第9章 警察活動のささえ

1 警察職員

 我が国の警察組織は、都道府県を単位とし、都道府県公安委員会の管理の下に警察職務を直接執行する都道府県警察が置かれている。また、これら都道府県警察を国家的、全国的な立場から指導監督し又は調整する国の警察機関として、国家公安委員会の管理の下に警察庁が置かれて いる。
 警察庁及び都道府県警察に勤務する警察職員は、警察官、皇宮護衛官、事務職員、技術職員等で構成され、これらの職員が一体となって警察職務の遂行に当たっている。
(1)定員
 警察職員の定員は、昭和62年12月末現在、総数25万6,598人で、その内訳は、表9-1のとおりである。

表9-1 警察職員の定員(昭和62年)

 62年度には、地方警察職員たる警察官の増員は行われず、警察官1人当たりの負担人口は、全国平均で555人となり、前年度に比べ3人増加した。これを欧米諸国と比較すると、図9-1のとおりで、我が国の警 察官の負担は著しく重いものとなっており、今後とも警察力の整備に努める必要がある。

図9-1 警察官1人当たりの負担人口の国際比較(昭和62年)

(2) 婦人警察職員
 昭和62年4月1日現在、都道府県警察には、婦人警察官約4,100人、婦人交通巡視員約2,100人、婦人補導員約800人が勤務しており、交通指導取締り、犯罪捜査、鑑識活動、少年補導、要人警護、警察広報等の多くの分野において活躍している。また、これらのほか、一般職員として約9,700人の女性が勤務している。

 女子の深夜勤務については、労働基準法による制限があるが、61年1月に制定された女子労働基準規則によって、同法の深夜勤務の制限規定の適用が除外される業務として警察の業務(警察官以外の警察職員が行う場合は、女子の留置又は保護の業務及び少年の補導の業務に限る。)が定められ、同規則は同年4月1日から施行された。
 この結果、婦人警察官が深夜における交通、外勤、刑事、防犯等あらゆる警察活動に従事できるようになるなど、婦人警察職員の活躍する機会がますます増大している。
(3) 採用
 警察官の採用については、それにふさわしい能力と適性を有する優秀な人材の確保に努めている。昭和62年度に都道府県警察の警察官採用試験に応募した者は約8万1,900人で、合格した者は約6,500人(うち、大学卒業者は約2,900人)となっており、競争率は、12.6倍であった。
(4) 教養
 警察官には、逮捕、武器使用等の実力行使の権限が与えられており、また、自らの判断と責任で緊急に事案を処理しなければならない場合も多いので、職務執行が適正に行われるためには、一人一人の警察官に対する十分な教育訓練が必要である。このため、警察では、警察学校等において、新しく採用した警察官に対する採用時教養、幹部昇任者に対する幹部教養、専門分野に応じた各種の専科教養等の集合教養を実施しているほか、職場における個別指導等あらゆる機会を通じて各人の能力や職種に応じたきめ細かな教養を行っている。
 学校教養の中で特に力を入れているのは、都道府県警察学校で行う採用時教養で、昭和55年度からは、人間教育を一層充実することなどを目的として、従来の課程を再編成するとともに、教養期間を延長した新しい採用時教養を導入している。
 教養の推進に当たっては、各階級、各職種に求められる基本的な知識、技能の教養はもとより、治安情勢の変化に対応できる各種能力のかん養に努めている。
 また、職業倫理の確立と使命感の醸成を図るため、「警察職員の信条」の実践を中心とした職業倫理教養を徹底するとともに、相手の立場に立った親切かつ誠実な市民応接を行うための教養を推進している。
 さらに、警察官の体力、気力を養い、職務執行に必要な各種の技能を向上させるため、柔道、剣道、逮捕術、けん銃操法等の術科訓練の強化を図るとともに、体育等の訓練を通じて走力、持久力等の基礎体力の充実、向上に努めている。
(5) 勤務
ア 制度
 警察の果たすべき治安維持の責務は、昼夜を分かたぬものであるので、24時間警戒体制を確保するため、外勤警察官をはじめ、全警察官の4割以上は、通常、3交替制で3日に1度の夜間勤務を行っている。交替制勤務者以外でも、警察署に勤務する警察官の多くは、6日に1度程度の割合で深夜勤務に従事している。また、突発事件、事故の捜査等のため、勤務時間外に呼び出されることも少なくない。
 このため、警察官の勤務条件、給与、諸手当その他の待遇については、常に改善を検討しており、これまで、駐在所勤務員の複数化、派出所等の勤務環境の改善、階級別定数の是正、4週6休制の試行等が図られてきた。
イ 警察官の殉職、受傷及び協力援助者の殉難、受傷
 警察官は、身の危険を顧みず職務遂行に当たっているので、職に殉じたり、公務により受傷したりすることが少なくない。昭和62年に、職に殉じて公務死亡の認定を受けた者は10人(前年比2人減)、公務により 受傷した者は5,892人(前年比11人増)である。これらの被災職員又はその家族に対しては、公務災害補償制度による補償のほか、各種の援護措置が採られている。
 また、62年に、現行犯人の逮捕、人命救助等警察官の職務に協力援助して災害を受けた市民は、死者4人(前年比5人減)、受傷者23人(前年比9人減)である。これらの被災者又はその家族に対しても、警察官の公務災害の場合とほぼ同様の給付や援護措置が採られている。
〔事例1〕 6月6日午後11時55分ころ、石川県金沢東警察署勤務の中一郎警部補(22)は、同僚の警察官1人とともにパトカーで金沢市内を警ら中、「暴走族車両が金沢方面に向け進行中」との無線を傍受したので、暴走族車両の通過地点においてパトカーを降り、停止旗を掲げこれを停止させようとしたところ、暴走してくる車両に次々に衝突され、殉職した。
〔事例2〕 8月29日午前9時30分ころ、協力援助者(40)は、三島(さんとう)郡寺泊町寺泊の海水浴場において、沖合約150メートル付近でおぼれかかっている男女2人を発見したため、海に飛び込み救助活動を行ったが、高波にのまれ死亡した。この殉難者の遺族には、一時金として葬祭給付約59万円が支給されたほか、遺族給付年金として年間約226万円の給付が決定された(新潟)。

