弁護団として参加していただいて、今日いろいろ講演しましたけど、私が意見を言いたいとか、参加したいと言ったことをその弁護士の方たちがそれを法案にしてくれるんですね。それは、こういう法律にしなきゃいけない、これは、この法を変えなきゃいけないというふうにして法をきちっと整備してくれて、それをまた私たちに教えてもらって、それを社会に訴えるという活動をしてきました。なので、そういった意味では結局、法を司る方たちにいろいろとご支援していただいて成り立ってる会だなと思っております。

 私たちの会は、とにかく犯罪の被害者の立場に立脚して、意見を言っていこうってことで、いろいろな無理な要望をして内閣府さんとかに、ご迷惑をかけたかもしれませんけども、そういった立場で多くの被害者の方たちの思いを代弁できればと思って活動に取り組んできています。

 2000年に産声を上げて、もう8年もやったことになりますけども、あまりこういった会が長く存続するということは本当は良くなくて、被害者が自分で声を上げる時代はもう終わって、きちんと国が法を整備されて、被害に遭った方がそれとなく支援されて、それとなくもう一度平穏な生活を取り戻せるような施策がこれから充実できればなと思っております。

 以上、簡単ですけども自己紹介に代えさせていただきます。

瀬戸:どうもありがとうございました。

 それでは、最初のテーマである「被害者のための真の連携とは」に進みたいと思います。

 最初に、ディスカッションを始めさせていただく前に、被害者支援における連携がなぜ重要なのか、そのさわりについて、私からごく簡単にお話しさせていただきます。

 先ほど本村様の基調講演の中でかなり丁寧にお話をされたところでありますけども、復習も兼ねてということでお付き合いいただきたいと思います。

 犯罪被害に遭われた方々は、犯罪被害そのものによる直接的な被害にとどまることはなく、先ほどの基調講演にもありましたとおり、他にも様々な被害を被り、困難な状況に直面しているわけであります。

 その困難な状況というのは、事件の内容により、被害者の方のそれぞれの立場により、それぞれの環境により異なるものでありますが、それによって被害者の方々が必要とする支援の内容は多種多様となり、一つの機関・団体では、それに対処することは困難になるわけです。

 そこで、機関・団体のところで対処できない支援等に関しては、それに対処可能な適切な機関・団体を把握して、そこに被害者の方々を繋いでいって、全体として被害者の方が必要とする支援を満遍なく受けられるようにすることこそが重要であると、それが連携の重要性でありまして、当室の室長の報告にもありましたとおり、内閣府のほうでも犯罪被害者の支援のハンドブックのモデル案というのを作成するといった作業も現在行っているところであります。

 それでは、そのような連携に関して、パネリストの方々がそれぞれどのように受け取っておられるのか、ご紹介を願いたいと思います。

 通常であれば本村様から最初に連携の必要性について説明していただくところでありますけども、基調講演で十分していただいたということで、最初に警察の高木室長からお願いいたします。

高木:はい、分かりました。

 現実的に、多くの場合には、被害者が最初に接触する機関は警察であります。そして警察は、その本来の責務からして被害者と密接に関わる機関でもあります。

 従いまして、被害を受けられた初期の段階において被害者に対応する警察の責務は重大であるといったことは申すまでもないと思いますが、一方、被害者のニーズは多岐に渡っておりまして、その中には警察が対応することができない、あるいは警察が対応することが必ずしも効率的でないといったようなものも相当量含まれております。それだけに、被害者のニーズに的確に応えていくためには、多くの機関あるいは民間被害者支援団体との連携が大変に重要であると考えております。

 警察は、正に支援の連携の起点としての役割を担うことが多いということであろうと思います。そういったことに起因するのだと思いますけれども、既に平成10年頃から警察が事務局となって各県ごとに被害者支援連絡協議会といったものを立ち上げております。パネルディスカッション用の資料としてお配りいただいてる中に「警察と関係機関団体等とのネットワーク」という絵もあるかと思います。

 それから、その次のページにありますけれども、各警察署の単位では、被害者支援地域ネットワークといったものも立ち上げてまいりました。

 今後は、こういった機関・団体の連携が必要だというときの、その連携のための仕掛けの一つとしてこういった協議会を活用していくというのも一つの方法かなと思っております。

 それから、先ほどハンドブックの話がございました。これに関しましては、地域の関係機関・団体が相互に連携する一つの助けとして、それぞれの機関・団体が提供できる支援内容をまとめるといったものであります。そのモデル案がいよいよ出来ようと、完成しようとしてるところでありますけれども、今後は、このモデル案に従って、都道府県あるいは市町村、それぞれのレベルにおきまして、それぞれの地域に即したハンドブックを作っていく、こういったことが期待されてるわけでありますけれども、こういったハンドブックの作成をする、そういった役割をこうした協議会などで担わせていく、これをきっかけといたしまして連携を強化していくといったことも一つの案としていいんではないかなというふうに考えております。

 さらに、連携の強化の手法の一つとしましては、こうした協議会などの組織を現実の被害者のいる事案において、被害者支援のための枠組みとして具体的に動かしていくといったことが一つあろうかと思います。こういった取り組みの具体例につきましても資料でご紹介をしておりますので、後ほどでもご参考にしていただければ幸いであります。

 それから連携というテーマについてもう一つ申し上げるとすれば、私、連携の強化のためには、今後、民間被害者支援団体の役割が特に重要であると考えております。

 民間団体は、その活動自体で被害者のニーズに応えるサービスを提供する、これはもちろんですけれども、それに止まらず様々な機関・団体それぞれが、それは必ずしも被害者のための特有の制度でないかもしれませんけれども、広く住民・国民一般に提供されるサービスを扱っている機関・団体、むしろそういったものが多いわけでありますけれども、民間団体の支援員が被害者のニーズを酌み取って、被害者とこうした機関・団体との間をつないで被害者がこういったサービスを現実に受けられるようにする、そのために支援していく、こういったことも非常に重要だろうと考えております。

 こうした観点から、先ほど政府からの報告として申し上げたとおりでありますけれども、今回の法改正において、民間団体の活動の促進を図ることとしているところでございます。

