11月25日~12月1日は犯罪被害者週間

「犯罪被害者週間」国民のつどい 秋田大会

議事内容

第1部 あいさつ

荒木 二郎(内閣府犯罪被害者等施策推進室長)

 皆さんこんにちは。 内閣府犯罪被害者等施策推進室長の荒木と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます。本日は大変お忙しい中、皆様方には「犯罪被害者週間」国民のつどい秋田大会にご参加いただきまして誠にありがとうございます。心から感謝を申し上げる次第です。また、日頃から犯罪被害者の問題にご関心を持たれ、各種施策の推進につきましてご支援とご協力を賜わっており、この席を借りまして、高い席から恐縮でございますが、御礼を申し上げる次第です。

 犯罪被害者の方の多くは、当然のことながら犯罪によって肉体的・精神的に大変大きなダメージを受けますが、それに加えてその後も経済的に大変困窮し、その後の捜査や公判、あるいは報道等の過程においての心無い言動等によってまた傷つけられる、いわゆる第二次被害にあって苦しんでいるという状況が少なくなかったわけであります。

 このような状況の中でご案内のように、一昨年の12月1日「犯罪被害者等基本法」が、議員立法により制定されました。そして、それを受けて昨年の暮れに「犯罪被害者等基本計画」という犯罪被害者のための施策の大綱が閣議決定されました。政府として総合的かつ長期的に犯罪被害者施策の推進を行なっていく体制が整ったところです。基本計画においては被害者施策を推進するにあたり、国民の理解と協力を得るということが重点事項のひとつとなっています。その一環といたしまして、基本法の成立日である12月1日にちなんで、毎年11月25日~12月1日までが「犯罪被害者週間」とされたところです。この週間の期間中に集中的な啓発事業等を実施しまして、犯罪被害者等の方々の実状や施策の現状等について、国民の方に理解を深めていただきたいと考えています。今年はその犯罪被害者週間の記念すべき第1回目であり、今日はその初日です。この「国民のつどい」は週間の中核的な行事として開催するものであります。中央大会を来週の月曜日に東京で行いますが、地方大会としてはこの秋田、神奈川、大阪で開催をいたします。

 この秋田大会につきましては、内閣府と秋田県、そして秋田被害者支援センターとの共催により、開催をさせていただいております。秋田県では寺田知事の強力なリーダーシップのもとで、犯罪被害者等支援の基本計画をつくっておられます。県レベルで被害者の基本計画をつくっているのは、おそらくほとんどなかろうかと思います。また、総合的な窓口も整備されていますし、行政と関係機関・団体が密接に連携をしながら積極的に犯罪被害者施策を推進されてこられたところであり、これらはまさに全国の県の模範となる取り組みであると考えています。秋田県でこのような大会を開催できますことを本当に喜んでおります。

 本日は犯罪被害者の状況等についての基調講演やパネルディスカッションが、専門家、あるいは被害者の代表者により行われます。その他にも被害者支援のためのメッセージの表彰や関係機関・団体によるパネル展示等が用意されています。ご来場の皆様方には、これらを通じまして、犯罪被害者のおかれている状況、あるいは施策の現状について、被害者支援の重要性、さらに名誉や生活の平穏を回復することの重要性について理解を深めていただき、また、自分はいったい何ができるのかということに思いをいたしていただければ幸いであると考えています。政府では今後も常に被害者の方の声に耳を傾けながら、全力で犯罪被害者施策を推進してまいりたいと考えています。今後とも一層のご支援とご協力をよろしくお願い申し上げます。

 終わりにあたりまして、関係者の皆様のご苦労に感謝いたしますとともに、ご参加の皆様方の益々のご健勝とご活躍を祈念いたしまして、簡単ではございますが挨拶とさせていただきます。

第1部 あいさつ

品田 稔(秋田県出納長)

 出納長の品田でございます。皆様には安全・安心なまちづくりや交通安全の推進について、日頃から大きなご支援、ご協力をいただいており、厚く感謝を申し上げる次第です。また、中泉議長を始め、ご来賓の皆様方には大変お忙しい中をご列 席いただきまして誠にありがとうございます。

 今日11月25日は今年度から始まりました「犯罪被害者週間」の初日でございます。中央大会を始め全国4カ所において、「犯罪被害者週間」に合わせて「国民のつどい」が開催されるわけですが、この秋田大会が全国最初の大会ということです。

 不幸にして犯罪や交通事故に遭遇した場合、被害者はもとよりそのご家族は多くの困難に直面するのが実態であり、被害者がその被害から1日でも早く立ち直り、再び安心して過ごせる社会を実現するため、行政・民間団体を始め各方面の方々の協力による総合的な支援制度の確立が望まれているところです。

 本県では本年2月、全国に先駆けまして「秋田県犯罪被害者等支援基本計画」を策定したところでございます。また、あきた21総合計画の第3期実施計画においても、安全・安心まちづくりや交通安全運動など、これまで進めてきた予防対策に加え、新たに犯罪被害者等に対する適切な支援を行なっていくことも大きな柱のひとつと位置付けをしたところであります。今年は全国的に飲酒運転による死亡事故が多発していますが、本県も例外ではありません。また、親が子どもを殺すという誠に理不尽で痛ましい事件や、いじめ、子どもの自殺なども連日報道されています。被害にあわれた方々やご遺族の心情を思うにつけ、誠に心の痛む思いであり、県では今日のこの大会を契機として、知事を先頭にその対策になお一層努力をしてまいりますので、皆様方のご理解とご協力をよろしくお願い申し上げます。

 この後「被害者支援のためのメッセージ」と「秋田被害者支援運動の愛称」の優秀作品の表彰を行うことになっていますが、700点近い応募作品の中から選ばれ受賞される方々に心からお祝いを申し上げますとともに、応募いただきました方々に対しましてこの場をお借りしまして厚くお礼申し上げる次第でございます。

 また、ご講演においては、現在国が進めている犯罪被害者等支援対策の最新の状況をお聞かせいただけると思いますし、パネルディスカッションでは犯罪に巻き込まれたり、交通事故で大切なお子様を亡くされた方々を交えまして「犯罪被害者の声に応えるために!」をテーマに、私たちがどのように支援をして見守っていけばよいのか意見交換をしていただくことになっています。ご来場の皆様には、それぞれのお立場で被害者支援のあり方をお考えになりながらお聞きいただければ幸いと思っております。

 最後になりますが、本日の大会を契機に県民の皆様の被害者への理解が深まり、支援の輪が大きく広がることをご祈念申し上げまして、ご挨拶といたします。どうもありがとうございました。

第1部 あいさつ

杵淵 智行(秋田県警察本部長)

 県警本部長の杵淵でございます。「犯罪被害者週間」国民のつどい秋田大会が本日このように開催されるにあたりまして、県民の皆様にはご多忙にもかかわらず多数のご参加をいただき誠にありがとうございます。また、皆様方には日頃から警察業務の各般にわたり深いご理解とご協力を賜わっておりますことに対して、この場を借りまして心から御礼を申し上げますとともに、被害者の支援にご尽力をいただき、心から敬意を表する次第です。

 県警察は被害者やご遺族の方々にとって最も身近な機関という立場で、平成9年に「被害者対策要綱」を制定して以来、被害者の手引きの作成、配布等による情報提供や臨床心理士によるカウンセリング、被害者支援員によるつき添いや要望把握、パトロールによる再被害防止なども含め積極的に被害者対策を推進してきたところです。しかしながら、被害者のニーズは生活上の支援を始め、医療や公判に関することなど多岐にわたることから、警察においてそのすべてに対応することは難しく、これらにきめ細かく対応するために関係機関・民間団体との連携が必要不可欠だと考えているところでした。この度、内閣府、秋田被害者支援センターとともに、本大会が秋田県として開催できますことは、関係機関や団体相互間の連携を深める上で誠に意義深いものであると考えています。

 県警察といたしましては、秋田県犯罪被害者等支援基本計画に盛り込まれた、各施策を現場において確実かつ適切に実行し、被害者の視点に立った警察活動の推進に努めるとともに、秋田県被害者支援連絡協議会や警察署単位で設置されている、各地区被害者支援連絡協議会を活用するなど、被害者が必要な支援を途切れることなく受けることができるよう、必要な調整や働きかけに努めてまいりたいと思っています。特にこれまで緊密に連携をしてまいりました秋田被害者支援センターにつきましては、今後ともその運営に関して積極的な支援、協力を行なってまいりたいと考えています。

 終わりに本大会を契機として、被害者支援の必要性がより広く県民の方々に理解され、社会が一体となって被害者を支える環境が醸成されることを心から祈念いたしまして、私の挨拶とさせていただきます。本日はありがとうございました。

表彰

(司会)

 続きまして、被害者支援メッセージの最優秀賞などの表彰を執り行います。県ではこの夏、県民の皆様に犯罪被害者等の支援に対する理解を深めていただくために「被害者支援のためのメッセージ」と「秋田被害者支援運動の愛称」の募集を行いました。その結果、「被害者支援のためのメッセージ」の部に580点、「秋田被害者支援運動の愛称」の部に111点と大変多くの作品が寄せられました。最優秀賞ならびに優秀賞に選ばれた作品はプログラムの裏面に掲載しておりますのでそちらをご参照ください。

 始めに、「被害者支援のためのメッセージ」、小・中学校の部で最優秀賞に選ばれました、由利本荘市立大内中学校2年の東海林絵里香さん。壇上へお上がりください。それでは品田出納長お願いいたします。


(品田)

 賞状、小・中学校の部最優秀賞。由利本荘市立大内中学校2年、東海林絵里香さん。貴方が応募されたメッセージは被害者に対する共感と応援の気持ちがよく表された作品と認められましたので、「犯罪被害者週間」国民のつどい秋田大会にあたり、これを賞します。平成18年11月25日、秋田県知事、寺田典城。


(司会)

 同じく「被害者支援のためのメッセージ」、小・中学校の部で優秀賞に選ばれました、大仙市立西仙北東中学校3年の藤原亮太さん。壇上へお上がりください。


(品田)

 賞状、小・中学校の部優秀賞。大仙市立西仙北東中学校3年、藤原亮太君。貴方が応募されたメッセージは被害者に対する共感と応援の気持ちがよく表された作品と認められましたので、「犯罪被害者週間」国民のつどい秋田大会にあたり、これを賞します。平成18年11月25日、秋田県知事、寺田典城。


(司会)

 最後に「秋田被害者支援運動の愛称」の部で最優秀賞に選ばれました、茂木優理さん。壇上へお上がりください。


(品田)

 賞状、最優秀賞。茂木優理様。貴方が応募された秋田被害者支援運動の愛称は運動の主旨がよく表された作品と認められましたので、「犯罪被害者週間」国民のつどい秋田大会にあたり、これを賞します。平成18年11月25日、秋田県知事、寺田典城。


来賓あいさつ

中泉 松之助(秋田県議会議長)

 県議会議長を拝命しております中泉と申します。今日は私たち県議会から渋谷福祉環境委員長、菅原教育公安委員長がご出席ですが、代表して私から一言ご挨拶を申し上げます。
 お話にありましたように「犯罪被害者週間」国民のつどい秋田大会が全国の中央大会、並びに地方大会の先陣を切ってこのように盛大に多数の皆様のご参加のもと開催されましたことに心から感謝を申し上げます。犯罪被害者週間は先ほどのお話にもありましたように、平成16年12月1日に成立した「犯罪被害者等基本法」に伴い、毎年11月25日~12月1日まで、すべての人々が犯罪被害者等のおかれている状況を正しく認識し、被害者の方が平穏な生活を取り戻すために、周囲の人々が被害者の方にどのような配慮をすべきかについて考える週間であると伺っております。

 今年度から国民のつどいとして、国が自ら先頭に立ち、本年は全国4カ所で国民のつどいが開催されるわけですが、本県で2月に策定されました「秋田県犯罪被害者等支援基本計画」の施策推進にもなお一層の弾みをもたらす大会として、誠に時宜を得た開催となりました。大会開催にご尽力されました関係者の皆様に今一度感謝を申し上げますとともに、大会の盛り上げに大きな役割を果たしていただいた、ただいま表彰されました3名の皆様に対しましても祝意を表する次第であります。