2 予算

 警察予算は、国の予算に計上される警察庁予算と各都道府県の予算に計上される都道府県警察予算とで構成される。警察庁予算には、警察庁、管区警察局等国の機関に必要な経費だけでなく、都道府県警察が使用す る警察車両やヘリコプターの購入費、警察学校等の増改築費、特定の重要犯罪の捜査費等の都道府県警察に要する経費が含まれている。
 昭和62年度の国の予算編成においては、厳しい財政事情を反映して、「対前年度比、経常部門経費10パーセント減、投資部門経費5パーセント減」という5年連続の対前年度マイナスの概算要求基準が設定された。警察庁としては、このような厳しい財政状況の下においても、現在の治安水凖を維持するため、極左暴力集団による「テロ、ゲリラ」等違法事案の未然防止と徹底検挙(自動車ナンバー自動読取りシステム、パトカー照会指令システムの整備等)、犯罪の国際化への的確な対応と捜査協力の推進(ICPO分担金の増額等)、鉄道警察隊による鉄道施設内の治安の維持等の施策について、重点的に予算措置している。
 62年度の警察庁当初予算は、総額1,747億1,600万円で、前年度に比べ、59億4,800万円(3.5%)増加(国の一般会計当初予算総額は0.02%増加)し、国の一般会計当初予算総額の0.32%を占めている。
 なお、62年度の国の予算においては、内需拡大等を図るため、二次にわたる大幅な追加補正予算が組まれ、警察庁予算においても、ヘリコプターや警察車両購入等の経費として、93億9,200万円の予算措置がなされた。第二次補正後の警察庁予算は、図9-2のとおりである。
 また、62年度の都道府県警察予算は、各都道府県において、それぞれの財政事情、犯罪情勢等を勘案しながら作成されているが、その総額は、2兆2,351億8,200万円で、前年度に比べ1,119億2,000万円(5.3%)増加し、都道府県予算総額の6.4%を占めている。その内容は、図9-3のとおりである。
 警察庁予算と都道府県警察予算の合計額(重複する補助金額を控除した額)を人口で割ると、国民1人当たり1万9,500円となる。