瀬戸:ありがとうございました。

 次に、今、役割が特に重要であるとしてお話がありました堀河様、お願いします。

堀河:本当に民間としての役割の重大性を改めてここで認識をして帰らなければならないというふうに思っております。

 まず、私たちが連携の大切さということに思い至りましたのは、支援をする中で、被害者の方たちが、心のケアだけではなく、これから自分は一体どうなるのかという質問が返ってくるわけです。被害を受けて、これから警察に事情聴取も受けに行かなければならないが、1人で行っても大丈夫なのかと。そして、起訴されれば検察庁に行き、証人に立たなければならないといった場合には、検察庁に打ち合わせにも行かなければならない。実際に裁判が始まると、先ほど本村様おっしゃいましたが、傍聴席の問題や、遺影の問題など、様々な問題が起きてきます、そういう被害者の方からのいろいろなご質問や、それがどういうふうに実現していくかということを一緒に考えていきます。そしてその中に法的な問題があれば、弁護士の方、大阪の場合でしたら大阪弁護士会にご相談に行くということにもなるかと思います。

 私たちは、大阪府警から2001年に民間の被害者相談員としての委嘱を受けましたので、警察に対しての疑問などは被害者対策室に連携という形でお話、相談をするということになります。また裁判について検察庁で実際に検事さんとの打ち合わせを行う場合に、被害者の方たちが自分で時間の調整などは難しいから、代理で行って欲しいって言われることもあります。直接被害者ホットラインということもありますが、その後に検事との打合せが行われる際の付き添いや、連絡調整を行うということも必要となります。

 そういう意味で、正しく信頼できる情報を提供していくためには、信頼できる連携関係が必要になってくるかと思います。

 その機能を果たすために、大阪府警が中心となりまして、1998年に大阪の場合は大阪被害者支援会議が組織されました。そこには行政、民間、各種団体が属しておりまして、いろいろな情報を交換し合うことによって、より良い連携につながってきました。

 2007年には大阪府の中に被害者支援グループが設置され、その中では大阪府の取り組みや指針がたくさん示されております。先ほど住居の優先的提供ということが出ておりましたけれども、被害者の方たちは、住居が優先的に提供されるということで申請される場合、簡単な手続でできるかと思っておられました。しかし、決してそうではなく、シミュレーションしてみると手続的にはすごく大変なわけですね。

 ですから、いろいろな取り組みや指針を考える上では、実際に使う側になったらどういうものかっていうようなことをやってみなければいけないと思います。そういう意味では各連携機関との勉強会や研究会なども必要になってくるのではないでしょうか。私どもも大阪府、大阪市と協力しながらそういうこともやっていく必要があると思っております。

今後のこととして、私たち民間被害者支援団体だけで解決できる問題ではありませんので、各連携機関と緊密かつ信頼できる関係を保ちながら被害回復のため、被害者の方たちが必要とされる支援の提供ができるように、これからもますます勉強や研修が必要なのではないかと思っております。

瀬戸:どうもありがとうございました。

 次に、被害者の方々を支える法律の専門家としての立場から、番様、お願いします。

番:弁護士は、本当にごくごく一部の支援でしかないわけですね。スペシャルな支援、法的支援をするわけなので、全くそれだけでは足りない。各地の民間支援団体が大事だということは、私も本当にそのとおりだと思いまして、弁護士によっては、そこの理事に入る、あるいは弁護士会が関わる、それから全国被害者支援ネットワークに弁護士が理事として入ってるというようなことで、民間の支援団体の方々のご意見等が弁護士会に反映する、あるいは日弁連のほうにも反映しているのが実際です。

 ただ、私自身など考えますと、東京などは非常に組織として大きいので、弁護士会と被害者支援都民センター、それからもちろん時に警視庁、それから東京地検などとの協議会をして連携はしておりますけれども、なかなかある一定の一つの事件ですらうまくいくかというのは難しい部分も実際にはあります。

 ただ、時には、ある殺人事件で都民センターさんが中心となって、弁護士が早期に付き、そして医療のほうにも繋げということで被害者の方の回復が早まったと思われるような成功事例もございます。

 ただ、やはり大規模な都市ではですね、協議会はあるんですが現実にはその会議だけであって、それを辿っていって何かできるかというとなかなか難しいのが現実で、連携というのは何とかならないかなあというのは実際のところ考えております。

 私は、たくさんそういう事件を持ってますので、例えばDVとか性被害の場合はですね、ある知り合いの精神科医の先生に必要な場合はお互いにこっちから電話したり、あっちから電話したりと、そういう意味の連携を保って、事件といいますか、私のほうは事件処理、先生のほうはその方の医療的なサポートをするというような、事件をかなり持っているのが現実で、この被害者問題に深く関わっている弁護士は、そのように自分が支援のネットワークといいますか、そういうものを持っていて、それを使って何とかやっていくっていうのも実際のような気がします。

 地域によっては本当に警察と弁護士会がうまく連携できていまして、早期にその被害者の方に弁護士として付くことができて、それでいろんなその方の刑事手続の進展に非常に役に立ってるというケースもあるので、一概には言えないんですけど、まだまだこれから支援が必要です。

 それと、私は、民間支援団体が中心となることが是非とも必要なんですが、財政難、これが本当に厳しいと思ってます。

 実は私、民間団体への援助に関する検討会の構成委員を務めさせていただきましたが、十分な成果が出ず本当に心苦しく思っております。国の財政が全体としてなかなか難しいところにおいて、民間団体の方の本当にボランティアとか熱意にだけ期待しているのでは日本の被害者支援は全く進まないと思ってまして、何とかここをもう少し、少しは良くなっていると思うんですが、もっともっと良くなって、本当に専門性を持った支援の方たちがたくさん生まれる、そのためにはやはりきちっとしたお金を付けなきゃいけないと思ってますので、これからもそれは一つの課題であろうと思ってます。

瀬戸:ありがとうございました。

続いて大竹さんにお伺いしますが、公共団体というのは、通常、普通の方々が生活する時の、恐らく、今日おいでの方々の中では一番身近な存在だと思われますんで、そういう立場からまた言及いただければと思います。

大竹:神奈川県の関係ですけれども、支援機関の連携っていうテーマなんですが、先ほど申し上げたとおり、県ではその総合的な相談の窓口を県として設けて1年半ぐらい今、実施してきてると。その過程においては、本当に警察の方々、それから民間支援団体の方々とですね、いろいろご協力いただきながらお互いにやってきているという状況がございます。

 それはそれで一つなんですが、今後の検討課題というか、今検討している、こういうことが必要かなということについてお話しさせていただきたいと思います。

 今、コーディネーターのほうからもいただきましたとおり、県だとか自治体が提供する支援施策というのは、既存のものも含めて非常に身近なものであります。被害者の方々、いろんな支援を必要とされるということなんですけども、これまでいろいろと条例だとか施策の検討に当たって被害者の方々からお話を伺った中で、やはり実際にどんな支援がどこで受けられるのかってのが全然分からないということ。それから特に事件後の混乱状況の中で必要な支援、自分から求めていくってのはすごく難しいんだよっていうこと。