 本県におきましては、これまで日常における県警の治安努力、控えめな県民性から都会で起きるような凶悪な犯罪などとは無縁だと感じておりましたが、最近は情報化社会の急速な進展の影響で、自分の中で情報を整理できずに犯罪に手を染めてしまったり、架空と現実の区別がつけられずに罪を犯してしまうような状況が見受けられます。そして、飲酒による交通事故もいまだに後を絶ちません。

 このように誰もが被害者になり得る状況が潜在する社会であり、皆さんの身近にも被害を受けた人々がいるかもしれません。しかしながら、そのような人の存在すら知らない場合もあり、被害者自らが手助けを必要と訴えない限りサポートできないという、非常に微妙な難しさもあると思います。被害者の周りの人々が、地域でのサポートをどのように勧めていくべきかということは困難が伴う活動ですが、これからの国民生活には避けて通れない問題だと思いますので、本日の大会を機に、犯罪被害者支援の機運を大いに盛り上げ、建設的な議論が展開されますことを期待しています。

 私たち県議会でも、6月に「拉致問題解決促進議員連盟」を発足させ、北朝鮮による拉致事件について、被害者家族との話し合いを持ちながら、問題解決に結びつくような活動を展開することとしており、皆様と歩調を合わせる形でなお一層の活性化を図りたいと思っております。

 結びに、本大会が犯罪被害者の福祉向上に向け、実り多きものになることをご祈念申し上げるとともに、犯罪被害者が生まれない安全・安心な秋田県の構築と、ご参会の皆様の益々のご活躍をお祈り申し上げまして、挨拶といたします。ありがとうございました。

基調講演

「犯罪被害者等基本計画について」
荒木 二郎(内閣府犯罪被害者等施策推進室長)

 改めましてよろしくお願い申し上げます。お手元に「犯罪被害者等基本計画について」という裏表の資料を差し上げておりますので、ご参照いただければと思います。大変貴重な時間をいただきましたので、政府が決定いたしました犯罪被害者等基本計画の概要や、今後の課題等についてお話を申し上げたいと思います。

 先ほどの挨拶でも申しあげましたように、この犯罪被害者基本法が成立したことは、我が国の被害者施策上では大変画期的な事柄です。戦後、被害者施策は基本法の策定以前にもいろいろ行われていました。例えば、自賠責保険などの規定も被害者の方を保護する規定がかなり入っており、また、刑法で証人の保護のための規定の整備も行われてきていました。ただ、これらは被害者のために法律をつくったというよりも運輸行政や治安施策のような感じで行われてきていたのです。

 基本法以前に一番画期的だったのは、昭和55年に「犯罪被害者等給付金支給法」ができたことです。三菱重工爆破事件というテロ事件があり、この事件をきっかけとして、犯罪被害者の方には給付をきちんと行うべきではないかという声が盛り上がりました。そして、昭和55年に制定され、昭和56年から施行になりました。被害者を正面に見据えた施策としては、我が国の被害者施策上、大変画期的なものであったと考えられます。

 その後、平成8年にもうひとつ大きな出来事がありました。これは地下鉄サリン事件などの大きな事件を受け、我が国の被害者施策はまったく足りないのではないかということになり、まずは警察の動きがありました。平成8年に警察庁が「犯罪被害者対策要綱」を制定して、総合的な犯罪被害者支援に本気で力を入れていきました。いままでは給付金を支給することがメインでしたが、それだけではなく、被害者の方が平穏な生活が営めるように、いろいろな意味で支援をしていく施策が講じられるようになったのです。

 そして、刑事手続きのときに、例えば被害者の方が証言台に立ったとき、特に性犯罪のような場合には被告人の加害者と顔を会わせ、被害にあったときのことを思い出して、また傷ついてしまうようなことがあります。そこで、平成12年には被害者の保護を図るために、被告人との間にスクリーンを置く、あるいは別の部屋で証言をして、それをビデオで公判において見ることができるような被害者に対する保護・配慮を行う「犯罪被害者保護二法」が制定されました。

 平成13年になると、「犯罪被害者等給付金支給法」は大幅に改正されました。この支給法は、基本的には殺人などで殺された遺族の方への給付金、後遺症が残って障害者になってしまった人への給付金いう2本立てでできていました。これは平成13年の改正では、重症病給付金が加わりました。これは、障害がなくても一定のけがを負った場合に保険診療を行い、自己負担分について給付をするという制度が創設されました。

 また、それと同時に、支援センター等の中でも体制が充実している支援団体については、犯罪被害者等早期支援団体という指定ができる制度も創設されました。これは、いままでの支援センターの支援は、相談員の方がおられて相談を受けることがメインの業務でした。それに加えて、警察から情報を提供してもらい、例えば、被害にあったばかりの性犯罪の被害者の人に付き添ってあげるなど、支援センターでいわゆる危機介入をするようにしようということです。現在は、それができるスタッフがいて体制の整った団体として全国で9団体が早期支援団体に指定されています。

 さらに、政府の関係省庁の間では連絡会議を設置し、政府をあげて施策を推進しています。警察、法務省、裁判所だけではなく、福祉や医療などもすべて絡んできますので、厚生労働省も国土交通省も入って、政府全体として施策を推進する努力がされています。

 しかし、被害者の方から見れば、いろいろな手は打ってもらっていても、例えば、刑事裁判で、被害者の方は被告人に対して質問ができません。「なぜ、私の子どもを殺したのだ」と言うことを公判で質問したいという声も根強くあります。しかしながら、現在の法律では意見陳述はできますが、被告人に直接質問することはできないことになっています。このようなことは何とかならないかという声、あるいは給付金の額が少ないのではないかという声があります。

 5、6年前に、山口県の下関市である事件がありました。男が下関駅に車で突っ込み、車でひいて殺し、その後車から降りてナイフで刺し殺しました。その事件では、5~6人が亡くなり、けがをされたと思います。車でひき殺された人の場合は、自賠責保険で3000万円ほどが出ました。しかし、同じ犯人に同じ場所でナイフによって殺された人の場合は、収入にもよるのですが、法律の規定によれば犯罪被害者給付金が400万円か500万円ぐらいしか出ないのです。

 自賠責は保険を掛けているわけであり、財源が違うので手厚さも違うわけです。しかし、同じ場所で同じ犯人に同じように殺されて、自動車でひかれたら3000万円で、ナイフで刺されたら500万円というのは、あまりにもバランスを失するのではないかということです。給付金をもっと引き上げたり、支援を強化する必要があるのではないかという声があります。あるいはメンタルなケア、精神的なPTSD(心的外傷後ストレス障害)等の支援についても足らないのではないかということで、基本法を制定しようとなり、被害者の権利をもっと守ろうではないかという声が盛り上がりました。

 そして、被害者団体の方が全国で40万人近くの署名を集めて、当時の小泉総理大臣の所に行かれました。小泉総理からは「しっかり検討しろ」と指示が自民党と政府に下り、自民党、与党のプロジェクトチームが立ち上がりました。そして、議員立法により、一昨年の12月1日に「犯罪被害者等基本法」が成立し、昨年の4月から施行になりました。

 基本計画の基は基本法ですので、基本法の概要ということで何点か書いてあります。まず、3つの基本理念がうたわれています。犯罪被害者等基本法の基本理念として、ひとつ目は、被害者は個人として尊厳され、その尊厳にふさわしい処遇を受ける権利があるということです。2つ目は、被害者の状況は個別それぞれ異なるので、個別の状況に応じた施策が被害者に対して実施されなければならないということです。3つ目は、平穏な生活を被害者の方が再び営めるようになるまでの途切れのない支援を行っていく必要があるということです。この3つが犯罪被害者等基本法の基本理念としてうたわれています。

 そして、国の責務、地方公共団体の責務、国民の責務というものが定められています。また、犯罪被害者等基本計画をきちんとつくりなさいということも法律に規定されました。犯罪被害者等施策推進会議と書いてありますが、これは内閣官房長官を会長として、関係大臣と有識者の方で構成されている会議です。この会議を設置して、犯罪被害者等施策についての重要事項を審議するとともに、被害者のための施策の実施状況の検証、評価、監視を行うことになっています。

 以上が犯罪被害者等基本法の大まかな概要です。その基本法を受けて基本計画をつくらなければならないということになり、基本計画をつくる事務局として、内閣府に「犯罪被害者等施策推進室」が置かれました。正式には昨年の4月の基本法施行とともに推進室が設置されました。そして、去年は1年かかり、基本計画を策定しました。

 内閣府は警察ではないので、最初は何をやっていいのかわかりませんでした。そこで、70近い被害者の団体や支援団体の方から、「要望、ニーズはありますか」とヒアリングを徹底的に行いました。その結果、不満なことや、こういうことをやってほしいという1166の意見が出てきました。そして、有識者と関係省庁の局長級の職員からなる基本計画の検討会をつくり、この1166の要望、意見をすべて俎上に載せました。この要望は現状で手は打てているので基本計画には載せなくていいだろう、この要望は直ちに政府として実施すべきだから基本計画に載せようなどと検討されて、基本計画が策定されました。

 基本計画には、5つの重点課題が書いてあります。被害者のための施策ということで、基本計画では大きく分けて5つの課題があります。ひとつ目は、「損害回復、経済的支援等への取組」です。加害者が賠償してくれることはないこともないのですが、特に凶悪犯のような場合には賠償はほとんどありません。そうすると、その損害回復をどうすればよいか、あるいは被害者給付金の額も少ないのではないかということで、この取り組みを強化する必要があります。例えば、一家の大黒柱の方が殺されたような場合は、扶養されている人はたちまち路頭に迷うわけです。もちろん給付金も出ますが、必ずしも十分ではないかもしれません。さらには給付金が出るまでにはかなり時間がかかります。認定して裁定するまでに、どんなに早くても半年くらいはかかってしまいますので、その間はどうしたらいいのかという問題もあります。いずれにしても、そのような経済支援をどうするかということがひとつ目の課題です。

 2つ目が、「精神的・身体的被害の回復・防止への取組」です。特にメンタルな面で、いろいろ被害を被っている被害者の方は結構いらっしゃいます。その方に対するケアが十分でないのではないかということです。あるいは再被害を受けるかもしれない、例えばストーカーのような場合では、加害者が出所して、またつけ回されるかもしれないという不安があるわけです。それに対して、きちんと防止するための手立てを講じたらどうかということで、この取り組みは重要であるということです。

 3つ目は、「刑事手続きへの関与拡充への取組」です。刑事裁判は、被告人がいて、弁護人が付き、検事がいるという構造になっており、被害者は当事者ではないわけです。そこで、何とか刑事手続きにもっとかかわれないだろうか、被害者自身がもっと関与できる仕組みができないだろうかということですが、これは大変大きな問題です。

 4つ目は、「支援等のための体制整備への取組」です。被害者が再び平穏な生活を取り戻せるまで、我々は支援をしていかなければいけないわけですが、被害者は、どこかに相談に行くと、「これはメンタルな病気だから病院に行ってください」と言われ、病院に行って、また「私はこういう被害にあって、こういう状況で、ここに相談に行ったら、こういうことを言われたのでここに来ました」と何度も同じ被害の状況を繰り返し説明しなければいけません。そのこと自体がトラウマになり、負担になって傷がつくこともあります。したがって、途切れのない支援を行うための連携、あるいは被害者に関する情報の共有をもう少しきちんとできないだろうかということです。被害者の支援を行う団体そのものの体制にもまだ不備があり、被害者のニーズには応えたいが、人がおらず、研修も受けていないので、なかなかできないという問題があります。

 最後の5点目は、「国民の理解の増進と配慮・協力の確保への取組」です。被害者施策を進めるにあたって、国民全体の理解、協力を得て推進していかないとうまくいかないのではないかということです。被害者だけが勝手なことを言って、いい思いをしているというように誤解をされては、施策は推進できませんので、そのようなことがないようにこの取り組みに力を入れていこうとなりました。

 この5つの重点課題それぞれについて施策が立っており、この基本計画には被害者施策が合わせて258ほど盛り込まれています。基本計画は去年の暮れにできましたが、この258のうち8割の施策については、政府として直ちに実施することになっています。残りの2割は直ちにはできないが、被害者のために実施しなければいけないという施策です。例えば、1年以内に検討して実施する、2年以内に検討して実施する、あるいは3年以内検討しなさいとなっています。期限は3年までだと思います。そして、経済支援の検討も行い、2年以内に結論を出しなさいと書いてあり、経済支援を厚くする方向で検討しなさいと基本計画にはあります。方向性と期限を明示した上で、検討課題とされています。