図9-2 警察庁予算(昭和62年度第二次補正後)

図9-3 都道府県警察予算(昭和62年度最終補正後)

3 装備

(1)車両
 警察車両には、捜査用車、鑑識車等の刑事警察活動用車両、交通パトカー、白バイ、交通事故処理車等の交通警察活動用車両、警らパトカー、移動交番車等の外勤警察活動用車両等があり、現有警察車両の用途別構成は、図9-4のとおりである。

図9-4 警察車両の用途別構成(昭和62年度)




 昭和62年度は、警察機動力の向上に重点を置いて、国鉄民営化に伴う鉄道警察隊用車、「テロ、ゲリラ」対策車及び前年度に供用が開始された高速道路用の交通指導取締り車等の増強整備を図るとともに、耐用年数を経過した各種車両のうち、予算の範囲内において、特に緊急度の高いものについて、更新整備を図った。
 厳しい財政事情の下ではあるが、警察事象の量的増大や質的変化に対応して、治安水準の維持、向上を図るためには、今後とも警察機動力のかなめである警察車両の整備、充実を進めることが不可欠である。当面、国際化、広域化の度を増している薬物事犯に対処するための薬物取締り用車、「テロ、ゲリラ」対策車、各種犯罪に対応するための捜査用車、高速交通時代に対応するための交通指導取締り車、少年非行対策のための少年補導車、地域に密着した活動を行うための警らパトカー、災害等の各種事案を処理するための特殊車両等について、重点的に増強整備を図るとともに、耐用年数の経過した車両について、引き続き計画的に更新整備を進めていく必要がある。
(2) 船舶
 警察船舶は、港湾、離島、河川、湖沼等に配備され、水上のパトロール、水難救助、覚せい剤等の密輸事犯や密漁あるいは公害事犯の取締り等の水上警察活動に運用されており、全長8メートル級から20メートル級の警備艇及び5メートル級の公害取締り専用艇の合計203隻を保有している。

 昭和62年度は、厳しい財政事情であったが、高速警備艇2隻を増強す
るとともに、耐用年数の経過した船舶の減耗更新に際しては、高性能化に努めた。今後の整備に当たっては、水上警察事象の多様化に対応するため、増強配備に努めるとともに、大型化、高速化を図る必要がある。
(3) 航空機
 警察航空機(ヘリコプター)は、災害発生時の状況把握と被災者の救助、交通情報の収集、伝達、犯人の追跡等の捜査活動、公害事犯の取締り、交通の指導取締り等幅広い分野で活動している。
 特に、昭和62年9月から11月にかけて沖縄で開催された国体等に際しては、神奈川県警察等6県警察のヘリコプターが、空中から警衛、警護、警備を実施するなどヘリコプターの広域運用を実施した。また、62年度は、「テロ、ゲリラ」対策用として、警視庁、千葉、大阪の各都府県警察に中型ヘリコプター各1機を配備したのをはじめ、各種警察活動用として、山形、群馬、富山、奈良、岡山、大分の各県警察に小型ヘリコプター各1機を配備するとともに、愛媛県警察の小型ヘリコプターの更新整備を行った。この結果、警察航空機は、全国で54機となり、航空基地は、39都道府県警察に置かれるに至った。
 警察航空機に対する国民の期待はますます高まっているので、全国的な配備に向けて計画的に整備を推進する必要がある。