 あと、先ほど本村さんのお話にもありましたとおり、いろんな支援、実際に受けに行ったとしても、いろんなところに自分で行って何回も何回も同じことを話すということ、それが非常に辛かったと。

 また、それからその適切な橋渡し、これは多分たらい回しにされてしまうことだと思いますけれども、そういう状況の中で、もうとにかく支援受けるの諦めてしまったというような話、こんな状況をいろいろ聞くわけです。

 一様に求めているのは、できるだけ一つの窓口で、それも1回担当してくれた方がある程度長い期間一緒に相談に乗ってくれて、必要な支援を探して繋いでくれる。やはりこういうことがすごくあると助かるよという、こんなお話を非常に伺ったわけです。

 これは、いろいろ検討されてますけれども、なかなか一つの機関でできることではない。ただ、やはり神奈川県の中でその被害者支援の中核になっていくのは、その初期的な段階で被害者の方々に接触される警察、初期的支援を行ってます。

 あとは、当然今後ですね、中長期的な生活支援ですとか関係機関、市町村などとの連携調整を行っていくっていうことになると県はすごく重要な要素になる。

 そして、もちろん行政ではなかなか対応できないような、迅速・柔軟な民間ならではの支援を行ってる民間支援団体、この3者がとにかく中核的にその被害者支援、担っているとこだと思うんですよね。

 ここが、まずは3者一体となってタッグを組んでいくということがすごく必要なのかなというふうに一つ思っているところでございます。

 ここで重要なのが、行政として決して待ちの姿勢ではなくて積極的に支援を行っていく必要があるんじゃないかということです。

 これもその被害者の方々のお話なんですが、後になっていろんな支援があるってことを知ったよと。あの時にその支援を受けられてたら少し楽になれたかもしれないなというようなこと。あと、事件直後っていうのは、なかなかいろんなこと判断できるような状況ではないので、少し強引でもいいから積極的に支援を提供して欲しかったという声なんかもたくさんいただきました。

 総合相談窓口、行政として持ってるわけですが、それはそれで非常に間口を広げていくという意味では必要なんだと思います。ただ、やはりこうした相談窓口に自らアクセスしてこられる方っていうのも、やはり限られた方なのかなと考えています。

 そういったことも考えますと、先ほど申したとおり、初期的に接触される警察、あと早期援助団体の方々、そういう方々ときっちりと支援の連携・調整を行いながら、行政としても引き続き初期から中長期にスムーズに移行しながら、いろいろな情報提供、カウンセリング、それから法律相談、あと住居の提供というような形で、その被害者の方々の個々の状況ですとか時間の経過に即した必要な支援を中核を担う3者で一緒になって考えて提供していくような、こんな仕組みを作っていく必要があるんじゃないのかというふうに考えています。

 もう1点、その3者が中心になりますが、当然のことながら、先ほど来お話にあるように弁護士会ですとか法テラス、あと個別にですね、例えばDV被害ですとか、児童相談ですとか、性被害相談とか、こういう個別、専門的な相談機関があるわけですけども、こういったところとのネットワークをきっちり作っていく。

 ここでももう一つ必要なのは、先ほど番先生のお話にもあったかと思うんですが、単に機関間の表向きのネットワークを作っていくだけでは多分駄目で、本当に顔の見える関係が必要なんだと思うんですね。

 要するに、こういう被害を受けて、こういう必要な支援を求める方が来られたという場合に、単にこの機関を紹介するということじゃなくて、担当者同士でですね、こういう話があるんだけども何とかならないかなっていうことを顔の見える関係の中で繋いでいくということがすごく必要かなということもありまして、神奈川のほうでもですね、そういった関係機関同士の情報交換と顔の見える関係作りということを目指して連絡会議を開いたとこなんですが、なかなかそれぞれの機関、日常的に非常に忙しい業務を抱えてるところで、わざわざそういうところに来てネットワークの必要性みたいのを感じていただくためにどうしたらいいかっていうことで非常に頭を悩ましてます。

 単なる情報交換会ではなくて、今後お互いに事例研究しましょうよとか、そういったスキルアップをして来て良かったなというようなそういう仕掛けをしていかないと、ただでさえ日常業務の中で相談に負われているという中で担当者の方々に集まっていただくという、そういう仕掛けをきちっと作っていかなきゃいけないと思っています。

 今のお答えになったかどうか分からないですけども、以上でございます。

瀬戸:ありがとうございました。

 関係各機関の方々におかれては、今いろいろそれぞれお話しされたような工夫等をされておられるわけでありますけど、今のお話を受けて本村様のほうで何か。

本村:いろいろとお話があったので、繰り返しになっても恐縮ですけども、連携の必要性っていうのは、やっぱり時系列で考えるべきだと思ってます。犯罪が発生した直後、それから加害者が捕まって取り調べが始まったところ、裁判が終わって後に障害とか残った方のケアがあるとかいうふうに長いスパンで見る必要があると思います。

 事件発生直後で警察の方とかに一番相談が多く、その時に当然事情聴取とかやるかもしれませんけども、例えば被害者に今後身の危険があるとか、この人が安心して明日から住めるかどうか分からないとか、そういう事情が分かった場合に、警察の人は基本的には事件を解明するのが仕事であって、支援することが本当の仕事ではない。

 その時に、今、目の前にいる被害者、そのまま家に帰していいのか。帰せないなと思った時に、では次の、どこか一時的に避難する場所がないと思った時に、例えば支援センターと綿密な連携出来ていて、支援センターにアポイントメントを取れば、どこどこにシェルターがありますよというふうに、支援をしていくっていう形がとても大事で、とにかく被害者の方の身の安全と安心を確保できる形に各機関が連携を取ってあげることがやはり重要なのだろうと思っています。

 当然、加害者が捕まって裁判が始まれば、裁判によって生じる法的な問題、それについては、やはり弁護士会であったり、法テラスを紹介したり、弁護の専門的な法律の相談ができるとか、そういったことも必要になってくるでしょうし、そういった意味ですべての機関が連携しなきゃいけない。

 先ほど大竹さんが言われたように、その都度、被害者が窓口に行って被害の全部を説明するってのはとても大変です。特に、私は恵まれた被害者で「山口県の母子殺害事件の遺族です」って言うと「あぁ、どこかで見たことある」ってことですぐ話が通ると思います。