 この基本計画を受けて、現在、政府をあげて実施していますが、その進捗状況について、若干ご報告いたします。

 まず、「損害回復、経済的支援等への取組」です。けがをした場合に、国が自己負担分の面倒を見る重症病給付金という制度ができましたが、今年の4月から重症病給付の拡大がされました。これまでは1週間以上入院をしないと給付金は出なかったのが、3日の入院で出るようになりました。しかも、それまで給付期間は3カ月だったのですが、治療費の自己負担分を1年間もつということで拡大されています。また、これまでは親族間の犯罪には給付金は出ませんでした。この原則は変わらないのですが、例えばDVで、裁判所から接近禁止命令などが出ている場合があります。命令が出ているDV被害などにあった場合は、被害者給付金を出すことに拡大されています。

 2つ目に、警察で新しく今年度の予算措置をしたものが、性被害にあった場合の緊急避妊に要する費用、病院の診断書料や初診料などで、予算措置を取って補助金を出します。実際にはきちんと予算措置がされないと、これはうまくいかないのですが、いずれにしても緊急避妊、初診料、診断書料については被害者が負担しなくてもいいという経済的な負担を軽くする改正が行われました。

 3点目は、被害者の方の家が被害の現場になると、もう住めない、住みたくない、あるいは賃借料が払えないということが多々あります。そこで、国土交通省で公営住宅に優先入居できるようなガイドラインをつくり、各県に通知しました。

 「精神的・身体的被害の回復・防止への取組」では、被害者の方は加害者と顔を合わせることが苦痛です。しかし、今までの検察庁や警察、特に裁判所などは公判があると一緒に出て行くので、同じ待合室で待つということがありました。これを何とかしてほしいということで、検察庁や裁判所においては被害者専用の待合室を順次設置していく施策が取られています。

 特にメンタルな治療については、PTSDの診断のためにCAPS(PTSD臨床診断面接尺度)という1時間半ほどかかる検査方法があるらしいのですが、これには保険が効きませんでした。しかし、今年の春の診療報酬改定により、保険が適用になりました。精神的なケアの面では、被害者に限ったことではないのですが、PTSD治療のための検査が新たに保険適用になったということで大きな一歩ではないかと考えています。

 「国民の理解の増進と配慮・協力の確保」というところでは、被害者週間のことが書いてあります。また、「犯罪被害者白書」を、11月の21日に閣議決定して、今週の火曜日に国会報告をしました。これも基本法には、政府は年に1回、被害者施策の状況をきちんと国会に報告しなさいと法律に規定されており、半年ほどをかけてこの白書をつくりました。

 第1回目の「犯罪被害者白書」ですので、これまでの我が国の被害者施策の経緯を書き、基本法ができる経緯、基本計画ができるまでをひとつの特集として組んでいます。そして次は、基本計画の258の施策が、それぞれどれだけ進捗しているかということを述べています。それは閣議決定されました。12月になると思いますが、政府刊行物センターでは2000円くらいで市販されますので、よろしくお願いいたします。この白書については、内閣のホームページでもアップしていますのでご参照いただければと思います。その白書では、都道府県、地方自治体の取り組みをコラムという形で特集し、秋田県の取り組みなども紹介させていただきました。

 国には推進会議もでき、各省庁、政府をあげて取り組む体制、あるいは基本計画もできているわけですが、法律の中には、国だけの責務ではなく、国と地方自治体の責務だと書いてあります。例えば、被害者の精神的・肉体的被害回復の施策を講じなさいと書いてあり、それには「国・地方公共団体は」と書いてあります。しかし、地方公共団体では、かなりの温度差があります。

 今年の3月には、被害者施策担当の課長さんに集まっていただいたのですが、担当課長がどこなのかがなかなか決まらなかったという実態がありました。今はお願いすることはできましたが、「警察がやっているのだからいいではないか」「この行財政改革の折に、知事部局になぜそのような窓口がいるのだ」とおっしゃるのです。警察の被害者支援も、もっとするべきことがあるでしょうし、強化しなければいけないところもあるのですが、警察や検事や司法機関だけでできる問題ではないのです。医療、福祉、住宅の問題など被害者の支援はあらゆる行政に絡んでくるのです。

 被害者の方が知事部局、市町村に相談に来たときに、「被害者の方だから何ですか」「わかりません」というようなことはあるかと思います。しかし、被害者の方は問題を抱えているので、相談できるところを紹介したり、相談に応じることができることは大事です。そういう意味で、窓口をぜひ置いてくださいということです。秋田県ではまったく問題なく進んでいるのですが、今年の夏までには知事部局と政令指定都市に、少なくても施策の担当部局が設置されました。ただ、体制はまだ弱く、被害者の方が相談に見えたときに、きちんと対応できるかというと、それはできないところも多いのですが、それでも一歩前進はしました。体制の問題は難しい問題がありますが、ぜひ被害者の方が相談に行ったときに、「全然知らない」などと言うことがないようにしてくださいということで考えています。

 また、地方自治体の方からは、会議のときに「いったいどういうことをすればいいのですか」とご意見がありました。国も一生懸命がんばりますが、被害者の方の一番身近な市町村や、都道府県できちんとした施策が実施されることが大きな重要性をもっていると考えています。現在は、このようなことをすればいいのではないかというガイドラインを作成しようということになり、財務省のほうに予算要求をしています。ガイドラインをつくって地方自治体のほうにも示したいと思います。そのときには、秋田県の行なっているような方法も大いに参考にしながらガイドラインを作成していきたいと考えています。

 そして、大きな問題は宿題として4番、5番で2つ残っています。これは基本計画で申し上げましたように、検討期間が十分でなく、直ちにできなかったものがいくつかあるわけです。その中で特に裁判関係で5つほど難問がありました。

 4番では、「法制審議会への諮問」と書いてありますが、今年の9月の6日に法制審議会という、刑法や民法、あるいは刑事訴訟や民事訴訟など基本的な法律を変えるときに必ずかけなければいけない審議会に諮問されました。

 これには5点あり、1つ目は、「損害賠償の請求に関し、刑事手続きの成果を利用する制度」という問題です。現在の刑事裁判と民事裁判はバラバラです。刑事裁判で加害者が有罪になっても、賠償金が取れるわけではなく、別途お金を払わない加害者に対しては民事訴訟を提起しなければいけません。しかし、民事訴訟を提起するには、またお金がかかります。弁護士も雇わなければならず大変だということです。外国には、刑事裁判で有罪と判決を出すと同時に加害者に損害賠償の命令を出す制度があります。あるいは刑事裁判と一緒に民事訴訟ができる附帯私訴の制度を持っている国もあります。刑事裁判の結果を、民事の損害賠償に役立てられるような制度ができないだろうかということで諮問がされています。これができれば、民事訴訟を起こす手間は省けます。いろいろな難しい問題があるので、そう簡単ではないと思いますが、いずれにしてもこの基本計画には、我が国にふさわしい方法で刑事裁判の結果を損害賠償請求に利用する制度をつくりましょうと前向きにきちんと検討しなさいとなっていますので、何らかの結果が出てくるのではないかと考えています。

 2つ目の「被害者等が刑事裁判に直接関与することができる制度」は大変大きな問題です。現在、被害者の方は、意見陳述はできるのですが被告人に対して質問はできません。あるいは無罪となったときに控訴をする権利もありません。検事は「もう控訴しても無駄だからやめよう」と言うのですが、「被害者が刑事裁判に直接関与する制度ができないでしょうか」という話があります。これについても法制審議会に諮問して審議が行われています。

 3つ目は、「公判記録の閲覧、謄写の範囲拡大」という問題です。これは現在も被害者の方は正当な理由があれば閲覧、謄写ができることになっています。ただ、正当な理由とは何かということになります。その正当な理由とは、損害賠償の請求をしたいからという話にもなりますが、被害者の方であれば、よほど不正な目的でない限りは、公判記録を閲覧、謄写をしてもいいのではないかということで諮問されています。

 4つ目は、「犯罪被害者等に関する情報の保護」という問題です。例えば、性犯罪被害者のような場合、起訴状を朗読するときに、現在の法律ではその氏名を必ず読み上げなければいけません。そうすると、性犯罪の被害にあったということが、傍聴者も含めて皆にわかってしまいます。そこで、一定の場合は氏名を読まないで済むようにできないかということで、運用でされている部分もあるのですが、これをきちんと法律で決めたらどうかということで諮問されています。

 最後の5つ目は、「民事訴訟におけるビデオリンク等の措置の導入」です。刑事裁判では、ビデオリンクにより別室で証言することが認められているのですが、損害賠償請求を民事裁判で起こしたときには、このビデオリンク制度はありません。民事訴訟でも加害者と相対することになってしまうわけであり、その苦痛を無くすために民事裁判でもビデオリンクを導入できないかと諮問されています。この検討期間はいずれも2年以内となっていたと思います。来年の末までには何らかの結論が得られるものと考えています。

 最後に、3つの検討会の開催についてご説明いたします。基本計画で宿題になっていることは、他にもたくさんありますが、特に先ほどの法制審議会に諮問したような裁判関係の事項と、この3つの検討会が内閣府で一番大変な検討会です。期間は2年以内となっており、来年の末までには何らかの結論を出すことになっています。

 まず、「経済的支援に関する検討会」では、有識者の方、被害者の方、各省庁の局長級の方に来ていただき、今年の4月に検討会を開催しています。すでに方向性は決まっています。被害者に対する経済支援を現状よりも手厚くすることを前提に、経済支援制度のあるべき姿、財源、そして国が損害賠償債務の立替払いをしたらどうかという話があります。また、損害賠償を起こすときの弁護士費用などを国がもったらどうかというような話もあります。これができるか、できないのかということについて検討会を開催しています。

 昨日は第9回目の検討会を行いました。被害者が亡くなった場合の給付金の最高額は、収入によって額は違いますが、遺族には最高1500万円ぐらいが払われます。後遺障害が残った被害者の方に対しては、最高限度で1800万円ぐらいまで払われるのですが、自賠責保険では3000万までいくので、それではあまりにも低いのではないかという話があり、これを引き上げられないかと議論しています。

 他に被害者の経済支援にかかわる制度としては、交通事故の場合は自賠責保険があります。また、労災にあたる場合、例えば地下鉄サリン事件などのときは、通勤途中の人が多かったので、通勤災害ということで労災で保障をもらっている人は多いです。ですから、労災の制度ではどのくらいの給付が、どの程度行われているのかということもあります。他にも原爆の被害者の方に特別な給付を行なっている法律があったり、医薬品の副作用の救済のための特別の法律があったりしますので、関連する参考となりそうな制度の状況をヒアリングします。さらに海外の例ということで、他の国ではどのような給付になっているかということと、現状を踏まえて既存の制度でどこまでできていて、どこから先が被害者のニーズに対して満足できていないのかきちんと詰めていきます。その上でどこをどのように厚くするのかを検討しようということで、昨日まで9回検討会を開催しています。

 給付金の額の引き上げに関しては、現在は一時金ですが、ドイツなどでは年金で出る制度もあるので、年金にしてはどうかという意見もあります。給付の対象も、現在は凶悪犯により一定以上のけがを負った人だけですが、これを例えば財産犯にも広げたらどうかという意見もありました。現在、給付金をどれだけ出すか決める裁定機関は都道府県の公安委員会です。都道府県の公安委員会の裁定に不満があった場合は、国家公安委員会に不服申し立てができます。さらには行政訴訟も起こせることになっていますが、裁定機関が公安委員会でないほうがよい場合もあるのではないかと検討しています。

 また、テロ事件のような場合、ニューヨークの9.11のテロ事件のときには、アメリカ政府は特別の立法を行い、普通の被害者給付とは別に特別の給付を1人平均2億円などと言われていますが、払った例があります。ロンドンでは地下鉄テロがありましたが、このとき政府やロンドン市などが基金をつくり、その基金から被害者の方に迅速に手厚い給付が行われました。普段の被害者給付とは別の給付が行われたということもあり、我が国でも地下鉄サリンのようなテロ事件のときには、特別の手当てをすることが必要ではないか、できるのだろうかということで検討しています。そもそも加害者には賠償能力がない場合が多く、国が賠償をしたらどうかという議論もあります。