(4) 警察装備資機材の開発
 警察では、警察活動の基盤となる装備資機材に、先端技術を含むあら ゆる科学技術を積極的に導入することにより、警察業務の効率化及び高度化に努めている。昭和62年度においては、第一線警察のニーズに基づく「テロ、ゲリラ」対策用検索機材の開発、個人用装備品の改善等に努めた。今後とも、警察装備資機材の科学化、近代化を図るため、研究、開発を一層推進することとしている。

4 警察活動とコンピュータの活用

(1) 犯罪捜査におけるコンピュータの活用
ア 第一線からの照会
 警察庁のコンピュータには、指名手配者、盗難車両及び各種盗難品等のデータが登録されており、全国の第一線警察官からの照会に対して即時に該当の有無を回答することにより、警察活動を支援している。
 また、自動車を利用した犯罪に対応し、手配車両を早期に発見するため、「自動車ナンバー自動読取りシステム」や携帯型コンピュータによる「車両検索システム」の整備を行い、盗難車の発見に大きな成果を挙げている。
イ 指紋の照合
 警察庁では、昭和57年10月から「指紋自動識別システム」を導入して指紋の登録を開始し、58年10月からは遺留指紋照会を、59年10月からは被疑者の身元や余罪を確認する業務を開始したが、この「指紋自動識別システム」は、被疑者等の割出しに大きな役割を果たしている。
ウ 捜査活動の支援
(ア) 捜査情報交換と多角照合システム
 複数の都道府県において発生した犯罪で、同一犯人の犯行と考えられるものについて、各都道府県警察が収集した捜査情報をデータ通信回線 を通じて相互に交換し合うシステムを「捜査情報交換システム」と言う。こうして集めた情報について、コンピュータを用いて関連性のチェックを行うことにより容疑者の絞り込みを行うシステムが「多角照合システム」であるが、このシステムは、61年から運用が開始されており、広域犯罪等の捜査を支援している。
(イ) 捜査資料の解析
 捜査活動で押収した膨大な書類等を手作業で分析処理するには大変な人手と期間がかかるため、これをパソコンや大型コンピュータで集計、分析することにより必要な資料を作成して、捜査の合理化を図っている。
 また、最近は企業の会計帳簿類がコンピュータ処理されていることが多いため、押収した磁気テープやフロッピー等の解読、分析等にもパソコンや大型コンピュータを用いている。
〔事例〕 12店舗、8都府県にまたがったレンタルビデオ業者の著作権法違反事件の捜査において、ビデオテープ約4万4,000本や貸出しカード、顧客名簿等計約7万7,000点を押収した。犯罪事実を立証するためには、著作権の有無、顧客、売上金等を分類、照合しなければならず、手作業では1年以上要すると見込まれたが、これをパソコン処理して約5箇月で実態を解明し、7月21日、経営者ら6人を逮捕した(福岡)。
(2) 運転免許業務におけるコンピュータの活用
 全国の運転免許保有者数は、昭和62年12月末現在、5,570万人を超えている。運転免許証の交付、更新等は、都道府県単位でなく、全国レべルで管理する必要があるため、警察庁のコンピュータでこれらのデータを管理している。
 警察庁の運転者管理用コンピュータは、各都道府県警察の運転免許試験場等に設置した端末装置とデータ通信回線で接続されており、新規あ るいは更新運転免許証を即日交付する事務や、違反、事故に応じて付与された点数を管理して、運転免許証の停止や取消しといった行政処分を行う事務を処理している。
(3) 情報処理に関する技術的研究
 最近の犯罪の広域化、スピード化、巧妙化に的確に対応して、警察活動の近代化、科学化を推進すべく、特にコンピュータを駆使した新たな情報処理システムを開発、実用化することを目的として、昭和62年5月、警察庁に情報管理技術室が設置された。
 情報管理技術室では、AI(人工知能)やパターン認識技術等、最先端のコンピュータ技術を応用した各種の情報処理システムの開発に着手した。AI技術の応用例としては、「個人特徴自動識別システム」が61年度から引き続いて研究されているが、このシステムでは、目撃者の証言から犯人の特徴をコンピュータ処理し、容疑者の絞り込みを行い、さらに、将来は、似顔絵の自動合成まで行うことを目指している。また、ベテラン少年相談員のノウハウを蓄積した「少年相談支援システム」をAIシステムとして構築すべく検討を開始したほか、警察官の学校教育の高度化を図るため、CAI(コンピュータによる教育支援)システムの導入の可能性について検討を開始した。
(4) OA化の推進等
 警察庁及び都道府県警察では、パソコンを積極的に整備して事務の合理化、効率化を進めているほか、緊急配備、犯罪捜査及び交通取締り等の警察活動にもパソコンを活用している。さらに、こうしたパソコンの活用を一層促進するため、各都道府県警察が独自に開発したプログラムの登録制度を定め、相互利用を図っている。
 また、光ディスクシステムを運転免許台帳等の資料の検索や保管管理において活用するなど、写真、図形等のパソコンでは処理しにくい分野 のOA化にも積極的に取り組んでいる。