 ただ、多くの被害者の方はそうではありません。新聞にも載らないし報道もされない。1日に5,000件以上刑事事件が発生していて、交通事故を含めると多い年で1万件ぐらいになると思います。そういった方たちが窓口に行って、自分がその事故、そういった犯罪や交通事件とか、それを含めて、その被害者遺族であるということを毎回毎回説明しなきゃいけないのは大変辛いと思います。ですから、幾ら相談窓口を設けても相談しにくい環境であれば行けないと思うので、何とかして被害者の方が相談しやすいシステムを作らなきゃいけないと。

 一番いいのは、なかなか実現しないのですけども、警察で認知された事件であって、警察が、これが事件だと認知してれば何か事件の内容とか書いた書面があって、それを出すことで被害者だと言うことなくそれを見れば「あ、この人は、こういう事件の人なんだな」ってすんなり分かって、スムーズに支援に移行できるものが出来ればいいんですけども、まだそこまでは出来てません。

 今、犯罪被害者申告票というものを作って、文書で書くのではなく、事件が発生してから何日目ですかとか、1ヶ月とか、半年、1年とかクリックしたり、事件の内容とか罪名をクリックしたり、被害者か遺族かとかクリックしたりして提出するだけで、ある程度被害者が認知できるような申告票を作っていますけども、とにかく支援のシステムを作っても相談する人が行かなきゃ意味がないので、相談しやすいものを作っていかなければいけないかなというふうに思ってます。

 それと、残念ながら警察の方がすべての事件を認知できるわけではありません。例えば、職場の性被害などいろんな問題があって、なかなか警察に通報できないとか、人に知られたくないと思って抱えてるものがある。

 そういったことを、例えばDVとかで暴力を受けてて、その女性の方が病院に通ってる。病院機関で、この人の傷とかを見れば明らかに事件性があると判断した場合にその時に、その人が口を割らないとしても、病院に被害者の支援センターのパンフレットを置いとくとか、DVのパンフレットを置いとくとか、そういうふうにして、いろんな機関がそれぞれそういう人が来る可能性があることを踏まえて、何かしらの準備をしてあげることで連携の輪が出来るかもしれません。

 もう一つお願いしたいのは、すべての人が犯罪の被害に遭う可能性があります。犯罪の被害に遭ってから知ると遅いと思うので、犯罪に遭う前からいろんな情報を与えとく必要がある。私たちもそういった類の情報を知っておく必要があるんじゃないかなあと思っています。

 ちょっと性被害ばかり言って申し訳ないんですけども、女性の方で性被害に遭った方、何人かお話ししますけども、突然襲われるわけです。顔とか見てたりする暇がないわけです。なかなか事件で立証するのが難しい。

 ちょっと生々しい話をしますと、その時にとても大事なのは男性が残した遺留品、例えば体毛であったりとか体液だったりとか、例えば体液などは24時間以内ぐらいに採取しないとDNA鑑定ができないと聞いたことがあります。せっかく女性の方が頑張って申告をしても、そういう証拠が無いために、裁判で一生懸命証言しても証拠不十分になったりすることもあるわけですね。

 だから、そういったことも、私は関係ないと思うかもしれないけども、いろんな機関が連携して、例えばそれは医療機関じゃないと分からなくて、支援センターの人たちが知らないことがあるかもしれないので、そういった各機関の専門家の方がいろんな情報を持ち寄って、事前に私たちにそういった啓発活動をしてくれるといったことも今後は大事じゃないかなあと思っていまして、そういった点を含めて警察と支援センターだけでやればいいってわけじゃないと思います。

 法律機関とか、医療機関だとか、住居提供する機関とか、いろんな方がそれぞれ想像力を働かせて「あ、私たちの施設では、こんな支援ができるかもしれない」という既存の設備とか既存の人材をフル活用して、財源が厳しい中、新しいものは造れないと思うので、そういった形で今のシステムを先ず使って被害者全体を支えることと、被害にならないようにとか、被害に遭った時のために事前に私たちにいろんな啓発をするようなことをこういった活動を含めてやっていただければなというふうに私は個人的には思っております。

瀬戸:ありがとうございました。

 それぞれ支援に当たる関係各機関・団体、得意とするスキルというか分野はそれぞれお持ちで、逆に言うと不得意な部分もあるわけす。得意な部分については尽力していただいて、それで不得意な部分については得意な機関に連携をしていただくということが一番大事というか、必要であると。

 先ほど堀河様や大竹様の言葉にありましたけど、ただ単に連携するだけでは足りない。いわゆる信頼できる連携、顔の見える連携ってのが非常に重要であるというお言葉がありました。

 これは、いわゆるたらい回しになって、返って被害者の方々を傷つけてしまう、そういうのを避け、なおかつ有効な支援ってのを行うために必要なことだと。支援に当たる方々が心掛けていただきたいことだと思います。

 先ほど、ハンドブック、モデル案の話が出ていると言いますか、私が出したのですけども、モデル案は、あくまでモデルでありまして、実際にハンドブックを作る際には、先ほど高木室長のお話にもあったように各都道府県ないし市町村ごとで作成していただくわけであります。その作成する際には、当然、関係機関・団体が集まって話をしなければできないものであります。ハンドブックのモデル案に関しては、そういう作成過程で、またそれぞれ連携を深めていただきたいという趣旨も含まれておるものであります。

 それでは、時間の関係がありまして、連携に関しては、ここでちょっと、それほど時間は無いんですけれども、本日は、先ほど、お話がありましたように、いわゆる被害者参加制度が本日から施行されて始まっております。

 この制度は、先ほどから、説明されておりますとおり、12月1日以降に起訴される事件に適用がありますので、実際に法廷で始まるのはもう少し時間がかかると思われますけれども、逆に言うとですね、現在、犯人が検挙されて捜査が進行中の重大事件はその対象となる可能性があるとも言えるわけであります。そういう意味で、かなり具体的な動きを示し始めてるとも言えると思います。

 そこで、この被害者参加制度に関しては、連携という観念についてどう考えるべきなのかと。どう連携を図っていくべきなのかって申し上げてもよろしいですけども、それについて被害者参加制度に精通し、法律の専門家たる弁護士の方からの助力が必要不可欠な制度、弁護士の方からの助力が必要不可欠な制度であると思いますので、番先生、これについてちょっとお話をお願いします。

番:この制度について、まず周知していただく必要がありますね。ですから、民間支援センターの皆様、警察の方々、それから検察庁の方々ですね。被害者と接する方が早めにこういう制度があるんだということを伝えていただくことが大事です。

 メディアの方も随分ここのところ報道していただいてますけれども、まだまだ自分が関係ない所にいるとこういうことはよく分からないということで、あまり関心が無い場合もあると思います。まず、早く教えていただいて、そして早めに、起訴された後ですね、参加の申し出をしていただきたい。