 一番の問題は、元手、つまり財源をどこに求めるのかということですが、これは大変難問です。現在は行財政改革の折でありますので、納得のいくような、理屈の立つような、しかも被害者の方に対して厚くできるような経済支援の姿を模索しているところです。1カ月に1回のペースで進めており、来年の春ごろには中間報告という形で取りまとめを行い、パブリックコメントにかけて国民の方の意見も聞き、来年の暮れに最終的な提言をしたいということで進めています。

 2つ目の検討会は、「支援のための連携に関する検討会」です。先ほども申し上げましたが、被害者の方は支援に切れ目があるのです。あるいは何回も同じことを繰り返し言わされたり、どこかで突き放されて孤独になってしまうことがあるので、そのようなことがないように、どの機関、団体に相談に行っても、そこから必要な情報が被害者に提供されて、途切れることない必要な支援が受けられるような体制をつくろうではないかということが、この検討会の目的です。

 では、どのような機関や団体が実際の支援にあたっているのか、あるいは連携状況はどうなのかということは、4月に始めたときはまったくわかりませんでした。そこで、7000以上の団体や機関に、「どれくらい被害者の方の支援をやっていますか」ということで大規模なアンケート調査を行いました。その結果は、大体はまとまりつつあるところなので、実情を踏まえて、どのようにすれば被害者の方に役立つネットワークができるか検討しています。

 連携する場合に大事なことは途中で途切れないということであり、1人の被害者の人に継続的にアドバイスできるようなコーディネーターが必要ではないかということです。このコーディネーターは、刑法、刑事訴訟法、犯罪被害者等基本法、犯罪被害給付制度、それだけでなく医療、福祉、あるいは税金のことなどいろいろな知識が必要です。1人で全部の専門家になるわけにはいきませんが、そのようなことをきちんと紹介できたり、どこに行けばどんな支援ができるかわかり、カウンセリングができて、被害者の方にある程度のケアができるコーディネーターのような人を、もっと養成していくべきだろうということです。そのためには、研修制度をきちんとつくり、そのような人を支援団体に必ず何人かは置いて被害者のニーズに応えられるようにできないだろうかということで検討することになっています。

 3つ目は、「民間団体への援助に関する検討会」です。民間団体、支援団体はたくさんありますが、どこも体制は弱く、財政的な運営が非常に苦しいところがあります。現状よりも手厚くすることを前提に、どのような団体、どのような活動にお金を援助するのかということです。経済支援検討会と同じですが、一番大事な財源をどこに求めるのかということで、現在も検討を行なっています。

 この2つの検討会につきましても、経済支援に関する検討会と同様に、来春には中間報告、暮れまでには最終提言ということで検討を進めているところです。限られたお金なので、その中で何とか被害者に対する支援を格段に厚くしていかなければいけないということです。大変難しい検討ですが、何とか所要の成果が出るようにがんばっていきたいと考えています。時間を少しオーバーしましたが、私の基調講演とさせていただきます。ありがとうございました。

第2部
パネルディスカッション

「犯罪被害者の声に応えるために!」
コーディネーター:
米山 奈奈子(秋田大学医学部保健学科助教授)

パネリスト:
稲村 茂(医療法人緑陽会笠松病院院長)
三浦 芳子(交通死亡事故被害者の会代表)
山内 久子(秋田看護福祉大学教授)
沢口 秩子((社)秋田被害者支援センター理事)
泉 千穂子(秋田県警察本部犯罪被害者対策室カウンセラー)

(米山)

 秋田大学の米山です。本日は司会を務めさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。私はご紹介いただいたとおり、現在、秋田大学の教員をしておりますが、今年で秋田に来て3年目になります。東京にいたころは、DV被害者の支援活動にも携わっており、秋田でこのような活動、このような場に来させていただくことをとてもありがたく思っております。


(稲村)

 稲村です。私は精神科医です。私は犯罪被害者の方で心の傷を負った方の診察もしております。自殺にかかわるような心の傷、あるいはいじめの問題など、いろいろな心の傷で心が病むことがあり、そういったことで今日はここに座っております。よろしくお願いします。


(米山)

 それでは、早速パネルディスカッションに入らせていただこうと思います。本日のテーマは、「犯罪被害者の声に応えるために!」ということです。皆様もすでにご存じかと思いますが、今回の目的は、犯罪被害者等に対する秋田県民、さらには国民一般の理解を図る、そして犯罪被害者等の被害の回復及び社会復帰を図ることを目的とするということに基づいて進めていきたいと考えております。

 これから4人のパネリストの方にお話しいただきますが、お二方は被害者ご家族という当事者の立場でお話いただき、あとのお二方は支援にかかわっている支援者の立場でお話しいただだきたいと思います。お1人約15分程度のお話を予定しております。4人の方のお話が終わりましたら、フロアの方から質問、ご意見等もお伺いしながら進めてまいりたいと思いますので、皆様のご協力をよろしくお願いいたします。

 それでは、最初に三浦芳子さんにお願いしたいと思います。三浦さんは交通死亡事故被害者の会代表をされていらっしゃいます。平成13年に当時二十歳でいらした長女様を交通事故で失うというご経験をお持ちです。三浦さん、どうぞよろしくお願いいたします。


(三浦)

 三浦と申します。よろしくお願いいたします。私の娘は当時大学3年生で、大学からの帰宅途中に青信号にしたがって自転車で横断歩道を渡っていたのですが、左折をしようとした10トントラックの運転手がまったく横断歩道上を見ないままに左折したために轢かれ、そのまま即死状態で亡くなりました。警察から第一報のお電話をいただいたわけですが、自分が娘と対面していても娘の死そのものがぴんと来ず、急に頭が真っ白くなり、何が何だかわかりませんでした。そして、娘の死を受け入れられないままに葬儀を済ませ、その後の私の気持ちがどうなってしまったかということもわからないままに、ただ混乱し、生きる希望もない、自分では絶望という言葉が合うと思っているのですが、そのような中で時間を過ごしました。

 日常生活そのものは、本当に成り立たない状況でした。また、家庭内でも、私たち家族の中で娘を失った親でありながら、父親の感情、母親の感情が全然行き違ってしまい、相手は何を思っているのだろうと思い、自分の気持ちがまったく通じないことにいら立ちや、むなしさを覚えました。家族のぎくしゃくした感じは本当に長く続き、どうにもならない時間を過ごしました。後になって、自分でもそのことを理解できるようにはなりましたが、当時はそれが非常に苦しかったです。

 また、葬儀で弔問に訪れてくださるお客様、地域の人たち、身近な親せきも慰めの言葉をかけてくださいました。それは当たり前のことですが、それが自分の気持ちに素直に伝わってこなくて、逆にとても苦しいのです。自分が娘の死を認めていないのに、自分の中の整理できない気持ちにいちいちズキッと刺し込んでくるというようなことは、自分でもとても驚いたのですが、かなりたくさんありました。そして、誰も自分の気持ちをわかってくれないという思いがだんだん強くなり、孤独だなと思ったり、精神的に耐えられず、気が狂いそうな、ぎりぎりの精神状態を抱えて、長く家の中でふさぎ込んでいました。

 しかし、悲しみの中で静かにふさいでいるだけでは済まされない、加害者に関する刑事罰、民事賠償など、次々といろいろな問題が出てくるわけです。そのような問題に対して、自分たちが何をどうすればいいかわからないのです。加害者に関しては絶対に許せないという気持ちがあって、厳罰に処してほしいと思い、第一に刑事裁判というものがあることは取りあえずわかるのですが、私の事件の加害者は、警察の取り調べの段階から、うその証言をしており、それは私たち家族が絶対に許せないと思った一番の原因です。その加害者のうそをどうしてもはっきりさせてほしい、私たちの言っていることがうそではないということを証明してもらいたいという思いが非常に強かったのです。そして、それは警察、検察に任せるしかないという思いがあっても、自分たちには、その加害者のうそをしっかりと覆してもらう手だてがわからないのです。警察、検察、裁判所という、これまで経験したことのない、ほとんど意識しないままに平然と生きてきた中で自分たち被害者は何ができるかと言ったら、何もできないのです。何を聞いていいかもわからず、非常に不安でした。また、そういうものに対して、誰がきちんとアドバイスをしてくださるのかということも当時はわかりませんでした。

 そして、たまたま知り合いから、「検察庁には相談窓口があるから、そこに行ってみて」と言われて、初めてそこに行ったのですが、私たち家族に対しての警察や検察庁の対応は非常に丁寧でとてもありがたいという気持ちがありました。私たちがこのような苦しみの中にいる当時は、これは支援だとは思っていなかったのですが、後から、第三者機関として警察や検察の方々の対応が本当に大きな支援になっていたなと思います。

 ただ、自分は気が狂いそうになって、おかしくなりそうになったという精神的な気持ちをどこにも相談できなかったことは非常に苦しかったです。娘の仲間がときどき訪ねてきてくれて、そして話をしてくれます。あるいは知人が訪ねてきてくれて、話を聞いてくれます。それはそれで心の支えにはなっていたとは思うのですが、それは継続的になされるわけではなく、結局は自分の中に閉じこもってしまうのです。そういう環境で、1年近くも家の中に引きこもりのような状態で過ごしてきました。

 私たちのような被害を受けたとき、何を、どこに、どのように相談するのかということには日ごろから知識があるわけはありません。それは誰かが教えてくれたり、アドバイスをもらうということ以外にないと思っています。自分たちは正常な精神状態ではないのできちんと判断できない状況になってしまいます。きちんと整理したり、アドバイスをくださったりする第三者による専門の支援というものが非常に大事になってくるということをつくづくと思いました。

 先ほどの内閣府の方の基調講演にもありましたが、法律ができ、基本計画ができ、「個々の事情に応じて途切れることのない支援」ということがうたわれているわけですが、まさにこのような支援というものの充実を図っていただきたいと思います。そして、専門家の皆さんであっても横のつながりをきちんと持っていただいて、最低限被害者をたらい回しにはしないでほしいと思います。自分たちは本当に大変な思いをして、心の負担は非常に大きいものです。被害者の抱えている問題は、1つや2つで済む話ではありません。先ほど、被害者の団体や支援の関係者から、1000を超える要望が内閣府のほうに寄せられたとありましたが、本当に数え切れないほどの負担を背負ってしまっているのが私たち被害者です。

 法律も同じですが、制度そのものが被害者には負担を負わせてしまっている環境がこれまではあったわけで、刑事裁判に関しても加害者の量刑の軽さに対しては非常にむなしい思いをしました。また、民事賠償の問題も本当に大きいのです。私たちは実際に民事裁判を起こしましたが、裁判の訴訟を起こすということがどういうことかもわかりませんでした。そのような中では、どうすれば自分たち被害者の思いが伝わるか、あるいは加害者にしっかりとした責任と謝罪を求められるのかということもわからないのです。そのような情報や知識を被害者に本当に細かに説明したり、与えてくださる支援も大事です。そして、そのようなことがしっかりと行われないと、自分たちの心のケアにもなかなかつながっていかないわけです。「あのとき、裁判では後悔した」「あのとき、こういうことがわかっていれば、自分たちはもっともっと動けた」などという後悔だけが残ってしまうことが私自身に非常に強くありました。

 現在、私は自助グループの代表を務めておりますが、当時は秋田県内の被害者の方たちと知り合うこともなく自分の中に閉じこもってしまい、それが苦しかったのですが、県外の被害者の人たちと情報を得て交流を持つことができたことは私にとっての大きな支えだったと思っています。そして、現在も支えられながら、交流を持ちながら、情報交換をしながら暮らしています。ただ、私が自分で良かったなと思うことを、秋田県内の被害者も同じように求めているのではないかなという気持ちがありましたので、秋田県警の被害者対策室や被害者支援センターの皆さんからご支援をいただきながら運営しております。まだまだ狭い範囲で、被害者同士の語り合いという場にしかなっていないわけですが、これから徐々に被害者たちの思いを社会に発信していきたいと考えています。また、このようなことができるように環境を整えていただいたり、自助グループを理解していただく意識を社会には持ってほしいと思います。