5 通信

(1) 初動警察活動等のハイテク化
 犯罪、災害、事故等の発生に際して、犯人の早期検挙、被害者の保護あるいは被害の拡大防止を図るためには、初動警察活動等を迅速に行う必要がある。このため、警察では、110番の受理や警察官の出動指令の中枢となる通信指令システム、活動中の警察官の有力な通信手段である移動無線通信等を充実、強化するとともに、新しい情報通信システムの開発を積極的に行うなど、初動警察活動等のハイテク化を進めている。
ア 高機能化する通信指令システム
 初動警察活動の迅速性を確保するためには、通信指令業務の効率化を図る必要がある。このため、警察では、110番の受理に始まる情報の伝達、処理をコンピュータの機能を活用して支援する新しい通信指令システムを開発し、整備を進めている。昭和62年度末現在、新しい通信指令システムは、13都道県で稼動しており、リスポンス・タイムの短縮等に効果を発揮している。
 また、AI技術を利用して、状況の判断、予測を行い、緊急配備の実施に関する最も効果的な情報を提供するなどの、更に高い機能を持つ通信指令システムの開発研究や、コンピュータ・マッピング技術等を利用した高度警察通報用電話システムの実用化試験等を進めている。
イ デジタル化の進む移動無線通信
 移動無線通信は、機動的かつ組織的な警察活動を展開するための重要な役割を担っている。移動無線通信には、パトカー、白バイ、船舶、ヘリコプター、警察署等が相互に通話する車載無線通信系、街頭でパトロ ール活動中の警察官が警察署や他の警察官と連絡できるように警察署ごとに構成している署活系、警備実施等の臨時的、局地的な警察活動において機動隊員等が使用する携帯無線通信系等がある。
 これら移動無線通信系を高度化することにより、通話だけでなく、データ通信等の多様な情報通信にも能率的に使用できるようにし、警察活動の一層の効率化を図るとともに、併せて、電波利用者数の増大に伴い多発している警察移動無線の傍受、妨害を防止するため、デジタル通信方式を開発し、62年3月までに、車載無線通信系、携帯無線通信系に導入した。残る移動無線通信系についても、デジタル化を目標に、整備を進めることとしている。
ウ 整備の進むパトカー照会指令システム
 警察庁では、指令の迅速性、確実性を向上させるとともに、パトカーの情報処理能力を一層高めるシステムとして、「パトカー照会指令システム」を開発した。このシステムは、パトカーに搭載したデータ端末装置からデジタル移動無線通信回線を経由して警察庁のコンピュータへ各種照会を直接行ったり、通信指令室からの指令内容をパトカー内のディスプレイに表示する機能を持っている。62年度には、愛知、京都、兵庫、福岡の各府県警察で運用を開始した。これにより、10都府県警察について整備を完了したが、引き続き全国整備を図る予定である。
(2) 災害時等に活躍する通信
ア 機動通信隊の活動
 災害等の重大事案発生時には、情報量の増加等に対応するため、常用の情報通信システムに加えて、応急的な情報通信手段を確保することが必要となる。
 このため、警察では、応急用通信資機材を常備するとともに、これらを活用し、事案の現場等へ迅速に出動して、応急的な通信手段の確保を 行う機動通信隊を編成している。昭和62年度に機動通信隊が出動した回数は、2,591回に上った。
イ 駆使される映像通信
 映像通信は、警備事案等に際して時々刻々変化する現場の複雑な状況を対策本部等で正確に把握し、的確な判断を行う手段として、極めて有効である。
 62年9月から11月にかけて沖縄で開催された国体等においても、ヘリコプター・テレビや携帯テレビ等多数のテレビ装置を用いた映像通信システムを臨時に構築し、警備実施の状況を生中継して対策本部等で効果的に活用するなど、新しい情報通信手段として、映像通信を各種の警察活動に駆使している。