 そして、これは先ほど、法務省の三浦さんのほうからも説明がありましたけれども、5項目新たにできることがあるわけです。その中に、特に被告人質問、証人尋問、弁論としての意見陳述、これはもう訴訟行為であって、非常に被害者の方がお一人でなさるのは難しいですし、全く違うところの裁判ということに関わるわけですから、これは弁護士の援助でできるだけ受けていただきたい。そのために国選の制度も出来ます。

 今度は検察官とよくコミュニケーションを取るというのが前提のこの制度ですから、弁護士も付けて、そしてなおかつ被害者の側と検察官との間で十分にコミュニケーションを取って、被害者の方が今まで蚊帳の外に置かれていたという刑事司法に関して十分に理解し、そして説明を受けて、自分の意見も反映したという形で進めていくということがこの制度の目的です。

 ですから、そのために、今までの単に傍聴の支援とかということではなくて、もうバーの中に入ることができますから、そういうことを含めてよく民間の支援の方にも相談し、民間の支援の方は弁護士のほうに振っていただいたりしてですね、あるいは検察庁のほうによく相談をしていただいて、そういうまた別の、今度は法的なネットワークといいますか、それを構築していかなければいけないと思っています。

 まだまだこの制度が始まって、これからが運用なので、どこまでどうなるか分からないのですが、本当に関係機関がよく連携して、せっかくの制度をきちっとした形で、やはり被害者のための施策ですから、被害者のために進めるように運用していかなければならないのかなというふうに思っております。

瀬戸:ありがとうございました。

 本村様には先ほど基調講演でその点、かなり丁寧にお話をいただいたんですけども、あすの会では、その点に関して失礼ですけども、先日お話があったとお伺いしてるんで、もし、ご言及いただければと。

本村:一応今日から被害者参加制度が始まるということで、今、番先生が言われたとおり、実際運用したらいろんな問題が出てくると思うんですね。だから、これで完成ではないと思ってますので、とにかく被害者の視点に立って適切に運用されるってことがなされなければいけないと思っています。

 実際にどういった問題があるかっていうのは、本当にやってないので、あまり確たることは言えないのですけども、一つは被害者が参加しますと言った時に、基本的にこれは裁判所が許可するかどうかがあるので、基本的に許可していただかないといけないんでちゃんと許可してもらいたいなと思います。逆に、不許可となった場合には、きちんとその理由を明確にしてあげないと、それがまたそれで怒りの矛先になってしまうこともあるでしょう。

 実際に被害者が参加しました。被害者は意見を言うことができるんですね。実は、私達の会の昨日のシンポジウムでも番先生のほうから正直に言ってくれたんですけども、今までは裁判は被告人に付いてる弁護人と国の代表である検察官のこの2人が二者当事者主義で対決してたんですけども、今度ここに被害者が入ってくるんですよね。

 私もずっと自分の裁判見ているのですが、真剣勝負です。特に死刑がかかる問題となったら被告人だって命がかかってるわけで、発言してると「異議あり!」ってすごい声で言われてしまうんですよね。

 だから、傍聴も初めてのときは聞いててびっくりするんですけども、弁護士会のほうでも、裁判員も始まるし、被害者参加が始まり、どうやるかって時に、被害者があまり意見をたくさん述べると、それを制止するために弁護人はとにかく「異議あり、異議あり」って言い続けようとか、何かそんな取り組みをするとか、練習をしてるとかいうことで、確かにそれは法的なやり方としてはテクニックかもしれないんですけども、参加したのに結局何も言えなかったとか、むしろ怒りを持って帰って来ちゃったりしたら意味が無いんで。

 私が裁判に参加して、ずっと裁判傍聴してきて、裁判に行く度に傷ついたり、事実が分からなくなったり、鬱憤がたまってきたので、本当は裁判に行く度に事実が少しずつ明らかになって、感情も少しずつ癒されてくのがあるべき姿なので、そういうふうにならなければいけません。そういった点をちょっと今後注意しながら見守って行きたいです。

 あんまり異議を申し立てないようにとか何か、それは裁判所が言ってくれるかもしれませんけども、そういった点を含めてこれからケアしていかなきゃいけないなと思っております。

 それと、やはりこれから被害者が1人で参加しても、やはり意見とかはなかなか言えないと思いますので、適切な弁護人の方をきちっと選任していただいて、被害者と弁護人と検察官がちゃんと連携を取って刑事裁判に参加して、裁判が終わった後に被害者が、たとえ望む刑が出なくても自分の気持ちは十分に被告にも伝えたし、裁判所にも言った。裁判が終わった後に「ありがとうございました。」と言える刑事裁判になって「よーし、明日からこの事件を乗り越えて生きていこう」と言えるような司法制度になるように、これからも関心というか見守っていきたいなというふうに思っております。

瀬戸:ありがとうございました。

 被害者参加制度については本日から始まる制度ということで、運用がどうなるかっていうのは、確かに今、お話があったとおりちょっと不透明な部分もございます。被害者の方のために支援っていう観点から、より適切に関係機関においては運営していただきたいと思います。

 次に、第2のテーマに移らせていただきます。

 二つめのテーマは「被害者の人権を考える」というテーマになっておりますが、これは、犯罪被害者等基本法第3条1項、基本法の中に「すべて犯罪被害者等は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する」という規定があります。

 そういう基本法の精神に基づいて被害者の人権っていうのを考えていきたいんですけども、ただ極めて広範囲にわたってしまうので、本日は主として二次的被害についてお話をさせていただきたいと思います。時間が許せばですね、メディアによる取材に関してというところにもちょっと触れていきたいと思うんですけども。
 
 最初に、二次的被害っていうのは、どういうものなのかということをですね、先ほど本村さんの基調講演の中にもございましたが、また申し訳ないですけど、改めて本村様のほうから二次的被害っていうものについて、どういうものであるかというのをかいつまんでお話ししていただければと思います。

本村:はい。

 よく2000年ぐらいの時に二次被害、三次被害とか問題になりました。何かというと、ただ犯罪に遭ったこと自体が1次被害です。その犯罪から回復する過程にいろんな問題があったということです。

 代表格は、やはりメディアの報道による中傷とか誹謗が蔓延することですね。それよって犯罪被害者の方が傷つくっていうことがありました。

 二つ目に、事件が起これば裁判が始まります。当然、裁判に傍聴したいとか思うのですけども、昔は裁判期日が連絡されないとか、加害者が捕まったかどうかも連絡されないとか、あとは裁判があるってこと分かったんで裁判所に行ったら傍聴券が無かったり、そういったことで刑事手続に関わろうとしても出来ないことで不満が募ったりすることもありました。