 それから、言葉での二次被害があります。自分たちのことがわかってもらえないために受ける心の傷は多くあり、これは身近なところで多いのです。特に交通事故の場合は「事故だから仕方がない」言われることがあります。刑罰も他の故意犯の殺人などとは違うので、「誰も事故を起こそうと思って起こしたわけではない」というそのような意識が社会の風潮としては非常にあるわけです。しかし、交通事故の被害者であろうと、殺人の被害者であろうと、命を奪われた遺族にとっては同じ感情なのです。また、その被害が大きい、悲惨だ、残酷だなどという受け止め方をして、社会もそのような目で見てしまっています。しかし、被害者にとって、そのような目で見られることは、自分の亡くなった子どもが傷つけられている、命の重さを軽く見られているという感じがして非常につらい思いをします。

 周りの人たちは、そのような意識と風潮の中で「被害者の人はかわいそうだから、まずそっとしておこうか」と言う人もいれば、逆に「もう起こったことは仕方ないのだから、早く元気になれ、元気になれ」と励ましてしまう人もいます。そのどちらも、結局は被害者である私にプレッシャーになってしまいます。そして、皆とは違う感情だなと思って、心の傷になってしまうのです。そういう意味で、一番身近なところで被害者というのはこういうものだということをわかっていただきたいという思いを持っております。

 交通事故に関しては、私は遺族ですが、後遺症で非常に悩み、苦労している方々も現実に見ています。これには裁判や法の問題、社会のシステムに問題があるのですが、実は今月と先月2回、愛知県の後遺症を抱えた家族の方が、県北の裁判所に刑事裁判で証人尋問のために来られました。まったく知らない場所に、しかもこの寒い時期と重なって、そのご家族の方は非常に不安な気持ちと、どうにもならない大変な負担を持ちながら秋田県に来られたのです。交通の便が不便で、青森県経由で秋田へ来たことも聞きました。幸い、その検察庁の担当の方が非常に丁寧な配慮をしてくださっていましたので、その点は安心なのですが、なぜこのようにしてまで被害者が動かなければならないのでしょうか。被害者が抱える問題はあまりにも多すぎます。基本法や基本計画ができたことは、私たち被害者にとって本当に大きな一歩です。ただ、その一歩をさらに生かして地域でしっかりと、この秋田県なら秋田県で充実した支援につなげていかなければ、本当の意味での被害者救済につながっていかないのだということです。それは被害者として思っていることですので、理解をしていただきたいと思います。終わります。


(米山)

 ありがとうございました。先生から何かコメントをお願いします。


(稲村)

 三浦さんのお話を聞いて、被害者は本当に社会的な意味でも被害者なのだなという感じがしました。また、継続的なかかわりが必要だということです。娘さんの死を受け入れられないというのは、精神医学的に言うと、乖離などいろいろな問題が起きるわけですが、あまりに苦しいと、「夢であればいいな」「これはちょっとした錯覚ではないか」と思うようになってしまうこともあります。三浦さんがおっしゃったように、しばらくは正常な精神状態ではなく、うつ的になっていたり、混乱したり、家族同士で語り合うこともうまくいかなくなっていることもあると思います。また、周りの人たちの言葉も入ってこないのだと思います。被害が相当回復してから、他の人の援助の手というものは見えてくるのではないかなと思います。最初は、本当に手も見えない、声も聞こえない、自分の中で混乱している、そして混乱しているのかさえもわからなくなっているかもしれません。

 しかし、そのような中で被害者としてやるべきこと、基本的には怒りはあるべきですが、その怒りの前に、つらさにつぶされてしまうのだと思います。被害者はそのような心理だという考えの中で周りが支えることが大事ではないかと思います。周りの理解が足りないことで、被害者の家族が傷ついていくということはとてもわかりました。これが一番大事なことかなと思います。

 また、時間がたつと、被害者も取りあえずは明るいふりをします。そして、大抵の人は明るい場面も出てくると根性論に変わるのです。しかし、「もう忘れましょう」「もう昔のことだと思って、頭を切り替えなさい」と言われることは、被害者がとても傷つく言葉だと思います。

 PTSDという概念が出てきて、そのようなつらい記憶というものは脳に焼き込まれていて、脳自体が変化してくることもわかってきています。影響がずっと残っているので、普通にしていても、いろいろな場面がありありと浮かんできて急に混乱したりするのです。人間の心の傷は時間が解決することはありません。根性で頭を切り替えれば、何とかなるということではなく、非常に長く人に影響を残すということです。それをお互いにわかり合っていれば、支え合えるのではないかと思いました。


(米山)

 PTSDについては、異常な事態に対する正常な反応とも言われておりますし、起こっている事柄は異常に感じても、それは誰にでも起こり得るということです。時間の連続性というものが失われるということが言えるのではないかと思います。

 次に、山内久子さんをご紹介いたします。秋田看護福祉大学の教授でいらっしゃいますが、平成7年に当時21歳であった長女様をストーカーにより殺害されたという被害者ご家族の体験をお持ちです。詳しいプロフィールは皆様のお手元に記載されておりますので、そちらもご参考になさってください。山内さん、お願いいたします。


(山内)

 ただいまご紹介いただきました山内でございます。よろしくお願いいたします。先ほどの基調講演で内閣府の荒木室長もお話されておりましたが、昨年4月施行の犯罪被害者等基本法に基づき、今年初めて2006年版の「犯罪被害者白書」が刊行されました。これによると、犯罪被害者の状況について十分な支援がなく、社会で孤立を余儀なくされ、犯罪などの直接的被害にとどまらず、副次的な被害に苦しめられることも少なくないとして支援強化の必要性を強調しております。

 その他にも新聞によると、白書は国、地方自治体によるこれまでの被害者支援の取り組み状況をまとめたほか、自治体の先進的な支援例を述べ、その中には秋田県が県民からテレホンカードや切手を集めて、支援組織の活動費用に充てているということが紹介されていました。私は現在青森県に住んでおりますが、このような活動内容が認められたことは、隣の県の者としてもうれしく思っております。

 折しも今日、11月25日~12月1日までの1週間が「犯罪被害者週間」となっておりますが、その意義ある日にここにお集まりの皆様へ、私が体験しましたことをお伝えすることで、少しでも犯罪被害者遺族の気持ちをご理解いただければ幸いと存じます。

 毎日の新聞、テレビ等のニュースで、事件、事故の報道がない日はないといっても過言ではなく、特に最近では子が親を、妻が夫を殺害するなどの家族間での痛ましい事件が目を引き、殺害方法も残虐で卑劣な方法がとられており、犯罪被害者遺族の1人として、とても心が痛んでおります。事件の地域性もなくなり、いつ、どこで、誰が被害者になるかもしれないという中で、不安な日常生活を過ごしているのが現状ではないでしょうか。報道内容を見聞きするたびに、なぜその人は殺されなければならなかったのだろうと思ってしまいます。それと同時に、あまりにも人間の命が簡単に奪われてしまう現在の世の中を非常に恐ろしく感じております。他人により大切な命を絶たれるということは最大の人権侵害だと言われておりますが、被害者の人権がこれほど侵害されている時代はかつてなかったように思います。

 私は今から11年前の1995年10月に、当時大学3年生の長女を横浜でストーカー殺人事件によって、地球より重いと言われている大切な命を奪われました。娘にとってはたったひとつのかけがえのない命でしたが、私たち家族にとっても何物にも代えることのできない大切な命でした。

 長女は同じ大学の男子学生にストーカー行為を受け、自室で殺害されました。傷は17カ所、全身に及び、心臓、肺、肝臓、その他の臓器も非常に深く刺されていたということを後に警察の方からお聞きしました。加害者は長女の留守中に鍵を盗み、勝手に合鍵をつくり、さらには脅迫状を長女のみならず、私たち両親にも送り付け、無言電話を頻繁にかけては長女と私たちに恐怖と不安を与えました。

 事件の内容を知らない人は、女子学生が男子学生に殺害されたというだけで、2人の間に何かがあったのではないかと勘繰ってしまうかもしれません。この事件が地元の新聞でニュースとして報道されたとき、「『女友達、殺した』と遺書」という非常に大きな見だしが付けられました。また、加害者が長女を殺害した後、レンタカーで弘前まで来て自殺未遂を図ったために、「無理心中」という見だしも付けられました。このことが後々に周囲の人たちから、「2人の仲を許してあげなかったから、こんなことになったのではないか」「天国でお嫁さんになっていると思えばいいね」等と言われることにつながり、私たち遺族にとっては非常につらく、心ない言葉が胸にグサリと突き刺さりました。娘を突然に残虐な方法で殺害され、心に大きな傷を持ってしまった私たち遺族は、再び心ない人たちによって傷口を大きく開かれてしまいました。そして、これが犯罪による二次被害であることが実感できました。加害者の男子学生とは、単に同じ大学の同じゼミナールの一員であったというだけで、お互いにまったく言葉も交わしたことがないということが横浜地裁で行われた公判ではっきりしましたが、この公判を傍聴したのは地元では私たち夫婦だけでした。いったん新聞などで公にされてしまったものは、後で訂正することや修正することは不可能に近いことであることを身をもって知らされ、報道の在り方を改めて考えさせられました。

 事件というものは、何の前触れもなく突然やってきて、平和で幸せな家庭を壊してしまうものです。思いがけない突然の事件により大切な家族を失い、完全には回復することのない傷を心に負い、ときには残された家族さえもバラバラにされてしまうのです。娘が事件にあった当時、「ストーカー」という言葉は世間で一般的にはまだ使われていませんでした。また、「犯罪被害者支援」という言葉も、当時は日常的に聞くことはなかったように思います。

 1995年、私たち家族が事件によって犯罪被害者遺族という立場になったとき、青森県にはまだ被害者支援センターというものがなく、精神的な面でのよりどころは専ら家族内だけで、社会からは孤立していたように思います。私たち家族の場合は本当に家族の中で支え合い、慰め合い、亡くなった娘の思い出を毎日のようにいろいろ語り合っておりました。しかし、私たちには社会に発信するというエネルギーがまったくなく、そして発信しませんでしたので、当然社会からも援助はありませんでした。ちなみに青森県では、来年10月に被害者支援センターの開設を目指して、現在準備段階にあります。

 事件後1年半が過ぎてから、犯罪被害者等給付金制度があることを告げられ、助言により申請し、遺族給付金が給付されました。娘は大学生でしたので給付額も少ないほうでしたが、私たちが本当に望んでいたのは給付金よりも、娘が再び元気な姿で戻ってくることでした。しかし、それはかないませんでした。

 このような私たち遺族の体験から被害者支援について期待するものは、まず被害者やその遺族が持つ悲しみ、苦しみ、怒り、悔しさ、つらさなどのさまざまな感情を涙を流し、言葉に出して話せる場と、それを受け止めてくれる人が必要だということです。さらに、被害者や遺族にとって、大切な家族の最悪の状況を伝えられるときや、つらい感情を出したいときは、落ち着いた雰囲気のゆったりとした場所が必要であると強く思いました。

 私たち遺族が初めて娘の死を知らされたのは、横浜にある警察署の殺風景な取調室でした。このような場所で最もつらいことを聞かされなければならなかったとき、悔しさとつらさが一層強く感じられ、みじめな気持ちになりました。なぜ私たちが加害者と同じような場所で、大事な話を聞かなければならなかったのかという気持ちは今でもあります。

 被害者や遺族にかかわる人は、相手の気持ちをまず思いやることが第一だと考えます。娘の殺害状況を説明した警察職員は、私たちにとっては笑って話したように見えました。家族の不幸を伝える人は、例え本人は笑ったつもりはなくても、そのように受け取られるような表情や態度を取ることは決して許されるものではないということを強く思いました。被害者や遺族に直接かかわる人は被害者の人たちの悲しみ、つらい苦しい胸の内を十分に受け止め、それをじっと聞くことのできる人でなければいけないと思います。そのような気持ちがあれば、おのずと言葉遣いや表情、態度にもそれが表れるものと考えます。そのためには十分な訓練を受ける必要があり、訓練するためのプログラムが必要となります。そして、プログラムに沿った研修などを行うときは予算を確保しなければなりません。予算を獲得する方法としては、先ほどお話した秋田県の例などもこれからはお手本にしていかなければいけないのではないかと思いました。

 さらに、直接的に被害者や遺族にかかわる人だけではなく、社会一般の人々の理解と見守りも必要になってきます。それには、事件の報道の在り方も関与してくると考えます。単にそのときだけの事件の報道ではなく、その報道内容の陰には多くの被害者や遺族が影響を受けているということも認識していただきたいと強くお願いしたいと思います。