ウ 活動用統合通信システムの活用
 活動用統合通信システムは、警察庁、管区警察局及び都道府県警察本部のコンピュータを通信回線で結び、相互に通話をしながら文字、地図、数字等の送受信を行い、これにより集められた資料をコンピュータで処理し、整理するとともに、その結果を対策本部等に効率よく提供するシステムである。
 このシステムは、特に、災害の発生時において、全国的な被災状況、現場地図、警察官の出動状況等を即時に集計、作図、表示し、警察庁等に開設される対策本部での状況の把握、総合的な状況分析、指揮等に活用されている。
 このシステムは、60年度から導入を進めており、これまでに、警察庁のほか33都道府県に整備したが、引き続き早期に全国整備を図る必要がある。
(3) 警察活動を支える通信基盤
ア 全国を結ぶ警察通信網
 我が国の警察機関は、警察自営の無線多重回線と日本電信電話株式会社との契約により使用している専用回線とから成る警察専用の通信回線によって結ばれており、独自の警察電話、ファクシミリ等の画像通信、データ通信等を行っている。このうち、警察庁、各管区警察局及び北海道警察本部の相互間を結ぶ管区間系無線多重回線については、ルートを地理的に分散し、災害等による通信途絶の防止を図っている。
 また、自営の無線多重回線は、警察通信の基盤をなす重要な通信施設であるが、各種情報通信システムの構築に柔軟に対応できるように、昭和57年から、PCM方式(注)を用いたデジタル化を進めている。61年度までに、札幌から福岡に至る管区間系第1ルートのデジタル化を完了しており、今後も、すべての回線のデジタル化を目指すこととしている。
 さらに、大量、多様な情報を高速で伝達でき、地形的な制約を受けずに通信を確保できる衛星通信を新たな情報通信手段として導入し、整備を進めている。62年までに警察庁及び静岡、沖縄の各県警察本部に衛星通信用地球局を整備し、現在、各種情報通信に活用している。
(注) PCM(Pulse Code Modulation)方式とは、電話やファクシミリ等の信号をデジタル信号に変えて、大量、多様の情報を効率的に伝送する方式である。
イ 警察電話等の機能強化
 警察電話は、警察機関に設置されている警察独自の電話であり、日常の警察業務を支える基本的な通信手段として活用されている。
 警察電話に会議電話等の新しい機能を追加し、データ通信、ファクシミリ通信等の多様な通信に対応することを可能とするデジタル電子交換機の整備を進めており、62年度には福井、奈良、岡山の各県警察本部に 導入した。警察では、デジタル電子交換機やデジタル無線多重回線等の整備により、高度情報通信システムの構築を目指している。
(4) 近代化の進む国際通信
 警察における国際間の通信網として、ICPO無線通信ネットワークがある。警察庁は、東京無線局を設置し、アジア地域の中央局として、地域内各国の電報を取りまとめるとともに、パリ本部を経由して世界各国との電報の送受信を行っている。警察庁では、このほか、ICPO加盟各国との間で、国際電話回線等を利用してテレックス通信、ファクシミリ通信及び手配写真等の写真電送も行っている。
 ICPO事務総局では、加盟各国の事情により通信手段が異なっている場合でも、増加する一方の国際通信を迅速かつ自動的に処理するため、コンピュータを利用したAMSS(自動メッセージ・スイッチング・システム)を設置し、62年7月に運用を開始した。我が国は、技術先進国として、このシステムの導入に際し企画の段階から参加してきたが、アジア地域内における国際通信の量も年々増加しているため、警察庁に地域中央局用AMSSを設置すべく、システムの検討を進めている。