 次に、犯罪が起これば精神的な被害を被る方がいらして、その方がカウンセリングに行ったりすると、カウンセラーの方がよく犯罪のことをご理解されてない方が多くて、相談に行くことで、返って厳しいこと言われたり、生活指導されたり、いろんなことで被害者が傷ついてしまうってこともままありました。

 後は、相談しようと思っていろんな相談窓口に行く度に、事件の一から全部を何回も何回も話すということが、だんだん自分の負担になってきて、返って支援を受けに行ったのに、逆に自分のこと話すことが辛くて、それでまた再被害になったりということ。そこが非常に難しくて、あと逆に支援を求めて行っている、自分の事件のことを話し切った後に、あなたの求めてる支援はできません、ここに行ってくれと言われた先でまた支援ができませんって言われたりして、たらい回しにされて、結局何も得られなかったとか、支援体制がちゃんとできてなかった、連携が取れてなかったっていうことで被害に遭ったりすることがありました。

 あとは、法律相談もそうです。法的な相談をしようと思って弁護士さんのところに相談に行った時に、弁護士さんからすれば日々の仕事であって、加害者も接するし被害者も接するっていうことで、特に被害者にケアしていない方もいらしたかもしれません。弁護相談に行って心ない言葉をかけられたりして被害に被ることもあったと。

 あと大変残念なのが、犯罪が起こって必ず接するのが警察官の方です。いい警察官はたくさんいらっしゃるんですけども、中には非常に被害者に心ない言葉をかける警察官の方もいらしてですね、警察官にとっても1日に何件も何件も事件があって被害者と接してるからお疲れだと思うのですが、被害者にとっては人生に1回しか無い大事件なんですね。

 それに対して、例えば子供を失ったご両親が泣いてる姿を見て、「子供の作り方を忘れたわけじゃないだろう、頑張れよ」みたいな。慰めで言ったかもしれないんですけども、そういうことを言われて非常に心が傷ついたとか、そういう方がいらしたり、あとは周辺の地域の方とか社会の方の中傷で、損害賠償請求をしたら、あの方は何か、「判決が出たらたくさんお金もらったらしいよ。」とか、そういうことを言ったり、本当はほとんどお金なんて入ってこないんですけども、「人の命をお金に換えるの?」っていう中傷をしたり、被害者も心機一転したくて、よし気分を変えようと思って車を新しく替えたり、事件後、家を改装したりすると、何か「事件でお金が入って何かしたらしいよ」とか、そういう噂を立てたり、心無いことがまた二次被害、三次被害になってきました。

 それは、正に国民の皆様のご理解があれば無くなることだと思うんですけども、そういったことで、事件後、回復しなきゃいけない時期に様々なことで被害者に対する理解とか思いやりが無いことで傷つくことが多々あったっていうのが二次被害の代表的なものじゃないかなと思っております。

瀬戸:ありがとうございました。

 二次的被害についてはですね、特に問題なのは、今、本村さんのお話にもあったんですけども、被害を与える者に悪意があったわけじゃなくて、逆に被害者を励ますとか、ためになると思って、実は考慮が足りなくて傷つけてしまう。

 ところが、その傷というのが精神的な面に作用するという特質もあってですね、非常に深くて長い傷になりがちだというところが問題が大きいというふうに私は個人的にも思ってはいるのですけども、特に支援に当たる方々は被害者の方々に接触する機会がもちろん大きいわけで、その点については十分なご配慮をしてご支援に当たってると思うんですけども、今、本村様のお話の中では警察官の話が出ましたんで、まず二次的被害の防止についてどういう点に留意して支援に当たられているかということについて、高木室長、お願いします。

高木:はい、分かりました。

 このパネルディスカッションの冒頭に被害者対策要綱のお話を申し上げました。これは、平成8年に示したものということなんですけれども、これが策定されました背景としましては、今ご指摘のありました警察官の対応のまずさから二次的被害を与えてしまうということ、そういった現状があって、こういったことを無くしていこうということも一つの大きなきっかけでありました。

 この中で、やはり被害者の実情でありますとか、こういったことをまずもって警察官としても理解はするし、被害者対応の在り方の基本といったものがどういったものなのかについて組織として整理していって、これを第一線に徹底していくことが重要だと考えられたわけであります。

 この被害者対策要綱は平成8年でありますけれども、さらに平成13年に被害者等に対する援助の実施に関する指針といったものも示されまして、さらに、これが今般の法律改正を契機に改正されまして、本日お手元に配付さしていただいております犯罪被害者等の支援に関する指針、概要だけでありますけど、後ほどご覧いただきたいと思います。こういったものを策定をしてきており、組織としての考え方をだんだん整備をしてきたということでありますが、では、こういった被害者対応の基本を警察職員に徹底していく、こういったことは非常に重要なんでありますけれども、幸い警察は職員の教育のシステムという意味では非常に整っている組織であると思っています。

 具体的に申しますと、職員として採用されますと、まず全寮制の警察学校に入校しまして教育を受けるわけですけれども、その中のカリキュラムには必ず被害者対応の基本といったものを教えることになっていますし、この学校を卒業した後に第一線に配置されますと、上司の指導の下に、先輩について職務に当たる中でOJTといったこともあります。

 さらに、警察官は階級があります。その階級が上がる度ごとに、また警察学校に入って教育を受けます。それぞれの上位の階級にふさわしい、上位の階級に即した被害者対応の在り方といったこともそれぞれ盛り込んでいるところです。

 さらに、交番の地域警察官が、いわゆる捜査を専門に行う刑事さんになるためには、それに応じた試験なり研修なりといったものもあり、こういった中にも当然被害者対応のことも盛り込んでますし、罪種ごとの専門の捜査員ってのがいまして、性犯罪捜査員といった者もいます。このためには、それに必要な専門的知識、技術を教えると、こういったためにですね、やはり教育をするわけですが、その中のカリキュラムにも当然被害者対応の在り方といったものは盛り込んでいるわけであります。

 しかしながら、生の事案において、また時々刻々事態が変化していく中で、また被害者の方、それぞれの個性も違いますし、立場も違います。置かれた状況も異なるといった中で適切に対応していくことは、非常に難しいものがあろうかと思います。

 そういった中で、警察官はそれぞれ現場において非常に苦労して対応してるというふうに考えておりますが、その活動の一端といったものがですね、これは廊下で配付させていただいてますけども、こういった手記という物を作らせていただきました。これも是非ご覧いただきたいと思いますけども、こういった中で苦労しながら何とか対応してってるというような実情もお分かりいただけるかと思います。