 長女の事件後、横浜から通夜と葬式に参列するために駆け付けてくれた大学生の仲間の1人は、私たちが報道内容に対する怒りを告げたとき「自分は将来マスコミ関係に働きたいと考えているが、遺族のつらさや怒りを目の当たりにし、きちんとした報道をしなければいけないと強く思った」と言ってくれました。この言葉は今でも忘れることができません。

 被害者や遺族が家庭的にも社会的にもそれぞれの役割を担い、悲しみを抱きつつも長い年月をかけて立ち直っていく上で、セルフヘルプグループ(自助グループ)の存在はとても大きいと思います。セルフヘルプグループは大きな組織も必要ですが、同じ地域に住み、同じようなつらい体験をし、同じような悩みを抱えている少人数の集まりも必要と考えます。同じ地域の人たちの集まりだからこそ、微妙な心の内をその土地の言葉を使いながら表現することで、気兼ねなく安心して心を開くことができるものと考えます。このことで自分たちが置かれている状況をより共有でき、自立への道を歩むことにつながると思います。

 また、日常的に使っている言葉や会話の内容も、被害者や遺族にとっては非常につらいものになっていることを知っていただきたいと思います。「娘を失って悲しいと思うが、もう1人娘がいてよかったね」「親より早く亡くなる子どもは親不孝だと言われているけれど」など、このような言葉は私たち遺族の心を傷つけるものばかりでした。そして、遺族にとって一番つらいのは、家族についての話題です。「ご家族は何人ですか」「お子さんは今、何をしていますか」という言葉は日常的には誰もが話す内容で、相手を傷つけることではありません。しかし、事件で家族を失った者にとっては、一番避けていただきたい会話であるということをご理解いただきたいと思います。

 事件当時、高校3年生で亡くなった娘の妹が大学進学にあたって、あるいは大学に入学して、そして今、社会人として働いておりますが、新しい環境になって友達関係を形成していく上で「兄弟は何人いるの」「家族は何人」と必ず聞かれるということで、「そのときは、とてもつらい」と言っていました。そして、「お姉ちゃんは横浜にいると言っているの」と今でも言っています。私自身も同じように新しい人といろいろな立場でお話しするとき、家族の話になると、本当に避けたいと毎回のように思っています。この家族の話題は事件当時から本当につらいものになっています。

 事件から、ある程度の年月を経たとき、初めて遺族自ら話すことができるようになると思います。私は事件があった当初は、娘の事件のことは人には言えませんでした。新聞報道、あるいはテレビのニュースで報道されましたので、青森県内の人で知り合いの人は知っていましたが、それ以外の県の人たちには今でも言っていない人がいます。そういうときには、とてもつらいな、自分はうそをついているのかな、でもそのことを言うとき、自分は話すことを続けられないだろうということを考えます。そして、他の事件においても家族が殺害されたということを言えない人はたくさんいると思います。

 そのような気持ちを初めて訴えたのは、事件後6年ほどたってからでした。私は看護という分野で仕事をしておりますので、『看護教育』という雑誌に、初めて遺族の気持ちを投稿しました。そのときから、少しずつ自分のことが言えるかなと思いましたが、職場では周りを見るとほとんどが女子学生で、同じような髪型をしたり、同じような洋服を着たり、しぐさが非常に似ていたりと、そのような姿を見るだけで、学生にも自分のことが言えないということが続いています。今でも自分から話したことはありません。もし、初めて遺族自らが話すことができるようになったときは、じっくりと耳を傾け、十分に共感していただければありがたいなと思います。以上です。ありがとうございます。


(米山)

 ありがとうございました。山内さんのお話の中からは、二次被害のお話がありました。また、報道被害の問題も含まれていたと思います。先生からはいかがでしょうか。


(稲村)

 このようなお話の後にコメントを付けるのは、なかなか苦しいです。皆さんも聞いていて、山内さんの気持ちが伝わったのではないかと思います。三浦さんも同じだ思いますが、ここでお話をすること自体がとても大変なことだと思います。お話をされる中でいろいろ思い出されて、それでも人に伝えないと世の中を変えていけないという思いだと思うのです。これはとても大変な作業だと思います。私も聞いていて、とても重いなという思いもあり、どのようにして安心できる場所をつくれるのだろうかと思いました。そして、何げない言葉が被害者の心に傷をつけてしまうということは、このように語ってもらわないとわからないこともあるのではないかと思います。

 今日は報道の方も来られていますが、報道機関の方はどうしてもいろいろな話題を取材しなければいけないので、どちらかというと表面的、あるいはわかりやすいところに取り付いてしまうことがあります。しかし、参加された報道の方は、今日のおふたりの話を聞いて、報道はしっかりやらなければいけないという思いを持たれたと思います。報道はすごく影響が大きいのです。新聞の記事のお話もありましたが、1度そのような目で見られてしまうと修正できないということです。報道被害がとてもあるのだなと思いました。そして、報道被害の裏には、我々含めて一般の方が表面的な理解でかかわっていることがあります。報道の方もある意味で一般の方なので、報道関係者であっても一般の感覚で接してしまい、本当の被害者の気持ちを報道できないことがあるのではないかと思います。そういう点では、今日のような集まりをどのように市民にわかりやすく伝えるのかということも報道の使命ではないかと感じています。

 私は、何度か藤里町で住民の心の支援を行なっております。先週も行ったばかりなのですが、事件の衝撃と報道被害との両方があり、いまだに県外ナンバーを見たり、夜電話が来たりするとドキッとする、子どもがトイレに行けない、電気を消して眠れないということがたくさんあるのです。報道被害は本当にあるのです。ただ、報道にもいろいろな人たちがいます。いろいろな立場の人がいて、強引な報道もあれば、丁寧な報道もあるわけです。しかし、今日は皆さん一緒に同じことを感じられているので、お話されたようなことを重ねていくことで報道も変わり、我々も変わっていけるのではないかなと思いました。2人のお話を聞いて、本当に勇気を持って今日話していただいたということをとても感じました。ありがとうございました。


(米山)

 それでは、次のパネリストの方をご紹介いたします。沢口秩子さんです。沢口さんは社団法人秋田被害者支援センター理事をされていらっしゃいます。長年相談活動を続けていらっしゃるということで、よろしくお願いいたします。


(沢口)

 秋田被害者支援センターの沢口でございます。今、お二方の話を伺いまして、私自身の気持ちも大変重くなり、できるものであればこの場でお話をしなくて済めばいいなと考えているところです。でも、そういうわけにはいきません。今日、私は被害者支援センターの相談員としてお話をさせていただきます。よろしくお願いいたします。

 私たちの被害者支援センターは、平成13年4月に犯罪や交通事故などで、被害に悩む方々のサポーターとして設立された民間の任意団体でした。初めは、皆さんご存じのアトリオンの小さなところを2部屋に区切って、2人がやっと入るぐらいの狭い場所をお借りして、主に電話相談をしていました。しかし、その後の社会の情勢を見るときに、このままではいけないのではないか、もう一歩踏み込んだ支援を必要としている方がいるのではないかということで、皆様のご協力を得て、社団法人秋田被害者センターを組織しました。そして、昨年の4月からは秋田県公安委員会から犯罪被害者等早期援助団体に指定されました。設立して6年、早期援助団体になり今年は2年目で、まだまだ本当にヒヨコです。それでもここまで来られたのは、県や県警本部の被害者対策室はじめ、多くの関係者のご指導やご協力があったからこそと思っています。本当にありがとうございました。中でも、本日ここにご参加くださっております賛助会員の皆様のご協力には改めて感謝申し上げます。

 さて、センターの行なっている主な支援については、皆様のお手元に配られているリーフレット等を見てくださればおわかりになると思いますが、私のほうから少しお話しさせていただきます。まず、センターの行なっている支援についてです。交通事故や、犯罪などの被害者及びその遺族については、電話相談、面接相談、直接的支援をしております。そして、特別支援、これは性犯罪被害者やストーカー被害者の支援です。この支援は全国でも確か秋田県が初めてではないかと思います。そして、犯罪被害者等給付金申請補助、自助グループへの支援、その他県民の皆様への広報、啓発活動などを行なっています。

 次に、具体的にどのような支援内容になっているかというと、昨年と今年を見てのお話ですが、電話相談については祝日や年末年始を除いて毎週月曜日~金曜日、午前10時~午後4時までしており、今のところは本当に勇気を持って電話をかけてくださった方に、辛抱強くお話をよく聴く、いわゆる傾聴をしています。場合によっては助言をしています。そして、希望があれば、警察をはじめ、専門の関係機関に紹介していますが、決してたらい回しにはしないように気をつけています。

 面接相談につきましては、必要に応じて弁護士やカウンセラーが対応しておりますが、常駐はしていないので、日時等については予約にさせてもらっています。ただ、最近からは専門のカウンセラーが月2回来てくださっていますので、そこは少し変わったところではないかと思っています。

 次に直接支援についてです。この直接支援は本当に難しいことです。私は直接支援なくして被害者支援はないと思っております。直接支援をするにあたっては、まず大抵は警察のほうから情報提供を得ます。そして、センターで検討の上、支援できるか、できないか話し合いをします。そして、支援ができるとなれば、どなたかが担当となります。1人ではダメなのです。最低でも2人以上です。県警のお隣にいらっしゃるカウンセラーの方に、大方は同行していただいております。その要請の中身によっては、子どもさんがいる方であれば、ミルクを持っていかなければいけない、おむつはどうなのか、バスタオルが必要なのではないか、あるいは水はどうだろうかと暑いときなどは水を持っていくなど、いろいろな必要な項目を挙げて計画を立てて出掛けていきます。

 また、たまに被害者の方から直接センターのほうに直接支援の要請があります。そのようなときには、逆に警察のほうへ情報提供を行い、よくご相談しながら支援をしています。例えば、今まで行なった支援の中では、裁判所へのつき添いがあります。先ほどおふたりのパネラーの方がおっしゃっていたように、裁判所というところへは私は聞いただけでもあまり行きたくないところだと思っていますし、縁のないところだと思っています。しかし、被害者の方たちにとっては、ある日突然裁判所に行かなければいけません。法廷というところも見たことがないのです。そのようなときに、どのようにして傍聴していただくかということも私たち支援員は前もって裁判所のほうに出掛けて、お話を伺ったり、加害者と被害者や遺族の方が鉢合わせにならないようにするためにお部屋を用意していただく、どこに加害者の親族の方が座るだろうかと考え、なるべく見えないようにするなどいろいろな配慮をしながら付き添いをしています。調停などにも付き添っています。裁判所の控室は申立人と、相手方というふうに分かれておりますが、場合によっては裁判所のほうに申し出ると、特別の部屋を用意してくださるので、そのようなところで待っている場合もあります。お子さんをお連れになる方の場合は、子どもの世話もしております。

 また、検察庁へのつき添いもしました。検察官の被害者への取り調べや、カウンセリングの際の付き添いと、その方はお子さんがいらっしゃったので、子どもの世話をしました。支援員の方たちは若い方が少ないので、本当に大変です。自分の孫を抱いても腕が痛くなるような状況ですが、何とかあやしながら、被害者の家族のため、あるいは被害者のために付き添いをしています。また、大きな事故などのお葬式の際にも要請があり、子どもの世話に出掛けたこともあります。それから、被害者が事件に伴って、やむを得ずどうしても転居しなければいけないというときには、遠いところでしたが、何人かで引っ越しの手伝いにも行きました。

 先ほど稲村先生もおっしゃっていましたが、被害者家族の方というのは、PTSDなどで本当に精神的に不安定になります。そして、それは長期間続きます。そのようなときは、1人で病院に行くことはできないので、付き添ってくださいという要請があります。そのときにも、もしお子さんがいれば、お子さんのものなども持って出掛けていきます。直接支援はこれからいろいろな事例が出てくるかと思いますが、このような感じで支援を行なっております。私たちのセンターではまだ危機介入はしていません。とてもそこまでできる気持ち、準備ができていません。いずれはそういうことにもだんだんなってくるかと思いますが、そのためには質の高い研修をしなければいけないのではないかと思っています。

 次に特別支援があります。これは性犯罪等の被害者で、加害者から治療費や検査料ももらえずに自分で負担をしている被害者本人から要請があった場合に補助をしています。

 また、三浦さんが代表になっております秋田交通死亡事故被害者の会がありますが、自助グループとして、センターとしてできることとしては、支援員を派遣して交流する場所の確保、会場の準備、案内の発送、あるいは資金的な援助なども行なっております。しかし、これはまだ十分とは言えないところもあるかもしれません。