6 留置業務の管理運営

(1) 留置業務の現況
 昭和62年12月末現在、全国の留置場数は、1,254場で、年間延べ約250万人の被逮捕者、被勾留者等が留置されている。警察では、捜査を担当しない総(警)務部門において留置業務を処理しており、また、被留置者の人権を尊重した処遇を行うとともに留置場の適正な管理運営を図るため、次のような措置を講じている。
ア 留置場施設の整備
 留置場施設については、被留置者のプライバシー保護等の観点から、54年11月に改正された留置場設計基準に基づいて新改築及び改修を行い、その改善整備を逐次進めている。
イ 業務担当者に対する教養訓練の充実
 被留置者の人権を尊重した適切な処遇の徹底を図るため、留置業務を担当する警察官に対して、警察大学校、都道府県警察学校等において専門的な教養訓練を行っている。
ウ 留置場巡回視察の実施
 留置場の適正な管理運営を確保しつつ、被留置者の処遇の全国的斉一を図るため、全国の留置場について、警察庁及び管区警察局の担当官により、計画的に巡回視察を実施している。
(2) 留置施設法案の国会上程
 警察の留置場については、被留置者の処遇の内容、設置の根拠等が法律上必ずしも明確ではないことから、留置場に関する現行の法体系を整備するよう各方面から指摘されてきたところである。
 そこで、監獄法の改正が行われるのを機会に、法制審議会の答申の趣旨に沿って、被留置者の処遇の内容を定め、警察の留置場に留置される被勾留者等と拘置所に収容される者との処遇の平等を保障するとともに、留置場の設置の根拠等を明確にするため、刑事施設法案と一体のものとして留置施設法案を策定した。この法律案は、昭和57年4月、第96回通常国会に上程され、58年11月、衆議院の解散に伴い審議未了となったが、62年4月、第108回通常国会に所要の修正を加えて上程され、第112回通常国会衆議院本会議における趣旨説明等が行われた後、継続審査となっている。