 もう一つお話をさせていただきたいのは、確かに警察は事案の真相を解明していくことが大きな職務でありますけれども、最近におきましては指定被害者支援要員制度といったものも運用しております。

 これは何かといいますと、そういった事案の真相解明といった意味での捜査、狭い意味での捜査とは別の観点で、また人も場合によっては別の人が被害者の支援といったこと自体を職務として担当するといった制度の運用も行っております。

 具体的に申しますと、そのような支援要員として当該事件ごとに指定された警察職員が被害者に寄り添って、被害者のニーズに応じてその被害者の権利、利益の実現をサポートしていく、こういった職務に当たっているというものです。

 活動の仕方を言いますと、例えば、なるべく早く被害者にその人自身が接触をして、自己紹介から始まって、自分はこういう、あなたの支援という役割です、といったことを説明して、まずその被害者に安心していただくことから活動を始めるわけであります。

 その後、どのような活動を行うか、どのような警察活動を行うか、支援を行うかといったことは正にケース・バイ・ケースでありますけれども、被害者の話をよく聞きながら、あるいは、より積極的に被害者の立場に立って、そのニーズを酌み取って行っていくといったことになります。

 例えば、警察署と自宅の間の送迎を行うといったこともありますし、病院へ付き添っていくといったこともあります、被害者が利用可能な制度の説明もした上で、それを利用したいといった時にその手続をお助けするといったような支援なども行っております。

 こういった支援員の活動も含めて警察の行っております被害者支援の実情などにつきましても廊下のほうでこのようなパンフレットをお配りしておりますので、ご参照いただければと思います。

 以上でございます。

瀬戸:ありがとうございました。

 それでは、同じく被害者の方々の支援に当たられている堀河様のほうからお願いします。

堀河:私たちが被害者の方に接して、特に人権問題として、個人の尊厳が侵される問題としては、今、警察からのお話もありましたが、例えば事情聴取に行った場合に長時間にわたって同じ話を何回もしなければならないということがすごく苦痛に思われるっていうこと、しかもそれが1回では済まないで再度であったり、ちょっと協力をしてくれということが威圧的に感じられたり…。もちろん協力はしなければいけないのでしょうが、自主的というよりも捜査、犯人を見つけるために必要だと大上段に言われてしまって、とても怖くなったというような思いに陥られる方もいらっしゃいます。

 また、メディアの二次被害ですけれども、大きな社会問題を提起するような事件の場合には、メディアスクラムなど一斉取材にさらされ、かつ被害者の方たちがご近所に対してご迷惑をかけて申し訳ないと、ご自分が被害者でありながら周りの人や、近隣や地域に謝らなければならないような事態が生じる場合もあります。大きなメディアの場合は自主規制ということでいろいろな研修を重ねていかれる場面もあるのですが、実際、事件が起きてしまうと、本当に言葉が悪いですが旬のうちというのか、パーっと押しかけて、そして一瞬に過ぎてしまうと、もう何があったか分からないぐらいにすべて忘れ去られてしまうような形があります。メディアはそういう意味では功罪半ばですが、今は自主規制をしたり、いろいろな研修も受けています。記者の中には長年にわたって信頼関係を培って、被害者の方たちが本当に聞いて欲しい、自分はこの真実、愛する家族はなぜ命を落とさなければならなかった、そこで抱えられた様々な問題などの事実をしっかりと話したいと言われる時期が必ずあると思いますが、その時にしっかりと話を聞いてくださるメディア、そしてそれを記事にしてくれる。そういう場合、被害者は救われたというような気持ちになります。しかし実際にはまだまだ日常生活がままならないぐらい、1社だけではなく常にインターホンが鳴らされて日常生活に支障をきたすこともあるそうです。

 私たちも池田小学校の事件の場合に、家庭訪問で伺ったご家庭の発言の中にも、自分の所にも電話がかかってきたと。どうして自分の所の電話番号が分かったんだろうかと。そういうことで、プライバシーが侵害され、とても恐ろしくなる形で、被害者自身が苦しまなければならないという現実もまだまだ残っているのではないのかと思います。

 また、裁判になって裁判所に行かれる場合も、私たちが付き添って行った折、エレベーターに乗ろうとすると「ちょっと待って。今は乗れない」と言われて「どうしてですか?」と後でそっと聞くと、今、加害者側が乗っていたということでした。

 大阪地裁ですが、最近は被害者のための控室が準備されておりますので、前もって連絡をするとそういう所をきちんと取っていただけます。被害者の方たちが常にそういう危険や、恐怖にさらされる場面もまだまだ残ってるんではないのかと思います。

 そういう意味では、人権的な施策も、いろいろなものが出来ておりますが、その中で被害者自身が本当に必要とされる施策がきちんと届くようになる必要があります。その運用の過程で、私たちも様々なことを常に検討しながら、本当に適切な支援を二次被害を与えない形で提供していく役割が課せられておりますが、まだまだそこには解決していかなければならない問題もあるのではないかと思っております。

瀬戸:ありがとうございました。

 次に、地方公共団体の職員の立場として被害者の方に支援に当たられるっていうことで、大竹さん、お願いします。

大竹:被害者の方々の二次的被害への対応という観点から、自治体として、まず県民の方々への普及啓発をという観点と自治体職員の研修という観点の2点でちょっとお話ししたいと思います。

 先ほど冒頭で犯罪被害者支援っていうことは、県民の意識の点からもまだまだ遠い課題なんじゃないかということを申し上げさせていただきました。

 実は、今年の7月に犯罪被害者支援をテーマとして県政課題アンケートっていうのを実施したのですけれども、その結果で現れたのがですね、例えば「あなたの身近の人たちに被害者支援の必要性が認識されていると思いますか」という問いに対して「十分に認識されている」「まあまあ認識されている」という、合わせて「認識されている」という回答が1割台ということでした。

 一方で、ずれるんですけども、7割以上の回答者の方が、自分自身が何らかの犯罪に巻き込まれるかもしれない不安について「ある」というふうに回答してると。

 これを考えますと、自分自身は何か犯罪に遭いそうだという不安感を抱えていながら、いざ被害者になった時にどんな状況に置かれるのか、どんな支援が必要なのかっていうことに関してはあまり理解されてないという、こんな状況なのかなと考えています。

 やはり、こういう状況を考えますと、これから自治体としても支援を行っていくと。また、その二次被害の無いですね、地域社会ですとか環境を作っていくという上で、やはり普及啓発というのが、自治体として、また地域として取り組んでいく非常に大きな施策なんじゃないのかなというふうに考えています。