 今日のテーマは「被害者の声に応えるために!」ということですが、センターとしてはこのテーマは非常に難しいことです。私たちは一生懸命考えて、3つのことを考えました。まず1つは、被害者の声に応えるためには被害者のニーズに合った支援ということです。これは言葉では簡単です。しかし、「ニーズ合った支援とは何ですか」と言われても、すぐ答えが出てきません。要請があったときに、的確に対応できる態勢ができているかどうかということもひとつあるかと思います。今は公的支援がかなり進んできていますが、その公的支援に加えて、センターは民間の団体ですので、被害者、あるいは被害者家族に対してきめ細やかに対応できるのではないかということです。いわゆる隣人としての支援です。思いやり、温かさ、気遣い、そして何よりも共感することです。何かできることがあればという謙虚な気持ちです。おごりがあってはできません。そして、支援員と被害者、あるいは被害者家族は同等の立場です。そのことを忘れないで接し、信頼関係ができるようにすることではないかと考えております。二次被害を与えることはもちろん一番いけないことです。

 私たちは民間の団体ですので、皆様の善意によって支えられています。その経済的な基盤の充実がなければ、これからやっていくことはできません。現在は賛助会員、県や市町村からの補助など負担金をいただいているところもありますが、なかなかそれだけではこれから運営が難しくなっていくのではないかと思います。ですから、賛助会員の継続的なつながりと、賛助会員の開拓、センターでも自助努力をしなければいけないと思います。現在行なっているのは募金です。先ほどの犯罪被害者白書のお話の中に出てきましたが、県からは未使用の切手やテレホンカードの寄付などを呼び掛けております。先ほどの基調講演で最後にありましたが、できるものであれば国のほうでも財政的な援助を検討していただけば大変ありがたいと思っております。

 2つ目は、質の高い支援をするための人材育成です。センターでは支援員養成のために研修をしてまいりました。現在、5期生が裁判傍聴を含む実務研修及び毎月1回の定例研修に入っております。初級、中級、上級編と進むまでには2年、人によってはもっとかかる場合もあります。そして、晴れて支援員になったとしても、毎月定例研修を行なっております。研修はこれでよいということはありません。まして、直接支援をするとなると特別のカリキュラムを受講しなければなりません。センターだけにとどまらず、県外のありとあらゆる直接支援の研修やいろいろな研修に積極的に参加してもらっています。また、全国被害者支援ネットワークに加盟しておりますので、その研修にも参加しています。

 今後は支援員養成のシステムの充実をさらに図っていかなければならないと思っています。現在、全国被害者支援ネットワークは40以上あり、各県にひとつ、あるいは2つあるところもあります。今日は山内先生から、来年青森でセンターができると聞いて大変うれしく思っています。東北では、まだできていないのは福島県ではないかと思っています。研修を積んだ質の高い支援員があたっていかなければいけないと思いますが、今のセンターにとっては本当に荷が重い状況です。

 最後の3つ目は、関係機関との緊密な連携です。県警はもちろんのこと、各警察署を訪問したり、関係機関から研修の形で講師に来ていただいたり、あるいは支援員が施設見学をして交流をしたり、直接支援の前にいろいろな関係機関の下見をするなどということをしております。

 これは私の個人的な考えですが、各支援員が個人レベルでどこ病院の、誰々のケースワーカーさんと顔見知りになる、あるいは何々相談所の相談員さんと顔見知りになるなど、そのためにはいろいろな県内で行われる研修会や連絡会などに出掛けることも連携をしていく大事なことになるのではないかと思います。途切れることのない支援のためにはお互いに情報を共有し、そして私たちセンターから県内各地にもっと発信していきたいと思っています。今後ともよろしくお願い申し上げます。どうもありがとうございました。


(米山)

 沢口さん、ありがとうございました。沢口さんの今のネットワークを広げるというところでは、フットワークがネットワークにつながるということが言えるのではないかなとお聞きしていました。稲村先生から、いかがでしょうか。


(稲村)

 本当にご苦労さまだと思います。市民としての立場というのはとても大事ではないかと思いました。また、財政的な問題もなかなか大変だなと思いました。全国で被害者支援ネットワークは40カ所あるということで、幸い秋田でも活動されているということですので、よろしくお願いしたいと思います。


(米山)

 それでは時間が迫ってまいりましたので最後のパネリストをご紹介いたします。泉 千穂子さんです。泉さんは臨床心理士でいらして、精神科の病院での勤務経験を経まして、現在は秋田県警察本部犯罪被害者対策室カウンセラーでいらっしゃいます。泉さん、お願いいたします。


(泉)

 ただいまご紹介いただきました、警察本部で被害者対策を担当しております泉と申します。どうぞよろしくお願いいたします。今ご紹介いただいたように、私は警察職員になって4年目となりました。その前は精神科の病院にずっと勤めておりましたので、警察社会に十分慣れているわけではありません。そんな自分がこの壇上に座らせていただいて、お話できることは大変光栄なことであり、また、私が直接被害者と接して見たこと、感じたことを皆さんにお伝えするとてもいい機会だと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

 平成17年12月、国の犯罪被害者等基本計画を踏まえて、本年の2月に秋田県犯罪被害者等支援基本計画が策定されました。そこでは、「損害回復、経済的支援」「精神的・身体的被害の回復・防止」「刑事手続きへの関与拡充」「支援等のための体制整備」「県民の理解の増進と配慮・協力への確保」の5つを重点課題として挙げています。今後の被害者支援をどのように充実させるかを、警察の被害者支援を通じて、これから話題提供していきたいと思います。

 まずは、警察はどのような方を支援対象にしているかというと殺人、性犯罪、傷害致死などの身体犯被害者やその遺族の方、ひき逃げ、交通死亡事故の被害者やその遺族の方、ストーカー、DV、児童虐待など、その他にも支援が必要と判断された事件などです。

 現在行われている支援内容は、病院、公判、実況見分の付き添い、心配事などのヒアリング、手引き、診断書料、捜査や公判、各種相談機関、犯罪被害給付制度の説明などです。警察は被害者に最も身近で早期対応が可能です。支援の多くは担当の警察官が被害者の話を聞き、要望を確認することから開始されます。私は、カウンセリングを通じて、被害者からいろいろな話を聞く機会が多いわけです。私が実際目にして、肌で感じた被害者の現状はどのようなものなのかをお話ししたいと思います。

 これからお話しするのは、交通事故で亡くなった小学生の女の子のお話です。その事故が起こった場所は自宅前で、家族である母親と小学生の姉が目撃していました。その事故から数週間後、母親は自宅の窓を開けられなくなり、車の音を聞くと動悸で苦しさが増してくるという症状が出てきました。現場にいた小学生の姉は「車が怖い」と言い、道路を横断すること、集団登校ができなくなりました。

 私がある夏休みに訪問したときのことです。いつものように仏壇に挨拶にいくのですが、そこに通信簿が置かれていました。よく見ますと、印刷されたものではなく、母親が手書きで作成したものでした。1日も休まず登校したこの亡くなったその女の子のために、母親は「本物の通信簿を供えたかった」と私に話しました。「もらえなかったので、自分で姉の通信簿をまねして手書きした」と言っていました。中を開いてみますと、先生が書くようなコメント、例えば、「休まないでがんばったね」「算数がんばったね」「遠足楽しかったね」「お当番がんばったね」というようなコメントがびっしり書かれていました。。

 私はこの状況を学校に伝えるべきだと思い、どのように伝えるべきか大変迷ったのですが、係と相談して、見たまま、そのままを学校に話しました。そうしたところ、学校側は「ずいぶん迷っていたのです。お母さんが思い出してつらくなることを心配して、そのままそっとしておきました」と話して、間もなく学校は本物の通信簿を仏壇に供えてくださいました。それから、学校は毎学期その本物の通信簿をご自宅に届けています。また、新学期を迎えるたび、亡くなった子どもの机も衣紋掛けも靴箱も新しい教室に進級しています。学校側は「この学校の生徒として卒業させますから」と話をして、6年生までそれを続けることを母親に約束したわけです。母親は、「この学校のおかげで、事故以来、初めて気持ちが前に向きました」と語ってくれました。

 次は、殺人死体遺棄事件の被害者のご遺族のお話です。60代のご夫婦ですが、1人娘を殺人死体遺棄事件で亡くしました。娘さんは行方不明から約半年後、山林で白骨化した状態で発見され、その1年後に加害者が逮捕されました。懲役17年で、現在も服役しています。

 娘さんは生前、大変両親思いで月数万円を両親に仕送りしていました。両親はそれを娘さんの結婚資金にするため、10年後に満期になる娘さんの貯蓄として充てていました。しかし、娘さんは殺害され、お金が両親に支払われることになりました。所得申告したところ、県民税、市民税、国保、介護保険、あわせて約100万円を請求されたため、大変驚いて、判決記事を持参し税の減免を申し立てましたが、対象外とされました。遺族は「老後に備え、堅実な生活をしてきた。貯蓄があるのは当たり前なのに、それが減免の対象外となるのはおかしい。娘を殺害された上、亡くなった娘のお金にまで他と同様の税金がかかるのは悲し過ぎる」と話し、今以上の被害者への配慮を要望していました。

 また、ある殺人未遂の被害者家族は、加害者家族と連絡を取りたい、会ってさらに心配事が増えるかもしれないがこの状態では何も変わらないと私に要望があり、警察署において、署の被害者対策担当者と立ち合いを実施しました。被害者は、加害者が自分の大変さばかりを主張すること、約束を守らなかったことに怒りを感じ、面会は毎回同じように平行線で終了しました。そして、この被害者家族は、自宅が殺人未遂の現場となったため、住める状態ではなくなりました。仕方なく引っ越しを余儀なくされたわけです。自営業でしたが、お客さんはそのうわさを聞き付けて来ることはなくなり、生活は困窮しました。被害者家族は、「今も足音で目が覚め、後ろに人がいると恐怖になる」と語っています。また、「どこに行っても事件のうわさや中傷の的で、事実が語られていることがない。現在も精神的ダメージを負ったまま生活しているのだ」と語りました。そして、「自分たちがこんな事件に巻き込まれるなんて、誰が予想しただろう。犯罪被害にあったら、自治体が当面の生活費、住宅、仕事等の援助をすぐに提供することはできないのでしょうか。もっと積極的に住民を守ってほしいのです」と話していました。

 私はこのような話を聞きますと、被害者の一番身近にいる地域の役割というものが私たち以上にとても大きいと感じました。犯罪被害者等基本法には、国の責務、地方公共団体の責務、そして国民の責務が掲げられ、秋田県犯罪被害者等支援基本計画の重点課題には、支援等のための体制整備が掲げられています。必要とする支援を、誰でも必要なときに、必要な場所で受けられる体制を今以上に整備し、確実に被害者に届くようにしていかなければならないと考えています。

 皆さんは、会場入り口の展示をもうご覧になりましたでしょうか。あるご遺族は展示する際に、このようなことをお話していました。「大事な家族をさらすように思えて、初めはとてもできませんでした。しかし、犯罪被害にあうとこうなるのだということを1人でも多くの方にわかってほしい。自分たちと同じ思いをする人がいなくなる社会にしてほしいとだんだん思うようになってきたのです」と話し、展示に思いを託してくださいました。どうぞ、皆さんにお1人お1人の思いを受け取っていただきたいと思います。

 私は、被害者支援は特別なことではないと考えています。困った人に何かしてあげたい、自分には何ができるだろうかという、普段私たちが遭遇する日常と同じような感覚ですることができるのではないかと思います。犯罪被害者の声に応えるためにできること、それは1人1人の話に丁寧に耳を傾けることではないかと思います。なぜなら、被害者の置かれた状況、心情、要望はすべて同じではないからです。途切れることのない、あふれる支援が1人でも多くの被害者に行き届くように、これから努力していかなければならないと思います。

 最後に、この場で私がお話しすることを心よく許可してくださったご遺族、被害者の皆様に深く感謝いたします。私の話は以上です。


(米山)

 泉さん、ありがとうございました。泉さんのお話の最後に、丁寧に耳を傾けることこそ私たちができることなのではないかというお話がありましたが、これは本当に相手の存在を認めることにつながる、それこそが私たちにできることなのかなとお聞きしていて感じました。稲村先生、いかがでしょうか。