7 警察活動の科学化のための研究

(1) 科学警察研究所における活動
 科学警察研究所では、科学捜査、少年非行の防止、犯罪の予防、交通事故の防止等に関する研究、実験と、その研究成果を応用した鑑定、検査を行っているほか、鑑定技術についての研修を実施している。
ア 昭和62年度における主な研究
 昭和62年度の研究は、前年度からの継続研究57件、新規研究28件の合計85件であるが、その主なものを挙げれば、次のとおりである。
〔研究例1〕 血液型自動検査装置の開発
 犯罪現場等で採取された微量の血痕(こん)や体液斑(はん)から血液型を自動的に検査する装置を開発した。この装置は、血液型判定用モノクローナル抗体と酵素免疫測定法による発色反応系を利用し、さらに、コンピュータシステム等の先端技術を導入したもので、日常の法医血液型鑑定業務に活用できる上、検査感度及び精度が極めて高い。検査に必要な血痕(こん)は1平方ミリメートル程度、唾(だ)液斑(はん)や精液斑(はん)では2平方ミリメートル程度で十分であり、判定は約4時間で可能である。
〔研究例2〕 大麻、コカイン等の薬物の分析及び施用証明に関する研究
 覚せい剤に次いで、大麻、コカイン等の乱用、拡大の兆しがみられる。このため、現場における大麻、コカインの異同識別のための簡易予試験法を含む総合的な分析法の研究、施用の事実を立証するための体内における薬物の代謝機構や主要代謝物の検出法についての研究を進めている。
〔研究例3〕 各種ガスの爆発威力の測定に関する研究
 大規模爆発事故の原因を究明する場合に、爆発の原因がガスによるものかどうかを確認する必要があるので、各種ガスの爆発威力及びガスの濃度による爆発威力の変化について研究した。この結果、可燃性ガスは、爆発限界付近のガス濃度でも建造物を破壊するだけの十分な威力があること、ガス濃度が爆発限界付近からごくわずかに変化しただけでも爆発威力は急激に大きくなることが分かった。  また、液化石油ガスの爆発威力は、天然ガスよりも大きいことが分かった。
〔研究例4〕 高齢者の犯罪被害の諸要因に関する研究
 高齢者の犯罪被害防止策の研究は、高齢者の一般的な特性と被害に遭う場合の特殊な条件を解明した上で、科学的に行わなければならない。そこで、実際に各種の被害に遭った高齢者について、身体機能の状況、家族や地域社会との結び付きの程度、職業生活からの引退後の心理、資産状態等のほか、被害からの心理的な回復等に関する一般的老人心理等を調査した。
 62年に開催された国際会議では、毛髪のケラチン蛋(たん)白の多型と個人識別、前頭洞形状のコンピュータによる数値化と個人識別、精液・膣(ちつ)液混合斑(はん)からの精液のみの血液型検査法(8月、第11回国際法科学会議、カナダ)、自動二輪車対乗用車の事故における自動二輪車の乗員の衝突挙動と傷害メカニズム(9月、第3回米国交通医学協会年次総会、米国)、交差点右折時の運転者の意思決定及び操作のプロセス(11月、自動車技術に関する第4回太平洋国際会議、オーストラリア)等についての発表を行った。
 また、国内の学会では、覚せい剤のラット体内動態(5月、第6回法中毒学会年会)、暴力団員の生活構造(9月、日本犯罪心理学会第25回 大会)、経済事犯被害者についての一考察(10月、日本犯罪社会学会第14回大会)、SD法による顔の印象と形態の分析(10月、日本心理学会第51回大会)、画像処理を利用した不明文字検出(11月、日本犯罪学会総会)等についての発表を行った。
イ 鑑定、検査
 科学警察研究所では、都道府県警察をはじめ検察庁や裁判所等から嘱託を受けて、高度の技術を要する鑑定、検査を行っており、62年における処理件数は、法医学関係が63件、理化学関係が1,363件、文書、偽造通貨等が205件の計1,631件であった。
ウ 研修
 科学警察研究所では、附属の法科学研修所において、都道府県警察に勤務する鑑定技術職員を対象とした研修を実施している。法科学研修所の研修課程は、養成科、現任科、専攻科及び研究科に分かれ、62年度には、研修生約250人に対して、法医、化学、工学、文書、ポリグラフ、指紋、写真、足こん跡に関する教育訓練を行った。そのほか、科学警察研究所では、都道府県警察に勤務する鑑識技術職員延べ約450人の参加の下に、法医、化学、心理、機械、物理、音声の各部門について鑑識科学研究発表会を開催し、研究成果の発表及び質疑応答を通じて、指導、助言を行い、鑑識技術の向上に努めた。
(2) 警察通信学校研究部における研究
 警察通信学校研究部は、警察通信に関する唯一の研究機関として、現場の要望に即した警察独自の情報通信技術及び機器を研究、開発しており、警察活動の科学化に貢献している。
 昭和62年度には、AIの警察業務への利用に関する研究や、通信衛星を利用した警察移動無線通信システムの研究をはじめとして、新しい情報通信技術及びその応用に関する研究を精力的に行ったが、警察通信に 関する研究開発への需要は高まる一方である。また、犯罪の広域化、スピード化が著しいほか、社会における技術革新にも目覚ましいものがあるが、それに応じた新しいタイプの犯罪が増加する傾向にある。警察では、このような情勢に適切に対応するため、新しい技術を導入し、その活用を図ることが重要となってきているため、警察通信学校研究部における研究開発活動の一層の充実強化を図ることとしている。


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