 普及啓発に当たっては、やはり何といってもその被害者の方々の生のお声をできるだけ多くの方々に伝えていくと、聞いていただくというようなことがすごく効果的なんだろうなと考えています。

 やはり、ことしの7月に警察、それから民間支援団体と共催いたしまして開催したシンポジウムでは、お二方の被害者のご遺族の方にご参加いただきましていろいろご体験等をお話しいただいたわけですけれども、参加者からのアンケートでは、初めて被害者の方の話を聞いて、自分として何をしたらいいのかというのが少し分かってきた、大きなことではなくて、普通のあいさつをするとか、ごく簡単なできる手伝いをするといったことでも支援になるということを知ったという、こんな前向きのご回答をいただいてます。要するに、知らないというだけであって、やはりいろんな情報、それからお話が伝わればこういう動きが出てくるのかなというふうに考えています。

 もう一つ、県が取り組んでる普及啓発の一つの方向性として、県の場合、防犯活動という、犯罪を起こさない、無くす活動を非常に力を入れてこれまで取り組んできました。こうした防犯の活動と連携した被害者支援、被害者理解の取り組みというのも効果的なのかなと考えています。

 例えば、各地域に自主防犯活動団体というのが非常にたくさんあるわけですが、県としてもこういった自主防犯活動団体のリーダーの方々にリーダー養成講座のような防犯活動の講座を実施してるんです。

 去年から、その中で犯罪被害者支援を1コマ入れました。やはり、日常的に防犯ですとか、そういったことに関心を持たれてる方々なんで、非常に吸い込みがいいというか、反応が良かったということがあります。こういったことのアプローチ。もう一つ、県では特色ある活動として、教員を含めた県職員が、くらし安全指導員という職名というか役割を持って、県内の本当に細かい地域だとか学校で、これ年間に7,000回以上ですね、防犯教室だとかパトロールだとか、そういうことを実施してるんです。こういう中でも犯罪被害者支援、犯罪被害者理解の普及啓発、若干、行い始めているところです。

 今後、例えば被害者の方々の手記の朗読をするとか、こういう本当にできるところ、地べたの一番きめ細かいところで被害者理解促進を図っていきたいなと考えているところです。

 もう1点、職員研修です。県庁っていうのは、なかなか直接県民の方々と接する窓口は無いのですけれども、やはり被害者支援を行っていくに当たって県庁内の理解ってのは非常に重要だということで、去年から今年にかけて、かなり絨毯爆撃的に研修を行いました。

 まずは、全部局長、部長クラス、あと全所属長を対象とした幹部研修、それから出先機関っていうのはいろいろと県民と接する機会多いので出先機関の全長を集めた研修、今年に入ってからは新任の管理職手当級の職員の研修のような階層別の研修、あと、いろいろな専門職員研修等で機会あるごとに被害者の方々の置かれた状況、それから支援に対する理解を深めていただいてると。

 こうした取り組みは、1回で終わりということではなくて、毎年継続して繰り返し実施していきたいと考えているところでございます。簡単ではございますが。

瀬戸:ありがとうございます。

 次に、法律の専門家としてその二次的被害について番先生にお話をお伺いしたいんですけども、先ほど報道取材に関する被害の話も出ましたんで、それについて取り得る被害者施策についても併せてご言及いただければと思います。

番:先ず、望まれる被害者支援弁護士というのはですね、二次被害を与えずに適切な法的サービスを提供できる弁護士と考えております。

 この「二次被害を与えずに」というのは非常に大事で、これが一番の要件だと思ってます。日弁連では毎年1回、被害者の方もお呼びして研修をし、それをサテライトといって全国の弁護士会に衛星中継するというようなことで研修を進めております。その他に、ビデオを作って各会にお渡ししたりとかですね、各会ごともまた研修をするということでやっております。

 これは、単に支援をするということだけではなくて、刑事弁護人として被害者を接する場合にも必要だと考えておりますので、これから弁護士全体の研修として広げていくような活動の方向に今動いております。

 それからメディアの問題ですけれども、やはりできるだけ早く弁護士が入り、代理人という立場で窓口を一本化するということは非常に効果的です。ちょっとそれは時期が遅くなってはいましたけれども、それでも私自身も各メディアに対して、私が代理人になりましたから、もう直接取材はやめてくれと。全部、私のほうにお願いしますというようなことを新聞協会、司法記者クラブ、民放連とかですね、そういうところを通じて各社にお願いしたところ、今は本当にきちっとそれ守っていただけてます。

 ですから、そういう意味で、弁護士を付けるということは、その方の、その人の気持ちを公表したりする場も作れますし、ちゃんとした取材を受ける。その取材を受ける中で、ちゃんと被害者のことを分かっているメディアを、ある意味チョイスするといいますかね、そういうことも可能になるわけです。ですから弁護士の役割としてメディア対応というのは非常に大きなものだと私は思っているのですが、一番大事なのは犯罪直後に入ることなのです。犯罪直後のメディアスクラムをどう阻止するかというのが一番大事なのですが、ちょっと悲しいことに、なかなか犯罪直後に弁護士に繋がらない。当番弁護士のようにこちらから伺うというわけにもいかないので、その点についての問題がちょっとあるかなと思います。もっと効果的に弁護士が付いて、できるだけ被害者の方の日常生活を守りながら被害者の声も発信し、メディアの取材も適切なものは受けてということができれば非常にいいなと思っております。

瀬戸:ありがとうございます。

 二次的被害を与えないっていうことに関しては、皆様共通のご認識があるところであります。

 先ほどご意見の中にあった、被害者の立場に立って、そのニーズを酌み取った支援を行うというお話、お言葉がありましたけども、その支援に携わる者が、皆、被害者の方々の立場をよく理解するところから始まるのではないかと。理解して、その支援に当たることが先ず必要かと思いました。

 もう一つ、今日、連携のほうがテーマであったんですけど、連携というのは、これもご意見の中にありましたけども、関係諸機関・団体の連携も当然重要でありますけども、それを支える国民の方々ないしは地域住民の方々のご理解とご支援も必要不可欠なものであります。

 被害者の方々は、最終的には元の自立的な能力を取り戻して社会に戻るわけでございますので、その社会の構成員たる国民の方々とか地域住民の方々のご支援もまた必要不可欠、ご理解も必要不可欠だと思います。

 司会の不手際で時間を過ぎてしまいまして、報道取材の対応に関しては、今、堀河様と番様のご意見の中で触れていただきましたので、これでご勘弁いただきたいと思います。

 それでは、本日のディスカッションに関しては、これで終了させていただきたいと思います。

 パネリストの皆様、皆さんご苦労様でした。
 

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