(稲村)

 このような取り組みができるようになったのは、ここ数年だと思います。泉さんも警察職員になって4年目ということですが、警察の在り方にもいろいろな幅ができてきたのではないかという感じを受けました。以前はこのような細かいサポートはできなかったのではないかと思います。

 我々はいつ犯罪被害にあうかわかりません。そして、犯罪被害にあえば、このような心の傷を負って、非常に大変なのです。日本全体では、このような事件は増えてきているのかもしれませんが、お話されたようなサポートは本当に必要だと感じました。これには犯罪被害者の声を犯罪者にどう伝えるのかという問題があるのではないかと思います。被害者の怒りを加害者に伝えて、加害者がそれで自分を照らしていく作業が必要ではないかと思います。再犯も多いと聞いております。現在、刑務所では犯罪者が被害者の気持ちをわかるようなトレーニングをするプログラムを行うことも始まってきているようです。それはすごく大事ではないかと思います。
加害者が何年か刑務所に入って刑に服して、加害者の社会的な罰というものはとても大きいとは思いますが、加害者が被害者の気持ちをもっと理解すれば、犯罪も減るのではないかと思います。それが犯罪を減らす手段ではないかなという感じもしました。こういうものをどのように広く伝えていくのかがとても大事ではないかと思いました。


(米山)

 それでは、フロアの方からご質問、ご意見でも構いませんので、どなたかいらっしゃいませんか。では、前から6人目の方。こちらの女性の方です。


(質問者A)

 今のお話を聞いて言わずにはいられない気持ちになりました。私の息子が事故にあったのは昭和53年ですから、もうすでに28年過ぎています。今、稲村先生も「ときがたっても」というお言葉がありましたので、それにも共感しました。それから、事故の様子は三浦さんと同じく左折の大型車でした。これは省略しておきます。

 息子が亡くなったのは、大学1年生のときでした。それから、5~6年もたったころに、同級生から結婚の案内状が来ました。お父さん、お母さんでもいいから出てくださいということでしたので、私と夫の2人でその結婚式に行きました。そのときは同級生はもう27~28才になっていたでしょうか。一番上座に2人で座らせてもらっていたのですが、学生たちが学生歌や応援歌を歌うとき全員壇上に行き、そこに2人がぽつんと残ったのです。そうすると、「家族の親せきの方でしょうか」と聞いてきて、「あなた方はどういう関係ですか」と聞かれたので、「息子に案内状が来たけれども、息子が遠いところに行っているので代わりに来ました」と答えました。そうすると、その方が「ああ、外国ですね」と言ってくれましたので、「ああ、そうだ。外国に行っていることにすればいいのだ」と、それからずっとそのように思って、「子どもは何人ですか」と言われると、その息子も必ず数に入れて「2人です」と躊躇なく、言えるようになりました。また、家族の構成も変わり、夫もいなくなりましたし、長男の妻も孫たちも私の二男のことは知りません。しかし、私は息子が生きていたということを積極的に話して、忘れさせないようにしています。

 この息子の同級生たちからは毎年年賀状が来ますので、私は途切れないように一生懸命書いています。当然のことながら、彼らはその場の中心的な立場に立って、成長し立派な大人になっていますので、私の息子もそうなっていただろう、外国でそうしているだろうと思っています。

 加害者については、28年前に会ったきりで、その後どうしているのか、事故のことを忘れてしまったのか、さっぱりわかりません。知りたいような、知りたくないような、その加害者は4歳年上でしたから、現在は50歳ぐらいになっているかと思います。この加害者はスピード魔でした。何度もスピード違反で免許停止になっていたのに、3年経過したということで大型免許を取って、たった1週間後にこの死亡事故を起こしたのです。スピード魔、脇見運転、酒飲みというこのような常習性のある人間には大型免許を与えないようにしてほしいと私は思います。長くなってしまいますので、これで終わります。


(米山)

 いろいろな思いがこもっていらっしゃるお話をどうもありがとうございました。あとお一方ぐらい、どなたかいらっしゃいませんか。よろしいですか。

 それでは、パネリストの方に最後にもう一言言いたいという方がいらっしゃいましたら、手短に一言ずつお願いしたいと思いますが、いかがでしょうか。


(三浦)

 ありがとうございます。今、飲酒運転だけが悪いと盛んに言われていますが、そのドライバーのモラルのなさで犠牲者がたくさん出て、その延長線上に飲酒運転もあるということをぜひわかっていただきたいと私たち交通事故の遺族は思っています。また、交通事故は軽いという考え方を改めるという意識が必要です。犠牲者はどんどん増えています。本当に怖いくらいの人数が犠牲になっています。

 私は娘の事故から5年7カ月になりますが、あの日で自分の中の時計は止まってしまっているので、今の現実のこの年数というものを数えることもなければ、その日その日に意識をすることもないわけですが、悲しいニュースが出てくると、あの日の自分、そのときの私というものがすべて重なってしまい非常につらい思いをしています。私たちの被害体験は誰にも体験してほしくないし、まして犠牲になった娘たちの命を活かしていただく、教訓にしていただく社会をつくっていただくことが、私たち被害者の癒やしにもなるわけであり、そこをわかっていただきたいなと思いました。

 先ほど泉さんもおっしゃってくださいましたが、フロアのロビーのほうに展示されている被害者の声は、秋田県では地域性もあって、なかなか声を上げられません。しかし、ようやくその自分の悲しい被害と向き合って、書いてくださったメッセージですので、ぜひ皆さんにはいろいろな機会をとらえて生かしていただきたいと思います。今日、この場所で発言させていただく機会をいただきまして本当に感謝しています。ありがとうございました。


(山内)

 会場からご感想をお話しいただきまして本当にありがとうございます。私たち家族、娘の高校時代、それから大学時代の友人と今でも交流を持ち、毎年誕生日や命日にお花をいただいたり、お手紙をいただいたり、直接家に来てくれたりしております。特に大学時代の友達は、横浜で知り合った人が多いので、わざわざ横浜から来てくれ、皆で食事をしながら、娘のいろいろなことを語り合いながら過ごすことが私たちの気持ちが一番穏やかになれるひとときであり、とても大切にしています。

 私たちも今年の6月に静岡に住んでいる娘の友人から結婚の招待状をいただき、夫と2人で行ってきました。そこでも会場で皆さんとお会いして、いろいろお話してきましたが、このようないい人たちと娘は友達であったのだなと思うと、非常にうれしく思いましたし、ありがたいなと思いました。

 そして、やはり私たちにとっては、事件のことを知らない人に家族のことを言うことは今でもつらく苦しいものになっています。娘は11年たった今、32歳になりました。昨年の娘の誕生日に1泊で友達が来てくれましたので、誕生会を兼ねて皆で話し合いました。そのときに、当時高校生だった下の娘が「お母さん、ケーキを買わなきゃいけないね」ということで、お店にケーキを買いに行ったのですが、誕生日のケーキということで、お店の人に「ろうそくは何本ですか」と言われて、私は21本なのか、31本なのかとても迷いました。でも、すかさず娘が「お母さん、31本だよね」ということを言ってくれ、お店の方もその本数を付けてくれました。そういうときもやはり自分はまだ心が癒やされていない、「31本」と素直に言えなかった自分を感ずることがあります。それから、周りの人からは先ほど言ったようないろいろな慰めがあったり、あるいはいろいろな言葉で逆に傷ついたこともあったのですが、亡くなった娘が一緒に学校で学んだ友人達と話すことは非常に気持ちを落ち着かせてくれました。

 先日は大学の卒業アルバムのCDを送ってくれました。私たちは「大学の卒業アルバムを欲しい」と言ったのですが、「卒業しなかったので販売できない」と言われて非常に心外でした。しかし、そのことを酌んで友人が初めてCDを送ってくれ、パソコンで見たときは本当に涙が出ました。以上です。


(沢口)

 特別申し上げることはないのですが、自分が被害者、あるいは被害者家族にならなければ、私たちは本当のことはわからないのだと思います。私たちセンターではささやかな支援をしておりますが、それが被害者や被害者遺族の方をどの程度癒やしていることになるのかなと思いながらも、やはり誰かがやっていかなければいけないのではないかということで、私たちはやっております。

 そして、この間も法廷付き添いについて、ロールプレイを2回に分けてやりました。被害者の方と、付き添い2人、そしてそばで聴くというロールプレイをしてみますと、本当にいろいろな問題が出てくるわけです。もし、法廷の前で加害者に突然土下座されて謝られたらどうするのだろうということなど、いろいろな想定が出てくるわけです。そのような研修をしながら、少しでもよりよい支援ができるようにこれからも努力していきたいと思っております。どうぞよろしくお願い申し上げます。


(泉)

 表現は少し変なのですが、私たち支援する者は被害者の方に育てられているという感覚があります。被害者の声を決して無駄にしない、その被害者の声をまた次の被害者へ汎化していくということがどんどんできれば、いい被害者支援ができるのではないかと考えています。以上です。


(稲村)

 今、皆さんはいろいろな同じような気持ちの中にいらっしゃると思います。この気持ちを忘れないことが大事だと思います。今日は被害者の方のお話を聞いて、「どうすれば癒やされるのか」という問題が出されていると思うのですが、もしかすると皆さん自身が被害者支援のお話を聞いて、それぞれお持ちのトラウマ、つらいことを思い出されたかもしれません。その中で、つながっているものがあるのだと思います。人と人がつながらないと癒やされないものはたくさんあります。そして、知らない間に、あるいはいつの間にか傷つけてしまうこともたくさんあると思います。いじめの問題も同じではないかと思います。深いところではすごく広がりがある問題ではないかと思います。私もいろいろなことを思い出したりしながら、座っていました。

 何か動かされるものが、お互いを変えていくし、システムも変えていくと思います。お互いに支え合えるような社会のシステムになれれば一番いいのではないかと思いました。今日は被害者の方のお話も聞いて、これからの取り組みが大事だということがわかりましたし、心の傷というものは本当に大変なのだということもわかったと思います。そして、それはいろいろなところで起きていて、皆で支え合って生きているのではないかなという感じを受けました。私も、重たい思い、そして逆に温かい思い、本当にいろいろな思いがわいているのですが、日常の中でこの気持ちを忘れずに、抱えて生きることが大事ではないかと思いました。


(米山)

 ありがとうございます。私も本日、皆さんとこのような場を体験できて、本当に良い体験をさせていただいたなと感じております。今日の体験を明日につなげる、そして、私1人だけではなく、他のいろいろな人に渡していく、つなげていくというようなことがこれから大事なのかと思います。私もそれをしていきたいと思いました。

 それでは、お時間もきましたので、ここで本日のパネルディスカッションを終了したいと思います。皆様、ご協力どうもありがとうございました。


閉会あいさつ

佐藤 怜(社団法人秋田被害者支援センター理事長)

 今日は、このプログラムにありますように、「犯罪被害者週間」のスタートの日です。この週間は12月1日まで続きますが、日常的に起こっている犯罪のニュースの陰に絶えず被害者がいるということをこの機会に思い起こしていただきたいと思います。

 今日は犯罪被害者のお話がありましたが、秋田県の犯罪率は全国で一番低いわけです。それだけ安全・安心の秋田であります。このことを思い出していただきたいと思います。暗い話ばかりありますが、秋田県では安全・安心ということで全国から見ても犯罪は少ないということですので、その辺をお含みおきいただきたいと思います。

 パネラーの被害者の方々の発表を聞きますと心が痛みましたが、主催者側のひとつであります私たち社団法人秋田被害者支援センターでは、引き続き、先ほど沢口さんが指摘したようなことで、国の被害者支援、秋田独自の犯罪被害者等支援基本計画に基づいて被害者の支援を行なっていきたいと思います。

 そして、マンパワーです。支援員、相談員はボランティアですので、養成にもなかなか時間がかかります。しかし、お集まりの皆さん方の中から「私もやってみるか」という人がいたらぜひ応募いただきたいと思います。また、地域で被害者の支援を考えて、皆で対応していこうという姿勢を今日の犯罪被害者週間スタートの時点にあたりまして、皆様にその辺をお含みおきいただきたいと思います。

 当初は「100人ぐらい来ればいいべか」などと言っていたのですが、本日は思いのほか会場がいっぱいでビックリしました。ご協力、ご支援ありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いいたします。